「転生って知ってる?」
彼女の言葉の意味を反芻する。
(転生って、あの輪廻転生のことか?)
「うん。その転生。とはちょっと違うんだけどね。なんて言えばいいのかな。輪廻転生って言うのはね。本質は変わらずとも、前世とはまったく異なったものなの。たとえば容姿や性別が違ったり、生まれる環境違うし、記憶もリセットされる」
そう。俺の知ってる転生とは、大まかにそんな感じだ。
「けどね。これからしてもらう転生っていうのは、記憶がなくならい。つまり、記憶だけを引き継いで新たな世界で生を享けることなんだ」
「な、なにそれ。そんなことが可能なの!?」
「うん。まぁ、その代わり、生まれる環境とかはあ完全なランダム性で、容姿や性別もどうなるかはわからないんだけど。その辺りは輪廻転生と同じね」
「それでも十分に凄いよ! わぁ、転生かぁ。俺、また生きることができるんだ!」
一度は途切れてしまった人生だけど、記憶を引き継げられるなら、それはある意味人生を再開するといっても過言じゃない。
また生きられる。そのことに俺は有頂天になってしまう。
けれど、レイの表情は浮かないものになっていた。
「転生できるといってもね。それは誰しもが良いものじゃないのよ」
「え――?」
浮かれていた俺は彼女の言葉で一旦冷静な物になる。
「さっきも言ったけど、記憶以外が完全なランダムなの。だから、生まれた先の環境が前世よりも最悪なものかもしれない。生まれた直後に事故ですぐに死んでしまうかもしれない。もしかしたらせっかく転生できても、親の都合でその命を刈り取られるかもしれない。生まれる前にその生を終えてしまうことだってある」
「…………」
そうだった。人が生きるのに、確かな出来事なんてない。
いつどこで何が起こるのかわからないのが人生だ。
それを知らせてくれたレイは、それでもそんな不安な要素を払拭するように、笑顔になる。
「まぁ私がそんなことにはさせないけどね」
「え。でもどうなるかわからないって……」
「だとしても、よ。貴方は絶対に私が幸せにしてみせる」
そういうと、再び俺のことを抱き寄せた。
「大丈夫。今度こそ大丈夫だから」
「……?」
今の彼女の言葉に引っかかる物があったけど、その思考は直ぐに吹き飛んでしまった。
なぜなら――
「ちょ、レイ!? ふ、服! 服が!!」
ここで軽く説明しておくと、彼女の身につけてる衣服は夏物の衣服のように薄い生地でできていた。
そして大胆にも胸元が……。
ここまで言えばわかると思うけど、俺を抱き寄せたことによって、胸元と衣服に隙間ができたのだ。
そこから見えるのは――
「あら~? 恭一くんはいったいナニを見てしまったのかしら~?」
「なっ! これ絶対わざとだ! わざとなんでしょ!?」
「さぁね~。どうかしら~?」
いたずらに成功した少女のような笑顔で、更に胸元を押しつけてくるレイ。
「きゃーやめてー! レイに犯されちゃうー!!!」
「それもいいかも」
「いーやぁぁぁああ!!!」
「……なんか、穢された気分だよ」
「ごめんね。ちょっとだけ調子にのっちゃった!」
「あれでちょっとなの!?」
記憶が正しければ、生前は彼女なんていなかった俺にはとても刺激的すぎる出来事だったのだが、彼女にとってはあれでちょっとした出来事だったらしい。
「本音を言うなら少しとは言わずに、この先のことも続けたかったんだけどなぁ」
「そ、それはご勘弁ください……」
死後に脱童貞しただなんて、笑い話にもならない。
「はぁ。疲れた」
とはいうものの、俺としては――いや、男としては中々に素晴らしい体験をしたのだから、それも充実した疲労感ではあった。
彼女のハグから解放された後、話はもう終わりだったらしく、辺り一面はまた真っ白な空間になっている。
未だ座り続けていた俺たちは、ちょっとした他愛ない話を続けていた。
この先の世界はどんなところだろう、どんな容姿で、どんな生活になるんだろうか、と。
そんなとりとめもない、未来の話をしている最中、終始レイの表情はパッとしないものだったけど、決まって最後は「大丈夫。きっと幸せになれるよ」の言葉で締めくくっていた。
「……そろそろ行く?」
「うん。そうしようかなって思っていたところ」
「そっか……」
彼女は寂しそうな顔をしてこちらを見る。
もしかしたら、まだこの場に居て欲しいのかもしれない。
(そりゃそうだよなぁ)
辺り一面は真っ白で何もない空間。
彼女の力ならありとあらゆるものを生み出せるけど、それは幻であって、本物じゃない。
基本、一人で過ごすしかないのだ。誰だって寂しくもなる。
でも――
「なんか置いていくみたいになっちゃうけど、ごめんね?」
「ううん。私のことは気にしないで。ただ――」
「ん?」
「――できればで良いの。私のこと、たまには思い出してね?」
「もちろんだよ。短い時間だったけど、レイのことは忘れないよ」
こんな言葉でも、彼女にとっては嬉しいものだったらしい。
出逢った頃のような明るく、見惚れるような笑顔になった彼女を見て、俺は顔が火照るのを感じた。
しばらくの間、二人して見つめ合う。
今彼女が何を考えているのかはわからないけど、彼女の愛情とも思えるような好意だけは充分に伝わってきた。
「よし。このままだと名残惜しくなっちゃうし、さっさと済ませちゃいましょうか」
「そうだね。よろしく頼むよ」
「ふふっ、任せてなさい♪」
二人して立ち上がり、互いに向き合う。
「じゃあ私の目を見てくれる?」
「わかった」
彼女の瞳に視線を向ける。綺麗な水色をした瞳に吸い寄せられるように、俺は視線を動かさない。
その視線を感じ取っているのか、レイの頬は微かに紅潮しているような気がした。
「恭一くんが幸せになれるように、私からのプレゼントも用意したから。楽しみにしててね」
「え、プレゼ――」
思いがけないことに、どんなものなのかと聞こうするが――
「またね。恭一くん」
俺の意識はそこで途絶えてしまった。
やっとプロローグが終了しました。
次話からは追憶篇――以前の話になる予定です。
それとさっそく、初感想をいただきました。
佐天様、感想ありがとうございました! 以前の作品からのお付き合いで、かれこれ三年ぐらい? 経っていますよね。長いものです。
今後ともお付き合い、宜しくお願いします。
それでは、また次回にお会いしましょう。
あ、感想もお待ちしておりますね。