東方羅戦録〜世界を失った男が思うのは〜   作:黒尾の狼牙

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前回のあらすじ
スラックが現れた。


99 衝撃波

「チルノちゃん!大丈夫!?」

 

スラックに吹き飛ばされたチルノの近くに来て、大妖精はチルノの事を心配している。妖精はないのだが、痛みを感じる事はある。

 

「…きゅ〜」

 

チルノは気絶しているようだ。だが、怪我をしている様子はない。気を失っているだけだ。

 

「…え?でも…怪我が無いって…」

 

大妖精は不審に思った。先ほど、スラックに氷塊を破壊されて、その奥のチルノも吹き飛ばしたのだ。弾幕かそれとも武器かを飛ばしたと思った。

だが何かにぶつかった様子はない。あくまで吹き飛んだ事で気絶しているような様子だった。

 

「なんで…?」

 

 

 

 

 

連続してナイフを投げる。咲夜はこのようにナイフを投げて戦うのだ。もちろん手に持ちながら斬りかかる事は出来るが、ナイフはリーチが無いため投げた方が良いのだ。

そのナイフを投げる戦術で、紅魔館に侵入を試みる輩や異変の犯人、居眠りをする美鈴を屠ってきた。そのナイフで数々の敵を倒すことができた。

だが、目の前にいる男には通じなかった。

 

「どうしたどうした!?こんな小賢しいマネしか出来ないのかメイドさんよ!?」

 

スラックは飛んできているナイフを全て叩き落としている。素早い動きで、拳で正確にナイフを叩き落としている。…いや、正確には拳では無い。

 

「籠手…それがあなたの武器というわけね」

 

スラックの腕にはめている籠手、それでナイフを叩き落としているのだ。その籠手は硬い金属で出来ており、ナイフ程度では傷つける事は出来ないだろう。

 

「おうよ。重さは100キロ、当然硬いし厚い。半端な力の奴はコレを扱えねぇけど、俺なら自由自在に操れる」

 

それもかなり丈夫に作られているようだ。そのような重いものをつけたままでは動かすこともままならない筈だが、この男の場合はそのような事は起こりえない。

籠手を壊すのは不可能で、さらにスラックの反応速度では普通に投げただけでは防がれる。

 

「さぁ、もっとマシなの来いよ。この程度じゃ俺に傷をつけることすら出来ないぞ」

 

咲夜を挑発するようにスラックは言う。咲夜がどのような攻撃をしてきても防げると思っているのだろう。

 

「…そう、じゃあ傷を負ってもらうわよ」

 

それだけ言って、咲夜は時間を止めた。咲夜の能力である。時間を止め、ナイフをスラックの周りに配置する。

全方位からのナイフの襲撃、両手にある籠手2つではどうやったって防ぐ事は出来ない。

 

「そして時間は動き出す…」

 

時間が進み始めた。時間が進むと当然のようにナイフがスラックに向かって飛んでくる。

スラックには、一瞬でナイフが周りを囲んだように見えた。

 

(油断して、反応が遅れた。これで少しでもダメージが…)

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャラくせぇ!!!」

 

 

 

 

 

スラックが大声を上げた。すると、彼に向かって飛んでいったはずのナイフが突風に吹かれたように勢いを止めて落ちていった。

 

「…うっ…!?」

 

すると咲夜もよろめいて膝をつく。何かにぶつかった訳ではないのだが、衝撃が体に伝わったかのような感じだ。

よく見ると周りに生えてある木などもヒビが生えていたり、細いものは折れていたりしている。

 

「…嬢ちゃんか。時間を止める能力を持つ人間ってのは」

 

スラックの質問から、咲夜の能力を知っていたようだ。時を止める能力なのだから、警戒されていてもおかしくはない。

だが咲夜はそれに答える余裕はなかった。先ほどの異常な光景が気になっていた。ナイフも、木も、咲夜も、無差別に攻撃を受けたかのような…

 

「衝撃波…!?」

「おう、俺は外に向けて吹き飛ばす衝撃波を放つ事が出来る。通称、『衝撃波を作り出す程度の能力』だ」

 

咲夜の推測通り、先ほど放たれたのは衝撃波のようだ。

あの物に力を加えた時に、物体を通して周りに力が伝わる現象、それを衝撃波と言う。だが全く動いていなかったスラックから、吹き飛んでしまうほどの衝撃波を出せるとは思えない。

だが、常識で考えてはいけない。能力の作用によって、衝撃波を生み出しているのだと考える。たとえスラックが全く動いていなくても衝撃波が出るようになっているのだ。

そしていまの衝撃波は全方位に向けて放たれたのだが、衝撃波を飛ばす範囲も限定できる。先ほどチルノを吹き飛ばしたのは、チルノがいるところに向かって衝撃波を飛ばして、氷塊ごとチルノを吹き飛ばしたのである。

 

「全方位の衝撃波は威力が落ちるから、攻撃には使えないが、さっきのような攻撃を防ぐ事は出来る」

 

スラックが放つ衝撃波は2つある。全方位に放つタイプと照準を限定して放つタイプ。前者は主に防御、後者は主に攻撃に使うようだ。

 

 

 

 

 

 

 

「さて今度はコッチから行くぜ。殴るだけのシンプルなやり方だが、それでテメェを倒してやるよ」

 

攻防の立場が逆転した。スラックが構えたのを見て警戒するが、あっという間に咲夜の前に現れる。慌てて時間を停止して、スラックの攻撃を止めた。もう少し遅れていたら拳が当たるところだった。ナイフを数個投げて、遠くに離れる。そして時間を動かした。

 

「…チ!小賢しい…」

 

目の前から咲夜の姿が消えたが、舌打ちをするだけで動揺しない。飛んでくるナイフを籠手で防いだ。

この時点で、スラックの反射神経の高さを認識した。そもそも能力を使えるとはいえ、ナイフが周りに急に現れたにも関わらず冷静に対処したところで気づくべきだった。

 

そんな事を考えていると、腹に激痛が走る。いつの間にか距離を詰められて、腹に拳を当てられていたのだ。

 

「吹き飛べ」

 

スラックが力を入れると、言われた通り咲夜は吹き飛ばされた。

 

 

 

「…ゲホッ…!」

 

地面に転がって咳き込んでいる。強い拳が腹に当たったのだ。意識を保つのがやっとである。スラックの拳はそれだけ威力があった。

 

「衝撃波って、こういう使い方もあるんだぜ」

 

スラックの言っている事は、この現場を見ただけではその意味が分からないだろう。だが咲夜にはわかった。

スラックは自分の足から衝撃波を出していたのだ。それによってスラックの体がその逆方向に向かって飛んでいったのである。地面を力いっぱい蹴った方が高く飛べるのと同じ原理だ。

 

「…さて、ここで殺すのも訳ないんだが。お嬢さんには1つ聞きたいことがある」

 

倒れている咲夜に近づいている。咲夜が睨みつけていても、スラックはビクともしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…蛾溪 刃燗ってやつはいるか?いるんだったらソイツの場所を言え」

 

スラックが尋ねたのは刃燗の居場所だった。なんでよりによって刃燗の居場所を聞こうとするのだろうか。それを疑問に思ったが、別に答えが必要な訳でもないし、どういう理由であっても答えるつよりはない。

 

「…知らないわね」

 

咲夜は知らないと言った。明らかに嘘をついているとハッキリ分かったスラックは、冷ややかな目を咲夜に向けていた。

 

「あっそ。じゃあ…死ね」

 

それだけ言って、スラックは拳を上げる。咲夜を殴り殺すつもりだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「…ハァ!!!」

 

そのとき、スラックの背後に衝撃が走る。それなりに強い攻撃…そう感じさせるほどのものだった。

 

「…美鈴!」

「すみません。門番を抜け出した罰なら受けます。けど、咲夜さんを見捨てれませんでした」

 

スラックに攻撃をしたのは、紅魔館の門番である美鈴だった。彼女の拳がスラックの拳を上げていた方の肩を捉えていた。

 

「…脱臼狙いか?それにしては弱いな。虫でもついたのかと思ったじゃねぇか」

「…!嘘でしょ…完璧に入っているのに…」

 

だと言うのに、スラックの方には全くダメージがない。完璧に肩を捉えているにも関わらず、それを受けているスラックは平然としている。体を鍛えていると言うのは分かってはいたが、まともに攻撃を食らって平然として入れるほど体が硬いとは思わなかった。

 

「ふん!」

 

咲夜を殴ろうと上げていた拳を、後ろの美鈴に当てる。裏拳のように駆り出された拳を防いだ美鈴は、少し後ろにさがった。

 

「…拳でこんなに腕が痛むなんて、いつ以来?幻想郷に来てから格闘戦では負けた事は無かったのに」

 

痛む腕を感じながら、スラックの強さを図っていた。霊夢や魔理沙に弾幕勝負で負けた事はあるが、拳などで戦う格闘戦では負けたどころか苦戦した事すらなかった。格闘の凄腕であるスラックとの戦闘に、少し身震いする。

 

「へぇ…いまのを防ぐとはな。さっきのメイドさんよりは楽しめそうだ」

 

笑いながら美鈴に近づく。スラックも最近では格闘戦ではいい相手はいなかった。先ほどスラックの放った裏拳を防いだのさえ、しばらくの間それが出来る者はいなかった。

不敵に笑う。久しぶりの拳どうしの戦闘。それが出来ることがスラックはとても愉快だった。

 

「オラァ!」

 

籠手で美鈴に殴りかかる。無駄のなく素早いその拳の攻撃を、美鈴は躱した。続けて美鈴が拳を当てるも、スラックに防がれる。

拳を防ぎ、拳を当て…それを繰り返していた。

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

笑いながら攻撃を繰り出している。全力で格闘戦に臨めるのが嬉しくてしょうがないのだろう。そんな彼の様子は、とても恐ろしく見えた。

 

「ハッ!」

 

持久戦を避けようとしたのだろう。美鈴はスラックの腹に肘を思いっきり当てた。

だがダメージを受けている様子はない。やはり耐久力が桁違いなのだろう。

 

「おらよ!」

 

美鈴の距離が近くなったからなのか、的が大きくなっていた。それを見逃さず、美鈴に拳を当てる。そして当てた拳から衝撃波を放ち、美鈴を遠くに飛ばした。

 

「…!」

「チ、反射神経はともかく、耐久力は皆無だな。久々に楽しめるかと思ったが、がっかりだ」

 

明らかにがっかりしたという態度を見せる。もっと楽しめるかと思ったが、あっという間に終わってしまい、テンションが下がっていた。

 

そんな彼に、一本のナイフが飛んでくる。だがその手にある籠手で弾かれた。

 

「まだ動けるのか。ちょっと驚いたな。なかなかしぶとい」

 

そのナイフを投げたのは、咲夜であった。美鈴に気がそれているうちに攻撃をすれば当たるのではないかと思っていたのだが、甘かったと思い知ってしまう。あの状態でナイフに気づかれるとは思ってもいなかった。

 

「とっとと…くたばれ!」

 

咲夜に向かって拳を飛ばす。かなり速めのスピードで繰り出される拳を紙一重で躱す。

 

「オラオラオラ!!」

 

次から次に繰り出される拳を躱し続ける。スラックの怒涛のラッシュに、避けることはできるが反撃も出来ない。

 

「大して力のない門番にこんな弱いメイドを置くとか、紅魔館の底が知れるな」

 

一瞬、咲夜の表情が変わった。自分のことならばともかく、この男は紅魔館の悪口を言った。咲夜にとってそれは1番許せなかった。レミリアの悪口を言われることが。

 

時間を止める。スラックは動いていない。咲夜はスラック…ではなく、その隣に向かってナイフを投げる。スラックの後ろに飛んだあたりでそのナイフは止まった。

 

時間を動かし始める。咲夜の立ち位置が少し後ろの方にさがったのを見て、スラックは再び時間を止めたという事を悟った。だが彼は、彼の後ろに飛んでいるナイフが、木に当たった時に反射して彼に向かっている事を知らなかった。

 

「……っ!?」

 

ナイフが突き刺さる。流石に拳のように無傷とは行かなかったみたいだ。

突然の激痛に一瞬後ろの方に意識を向けた。意識を晒す、それが咲夜の目的だった。

 

「殺人ドール!」

 

大量のナイフがスラックに襲いかかる。反応に遅れたスラックはそれを防ぐことも躱すことも出来なかった。

 

「…ぐ!…ナイフの連続攻撃かよ…」

 

体に次から次にナイフが刺さる。最初に体制を崩されたせいか、ナイフを防げないままでいる。その攻撃をモロに受ける以外の選択肢は無かった。

 

やがてナイフを全て投げ終える。何百というナイフを受け続けていれば、どんな生物であろうと無事では済まない。

 

(…本当に何者なの?あれだけくらっておいて、平然と立っているなんて)

 

だが、怪我はしていても、スラックに効いている様子は無かった。まるで傷を感じていないと言ってるようだった。倒れるとは行かなくても、息が切れるぐらいの消耗はしてほしいぐらいだったのに、そんな様子は全くない。

 

「呆れたぜ」

 

ボソリと呟いた声。それを聞いて咲夜は震えた。先ほどまでとは雰囲気が変わっている。完全に、殺気が籠っているのがわかった。

 

「こんな小細工しか出来ないなんて…呆れ果てるぜ!!」

 

スラックが叫ぶ。まるで吠えるように、威嚇するように。完全に咲夜を殺す気でいる。そう感じた咲夜は、一瞬も気を抜かないようにしていた。

 

スラックが拳をこちらに向け、衝撃波を放つ。威力を高めた攻撃重視の衝撃波。それを受ければタダでは済まないだろう。

横に飛んで躱す。獲物を捕らえられずに飛んでいった衝撃波は、後ろの木をメキメキと壊した。

 

「それで躱したつもりかよ」

「うっ…!?」

 

激痛が走る。拳を食らったと認識した。

先ほどの衝撃波は、おびき寄せるための陽動で、思惑通りに動いてしまったため、作戦通りに殴られてしまったのである。

 

次から次に拳がくり出される。一撃一撃が重く、意識を保つのもやっとだ。その攻撃を避けることも出来なかった。

 

「オラァ!」

 

両手で、突き飛ばすように掌を当てる。その時衝撃波を放って、咲夜をより遠くに飛ばした。

あらゆる木を折りながら、吹き飛んでいく。まるで木がボロボロの枝のように折れていき、その勢いが止まったのが、大きな岩に当たった時だった。

 

その時、ポロリと咲夜の愛用している懐中時計が地面に落ちた。咲夜はこの時計で『時間を操る能力』を発動しており、常に手に持っていたのだが、先ほどの衝撃で手から落としてしまったようだ。

 

その時計を取ろうと、まともに動けない体を引きずりながら手を伸ばす。ほんの僅かな距離のはずなのに、あまりにも遠く感じてしまった。

 

《ドン!》

 

その手が伸びる先では、その懐中時計は踏み潰され、粉々に割れてしまった。

 

「この時計を使って、時を止めてたりしてたわけか。じゃあこうなってしまえば、お前は何も出来ないわけだ」

 

それを粉々に粉砕したのは、スラックだった。咲夜が吹き飛ばされたところに向かうと、地面に落ちている時計を取ろうとしているのが見え、その時計が時を止めるのに関係しているのだろうと考え、時計を粉々に壊したのである。

 

咲夜はあっ…というだけで、他に何も言おうとする様子はない。呆気に取られている、という感じだった。

 

「哀れだな。小細工でしか戦えない奴が、その頼る小細工の道具が無くなったら、何にも出来なくなるんだからよ。紅魔館も、こんな従者を連れて何がしたいのかハッキリとしねぇ」

 

そんな咲夜の様子を見て、スラックが吐き捨てるように言った。それに言い返すことが出来ないでいる自分が悔しかった。こんな時に動けない自分が情けなかった。

 

「オメェは何しにここに来た?」

 

咲夜に向かってスラックは聞いた。ここに何しに来たのかと。ここまで力が無い人が自分の前に立ちはだかる理由が、分からなかった。

 

「私がここに立っているのは…お嬢さまのためよ」

 

咲夜がここに来たのは、他の誰でも無いレミリアのためだった。咲夜はそれ以外で動かない。

 

「…お嬢さまって主のことか。ますます分からんな。そのために命を捨てに来たのか?」

「あなたには分からないでしょうね。私はお嬢さまのためならいつだって動く。

 

そんなお嬢さまに尽くすのは…愛以外の何ものでもないわ」

 

 

彼女は捨てられた。その能力ゆえに。そんな彼女を人間として受け入れたのが、レミリアだった。

この方のために尽くそうと誓った。この方のために死のうと誓った。咲夜は、レミリアに全てを捧げる事を誓ったのだ。

 

 

 

 

《ドゴン!》

 

 

 

 

激痛が走る。ただでさえ意識を保つのさえ難しいのに、その痛みで意識に霞がかかってくる。

 

 

 

 

 

 

「愛だと…?ふざけんなよ」

 

憤りの声とともに、次から次に打撃が加わる。スラックが咲夜に攻撃しているというのは分かっているが、それを避けることは出来なかった。

 

「甘い女だとは思ったが、ここまでとは思わなかったぜ。愛だとか抜かす奴がまだいるのかよ。そんなくだらん感情で戦場に立つのか」

 

攻撃の手は緩まない。寧ろ激しくなっている気がする。時間が経つに連れて怒りが増しているような感じだった。

 

「戦場を舐めるなよ。戦場を汚すやつは、敵であろうと味方であろうと容赦しねぇ」

 

咲夜はもう動けなくなっていた。避けるすべもない。逃げるすべもない。もう助かるすべがないと悟った。

 

 

 

 

 

「とっとと消えろ。死体も見たくねぇ」

 

 

 

スラックが衝撃波を放とうとしている。咲夜はピクリとも動かなかった。

 

 

(申し訳ありません。お嬢さま…)

 

咲夜は心の中で、レミリアに謝罪した。もうレミリアのところには帰ることが出来ない。レミリアのそばにいる事は出来ない。

 

いつか言った『死ぬ時まで一緒にいます』という誓いを…守れそうにない。心の中で、詫びることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

《ガッ!》

 

 

「そこまで。これ以上暴れるのは許さないよ」

 

足から咲夜に向けて衝撃波を放とうとしているスラックの肩を掴んでいる男がいた。

 

「あ?なんだテメ…」

 

スラックはその男を見る。見た目的には、好青年という言葉がシックリ来るような男だった。清潔と言う意味では惣一と一緒だが、彼よりも活発そうなイメージであり、とても戦闘向きではなかった。

だが、異変が起こった。

 

(…!?衝撃波が、出ない!?)

 

咲夜に向けて放とうとしていた衝撃波が、出なくなったのだ。男の様子を見た時には既に衝撃波を放ち、咲夜を倒せるはずだったのに、全く衝撃波が放たれる様子はない。まるで男がその衝撃波を放つのを止めているかのように。

 

《バキ!》

 

男は、戸惑っているスラックの頬を思いっきり殴った。美鈴の拳は平然としていたにも関わらず、その男の攻撃を受けて、遠くに吹き飛んでしまった。

 

「ガッ…!?」

 

一体何が起こっているのかが全く分からないでいる。衝撃波が放たなくなる上に、拳のダメージ。後ろの地面に着地しても、その正体が分からなかった。

 

「テメェ…ナニモンだ!!?」

 

男を睨んで尋ねた。こんな能力を持つ男の存在を、聞いたことはない。

 

「新田 豺弍。特に所属なしの旅人だ」

 

聞いた事のない名前が出て来た。幻想郷で脅威となるのは、黎人、惣一、魏音であると聞いていた。勿論他の住人の話も聞いている。だが、その男の情報は全くなかった。

 

「それから…気をつけとけよ」

「あ?」

 

突然忠告されて、顔を顰める。だが豺弍の顔を見た瞬間、その意味を分かってしまった。

その男の目は、本気の目であると。

 

「同僚をここまで傷つけられて、平然としていられるほど、僕の心は広くないからね」

 

 

 

 

 

1人の英雄がいた。

 

1人の少女を救って死んだ男がいた。

 

彼は正義よりも個を救う事を選んだ。

 

その生き様に、世間の人には好感を持たれ、正義の組織には敵意を持たれた。

 

 

 

 

この男こそ

 

 

多くの人の間で語られた正義の味方

 

 

 

 

 

 

新田(あらた) 豺弍(さいじ)である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




咲夜がかなりボロボロに敗れてしまいました。スラックの前に現れた豺弍は、スラックを止められるのか?
そして豺弍の言う『同僚』とは…?
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