周りは皆彼女のことを綺麗と言う。
まあ美人にはなったと思う。
けど綺麗だと僕は彼女には言わない。
彼女にはもっとふさわしい言葉があるのだから。

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どうも、夕です。

今回なんとなしで書いてしまった短編です。

キャラ崩壊しないように心掛けたつもりではいますが、もしかするとしているかもしれません。

ではどうぞー




綺麗と皆は言うけれど

 彼女を一人の女性と認識し始めたのはいったいいつだっただろうか。

 初めは小さな妹のような存在だった。

 彼女と出会うのはいつも家から近くの公園。

 幼い頃は良くも悪くも怖いもの知らずだったので知らない子にもどんどん接していた。

 

 ――俺についてこいよ。

 

 若気の至り、とでも言うべきか。

 思い出すだけでも恥ずかしく、穴があったら入りたい。

 自分にはこんな時代があったのだと本当に不思議で仕方がない。

 今でもこの頃の勢いと度胸が少しでもあればもっとマシな人生を送っているだろうに。

 ともあれ、そんな痛々しい幼少時代に僕は彼女に出会ったのだ。

 

 賑わいを見せる公園。

 誰もが笑顔で過ごす憩いの場。

 そんな場所で、何故か一人でぽつりとベンチに座る女の子。

 周りには自分以外にも子どもはいるのに誰一人彼女に近づこうとしない。

 後々わかったことはそれは領家の娘……端的にいうと彼女のバックにいる両親が恐ろしく子どもたちの親が近寄らせないようにしていたらしい。

 五歳、六歳の子どもには親という存在は神にも等しい存在だ。

 彼らを責めることは出来ない。別に責める気なんてさらさらないのだが。

 子どもの帰宅時間は親が迎えに来るまでというのはどこの世界でも常だ。

 そうでなくても五時くらいが相場だろう。

 日が傾き、紅に染まった空が進むに連れ、一人、また一人と帰っていく。

 また明日、と手を振りながら、遊んでいた子たちも母親の手に繋がれながら公園を後にする。

 遊び相手がいなくなり、僕も家に帰ろうと日の落ちる方へと歩いて行き、ふと公園を振り返った。

 活気溢れていたその場には静寂しかなかった。

 

 いつしかいるのは自分と彼女だけだった。

 ――あの子は帰らないのかな?

 確かそんな疑問を感じたような気がする。

 そんな大それたことは考えていなかったはずだ。

 何せ当時の僕はもの凄くバカだったから。自分は凄いだろ、と御山の大将を張ることしか考えてなかったのだ。ああ恥ずかしい。

 十年以上前だ。仕方ない、子どもだったのだと言うしかない。

 とまぁ、そんな痛い子どもだったわけで、一人ベンチで俯く女の子がいたら声を掛けなければいけないと思っていたような子どもだったわけなので。

 

 ――俺についてこいよ。 

 

 そう言って僕は彼女に手を伸ばしていた。

 

 

 

 第一声が俺についてこい、というのは終わってると三十路手前の今では思う。

 けど当時の彼女は見た目年下のように見えたし、自分より弱い人間に見えたのだ。

 実際彼女の方が歳は下だった。立場には天と地の差があったけれども。

 

「……え?」

 

 僕の声と、視界の端から見えたであろう手を見て顔を上げる少女。

 事態を全く把握できていない、少し不安で、それでいて不思議そうな表情。

 綺麗な金髪にクルリとした大きな瞳。容姿端麗の生き写し。

 ああ白状するよ。子どもながらに可愛い子だと思ったさ。

 その姿に一瞬頭が真っ白になって――

 

「おかあさまがしらない人についていっちゃいけませんといってました」

 

 一気に顔が熱くなったのを覚えている。

 けど無謀と勇気をはき違える当時の僕八歳はそんなことで退却せず言葉を繋げていった。

 

「し、知らない人じゃないだろ。お前いつもここにいるし、こんな時間まで一人だし。まだ帰らないんだろ?」

「かえってもおかあさまもおとうさまもおしごとでいないから」

「俺だってそうだ!」

「え?」

 

 我ながら意味も分からないことをペラペラと言い放ったものだ。

 けど嘘やいい加減なことばかりでもない。

 僕の両親も教会に勤めていて夜遅くに帰ってくることが殆どだった。

 それが彼女に関係あるかといえば毛ほどもないのだが。

 少女の都合なんて全く考慮に入れていない最低行為。

 けどこの頃の僕は必至だったことだけは覚えてる。

 

「だからほら!」

「きゃ……!」

 

 そう言って僕は半ば強引に少女の手を掴んだ。

 それからは僕が主導になって遊びまくった。

 まあ日はもう暮れかかっていたのでその日はそれほど長くはなかったが。

 けど少女も喜んでくれたみたいで、僕自身も僕の後ろにちょこちょこついてくるやつがいるということが、子分が出来た気がして凄く嬉しかった。

 日が落ちきる前に僕たちは別れて、家へと帰った。

 少女――カリムと“また明日”と挨拶を交わして。

 その日帰宅が遅れて僕は両親にこっぴどく叱られた。

 

 

 ◆

 

 とある建物のとある執務室。

 

「ええ、わかりました。それではお願いします」

 

 そう言ってカリム・グラシアは通信を切った。

 少々やっかいな議案だったがなんとか上手くことを運ぶことができ、安堵の息が漏れる。

 ちょうどその時、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。

 

「どうぞ」

「失礼いたします」

 

 そう言って入ってきたのは修道女の衣服を着た短髪の女性、シャッハ・ヌエラ。

 その手にはお茶のセットを載せたお盆が持たれている。

 

「騎士カリム。良いハーブが手に入ったのですが、一息入れてはどうですか?」

「ええ、丁度一息入れようと思っていたところだから。いただくわ」

 

 そう言って微笑むカリムにシャッハは慣れた手つきでカップを並べ始める。

 そんなシャッハの姿を視界の隅に収めつつ、カリムは先ほどの案件の資料に目を通す。

 

「それは……ああ、またあの件ですか」

「ええ、全く困ったものだわ」

 

 シャッハもカリムの抱えている案件の一つに覚えがあるらしく、苦い顔をしている。

 その案件というのも、一年ほど前にミッドチルダで発生した未曽有の大災害、J.S事件での聖王の聖遺物に関してのこと。

 現在高町なのはの娘として育てられている高町ヴィヴィオ。

 彼女は古代ベルカ戦乱当時の聖王オリヴィエのクローンである。

 倫理的な問題を始めとする様々な問題からクローン作成は禁止されている技術で、更にそれが聖王のクローンだ。そんな聖王の遺伝子の入ったものが一般に流通されることはなく、此度の事件では聖王教会から盗み出された聖遺物からのものだということが発覚した。

 事件解決当初は時空管理局も最高評議会の三人や地上部隊のトップであるレジアス・ゲイズ中将の死亡と慌ただしく、他に構っている暇がなかったのだ。

 それが今ようやく少し余裕が生まれたのか今頃になって責任要求を求めてきているのだ。

 正直その件に関しては事件終結当初に簡易ながら説明させてもらい、管理局側にも同意をもらっていたのだが、それを今またぶり返してきている。

 

「こちらからは何度も説明したというのに、それだけでは納得が出来ないんですって」

聖王教会(こちら)側にも責はありますがそれは管理局(あちら)側も同じだというのに、棚に上げ過ぎではないでしょうか」

「まあ管理局も今が大事な時期ではあるし、気持ちがわからないわけでもないのだけど」

「そのしわ寄せがくるのは騎士カリムなんですよ? 出るところは出ないともっと面倒なことになっていきます」

 

 聖王騎士の騎士でありながら管理局の少将としても籍を置いている彼女の立ち位置は謂わば二つの勢力の連絡橋。様々な案件が彼女を通じて執り行われている。

 元々使命感の強い女性なだけに仕事で手を抜くことはなく、どの仕事も完璧に行ってきている。

 そんな彼女だからこそ、秘書を務めるシャッハや義弟であるヴェロッサは彼女の身を案じて休むように言うのだが、ワーカーホリック気味のその精神はちょっとやそっとでは動じず、ヴェロッサに対しては『貴方ももう少し真面目に働いてはどうなの?』と逆に諭されてしまう始末。

 

「けど大丈夫よ。ほどほどにして上手く躱してみせるわ。最悪の場合はやてやハラオウン提督に頼んでみるつもり」

 

 にっこり微笑するカリムにシャッハは深く溜息を吐く。

 気味ではない。ワーカーホリックそのものだと。

 シャッハはカリムの秘書であり、護衛。

 言い換えるならば聖王様を除けば唯一の主だ。

 だからこそ主の間違いは部下が正さねばならず、これは自分の役目なのだとシャッハもここぞとばかりに言い放つ。

 

「だいたい騎士カリムはもう少しお休みになるべきです。業務に対する姿勢は素晴らしいですし、ロッサにももう少し見習ってほしいところですが、貴女はもう少しご自身のお身体を大事にするべきです」

「……はぁ」

 

 また始まった、そう思うのも何度目になるのだろうか。

 幾度となく繰り返された問答に対してカリムは用意されたお茶を口に付ける。

 

「あら、美味しいわねこの茶葉。一体どこのものなの?」

「あ、はい。これは先日高町一尉に頂いた地球の茶葉で――って、誤魔化さないでください!」

「別に誤魔化したわけじゃないのよ。本当に美味しいんですもの。それに私だって十分に休んでるのよ? 今こうやってシャッハとお茶だってしてるじゃない」

 

 仕事の合間にティータイムを楽しめる職場なんてそうそうあるものじゃない。

 それにだいたい自分のペースで進められるものも多いのでそれほど気を張ることもない。カリムからすれば別段不満があるわけではない。

 むしろあるとすれば――

 

「これは休憩であって、私は貴女に休暇を取って欲しいんです!」

「急にどうしたの?」

 

 バン、とテーブルに乗り出すシャッハの勢いに危うくカップが倒れそうになる。

 いつもならここで溜息を吐いてお小言一つで終了するパターンだ。

 それがいつになく引かないシャッハ。

 あまり見ない彼女の表情に疑問の言葉を口にする。

 

「いや、その、たまには外に出てみるのもいいかなーと思いまして」

 

 その疑問に対してシャッハは何故か突然口をごもり始めてしまう。

 ……これは何かあったわね。

 めったに見ないシャッハの行動と言動に訝しむカリム。

 だからここは一度罠を仕掛けてみることにした。

 

「けど確かにシャッハの言う通りかもしれないわね。日の光の下を歩くのも気持ちが良いしね」

「そ、そうですよ。そうすべきです!」

「けど具体的には何をすればいいのかしら。普段しないことだからわからないわね」

「買い物でも散歩でもなんでもいいんですよ。街をぶらつくだけでも全然違いますし、もしかしたら素敵な殿方からアプローチがあるかもしれませんし」

「なるほど……そういうことね」

「なるほどとは一体何を……ってハッ!?」

 

 マズイ。

 言葉には出していないがシャッハの顔がそう考えていることを如実に表している。

 対して彼女と対面している女性、カリムは笑顔。

 綺麗で満面の笑み。

 しかしどこか冷たい、コキュートスマイル。

 シャッハの表情が一気に青くなっていく。

 

「シャッハ? 一体だれに言われたの?」

「いや……それは……」

「シャッハ~?」

「……枢機卿です」

「あの人は……本当に何を言って……」

 

 額に手を当て、怒りを通り越して最早呆れている。

 何かと世話を焼いてくれる老年の枢機卿。

 顔を合わすたびに身を固めろやら良い男はいないのかやら聞いてくる。

 正直うんざりしている。

 

「……しかし枢機卿の言うことにも一理あるわけで……もうあと少しでみそ――」

「シャッハ? ちょっと外してくれるかしら? 私ももう少し休憩するから」

「は、はい……」

 

 額に汗を垂らし、蒼白の表情のままシャッハは部屋を後にした。

 

「はぁ……全く」

 

 本日何度目かわからない溜息を吐きながらも冷たくなったお茶を飲みほし、彼女も執務室を出た。

 

 

 部屋を出てカリムは教会内の敷地内を移動する。

 手入れの行き届いた庭を眺めながらも、心ここにあらずの様子。

 思考の中身は先程言われた言葉の数々。

 

「別に私だって興味のないわけではないのよ……」

 

 カリムだってれっきとした女性だ。

 勿論花嫁衣装はきてみたいし、結婚もしたい。

 歳も認めたくはないが……いい歳だ。

 知人であるクロノ・ハラオウンなんて自分よりも年下でもう二人の子どもまでいる妻子持ち。

 そろそろ本気で考えなくてはならないとは思っている。

 

「それに……」

 

 ……気になる人ならその……いる、んだし。

 心の中でそう思っただけなのに身体が熱くなるのを感じた。

 幼い時。

 両親は聖王教会でも高い地位にいて、家に帰ってくるのはいつも遅かった。

 帰れば家政婦の人はいるが、あくまで家政婦。

 シャッハもまだいなかった当時、カリムは本当の意味で一人だったのだ。

 いつも一人ぼっちで公園にいたころ。

 内気だった彼女は自分から声を掛けることも出来ず、それでいて有力者の両親を恐れた親たちのおかげで誰一人彼女に近づこうとする者はいなかった。

 そんな中で、初めて。

 初めて声を掛けてくれた男の子。

 

 ――俺についてこいよ。

 

 そう言ってくれた子がいたのだ。

 正直何を言ってるのかわからなかったし、知らない男の子に声を掛けられたのは少し怖かった。

 大人になった今思い返してみても随分不審な子だったと思う。

 しかしそれでもカリムは救われたのだ。

 小さな手を取り、強引に引っ張って行ってくれたその姿が彼女の脳裏に焼き付いている。

 あの頃の少年は今はもういない。

 俺から僕に、口調も変わったし、雰囲気も随分変わった。

 大人になった、立場が変わってしまった、理由は多々あるだろう。

 それでも会いにいけば一緒に笑ってくれる。あの思い遣りのある心は変わっていない。

 聖王教会の騎士も彼の前ではただの一人の小娘にされてしまう。

 けど彼と一緒の時間は心地良いかけがえのないもの。

 シャッハやヴェロッサは大切な人だ。

 はやてもまた大切な友人。

 けど彼もまた違うベクトルで大切な、かけがえのない人なのだ。

 アプローチはかけているつもりだ。

 時間を見つけては教会の代表が一般の司祭に会いに行っているのだ。

 普通わかってくれてもいいだろう。

 枢機卿はどうだかわからないがシャッハはカリムの気持ちを知っているとみていい。

 今日のこともその後押しだと今なら思える。

 だから思う。

 

「貴方は私のことをどう思っているの?」

 

 昔馴染みの妹?

 

 仕事上の上司?

 

 それともーー

 

 いつしか目の前には扉がある。

 扉に手をあて、一度深呼吸。

 今日は……もう少し頑張ってみよう。

 意を決し、押戸の扉を開くと日の光りが彼女に差し込み、その輝きで一瞬視界が白くなる。

 なにも見えない光りの向こうで、

 

 ーーなんだ、また来たのかい?

 

 一番聞きたい声が聞こえてきた。

 

 

 ◆

 

「なんだ、また来たのかい?」

 

 日の光りで眩しそうにしている一人の女性。

 彼女と出会った時のことを思い出していたら丁度その本人がやってきた。

 度々やってくる彼女に僕はいつも同じ言葉で迎える。

 

「なら次は貴方の方から会いに来てくださいね」

「おいおい、無茶言うなよ」

 

 こちらは一介の司祭で、彼女は言うなればこの教会のトップに近い人だ。ただの昔馴染みというだけで気軽に会いに行ける立場じゃない。

 

「昔は私の家にまでやってきて強引に連れ回してくださったのに」

「やめてくれ。あの頃の僕はいろいろと酷かったんだから」

 

 すっかり立場が逆になってしまった今では到底考えられない所業だ。

 大して何もできないくせに態度だけは一人前。

 相手の都合など考えもせず随分と彼女を振り回したものだ。

 

「あれだよ。今風に言うなら僕の黒歴史。若さゆえの過ちと言うやつさ」

「あら、私はすごく楽しかったですよ?」

 

 苦い顔をする僕と笑みを浮かべる彼女。

 そう言って、僕たちはどちらからともなく笑い合う。

 

「ごきげんよう」

「ああ、ごきげんよう」

 

 この挨拶をするたびに自分には似合わないなと思ってしまう。

 教会での挨拶はだいたい誰もが『ごきげんよう』だ。

 今でこそ慣れたが昔はむず痒かったものだ。

 詰まりながら言う僕の姿を何度笑っていたことか。

 

「まあとりあえず座りなよ。どうせお茶は飲んできたんだろ?」

「えぇ、貴方の入れたお茶はとても飲めたものじゃないから」

「……僕は珈琲党なんだよ」

「今度シャッハに入れ方を教わってみたらどうですか?」

「シスターシャッハに? 彼女はスパルタらしいしね、遠慮しておくよ」

 

 どうせ叱られるだけ叱られて投げ出してしまうだろう。

 彼女のことだ、そんなに時間があるわけじゃないだろうし、さっさと本題に入ってしまおう。

 

「それより今日は何を愚痴りにきたんだい?」

「……なんだか私がいつも貴方を愚痴のはけ口にしてるみたいな言い方ね」

「違うのかい?」

「……ちがわないけど」

 

 少し頬を膨らませながらそっぽを向く。

 普段の彼女は物腰も穏やかで仕事のできる優しい大人な女性として見られがちだが、そんなことはない。

 確かに仕事は出来るし大人にもなったと思うが、こうやって可愛いところも多い。

 綺麗という人ばかりだが、僕は可愛いとしか思わない。美人になったとは思うが。

 全く、容姿にしても性格にしても周りを見る目がないと言うべきか、それとも彼女の猫かぶりを褒めるべきか。

 

「それで今回はアレかな? 少し噂になってるJ.S事件時の?」

「えぇ、本当に困っちゃうんですよ? 第一、聖遺物を奪われたのも私がまだ子どもの時ですよ? そんなこと私に言われたってどうしようもないじゃない。そう思わない?」

「そうだね。他の人のツケを払わされているようなものだし」

「それで私が責められるのって本当に理不尽だと思うのよ。それだけじゃないのよ? 他にも――――」

 

 やっぱり幾つになっても女の子はお喋り好きだとつくづく思う。

 幾つになっても、とは言ったが出会った当初は内気でもじもじしてばっかり。気兼ねなく話すまで随分と掛かったものだ。

 それが今では意気揚々と話している。

 それを見るたびに人は変われば変わるものだと思うし、元気な姿が一番いいなとも思う。

 ……まあそれはいいのだが、一介の司祭に話していい内容を超えるのはやめてほしい。

 たまに本当に洒落にならないことをさらりと言ってくるのでこっちは堪ったもんじゃない。

 いつも聖王様に『私に罪はありません』と懺悔している僕の身にもなってほしい。

 

「――――って、聞いてるの?」

「ああ、聞いてるよ。君も苦労してるね」

 

 ごめん、話半分だったよ。

 

「……もぅ、そんな風に私の話を聞き流す人なんてここでは貴方くらいなものですよ?」

「それは大変失礼しました、騎士カリム……これでいいかい?」

「む……やめてください。貴方にそう言われるのはやっぱり嫌です」

「嫌って何が嫌なんだい?」

「そ、それは……」

 

 少し頬を赤く染めながら、両手の指をツンツンと合わせながらなんだかごにょごにょ言い始めているが、全然聞こえない。

 たに、ぎょう、がいや、だ?

 全くわからない。

 でもまあそんな姿も可愛いわけで。

 

「こういう姿を見れるだけでも僕の人生は得なのかな?」

「え? こういう姿って……ハッ!?」

 

 自分の姿を見直し、らしくない姿だと悟ったのか、顔がさらに赤くなり、その顔を両手で隠す。

 やっぱり見ていて飽きない。

 

「…………そうやって私の調子をいつも狂わせる」

「僕のせいなのかい?」

「貴方のせいです!」

 

 理不尽な物言い。

 やっぱり物腰が穏やかなんてとんでもないと自身の正しさを再確認する。

 

「……謝ってください」

 

 若干瞳に涙を溜めながらそんなことを言ってくる。

 泣いちゃってるのは予想外だけど、彼女のウソ泣きにはよく騙された経験があるのでそうは折れない。

 

「えー」

「謝ってください!」

「無礼を働きましたことを赦していただけないでしょうか? 騎士カリ――」

「……まだ、そんな、こと、言うんですね」

 

 こちらを親の仇のように睨む。

 よく見ると目じりが赤い。

 まさかホントに泣いているのか?

 まずい。

 本当に泣かせてしまったようだ。

 なんとか平常心を保っているように見せるが、内心かなり焦っている。

 彼女が泣くなんていつ振りだろうか、などと考える余裕もない。

 

「あれ、ですか? わ、私が……私が、貴方の上司だから、ですか? だからそんなこと言って……いじわるするん、ですか?」

「いや、ごめん。すまなかった。謝るから許してくれないか?」

 

 なんだかおかしな方へ話がずれているような気がするが、答えないわけにはいかない。

 

「まあ確かに君が上司になっていろいろと思うところはあったよ」

 

 何せ小さい時は彼女を子分として扱っていたのだ。

 今では彼女の使いっパシリにされてもおかしくない立場の差。

 自分のふがいなさに思わず涙が出そうだ。

 

「けど今だってこうやって話せてる。なら良いんじゃないのかな。立場は変われど僕は僕だし、君は君だ。そうだろ、“カリム”?」

「……貴方はずるいです」

 

 そうだね。僕もそう思う。

 けどこれで君は泣き止んでくれるんだから別にズルでいいさ。

 

「だから許してくれないか?」

「ヤです」

 

 どうやら止まったのは涙だけでまだ機嫌は直っていないらしい。

 ぷいっと明後日の方へと顔を向けてこちらを見てくれない。

 

「ならどうしたらいいんだい。僕にできることならなんでもやるからさ」

「……おんせん」

「え?」

 

 ぽつりと飛び出した言葉は突拍子もない言葉だった。

 

「温泉……一緒に行ってください」

「は? 温泉って、あの温泉?」

「はい。効能いっぱい疲れも吹っ飛ぶ温泉です」

 

 いや、効能とかは知らないけどさ。

 

「いやぁ、いくらなんでも突然すぎるだろ。第一に君だって仕事があるだろう?」

「シャッハには休暇を取るように言われました」

「……あー僕にも仕事があるわけで」

「職権乱用します」

「……おいおい、いいのかそれで」

「だいたい、貴方はお仕事なんて大してやってないじゃないですか! せいぜい学院での講義でたまに歴史を教える程度でしょ!」

「うっ……で、でもそれも大事な仕事」

「貴方よりシャッハの方が上手く教示できます」

「ガハッ!?」

 

 本日一番のダメージが通ってしまった。

 しかも暴論に正論混ぜてきたから性質悪い。

 いやまあ確かにそうなんだけど。

 

「……なんでもするって言いましたよね」

「……はぁ」

 

 僕は観念したように、深くため息を吐き、

 

「……わかった。行こう」

 

 彼女の要求を渋々飲んだ。

 

「ホントですか?」

「ああホント」

 

 そんな涙の溜めた瞳の上目使いなんてされたら断れないじゃないか。

 

「ホントのホントに?」

「男に二言はない」

 

 そんなに信用ないかな僕は。

 しかし僕の言葉にようやく納得したのか、次第にぱぁぁっと表情が明るくなり、

 

「やったぁ!」

 

 などと普段では絶対聞けないような喜びの声をあげていた。

 そんなに彼女は温泉に行きたかったのだろうか。

 

「ほら、決まったことだしそろそろ仕事に戻らないと」

 

 このままでは終始彼女のペースに乗せられかねない。

 自覚はしていたつもりだけど、どうやら思っていた以上に僕は彼女に甘いようだ。

 

「そうですね」

 

 そう言って、彼女も席から立ち上がり、執務室のある方へと歩み始め――ふと立ち止まったと思うと、くるりとこちらに振り向き――

 

「約束、ですからね!」

 

 そう言った彼女の笑顔は何よりも素晴らしくて――

 

「ああ、約束だ」

 

 何よりも可愛いと、そう思ってしまう。




どうでしたか?

今作はただただ私の妄想を垂れ流しただけですのでそれに共感していただけたり、良かったと言っていただける方が一人でもいれば幸いです。

カリムさんヒロインの話が一つでも多く出来ればいいなと思っていますw

誤字脱字やアドバイス等ありましたらご鞭撻お願いします。

ではー

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