黎人が渾身の一撃を入れた。
魏音「…あの爆発に斐川が巻き込まれてないか?」
巻き込まれてません。ファンタジー補正で
戦場で轟く爆音。その音は、船の中だけでなく、地上にいるものも微かに聞こえた。その音を聞いた者は各々の反応を示す。
「や…やった…の…?」
塔の近くで、霊夢はやや口を動かし辛そうに呟く。船上では黎人の霊力のみ感じる。ひょっとすると、あのリヴァルに勝てたのか、と期待に満ちている。
「す…すごい…」
翔聖は感嘆と、少しばかり複雑な気持ちを込めて呟いた。先ほどまで共に戦ってきたが、リヴァルの策により地上に落とされたため、後半は共闘出来なかった。それにより黎人に負担をかけさせてしまったという責任感と、何とも言えない不全感が漂う。
そうして何人は黎人がリヴァルを倒した事に歓喜している。だが…そう思ってないものもいた。少なくとも、輝月と魏音は、その船を訝しげな表情で見ていた。
◇
「見事…ひと刺し入れたか」
彼らとは少し遠く離れた場所で、またもや船を見上げる男がいた。神の三児の1人、イシュー ムラフェルだ。
「どうなった?そっちは」
すると前の砦でしんがりを務めたイシューの部下たち3人が集まってきた。砦内の驥獣は全て倒して来たのである。
「一応…船の上で黎人がリヴァルに渾身の一撃を入れた。かなり強力ではある」
「ほう、流石だな」
イシューの言葉に、清嗣は感嘆の声を漏らす。リヴァルは強いというよりは厄介に近い。彼に一太刀入れることすら難しいのに、それをやってのけた黎人を賞賛してるのだ。
「……それで?『強力では』って事は…」
一方劉は厳しい顔で聞いてくる。イシューはいまリヴァルを倒したとは言ってない。イシューもそれを聞いてくるだろうとは思ってた。
「…恐らくは……」
◇
「ハァッ…ハァッ…」
渾身の一撃を与え、大爆発を起こした。それに持っていくために普段の倍以上の労力を費やして、流石に疲れたのか、黎人は膝から崩れ落ちた。
『第6プログラム実行キャンセル完了 緊急避難のためのエネルギー源あり 安全に着地できる場所の検索を開始』
船のアナウンスが聞こえる。聞くからにこれから船を着地させるようだ。これなら、船の上にいれば取り敢えずは安心だろう。
そう思えたのは、束の間だった。
『10時の方角 およそ2キロ先に着地地点を確認 直ちに本船を着地させ…
予備プログラムを作動します』
「…!な…に……!?」
馬鹿な、としか言えなかった。黎人はそのアナウンスの言ってた事が信じられなかった。『予備プログラム』がここで作動したのだ。この船を動かすプログラムが惣一によって止まったと言うのに…
「…ククク…」
その声を聞けば、誰もが有り得ない、と思うだろう。その声の主は、全身が炎に包まれながらも、意識を保っていた。
「クカカカカ…フハハハハ…」
何を言うわけでもなく、口から漏れるのは笑い声。それだけで、人を逆撫でするような声だった。
「ははははは…ハハハハハハハ…!!」
その男は、腹の底からその声を出す。大声を出す、ではなく…腹の底に沈む感情を全て吐き出すように…
「て…めぇ……」
疲労が限界まで達し、意識が朦朧とする彼の眼の前には、先ほど爆煙に巻き込まれた筈の男が立っていた。黎人の一撃は緩くはない。寧ろ仕留めるつもりで仕掛けた。それを受け…耐えたのだ。
「憐れだ、
リヴァル シュバーンは、未だ倒れてはいなかった。嘲笑が抑えきれずに、彼の表情からは歪みしかない。周りから見ればそれは…悍ましき獣に見えた。
◆
紛争地帯
子供の頃から俺はそこで暮らしていた。秩序もないこの町では…生きる為に動くものが生き残る世界だった。食料は雑草や盗品が殆どで、金は搾取が当たり前。命の危機には友人や家族を騙して生き残る。
俺は小さい時からそれは心得ていた。親も兄弟も、命を落とした。余りにもバカ正直すぎる父親は、格好の餌食だった。身体が弱い母親は、足手纏いだった。未熟な兄弟たちは、容易だった。軍が家に入り込んだ時には、家族を犠牲にして逆にその軍を返り討ちにした。
俺にとって、人間はゴミのように存在するだけで、才能は人間の支配の仕方を考える為にあるもの、仲間とは人間を操るツールに過ぎない。だと言うのに、人間どもは綺麗事を信じ、自ら死を選ぶ。愚かな事だ。奇跡を信じる者ほど死にやすくなるというのに。
そもそもこの紛争自体が変だ。この紛争は、いわばテロだ。自分たちの意見が通らない世界に対して訴えかけるために起こしたものだ。
「怯えるな!神は我らを見捨てはしない!諦めさえしなければ、必ず勝機が現れる!」
耳を澄ませば聞くに堪えん理想事を話す指導者の声。劣勢に対する奮起というところだ。つくづく思う。奇跡を信じて戦おうとする阿呆め、と。
勝機が全く無い戦場はある。兵力も経験も、今まで国の為に戦ってきた者らと、精々2ヶ月ほどの小さな軍では段違いだ。戦闘を仕掛ける時点で命知らずだし、明らかに不利なこの状況でまだ諦めないとは呆れ果てる。
ああいうのがいるから戦争は長引くのだ。自らの力量を見極めず、死ぬまで諦めない者ほど邪魔なものは無い。負け戦が続き、1番苦しんでいるのは民間の者らであるとすら気づかない。
そんな鬱陶しい奴らを、1発で黙らせる物があった。
軍が持ち出したのは、巨大な大砲だった。中から莫大なエネルギーを発し、テロを起こした者らを、一瞬にして灰にした。あそこまでしぶとく生き残った者らが、その兵器の一撃1つで全滅した。
兵器発動のせいか、俺らの村もかなりの被害が出た。約半分程が灰と化している。だが俺には、そんな事はどうでも良かった。
何故なら俺はこう思ったからだ。
なんて素晴らしい代物なのだろう、と。鬱陶しく立ち上がる執念や士気も関係無い。たったそれ1つでそれらを全て無に帰す。圧倒的な戦力、最も合理的な戦術。ひょっとすればそれ1つで、あらゆる戦いも一瞬で終了させる。
俺はその日から、研究の道に進む事を決意した。戦場を一瞬で終わらせる最高傑作を作る為に、世界最高の兵器を作り出す為に…
そう思い、俺はGARDの研究開発課に入隊した。
◇
船の上で、黎人とリヴァルが向かい合う。先ほどまでその状態ではあったが、それとは全く異なる部分がある。黎人の疲労、そしてリヴァルの豹変さだ。
「くそ…!どんな構造してんだテメェは…!」
今回は確実に仕留めるつもりで仕掛けたはずだった。即死とは行かなくても平然と立っていられる筈が無い。だがしかし、目の前の男は平然と立っている。力の差に恐怖するというよりも、同じ人間とは思えないその立ち居振る舞いが不気味と思う。
「哀れよな斐川 黎人。刀を突き刺し、内部から『火焔』による爆撃で敵を木っ端微塵にする。これが人間相手なら確実に仕留めれるだろう」
リヴァルは、語りながら服に触れる。白衣のボタンが取れ、白衣がはだけて身体が見える。
「な…!?」
「だがな…俺は人間では無い。睲獣の肉体や生命力を用いて俺の身体を作り替えてる。ガイラのような中途半端な合成では無い。身体ごと完全に入れ替えた、人間とはかけ離れた存在だ。
そして10もの生命が宿るこの身体は、異常な自然再生力を有する。人間が死ぬほどの一撃であっても、この俺には痒いだけの一撃だ」
黎人が驚くように、リヴァルの身体は爆撃に巻き込まれ、一度崩壊した状態から徐々に原型を取り戻しつつあった。自然再生力は一般人でも一応あるが、そのように瞬時に元に戻るほどの力は無い。それを可能にしてるのは、リヴァルの身体に埋め込まれた睲獣によるものだった。
「そして…タイムリミットだ。どうやら下の者があのプログラムを止めたようだが…それが引き金となった」
「…どういう事だ」
「貴様らは大きな勘違いをしている。俺にとって必要なのはこの船ではなく、これを動かしているエネルギーそのものだ。この船は俺をあくまでここに運ぶための道具に過ぎん」
リヴァルは懐から、細長い金の棒を取り出す。武器として使うにはあまりに小さく、そして一端に円盤が付いていた。リヴァルはその棒に備わっている四角の仕切りを押すと、その仕切りは凹んだ。
『コンタクト 終了 GH-02にエネルギーを転移します』
すると空飛ぶ船の噴出口から、紅い光が出てその金の棒に集まっていく。円盤から光が円柱に段々と広がっていく。
「第1の作戦が成功するなど稀中の稀。策士はあらゆる異常事態に備え、予備の作戦を綿密に組んでいく。もしお前らがあの船を止めたとしても、俺の計画には狂いが出ないようにな」
見る見るうちにその光は大きくなっていき、全ての光が出尽くした時、その光は形を整えた。その姿は、剣というよりも棍棒に近い。柄や鍔があるのは剣の特性だが、肝心の本体には刃が付いていない。丸く、太く、長い筒のようなものが、柄についているといった感じだ。
「それは…なんだ…」
「フッ…これこそ俺の最終兵器、『エンドラ』だ。ガチュリスやシュライダーとは比べものにならん」
リヴァルはその武器を、エンドラと名付けた。この幻想郷の全てを終わらせる…それが込められている。だが…黎人はその武器の名前には興味がない。
「ちげぇ…その声はなんだ、て言ってんだよ!」
「…声……?」
黎人には声が聞こえた。悲痛な叫びが聞こえた。助けを求める悲鳴が聞こえた。
助けてくれ、という声が聞こえた。殺してくれ、という声も聞こえた。
何故聞こえるのか、とは思わなかった。何処から聞こえるのか、とも思わなかった。
黎人が思ったことは怒り以外には無かった。
命を弄び、役に立たなければ捨てる。そのような事を平然とするこの男が、ただ許せなかった。
「……テメェの都合で何百という命が犠牲になって、何百という魂が消えて、何百という生命が弄ばれた。テメェの為にどれくらいの人が無念に散ったか…そんな事を考えるだけで俺は、テメェを見るたびに頭がはち切れそうだ」
既に限界を超えた体では、普通に動くだけでもキツかった。それでも黎人が立ち上がるのは、この男に対する怒りだ。
黎人は下がりそうな顔を無理やり上げ、目の前にいる男を睨む。
「恥はねぇのか…!てめぇには…!」
恥と黎人は言った。ここまで人間たちをゴミのように扱うことに対して、何も思うことは無いのか。無関係な人の命を奪うことに何も恥じることは無いのか。そう思わないものなど、黎人は考えられなかった。
『ふざけんな!俺たちはテメェの研究の為の資材じゃねぇ!』『正直言って、お前よりあいつの方が頼りになる』『お前では俺らの力にはなれないよ。もういいだろう。大人しくしていろ』
「フッ…見誤っては困るな。人間は止めたとは言っても心はある。心がある限り、恥ぐらいはある」
わざとらしく口を歪ませる。その顔は狂気、ただ狂ってるとしか言えない表情だった。少なくとも…まともではない。
「貴様ら
人間そのものを、この男はゴミと言った。彼にとって人間とは、この世から排すべき存在でしかない。そしてその人間によって足元を掬われるのは、彼にとって憎しき事でしか無かった。
「くそ…!クズが…!」
「もう限界だろう。苦しいよな、ならば俺が、全身全霊をもってお前を弔ってやるとしよう」
リヴァルは手に持つエンドラを、剣先を黎人に向ける形で構えた。ただ静かな剣、だがその先からは、悍ましき気配以外のものが感じ取れない。
剣先から、莫大な光が黎人ごと船の大半を飲み込んだ。かき消す、というより無に帰す、といったほうがいいかもしれない。なんの抵抗も無く、何の緩急も無く
船は光によって大半が消え失せた。
◇
「な……!?」
上空で起こった出来事。下から見てもハッキリと見えた。何やらド派手な光が現れた後、船は大半の原型を失っていた。
「…斐川の気配が消えたな。やられたか」
魏音は気配によって船の中にいる者を察知できる。美鈴のような感じだ。そして、船の中にいた黎人の気配が消えた事を察知し、黎人が負けた事を悟った。魏音にとってはその事自体はどうでも良かった。
「うそ…」
だが、そうでない者も当然いる。魏音の言っていた言葉を聞いて、信じられないのか、或いは間違ってほしいと思うからなのか…霊夢は口をやや動かし辛そうにして呟く。
「黎人が…死んだ…?」
◇
「フッ…ハハ…!ゲホッ!あぁ、体力の消耗が激しいな。やはり疲労ばかりはどうしようもないか。だが、もはやこの俺を邪魔するような輩はもういない」
半壊した船の上で、リヴァルは苦しそうに、だが愉快そうに笑う。先ほどまで苦戦していた相手を倒した事、それはリヴァルにとって進歩どころかもはや決めてと言っても過言ではない。翔聖は地上に落ちて、黎人は消えた。この状態でリヴァルを止めれるものなど、誰1人としていない。
「もういいだろう…!くだらない戦いも、俺の計画も…これで最後にしてやろう…!」
いよいよ仕上げにかかる。彼の計画は、その力をただ発動させ、その成果を見せしめるだけに過ぎない。だが、それは彼にとって必須である。彼の真の目的は、その先にあるのだから。
エンドラを天に突き上げる。その瞬間、空が…天が黒く染まっていく。まるで今から嵐でも起こるのではないかと思ってしまうほどの荒れた天。しかし、これから始まるのは嵐の比ではないほどの悲劇になる。
「さぁ…仕上げだ」
黎人が敗北…?リヴァルが最後の切り札を取り出してきました。幻想郷を守る事は出来るのでしょうか?それではまた〜