目を開けたら褐色の肌に白い髪の幼女が唇を突き出していた。
「んちゅー」
蹴飛ばした。
「んぎゃ!」
「……」
「痛い、なにをする」
「何をするのはこっちのセリフだ」
言いながらベットから起き上がる。
視界に映るのは十メートル程度の四方西洋風の部屋だ。家具や内装はそれなりに上品なモノであり、売りに出せばかなりのものになるだろう。置いてあるものはかなり少なく、最低限、机とベッドと本棚、服掛けくらいだ。
そして今の俺の視界の中、ベットの傍で床に叩きつけらて、赤くなった額を抑える少女。
「弐、何時も言っているだろう。人の布団の中に潜り込むのはやめろ」
かれこれ三年近く彼女に言い告げていることで、
「いやだ」
「……だろうな」
三年近くも彼女は同じことを言い続けているから諦める。
「ほら、座ってないで飯行けよ。俺は顔洗ってから行くから」
「ぬー――チューしてくれたら行くぞ」
「ちゅー」
言いながら蹴った。
「理不尽だ……」
文句を言いながら出ていく弐を見送り、自分も朝食に行くために寝巻から着替える。
椅子にかけてあったジーパンと長袖のシャツを着る。どちらも黒一色、別に趣味とかではなく着る物がこれしかないのだ。
部屋を出れば変わらず、いや、より豪華さを増した西洋風の廊下。大理石のような表面が透き通るような材質だ。
自室を出て馬鹿みたいに長い廊下を進む。五十メートルほど進んだ所にある扉を開ければ、そこは洗面所だ。
「と」
蛇口を捻る。
基本的に中世の西洋風だがこういう随所では現代的なこの城にももう慣れた。
「……三年、だもんなぁ」
三年。
神様などというふざけた存在に命を弄ばれ、吐き気のする能力まで押しつけられて、この世界に降り立ってから三年が経っていた。
三年前、たまたまなのか糞神の故意なのか、俺が降り立った村は悪魔に襲われていた。我ながら思いかえすと狂人としか思えない気持ち悪い嗤いしながらぶっ倒れて、この城の住人に拾われた。
蛇口から流れる水を両手で掬い顔を洗う。冷たい水が顔に当たり、意識が完全に覚醒していくのを感じながら、十本以上ある歯ブラシの中から自分の分を取り、歯を磨く。
「……」
鏡の自分と目が合う。
自画自賛といえば自画自賛で、嫌味と言えば嫌味だが。
今の自分の顔はかなり整っていた。肉体年齢で言えば十五程。前世において可もなく不荷もなくというか顔だったが、今の自分は違う。
黒い瞳や髪は黒曜石のようで、肌も男にしてはびっくりするくらい綺麗で、目や鼻、口の形や配置も腹が立つほど完ぺきだ。
イケメンであるのは悪くはないが、これも糞神特典と考える気持ち悪い。
それでも、どういうわけか前世の顔と違うのに自分の顔と認識できているからしょうがない。
いい加減、鏡を見るたびにこんな思考をするのもやめたい。
「と、行くか」
さっぱりしつつ、洗面所を出る。
誰とも鉢合わせ無かったということは、俺が最後なのだろう。少し足早に朝食の会場であるサロンへと向かう。今度は百メートルほど進み、毎日のとこながら広さにうんざりしつつ、サロンの入り口に辿りつき中に入れば、
「ぬおおおおおおおおお!!」
「フハハ! どうしたクァルトゥム! 悪の大幹部を名乗るのにはまだまだ筋肉が足りんぞ!」
白の髪の少年が背中に一トンと書かれた馬鹿デカい錘を乗せて腕立て伏せをしていた。
長髪褐色の美系の男が横で腕を組みながら嗤いながら叫んでいた。
少年は上半身汗だらけだった。
男は全裸だった。
いろいろアウトだったが、いつも通りだし、相手にすると疲れるので意識から外した。
それよりも、
「はぐー!」
「おっと」
「ぐはっ!」
飛び付いてきた弐を避ける。扉に頭をぶつけて、
「ぶべっ」
色々酷い声を出しながら地面に落ちた。
うわぁ、と思っていたら、
「無様ですね」
白の髪の少女が言う。先ほどの腕立て伏せのの少年――クァルトゥムと顔立ちが酷似している少女だ。彼女は床に落ちた弐をゴミを見るような無表情で見下しながら、俺のシャツの裾をつまみ、
「さぁ、マスター。こんな燃え滓は放っていおいてお席へどうぞ。すでに朝食の準備が出来ております」
言う。
「誰が燃え滓だ!」
起き上がった弐が少女――セクストゥムへと炎を纏わせた拳を叩きつける。つままれていた手が離れた。
「ほう? 十二年前にサウザンドマスターに潰されて、三年前に外装だけを修復し使徒として戦闘力の大半を喪った貴方が燃え滓でなければなんだというんですか?」
「ええい、お前は事あるたびにそのことを……! それを言えば稼働して一年もなくて調整もろくにできておらんお前が言うな!」
「はぁ? 別に調整が出来ていないのは私とは関係ありませんし。そこの変態筋肉が筋トレばかりしているせいで遅れているだけですから私のせいではありませんし。私の言っていることは事実です」
「ぐ、ぐぬぬ……!」
「というわけで燃え滓は隅で燻っていてください、ついでにマスターにちょっかいかけるのもやめてください。迷惑です」
「それこそ関係無いだろうが! それにそれはお前が止めろ!」
「嫌です」
「ぐぬぬ……!」
言い合う二人。周囲には若干の冷気と熱が鬩ぎ合っていた。
まぁ、いつも通りなので裾から指が離れた時点で二人からは離れていた。
このサロンは天井はガラス張りの窓で日光が天然の照明になっている。かなり大きくて筋トレやら軽いバトルが行われるのには一応十分だろう直径三十メートル程度の円形だ。
背後で物騒な毒舌や叫びがしているのを無視しつつ、中央に据えられたテーブルに着く。すでに先客がいて、
「……あれが犬も食わない喧嘩というのかな?」
またもや先の二人と似たような髪の少年――クィントゥムは本を片手に弐とセクストゥムを眺めながら言う。
「ちょっと違うぞ、ああいうのは喧嘩するほど仲がいいっていうんだ」
「なるほど――言葉というのは奥が深いね?」
「ただお前がお前が間違っているだけだ」
間違いを指摘していたら、
「……朝食だ」
「ああ、ありがとう」
青い長髪と角の生えた亜人の女が朝食が載ったトレイを差し出してくれた。
トーストにハムエッグ、サラダに珈琲。オーソドックスな洋風の朝食だが、味の良さは既に知っている。
長い髪で顔がほとんど隠れた彼女――セプテンデキムはエプロンを外しながら、無言で俺の隣に座り、
「……いい」
「そうか」
ともあれ、手を合わせて、
「いただきます」
こうして、朝が始まる。
この世界に降り立ち三年。
紆余曲折在りながらも、俺――七篠流は悪の秘密結社『