全く罪のない、むしろ、わたしの願いを聞き入れてくれた神様に理不尽な恨みを晴らし終えた後、幾分か落ち着きを取り戻しかけていた。
そして驚きはしたものの――あの兄でさえも、白夜を目にしたときは珍しく動揺しているようにもみえた――直ぐに「なんで? どうしてここにいるの?」という疑問が生まれた。
なにせ理由もわからずに別居をして、今日まで連絡をとることすら出来なかった弟が目の前、詳しく言えば隣に座っているのだ。
本当ならこのチャンスを逃すようなことはせず、この疑問をぶつけるはずだけど、落ち着きを取り戻しかけていたからこそ、今度は話しかけることに躊躇ってしまっていた。
(どうしてわたしは話しかけるだけなのに緊張しているのよ……!)
落ち着きを取り戻している……だからといって、話しかけるのはまた別問題であることを実感しする。
そんなわたしを余所に、白夜はお母様と親しげ? に会話をしていた。
(白夜のほうから話しかけてくれてもいいのに……!)
二人の間にわたしが座っているのもお構いなく続く会話を聞いてると、胸中に言葉にできないモヤモヤとした感情が生まれ、それが余計にわたしを苛立たせた。
(姉であるわたしのことは無視して、お母様とは話すのね……!)
姉とは思えないような子供じみた嫉妬を込めた視線を向けるも、白夜は反応してくれない。
(あ……!)
ほんの少し。本当に一瞬だけ、こちらを見てくれた……ような気がした。
けれど、たったそれだけのことでも、わたしは嬉しさに舞い上がりそうになる。
(そ、そうよね。白夜だって照れているだけなのかもしれないわ)
いくら双子の姉弟とはいえ、一年もの間離れて暮らしていたのだから、多少意識はしてしまうものなのかもしれない。
この時のわたしの頭は「情けない姉は白夜に愛想尽かされた」という考えをすっかりと忘れていた。
(ここは姉として、わたしの方からリードしてあげる事にしましょう)
「ねぇ白夜……」
「…………」
勇気というのは大げさかもしれないけれど、わたしにとってそれ以上表わしようのない感情を振り絞り、一年ぶりに対面した弟に呼びかけてみる。
しかし、白夜からの反応はなく、彼はずっと窓の外をみたままだ。
意表を突かれた反応に――
(あ、あれ? 聞こえなかった……のかしら?)
そんなはずはない。こんな間近にいるのに聞こえないはずがない。
ということは……考えたくもないが、無視をされてしまったのだ。
(そ、そんな……そんなになるほどわたしのことを……?)
すっかり忘れてしまっていた「白夜のわたしに対する感情」を思い出し、またもや理不尽だと思いながらも、八つ当たりをするように睨んでしまう。
(いくらわたしのことが嫌いだと思っていても、せっかく再会したのだから、少しは反応ぐらいしてくれてもいいじゃない……!!)
愛していた弟に反抗期ではない反抗をされ、姉としてのプライドはすっかりズタボロにされる。
わたしは泣いてしまいそうになるのを何とか堪え、もう一度だけ話しかけようと思った。
そう決意をした直後、それは着陸のアナウンスに邪魔されてしまう。
(もう! どうしてこうタイミングが悪いのよ……!)
まだ旅行先に着いていないにも関わらず、幾度も心を揺さぶられ振り回されたわたしは、すっかりと疲労困憊になってしまっていた。
◆◇◆◇◆
到着ロビーを抜け、会員制ティーラウンジを出たところで、既に荷物を手に持って待機していた兄さんと合流する。
(そっか。ガーディアンってこういうもだったのか)
ガーディアンとはその名の通りガードする相手に四六時中くっついているものだとばかり思っていたのだが、どうやら認識違いのようだった。
必要のないところは身を引き、その他は常に共にいる。
何故、兄さんも一緒のシートに座らなかったのだろうと思っていたけど、それは今回、母さんや俺がいたから兄さんはガーディアンとして必要ないと、母さんがそう判断したからに違いない。
そうなると、使用人のように荷物を持ち待機していた兄さんの対応にも納得がいく。
反面、その姿はあまり目にしたくないものだった。
(本当なら兄さんがこんな風になる必要なかったのに……)
その姿は、より一層、"一人だけ何も失っていない"ということに罪悪感を募らせるには充分に充分すぎるものだった。
◆◇◆◇◆
今回滞在するのは、恩名瀬良垣にある司波家の所有する別荘だそうだ。
こんな場所にまで別荘があることを全くもって知らなかったのだが、その俺の心中を察した母さんが、この別荘は今回の旅行のために、父さん――司波 龍郎が購入したことを教えてくれた。
というのも、母さんは人が多いところが苦手である。それで父さんが急遽手配したのだろう。その行動は一見、妻想いの心優しき夫のように思えるかもしれないが、俺たちからすれば、愛情を金で賄えると考えているのは明白だった。
父さんも若い頃は、魔法師としても規格外のサイオン保有量から、その潜在能力を高く評価されていた魔法師だったらしい。
しかし、今の魔法技術体系においてサイオンの保有量は、魔法技能の優劣を左右するものではなくなっている。
結局のところ潜在能力を顕在化させることのできなかった父さんは、魔法師としての道を諦め、今では母さんの実家が作った会社の役員に収まっている。
そういった経緯があることから、母さんに対して引け目に感じる気持ちはわかるが、そのお金も地位も母さんを娶ったことで手に入れた物である。
息子としてはもう少し頼りのある姿を見せて欲しいものだけど、今更そう思ったところでどうしようもないのも事実。結果、父さんことについては、諦めるほかない状況だった。
「いらっしゃいませ、奥様。深雪さんと白夜君に、達也君も良く来たわね」
別荘で出迎えてくれたのは、一足先に来て掃除や買い物を済ませておいてくれた桜井 穂波さんだった。
彼女とも実に久方ぶりの再会になるが、容姿などは以前と変わらず若々しいものだった。
「さぁ、どうぞお入りください。麦茶を冷やしておりますよ。それともお茶を淹れましょうか?」
「ありがとう。せっかくだから麦茶をいただくわ」
気が利くというか、侍女として完璧な配慮ができる彼女は、俺たちにまで何を飲むか訪ねてくれた。俺としても暑さで火照った身体を冷やされた麦茶で潤したいと思っていはいるのだが――
「…………」
案の定、着陸してからここまでの道中、にらみつけるという案外馬鹿にできない技を放っている姉さんのおかげで精神的疲労のほうが大きい。やめて、これ以上俺の防御力は下がらないよ……。
「穂波さん。俺の部屋の場所を教えてほしいんだけど?」
「はい。えっと、白夜君の部屋はですね~……」
彼女から場所を教えてもらった俺は、即座にこの場を退散することにした。
「びゃ、白夜君。お茶は?」
「ま、待って白夜……!」
背後から聞こえた、姉さんや穂波さんの呼び止める声は聞こえないふりをして――
(どうしよう。これ、あとで怒られるパターンだよね)
せっかくの旅行だけど、なるべく自室からはでないようにしよう。別荘に到着して数分後には引きこもり宣言をする俺だった。
そろそろ戦闘シーンが書きたくなってきました、マーボーです。
ではさっそく感想の謝辞になります。
佐天 様、感想ありがとうございます。
今後は展開を速めていこうと思いつつ、プロットの変更を行なっています。
どうなってしまうことやら……。
では、次話も宜しくお願い致しますね。
感想もお待ちしておりますよ~。