→短いですが。
「……」
「あ、あの。姉さん?」
「…………」
現在、部屋へ通された俺は、ベッドに座る姉を前に正座をしていた。
いや、これは姉さんの指示とかではなく、俺が自分から自然とそうなっただけで強制的にやらされているわけではない。
しかしこうして姉さんに呼ばれたというのに、その姉さんから口を開いてくれない現状を鑑みると、正座というのは間違った選択なのではないだろうかと思い始める。
「はぁ……」
とそこで、まるで値踏みをするように俺のことを見ていた姉さんがため息をついた。
え、なに? 俺ってため息をつきたくなるような顔してる?
「どうかしら? 私はずっとこういう気持ちだったのよ」
「え?」
そして姉さんの口から発せられた言葉に、俺は間の抜けた返事をしてしまう。
だって想像もしてなかった問いかけだったから。
「え? じゃない! 私はずっと、白夜に避けられてたの。理由があるにしろ、自分の弟にそういう態度をとられた私の気持ちを少しは知ってもらおうとして――」
「ご、ごめん。姉さん。姉さんの言うその気持ちを知ってもらおうとって言うのは、今この部屋に来てからの姉さんがとっていた態度のこと?」
「そうに決まってるでしょう!」
「…………」
なんだろうか。
この部屋に来てからというもの、姉の態度を理解出来ていなかったものだから、上手く答えられる気がしない。
ここで微塵も理解出来てないなんて口には出せないし、察せさせるわけにもいかない。
「あ、あ~。だよね。もう胃が引き締められる思いで辛かったなぁ」
「本当?」
「ホントホント」
「…………」
あれ。なんか返答ミスったのかな。
会話は途切れ、姉さんからの視線が痛い、というか冷たいというか。
そう言えば室内全体的に肌寒くなってるような……き、気のせいだよね?
「……ふ。ふふっ」
「……?」
そんな不安にかられながら、如何にしてこの場を乗り切って姉さんと和解しようかを考えていた矢先にその姉さんの口元が緩み、笑みがこぼれた。
「ね、姉さん?」
姉さんの態度に困惑する俺を見て、姉さんは余計に笑みを深める。
(あっ……これ死んだかも)
まったく予想もしていなかった展開に俺はどうしたもんかと頭をフル回転させて知恵を絞り出そうとする。
けれどぶっちゃけ目の前の光景というかこの部屋全体に漂う不気味な雰囲気がそれを邪魔してくる。
「白夜。ごめんなさい」
するとなんと、姉さんが頭を下げて謝罪してきた。
「い、いやいや! なんで姉さんが謝ってるの!?」
だってここは俺が姉さんに謝るところのはずだ。
姉さんが俺に謝る事なんてないはずなのに――
「この前、私のことを避けていた白夜が私と話したいが為に部屋に来てくれたでしょう? それなのに私はぞんざいな態度で追い返してしまったから」
「あ、あれは……今まで俺が避けてたんだから、そのぐらい別に――」
「ううん。それでも、姉としてあの態度はなかったと思うの」
「姉さん……!」
なんと、なんという懐の深さ!
普通俺の方が全面的な謝罪をするべき場面でのこの接し方!
寛大な姿勢を示す姉の姿に感動を禁じ得ない。
そして、そんな姉さんはスッと瞳を細め――
「これまでのことも白夜は悪くない。だって……白夜は久しぶりに会う異性の姉弟に少し戸惑って避けていたんでしょう?」
――なんかとんでもない勘違いを告げてきた。
「え、そんなことないんだけど!?」
これこそまさに予想外の展開である。
さっきの謝罪なんて本当に序の口レベルだった。感動を返して。
つか、姉さんの中では俺の今までの行動を「ただの反抗期」で済ませようとしてる!?
「ま、待って。姉さん!」
「いいのよ、白夜。さっきも私のことを護ってくれたでしょう? あの時に私も姉として貴方のことを護ろうと、そしてそういう態度も全て受け止めようって覚悟が出来たのだから」
「えっ、あの場面でそんなことを決心しちゃってたわけ!?」
俺の目にはあの時の姉さんは雑念なんて捨てて、不安にかられてるようにしか見えなかったんだけど。
もしそれが事実なら演技派女優目指そうよ。
「あの時に動揺してたのは確かだけど、でもああいう場だからこそ、決心できる事ってあるでしょう?」
「ないね!」
思わず真っ向から否定してしまったが、こればっかりは勘弁して欲しいものだ。
にしても……。
「ふふっ。ほら白夜、隣に座って。また昔みたいに仲良くしましょう」
確かに姉さんとの和解?も済んだ。俺は全然謝れてないけど! だって反抗期として扱われちゃっているんだもん。姉さんの中ではもう自己完結しちゃってるもん。
そして目の前の姉さんからは、俺の懸念していた「罪悪感」を感じる必要がないことは明白だった。むしろ今は黙って私に付き合えと言わんばかりの視線が向けられる。
けれど、けれどさ……
「こんなことなら、気にしなきゃ良かったよ!」
まるで俺の独り相撲――いや、まるでじゃない。完全なる独り相撲だ。
うわ、なにこれ恥ずかしい!
「白夜? 早く隣に座って?」
「は、はい」
なんかちょっと壊れ気味の姉を前に、俺はただただ言うことを聞くほか選択肢を持ち合わせてなかった。
というか、もう姉さんの言うことにはなるべく逆らわないようにしようとも思っていたのだから、隣に座るぐらいなら別に構わないかと軽い気持ちで言うことを聞く。
「ふふっ。白夜♪」
「うわっ、なっ、なに!?」
すると姉さんは俺のことを抱き寄せた。
「はぁ。白夜。久しぶりの白夜ね」
「…………」
流石に姉弟と言えど、歳を考えれば恥ずかしい部類のスキンシップになる抱擁に、俺はもう言葉を発せないぐらい動揺してしまっていた。
(あ~。まぁでも……)
俺の思っていたような重い和解にはならなかったけど、こうして再び姉さんと話せるようになったことに、心の底から安堵するほかなかった。