魔法科高校に訪れた白い夜   作:マーボー

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第11話:対話

 

熱いシャワーが肌の上ではじける。

撥水性のクリームを落とすのも忘れて、わたしはその熱を感じていた。震え出しそうになる身体を温めるために。

 

「どうしてなの……」

 

白夜と再会したいという願いがようやく叶ったというのに上手く話すことすら出来ない。思うようにいかない現実に、心が締め付けられるような感覚を覚えていた。

それと同時に、散歩の時にあった出来事が更にわたしを苦しめる。

 

「なんで……」

 

シャワーを頭からかぶる。

熱い雫が顔を伝い、目尻と目元で別の雫と混じり合う。

 

「なんでこうなっちゃったの……」

 

涙の理由がわかるだけに、これからどうすればいいのかわからなくなってしまう。

混乱した頭の中では、白夜と兄が一緒に居た光景がフラッシュバックしている。

あの光景を見た途端、わたしは自分でも驚くほどの声をだしたことを他人事のように思っていた。

今までにはないし、これからも出すことはそうないであろう怒声はわたしの本心を伝えてくれた。

それでも、白夜からは何も言ってくれない。

諦めて横切った時に、背後から小さな謝罪の言葉が聞こえたけど、わたしが聞きたいのはそんな言葉じゃない。

 

「何故……なんでよ……」

 

兄のこと、白夜のこと。

二つの苦悩に悩まされているわたしの口からは、さっきと同じように本音が漏れ出るが、誰もそれには答えてくれなかった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

兄さんと自室へやってきたはいいものの、話の切り出し方がわからずに黙してしまっていた。

対面に座る兄さんも何も言わずに、こちらに視線を向けている。

その瞳で俺の何を見ているのかはわからないけど、何かを観察しているようにも思えるその視線もまた、口が開きにくくなっている要因でもあった。

 

「ん? あぁ、すまんな。話し出しづらかったか」

 

俺の様子を見て察してくれたた兄さんの視線が、先ほどまでとが違った優しさを感じさせるものへと戻る。

今の言葉からわかるとおり、兄さんの俺に対する話し方は姉さんへのものとは違っていた。

まるで兄弟として、弟として扱ってくれているように思える。

 

(まぁ、本当に想っているのは姉さんに対してだけなんだけど)

 

それでも、体面上とはいえ弟として扱ってくれると言うことは、まだ現段階では俺のことを恨んでいたりする訳じゃないことが窺えた。

もしかしたら今までの推測は間違っていたのかもしれない。

 

なにせ、兄の主な衝動はかき消されているのだ。

つまり、俺が兄さんを出し抜いた形で魔法を得ようと、それが姉さんに危害を加える物でない限り、どうでもいい――即ち、関心がないからこそ恨んだりしないのではないだろうか?

 

「じゃ、じゃあ話すよ――」

 

ここにきてそう思い至ったことで、俺は臆する気持ちを前向きなものへと変えて話し始めた。

まずは実験を受けた経緯と、その後の生活。

なんで真夜さんの家に住むことになったのか、二人に対して抱いていた不安や罪。

 

少し捲したてるようになってしまったが、全てを話している間も兄さんは表情一つ変えずに聞き入っていた。

途中、俺が別居するあたりの時に、少し表情が動いたような気がしたけど、それはたぶん気のせいだろう。

 

そして話し終えた今も、兄さんは何も喋らずに、黙したまま腕を組んでいた。

 

「以上に、なります……」

 

話している最中は一種のアドレナリンのような物のおかげか、軽快に喋ることが出来たけど、話し終えた今となってはとうとう話してしまったという不安で全身が硬直するのがわかる。

 

もしかしたらまだ話さない方が良かったのでは?

兄さんは今の話を聞いてどう思っているの?

やっぱり兄さん達はそのことを既に知っていて、俺のことが嫌いなの?

 

様々な不安が入り交じり、胸中に形容しがたい感情が生まれ、身体中をまとわりついてくる。

額には脂汗が浮かび、次第に呼吸が荒くなってきていた。

 

(怖い怖い怖い)

 

普段、母さんや真夜さんたちには強がってみせてはいるけど、兄さん達を相手にするとその虚勢はなんの意味も成さない。

昔の……子供のままである自分が出てきてしまうのだ。

だからこそ、これまでのように恐怖心を抱いて避けたり離れようとしてしまう。

これでは悪いことをして親に見つかりたくない子供そのままだ。

 

そして、悪いことをした子供の時分が自白したのだから、この後の展開は決まっている。

 

(きっと――いや絶対に、怒られる)

 

そう思った瞬間、兄さんが口を開いた。

 

 

 

「白夜。自分を追い詰めるのは辛かっただろう」

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間、俺は兄さんへと視線を向けた。

 

「何をそんなに驚いている。俺や深雪はお前のことを恨んだりしていないよ」

「で、でも、だって……」

「そもそも、俺のことはもう知っているだろう? 白夜には悪いが、俺が本当の意味で想うことが出来るのは深雪だけだ。だから白夜のことで恨んだりすることはまずない」

「…………」

 

気がついたことではあるけど、本人から口にされると答える物がある。

俯き掛ける俺を見た兄さんが慌てて謝罪してくれ、そのまま話を続けた。

 

「深雪に関してもそうだ。なにせ、あの子は弟のお前のことを溺愛しているかな。仮に俺のことを知った上でお前のことを知っても恨んだりはしないはずだ」

「それは……わからないよ」

 

兄さんの本心がわかった今でも、姉さんへの不安までは拭いきれない。

それにさっき怒らせてしまったばかりなのだ。

そのことで余計に――

 

「恐れるな。お前の姉はそこまで器が小さな子じゃない。それは接してきたお前自身も理解しているだろう?」

 

俺の思考を読んだ上で被せるように放った兄さんの言葉は俺の心に響いた。

姉さんのことを敬愛している自分が、姉さんのことをちゃんと理解できていなかった。

理解しないようにしていたことに気がついたのだ。

 

「お、俺……どうすればいいのかな」

「簡単な話だ。深雪に今の話を聞かせた上で謝ればいい」

「お、怒られたりしないかな?」

「お前がちゃんと話をする事が出来れば問題ないさ」

「話を聞いてくれるかな?」

「そこは深雪次第だが、お前の話なら聞いてはくれるだろう」

「…………」

 

ここまで話したことによって、だいぶ決心し始めてくる。

兄さんにお膳立てしてもらったが、もう前のようにただ逃げるだけの思考は既になくなっていた。

 

「兄さん。俺、これから姉さんと話してくるよ」

 

時刻はまだ16時を回っていないし、さっき向ったであろう場所からして、もう自分の部屋へ戻っているだろう。

 

「俺もついて行こうか?」

「ううん。大丈夫」

 

兄さんに礼を述べながら、一人で自室を後にした。

 




更新が遅れてしまいました。スンマセン!


にしても今回の話は……まぁこうなりますよねって感じです。
作中で白夜も勘づいていましたけど、達也が白夜のことを恨む理由があるわけないですよね。

なので達也との和解は結構あっさりめになってしまいました。
深雪とはどうなることやら……。


さて、感想をしてくださった方々に謝辞を。
龍賀様、佐天様、平和島静雄様、7w76kxZ様、GOD様、いつも感想を書いてくださいありがとうございます。
皆様がたの感想を読むのが楽しみになってきているマーボーですので、これからもどんどんお待ちしております!

では、次話も宜しくお願い致します。
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