地雷に転生しました   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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 完全なる世界(コズモエンテレケイア)

 それは現在俺こと七篠流が所属する悪の秘密結社の組織の名前であるのと同時にもう一つの意味を持つ。

 曰く楽園。

 曰く理想郷。

 曰く夢の世界。

 曰く永遠の安寧。

 曰く欠落なき幸福。

 曰く約束された至福。

 なにもかもありとあらゆる楽しみを、夢を、理想を、安寧を、幸福を、至福を。

 絶対の下に誓約された世界を生み出す術式だ。完全なる世界の名は伊達では無いようだ。聞いた話によれば個人にとって最も都合のいいように、幸福なように世界が生まれるらしい。老いも、病も、苦しみも、大怪我も、ありとあらゆる苦痛は遠ざかり、ありとあらゆる束縛に意味は無い。

 愛を望むのならば愛してもらえる。喜びが欲しければ喜ばせてくれる。知りたいことがあれば教えてくれる。欲しい物が与えてもらえる。見たいものがあれば見せてくれる。

 なにもかも――夢の中で与えてくれる。

 人生の中、最も理不尽に抗いたいと願う時に、最も幸福を渇望している瞬間に発現する。

 人の願いは星の数ほどあるというけれど、その完成された世界は人の数だけある。

 勿論ただの無闇矢鱈にそんな世界に送るわけではない。

 近いうち、早ければ数年後には滅びるこの世界――魔法世界(ムンドゥス・マギクス)を救うために。火星を依り代として存在する魔法世界は星の魔力の枯渇で崩壊寸前なのだ。

 だから救う。

 滅びゆく世界を永劫の安らぎで救済する。例え悪の組織と後ろ指を指されようとも、この世界は救って見せよう。主の意思の下に、神の赴くままに。主の人形たる我らは艱難辛苦を乗り越え、何度潰されようとも必ずその主命を達成せん。我らは幻想。彼らも幻想。故に敵は無い。永劫の時を経ても成し遂げてみせよう。

 それこそが完全なる世界(コズモエンテレケイア)の望む完全なる世界(コズモエンテレケイア)

 なんとまぁ、崇高な望みだ。

 いやはや、感服せずにはいられない。

 あぁ、あぁ、なんて――

 

「――虫唾が走る」

 

 

 

 

「それをセクストゥムたちには言うなよ。貴様はあ奴らのへの自分の影響力も忘れるな」

 

「……なんだ」

 

 デュナミスの言葉に俺は拍子抜けする。

 眼下、荒廃とした都市に背を向け欄干に背中を預けなら言う。

 

「てっきり、我らが誇りある主命に文句を付けるとは何事だーとか言って、御自慢の筋肉でぶん殴られると思ったがな」

 

「フ」

 

 俺の些か挑発染みた言葉に、しかし黒衣の魔術師は口端を歪め、

 

「貴様自身が言っただろう? 所詮は悪の組織だよ。どれだけ崇高な願いだとしても一つの世界を滅ぼすのだ、それが救済だとしても失うものが必ずある。故に罵詈雑言は甘んじて受け入れるとも、それも悪の組織義務の一つだ」

 

「くだらねぇ」

 

 本当にくだらない。吐き気がする。反吐が出る。

 

「テメぇらの主様は脳みそイカレてんじゃねえか? そんなん当り前だろう。滅びに抗うのは人として当然だろうが。それなのにこの世界全員を夢の世界に連れてくとか甘すぎだろ、絶対刃向かう奴はいるし、現にいたんだろう? 二十年前も、ずっと昔も、そしてこれからも先も」

 

「あぁ、そうだ。私には理解しかねるがね。死んでも嫌、だそうだよ」

 

「当たり前だろ」

 

 というか死んでも嫌とか言ってるなら。

 勝手に死なせておけばいいんだ。

 

「そうはいかぬと主は思っているのだ。あの方はどうにも人間が好きらしくてな。……まぁ、セクストゥムたちが貴様に懐いているのもそれが影響しているのだろうが……紅き翼(アラルブラ)のような連中がな」

 

紅き翼(アラルブラ)ねぇ……」

 

 映像を何度か見たことはあるけれど、

 

「アレは特別だぜ。魔力が強いとか、魔法が凄いとか、剣術とか、体術とかそんなレベルじゃなくてな。アレは英雄だ。英雄っていうのは特別で、別格で、化け物と同義なんだよ。普通の人間はあれほど強くない。もっと弱いし、無様だし、狡いし、情けないんだよ」

 

「だろうな、だからこその完全なる世界(コズモエンテレケイア)だ。例えどんな小物であろうと幸福が約束されている」

 

「あぁ、そうかい」

 

 それが最も――気に食わない。

 それがこいつらの悲願なのだとしても。

 

「まぁ、結局平行線だ。これに関しては理解できるなんて思ってない。つか、こんな所で俺たち二人で駄弁ってもなんにもならんだろ、悪の秘密結社ていっても実際に動いてるのはフェイトだけだし。アイツ帰ってくるまでどうしようもない」

 

「……あぁテルティウムか。そういえばアレは自分で名前付けていたか。……ふむ、そうだなセクストゥムたちにも名前考えるか。何時まで経っても番号では味気ないし、呼びにくいしな。リュウ、お前が適当に考えておいてくれ」

 

「軽いなおい」

 

 名前っていうのはもっと重い物だろうに。

 人間だって人形だってそれは同じだ。

 

「フェイトは今頃京都か。何しに行ったんだっけ?」

 

「偵察だ。ちょうど麻帆良学園の修学旅行と重なっているからな。京都内のいざこざに乗じている」

 

「あぁそうか、なんかいろいろいたな」

 

「うむ。まず紅き翼(アラルブラ)の一人――『零の保有者(ゼロホルダー)』四月朔日さゆり。あの化け物としか言えぬ女がいる」

 

 『零の保有者(ゼロホルダー)』四月朔日さゆり。通称化け物。形容し難き、化け物としか形容できない女。恐らく事単純な戦闘力ならば現在魔法世界旧世界合わせて最強だろう傑物。浮世離れした、現実離れした美貌。何故あんな生物が生まれてきたのか不思議なほどの――化け物。

 映像しかみてないし、話にしか聞いていないけれど解ってしまうほどの異常性。

 会うつもりもないんだけど。

 

「まぁ、アレはそれほど好戦的ではないからそれほど計算に入れていない。事実この二十年隠居も同然だったから、今回も見物で済まされるだろうな」

 

「でも、済まされないのもいるんだろ?」

 

「うむ」

 

「まず一人」

 

 デュナミスが人さし指を立てながら、

 

「『闇の福音(ダークエヴァンジェル)』の伴侶、『闇の災厄(ドゥンケルハイトカタストロフ)』アドルフ・フォン・シュタイナー。真祖の吸血鬼の王たる奴も今現在京都にいるようだ」

 

「また大物だな」

 

 魔法世界で二人合わせて賞金2000万ドラグマとかになっていたはずの吸血鬼夫婦だ。こっちに関しては逸話くらいしか知らない。半ば御伽噺のような存在だ。

 

「といっても、これは学園に縛られたの闇の福音の代わりなだけらしい。こちらからちょっかい掛けなければ大丈夫だろう。自分と自分の女のこと意外は興味ない男らしいしな。危険度中といったところだ」

 

「そうかい。次は?」

 

「『千の呪文の男(サウザンドマスター)』の息子の一人、シキ・スプリングフィールド。魔法学校の修行で麻帆良の教師をやっているらしい」

 

「……何歳だよ?」

 

「数え年で十だな」

 

「……」

 

 転生してみたら日本から労働基準法は消え去ったらしい。

 残念すぎる世の中だ。

 

「十といってもかなりのものだ。魔法学校を飛び級主席で卒業している。戦闘力もAA相当。テルティウムが負けうることはないだろうが、少しは手古摺るかもな」

 

「というかお前詳しいな」

 

「暇でな。筋トレと情報収集くらいしかすることがない」

 

 セクストゥルムたちの調整とやらしてやれよとは思わなくもない。あいつらだって、わけのわからんソフトインストールするよりも自分で技術は身につけた方がいいだろう。フェイトなんかは中国拳法だかなんだかをインストールするだけではなく技術として身につけているからあれだけの戦闘能力があるわけだし。

 

「それと、半年ほど前から麻帆良学園に戸籍不明の一人魔法先生がまぎれていたらしい。タカミチ級という噂もあるのだが未確認だ」

 

「……ふうん」

 

 ならば心配ないのだろうか。

 言ってもAA相当だったらフェイトの敵ではないだろう。化け物女はともかく闇の災厄にだって劣らないはずだ。京都といえば日本の魔術師の元締めだろうが、それを言ったらフェイトは悪の組織の大幹部。

 

「あ」

 

「どうした?」

 

「『千の呪文の男《サウザンドマスター》の息子って双子じゃなかったか? 確か弟がいたような……」

 

「ああ、それは安心しろ」

 

 デュナミスは口端を歪める。嘲るように、或いは失望するように失笑し、

 

「そっちは随分な落ちこぼれだそうだ。魔法学校もほぼ不登校で自室に引きこもり、修行もない。兄と共に教師になっているようだが、教えるというよりも彼の場合は更生らしい。故に除外だ。どうせなにもできんよ」

 

「そらまた格差のある兄弟だな」

 

「あぁ、故に安心しろ。弟の方ネギ・スプリングフィールドは落ちこぼれだ、何もできんよ。何も知らぬ、知ろうとしない子供などいるだけで邪魔だろう?」

 

 

 

 

 

 

 鬼神の身体が崩壊していく。

 頭部は吹き飛び、四本ある腕は全て根元から断ち切られ、霊力で構成された肉体は綻びだらけだ。

 死に体、というよりもすでに死んでいる。構成していた霊力がなまじ膨大だったから消え去るのに時間が掛っていただけだ。

 そしてそれを為したのは。

 『地のアーウェルンクス』フェイト・アーウェルンクスでもなく。

 『零の保有者(ゼロホルダー)』四月朔日さゆりでもなく。

 『闇の災厄(ドゥンケルハイトカタストロフ)』アドルフ・フォン・シュタイナーでもなく。

 『千の呪文の男(サウザンドマスター)』の長男シキ・スプリングフィールドでもなかった。

 フェイトもデュナミスに障害と呼ばれた三人も、名にもできずに眺めるだけだった。

 鮮血のような赤い髪。漆黒の闇のような硬質の肌。鋭く尖った双角。とぐろを巻く竜尾。髪と同じ、いやよりどす黒い紅の縦に開いた瞳孔と反転した黒眼。

 口元まで覆う襤褸切れのような黒いローブを纏ったのは十歳程度の少年。色云々ではなく、その目を見たものは誰もが思うだろう。世界の闇とか混沌とか負の現象を全て詰め込んだような目だと。

 見るだけでおぞましい目だと。

 

「あぁ……」

 

 声は掠れ二重に響く。

 山の中の巨大な湖には滅びゆく鬼神。

 背後には――胸を雷の槍で貫かれ死した銀髪の男。半年前麻帆良に現れタカミチすら凌駕する戦闘力を保有し、左右色違いのオッドアイには光は無い。

 

「これで……また、一人」

 

 魔物の如き少年の名は――ネギ・スプリングフィールド。

 

 ――実に百年後の未来から逆行して来た少年である。




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