その少女には、記憶がなかった。
六年ほど前からの記憶が、綺麗さっぱり消えていた。
そのせいで、辛いことが多かった。
幼い頃は記憶がないことをバカにされ、親に「なんで私には記憶がないの?びょーきなの!?何で、私だけ?」と泣きついたことも、多々あった。
そんな少女、ソナタは今、阿座河村にいた。。
"それ"を見つけたのは、ほんの偶然だった。
その日は親が仕事の関係で遅くなっており、ソナタはたった一人で留守番をしていた。
夕飯を食べ終え、さあテレビを見ようと思い立ち上がった、その時。
ピカッ
ガラガラガラッ
ドーーーン!!!
突然、強烈な光が家を包み込んだ。
その次の瞬間には、地響きのような大きな音が響き渡った。
パッと家中の明かりが消え、辺りは暗闇に包まれる。
急なことだったこともあり、雷が落ちたことに気づくまですこし時間がかかった。
「きっ……きゃあああああ!!!」
雷に気づいたソナタの、悲鳴が家中にこだまする。
ソナタはすかさず父親の書斎に入り、頭から毛布を被って机の下に潜り込んだ。
「もうやだ。。早く帰ってきてよぉ~……。。
毛布の端を握りしめながら震えていたソナタは、机の奥に何かが落ちていることに気がついた。
「・・・日記?お父さんのかな」
日記を拾い上げたソナタは、戸惑いつつも日記を開く。
そこに書かれていたのは、父親ではない誰かの文字だった。。
『3がつ6にち はれ
きょうは、ソナちゃんといっしょにおはなつみをしました。
おかーさんにおしえてもらったおはなのかんむりをつくってあげたら、ソナちゃんはすごくよろこんでくれました。
あしたは、なにしてあそぼうかな?』
「ソナちゃんって、お母さん達がよく呼んでた私のあだ名だ。。何で?この日記を書いた人は、私のこと知っているの?」
驚きを隠せないまま、日記を読んでいく。
読めば読むほど、疑問と好奇心が膨らんでいく。
だが、それと同時にこの日記を書いた人は、自分の失われた記憶と何か関係しているのだと確信した。
そして、日記の最後に書かれていたのは。
『8月31日 雨
泣かないで、ソナちゃん。僕は大丈夫。
ソナちゃんは、もう戻っては来ないけれど。
二度と会うことは叶わないけれど、僕はもう泣かないから。
大丈夫。守ってあげる。今度こそ、必ず。
だから、もう。
帰ってこないでね?ソナタちゃん』
日記の裏表紙を見れば、そこには"阿座河村"という言葉。
日記から顔をあげたソナタの目に宿るのは、ひとつの揺るがない決意。
~行こう、阿座河村へ。~
いつの間にか、雷はやんでいた。。
『おいで。私のもとへ。お母さんのもとへ』
『愛してあげる。グチャグチャに噛み砕いて、ドロドロにして、形をなくして。。』
『お腹の中に、戻してあげる。だから、』
~ソナタの命も、頂戴な……?~
次回、シオリとソナタが出逢う。
歯車は、動き始める。。