リヴァルが最後の一撃を繰り出す一歩手前
リヴァル「いい感じだ…この光でウギャァァァァ!目が、目がぁぁぁ」
魏音「太陽に直視したかのような状態になってんな」
地面に足をしっかりとつけ、呼吸を1回する。翔聖はたぶん、今までで1番集中してる。リヴァルの攻撃を防がなければ、幻想郷は滅ぶ。そうさせないという意思と、覚悟を心にする。
翔聖は、手を真っ直ぐ伸ばす。その手は小さく、しかし強く何かを掴もうとする手だった。
召喚 【聖夢剣】
翔聖の伸ばした手の先に、新たな剣が現れた。その剣はかつて、世界を崩壊させる力に対抗し、その力をねじ伏せた。名を、聖夢剣という。
翔聖がそれをつかんだ時、彼にも変化が訪れる。突如光が現れ、彼に纏わりつく。まるで、彼の防具であるかのように。やがてその光が途切れると、紺色の袴、白色の衣を身につけていた。彼の背後には光の輪…光輪があった。
神力、絶神力以外に特殊な能力を持つ人間もいた。翔聖はその力を持っている。名を『神依』、言うなれば、神を纏う能力だ。今の翔聖にとっては最も強力な力。それを以って、いま幻想郷を滅ぼさんとする力に立ち向かう。
◆
GARDの研究局、もはや俺一人しか存在しないそこに配属された男は、何処となく気が弱そうで、一言で言えば嘗められる存在だった。
別にどのような奴が来ても関係ない。少しでも強く叩けばこの場から消えて去る。それが当たり前なのだ。あの時から、新入りという形で多くの者が此処に来るが、1ヶ月も経たず辞める。そういうのに慣れてしまった俺は、誰が来ても興味なさげに佇む。
「…配属されたからにはこの部屋で好きにさせてやるが、余計なことはするなよ。此処では俺が絶対だ。俺の命令に逆らう事も、勝手な事をする事も認めん。そうした瞬間、引っ張り出すからな」
釘を刺しておく。以前俺に逆らって研究器具を爆発させた阿呆がいたしな。こういうので反発するなら、ここで投げ飛ばした方が良い。
「はい、分かりました」
返事だけは一人前のようだ。
◆
斐川 修斗と名乗った者は見た目通りというかやはりというか、話にならんほど使えん者だった。書類の整理も遅ければ、コンピューターの扱いも下手くそで、全くと言って良いほど使い物にならなかった。以前火薬を運んだ時に落として爆発に巻き込まれるという阿呆もやっていた。
だが…他の奴らには無かった力はあった。それは、『何をされても反発しない』という事だった。今までの者なら不平不満を言って此処を辞めるところを、この男はそんな事を少しも見せずに従っていた。
他の者とは違ってたからなのか、少しだけ気になった。この男が、一体何のためにこの局に来たのかを。
「貴様、なんで此処に来た。この局で何を求めてきた」
俺は奴に聞いた。こいつは、研究者向きではない。研究者は、追究するものだ。何か強い意志が無いと務まらない。俺は最高の兵器を創り出すためにという風に。男はそれが何も無かった。
「…呪いを、解きたいんです」
その男は言った。呪いを解きたいと。そのような話、一度も出てきた事が無かった。
「…呪い?何かに呪われているのか?」
「あ、いや…僕じゃ無いんです。呪いで、苦しんでいる人がいるんです。だから、その人を救うために、此処で頑張りたいんです」
…苦しんでる人のために…それだけでこの道にだと…⁉︎ありえん、他人のために、誰かのために動ける人間などありはしない。他人は利用するものだ。それを救うためだけにこの道を選んだこの男が、信じられなかった。
◆
俺は会議に出ていた。世界の現状把握と、各課の方針を定める会議に出た。それは定期的に行うものだ。別に特別な事では無い。だが…
「それにしても…最近研究の方がよろしく無いんじゃ無いか?」
1人の男が口を出した。そう…俺は満足出来るだけの研究が出せてないのだ。
「昨年のテーマは何だ?『戦闘に用いる獣の育成』と言っていたが…此処で飼育するにはあまりにも危険すぎるし、何より需要が無い。獣など居なくても戦闘には問題無いであろう。ただ、結果だけを出してきた君の偉業は何処に消えた?」
「……!申し訳…ありません…!」
俺が叱責されている。それは、屈辱的なものだった。入り始めた頃は多くの者に讃えられ、この地位に上り詰めれたというのに、今となってはその面影も無い。
「部下らが一斉に辞退した事が原因か?それとも、何か気にくわない事でもあったか?」
気にくわない事…か。そんな物は多くありすぎる。こうして何もしてない鬱けどもに非難させられるのも、部下どもに逃げられる事も…
『その人を救うために、此処で頑張りたいんです』
いや、違う。俺の今までの持論を全て覆すあいつの存在だ。他人など利用するために存在するだけと考えている俺にとって、他人のために動くあの男の存在は、苛立ちしか出てこないのだ。
「まぁ頑張ってくれよ。これからどうするかによっては…君を処分せざるを得ない」
◆
忌々しい会議が終わり、おれは自分の持ち場に戻ろうとしていた。一刻も早く、もっと出来の良い結果を出さなければ…
「良い気味だな、リヴァルさん」
そのおれに、声をかける者がいた。そいつは、1年ほど前に研究局を離れた男だった。GARDには入ってない筈だが…
「貴様…関係者以外は此処に入れない筈だが?」
「いつの話してんだ?おれは此処の特攻隊に入ったっての。もう一度入隊仕直し、てな」
「入隊仕直しだと…?」
バカな…そんな事認められない筈だが…
「受け入れて貰えたんだよ。人事のオッサンから声が掛かってさ。研究の局長と付き合えないで抜けているのなら、特攻隊という事で入り直さないか?ってな。研究局を辞めた奴らは、特攻隊で訓練を積んでるんだよ」
…そのような特例を…いや、特攻隊か?だとすれば…
「しっかしおれも惜しい事したなぁ…」
「何がだ?」
「新入りが入ったんだろ?おれ、会ったんだよ。結構素直で優しくてさ。もう少しあの局にいれば、アイツと仲良く仕事出来てたのにな」
…馬鹿げている。辞めたのはこいつだ。なのにどうしておれにそれを話す。
「アイツと一緒なら、お前の悪口も我慢できたよ。いや、アイツとなら何でもこなせる気がする。正直言って、お前よりあいつの方が頼りになる」
俺より…奴の方が、だと…!
「そしてあの会議では笑えたぜ。お前が上の奴らにこっ酷く叱られて…」
「黙ってろ。俺は仕事に戻る」
俺はそいつに背を向け、距離を置く。コイツとはもう、やっていけない。
「チッ…見とけよリヴァル!お前より沢山の功績を挙げて、俺がお前より偉くなって、俺の前で土下座させてやるからな!」
そいつのいう事には耳を貸さない。自分の本当の立場も分かってない阿呆には付き合えない。
◆
「…くそ!」
ある程度研究を進めたつもりだが、全く進展しない。いつまで経っても俺の満足する域に達しない。
分かっている。俺の頭に雑念が入っているんだ。余計な考えがよぎれば、集中できないし上手くいかない。
「困ってるようでしたら、手伝いましょうか」
大声を出し、机を叩いて伏せる俺に、そいつは声をかけた。言っているのだ、困っているのなら手を貸そうかと。
そこには敵意も悪意も無い。ただの善意でやってるのだ。だが…
『これ以上、あなたにはついていけません』
…!
『接触する機会すらも無くせれば、あなたに会う事は無い』
止めろ…!
『あんたが嫌なんだよ!』
来るな…!
『あんたの研究のために生かされるくらいなら、死んだ方が千倍マシだ!』
来るな…!来るな…!
『部下らが一斉に辞退した事が原因か?それとも、何か気にくわない事でもあったか?』
来るな来るな…!来るな……!
『正直言って、お前よりあいつの方が頼りになる』
来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな…!
『困ってるようでしたら、手伝いましょうか』
こっちに…!!来るなぁぁぁァァァァァァ!!!
《スパァァァン!!》
一体何を思ったのか、何がしたかったのか…俺にもさっぱり分からなかった。
何で、この男に此処まで苛立ったのかも、サッパリ分かんなくなった。
ただ、自分の中で何かが振り切って、この男の頬を思いっきり殴ったのだ。
殴られた斐川は当然、後ずさって倒れた。頬に思いっきり当たったのだ。綺麗すぎるくらいに
「な…何の音…!」
突然の音に反応して周囲にいた者が駆け寄ってくる。その時、俺は目の前が真っ暗になった気がした。
「な…!リヴァルさん…!あんた…」
1人が、俺を侮辱する眼で見た。…なんだその目は…!
「部下にとうとう手を挙げたか!本性を見抜いたぞ…!おい!直ちに上のやつに連絡を…」
「余計な事をするな!」
奴が上の者に伝達しようと動いた時、俺はそれを止めさせた。…いや、そんな事より…
「貴様…!俺をどういう眼で見た…⁉︎見下したな…!それが俺に対する態度か!」
俺がそいつに殴りかかろうとした瞬間、俺の前に立つ者がいた。…斐川 修斗だ。
「斐川…!」
「僕が…殴られたのは大目に見ます。ですが…人を平気で傷つけるなら…俺はあんたを許さない…!」
…斐川 修斗と今まで暮らして、感情があまり出ない男だと感じていた。だがいま、この男は始めて怒りを見せた。それは、一瞬怯ませるほどに
「…ふ……」
それがなんでなのかは知らなかった。だが、俺を怯ませたコイツに、だんだんと怒りが募っていく。
「ふっざけるなぁぁぁ!!」
◆
「とんでもないことしたな。部下への暴行は、規則に反する行為だ」
あの後、人事部の長から言葉を受けている。分かっているのだ。GARDで秩序を乱す者の末路くらいは。
「お前は局長としてやってはいけない事をした。部下らに見下げられるような事をするのは、リーダーとしては失格だ」
リーダー…リーダーか。俺はさっきまでそのような座にいたのだな。
「部下らに怪しまれるようなことをしてはいけない。自分を使い潰していると思わすようではね」
…こいつの言ってることは正論のようで、あくまで建前だ。
さっきの男が言っていた特攻隊…響きはいいが、GARD内では別の意味がある。あらゆる場面で敵と相打ちになる事を前提として前線に立たせるもの、そのための部隊だ。いわば捨て駒、そのような部隊に入らせるこの男は、ある意味使い潰している。
なのに…俺はそんな男に言い返す言葉は無かった。
「お前では俺らの力にはなれないよ。もういいだろう。大人しくしていろ」
そして俺はGARDの研究局から外された。
◆
空を見ていた。清く、綺麗な空だ。この空の下で、どこかで戦は起こっている。価値観で、野望で、誇りで、義務で…人は戦を始めている。俺にとっては、至極どうでもいい事で争う。
その中で、俺は1つの美徳を見出していた。人を無意味に終わらす兵器の存在。たった1発の発動で、人を、戦地を、争いを終わらせた兵器が。俺はそれを作るために研究員になった。
だがどうだ。この俺の計画に従う者はいなかった。誰1人として俺に着いて行く者はいなかった。1番長く付き添った男も、最後は裏切った。
なぜ…なぜだ…なんで誰も俺に…
待てよ。
奴らは分かってないのだ。やらねばならぬ事が。この俺が研究の先に達成しようとする祈願、それが奴らには理解できて無かった。奴らは現状に対して不平不満を言うばかりだった。奴らには…
俺の研究の成れの果てを理解してはいなかった。
「……クククク…クハハハハ…カハハハハハ!!」
思わず笑いが止まらなかった。本当は悲しむべきところを笑うとは、凡人には理解できまい。
なんだ…何なんだ俺は!奴らに一体何を期待していた!目標も理想もないグズどもに俺の野望の何を分からせようとしていたのだ!そうだ…理解させようとしたから間違いだったんだ!
別に理解しなくて良い。耳障りの良い言葉を選んで、さも自分の為にしてくれていると思わせて…いざという時に道具として使えば良いのだ。
俺にはそれが無かった。他人に俺を信じさせる力…それが出来れば、バカどもは俺に従ってくれる!
それだけで充分だ…!信頼できる仲間など要らない!
使えるならどんな奴でも構わない!皆殺しを望んでいる平凡人でも!故郷を救う事を望む理想家でも!使えるなら…俺が使ってやろう。
そして、あらゆる奴らを利用して、俺の野望が叶う寸前まで来たのだ…
◇
「膨張…弾幕も進化するのだ。だが天候や環境によってその進化が儘ならぬ場合もある。ならば、真空ならどうだ?そういった物に影響を受けない宇宙でなら、幾らでも膨張する」
天空で赤く染まる弾幕を見ながら、リヴァルは語る。彼の顔は、いままで以上に邪悪に満ちていた。
「弾幕はこの後、幻想郷の中心へと落ちていき、巨大な爆発とともに幻想郷を飲み込む。それで地上にいる者はジ・エンドだ」
彼はエンドラを看板に突き刺し、手を挙げた。それは、合図以外の何物でも無い。
「さぁ、始めよう。終幕を」
リヴァルはその手を、下に下ろした。
天空から、巨大な光の弾幕が落ちてくる。先ほど黎人に放ったものとは桁違いだ。それが幻想郷に落ちれば、間違いなく滅ぶであろう。
それこそ、リヴァルの望んだ事であった。この世界を滅ぼすほどの力を持つ兵器の誕生、それを証明するために幻想郷で作動したのだ。
光の隕石が、幻想郷の地面に伸びていく。そのような弾幕に飛び込もうとする者も、止めようとする者もいない。それに触れれば命を落とすと、直感的に…本能的に理解できるからだ。
1人を除いては
「なに…!止まった…だと…⁉︎」
光の隕石が、地面にたどり着く瞬間、その勢いは止められた。そう、下で止めようとしている者がいるからだ。
その男の名は、神代 翔聖、もう1つの幻想郷の英雄の1人。彼の姿は先ほどリヴァルと戦っている時とは全く変わっており、神々しさに満ちている。
「うあああああああ!!!」
刀を握って、大声で叫んでいる。絶対に落とさせない。その執念を、強く思っている事がハッキリと伝わる。
「馬鹿が…!」
世界を滅ぼすレベルにまで作り上げたその力を、たった1人で止めようとする。その男の存在に、リヴァルは下を打っていた。
「本当に止めれる気か…!ならば止めてみよ!貴様のその空っぽの頭で動いたその行動が、どれだけ軽率か!思い知るが良い!」
リヴァルはエンドラに霊力を込める。
「ぐ…!うう…」
突然強くなるその力に押し負けられそうになる翔聖。神依を以ってしても難しいのだ。彼の膝は、地面に近づいていく。
(いや…ここで負けるわけにはいかない…!)
だが、彼は持ち直した。彼は、この幻想郷の命運を左右するのだ。ここで自分が負ければ、この幻想郷は滅ぶ。それは、絶対にさせてはいけない事だった。
「うああああ…!!ああああああああああああああああ!!!」
翔聖は、刀をしっかりと握って押し返す。絶対に押し負けないと、絶対に幻想郷を滅ぼさせないと願った。そして…
《ギュイン!!》
その剣を振りきった。すると、彼の切り口から真っ直ぐ弾幕が斬り崩される。完全に真っ二つになった弾幕は、だんだんと消えていき…消失していった。
「やっ…た……」
ただ一言、やりきったと言って、翔聖は倒れた。リヴァルとの激戦、そして…神依の発動。彼は限界を超えて、意識を失った。
◇
「嘘…だろ…あれを止めようとする者がいるなど…!」
戦場で、リヴァルは信じられないと言うような顔をしていた。地上で起こった事はリヴァルにもハッキリと分かる。翔聖があの弾幕を止め、そして斬り伏せたのだ。仮にもあの弾幕は、戦艦に詰め込んだ100以上の生命で作られるエネルギーが込められているのだ。それがたった1人で止められるなど、彼にとっては最も信じ難い事だった。
(だが、今の攻撃で奴は戦線離脱だ。奴が復活する前に、もう一度撃ち込めば…)
リヴァルはすぐ持ち直し、エンドラを構える。これからもう一度エネルギーを充電しようとするなら1時間は必要だ。だから一刻も早く充電しようとする。
だが…それをリヴァルは止めた。
気が変わった…という訳ではない。彼が感じていたのは殺気…このままエンドラにエネルギーを詰め込もうとすれば、彼は一突きされてしまう。
そう、彼は気づいた。自分の後ろに1人の男がいる事を
(馬鹿な…こいつは…)
その事自体さえ、ありえなかった。先ほどまで船上には誰もいなかった。それが突然、彼の後ろに新たな男が現れたという事は、いつの間にか船に乗り込んでた、という事になる。
だが、それ以上に恐ろしいのはその男についてだ。
彼はその男の容姿が誰を指しているのかは察しがついた。左目の傷も、服も、その男のものだ。
しかし、気配も雰囲気も、その男とは全く違うものだった。同一人物とは到底思えないほどどす黒くて、息苦しくて…まるで、闇が詰まっているかのような感じだった。
「なんだ…きさま……!」
額に汗がつくのを気にもかけず、リヴァルは尋ねた。ひょっとすれば、いままでで1番強張っているかもしれない。
「なんだ?テメェあれか?人の顔を覚えてられないタイプか?さっきまでいたじゃねぇか」
それはリヴァルも分かっている。その男とは確かにさっきまで戦っていた。だがその男と目の前の男が同一人物には思えなかった。
「まぁあれだ…聞かれりゃ答えるってのが筋ってもんか?」
その男は手に赤い剣を取り出した。形はさっきまで見た事があるものの、模様が全く違っていた。
リヴァルは察した。この男は、さっきまでとは全くの別人であると…
「俺は………斐川 黎人だぜ?天才研究者クン?」
リヴァルは本当におっそろしいやつですね。『自分以外はグズ』というかなり捻くれ曲がった性格をしています。翔聖くん、よく耐えた。
さて、黎人の様子が何やら妙ですね。一体どういう事なのか?次回をお楽しみに