おや、黎人の様子が…?
黎人「進化ねぇ…そういう見方もあったか」
何時もと違う反応をする黎人である。
斐川 黎人と目の前の男は名乗った。それは、先ほどまでリヴァルと戦っていた男の名前だ。そう、間違えては無い。顔つきも、特徴も、確かに黎人のそれだ。だが、同一人物とは思えない。雰囲気があまりにも違いすぎるから。真剣になったり怒ったりしても、目の前の男のように殺伐とした感じは無かった。
「おい、俺は答えたぜ?何か言う事はねぇのかよ」
黎人が、語る。声さえも、声帯が違ってる訳では無いが、どこか違うように感じた。
「何も言わないって事は…
始めても良いんだよなぁ!!」
急に膨れ上がる殺気。焦ってエンドラを構えようとするが遅かった。リヴァルは頬を柄で殴られ、体勢を崩す。
「がっ…!?」
「さぁ始めようぜ、祭りをなぁ!!」
二撃三撃と次から次に柄で殴り続け、足でリヴァルを蹴りとばした。たった数秒で、一気に追い詰められた。圧倒的な力の差は、明確ではあった。先ほどまでも追い詰められかけてたのだから別に不思議では無い。
だがそれにしても実力に差があり過ぎる、と感じた。急成長、などと言うレベルでは無い。もはや、対戦相手が変わったと言っても不思議では無い程の変わりようなのだ。
「くそ…!調子に…乗るなぁ!」
混乱しそうな頭を無理やり持ち直し、エンドラで攻撃を仕掛ける。幻想郷を滅ぼそうとしたあの弾幕は放てないものの、先ほど黎人を打ち負かした弾幕なら放てる。
赤く太い弾幕が、黎人を滅ぼさんと突っ込んでいく。それに対して黎人は…左手をその弾幕に向けた。
「全事象は運命の手に、否定されしは虚の闇へ」
リヴァルの放つ弾幕が、黒く光った。色が変わる効果など、リヴァルはつけていない。これは、黎人によるものだ。
「
黎人が大声で叫んだとき、黎人の目の前で弾幕が止まった。
「なに…!?」
弾幕が突然止まった事に驚くリヴァルを置いといて、赤い弾幕は形を歪ませ…
綺麗さっぱり無くなった。
「馬鹿な…弾幕を…消しただと⁉︎」
弾幕を吸収する能力は聞いていたが、弾幕を消すと言う事は聞いていない。弾幕を消せるとなると、あらゆる攻撃が通じなくなる。リヴァルは一気になす術が無くなったと悟る。
「やれやれ…上空にいるせいか、力が入んねーな。空気が薄いせいか。今の弾幕も消すのに力いるしよ。
仕方ねぇ、落とすか」
「…なんだと…⁉︎」
黎人の言っている事に疑問を抱く。そんなリヴァルの焦りも黎人にとってはどうでも良かったものだ。黎人は手を船につけた。
「…
黎人の宣言と共に、船に異常が訪れる。先ほどまで空を安定して飛び続けていた船は、体勢を崩して落下していく。
「な…!なにをしたコイツ…⁉︎オイ!緊急プログラムを作動しろ!」
リヴァルは何かあった時のための緊急プログラムを船につけていた。そうすれば、落下の衝撃は避けられるだろう。だが…
「…⁉︎馬鹿な!なんで反応しない!」
緊急プログラムどころか、リヴァルの声に反応するアナウンスも出てこなかった。何かしらの状態で実行不可能の場合は『実行できません』、リヴァルの命令してる事がプログラムに書き込まれてないのなら『ファイルが存在しません』と返す。つまり、何1つ反応しないというのはあり得ないのだ。それがあるとすれば…電源が入っていない時だ。
「…!まさか…貴様…!」
落下する船にしがみつきながらリヴァルは黎人が一体何をしたかの想像がついた。しかし、そう考えている間にも、船は地上に落下していく。
◇
上空からの攻撃を防いだ翔聖は、そのまま意識を失った。それに駆け寄るように霊夢らは近づいた。
「まさか本気でやるとはな…想定外だ」
「まぁ、向こうの世界でもやってくれますからね、彼は」
「…凄い」
魏音が、輝月が、霊夢が、違いはあるが翔聖のやった事を賞賛しているのは変わってない。特に魏音は、目を細めて、目の前の現象を疑っている。
「それを抜きにしても、翔聖は此処でリタイアでしょう。向こうで休ませるべきですね」
輝月の言う通り、翔聖は前線から下げて回復させるべきだろう。目立った怪我は無いものの無事では無いはずだ。
霊夢と輝月は、彼を下げようとしていた。
「…?なんか落ちてくるぞ」
すると、魏音は上空を見て怪訝そうな顔をしている。それに従って上を見ると…魏音の言った通り、何かが落ちてきた。
「あれは…!」
霊夢はそれを見た事があった。数刻前に塔で見た戦艦だった。一部分欠けてはいるものの、ハッキリとそれだと分かる。
やがて、その船は霊夢らがいる所の近くに落ちた。土に落ちて、船は音を立てて崩れた。完璧に壊れたのだろう。
一体何が起こって壊れたのか…それを調べようとして船に近づこうとした時、違和感を感じて再び上空を見る。
するとそこには、1人の男がいた。
「……黎…人…?」
その男の姿は、紛れもなく黎人だった。上空で赤い弾幕が見えた時、同時に黎人の気配が消えたという事を聞いた。それを聞いて霊夢は、黎人が死んだのかと不安になった。
だが目の前には黎人がいる。霊夢は彼が生きていた事の安堵感と、本当に彼なのかどうかの疑心で、彼に近づこうとしていた。
「待ちなさい」
だが、その手を輝月に掴まれて止められる。
「る…輝月…」
「…様子がおかしい」
輝月に言われて黎人をもう一度見ると、確かに様子が変だと気付いた。どこか、黎人じゃ無いものがある。輝月は霊夢に落ち着くように言いながらも、顔をしかめていた。輝月は彼を初めて見るわけだが、彼の様子はどうも翔聖とは違う。世界を守る側とは到底思えなかった。だから、輝月は黎人を警戒している。攻撃してきたとき、対処できるように…
霊夢も輝月も、黎人の変容に焦っていた。何がどうしてそうなったのか検討がつかないからだ。だが、1人だけその変わりようを知っているものがいた。
魏音は以前、彼と対峙していた時、一瞬黎人の様子が激変したことを経験している。その時彼は、黎人に対して1つの仮説を立てていた。
『聞こえるか、主よ』
突如魏音の耳に低めの声が入る。周りには霊夢と輝月しかいないため、そのような声が聞こえるはずは無い。だが彼は焦ったり驚いたりせず、平然としている。
(ああ、聞こえる。アレはなんだ?)
『…恐らくだが、アレは我らと同じだ』
(やはりか…どっちだ?)
『…【人】の方だ』
(…よりによって厄介な方だな)
魏音は心で会話している。それで、相手には伝わるのだ。魏音とその声は、黎人の様子について話し合っている。そう話している間にも、黎人は地上に降りて行った。
◇
黎人がいよいよ地上についた。彼の視線の先は、落下していた船だ。落下の衝撃で木っ端微塵になり、原型が船だったかどうかも怪しい。
突如、そこから1人の男が現れた。船と一緒に落下して行ったリヴァルだ。
「ハァッ…ハァッ…」
自己治癒力を持ってしても、傷は完全には治らないようで、額から血がドクドクと流れている。流れる血によって片目が覆われてしまっていた。
「ぐっ…お…のれ…」
40年前から、研究の道に憧れ続けてきた。30年前から、本格的に兵器を作り出す作業を続けてきた。20年前から、自分の好きな事が出来る場所を探していた。10年前から、この世界を滅ぼすための兵器を作り出していた。それが…一瞬にして、崩れ去った。数人程度の、戦士たちによって…
「…ふ…ふっ…ざ……ァ…るな……………」
なかなか思うように動かない口を必死で動かす。なかなか動かないほどの怒りを持っていた。自らの野望を、嘲笑うかのように崩していくような…
「…ふっっっっっっざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
霊力がほとんど残ってないエンドラを持って、黎人に斬りかかる。その行動の原動力は、悔しさと…怒りだった。
エンドラを振って斬り落とそうとする軌道を、黎人が防ぐ。防がれたことに対する怒りが膨れ上がり、次いで攻撃を繰り返した。
二撃、三撃、四撃…次から次にエンドラで攻撃をし続ける。刀で防がれているのにも関わらず、リヴァルは攻撃の手を緩めなかった。無駄な行為を嘲笑うリヴァルにはあまりにもらしく無い攻撃だ。それをさせているきっかけは、目の前の男…いや、それに限らないものに対するリヴァルの怒りに他ならなかった。
黎人の目を、リヴァルは知っていた。それは、軽蔑によるものだった。自分より格下のものが必死で足掻いてる様子を、さも哀れに感じながら見ている目だった。
その目を、多く見てきた。その目を、多く使ってきた。その目を使う事が、強者である事の証明だったから。
『いざとなれば…こいつらを置いて、俺だけでも生き残るんだ』
ーー父親は、余りにもバカ正直だった。子どもを害無きものとして信じたあまり、息子の方が優れてるとすら考えず、格好の餌食だった。
『速く…助けなさい…!この私が苦しんでるのに…動けるあんたらは何してるの!』
ーー母親は身体が弱かった。それにつけ上がり、俺に命令ばかりを要求してくる。ハッキリ言って邪魔でしか無かった。
『おい…いざとなったら、俺のために犠牲になってくれよ。だって…兄の方が優先されるだろ?』
『お兄ちゃん…どうすれば良いの?ねぇ、助けてよ、お兄ちゃんでしょ⁉︎』
ーー兄弟らは余りにも未熟で自分勝手だった。俺に頼ることしか脳がないこいつらは、容易に始末できた。
幼き頃から、人間の醜さを見てきた。それと同時に、生き残るための知恵を身につけていた。だから彼は、他人を裏切ることを身につけてきた。どのような手段を使っても、どのような相手に対しても、裏切って裏切って裏切って裏切って裏切って裏切って…気づけば彼は、誰も信じれなくなった。
彼が信じれるものはただ1つ、圧倒的な力のみだ。それを持つのは人間ではなく兵器、それを作り出した人間のみが優れた人物なのだと。
なのに…いつも唯の人間に止められる。考えが甘い男に、誰かのために動く男に、権力を持った男に、何も知らない男に。
人間はいつも目障りだ。人間はいつも邪魔をする。人間はいつも…リヴァルの誇りを汚す。
「いつまで…俺の前に立ちはだかる!何も知らない人間風情が!この俺を…誰だと思ってる!」
リヴァルはエンドラで思いっきり叩く。流石に力が強かったのか、黎人の持っていた刀が吹き飛ばされた。好機、とリヴァルは思い、振り切ったエンドラを振り戻した。
「…
だが、黎人の発言があり、彼の手に剣が現れてリヴァルの攻撃を防いだ。その剣を見て、リヴァルは驚愕の色を見せた。
「バカな…エンドラだと⁉︎」
金色の柄に赤く円柱状の剣、エンドラだった。今まで見せた剣とは模様が変わったものが出ただけでも妙なのに、更にリヴァルの武器までも出したのだ。弾幕を消したり、船を沈めたり、武器を出したり…これを説明できる能力について、リヴァルは1つだけ思い当たった。先ほどから喋っている『
「やはり…事象否定か、貴様の能力は…」
「そう、察しが良いな。流石は天才研究者。俺は『事象を否定する程度の能力』を持っている。
事象とはいわば出来事だ。それは『起こる』か『起こらない』かで分類される。俗に言う二進数の1(真)と0(偽)だな。
俺はそれを逆転する能力を有している。『起こる』ならば『起こらない』に、『起こらない』ならば『起こる』という風にな。
勿論万能じゃない。これは存在そのものを消したりする事は出来ないし、事象のスケールによってはかなりキツくなる。
だがあらゆる場面で有効だぜ?さっきみたいに『弾幕を放出した』ことを否定すれば弾幕が消えて、『船にプログラムを組んだ』事を否定すればプログラムは全部破棄される。消去とは違う。完全に無かったこととする否定だ。
因みに今やったのは『何も持ってない』を否定したものだ。そうすれば何か持ってる事になる。ただ0の否定は難しくてな。出すにしてもあくまで自分の記憶に残ったものくらいしか出せない。
だがそれでも有効だ。お前のその武器を消すことは出来ないが、同じものを作り出す事は出来るんだ」
黎人の言っている事はあり得ない事だった。いや…それよりも前におかしい事がある。
「ちょっと待て!2つの能力を使えるとか聞いた事無いぞ!」
そう、黎人は『五行を司る程度の能力』を持っていた。それに加えて『事象を否定する程度の能力』が出てきた。そのような者は滅多にいない筈だ。
「場合によってはいるんじゃねぇか?例えば、片方の能力は本来の能力じゃ無いとかな」
口ではリヴァルの質問に答えている。だが答えにはなってない。もとより黎人は答える気が無いのだ。黎人はエンドラをリヴァルに向けた。
「…!不味い!」
黎人の意図を察して、リヴァルもエンドラを黎人に向けた。
「ふっ…じゃあ俺の技がテメェとどれだけ違うか、確かめてみようか」
黎人の言葉を合図に、両者は技を繰り出した。
「グッ…ガァッ…」
両者のぶつかり合いの末、押し負けたのはリヴァルの方だった。技はリヴァルのものだが、威力では圧倒的に黎人の方が上だった。
「チッ…難しいなコレ。たった1発でダメになったよ」
一方の黎人は剣が根元から折れたエンドラを見て呟く。あくまで記憶を頼りにしていたから強度ばかりはどうしても脆くなるのだろう。だが、威力は黎人の霊力に左右されている。ここから導き出される答えは1つ
純粋な霊力では、リヴァルは黎人に勝ち目が無いという事である。
「くそ…が…」
「キツいだろ?じゃ、終わりとしようか」
黎人は刀の方を作り出した。勝負を決める気だと直ぐに分かる。
ーーくそっ…くそっ…
ーー負けてたまるか…終わってたまるか…
ーーあれだけの手間と…時間と…犠牲を払って…
ーー結局何も出来ずに終わるなど、あってはならない!
「斐川ァァァァ!!!!」
リヴァルはほぼヤケになって突っ込み出す。右手には当然、エンドラだ。それで、全力で、最後の力を振り絞って、リヴァルは剣を振った。
《ザシュ!》
その力が届いたのか、剣が黎人の肌を斬りつけた。攻撃できたという希望は、
直ぐに絶望になった。
《ガキィィィン!!》
右手に持ったままのエンドラを、黎人に叩き落とされた。いとも容易く、いとも呆気なく。
「ここまで追い詰められて、なおも諦めないその戦意、それに免じてこの傷は食らってやる。だがここまでだ。お前に残されているのは、その首に落とされるギロチンしかない。
さぁ…最後の技を受けろ」
宣言と同時に、黎人は刀を取り出してない方の手で拳を作り、リヴァルを殴る。その力が圧倒的すぎるのか、リヴァルは後方に大きく吹き飛んだ。
「ぐ…くそ!くそ!」
かなりの衝撃と、かなりの風圧。体勢を立て直そうとしたり抗おうとしても、まるで無意味だと嘲笑うかのように変化しない。その先には、リヴァルを吹き飛ばしたあと、先にそこへ移動していた黎人だった。
「じゃあな、カウントダウンは…およそ5秒か?」
無慈悲な言葉に、リヴァルはこの後起こる事が何となく分かった。彼の頭脳と、今までの経験を通せば直ぐわかることだった。
「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ただただ叫ぶ。リヴァルに出来ることはそれ以外に無かった。どう足掻いても、それからは逃れられないのだから。
「火符『熱線ロッド・刺突』」
吹き飛んできたリヴァルに反して、黎人は刀をリヴァルに当てた。
そして
あたり一面を、爆風が覆った。
黎人強ぇ…しかしまぁ主人公の黎人とは別物ですね、これは。
さぁ、リヴァルにいよいよ終止符か⁉︎そして黎人の今後は…?