親子   作:おかぴ1129

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ダークソウルのプレイヤーなら誰しもが知っている、
あの親子のイベントについて書かせていただきました。

名イベントなので非常に難しいとは思いますが、
どうかお手柔らかにお願い致します…


親子

 兜を外した父の頭部を時計回りに捻り、私は父の頚椎を折った。私の両手に骨を折った嫌な感触が残り、父は『ぐえっ』という、断末魔というにはあまりに情けなくて小さな声をもらし、ありえない方向に首を曲げたまま、その場に倒れた。

 

 これで私は、もう13回父を殺したことになる。

 

 倒れた父の身体が、沸騰した水が蒸気になって無くなってしまうかのように、その場から無くなった。私は背後の篝火を顧みた。今確かに殺したはずの父が、兜をかぶった状態のまま篝火のそばに座っていた。これで父は、私が13回殺し、13回生き返ったことになる。

 

 篝火の前に座っていた父は立ち上がり、私を視認した途端、その手に持つ巨大な剣で私に襲いかかってきた。もはや人の言葉とは思えない叫び声を上げ、一切の迷いなく、私に剣を振り下ろした。

 

 私は父が繰り出した斬撃を反射的に盾で弾いた。全力の斬撃を弾かれた父は体勢を崩し、その一瞬の隙に私は父の腹部に自身の剣を突き刺した。その後、突き刺した剣を捻じり傷を広げた後、父を足で蹴り倒して剣を抜いた。

 

 父はまだ生きていたらしく、倒れた後にもぞもぞと立ち上がり始めた。私は緩慢に立ち上がる父の背後に周り、その背中に再び剣を突き立て、剣を捻った。剣が背骨を割り折る『バリッ』という音と、内蔵をかき回す感触が剣を通して伝わり、私は、これで14回、父を殺したことを実感した。今は背中から血を流してここに倒れているが、しばらくすれば父は再び消え、まだ篝火の前に座っていることだろう。

 

 父は不死になった。生来の好奇心と冒険心に抗いきれず、自ら不死になって、このロードランの地にやってきた。

 

 そして、私から母の最期の言葉を聞いた後、このロードランの地下深くの場所…俗に『大樹のうつろ』と呼ばれる地にて、父は絶望し、諦観し、亡者へと堕ちた。

 

―もし父が亡者となったら、父が動かなくなるまで何度でも殺します。

 

 旅の途中、私たち親子を幾度となく助けてくれた親切な方がいた。私は、その方にそう誓った。その時は本気だった。他の誰にもその役目は渡せない。万が一の場合、父を止めるのは娘である私でなければならない。私の責任感と、人として素晴らしい父ジークマイヤーの娘であるという自負が、その覚悟をさせたのだ。

 

 そして、この終着点『大樹のうつろ』で、私は再び父と会った。いや、かつて父であった亡者と相対した。亡者となった父は文字では言い表せないおぞましい声を上げながら私に近づき、手に持っていた大剣を振り回して私に襲いかかってきた。

 

「お父様! 私です!! リンです! お分かりにならないのですか?!」

 

 不死の亡者の相手なら、これまでに私も何度か経験してきた。父の足跡をたどる旅の途中、何度も不死に遭遇し、その都度私はその不死たちを殺してきた。いかに殺しても死なない身体を持っているとはいえ、彼らは所詮は理性を亡くした亡者たち。故郷カタリナで騎士として身を捧げる私にとって、彼ら不死の排除はさして難しいことではない。

 

 だが、やはり相手が父では勝手が違った。たとえその斬撃が、かつての父のそれとは思えないほどの、ただそこにある棒を振り回す蛮族が如き乱暴な斬撃であったとしても……兜の奥底に見える父の顔が、もはや父ではなく干からびたゾンビのような不死の顔であったとしても、彼は父だ。そのことが、私の覚悟を鈍らせ、私の動きを鈍らせた。

 

 一度目は、泣きながら父に剣を突き刺した。父は情けないうめき声を上げながらその場に倒れ、死んだ。

 

 亡者であった父の身体は消え、気がつくと、その場にある篝火のそばに、殺したはずの父が座っていた。幾度となく亡者を殺してきた私だったが、実際に生き返る様を見たのは初めてだった。その不自然で不気味な光景を見て狼狽している私に向かって、父は再び襲いかかってきた。

 

―リン……母さんの言葉を聞かせてくれてありがとう。

 やはりお前は、私の自慢の娘だ。

 

「お父様……申し訳ありませんッ……!!」

 

私は父の斬撃をかわし、続けざまに何度も何度も斬りつけた。斬る度に父の笑顔が頭に浮かび、私はそのイメージを振り払いながら何度も何度も斬りつけた。それが二回目。

 

 三回目は父の斬撃を交わしバランスが崩れたところを、背後に周り首をはねた。四回目は一瞬の隙を付き、父の兜の覗き窓に剣を突き刺し、父の頭部を破壊した。

 

―リン! わしはロードランというところに冒険に行くのだ!!

 

 これは、父が望んだことだ。父が望んだ結果なのだ。娘としてそれは受け入れなければならない。そして万が一、父が人に仇成す亡者になってしまったら、それは娘である私が全力で止めねばならない。これは責務なのだ。父ジークマイヤーを殺し続けることは、娘である私の責務なのだ。そう自身に言い聞かせ、私は生き返り続ける父を殺し続けた。

 

 十回目を過ぎた頃ぐらいからだろうか。私の感覚は除々に麻痺し始めた。殺しては生き返り、生き返っては殺して……その繰り返しの中、私は次第に収穫した小麦の脱穀の動作を繰り返すかのように、父を反復作業の如く殺すようになった。頚椎を折り、内蔵を抉り、背骨を破壊し、腕を飛ばし、上半身と下半身を切断し、口の中に剣をつきたて、何度も何度も父を殺した。

 

 そしてその都度、父は生き返った。どれだけ酷い殺し方をしても、どれだけ父の身体を破壊しても、その次の瞬間父の身体は消え、篝火の前に無傷の父が座っていた。

 

―そうか! リンも騎士となったか!! 父としてこの上ない喜びだ!!

 

 二十回を過ぎた頃には、すでに惰性作業のような状態となっていた。斬撃が来ればそれを弾いた後に致命傷を与えて殺した。背中を見せれば首を折った。距離を取られれば逆に近づき、頭を兜ごと叩き割った。走って近づかれればその足を斬り落とし、身体が倒れたところを、心臓に剣を突き立てて確実に殺した。その頃、私はこの亡者を殺した回数を数えるのをやめた。

 

 もう何回目になっただろうか。亡者は再び篝火のそばに姿を表し、立ち上がって私に近づいてきた。もうこの亡者を殺すのにも慣れた。私は近づいてくる亡者の頭を刎ね飛ばすべく、この亡者の首元を狙い、横薙ぎの斬撃を繰り出した。

 

 フと、足元の砂に足をとられてしまったことで、私の太刀筋がズレた。首を狙った斬撃がうまく入らず、亡者の兜が外れた。兜の下の顔があらわになり、その顔に私の不快感が最高潮に達した。私はそのまま斬撃を切り返し、この亡者の頭に斬りつけた。斬撃は亡者の口から上を斬り飛ばし、その場には、頭部がなくなりその場所から噴水のように血液を吹き出して立ち尽くす亡者の死体と、その足元で両目をガクガクと痙攣させている亡者の頭があった。

 

 これは父ではない。かつて父であったというだけの、ただの亡者なのだ。このまま生かし続けていれば、自身の人間性の飢えを満たすために無辜の人々を襲い、殺してしまう。そうなる前に、私が動かなくなるまで殺し続けなければならない。確実に。

 

 篝火の前で復活した亡者は、また私に襲いかかってきた。

 

―リンに恋人か……いや喜ばしいことなのだが……

 うれしいような……悲しいような……

 

 不意に、父の笑顔が私の脳裏にちらついた。やめて。そんなことをされたら私はこの亡者を殺せなくなる。冷酷に殺せなければ、この亡者は人を襲う。襲わせてはいけない。今は亡者であっても、父にそんなことをさせるわけにはいかない。父は父のまま、葬らなければならない。

 

 父はよく笑う人だった。おおらかで優しくて、怒った時はとても怖くて、でも普段は子供のように無邪気で、私と母をその元気さで振り回す、とても魅力的でかわいい人だった。

 

―なんだリンも眠いのか? お父さんにそっくりだなぁ……

 お父さんもあったかいとこに来るとすぐ眠くなる。

 お父さんもリンと一緒に寝るか……フアアァ……

 

 やめて。お願いだから今は……今だけは目の前のこの人をただの亡者として殺させて。私にこの亡者を父だと思わせないで。

 

―リン……愛しい我が娘……お前が元気でいることが、私の幸せだ……

 

 私は脳裏に次々と浮かぶ懐かしい父との思い出を振り払い、今私の目の前にいる亡者を殺すことに意識を集中させた。亡者……父の斬撃を避け、背後に周り、もう何度目になるだろう……父の頚椎を折った。その瞬間……

 

「リン……ありがとう……」

 

 頚椎が折れる音に混じってかすかに、だが確かに父の声が聞こえた。

 

「お父様……?」

 

父は答えない。そして動かない。

 

「お父様……」

 

父は首を根本から横に曲げた状態で、倒れたまま何も答えない。そして、その身体も消えない。私はやっと、やっと父を殺すことが出来た。

 

「お父様……やっと死ぬことができたんですね……」

 

その時、背後から足音が聞こえた。振り返るとそこにいたのは、私たち親子を何度も助けてくれた、あの方だった。私は、この方に亡者になった父の姿を見せずに済んだことに安堵した。それは恐らく、父にとっても不本意なことだっただろうし、なにより私自身、この方には、父は父として記憶しておいて欲しかった。

 

「父は……この亡者は……もう……動きません……」

 

この方に、私は父の死を報告した。すべてを察していただけたのか、この方はただ私に哀れみをたたえた優しいまなざしを向けた後、何も言わず背後の篝火に腰を下ろしてくれた。

 

 その後この方が立ち去る際に父の形見を渡し、私は故郷カタリナに戻る決心をした。

 

「お父様……カタリナに戻りましょう」

 

私は父の遺体のそばに私の剣を墓標として突き立て、代わりに父の大剣を持ち帰った。カタリナの偉大な騎士ジークマイヤーは……敬愛する私の父は、ジークマイヤーとして、私の父として死んでいったということを伝えるために。そして父は私が殺しきったという事実を、私自身が忘れないために。

 

終わり。

 

 




※諸説あるのは承知ですが、マイヤーさんは死んだという説を取らせていただきました。


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