京都修学旅行より三日後、麻帆良学園学園長室にて。
「……それで、神代龍一はその正体不明の魔族に殺されたと?」
「あぁ、神代龍一とリョウメンスクナノカミを殺してどっか行っちまったよ。……探知は出来なかった」
「僕も一応探知しましたがね。即座にロストしました、相当の手練れ……まず間違いなく最強クラスかと」
「ふむ……四月朔日君は……」
「あらあら学園長先生。そういうスキルが私にないのは御存じでしょう?」
「……そうじゃったな」
数人の男女が言葉を交わしていた。歳も人種も種族もバラバラであるが、しかし誰もが顔色が優れない。
豪華な机に座る後頭部がおかしい老人、麻帆良学園学園長近衛近右衛門。
紅茶色の髪に鋭い瞳と中世的な顔立ち少年、シキ・スプリングフィールド。
金髪に真紅の瞳と長身の美形の青年、アドルフ・フォン・シュタイナー。
黒の長髪に黒い瞳の美女、四月朔日さゆり。
そして――僕ネギ・スプリングフィールド。
修学旅行の戦闘の一部始終を目撃した主だった面子がここにいた。
四月朔日さんと学園長は和服で、僕とシキとアドルフはスーツ。
「これは困ったのう……事実上打つ手無しじゃ」
「気配から言って僕とエヴァの同類、最上級の魔物でしょうね。恐らく……」
「神代龍一関係、だろうな」
「ふむ……実力の高さから人格にも目をつむって引き入れたが……面倒なことを遺してくれたものだ」
「だから言ったでしょう? アレは気持ち悪いって」
「君の直感には脱帽じゃのう、フォッフォッフォッフォ……」
学園長の笑い声にも力は無かった。
くだらない、としか言いようがない。
これだけ話しても意味は無い。だから口を開かず僕は話が終わるのを待つだけだ。学園長の言う通り打つ手は無いのだ。
その魔族は――僕なのだから。
六年前、僕は百年後から時間を遡った。
信じられないことだし、言葉にすればこれだけだけれど事実だ。僕には前の世界での記憶があり、これから起きることも
前世では、魔法世界の崩壊に立ち向かうために火星のテラフォーミング計画。かつての三年A組の仲間たちや魔法世界で会った人々、完全なる世界で敵だったはずのフェイトたち。ISSDAの同僚たち。闇の魔法の副作用に人間に外れ、百年も生きたのだ共に過ごした人は事欠かない。
僕自身はテラフォーミング計画をある程度進み――人柱になった神楽坂明日菜との再開は叶わず死んでしまったが、それでも充実した生だったと自信を持って言える。
それなのに気付けば幼き日々、僅か四歳、ネギ・スプリングフィールドの原風景に逆行していた。
暴威を振う悪魔。燃え滅びゆく故郷。石にされる仲間たち。負の領域。消して切り離すこの出来ない、目を背けられない過去。
――飼いならしたはずのネギ・スプリングフィールドの闇だ。
当時混乱の極致だったが、百年の経験は伊達では無い。混乱も困惑も頭の片隅に追い払い動いた。
幸い幼い頃から魔力は豊富であり、魔法使いならば一定以上の魔法ならば肉体の強度は関係ない。四歳という身で出来得る限りの肉体強化をして走った。魔法で悪魔を消し飛ばしながら、走りまわり、見つけた。
父と――父と闘う謎の男を。
「自分の子供すら満足に救えない塵が! 英雄だぁ? 大量殺人者の間違いだろうが! テメぇみてぇな名前だけのあんちょこ見なきゃ魔法も使えない奴に子どもなんか育たてられるか! 父親失格なんだよお前は!」
「うる、せぇ……ッ」
満身創痍の塔さんと彼を一気呵成に攻め立てる金髪赤眼に金鎧の男。アーティファクトなのか虚空から大量の刀剣を射出していた。ラカンさんのものと似ているが、そんなことに構ってられなかった。
男の言っていることが我慢ならなかった。
後になって、それこそ魔法世界から帰ってきて世界樹の地下で全ての決着を付けてから話は聞いた。あの時の父さんは図書館島に造物主の寄り代として共に封印されていて、僕の危機を知り駆け付けてくれたのだ。無論無理な探知と地球の反対側への偏在。精神は著しく劣化し、魔力も実力も数段落ちていたらしい。
そんなになってまで父さんは僕を救おうとしてくれたのだ。
感謝こそすれども父親失格なんてとんでもない。
なのに金の男は父さんを責め立てる。
ふざけるな。一体何処の誰が僕の父さんのことを語っているのだ。大量殺人者なんかじゃない、戦争だ。殺さなければ殺されて、生きるためには殺さないといけないような世界だったのだ。違う、父さんは間違いなく英雄だった。
その時身を焦がさんばかりの激情は僕の肉体を確実に侵食していった。
当然といえば当然だろう。肉体は精神に引っ張られる。原風景とも言える闇を目のあたりにし、父さんを身勝手な理由で罵倒する男を前にして精神の均衡は簡単に崩れ魔に堕ちていき、
――父さんが倒れた瞬間にそこまで堕ちた。
人間から即座に堕天し魔の存在に。鮮血のような赤い髪。漆黒の闇のような硬質の肌。鋭く尖った双角。とぐろを巻く竜尾。髪と同じ、いやよりどす黒い紅の縦に開いた瞳孔と反転した黒眼。
最高位の化外、最上級の魔物。百年を経て極限にまで昇華された魔術理論は無意識で肉体に適応され存在の質を極限を飛び越え高めていく。例え四歳の肉体とはいえすでに人間を止めたが故に関係ない。
言葉にすれば陳腐な、だが極まりきってしまってそうとしか形容できぬほどの禍々しさ。
それを以って――僕は父さんを倒し気を抜いた瞬間の男を殺した。
腕の振りで上半身と下半身を別れさせた。さらに別れた肉体に打撃を叩きこみひき肉にした。人殺しに今更躊躇いは無かった。前世では少なくない数を既に殺しているのだ。そして、そのまま有耶無耶になる意識のままに街に蔓延っていた悪魔を殺し続けた。
そして気付いた時には夜は開け、周囲には誰もいなかった。
そしてそんなことに構っていられなかった。精神世界で暴れ出していた闇を抑えるのにさらに半日を有し、調服させ、念のために即席の封印術でなにもかも封じたころに再び意識を失った。
次に気付いた時は病院だった。
前世と違ったのは――兄がいたこと。
シキ・スプリングフィールド。
知らない兄。髪の色を除けば自分にも、父にも、母にも、似つかないいないはずの兄弟。
それだけではなく、訪れる見知らぬ人々。
誰もが膨大な魔力と特異なスキルを保有し――まるで物語でも読んでいるのかのような目で僕のことを見る。
そして決まってシキのことを見て驚愕し、中には帰って行き、或いはいつの間にか姿を消していた。
転生者というらしい。
別の次元で死んだ者が神様とかいうふざけた存在に能力を与えられこの世界に転生してきたという。
例えば四月朔日さゆり。
例えばアドルフ・フォン・シュタイナー。マスターの夫。数百年前から寄り添う真祖の吸血鬼。
この二人はよかった。
四月朔日さんは何も考えていないし、アドルフさんはマスターの事しか考えていない。二人とも僕には興味は無いようだし。
だがよくない存在がいる。いや、どうしようもない連中が。
そして最悪なことにこちらの方が多い。
例えば神代龍一。アレは駄目だ。塵だ。畜生だ。高い魔力を保有し大火力の魔法使う高位魔法使いだったが精神は酷かった。この世界を創り物としか思っておらず、自分の思い通りにしようとして3-Aの皆に手を出そうとしていた。
だから殺した。
京都の騒乱のに乗じて、リョウメンスクナノカミと一緒に殺した。
別に神代龍一だけじゃない。これまでもいっぱい殺したし、これからも殺す。
相坂さよに、明石裕奈に、朝倉和美に、綾瀬夕映に、和泉亜子に、大河内アキラに、柿崎美砂に、神楽坂明日菜に、春日美空に、絡操茶々丸に、釘宮円に、古菲に、近衛木乃香に、早乙女ハルナに、桜咲刹那に、佐々木まき絵に、椎名桜子に、龍宮真名に、超鈴音に、長瀬楓に、那波千鶴に、鳴滝風香に、鳴滝文伽に、葉加瀬聡美に、長谷川千雨に、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルに、宮崎のどかに、村上夏美に、雪広あやかに、四葉五月に、ザジ・レイニーデイに。
例え世界が変わろうとも彼女は僕の生徒たちだから。
彼女たちは絶対に僕が護って見せる。
――独りよがりだとしても、余分な事だとしても。例え嫌われようと、憎まれようと。殺人者だと後ろ指を指されようと化け物だと陥れられようとも
ぶっちゃけネギ君病んでます
感想評価お願いしますぅう!