ぼっちではありません、エリートです。   作:サンダーボルト

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相模って総武校に少なくとも二人いるんですよね。同じ苗字の人が学校にいるってとこ、俺ガイルのリアルなとこだと思います。


誤解した方々ごめんなさい。わざとです。


ひび割れの友情(前編)

勝負の中間結果が発表されてから三日ほど経った日の放課後。今日も奉仕部は暇を持て余している。八幡は結果にショックを受けているかといえばそうでもなく、発表された翌日も普通に部活に顔を出している。結衣は勿論、雪乃も僅かながら気を遣っていたものの、いつもと変わりない八幡を見てそれは不要だと判断した。

 

それぞれが静かに過ごしている中、部室にノックの音が響いた。

 

 

「どうぞ」

 

 

読書を中断した雪乃が顔を上げて声をかけた。すると、扉が勢いよく開いて巨大な影が入り込んでくる。

 

 

「うおおーん!ハチえもーん!聞いてよ、あいつらひどいんだよ!」

 

「何ですか、はむ太君。駄キャラが無駄に喋らないでほしいんですけど」

 

「駄キャラ!?」

 

 

携帯から目を離すことなく、八幡が入り込んできた義輝を言葉で斬りつける。結衣はうわぁ…と露骨に嫌な顔をし、雪乃は何も言わずに読書に戻った。義輝は咳ばらいを一つすると、近くの椅子を引いてどっかりと座る。

 

 

「げふん、実は今日は諸君らに相談があってまかり越した次第だ。前に、我がゲームのシナリオライターを目指していることは言ったな?」

 

「言ってませんよ」

 

「え、ラノ何とかじゃなかったっけ…?」

 

「ぬ、そうだったか…?まあ話すと長くなるのだが、ラノベ作家は収入が安定しないのでやめた。やはり正社員がいいと思ってな」

 

 

結衣が小首を傾げて尋ねると、義輝は一瞬結衣を見た後に八幡の方へ顔を向けて答えた。

 

 

「で、そのゲームシナリオライターがどうしたんですか、ジュラシックパークでディロフォサウルスに食べられた人」

 

「誰だ!?……ばっふんばっふん。それがな、我の野望を邪魔する輩が現れたのだ。恐らくは我の才能に嫉妬しているのだと思うが…」

 

「それはおかしいですね。君に才能なんてありませんから別の意図があると思いますよ、ドーン・オブ・ザ・デッドで死んだかと思ったらゾンビになって襲ってきた人」

 

「だから誰なのだ!?……時に八幡よ、お主は遊戯部を知っているか?」

 

「ええ、まあ……名前くらいなら知ってますけど…」

 

「遊戯部は今年創部された新しい部活よ。遊戯全般、エンターテイメントについて研究することを目的にしているようだけれど」

 

「そうなんだ……それで、そのユーギ部がどうかしたの?」

 

「う、うむ、昨日の話なのだが、我はゲーセンで遊んでいたのだ。で、学校とは違ってゲーセンではそこそこ話ができるから、格ゲー仲間にゲームシナリオを書くと夢を語ったわけだ。その場にいた誰もが我の偉大なる野望に平伏した。頑張れよ、応援してるぜ。そこにシビれるあこがれるゥ!などど賞賛の嵐よ」

 

 

ここで義輝は言葉を切ると、大袈裟なジェスチャー付きで己の怒りを表しながら更に続ける。

 

 

「だがしかぁし!その中で一人だけ、我に向かってこともあろうに、むむむむ無理と、ゆゆゆゆ夢見てんなと言い出した奴がいたのだ!我も大人だからその場では、『で、ですよねー』と言っておいたが」

 

「夢から覚めて良かったですね、エボリューションで割と重要な役割の学生の人」

 

「いやだから誰のことだ!?…とにかく、我もそんな事言われて引き下がれるほど大人ではない!なので、きゃつめが帰った後にあるかな勢千葉コミュという場所でさんざん煽りの書き込みをしてやったわ。ふん、あいつ顔を真っ赤にしていたに違いない」

 

「大人なのか大人じゃないのか、どっちなのかしら……」

 

 

雪乃の呆れたような呟きに義輝は一瞬だけ恐怖に満ちた表情をするが、すぐに持ち直して話を続けた。

 

 

「そしたら、どうやらそいつ同じ学校だったみたいでな…。今朝コミュ開いたら、ゲームで決着をつけることになっていたのだ。周囲が煽りに煽ってな…。なぁ、俺ってひょっとして嫌われてるのかな?」

 

「そうなんじゃないですか?で、ここに来たのはそのゲームで勝てそうにないからどうにかしてくれと…そういう事ですか?」

 

「……ほ、ほむん、その通りだ。格ゲーでは向こうの方が全然強くてな…。知っているか?一流の格ゲーマーにはプロ契約している人もいる。その男もプロという程ではないが、我よりは確実に強い」

 

 

悔しそうに義輝が言うと、雪乃が読んでいた本をぱたりと閉じた。

 

 

「大体分かったわ。つまり、その格ゲーとやらであなたが勝てるように手伝えと言いたいのね」

 

「否っ!八幡貴様っ、格ゲーばなめちょるのかっ!?そない一朝一夕でどないかなるほど甘いもんやない!あんさんに格ゲーの何がわかりますのんえ?」

 

 

滅茶苦茶に方言を混ぜ合わせながら喚きたてる義輝を、雪乃はゴミを見る目つきで見ている。結衣もかなり引いている様子だった。

 

 

「じゃけぇ、勝負そのものをなかったことにするか、我が確実に勝てるもので勝負したいんじゃ。だからそういう秘密道具を出してよ、ハチえもん」

 

「そう言われましてもねェ…」

 

 

八幡は頭を掻きながら雪乃の指示を仰ぐ。雪乃の反応は当然、いいえ。首を横に振って拒否の意を表した。

 

 

「ま、当たり前ですがお断りしますよ。今回の件の発端はあなたにありますし、奉仕部の理念に反しますから。刺される覚悟も無いくせに煽るなってことですよ」

 

「……ほふう、八幡は変わってしまったな。昔の貴様はもっと滾っていたというのに…」

 

「阿保な事言ってないでさっさと出て行ってください。こんなことしてるなら、格ゲーの練習でもしてた方がいいですよ」

 

 

既に取り合う気を無くした八幡は、再び携帯をいじり始める。しかし、義輝は退こうとせずににやりと笑った。

 

 

「はむん、奉仕部などと片腹痛い。目の前の人間一人救えずに何が奉仕か!本当は救うことなどできぬのだろう?綺麗事を並べ立てるだけでなく、行動で我に示してみろ!」

 

 

義輝の挑発ともいえるその言葉に反応したのは八幡でも結衣でもなく、奉仕部の部長、雪ノ下雪乃であった。

 

 

「……………そう、では証明してあげましょう」

 

 

凍てついた眼差しを向けられた義輝は、ひいっ、と悲鳴を上げて真っ青になる。そのまま雪乃は部室を出ていき、義輝も怯えながらそれに続いた。結衣も慌てて追いかけようとするが、八幡が動こうとしていない事に気づいた。

 

 

「ヒ、ヒッキー…行かないの?」

 

「私達まで行く必要ないでしょう。一度断ったのにあの人が勝手に依頼を受けたんですから、あの人に任せておけばいいんですよ」

 

「……それは、そう、だけど……でも」

 

 

結衣は少しの間、八幡と雪乃達が出て行った扉を交互に見ていたが、やがて何かを決意すると両手を合わせて八幡に頭を下げた。

 

 

「お願いっ、ついてきて!あたしじゃ、いざって時にゆきのん止められないし…」

 

「……」

 

「…お願い…」

 

 

結衣の弱々しい瞳が八幡の腐った瞳に懇願する。八幡はしばらく目を細めて黙っていたが、やがて溜息を吐いて静かに立ち上がり、結衣と共に雪乃達の後を追いかけた。

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

遊戯部の部室は奉仕部と同じく特別棟にあり、奉仕部が四階なのに対して遊戯部は二階に位置している。今年創部されたばかりなので、部室には真新しさが見える。扉に貼られている紙にマジックで書かれた、遊戯部という文字がそれを引き立てる。

 

 

「じゃあ、行こっか」

 

 

結衣が率先して遊戯部のドアをノックする。すると、気だるげな声で返事が返ってきた。入ってもいいという風に受け取った結衣は、扉をガラリと開いた。そこにあったのは、箱、本、パッケージが積まれてできた山。入室して箱の一つを手にした結衣は、困惑した表情を見せる。

 

 

「ここってユーギ部じゃないの?なんかゲームっぽくないんだけど…」

 

「それも立派なゲームですよ。それはマジック・ザ・ギャザリングというカードゲームのスターターデッキです。他にも海外のボードゲームとか色々ありますね」

 

「これだけのゲームを揃えるなんて大したものね。それはそうと、部員はどこにいるのかしら…」

 

「あ、そーだね。声はしたのに、どこにもいない…」

 

「ぬふぅ。積みゲーや積読はもっとも多く時間を過ごす場所ほど高く積まれる。ゆえに、一番高いところを目指せばおのずと居場所は分かる」

 

「そうですか。そういう事は場所を知りたがっているお二人に言ってください」

 

 

相変わらず八幡としか会話しようとしない義輝。アドバイスに従って一番高いゲームの壁を目指すと、本や箱の衝立の後ろから男の声が確かに聞こえた。回り込んでみると、遊戯部の部員であろう男子二人がそこにいた。

 

 

「部活動中に失礼するわ。ちょっとお話があるのだけれど、構わないかしら?」

 

 

雪乃が話しかけると、男子二人は頷いた後、こそこそと囁き合う。

 

 

「あ、あれって二年の雪ノ下先輩じゃ…?」

 

「た、多分…」

 

 

先輩、という単語を聞きつけた義輝がずいっと前に出る。

 

 

「む、貴様ら一年坊主であったか!ふはははははは!!久しいな、昨日は随分と大きな口を叩いてくれたが、今さら後悔しても遅いぞ!人生の先輩として、そして高校の先輩として我が灸をすえてやろう!」

 

「……おい、さっき話してたのってこの人?うはー痛ぇ」

 

「だろ?マジないよな」

 

 

先輩風をふかして威勢よく押し出してきた義輝だったが、遊戯部の二人は委縮するどころか逆に義輝を嘲笑している。

 

 

「ざ、ざい……財津君?遊んでないで本題に入りましょう」

 

「え、は、はい、わかりました…」

 

 

名前を間違われて義輝は素に戻りながらも返事をする。雪乃が遊戯部の二人の方へ向き直ると、二人は緊張からか表情を固くした。

 

 

「私達は奉仕部という部活に所属しているのだけれど、この財津君があなた達ともめたと相談してきたので、それの解決に来たの。もめたのはどちらかしら?」

 

「あ、俺です。一年の秦野です。こっちは…」

 

「一年の相模です…」

 

 

秦野と名乗ったほうはやや猫背気味の痩せ型で、フレームなしのシャープなメガネをかけていた。もう一人の相模は白い肌をした中学生のような風貌でこちらも細い。秦野と同じく眼鏡をかけているが、こちらは丸みを帯びたレンズの眼鏡だった。

 

 

「えっとさ、ゲームで対決するっていう話になってるみたいなんだけど、秦野君って格ゲー強いんだよね?それだとやる前から勝負が決まっちゃってるようなものだし、別のゲームとかにできないかな?」

 

「……まあ、いいですけど」

 

「でも変える以上何か見返りがないと…」

 

 

控えめながらも自身が滲んだ返事の後に、遠慮気味な声が続く。見返りをどうしようか、と雪乃と結衣が顔を見合わせていると、八幡が義輝の背を押した。

 

 

「なら、この人の土下座でよろしいですか?エリートにとっては一厘の価値にもなりませんが、君達にとっては気晴らしくらいにはなるでしょう?」

 

「……え?俺が?」

 

「…まあ、いいですけど…」

 

 

義輝が素に戻って自分を指さす中、とんとん拍子で話がまとまった。

 

 

「やるゲームはあなた達に任せるわ」

 

「あ、でも、あんまし難しいのはやめてほしいかな、って…」

 

「それなら……みんなが知ってるゲームをちょっとだけアレンジします」

 

「ふむ、して、そのゲームの名は?」

 

 

義輝が質問すると、二人とも眼鏡をくいっと上げた。

 

 

「ダブル大富豪ってゲームをやろうと思います」

 

 

八幡のモノクルが光り、彼らの眼鏡が放つ怪しい光を捉えた。

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

ゲームを始める前に、相模が簡潔にルールを説明していく。

 

 

1、全てのカードをプレイヤー全員に均等に配る。

 

2、ゲームは親から始まる。最初の親が手札から最初のカードを出し、以降順番に次のプレイヤーがカードを出して重ねていく。

 

3、カードには強さがあり、弱い順に3、4、5、6、7、8、9、10、ジャック、クイーン、キング、エース、2となる。ジョーカーはワイルドカード扱いとする。

 

4、プレイヤーが出せるカードは、場にあるカードよりも強いものしか出せない。二枚出しなら二枚出さないと駄目。

 

5、出せるカードがない時はパスが許される。

 

6、他のプレイヤー全員がパスし、再び場にあるカードを出したプレイヤーまで順番が回ってきたらそのプレイヤーは親になり、場にあるカードは流される。

 

7、以上を繰り返して一番早く手札が無くなったプレイヤーが大富豪となり、以降は上がった順に富豪、平民、貧民、大貧民という階級がつく。大富豪は大貧民から良いカードを順に二枚取り上げ、好きなカードを二枚交換させることができる

 

 

また、ローカルルールは結衣の中学校のものを参考に、革命、8切り、10捨て、スぺ3、イレブンバックあり。都落ち、縛り、階段系、ジョーカー上がりはなしという事になった。

 

 

「ローカルルールはそっちの要求を飲みます」

 

「なので、ダブル大貧民のルールも飲んでもらいます」

 

 

二人の眼鏡がまたもや怪しく光る。しかし、次の瞬間にはにこやかな笑みを浮かべていた。

 

 

「と、いっても、ルール自体は普通の大富豪と同じで」

 

「違うのは、ペアでやる点です」

 

「ペアということは、二人で相談しながらやるということ?」

 

「いいえ。一ターン毎に交代で手札を出してもらいます」

 

「相談するのは禁止です」

 

「なるほど…」

 

 

大富豪未経験者の雪乃は、教えてもらったルールを暗唱している。義輝は不敵に笑いながら腕を組んで、ゲームが始まるのを今か今かと待ち構えている。秦野がまだカードをシャッフルしている最中に、八幡は人差し指と中指を伸ばして結衣を指差し、それを雪乃の方へ振って頷く。八幡の意図を理解し、結衣も大きく頷いた。

 

 

「ゆきのん、一緒にやろ!」

 

「一番強いカードがジョーカー……え、あ。そうね」

 

 

結衣が雪乃の肩をがしっと掴むことで、ペアが成立する。残った義輝は八幡に背を向けるように立ち、

 

 

「八幡。我に、ついてこれるか?」

 

 

と声をかけた。八幡はそれを軽く無視して、遊戯部の用意した椅子に座った。相模、結衣が続けて座り、ダブル大富豪が開始された…。




なんで自己改変に関係ない依頼でエリートが動くの?というツッコミが入りそうなので、八幡の行動理由を記しておきます。


ゆきのん行っちゃったけど、奉仕部の受けるべき依頼じゃないからほっとくお⇒でもゆいにゃんがゆきのんを心配して一緒に行くみたいだお⇒ゆいにゃんだけだと、もしゆきのんが暴走したら止められそうにないし、ゆいにゃんも巻き込まれるかもしれないお⇒しょうがないから一緒に行ってやるお


といった感じです。

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