東方羅戦録〜世界を失った男が思うのは〜   作:黒尾の狼牙

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前回のあらすじ
豺弍がスラックの前に立ちはだかる。





100 豺弍

戦闘で、スラックに敗れていた咲夜は、意識が殆ど無かった。死んでいるのか、そんな事もどうでもいいと思ってしまうほどに。

そんな彼女の視界に、1人の男が映った。

 

(……幻…かしら)

 

あまりにもダメージを受けすぎてしまったのか、幻が見えてしまっているようだ。その男はいるはずがないのだから。

かつて彼女を救い、その命を失った男。彼のことを忘れた事はない。

 

かつての事を思い出す。

 

『ごめんなさい。ごめんなさい…ごめん…なさい』

 

人目に映らないところで、1人の少女はただ謝罪の言葉を繰り返していた。謝る相手は目の前にいない。だが、彼女はひたすら謝っていた。

彼女は、何1つ伝えることが出来なかった。感謝も、謝罪も、想いも…

 

(本当に愚かよね。昔から)

 

自嘲するように笑い、咲夜は意識を手放した。

 

 

 

「チッ…」

 

口元に流れる血を拭き取りながら、舌打ちをする。スラックは、いまの状況が掴めなくなっていた。紅魔館のメイドを助けたその男の事を、全く聞いてないのだから。

 

「…同僚って事は紅魔館の関係って事か?それにしてもお前のような奴がいるなんて聞いた事ねぇけど」

 

一体何者なのか。それを尋ねるように豺弍に話しかける。

 

「最近来たからね。知らないのも無理ないよ。でもこれだけは言っとく。舐めてかかると痛い目見るよ」

 

スラックはその男を舐めている訳ではない。先ほど彼に触れられた時に衝撃波が放たなかったし、警戒はする。

だが、()()()()()()のも事実だ。スラックは決して油断する男ではない。兎であろうと全力で狩りに行く男だ。しかしこの男は危険ではないと無意識に思ってしまう。

 

「…そうか。じゃあ確かめさせてもらうか!」

 

一気に、豺弍に拳を当てに行く。顔を殴り飛ばすように腕を振った。

 

その拳を、豺弍はアッサリと躱した。

 

「なに…?」

 

今の一撃を避けられた時に、スラックは違和感を感じた。今の反応は()()()()()()()()()。攻撃を仕掛ける前から動き始めていたみたいに。

 

「は!」

「…ッ!チッ…」

 

一瞬気が緩んでいたところに、豺弍が拳を当てにきた。躱しきれずに頰をかすり、血が流れる。

反撃とばかりにスラックが拳を当てにくるが、先ほどと同じように難なく躱される。3発程度躱したところで豺弍が攻撃を仕掛け、それを腕で防いだ。

 

「ぐ…!」

 

防いだ腕もかなり傷んでいる。先ほどの美鈴よりも強烈な拳であり、まともに受けていたら、ダメージが蓄積されるだけである。

 

「くそ…が!!」

 

渾身の力を振り絞って、両手を突き出す。衝撃波と組み合わせて吹き飛ばそうとしていた。それは無我夢中にそうしたものであり、決して豺弍に躱させないようにしている訳ではない。

 

 

 

「ぐわ!!」

 

 

だがその攻撃は、モロに豺弍の腹に当たり、豺弍は吹き飛んだ。

 

「…は?」

 

攻撃を繰り出したスラックは、攻撃が当たった事に喜んでいる様子はなく、寧ろ訳がわからないという顔をしていた。先ほどまで自分の攻撃を躱し続けていた男が、今の攻撃でなぜ避けきれなかったのか、その理由が全く分からないからだ。

しかし、スラックは頭が働く男だ。現在までの流れを冷静に分析する。あまりにも早すぎる反応に今の受け、これが意味するのはただ1つ。

 

(…カン頼みという奴かよ、コイツは)

 

直感に頼っていると仮定すれば、説明はつく。目の前に映る情報だけに頼らず、自分の直感に従って動いているとすれば、反応が以上に速くなるだろう。そしていまさっきの攻撃は、予測し損なっていたというところだろう。

 

「ぐ…腹が痛い。なかなか強いね。君の攻撃は」

 

そんな推測を立てているうちに、豺弍は体制を立て直していた。あの短時間で体制を立て直しているのは、殴られる事に慣れている証拠だろう。

 

「…お前さんよ。自分の直感で動くタイプか?」

 

スラックは豺弍に尋ねた。それに対して本当のことを返してくるという確証はない。ここでウソをつくという可能性はある。

 

「そうだよ。今ので察したのかな?」

 

だが豺弍はウソをつかない。それはスラックもわかっていた。質問に対してウソの返答をいうタイプの男ではないと、最初に見ただけで何となくわかっていた。

 

「随分浅はかだな。直感を信じて死ぬのも怖くないのか?」

 

直感に頼ることは何も悪いことではない。だがリスクがあまりにも大きすぎる手ではある。直感が100%当たる者はいない。現に豺弍も先ほど外した。

先ほどのような相手の攻撃の読み合いでは、読み違えれば致命傷を負うことも考えられる。それは誰でも分かり、それが怖いから、直感を信じる者はいない。

 

「怖くないよ。困った時は直感を信じてきたから」

 

だがこの男、豺弍は違った。豺弍は、困った時はいつも自分の直感を信じてきた。旅の行く先も、救う相手も、戦う敵も、自分の考えていた通りに動いていた。

迷いはない。恐れはない。たとえ間違っていたとしても、自分で自分のしたことを後悔することを、豺弍は決してしないと誓っていた。

 

「…ハッ。そうか。己を信じることしか出来ない大馬鹿野郎か。

良いぜ。そういう真っ直ぐな奴は嫌いじゃない」

 

スラックはその話を聞いて、笑っていた。小細工や愛を語る者は嫌いだが、自分の思いに真っ直ぐな奴は嫌いではなかった。豺弍の話を聞いて、全力で戦おうという気になった。

 

「直感で戦うってんなら、ゴチャゴチャ考えても無意味だ。

全身全霊で拳をぶつけにいく」

 

それだけ言って、スラックは距離を詰めた。そして素早く拳を当てに行く。1発の拳でビュン、と風が吹くほどの速さだった。

だが拳を思いっきり振った訳ではなく、一瞬拳を伸ばした後直ぐに戻す。そして次の拳を当てにいった。

その後も同じ行動をし続けている。短期間の拳の連続攻撃、それがスラックの得意な戦術だ。敵に休む暇を与えずに攻撃を繰り出し続け、敵の集中力を削り、決定打となる攻撃を打ち込むのが彼の攻撃の流れである。

だが、相手は集中力を使う相手ではない。直感で避け続けているのだから集中が切れることは無いだろう。

 

しかし、その直感も万能では無い。外れることだってある。この攻撃は、その直感が外れた時を逃さないための戦い方だ。

 

《ガッ!》

 

「うっ…!」

 

拳が肩に当たり、体制が崩れる。

 

それで充分だ。大きく吹き飛ばされずに体制が崩れるのが目的だ。例え予測したとしてもその体制では躱す事が出来ない。

後ろに右手を引き、しならせて拳を当てに行く。急加速と遠心力により威力が上がり、強力な攻撃を繰り出そうとしていた。

 

だがその攻撃は豺弍の拳に防がれた。いや、正確には拳では無い。

 

(…!指か…!?)

 

その拳を防がれたのは、豺弍の指だった。拳の中指と薬指を少しだけ突き出し、指を折り曲げている関節で拳を受け止めていた。

豺弍は指の力を主に鍛えていた。拳よりも接している面積が小さく、それ故に力がかかりやすくなっている。

 

暫く押し合いの形になっている。押し負ければ相手に大きな隙を与えさせてしまう。

普通ならスラックは拳から衝撃波を放つところだ。どれだけ力が強くても至近距離からそれを受ければ無傷ではいられない。

 

だが、衝撃波を放つ事が出来なかった。

 

先ほどと同じだ。豺弍に触れられた瞬間に衝撃波を放つ事が出来なくなる。正確には、豺弍に触れている間は能力を出す事が出来ないみたいだ。

 

(まさか、こいつの能力は…)

 

 

 

 

 

 

 

「…良いのかい?僕に集中していて」

 

豺弍がスラックに話しかける。その言葉の意味を聞く必要は無かった。

 

(…!まさか…)

 

その言葉の意味を悟った瞬間、大きな音とともにスラックに弾幕が降り注いだ。

 

 

 

弾幕がスラックを飲み込み、その直前にその場から離れた豺弍はダメージを負わなかった。

 

「…結構強いよね。『流水』の能力って」

「リスクはデカイけどな」

 

豺弍はその弾幕を放った本人に話しかける。それは黎人であった。

ここに来る途中に黎人の能力についてだいたい聞いた。その能力の中で豺弍が注目したのは『流水』だった。地面に沈み、タイミングを見て強力な弾幕を放つというのなら、その能力は不意打ちに使うほか無い。

そこで豺弍は、ここに来る時は『流水』の力で近くに挟んでくれと頼んでいた。そして自分のタイミングで攻撃を仕掛けてくれと頼んでいた。黎人が攻撃するタイミングが分かっていたのは、彼の直感力ゆえだった。

 

「まさか伏兵を潜ませていたとはな…思ったより策士だな」

 

今のでスラックは倒せていなかった。ダメージは入っているのは確かだが、致命傷とは程遠い。

 

「念には念をってよく言うでしょ。なんの策も無しでここに来るほど考え無しじゃ無い」

 

それは豺弍も何となく分かっていた。もともと今の攻撃で躱せるとは思ってもいない。

 

あくまで不意打ちで時間稼ぎをするのが目的だった。

 

「おーい!」

「…!クソッ…!」

 

声が聞こえた。それは上空から聞こえる声だった。上を見ると何人かがこちらに近づいている。多人数を相手に戦う術は心得ているが、豺弍や黎人と戦いながら全ての相手を倒せるかどうかはスラックも自信がない。

 

『スラックさん。作戦は完了しました』

 

そう思っていると、クロロからの連絡が聞こえた。作戦終了のお知らせ…つまり、時間稼ぎはここまでと言うことだった。

 

「…はっ!」

 

スラックは地面に何かを叩きつけた。すると辺りに煙が巻き起こり、黎人と豺弍はスラックを見失った。

 

「今日はここでひかせてもらう!新田 豺弍とやら、また会おう!」

 

やがて煙が晴れる。煙が晴れた時にはスラックの姿は全く見えなかった。

 

「逃げられた、か…」

 

それを確認するまでも無かった。煙玉を出してきたのなら、逃げる以外の行動はして来ないだろう。まんまと逃げられてしまった事に、イライラが隠せないでいた。

 

すると先ほど上空からこちらに向かっておりて来ようとしていた者らが、黎人たちの近くに来た。来ていたのは、霊夢、魔理沙、妖夢、惣一、早苗であった。

 

「さっき湖が凍ったって文から聞いたからよ。一体どうし…ん?誰なんだぜ?」

 

現場に来て魔理沙が気になったのは、やはり豺弍だった。黎人以外の人は豺弍に初めて会う事になる。

 

「新田豺弍。宜しく」

「おう、宜しくだぜ」

 

真っ先に豺弍が挨拶をする。早速魔理沙は仲良く話していた。その様子を周りの人らは流石としか思えなかった。

 

「豺弍…?どこかで聞いた覚えが…」

 

一方、惣一は何か悩んでいるようだ。豺弍と言う名前にどこか引っかかるところがあるらしい。

 

「とりあえずさ…咲夜を適当な場所に連れて行きたいんだけど…」

「…うわ!おい咲夜!大丈夫か!?」

 

豺弍が咲夜の方を指差して言った。

怪我だらけで倒れ込んでいる彼女の姿を見て、全員が彼女の近くに来た。

豺弍の言うとおり、彼女を手当てしておかないといけないだろう。そのためには、永遠亭に連れて行かないといけない。

 

「じゃあ、永遠亭に…」

 

 

《ガキン!》

 

 

永遠亭に連れて行こうと言う妖夢の提案は、激しい金属音で掻き消えた。その金属音を発していたのは、いつの間にか『火』になっている黎人だった。

 

「黎人!?いったい…」

「誰だ!そこにいるのは…」

 

一体どうしたのかを尋ねようとした霊夢の口は閉ざされていた。黎人はある一点を警戒しながら見ている。彼の見ている先が全てを物語っているのだろうと感じた。

 

「…流石ね、黎人。あなたなら私の攻撃も防げると思っていたわ」

 

彼の視線の先を辿ると、1人の少女がいた。パチュリーと同じくパープルの髪をしているが、その目の色は蒼かった。そしてその顔をよく見ると、黒い痣がある。とても不気味で、見る人は直視し難いであろう。

 

「…!雪羅(せら)…!?」

 

その彼女の姿を見た瞬間…黎人の様子は変わった。正に、敵意から戸惑いに変わったような様子だった。

 

「知ってるの?黎人…」

 

彼女を知っているのか、と霊夢は尋ねた。もちろん、それを聞きたかったのは彼女だけではない。

 

「そうでしょう。私のことを知らないはずがない」

 

だがその答えは、意外なところから返って来た。その雪羅と言った女性だった。

 

 

 

 

 

 

 

「だって…私たちは運命という赤い糸で結ばれた恋人同士なのだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間が停止した。

 

意識不明の咲夜が能力を発動した訳ではない。

 

だが、一瞬ピシッと固まった気がしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は…!?」

 

 

 

 

暫くして黎人の戸惑いの声は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ええええええええええええええええええええ!!!?」」」

 

大量の叫びで掻き消えた。

 

 

 

 

あの場から逃げて、スラックはアジトに帰って来た。作戦は成功している。任務としては良くやったと言えるものだろう。

だが、スラックはその評価を喜べなかった。新田豺弍という男に、勝てなかった悔しさを抱いているからだ。

だが、ロッタのように個人の感情をモロに出す男ではなく、アジトの中では平静を保っていた。

 

「スラックさん!大変です!」

 

アジトの中を歩き回っているスラックに、とある男が声をかけた。その男は、一見真面目そうに見えた。

 

「…ドベルか。どうした?」

 

その男の名はドベルと言い、スラック同様、DWの配下の男だった。真面目そうな見た目からは、とても悪行をやるような男とは思えない。

 

「その…喧嘩が起こって…」

「あー…誰と誰が喧嘩してるんだ?」

「えっと…ロッタさんと、アイさんです」

 

喧嘩をしている者の名前を聞いて、やっぱりというような顔をしている。DWの中で喧嘩をしていると言えばその2人しか思いつかなかった。

 

ドベルに連れられて喧嘩の現場に来ると、案の定大声が響いていた。

 

「ほっとけって言ってんだ!俺が何しようと勝手だろ!」

「あなたがそう思っていても、私は許しません。自らの命を顧みない男が何を偉そうな事を言っているんですか」

 

喧嘩の内容も思った通りだった。いつまで経っても喧嘩の内容が変わらない2人の様子を見て、スラックは呆れたように息をつく。

 

「あの…」

「あーそうか。お前最近来たから知らないんだったな。実を言うと、恒例行事なんだよ。あの2人の喧嘩は」

 

スラックの言っている事の内容の意味が分からず、ドベルは頭を傾げる。それが分かったスラックは説明を始めた。

 

「アイさんはよ…『命の前にはプライドは塵も同然』ていう考えの人で、命の危機に治療をする事を拒む事は我が儘としか思えない人なんだ。それに対してロッタはプライドだけで生きている奴だからな。あの2人は結構衝突が多いんだよ」

「な、なるほど…」

 

いわゆる、価値観の違いという奴だ。アイは命を重視しており、ロッタは自分のプライドを優先する。おまけに2人とも融通が効かない性格であるため、ひとたび喧嘩が始まると、とことんまで喧嘩を続ける。辞めさせようとしても、逆に巻き添えを食らうだろう。そっとしておくのが身のためだ。

 

「……あ」

 

突然、スラックが何かに気づいた。ドベルは彼の視線を追っていくと、1人の男がその喧嘩の様子をマジマジと見ている男がいるのが見えた。

スラックはその男にスタスタと近づく。その男は一体誰なのか、気になるドベルは彼の後をついて行った。

 

「何してんだ?ガドロ」

 

スラックがその男の名前を聞いてあっという顔をした。ガドロは彼と同じくDWの配下の1人だ。

 

「これはスラック殿。いや何、DW内の大決戦の行く末を見ていたものでして…」

「何が大決戦だ。ただの喧嘩だろ…」

「何をおっしゃる!口喧嘩こそ決闘でしょう!人間はその心に各々の正義を掲げている。すなわち喧嘩とは相反する正義のぶつかり合いなのです!手を汚す争いよりもリアルなバトル!そのバトルは決して見逃せません!因みに前回の決め台詞は『ブタのケツ』でした」

 

何故か熱がこもってきて1人でベラベラと喋り出す。ポカンとしているドベルにスラックは説明を始めた。

 

「…こういう奴なんだよ。他人の喧嘩が好きな奴でな。近くで喧嘩が起きていたら必ず野次に行くタイプなんだよ」

 

なんて迷惑だ、とドベルは思った。他人の喧嘩に野次を飛ばすものは大抵ロクな性格ではない。そして野次を飛ばせば喧嘩はさらに悪化する。喧嘩をやめさせてほしい身としては迷惑でしかない。

 

「こうなりゃ実力突破だ!」

「無茶をするなと言ったばかりでしょう!」

 

 

 

 

 

結局のところ、ロッタとアイの戦闘は開始され…

 

 

 

 

 

 

「そこまでだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1人の男によって終了させられてしまった。

 

 

 

 

「…!シュバルさん!?」

 

 

シュバルは、彼らの間に割って入り、2人の攻撃を裁く。加えて、カーン!という音とともに、ロッタは気絶した。

 

「喧嘩してる場合ではない。お前はサッサと治療を受けていろ」

「…ご協力、ありがとうございます」

 

アイはズルズルとロッタを引きずっていった。彼を治療しに行くのだろう。幹部としても治療を拒むロッタは頭を悩ませているのであった。

 

「ぬぅ…今回の勝負はシュバル殿による強制終了ですか…できれば怪我が原因でボロボロになるロッタ殿の哀れな姿を拝見したかったのですが…」

「お前本当に最低だよな」

 

その様子を悔しそうに見ているガドロを見て、やはり悪趣味だとしか、ドベルは思えなかった。

 

「…会議だ。行くぞ」

「お、おう…」

 

なんの前触れもなく、シュバルから声がかかる。言葉が足りないのは相変わらずのようだ。

 

「会議って…アレか?豺弍の事とかか?」

 

ふと、スラックがその会議の内容について尋ねた。緊急会議という事は異常事態が起こったという事であろう。それは、スラックの前に現れた豺弍の事なのかと思った。

 

「それもある。だがもう1つある」

 

だがそれだけではないようだ。それはいったいなんなのか、それを尋ねる前に答えが返ってきた。

 

「イレギュラーが黎人たちの前に現れた」

 

 

 

 

 

「そうか。劉ってやつは厄介だからな。3人がかりでも倒せないのは仕方がないだろう」

 

とある部屋で、瑛矢と楽しそうに話している男がいた。その男の背には、大量の魚が袋に詰められている。幻想郷には海が無いのだが、一体どこからその魚を捕まえてきたのだろうか。

 

「詳しいですね。シャークさん。主に神側の敵に」

 

瑛矢はその男…シャークに話した。劉についてかなり詳しそうだなと瑛矢が思ったのである。

 

「そりゃそうだろ。エルサという奴に殺されかけたからな。敵の情報は知っておかないといけないだろ」

 

笑いながら言っているが、言っている事はエゲツない。事実ではあるかもしれないが、死にかけたと自然に言う男はそういないだろう。

 

「それよりも知ってるか?スラックが苦戦した奴がいるそうだぞ」

「…!格闘戦なら誰よりも強いあの男がですか!?」

 

シャークの話を聞いて、瑛矢は驚きを隠せなかった。スラックの実力を知っている彼からすると、スラックが苦戦したと言うのは衝撃的だった。

 

「おう。面白くなってきた。ガイラが居なくなってから退屈ばかりだと思っていたが、楽しくなりそうだ」

 

一方、シャークは楽しそうにしている。ガイラが居なくなってから、彼は退屈していた。スラックも付き合う事はないし、最近体を動かしてはいない。

彼にとって、幻想郷に殴り込む楽しみが1つ増えたのだ。

 

(…背がもう少し大きければ、威厳は出るのに…)

 

その様子を見て、威厳を全く感じさせない彼の身長を残念に思っていた。もしそれを口にしたら、シャークが怒り狂うのは目に見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

廊下を歩いている1人の女性がいた。短い黒髪とキツめの目から、彼女の厳しい性格を表している。その容姿の通り、彼女はきめ細やかで、人によっては厳しいと思われ、人によってはクールな少女と思われていた。

1つのドアの前にたどり着いた時に、彼女はその足を止めた。彼女の目的地はそのドアの中であった。

扉を開ける。その中に1人の男がいた。

 

「ジンさん。宜しいですか?」

 

少女は、その男に話しかけた。

 

 

 

 

 

「待ってくれるか、結衣。いま、かなり良い状況なんだ」

 

中にいる男…ジンと言われた男が話した。彼はかなり集中しているようだった。いったい何に集中しているのだろうかと結衣が思った時だった。

 

 

「もう少しで10段トランプタワーが完成するんだ。俺の血と汗と涙の結晶が出来上がる目前だ…」

 

 

一瞬で、結衣の目が変わった。

そして、彼の近くまで行き、

 

 

《バターーン!》

 

 

机をひっくり返した。

 

 

「あーーーー!」

 

 

 

机とともに崩れ去ったトランプタワーを見て、ジンは慌てた表情をしている。それをあざ笑うかのように、トランプは地面に散らばっていた。

 

「ふざけたことをしないでください。現代の遊びが出来るほどの時間は無いんです」

「畜生、俺の3分間…」

「意外と短いですね」

 

ジンは頭を抱え始めた。どうでも良いことでショックを受ける彼は、かなり扱いに困る。彼を上手に扱うものは、結衣以外にいないだろう。

 

 

「良い加減にしてください。いま仕事が山積みなんですから」

 

 

結衣の言葉を聞いて、雰囲気が変わった。仕事と聞くとスイッチが入るのである。

 

 

 

「そうか。仕事と聞いちゃ黙ってられねぇな」

 

 

 

ジンはやる気になり始めたようだ。表情が少し引き締まっているのが分かる。

 

 

 

 

「仕事なら、このジンちゃんが…それなりにこなしてやるぜ」

「完璧にこなしてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回色々と新キャラを出しました。それぞれの個性が出るといいなと思います。

雪羅の言葉の真意とは…?

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