彼、小山雅との日常は変わらない。
何もない日常だ。
その日常が
変わらない日常は
変わらないんじゃなく
変えてはいけなかったんだ。
俺は、もっと早く気づいていたら━━━
彼女を傷つけずに済んだんだ━━━
青春に 気づかぬ者は 愚か者
子供の頃から、憧れている人がいた。
プロ野球選手
沢山の人達に見守られ、応援され、時には野次をうけ……。
チームとファンと一体になって試合に臨む彼らを見て俺もあぁなりたいとずっと思ってた。
夢を叶えるために、ずっと野球を続けてる。
だから、彼女の気持ちに気づかなかった。
野球の事しか考えなかったから。
だから、気づかなかった━━━
気づかなかったからこそ、傷つけた。
俺は、彼女を━━━
━━━
「お疲れ」
着替えを終えて部室を出ると彼、小山雅が話しかけてきた。
雅は、変わってる。
外見は完全に女の子だし、甘い物が好きだったり少女漫画が好きだったり……
そこらの女よりも女の子してる男だ。
俺の同期で、男だ。
……たまに、男か女かわからなくなるときがあるけど。
「最近、近くでデザートが美味しい店を見つけたんだけど……一緒い行かない?」
またか。
内心ため息を吐く。
雅は俺を誘って部活帰りにどこかに連れて行こうとする。
喫茶店だったり、ファミレスだったり……
初めは一週間に1、2回だったけど、最近は毎日のように続いている。
「だめ、かな?」
夕暮れのせいか、それとも恥ずかしさからか顔を真っ赤にして上目遣いで俺を見てくる。
……何時もこうだ。
断ると今にも泣き出しそうな顔をする。
「……少しだけならいいよ」
「うん!!じゃ、行こう」
嬉しそうに笑うと俺の手を取り、歩き出す雅。
ニコニコと、嬉しそうに、楽しそうに。
……男と一緒に遊びに行くのがそんなにも楽しいのか?
軽くため息をついて、引っ張られるように俺も歩き出した。
━━━
雅に連れてこられたのは喫茶店だった。
何人かの先客がいたが、皆静かに落ち着いて過ごしていた。
学校から少し離れたところにこんな店あったんだな。
なんて思いつつ、俺は目の前に座る雅を見る。
さっきからメニュー片手に楽しそうに何が美味しいかを俺に話している雅を見る。
本当に女の子みたいだ。
でも、彼の服装がそうとは思わさせない。
俺と同じ男子用の制服に身を包む彼は、男なのだから。
「……大丈夫?」
「ん?」
「さっきから、静かにしてるから」
雅は申しわけなさそうに話し出す。
「迷惑だったらかな?疲れてるのに連れ出しちゃって」
「そんなことないよ」
「……本当に?」
「嬉しいよ、雅とこうやって遊びに行けて」
「そ、そう?よかった」
相手は女の子じゃない、男だ。
部活仲間の男だ。
だから、こうやって気軽に話せる。
……当の本人は嬉しそうにはみかんだ笑顔で照れ照れとしているけど。
よく部活仲間から、雅のことでからかわれたりする。
どうやら、こいつは俺以外と遊びに行くことも、俺以外と嬉しそうに笑うこともないらしいから、2人は付き合ってるとか言われる。
……俺は男とじゃなくて女とつき合いたいんだけどな。
「えへへ、そう言われちゃうと嬉しいな」
……見た目じゃなくてちゃんとした女の子と。
「で、でも嫌だったらちゃんと言ってね。僕が君を嫌な思いにさせたらね」
……本当に、恋する乙女にしか見えないから困る。
まぁ、それでも身体は男なんだ。
付き合うはずがない。
「それじゃ、私はこれにしようかな。君は?」
「同じやつでいいや」
特に確認もせずに同じ物を頼む。
俺も甘い物は好きだ。
雅も甘い物が好き。
それを分かってるからか、雅は大抵俺達にあう物を頼んでくれる。
だから、任せる。
雅のセンスを信じてるから。
店員に注文してる雅を横目で見ていると、ふと目線があう。
それだけで、嬉しそうに笑う。
……本当に、恋する乙女みたいな奴だ。
そう思いつつ、彼を見る。
━━━
雅が頼んだのは小さめのケーキだった。
2人でケーキを待ちつつお互いに談笑をする。
……と言いたいところだけど、俺達の間に会話はない。
何時も、そうだ。
2人でどこに行っても話す話題がない。
雅は顔を真っ赤にしながら俯いて、俺は水を飲みながらそんなこいつを眺める。
何時もは俺が話題を振るが、今日は珍しく雅が沈黙を破った。
「あっ、あの!!」
緊張からか、何からか、声が震えている。
「君は、その……」
何やら煮え切らない態度で語る雅。
「す、好きな人とかいるの?」
……唐突な話題だった。
まぁ、部活仲間とこういう事を話すのは別に可笑しくない。
可笑しいのは、雅からこの話題を振ってきた事だ。
雅はこういう話題を好まない。
部活仲間に降られても顔を赤くして逃げていたりする。
だから、少し驚いて、言葉に詰まる。
「そ、そのね、最近見たんだ」
雅はモジモジとしながら会話を続ける。
俯いた彼の顔は、看れない。
「……マネージャーと一緒に買い物に行ってなかった?」
マネージャーと買い物。
……行った。
部活で使う物が壊れたから2人で買い物に出かけはしたが……。
なんで知ってるんだ?
「たまたま、お散歩してたら2人を見ちゃってね。だから、気になって」
雅は声を震わせながら続ける。
「好きなの?マネージャーのこと」
雅は鋭い言葉を投げかけてくる。
だから、俺は安心させるために普通を気取る。
「あれは、部活で使う物が壊れたって連絡あったから俺がつき合っただけで」
「でも、そんなの部長に任せればいいじゃん」
「忙しかったんだろ?」
「部長は連絡無かったって言ってたよ」
「気を使ったんだろ」
「でも、なんで君なの?」
「たまたまだろ」
「……何時も、だよね」
雅の言葉に俺は黙る。
「これが初めてじゃないよね」
妙に確信めいた言葉で。
「……見てたよ、何度も」
力強く
「君とマネージャーが買い物に行くの」
華奢な身体と裏腹に
「僕ね、見たの初めてじゃないんだ」
どす黒さを感じる声で
「何度も何度も何度も何度も買い物に行ってたよね」
普段の可愛らしい雰囲気を裏切るように
「僕、知ってたよ」
強い怒りを込めた言葉で。
「なんで?」
鋭い疑問が投げかけられる。
まるで、喉元にナイフを当てられたような感覚。
俺は、何も言えずに黙る。
「こないだね、見たよ?」
雅はゆっくりと顔を上げる。
「キス、しようとしてたよね」
虚ろな瞳で、黒い瞳で
「なんで?」
俺しか映ってない瞳を向けて
「なんで?」
しっかりと目を合わせて
「なんで?」
雅は問い続ける。
「あれは、向こうから急に」
「そうだよね、知ってるよ。僕は分かるもん。君がマネージャーとキスしないってことぐらい」
嘘をつけれない。
ついたら最後……
雅の確信めいた言葉に怯んだのか、それとも普段と違う雰囲気に怯んだのか……
俺は、黙った。
「ねぇ、なんで僕に黙ってたの?
疚しい思いがあったの?
マネージャーに?
何か弱みでもつけられてるの?
それとも、好きなの?
マネージャーが?
好きだから買い物にいくの?
マネージャーのことが?
それとも、仕方なく行ってるの?
じゃあ、キスは何で?
何でキス仕掛けるような事になったの?
マネージャーと?
なんで?
なんで?
何でただの買い物からそうなるの?
デート?
マネージャーと?
2人っきりで買い物に行ったらキスするの?
そうなるの?
マネージャーとつきあうの?」
怒涛の質問責めにあう。
「違うよね?
マネージャーに無理やりそうさせられたんだよね?
優しいから、断れなかったんだよね?
違うの?
君は優しいから、あぁなるんだよね?
そうだよね?
違わないよね?
マネージャーなんかに付きあうはめになったんだよね?
そうだよね?
マネージャーのことなんかどうでもいいよね?
違わないよね?」
雅の何時にないこの雰囲気に、黙る。
気がついたら周りの客も黙ってこっちを見てるのに気づく。
幸いにもそこまで大声じゃないためか、遠くのテーブルの人達には見られていない。
……居づらいし、いつ声を荒げるかもわからない。
俺は立ち上がる。
「雅、場所を変えよう」
そういって店を出てくと、雅も後ろから付いて来る。
静かに黙って。
ケーキ、食べ損ねたな。
現実逃避にそんな事を思いつつ、俺達は店を出る。
━━━
外の空気が重く感じる。
息苦しさを感じる。
普段はニコニコと笑顔で俺の近くを歩く雅は今はそんな雰囲気を感じ取らせない。
少し前までは、何時も通りだっ。
今は、違う。
人気のない路地裏につくと、足を止める。
個々がイイワケじゃない。
ただ、人目のつかないところで近場がよかった。
だから、ここでいいと思う。
それに、少し歩いて気分も落ち着いた。
気持ちの悪い雰囲気にも少しは慣れた。
「雅」
俺は名前を呼んで、あいつと目を合わせる。
何時もと違う暗い眼を、深く黒い眼をした眼を見る。
「俺は、好きな人なんていない」
いない。
だから、雅の勘違いなんだ。
それを伝えよう。
「じゃ、マネージャーのことは?」
「本当に、ただ誘われただけだ」
「好きじゃないの?」
「好きじゃない」
「……僕は?」
雅の言葉に息が詰まる。
「僕のことは好き?」
小山雅は、男だ。
俺と同じ、男なんだ。
「マネージャーよりも好き?」
「……友達としてか?」
途切れそうな思考をなんとか繋ぎ合わせる。
当たり前だ。
男同士でつき合ったら、周りから変な目で見られる。
「……違うよ」
雅は、どう思ってほしいのか。
わからない。
わからない。
「君は、どんな人とつきあいたい?」
「俺は……」
悩む。
俺はどんな人とつきあいたいのか。
「もしも、僕が女だったらつきあってくれるの?」
笑顔で雅は言う。
可愛らしい笑顔で。
「本当はね、こんなこと言いたくなかった。
今までの関係が好きだったから。
これ以上の関係になりたかったけど、君が嫌な思いをするかもって思ったら何もできなかった。
僕の大好きな君に迷惑をかけたくないから。
でも、君が望むなら━━━
君が欲しいなら、僕は君の物になるよ。
君の事が大好きだから。
君のためなら、何でもやるよ。
何にでもなる。
君だけの僕になる。
君のためで僕で
僕のための君
そうなろうよ」
雅は、言う。
淡々と言う。
なんで、ここまで同性の事を好きになるんだ。
「ねぇ、もしも」
顔を伏せ、顔を赤くしながら雅は短い問いかけをする。
「僕が女だったら、つきあってくれるの?」
さっきと同じ質問だ。
……悩むけど、悩めない。
選択肢は、ない。
雅のこの雰囲気は異常だ。
だから。
「女だったら、付きあう」
だから、こう答える。
雅のことは友達として好きだ。
もしも、雅が女だったら……
きっと、つき合っていたのだろう。
「女だったら、愛してくれる?」
「女だったらね」
雅が女だったらの話。
それは、女の子よりも女らしい彼が、女だったらだ。
「じゃ━━━」
雅は、伏せてた顔を上げる。
その顔は嬉しそうで
楽しそうで
可憐で可愛い
「僕達、付き合おうか」
最高の笑顔でそう言った。
あれから、何秒たったのだろうか。
意識が完全に止まっていた。
「……えっ?」
俺が言えたのはその一言だけ。
「僕が女ならつきあってくれたんでしょ?」
「……女なの?」
「うん」
「女になったの?」
「女だったよ」
「いつから?」
「はじめから」
驚いた。
驚きすぎた。
声はなるべく平常を気取っているが、内心までは誤魔化せない。
驚きすぎて驚けない。
「ねぇ、せっかくだし今度デートに行こうよ、僕ね」
「まっ、待って」
雅を止める。
嬉しそうに可愛らしく話す彼……女?を止める。
「えっ?えっ?」
「……確かめてる?」
顔を更に真っ赤にすると、雅は距離を詰める。
「君になら、いいよ」
ゆっくりと。
「急で、初めてで緊張するけど」
距離を詰め終える。
「君になら、いいよ」
雅の顔が、すぐ傍に来る。
唇と唇が今にも触れ合いそうな距離。
雅の生暖かい吐息がかかる。
「ねぇ、確かめる?」
俺は……
俺は。
「いい」
拒否する。
すると雅は、悲しそうな顔をする。
まるで、世界が終わったかのような顔を。
「なんで、なんで確かめないの!?
嫌なの……?
僕と付きあうの嫌なの?
なんで?
女だったらつき合ってくれるんでしょ!?
なら、確かめてよ!!。
確かめて、僕と付き合ってよ。
付き合ってくれるんでしょ?
こんなに……
こんなに君のことが大好きなのに。
なんで、付き合ってくれないの?
……なんで?」
雅は、思いが溢れたのか泣き出してしまう。
そんな『彼女』を俺は━━━
「信じる」
俺は、雅を抱きしめる。
「信じてるから、確かめない」
彼女の可愛らしい顔涙でクシャクシャになる。
絶望に打ちひしていた顔が、少しずつと笑顔になる。
「付き合おう」
顔を上げた彼女にキスをする。
顔を話すと、雅は嬉しそうに噛みしめるように一言口にする。
「ありがとう」
可愛らしい雅の顔を間近で見て
守りたい笑顔を見て
すぐに壊れてしまいそうな華奢な体を抱きしめて
嬉しそうにはにかむ彼女を見て
俺達は、静かにまた口づけを交わす。
静かな路地裏で、2人で。
━━━━━━
後日談、というかあれからの関係。
俺達の関係は、秘密だ。
クラスメイトにも部活仲間にも。
雅が女という事も、付き合ってる事も。
学校内では普通に過ごす。
……まぁ、雅が弁当を作ってきてくれたり前よりも話す時間が増えたりで大変になってはいるけど、それはまた別の機会に話すとしよう。
部活が終わり、俺達は2人で歩き出す。
今日はこの前食べ損ねたケーキを食べにいく。
━━━お互いに手を取り合う。
可愛らしい笑顔を隣で見て、思う。
何時までも、隣にいよう。
彼女と
こんにちはー勠bでーす
普段からヤンデレものばかり書いてます。
また機会があれば何か書こうかなと思ってます。
キャラのリクエストとかしてくれたら嬉しいです。