地雷に転生しました   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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仮契約(パィティオー)をしましょう」

 

 廃都市群から城――墓守り人の宮殿に戻って来て昼食を取っていたら流水が突然そう言った。

 

「お、これ美味いな」

 

「うん、僕も好みだ」

 

「……それはよかった」

 

「だがもっと筋肉が付くような料理が私は好みだぞ!」

 

「もっと濃くてもいいと思うしな!」

 

「……知らん」

 

 全員が普通にスルーした。

 

「!」

 

 いや、ニィだけは露骨に反応した。

 それでも、俺も颯も焦もデュナミスも水晶も相手にはせずに水晶に作った料理に舌鼓を打つ。三年前に再生されてからほぼ彼女が三食受け持っている。単純にインストールされた技術ではなく、列記とした彼女自身が経験を積み得た技術だ。単純なクリームパスタだが、パスタもソースも自家製なので味わい深い。水晶自身も料理は気にいっているらしく、厨房や彼女の部屋には調理器具やまほネットで買った料理本が増えていた。随分と人間身が増してきた。

 良き哉良き哉。

 

「ですから、仮契約ですマスター」

 

「おい待て流水! 勝手に話を進めるな!」

 

「うるさいですよ燃え滓女、話が進まないじゃないですか」

 

 まぁ、進まないも何も。始めてすらいないのだけど。

 まぁ仕方ないから、面倒だけど、相手にしてやる。

 

「んで、なんだって?」

 

「だから仮契約ですよ、知っているでしょう?」

 

「そりゃまぁな」

 

 契約。単純な約束事とは別にこの世界ではまた別の意味を持つ。当然ながら魔法使いという存在からして契約という言葉は重い。強制契約魔法具なんていくらでもあるし、性能もピンキリだ。中には契約離反したら即死という物まであるくらい。まぁそれは極論として今流水が言っているのはそういうことではない。

 基本的にこの世界の魔法使いは信頼できる相手と魂のパスを繋げて色々な恩恵を得ている。通信召喚、魔法具贈与、魔力供給と、これといったリスクもない素敵機能だ。魔法使いとその従者というのはただの主従関係では無く人生を共に歩むパートナーと言っても過言ではない。戦闘面だけでなく日常や精神的なことでも支え合っていることの契約なのだ。

 それほどの重要な契約だ。だからこそ一度契約すれば解消できない本契約に対してお試し用の仮契約というシステムがあるのだ。

 いやほんと色々馬鹿にしてんのかとか思わないでもないけど。

 あるのだから仕方ない。

 本来の契約に比べ与えらる恩恵も薄く、場合によっては魔法具もでないがそれでも何人とでも可能であり解消も契約方法自体も簡単だ。ここ最近ではパクティオー屋なんてのもあるし、恋人探しの名目上でも使われていたりする。

 酷いシステムだなぁとは思うが、やっぱりどうしようもない。

 個人的には好きではないが。

 

「んで、だからなんだよ」

 

「いやですからマスター、私と仮契約しましょう」

 

「なんで」

 

「ちゅーというものをしてみたいです、少女漫画みたいな」

 

「お前少女漫画読むのか」

 

 結構吃驚。俺の前では小難しそうなデカイ本読んでる姿しか見ない。さっきのエッチな同人誌とかも俺の知らない所で読んでいるのだろうか。まぁそれは趣味が出来ているという事でいいかもしれないけど。

 

「てかそんな理由か」

 

「いえ勿論これは本音ですのでちゃんと建前がありますよ」

 

「聞くだけ聞いてやるよ」

 

「無論単純に戦力アップですよ。先日の京都における一件、我々も備えをしていて悪いことはないでしょう」

 

 意外に建前がちゃんとしていた。なるほど何気にまともな事を言っている。

 フェイトが京都まで偵察行って遭遇したナニカ。鬼神を討滅させ、推定AAAランクの魔法剣士を無傷で殺したという謎の魔族。理不尽すぎる戦闘力。フェイト曰く、『紅き翼(アラルブラ)』の面子や造物主の使徒である自分たちすらも上回るであろうとのこと。魔法世界にもそんな存在はまずいないし魔界の最上位王族や吸血鬼の真祖の同類と推定されている。恐らくまともに戦えるのは『化け物』四月朔日さゆりくらいではないかという話だ。

 俺と同じ転生者ではないかと思うが確証はない。その時の映像を見たが何とも言えない。

 逢ってみたいとは、思う。

 

「なるほどよい考えかもしれぬな」

 

「いいのかよ、そんな簡単に決めてよ」

 

「あぁ、所詮仮契約だ。というより流水が言わぬば私が進めていた所だよ。例の魔族は別としても簡単に戦力の増加が可能ならば使わない手は無い。現にフェイトとて小娘たちと仮契約してるではないか」

 

「あぁあれは意外だったな」

 

 我らが実働隊長、というか唯一真面目に動いてるフェイトも仮契約で五人の従者もいる。全員女の子。意外すぎた。あれで戦争孤児をアリアドネに送ったりする趣味があるし。アーウェルンクスたちの中でで最も無表情なくせに一番人間味がある。 

 だから俺はアイツの事結構好きなわけだけど。

 

「ま、別にいいんじゃねぇの。やればいいだろ」

 

「いやマスターやらねければ意味無いじゃないですか。本音はちゅーというのをしてみたいんですから」

 

「待て待て! 私もしてみたいぞ!」

 

「黙れ燃え滓、あなたはちょくちょくマスターの唇を奪いに行ってるじゃないですか」

 

「奪えたこと無いわ!」

 

「ハッ無様な」

 

「貴様ぁーー!」

 

 炎と氷が激突する。水蒸気やら炎やら水が飯に入りそうだったが水晶がテーブルの上に水の膜を張ってくれたので事なきを得た。というか円形のテーブルなわけで俺を挟んで流水とニィがすわっているのだから暑いし寒い。

 

「あー止めろ、今すぐに止めろ。飯が吹き飛ぶだろ、というかお前らのぐしゃぐしゃだぞ」

 

「なんと」

 

「ぬぁ!?」

 

 水晶の水の膜は二人の分だけなかったから、焼き焦げてたり水浸しになっている。もったいない。二人が水晶に縋るような目で見るが、

 

「……食事を粗末にするような者に渡す物は無い」

 

 まったくもってその通りだった。

 

 

 

 

 

 

「んで、別に流水とニィとの仮契約はいいけどよ……お前らもすんのか」

 

「まぁね」

 

「なくて損はないだろうが」

 

 当り前のように颯と焦も参加していた。まぁ別に仮契約なんてのはキス以外にも方法はあるからいいのだけど。ショタとキスと嫌すぎる。

 

「いやいや最近ではそういうのも需要があるようだがな」

 

「お前か同人誌持ちこんでるのは」

 

「情報収集の一端だ、旧世界では一部狂信的な流行らしいぞ」

 

 止めてほしい。少なくとも魔法世界ではないだろ。頼むから流行らないで。とりあえず二人とは血の交換でいいだろう。

 

「というか当り前のように俺が主人側か」

 

「お前はこういうの嫌いであろう、それともアーティファクトほしいのか」

 

「いらんよそんなもん」

 

 与えられるのはもう十分なわけだし。

 

「あー、さっさと終わらせよう。ホラ、デュナミス魔法陣書いてくれよ」

 

「もう書いた」

 

「ノリノリだなお前」

 

 サロンの大理石ぽい床に魔方陣が既に描かれていた。なんだかなぁと思うも仕方がない。万年人不足の悪の組織としては戦力の充実は必須だ。こういうお手軽パワーアップというのは反吐だ出るというのが正直の事だが、単独で動いているフェイトの事を考えると申し訳なさすぎる。

 

「さぁ、ではマスター。ぜひちゅーをお願いします」

 

「待てこら! 私が先だ!」

 

「はぁ? 私が言いだしたのですから私が最初に決まってるでしょう」

 

「お前が決めることじゃないだろ!」

 

「ではマスターに聞きましょうか。マスター私ですよね?」

 

「リュウ、私だろう!」

 

「うえっ血の味不味」

 

「こんなの好きで飲む吸血鬼の気が知れないね」

 

「まったくだ、ほら次だ」

 

「マスター!?」

 

「リュウ!?」

 

「なんだよどっちでもいいからさっさと決めろ」

 

 何時までも馬鹿やってる二人は置いておいて颯との契約を完了させた。糞不味い血の味に顔を顰めながらも仮契約カードが俺と颯の中央に生まれる。

 

「どれ」

 

 デュナミスが主人用のコピーを創り、渡してくるのを見れば、

 

「ナイフ、かな?」

 

「だな」

 

 カードには普段通りの学生服もどきの颯の周囲に少し透けている十数本のナイフが浮かんでいた。これがアーティファクトだろう。

 

「ぬぐぐ……、ニィあなたがうるさいからでおくれたじゃないですか」

 

「私のせいか! お前がくだらん屁理屈こねるからだろうが!」

 

「じゃ、次焦な」

 

「うむ」

 

「馬鹿な……」

 

「ぬぐぐ」

 

 何時まで経ってもうるさいので置いておく。魔方陣の上に二人で立ち、焦が軽く噛み切った親指と先ほどから流れている俺の血と重ね、すり合わせてから口に含む。契約としてはこれだけだ。実に簡単だ。光が溢れ新たなカードが出現する。出てきたのは全身を炎の鎧で身を包んだ焦の姿だ。

 

「鎧か」

 

 近中距離メインの焦からすれば結構いいアイテムだろう。これもデュナミスがコピー作ったので次。

 

「リュウ、次は私だぞ!」

 

「なんだ決まったのか」

 

「うむ! じゃんけんで勝ったぞ!」

 

 言いながら拳を突き出してきた。グーで勝ったらしい。流水を見ればチョキの自分の手を見降ろしながら全てを切り裂く最速のチョキがどうたらこうたら言っていた。

 チョキにそんな意味はねぇよ。

 

「さ、さぁ、頼むぞリュウ!」

 

「はいはい……」

 

 血の交換じゃあ駄目なんだろうなぁ。ちょっと顎を上げて背伸びして頬染めて目閉じてるし。中身はいろいろアホだが外見はかなりの美少女には変わりない。まぁ役得かなとか思い、身をかがめて、

 

「ん……」

 

 ニィの唇と自分の唇を重ねる。

 少し熱い。けど柔らかい。

 光が溢れカードが出現して唇を離す。

 

「……」

 

「おい、大丈夫か」

 

「う、うむ。なんというか……やはり照れ臭いな」

 

「……そりゃまぁ、な」

 

 あぁもう頬を染めるのはやめてほしい。こっちまで恥ずかしくなる。気を紛らわそうとニィのカードを見る。いつものゴスロリ姿に尖端に杭が付いた鎖を持ったニィの姿。ただの鎖では無く炎が鎖と杭の形を取っているようだが。変則的な鎖鎌みたいなものか。カードに映る自分の姿を見て、おーという簡単の声を上げるニィだったが、

 

「んぎゃ!」

 

「さぁ今度こそ私の番ですマスター」

 

 復活していた流水に蹴り飛ばされて引き跳んだ。

 

「お前な……」

 

 こいつ何時からこんなに脳みそおかしくなったのだろうか。三年前に目覚めた時はもっとおとなしかった。人間味が出てきたといえば聞こえがいいが、しかしキチガイ度が日に日に増している。

  

「さぁ、マスター! 是非この流水のはつちゅーを奪ってください、気が進まないのなら私からして――」

 

「あぁうるさい」

 

「ん!?」

 

 口上が長くなりそうだったので先にキスする。

 ニィと違い少し冷たいがやっぱり柔らかい。女の子というのはこんな感じなのかとか、前世では彼女零だった俺は思う。早くも見慣れてきた完了の光とカードの出現。白巫女装束に白のグローブを装備した流水。コイツだけ学生服もどきと違う。

 

「ふわぁ……」

 

「この巫女装束がアーティファクトってわけじゃないか、グローブのほうか」

 

「……」

 

「おい流水?」

 

「……うぅ……酷いですマスターまさかホントに唇を奪うだなんて……これはもう娶ってもらうしか」

 

「せい」

 

「あう」

 

「調子に乗るな」

 

 そんな予定は欠片もない。何年かしてキチガイ度が薄れていたら考えてやらんこともないけど。

 ともあれこれでいいか。あとは城の下層とかでアーティファクトの練習でも見学しようかなと思い。背後からシャツの裾が引かれる。

 

「ん?」

 

「……」

 

 水晶だった。いつも通りの無言で数秒停止し、

 

「!?」

 

「な!?」

 

 唇を重ねられた。僅かな冷たさと柔らかさ。閃光とカードが生じてすぐに離れるが確かに感触はあった。出現したカードで水晶が携えていたのは槌だ。柄が長く、ハンマー部分がゲートボールスティックのように小さい。色は銀で、柄からハンマーに部分までに茨の装飾がある。彼女自身は普段通りの長衣。

 

「す、水晶?」

 

「…………私だけないのはおかしいだろう」

 

「あぁまぁそうだけど……」

 

「…………なら気にするな」

 

「……まぁ別にいいけどさ」

 

「…………あぁ」

 

 

 

 

 キャー! キャー! キャー! やっちゃった! やっちゃったよ私! ヤバい、声碌に出ない! 間が長い! おかしいって思われてないかな!? ただでさえ普段から上がり症で碌に喋れてないのに! あ、駄目見ないでリュウ! カッコよすぎて直視できない! 顔が熱い! 赤面症なんだよ! 亜人モデルだし、何時も髪で隠してるから解り難いかもしれないけど今顔真っ赤だから! 駄目!見ないでぇ! そうカード! カードだよ! 仮契約の証! つまりこれが私たちの愛の結晶……! あ、ゴメンサイ盛りましたぁー! 一方通行ですねスイマセン!

 

 

 

 

 

 

 所代わって墓守り人の宮殿下層部。祭壇がある上層部や居住スペースのある中層部と違って下層部にはこれといって何もない。普段から室内戦を想定した模擬戦でも使っているし、荒事には向いている。

 

「使い方はわかっているな。来たれ(アデアット)でアーティファクトが出るから適当に慣らしで使ってみろ。多少手荒くなっても構わん。データは私が取る」

 

「とりあえず俺も見学な」

 

 下層部の広さ直径百メートルくらいあるホール。この墓守り人の宮殿はまさしくラストダンジョンの魔王の城のように構造が複雑だ。ぶっちゃけ俺も下層部は正確に把握してないし。ともあれ仮契約カードを手にした五人から距離を取り観戦モードだ。

 

「ポップコーン食うか?」

 

「食う……ってカレー味かよ」

 

「カレーが一番美味いだろう」

 

「俺はキャラメル派だ」

 

 カレー味のポップコーンをつまみながら五人を眺める。仮契約システムそのものは好きになれないが、それでもどんなアーティファクトが出るか興味がある。あんま強くないのがでるとちょっとへこむ。

 

「んじゃまー頑張れよー」

 

 呟いた。五人が同時にアーティファクトを呼び出す。

 そして俺の呟き通りに頑張ってくれたらしい。

  

 ――下層部が吹き飛んだが。

 

 




見せかけクール可愛い。


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