東方羅戦録〜世界を失った男が思うのは〜   作:黒尾の狼牙

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前回のあらすじ
良也を追い詰める。
良也「覚えておけ!次は容赦しねぇぞ!」
黎人「何の負け犬の遠吠えだよ」


69 非道なる研究者

身体に傷がつかないのは、生まれつきだった。

 

 

ごく平凡な家柄で生まれた良也は、一つだけ異様な性質を持っていた。それは、傷が自然に治ること。転んでもぶつかっても傷が残らない。

 

なんでそんな能力があるのか、どうして僕だけそんな能力があるのか…そんな事はどうでも良い。傷が残らないというのは一生綺麗であれると言うことだ。綺麗な道を、綺麗な人生を、綺麗な生い立ちを…誰よりも綺麗に生きられる自分は誰よりも幸せだと感じた。

 

だが、現実はそんな甘くないと知る。

 

対した学歴も無くこれと言った特徴も無い良也は、周りから魅力を感じてくれなかった。付き合う友達もおらず、ましてや彼女なんて居ない。進路もロクな所に行けないと知った親は、彼を見捨てた。

 

ある時、彼は暴行を受けた。学内で最も強い男に殴られる。その男は評判悪く教師からこっ酷く叱られた。それゆえ、傷が残らない良也を腹いせに痛めつけたのだ。

 

皮肉、としか言いようがない。身体に傷が無くとも、心に残された傷は癒えることは無い。尋常な屈辱を抱えながら、彼は周りの人間の皆殺しを誓った。

 

リヴァルに手を貸したのは、彼の能力の必要性を理解し、同時に自分と同じ願いを持っていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

「お…おい、リヴァル…どういうことだよ」

 

 

理解が追いつかない。頭に浮かぶのは腹の激痛と、それにある違和感だけだった。

 

 

「……言葉通りだ。()()()()願いを叶える為の生贄になれと言うことだ」

 

 

蹲る良也を見下ろすリヴァル。その目を見て気づく。この目は、自分を貶した者らと同じだと…

 

 

「ちょ、ちょっと待てよ……なぁ、何かの間違いだろ⁉︎お前が……俺を必要だと言ったお前が……俺を殺そうとするはず無いだろ…?

 

なぁ、解いてくれよ……これ、何なんだよ…傷が治らないなんて…何したんだよ……

 

言ってくれたよな……『俺はお前の味方だ』って……なぁ!何とか言えよ!お前……」

 

 

地面にいよいよ倒れ込む。その状態で這いずりながらリヴァルに訴えかける。それに対しリヴァルは…

 

 

「やれやれ…最初からそのつもりだったよ、良也」

 

 

冷酷な言葉を返した。

 

 

「…てめぇ!!話が違うじゃないか!俺はお前を信じてたんだぞ!お前なら俺と一緒に戦ってくれる、て…」

「その通りだ。俺はお前と一緒に戦う味方だ。例え肉体は死んでもお前の()()は俺と共にある。安心しろ、生贄になったお前の犠牲を…俺は忘れない」

 

 

非道な言葉を被せるリヴァル。その顔に弾幕が飛んできた。

 

 

「……なんだ?急に攻撃するとは…よほど礼儀というものを知らないらしいな」

 

 

その弾幕を放った本人…黎人を睨みつける。だが、黎人もかなり怒っていた。

 

 

「てめぇ…何考えてるんだ、そいつ…仲間じゃねぇのかよ」

 

 

黎人にはリヴァルのやってる事が許せなかった。リヴァルにとって良也は仲間…殺す理由も無いはずだ。

 

だが、リヴァルはそう考えてない。

 

「クククッ……クハハハハハ!!」

 

リヴァルは高らかに笑い出した。

 

 

「仲間?俺とコイツが…?

 

ハッ!笑わせるな。そんな関係ではない。ただの協力関係だ。

 

大体仲間なんて耳障りなもの俺は持ち合わせては居ない。()()()()()()()()()関係などお伽話だ。

 

ましてこの()()()()と仲間だと?ろくすっぽ魔法も撃てず大した成果も上げれないコイツが?ふざけるなよ。例え刺し違えてもコイツとは仲良しこよしでやって行こうとは思わん。

 

ただ……利用するだけの道具だ」

 

 

リヴァルの暴言に、黎人だけでなく翔聖も憤りを感じている。今まで多くの敵と戦ってきたが、それでも仲間を道具と言い張るような者はいなかった。幻想郷を滅ぼそうとした輝月も、秦羅の親友であった桜花を殺したヒカルも、仲間を踏みにじるようなことはしなかった。

 

 

「……カスだな、てめぇ」

「どうやらその口からは気分を害する言葉しか出ないようだな。反吐がでる」

 

 

人を見下すような態度。相当邪悪なようだ。

 

 

 

 

 

 

「まぁいい、それよりも……そろそろだな」

 

 

リヴァルが突然意味不明な事を言っている。その理由を尋ねようとしたが、すぐに無意味だと悟った。

 

 

「あ……あぁ……ヒッ……あ……たす……け……」

 

 

 

 

 

 

 

 

《ゴボッ‼︎》

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああああああああああ!!!?」

 

 

 

良也の肉体が溶け、ドロドロの液体になっていく。肉も骨も内臓も、全てが形を崩してく。

 

 

 

 

かと思えば、溶けた肉片が元に戻ろうと再生する。だが、それも直ぐに溶け始める。

 

 

 

「はっはっはっ!さすが『傷を完治する程度の能力』だ。本来なら千の肉体が必要だがコイツの超再生の能力ならその程度補える!手間が省けたというところか」

 

 

 

 

その様はかなりグロテスクであり、あまり見れるものではない。

 

 

 

そして、力尽きた者もいた。

 

 

 

 

「うっ…ごめん……気持ち……悪く……」

「霊夢!」

 

 

霊夢が崩れおちる。ドロドロになる肉体など、幻想郷ではあまり見られないだろう。加えて、危うく自分もそうなっていたと思うと、かなり辛くなってしまった。

 

(確かに、霊夢にはキツイかもしれない…実際僕もキツイし…)

 

翔聖も若干気持ち悪そうだ。

 

「おい……あれは何だよ……」

「ん?あぁ、良也の肉体を()()()に転移させた。あの機械を作動するには、『生命』が必要だからな」

「生命……?」

「そう、俺は『生命をエネルギーに変換する程度の能力』を持つ。生命というのは限りないエネルギーだ。肉体を操り思考する…その満ち溢れるエネルギーを俺は利用する事が出来るのだ。まぁ勿論、好きに発動できる訳じゃないがな……」

 

 

つまり生命のエネルギーを変換する、と言うこと。エネルギーの変換は日常で行われているが、生命のエネルギーを変換するのはあまり聞かない。リヴァルはそれを無理やり変換する事が出来る。

 

 

「好きに発動できる訳じゃない…?つまり、条件があると……?」

 

 

リヴァルのその言葉に疑問を抱いた惣一は尋ねてみる。だが……

 

 

「それを聞くのは野暮、というものだたわけ。相手に情報を渡す物好きなど、あの猪武者だけで充分だ」

 

 

やはり答える事は無かった。味方を生贄にするような男が、こちらが有利になるような事を話すことは無い。

 

とは言っても何かしらの条件がある事は確かだ。そのような事が好き放題出来るならとっくに発動してる。つまり、最初から良也を生贄にする為に念入りに準備を……

 

 

「ちょっと待てよ……最初から、という事は……霊夢を攫ったのはフェイクだと……?」

 

 

秦羅の言ってる事は正しい。元々霊夢を攫ったのは霊夢を利用するため、と考えられる。だが、未だに霊夢をどうこうする、という事は無い。生贄にする訳じゃないのか……

 

「ほう……なかなか頭が回る輩が居るではないか。ハナから博麗の巫女だの興味はない。あの2人はそんな事気にもかけてないようだったがなぁ……」

 

 

リヴァルが笑いながら話す。あの2人とはガイラと良也のことだろう。ともかく、秦羅の言う通り霊夢を攫ったのは生贄ではなく別の理由のようだ。

 

 

「それでは何故博麗の巫女を攫ったのか……?それは……貴様らを処理するためだ!!」

 

 

リヴァルが指を鳴らす。すると、黎人らを囲むように多くの者が取り囲む。

 

 

「な…何……?こいつらは……」

「これは……驥獣⁉︎」

 

 

この世界で何度も人間たちを襲う驥獣ら。今まで見たことないくらいの量が取り囲んでいた。

 

 

「博麗の巫女が攫われたとなれば餌が釣れるだろうと踏んでいたがな……噂の五行の男に元GARDのメンバー、そして異世界の戦士……恐らくそちらの主戦力たる者らがここで足止め喰らうとなれば、俺の計画を狂わせる事は無い」

 

 

ククッと笑うリヴァル。霊夢を攫ったのはこの場にいるメンバーを足止めするためだ。そして、まんまとかかってしまった。

 

 

「さぁ、祭りの始まりだ。お前ら……ゴミを始末しろ」

 

 

リヴァルは何かのスイッチを押す。するとリヴァル、そして肉片となった良也が姿を消した。

 

 

「消えた……?」

「いえ……移動したのでしょう。それよりも……どうします…?」

「こんなに相手してたんじゃ、あの人を追うことが出来ないよ……」

 

 

いよいよ痺れを切らした驥獣らが黎人らを襲いかかる。それに迎え撃とうとするが…無意味だった。

 

 

 

 

いや、必要無かった。

 

 

 

 

 

 

《ドドドドドキュン!!》

 

 

部屋中に鳴り響く発砲音。それと共に驥獣らが倒れた。

 

 

 

 

 

「なに……?一体……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待たせたな。異世界の戦士たち…そして、黎人らよ」

 

 

かなり低めの声。発生源を見ると、異様な雰囲気を醸し出してる集団がいた。大きなコートを羽織った大男、拳銃を持っている男、長身で美形の男……ゴツい大男、その四人がいた。そのうち、コートを羽織った男の方は、翔聖と秦羅には見覚えがあった。

 

 

「……あ!イシューさん⁉︎」

 

 

翔聖と秦羅をこの世界に送り込んだ男、イシュー・ムラフェルだ。

 

 

「少々遅くなった。少し用事があってな…」

 

 

黎人、霊夢、惣一は初対面だが話は聞いた。この男は、神の三児の1人で……

 

 

 

「なぁにが用事だ!出発前に下痢で外に出れなかったんだろうが!間に合わなかった理由をカッコつけて言うんじゃねぇ!」

「……だってどうしようも無いジャン…?腹が痛くなったんだから」

「準備出来て『よっしゃ行くぞ!』的な感じの時に真っ先に便所に行きやがって!お前の戦場は便所か何かか!お陰で気疲れ感半端無かっただろうが!!」

下痢(げり)決着(けり)をつけるために戦場(せんじょう)で尻を洗浄(せんじょう)したという訳だな」

「お前は黙っとれ清嗣!!」

 

 

…………

 

思わず沈黙する一向

 

(なんだこの愉快な集団……)

 

 

 

 

 

一応整理しておこう。

情けないこと言い始めたコートの男こそ、翔聖たちを招いたイシューである。拳銃を持ちながらイシューに毒を吐いたのは劉、寒いシャレを言った細身の男は清嗣、一言も発していない男はドガンだ。

 

 

 

「あいつがイシューか…」

「どうしましたか?」

「いや……そのよ……兄と全然違うな、と思ってよ。その……雰囲気とか」

 

 

黎人の思う事は大体わかる。イシューはディルに比べて何か情けない雰囲気を醸し出している。こんなのが神でいいのか、と思ってしまうくらいに…

 

 

「さて、初めて見る方もいるだろう。俺はイシュー・ムラフェル、翔聖たちをここに送り出した張本人だ」

「あぁ、どうも……」(ムラフェル…?キリシアンじゃねぇのか…?)

「俺は(りゅう)だ」

「俺は橋森(はしもり) 清嗣(きよつぐ)。よろしく、麗しいお嬢さんが《ドス!》あ痛ぁ!!」

 

 

清嗣と言った男が劉に蹴られた。かなり痛そうである。

 

 

「で……後ろに立っているのが」

「ウオオオオオ!!」

「うお⁉︎なんだなんだ」

 

 

劉が後ろの男…ドガンを紹介しようとした時、ドガンは雄叫びを上げて……

 

驥獣に向かって走り出した。

 

 

「あ、おいこらドガン!まだ始まってもいねぇぞコラァ!!」

 

 

劉の制止の声は聞かず、驥獣らを吹っ飛ばした。

 

 

「ギャァァァアアア!!」

 

 

その場にいた驥獣らは大抵吹き飛ばされたように見える。一方のドガンは建物の支柱にしがみつく。

 

 

「ナ……ナニヲ……」

 

 

どうやら驥獣の中に喋れる者がいたようだ。彼らはドガンのしたい事が分からなかった。直ぐ分かることになるのだが…

 

 

 

「アアアアアアァァァァ!!!!」

 

 

ドガンはそのまま支柱を引き抜いた。壁を壊して支柱だけ抜き取ったのである。

 

 

《……ギロリ》

 

 

すると、ドガンは驥獣らを睨む。

 

 

「……マ……マサカ……」

 

 

気付いたようだが既に遅かった。

 

 

《ズン!ズン!》

 

 

「アレデオレラヲコロスキダァァァァァ!!!」

 

 

巨大な支柱を持って追いかけるドガン…驥獣らはそれから逃げるのに必死だった。

 

 

 

「……えーと、あれは?」

「…ハァ、アイツはドガン・ボット。基本音楽を聴いてるか暴れまわるか寝るかしか行わない」

「それ…大丈夫なの……?いろいろと」

 

 

ドガンの立ち居振る舞いに呆気にとられてしまった。

 

 

 

「さて…アイツらを追うんだろ、さっさと行けよ」

「……え……?」

 

翔聖は劉の言っていることの意味が分からなかった。

 

 

「ここから西の方に反応がある。あそこは確か、人里があるはずだ。急がねぇと不味いだろ?」

「で……でも……」

「安心しろ、あの程度の化け物は何てことない。お前らはとっととリヴァルを止めてこい」

 

 

驥獣の情報はさっぱり分からないが、かなり強い霊力を感じる。それがあんな数あると、大丈夫なのか、となってしまう。

 

 

「翔聖、行くぞ」

「し……秦羅」

「そいつの言う通りだ。こいつら……とんでもない強者だ。あの獣くらい、何てことないだろう」

 

 

秦羅は察した。劉らが、とてつもない強者だと。

 

 

「まぁ、心配するのも無理は無い。だが安心しろ。俺らは「あ、テメェも行ってこいイシュー」……え?」

「ここにいると邪魔だ」

「ゴハァ!!」

 

 

イシューに精神的ダメージが入る。

 

 

「よし…行こうぜ、翔聖」

 

 

黎人はもう既に行く準備万端のようだ。

 

 

「うん…分かった」

 

 

翔聖も納得したようだ。結果、劉、清嗣、ドガンを置いて行くことにする。向かう先は当然、西の方。

 

 

 

 

「行くぜ!リヴァルを倒す!」

 

 




漸くイシュー組を戦場に出す事が出来ました。次回は彼らの戦闘を載せます。

リヴァルの外道さは伝わったでしょうか…自信は無い(キリッ)果たして彼の計画を止めることは出来るのでしょうか?次回もお楽しみに

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