東方羅戦録〜世界を失った男が思うのは〜   作:黒尾の狼牙

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前回のあらすじ
黎人が目覚める。


97 ウソです

「ハァ…ハァ…」

 

とある隠れ家で、満身創痍の男が、息を切らしている。先ほど幻想郷の妖怪の山で戦っていた男、ロッタだ。

惣一との戦いは、順調だった。あと僅かのところで彼にトドメを刺すことが出来た。なのに、1人の男が邪魔したことで、惣一を殺すことは出来ず、自身は大怪我を負う事になってしまった。

 

「…着いたな。無事か?」

 

ロッタと一緒に行動していた男…瑛矢がロッタに声をかける。満身創痍な状態の彼を見て、無事と思わないだろう。

 

「ウッセェ!触んな!」

 

瑛矢の手を払うようにしている。それだけで、ロッタがかなり乱心していると分かる。

 

「ロッタ、怒るのは良くないよ。瑛矢は心配して…」

「ウルセェんだよデブ!そんな心配なんかいらねぇんだよ!」

 

ファトラスはロッタを宥めようとしたが、逆ギレされて黙ってしまう。強く言われるとかけてあげる言葉もない。

ロッタはこういう男だ。調子良い時は他人を煽り、調子が悪い時は態度が乱暴になる。このような性格のせいで、彼から距離を開ける人も多い。

 

 

 

 

 

 

「スゲェ荒れてんな。向こうの世界でやられたのか?」

 

 

 

 

 

そんな状態になっている彼らに、声をかけるものがいた。家の奥から2人の男が近づいてくる。

1人は、少し前に研究の責任者となったクロロだ。そして、彼が引き連れているのは、先ほど声をかけた男だ。

 

「スラック…!」

「落ち着けよ。じゃねぇと頭から血が出るぜ」

「出るかよ!」

 

その男…スラックを見た目で言うならば、体格が良いのが1番の特徴だ。ガイラは体格がデカかったが、スラックはそこまで細くはない。だが体はガッシリとしている。いわゆる、細マッチョという奴だ。

 

「お疲れ様です。ロッタさん、ファトラスさん、瑛矢さん。疲れているようですし、私が治療しましょうか?早めに治った方が良いでしょう」

 

怪我をしている彼らに、治療をしてあげようかとクロロは声をかけた。研究者という立場に立っている彼は、医療関係も心得ている。

 

「あ、本当?じゃあ、治療してもらおうかな」

 

クロロの提案に、ファトラスは受ける事にした。劉という男によって電撃を受けている彼は、一刻も早く治療を受けたいのだろう。

 

「ロッタさんは…」

「ふざけんな!この程度の傷、直ぐに治る!」

「…無理は良くないよ」

「ウッセェ!」

 

クロロの誘いも、ファトラスの忠告も無視して、ロッタはその場から離れた。怪我は自然に治るものでは無いのだが、人の好意を受け入れるのは虫唾しか走らない。ロッタは自分で治療できるので、クロロの助けを借りるつもりはなかった。

 

「…行きましたか。瑛矢さんはどうしますか?」

「…誘いはありがたいが、この後仕事が山積みだからそちらに向かう。治療はアイに頼む」

 

瑛矢はそう言って、クロロと別れた。仕事と治療なら、治療の方を優先することが一般的ではあるのだが、GARDに属していた時のクセか、任務の方を優先しがちになっている。

 

「仕方ありませんね。それではファトラスさん、直ぐに治療に向かいましょう」

「うん、ありがとう」

 

クロロはファトラスを連れて、移動を始めた。スラックはその様子を後ろから見ているだけだった。

 

 

 

 

 

人里のとある店で、黎人は考え事に耽っていた。リーフとの戦いが終わって数日が経っている。

敵の侵略があったのは、博麗神社と守谷神社のみ。つまり、人里には被害がなく、村はいつも通りの様子だ。

だがそれはあくまで村の話で、そこに住む人間たちはそうでは無い。住人はとても慌ただしい様子だ。

 

原因は、少し前に配布された新聞だ。妖怪の山で新聞を編集している文が、今回の事件についてまとめた新聞を載せていた。その新聞を読めば、誰でも慌ただしくなるだろう。こんな大事件が起こっていると知れば、他人事とは思えないからだ。

 

新聞には、間違ったことは書かれていない。妖怪の山や博麗神社に敵襲があった事も、妖怪の山に襲撃した男が、惣一の知り合いであるという事も、リーフという人物によって黎人が死にかけた事も、事実である。

 

だが、この新聞に書かれている事が全てでは無い。

 

あの事件が終わった後で、惣一と話していた事を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

数日前、黎人が意識を取り戻した時、惣一から話をされた。妖怪の山にも襲撃があり、その人物が惣一の知り合いだった事を聞かされ、その人物は何とか倒す事は出来たが、その後に助太刀に来た2人は、惣一や刃燗、早苗だけでは太刀打ち出来ない事を話された。

 

「本当に危なかったとしか言えませんでした。その時に来たのが、劉さんという男です」

「劉って…あの口が強そうな奴か?」

「はい。劉さんのお陰で、敵を追い返す事が出来たようなものです」

 

その話を聞いて、黎人や霊夢は驚きを隠せなかった。惣一はそんなに弱くは無い。2人ともそう認識していただけに、そんな彼を苦しめさせるほどの実力…彼らには恐ろしく思えた。

 

「その後、劉さんは3つの行動をとりました。1つは、刃燗さんの回収です」

「刃燗の?どうして…」

「それは分かりません。私のところに来たのも、刃燗さんが目的だろうという事は分かりますが…」

 

惣一の話を聞いて、意図が分からなくなっていく。なぜ刃燗を連れていこうとするのか。刃燗は悪い事をした訳でもないし、重大な任務のためとしては、惣一に話を通さずにいるのも不自然だ。そんな事をしないで連れていく劉の行動に、不審感を持つしかなかった。

 

「次に、劉さんは無縁塚と言われるところの場所を尋ねました。私はその場所を知らないのですが、早苗さんが教えてくれました」

「…無縁塚?」

「人里から遠く離れたところよ。簡単に言えば墓地ね。かなり危険だから行く人も居ないんだけど」

 

霊夢から、無縁塚の説明を受ける。大抵の場所は行った事はあるが、全ての場所を知っている訳ではない。黎人も惣一も、その場所についての情報を全く持っていない。

 

 

 

 

 

 

「…そして、劉さんは私に、情報を与えてくれました。敵の情報について」

 

 

 

その後の惣一の話を聞いて、空気が一変した。敵勢力の情報、それは黎人が…いや、霊夢にとっても1番知りたい情報だった。その情報が手に入ったとなると、平然としてはいられない。

 

「…敵勢力の名前は、『DW』…由来は、竜の翼です」

「…dragon wingというわけね」

 

敵勢力の名前は、何度か聞いた事はある。少し前にリヴァルがその名前を一度だけ口にしていた。

黎人はその話を聞いて、少し難しい顔をしていた。惣一の話に、突っかかるものがあるからだ。竜の翼…黎人は、その竜を一度だけ見た事がある。

 

「それを従えているのが、ダイガンと言われる男です」

 

惣一から、敵の大将である者の名前を聞く。全く聞かなかった名前を聞く事が出来たが、それが一体何者なのかと気になる。

 

「ダイガンについての詳しい情報はありません。ですが、厄介な情報はあります。ダイガンは、目的の達成に必要ならば、どのような人材であっても配下にします」

 

一瞬、黎人は鵞羅やリヴァルを思い出した。どちらも他人に協力的なタイプでは無い。そんな彼らが組織の一員として動いているのは、そのダイガンの考えに基づいている。その事を何となく理解した。

 

「いまいる配下は全員で10人…ロッタ、ファトラス、瑛矢、スラック、結衣、仁、ガドロ、シャーク、アイ、ドベル…それぞれが厄介な戦力を持っているとの事です」

「…聞いた事ない奴ばかりだな」

「私はこの内、3人を見ましたが、どの方も強かったです。劉さんによると、前に戦った鵞羅やガイラ、良也もここにあたります」

 

先ほど、惣一はロッタ、ファトラス、瑛矢と戦ったばかりであり、惣一はその強さをその身で実感している。舐めてかかっていい相手では無い。それを惣一の口から強く感じた。

 

「そして、その上には3人の幹部がいます。1人が通称、冷酷女王とされるリーフと言われる女性です」

「…コイツだ。俺がさっき戦ったのは」

 

黎人は先ほどリーフと戦ったばかりだ。部下を多く仕えていたので、幹部であるということは納得できる。

 

「もう1人が…暗殺剣士、シュバルです」

「シュバルって…前にいたあの?」

「ええ、本来彼は、団体で動く人では無いのですが…今回に限り、DWの幹部として動いています」

 

シュバルと言う男にも、会ったことはある。鵞羅を倒した時に目の前に現れた男こそシュバルだった。必要以上に喋ろうとせず、無駄な事はしそうに無さそうな男だ。戦った事は無いが、彼も実力者であると言う事は何となくわかっている。

 

「そして、最後の1人が、クロロと呼ばれる人です。劉さんの話によると、リヴァルが抜けたことで彼が入ったという事になっています」

 

クロロと言う男…その男のみ、黎人は会ったことはない。当然、クロロが幹部になったのはリヴァルの襲撃があってから以降であり、情報が入っている訳ではない。

 

「…劉さんがくれた情報はここまでです。これだけの情報が入っている以上、劉さんも何か手を打とうとするでしょう。

 

ですので黎人さん…その時が来るまで、万全の準備を整えてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

惣一に言われた情報は、それぐらいだった。ところどころ不明な情報はあるものの、敵の情報が手に入っただけでもかなり大きな収穫だ。

だが、情報が手に入ったからと言って、どのように動けば良いのかと言うのは分からない。その時が来るまで万全の準備を整えろとは言われたが、具体的にどうすれば良いのかと言う事は言われていない。

 

お店から貰ったお茶を見ながら、リーフとの戦闘を思い返す。

リーフは戦闘力はそれほどない。ほとんど部下に任せていたせいで、戦闘のスキルが全く身につかなかったのだろう。正直、リヴァルより下回っていた。

そう認識していたからこそ、侮っていた。侮っていたせいで、最後の策略にまんまとかかってしまった。

猛毒を喰らって、死と生の境目を彷徨う事になってしまった。目がさめると、いつも通りのようにしてはいるものの、黎人を心配している顔になっている霊夢の様子が分かった。

 

戦闘において絶対にしてはいけない事…それは、敵を甘く見る事だ。慢心ゆえにアッサリと死ぬ事だってある。

そんな当たり前のことを…あの時、心に留めてなかった。気持ちが緩んでいたとしか言えない。これでは、敵を倒すこともできない。

 

そう、黎人が強く感じていた。

 

 

 

 

 

 

《ガラガラガラ!》

 

 

 

 

真剣に考え事をしている黎人の耳に、勢いよく扉を開ける音が響く。一瞬驚いて、扉の方を見ると、1人の男が店の中に入っていた。

白い髪が、風で軽やかに動いている様子から、髪質がそんなに硬くないことを実感させる。目は大きく、背は少々高め。服はシンプルにカジュアルなものだった。

 

「すみませーん!オススメを1つ、お願いしまーす!」

 

突然店の中に入ったその男は、親しげに店の人に注文する。明るく元気な声のせいか、それに答える店主もなかなか楽しそうな声を出しているように聞こえた。

その男を見て、ゲンキンな奴が現れたな、と思った。いま人里では、リーフの侵略のせいでかなり不安で満たされているというのに、目の前の男のような元気を出す者はいない。

だが妙だ、とも感じる。さっきまで空気が重かったというのに、その男に刺激されて、段々と明るくなっているように見える。まるでその男が、さっきまでの悪い空気を払拭させたかのように。

 

 

 

 

 

「………ん?」

 

 

 

 

するとその男は、黎人の顔を見ている。何か観察されているようだが、黎人はその男を見たことが全くないだけに、少し警戒している。

黎人は見知らぬ人に話しかける男ではない。迷惑なことをしている者がいたら止めはするが、そうでないなら関わりは持たない。まして、この男のようなムードメーカー的な男には近づこうとすらしない。

なのに、その男はこちらを見ている。まるで、昔の友人のような男を見かけた時のように。その男は、黎人を観察し続けていた。

 

 

 

 

「ああ!やっぱり間違いない!」

 

 

 

暫く経つと、その男はポン、と手を叩いて言った。何が間違いないというのか、それを聞く事が出来るほど、黎人は冷静ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「君ってさ…斐川 黎人だよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………は?」

 

 

 

 

その男が言ってきた事に対して、その一文字しか返せなかった。別に間違ってはない。その男は、黎人の顔を認識していた。

だが合ってはいるものの、突然そう言われて、その通りであるとは返せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うあ!ああ!…た、たすっけ…!」

 

とある一室で、1人の男は苦しんでいた。先ほどクロロに着いて行った男…ファトラスだ。

彼はクロロに治療されるために着いて行った。そしてこの部屋にたどり着き、クロロの指定された場所に立つ。

するとその時、ファトラスの足元に魔法陣が現れ、ファトラスは身動きが取れなくなった。そして、彼に激痛が走る。自分の体が焼けて蒸発するかのような感覚だ。

 

「クロロ!どういう事!?ねぇ…僕、傷を手当てに…!」

「そうですね。私はあなたを治療すると言いました」

 

ファトラスはクロロに問い詰める。治療すると言ったのに、なんでこんな激痛を受ける事になっているのか…ファトラスは全く理解できない。

 

「申し訳ありません。あれはウソです。任務と言ったら、ロッタさんや瑛矢さんが来る可能性が合ったので」

 

クロロは、アッサリと言った。ウソだったと。任務と言えばロッタはプライドで、瑛矢は仕事意識でここに来る可能性があり、ファトラスだけをこの場所に連れて来るために、あえて治療と言ったのだと。

 

「そ、そんなの…聞いて…ひぎゃあああああ!!」

 

そんなの聞いてない、そう言おうとしている途中で悲鳴をあげる。段々と過激になっている痛みに、耐えきれなくなっていた。

 

「…あなたの『弾幕を跳ね返す程度の能力』は、とても心強い能力です。ですが、その能力は1人の人間の中に秘めているだけでは意味がない。私は別の形でそれを有効活用します。

そして能力をもぎ取るためには…その能力を持っている人を溶かす方が手っ取り早い」

 

クロロの話を、激痛を感じながら聞いていた。詳細は分からないが、この男が言っている内容の内、1つだけハッキリと分かる。

クロロは、ファトラスの能力を使うためにこのような行動をしていると。

 

「弾幕は跳ね返す事は出来るが、それは外からの弾幕のみ。内側からの弾幕には反応する事はありません。

ファトラスさんが最初に立っていたのは、弾幕を生成する魔法陣を設置しました。有機物では無いので、全く気づかなかったでしょう。そして、束縛魔法をかけて、高熱弾幕を魔法陣から放出。もう既に、逃れるすべはありません」

 

最初にファトラスを一定の位置に立つように指示していたのは、そのためだった。炎や熱、弾幕を当てるだけでは跳ね返されてしまう。よって内側から燃やすことを選択した。

そして、束縛魔法も体を締め付けるものではなく、『クロロの能力』によって『動く』事が出来ない状態になっている。ファトラスの能力ではどうする事も出来ない策略だった。

 

「クロロ!クロロ!僕!こんな事をする為に協力したんじゃ無いよ!」

「ええ、『世界中のみんなを幸せにする為なら、喜んで協力する』と言っていましたね」

 

 

 

 

ファトラスは、幸せを奪われた。とある団体によって、家族を…土地を奪われた。動くことすら出来ない彼に近づいた男…それは、クロロだった。

ファトラスを助け、彼に言った事は、彼の夢だった。世界中の全ての人を幸せにしたい。そう語るクロロが印象的で、ファトラスはその為なら協力すると言った。彼自身も、幸せになりたかったのだから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレもウソです」

 

 

 

 

 

 

キッパリと、クロロは言った。あれほど熱く語っていたあの言葉を、嘘だと言った。

 

 

 

 

 

 

「冥土の土産に聞いてください。世界中の全人類を幸せにする事は不可能です。それはこの世界の鉄則。その事に気づけなかった事が、あなたの敗因ですよ」

 

 

 

 

ファトラスの目には、あの優しそうだったクロロの顔は、全くなかった。同じような笑顔だというのに、真っ黒に染め上がっているかのような…悪魔のような顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「クロロォォォォ!僕は…僕はァァァァァ!!!」

 

 

 

 

 

 

断末魔が響き渡る。その言葉を残して、ファトラスは跡形もなく消え去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「全人類は、幸せになる者と、不幸になる者の2つに分類されますが…ファトラスさん、あなたは不幸になる側の人間でした。

安らかに眠ってください。あなたには私を呪う権利がある」

 

 

 

 

 

ファトラスが消え去る所を見届けて、クロロは、黙祷を捧げる。そして、彼が消えた場所へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ファトラス死亡。クロロはかなり恐ろしい奴です。そして、黎人の前に現れたのは…
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