あまりの話に呆然とした。
最後まで話し終えた母さんは、話す前と変わりなく紅茶を飲んでいる。
その様子に「魔法」に対して微かな恐怖心を抱いてしまったのはしょうがないことだろう。
(魔法師として生かすためとはいえ、実の息子に対して行なうようなことじゃない。魔法はここまで人を狂わせてしまうものなのか……)
その結果、兄さんは大半の感情を失うことになり、唯一残された「姉さんを愛し護る」という感情だけを一生背負うことになってしまった。
「…………」
閉口するしかない俺に代わって母さんが口を開く。
「白夜さんへの答え合わせも済ませましたし、ここからが私が白夜さんを呼んだ本題になります」
「なっ……」
たしかに、母さんは何かの用事で俺を呼び出し、今までの話は、俺が感じたことへの答え合わせだった。
しかし今となっては、如何に精神年齢が大人だったとしても、内容が内容だっただけに、心労が募っていて用事とやらを聞く気にはなれない。
「ごめん。お母さん。今日はこれ以上――」
話を聞けないからまた明日にでも。
そう言いかけたところで、強引に言葉を被せられた。
「白夜さん。貴方にも達也と同じ実験を行なってもらいます。これに拒否することは私が許しません」
自分が何を言われたのか理解するのに時間がかかった。
(俺が兄さんと同じ実験を……?)
「心配しなくても大丈夫ですよ。貴方は達也とは違い、本当の意味での魔法を使用できるほどのキャパシティを有していますから。あの子のように、感情を欠落させることはないでしょう」
「この「人造魔法師計画」というものは、魔法を使用できない人間に対するものだよね? だ、だったら魔法を使用できる俺に必要ないんじゃ――」
そこまで言いかけて、今自分の放った言葉に失望してしまう。
なにせ、今言ったことは「魔法を使用できない兄さんは、この実験を受けて当たり前
」で、「問題なく魔法を使用できる自分は受ける必要がない」と言っているようなものであるからだ。
(自分だけ助かろうとするなんて、俺はなんて浅ましくて醜いんだ)
敬愛していたの兄だったはずなのに、無意識にそんなことを思っていたことに気がついた俺は唇を噛みしめる。
「貴方の言いたいことも理解できます。少し訂正しますね。白夜さんに受けてもらう実験は達也とは同じ物であって、目指すべき最終地点はまったくもって異なるものです」
違う。そうじゃないんだ。
俺は何も、兄さんのことを貶めたいわけじゃないんだ。
「キャパシティがないあの子は、衝動を白紙化することによって魔法を得た。キャパシティが充分にある深雪さんは問題ないどころか、現在の年では異例な魔法師としての才能をもっている。では、魔法師としてのキャパシティのある貴方が達也と同じ実験を行なえばどうなるのか。達也の得た魔法を、キャパシティのある白夜さんが有したらどうなるのか。それが今回の実験で確かめる最終的な結果になります」
「…………」
母さんが言いたいのは、キャパシティのある俺が、兄さんが得たという魔法を使用できたらどうなるのかということ。
そんなの、実験を行なうまでもなく決まっている。
「貴方と達也は兄弟ということもあって、使用できる魔法の系統が似ています」
衝動を失ってまで手に入れた兄さんの魔法を――衝動を失うこともなく、更に強力な魔法を手に入れることになるに決まっているじゃないか!
「もう一度言います。白夜さんには拒否することを許しません」
「…………」
もう俺に選択肢はなかった。
そこから覚えているのは、母さんと二人で真夜さんに会いに行ったところまでである。
家を出る途中で兄さんと姉さんが話しているところを見かけたが、全てを知ってしまった上で、これから行なわれることを考えると、二人に話しかけることはできなかった。
◆◇◆◇◆
「本当にいいのね?」
「はぁ。何度もそう言ってるでしょう」
もう何回も繰り返しているこの問答に、いい加減に辟易しかけていた。
なにせ、車中に乗っている間ずっと聞かれているのだ。
「あら、ごめんなさい。貴方たち兄妹は仲が良いように見えていたものだから、つい、ね」
「…………」
今度の相手の言葉には何も答えない。
他からすれば、それは大変無礼で不躾なことなのだが、俺はお構いなしに無視できる。
なにせ、その相手というのが、四葉現当主である、四葉 真夜だからだ。
あの「人造魔法師計画」の立案者である。
「無視するとは良い度胸をしてるじゃない?」
「無視もしたくなるに決まってるでしょう。誰のせいで俺がお兄ちゃんやお姉ちゃんに会いづらくなっていると思っているんですか」
「私のせいかしら? でもあの二人のことだから、きっとそんなことは気にしないと思うわよ」
「……もういいです」
そこでやっと会話が途切れる。
ため息をつきながら、窓の外を見る。
流れる景色を見ていると、あの楽しかった日々から遠ざかっているように思えてきて、自然と憂鬱な気分へとなっていく。
母さんから話を聞いた俺は、その日のうちに四葉家へと出向いた。
そして、既に準備を済ませていた四葉家で実験は行なわれた。
結果は言うまでもなく成功。けれど、その後の数週間は、四葉家が手配した病院で様子見のため入院していた。
入院中は、途中結果も良好で、数週間のうち後半は、実際に魔法を行使したりもした。
安定して使用される魔法を見ていた母さんと真夜さんから見事、正式に合格を果たしたのだ。
そこでどうして、俺は真夜さんと車に乗っているのか。
本来なら、退院した俺はその場で母さんと一緒に家に帰る予定になっていたようだった。
しかし、もう兄さんと姉さんに合わせる顔がないと思っていた俺は、その案を拒否しして、真夜さんに四葉の本邸へ住まわせてもらえないか頼み込んだ。
最初は断られると思っていたけど、意外にも真夜さんは「貴方がそうしたいのなら部屋も余っていることだし構わない」と了承してくれたのだ。
そのことで母さんが真夜さんに何やら抗議をしていたけど、最早そんなことは俺には関係のないことだった。
母さんの言うとおり、実験を受けた。だったらこれぐらいは口出ししないで欲しい。
ただ――
(……兄さんと姉さんにだけでも、お別れの挨拶をしておけばよかったかな……とは思ったけど)
本当は二人に会いたい。これは俺の本心でもあることだけど、理性がそれを許さなかった。二人に対して償いきれないことをしたのだから。
兄さんへは、あまりに大きな物を失った代わりに得た魔法を、俺はノーコストで、しかも兄さんよりも強化された魔法を得てしまったこと。
そして姉さんへは、一緒に敬愛した兄さんを貶めてしまった罪悪感。
「…………」
徐々に流れていた景色の速度が落ち始め、ゆったりとしたスピードになっていく。
本邸へ到着した車のドアが開かれ、真夜さんが降りた後に続いて、車内から外へ出た。
そこには、本邸というだけあって、立派な屋敷が構えられていた。
「さぁ。私に着いてきてちょうだい。本来なら、葉山さんに任せるところだけれど、気分も良いことだし、直々に私が中を案内してあげる」
「……そうですか」
「なによ。もっと喜びなさい」
「……はぁ」
「可愛いくないわねぇ」
真夜さんがドアの前に立つと、使えている大勢の使用人が出迎えた。そのことに何の感謝などするはずもなく、それが当たり前のことであるように屋敷へ入っていく。
その真夜さんの後ろ姿をみながら、俺は思った。
(今後、俺からあの二人に会うことはないだろう)
もしあるとすれば、それは二人に対する謝罪が決まったその時だけだ。
お疲れさまです。
最近は暑さのせいで食欲が無くなっているマーボーです。
所謂、夏バテというものにはなっていますが、死ぬレベルではないので無問題ですね。あー胃が素麺しか受け付けない。
さて、今話では白夜にとある実験が施されましたね。
この実験の目的、結果などの理論に納得のいかない方々がいらっしゃるとは思います。正直に言いますと、自分でももうちょっと上手くできないものかと悩んでいる所存です。
そんな悩みの最中の話を投稿してしまったのは、現時点では他に良い案が思い浮かばなかったからです。
もちろん、このまま投げっぱなしにするつもりはありません。良い案が思い浮かんだから修正しますので、気が向いたら覗いてみてください。
そしてそして、今回も感想を頂きました!
平和島静雄 様、烈風04 様、佐天 様、ありがとうございます!
他の方々も、気まぐれで構いません。
ご感想、お待ちしております。
では、次話もなるべく早くに更新する予定ですので、その際は宜しくお願い致しますね。