東方羅戦録〜世界を失った男が思うのは〜   作:黒尾の狼牙

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前回のあらすじ
ドベルを倒した…?


105 地霊殿へ

爆発による衝撃と煙が晴れた時、その爆発に巻き込まれたはずのドベルの姿は見当たらなかった。死んだとは思えないが、少なくとも重傷は負わせる事が出来たと言える。あの爆発に巻き込まれてもし無傷であったなら、ホンモノの化け物であるとしか言うことが出来ない。

 

「ひとまず…一件落着と言うところですね」

 

これ以上ドベルが攻撃を仕掛けようとしてこないところから、惣一は一安心している。

 

「…惣一さん!」

 

その声をキッカケに、1人の女性が大声を出した。その声を出したのは早苗である。

 

「なんて無茶をするんですか!片腕を犠牲にするなんて…酷いですよ!」

 

早苗は惣一が片腕を爆弾代わりに使った事に怒っているようだった。斬り落とされたとはいえ惣一の一部である事に変わりはない。それを躊躇いなく木っ端微塵にした事が許せなかったようだった。

 

「…私の腕1つの犠牲で済むのなら、大した事ありません」

「そんな事ないですよ!平気で自分を犠牲にするような事を言わないでください!」

 

フォローのつもりで言っている惣一の言葉は、火に油を注いでいるだけだった。

大した事ないとアッサリ言ってしまう惣一に対して怒りが込み上がってくる。早苗にとっては決してちっぽけなものでは無いからだ。

 

「…惣一」

 

そのやり取りを遮って、黎人が惣一に声をかける。いつのまにか『金塊』の形態は解除されており、いつも通りの姿の黎人だった。

 

「完全に腕を失ってどうするんだ?元に戻るような能力なんてないだろ」

 

黎人の言う通り、惣一の腕は完全に無くなったのだ。戦いに参加しなくても不利益はある。片腕で生活できるような事は無理としか言えない。

 

「…義手を使います。外の世界ではその技術を使っていました。にとりさんと協力すれば不可能ではないかと思われます」

 

惣一は義手を使うようだ。実を言うとGARDでは腕などの身体の一部を失った者のために代わりの腕や足を用意するための技術が発達しており、その研究の資料は紫によって守谷神社に保管されてある。自分の経験とにとりの技術があれば再現可能であると惣一は考えている。

黎人も疑わなかった。にとりの技術力もある程度知っているし、何より惣一が可能であるというのならそれを信用する理由に十分なる。だから黎人はこれ以上何も言おうとしなかった。

 

「…まぁ分かった。けど、その腕じゃ来れないだろうし、お前は家に帰った方がいいだろ」

「分かりました」

 

黎人の退却宣言に、惣一は素直に従う。これ以上黎人たちに着いていっても足手まといにしかならないと彼は理解している。ここは素直に退いた方が良いと判断したのだ。

 

「だったら私も残ります」

 

そこで、もう1人別行動をするという人が出てきた。早苗も惣一と同じく地霊殿に向かわないと決めているようだった。

 

「…どうしてですか?早苗さんは特に重傷を負っているわけでは…」

「そういう問題じゃないです!惣一さんが行かないなら私も行きません」

 

理由は分からないが、絶対に行きたくないという意図が分かった。これは説得出来ないと判断したのか、黎人は彼女の言い分を認める事にした。

 

「分かった。じゃあ霊夢と魔理沙と俺で地霊殿に行くとしよう。とりあえず地上には気をつけておけよ」

 

黎人の話を聞いて早苗と惣一はうなづく。そしてそのまま遠くに移動していった。

 

 

「まぁとりあえず一安心だな」

「とりあえずは先に進みましょう」

 

 

ひと段落ついたと判断した魔理沙や霊夢は先に進もうとし始める。勿論黎人もそのつもりだった。

 

 

「待った。その前に霊夢、お前に言っておく」

 

 

だがその前に黎人は霊夢に言いたい事があった。何を言おうとしているのかと霊夢は黎人の言葉に耳を傾ける。

 

 

 

 

 

 

「中途半端な支援はするな。逆に迷惑だ」

 

 

 

 

 

霊夢は呆然とした。同じく魔理沙もキョトンとしている。黎人の目には少し怒気があった。

中途半端な支援とは、ドベルが攻撃を仕掛ける寸前に結界を張った事である。それが黎人には気に入らなかったみたいだった。

 

 

「…けど、今度の攻撃は躱せるって確証が無いじゃない」

「躱せない確証も無いだろ。むしろアレは危なかった。もし結界で攻撃を防いだらドベルは次にどう行動するか分かるだろ」

 

黎人の言葉を聞いて霊夢は黙った。

もし霊夢の結界でドベルの攻撃を防いだとしたら、ドベルは間違いなく霊夢を殺そうとするだろう。そしてドベルの能力ならあっという間に霊夢を瞬殺できる。

だから黎人は危険だと判断した。霊夢の行動は、敵の攻撃の的を変えるだけの効果しか無かったのだ。

 

「万が一の時には、お前はお前の身を守れ。コッチはコッチで自分の身を守るから」

 

バッサリと言ってしまう黎人の目には何の感情もない。普通に、これからの方針を提案しているだけだった。

 

霊夢は分かっている。黎人の方が正しいと。今の自分が中途半端な支援をしたところで逆効果にしかならない。黎人の言う通り、出来る限り何もしない方が、お互いのためになると。

 

(でも、私は…)

 

それでも振り切れない。霊夢は黎人を助けようと思って動いた。それを迷惑と言われた事に、傷つかない訳が無かった。

 

「お前…ちょっとは霊夢の気持ちも考えろよ」

「…?どういうことだ?」

「ああ良いよ。これ以上何か言っても意味がなさそうだしな」

 

霊夢の気持ちをそれなりに理解している魔理沙は、もはや呆れている。黎人に悪気はない事は分かっている。

だからこそ余計にタチが悪い。黎人は本心で霊夢の支援を必要としていないと言っているという事だからだ。

 

 

 

 

「おーーい」

 

 

 

突然、彼らに声をかけてくる男がいた。少し前に別行動を始めていた豺弍である。当然、その近くに妖夢もいた。

 

 

「さっき爆発があったんだけど…誰かと戦ったの?」

「ああ。少し苦戦したけど、惣一のお陰で倒すことができた。惣一と、一緒に早苗が一時撤退している」

「え…倒したんですか?」

 

少し前に敵を倒した事に、妖夢が少し驚いている。豺弍も少し表情が変わっていた。

驚いている妖夢と、一緒にいる豺弍に黎人は事の顛末を説明する。

 

「…まぁ、腕を代わりに失ったみたいだけど」

「う、腕を!?大丈夫なんですか?」

「惣一が言うには平気だそうだ。まぁタフな奴だし、気にする必要は無いんだろう」

 

惣一が腕を失った事を伝えると、流石に動揺している。それで大丈夫だと言っても説得力が無い。

 

だが、豺弍は別の事が気になった。

 

「…本当に倒したの?僕らが離れてからそんなに時間は経っていないよ。本当は周りに潜んでいるとかない?」

「そう思って『水』で周りの気配を探しているが、オレらと敵対した奴の気配は完全に消えている。 死んだかもしくは撤退していると言う事だろう」

 

黎人の話を聞いて豺弍は考え事をする。たしかに黎人たちを探すときも、黎人以外の存在はなかった。それは妖夢も一緒である。黎人以上に殺気に敏感な彼女が気づかないのなら、本当にこの場所にいないだろう。

 

(想定していたのと少し違うな…)

 

だが豺弍は納得していない。その理由は少し前に妖怪の山で発見した、死体だらけのむごい現場である。

豺弍はそれを見て、その現場を作り出した犯人は、解体する事に快感を感じる者だと推測した。

 

そう仮定したとき、かなりヤバい状況になると考えていた。

 

普通みたいに、戦う事かそれによって達成できる物を目的とする敵ではない、解体する事を目的とするのが相手になる。

それは、かなり得体が知れない、不気味な敵なのだ。何をするか分からない、ひょっとすると手段を選ばずに攻撃してくるだろう。そもそも解体するのが目的なら、相手に姿を見せずに殺す事だって考えられる。

 

なのに、黎人たちが戦った敵は堂々と正面から、しかも惣一の腕以外を解体しなかったのだ。

 

それが不審に見えてしょうがない。相手が未熟である、もしくはいち早く殺気に気づいたなどの偶然によるものか。

 

それとも、何らかの意図があるものか…

 

 

 

「…と、とりあえず行きませんか?その…敵も地霊殿に向かっているなら、私たちも急がないと…」

 

 

妖夢の掛け声で、豺弍は考えこむのを止める。他の人たちも妖夢に従うようだった。

全員が一斉に地霊殿に向かっていく。豺弍は移動中ずっと考え続けているのであった。

 

 

 

 

 

数時間前

DWから地霊殿に向かっている人が数人いる。指揮をとっているのはシュバル、それに従っているのはジンとシャークだった。

妖怪の山にポッカリと空いている穴に入り、ひたすら下に降りていく。地下なだけにかなり暗いため殆ど見えないが、彼らに襲ってくる妖怪は全て倒している。彼らにとって不利である要因の視界の暗さは、何の意味も無かった。

 

そして地面に着地。いわゆる地霊殿の近くに来た。それは別の意味で旧地獄とも言われ、この地域に住んでいるのは、かなりガラの悪い連中ばかりだった。

 

彼らに何かと喧嘩を売ろうとしてくるものもいた。しかし返り討ちにされるだけで、何の障害にもなってない。鬱陶しい茂みを払うように、難なく排除されているだけであった。

 

「しかし骨が折れそうだよな。地下であると言っても空はあるし、何よりも狭くない。妖怪が結構いるし、この中からあの男を探すのは厳しいぞ」

 

歩きながらシャークが呟いている。確かに沢山の人がいると言うわけではないが、もはや町と言っても良いぐらい、沢山の住んでる妖怪がいる。目的の男を探すことは、かなり難易度が高いように思える。

 

しかしシュバルはそんなに難しくないと思っていた

 

「…そうでもない。目的の男がどう言うところを好むのかは分かっている。それっぽい場所を探せば良いだけの話だ」

「なるほどね」

 

シュバルはある程度の情報を得ている。その情報から、どこにいる確率が高いか、という予測を立てることは可能だ。その予測している場所を探せば、1時間あれば探し出せると考えている。

その話を聞いて、シャークは気にしない事にした。シュバルにしっかりとした考えがあるというならそれに従えば良いだけの話である。

 

「いやいやシャークさんよ。情報はあなたにも伝わっているでしょ。いまシュバルさんが立てている予測ぐらいシャークさんも持てるようになってください」

「無理、考えるのは性に合わん」

「…あぁ、そうですか」

 

だがシュバルの立てた予測にたどり着くのはそんなに難しくない。ジンも同じように考えていた。少しは考えてくれという要求をアッサリ断られて、拍子抜けしたようにジンは呆れていた。

実のところ言うと、シャークは考える事があまり得意ではない。ただ本能のままに動き回っているので、3秒間考えただけで頭がパンクする。

そして最終的に『突っ込めば良いだろ』という結論に達して、猪突猛進に行動することしか知らない。そんな彼を脳筋と、彼の知り合いは認識しているのであった。

 

これ以上話しても意味がないと考えた一向は、さらに探索を始める。

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、結構強そうじゃないかあんたら」

 

 

 

 

 

すると、彼らに声がかかる。力強いというような、堂々としている雰囲気が感じ取れる。

声は正面から聞こえる。真っ直ぐ、その声の主を見ると、大柄な女性が立っている。

そして彼女の特徴は、デコから生えている大きな角である。その角から、彼女の種族が簡単に分かった。

 

 

 

 

「……鬼か」

「ああ、そうさ。あたしは星熊 勇儀という。訳あってここにいるけどいま少しヒマでね。あんたら結構強そうだし、相手してくれないか」

 

 

勇儀と名乗った鬼、その名前もそこそこ知れ渡っている。四天王と呼ばれるほどの相当な実力の持ち主。そんな存在が喧嘩を売りに来たというところだろう。

 

 

「…呑気なものだな。地上では混乱している状態だと言うのに」

「異変という奴だろ?それは博麗の巫女とやらの仕事であって、あたしの管轄じゃないのさ。あたしはただ強い奴と戦いたいだけだ」

 

勇儀の話を聞いて、少し呆れるところがある。確かに異変解決は博麗の巫女の仕事ではあるが、だからと言って解決に動いてはならないと言うわけではない。自分たちが暮らしている幻想郷が滅びるかもしれないという、自分たちに被害が出てくると知れば、何か動き出そうとしてもおかしくはない。そうしないこの鬼は、他人任せなのか、もしくは…

 

 

「滅びる事も一興ということか」

「ははは、言うじゃないか。まぁ困りはするけど絶望していないのも事実だ。もしヤバくなったらその時に考えれば良いだけだし」

 

 

勇儀の性格が大体分かった。獣や他の人間の持つようなこだわりを特に持たない。強い奴が好きなように出来るのは当たり前、たとえ自分が困っていても負けたなら仕方がないと考えるタイプの鬼である。

 

 

「…シャーク」

「はい?」

 

 

シュバルの呼びかけにシャークは返事をした。

 

 

 

()()。思う存分やってこい」

 

 

暫くの沈黙が続く。

シュバルは勇儀を指差して言っている。彼が何を言っているのか、シャークはその内容を正しく理解した。

 

 

「…良いのか?好き放題戦うぞ」

「だろうな。だから任せた」

 

あまり喋らず、表情もあまり変わらないシュバルではあるが、嫌がっていると言うのは分かりやすい。側で見ているジンは彼が勇儀との相手を嫌がっており、シャークに彼女の相手を押し付けていると言うことを理解した。

 

「…了解!じゃ、思う存分楽しませてもらいますよ!」

 

一方シャークは気にしていないようだった。戦闘に強い思い入れを持つ彼は、戦って来いと言う命令は、餌を与えられたようなものなのだ。

 

「おいおい、あんたはやらないのかい?」

「そんなヒマは無い」

「結構冷たいことを言うね。折角会えたと言うのに…」

 

シュバルたちがどこかに移動するつもりであると察した勇儀はかなり残念そうだ。彼女としては3人全員と戦う気持ちであった。

 

 

「まぁがっかりすんな。あんたの相手は俺がやるからよ」

 

 

シュバルから、勇儀の相手をするように言われたシャークは、かなりやる気のようだ。右手を開くと、光と一緒に長い物…いわゆる槍が現れた。

 

 

「良い口だね。あんたはあたしを満足させてくれるんだろうね」

「そりゃコッチのセリフだぜ。俺も退屈してたんだ。がっかりさせんじゃねぇぞ」

 

 

シャークが勇儀に突っ込む。ぶつかった時の衝撃で周辺の町が壊れていった。

 

 

シュバルとジンは少し前に避難が済んでおり、もう遠くに移動していた。シャークも、そして勇儀という鬼も力のままに戦うタイプであり、近くにいれば巻き添えを食らうだけだと分かっていた。

 

「大丈夫ですか?鬼と仲良くなっても困るんですが」

「流石に無いだろう…」

「せめて目を合わせて言ってください」

 

シャークの戦いを見ながら、ジンとシュバルは勇儀と仲良くなったりしないかどうか不安になっている。青春ドラマにありがちな、『お前なかなかやるな』というセリフとともに握手なんて交わされたら、困ることでしか無い。

 

 

 

「…ん?」

 

 

 

ふと、シュバルが何かに気づいたように空を見ている。それに気づいたジンは彼に何があったのかを尋ねた。

 

「どうしました?」

「…ドベルが退却したらしい」

「うわ、速いっすね…」

 

ドベルが本部に帰った事が伝わったようだった。黎人たちを食い止めるように指示していた筈だが、割と速い段階で突破されていたそうだ。

 

 

「どうやら惣一の腕を落としたらしいが…それ以外は何の成果も無い。奴らはそのままここに来るだろう」

 

 

シュバルは黎人たちがここに来ると予測した。その予測通り、黎人たちは地霊殿に近づいている。自分たちのところに来るのも時間の問題だろう。

 

「部下を置いてはいるが、黎人がいるなら意味はない。こうなった以上は…」

 

シュバルはジンを見る。その視線が何を意味するか、ジンは正しく読み取った。

 

 

 

「分かりました!このジンちゃんにお任せあれって奴ですよ」

 

 

ジンはそう言って、入口の方に向かっていく。

 

 

 

 

 

 

彼が移動していくのを確認して、シュバルは再び探索を始めた。

 

 

 

 




地下では
勇儀vsシャーク
が起きています。そしてジンが黎人たちに向かっているようです。
果たしてこの後どうなるのでしょうか。
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