真夜さんの元にやってきた俺は、そこで様々なことを学んだ。
魔法師にとってイメージ・想像する事の重要さや、その他、魔法に関する知識や技術など。
教えてくれる先生はほぼ葉山さんだったことが多く、また、葉山さんの教え方はとても理解しやすいものだった。
こんなところで執事なんかやっていないで、魔法専用の家庭教師でもやったほうがいいんじゃないかと思えたほどだ。
たまに真夜さんが直々に教えてくれることもあった。
住まわせてもらっている身でいうのもあれだけど、「人造魔法師計画」を立案した彼女に好意はもてない。
そのことから真夜さんにはなるべく会いたくないこともあって、葉山さんが教えてくれる時はいつも以上に励んでいた。
その張り切っている様子が真夜さんに伝わり、「私の時と集中力が違うのはどうしてなの!」と怒られたことも多々あったけど、葉山さんが「こんなにも感情豊かな奥様を見るのはいつ以来のことだろうか」と喜んでいたので、今後も変わらずにいようと思っている。
そして学んだのはそれらだけでなく、意外にも体術もしっかりと教えもらっていた。
これは葉山さんの方針で、今後、魔法を行使できない時がくる恐れがあるからという理由らしい。
まぁ魔法に関して学んでいる時に、そういった話もあったことから、俺は素直に体術にも力を入れていた。
そのおかげもあってか、今ではしっかりとした体格になっている。とは言っても、少し筋力がついてきた程度だけど。
そうした日々を過ごしていたある日、真夜さんからとある旅行の話を聞かされた。
ここに来てからそこまで年月は経っていないけど、この人でもそういったことに関心があるのかという好奇心があった俺は、内容も聞かずに了承する。
「あら、本当にいいの?」
「真夜さんが旅行なんて意外でしたし、それにどんなところに行くのか俺もついて行って確かめてみたいですからね」
真夜さんは俺の言葉に、「言質はとったわよ」と言いながら何やら楽しそうに笑みを浮かべていた。
そのことに、なんの疑問も持たずに、いつ頃行くのか聞くと、出発日は三日後の朝だと言う。
予想していたよりも早い出発に、とっとと身支度を調えなきゃと暢気なことを考えていた。
この時にもっとよく話を聞くべきだったと、出発当日になった俺は死ぬほど後悔することになる。
◆◇◆◇◆
旅行初日。
四葉家の車とは別物の車で空港まで連れてこられた俺は、長椅子に"一人"で座りながら後悔していた。
それもこれも、今となってはどうしようもないことではあったけど、どうしても真夜さんへの怒りは静められそうにない。
「こんなことなら、あの時にちゃんと話を聞けば良かった!!」
思い出すのは三日前、真夜さんから旅行の話を聞いた時だ。
あの時、詳細も聞かずに了承してしまった自分を殴り殺したい衝動にかられる。
事の発端は今朝、葉山さんが給仕してくれる朝食を真夜さんと二人で摂っていた時だった。
「何時頃に出る予定なの?」
今朝は旅行に行くこともあって、普段より早めの時間に朝食を摂っていた。
この時はまだ真相を知らなかった俺は、暢気にトーストを囓りながらごく普通に質問をしていた。あーぶん殴りたい。
「そうねぇ。たぶん、一時間後ぐらいには出ることになるんじゃない?」
そして真夜さんは他人事のように反応しながら、ティーカップに口をつけていた。
「いやいや、真夜さんだって身支度とかあるでしょ。だったらそんな暢気にしてていいの? つか、自分は関係ありませんてきな感じはどうなわけ?」
今思えば、本当に暢気――脳天気なのは俺の方である。なにを暢気にトースト囓りながら馬鹿なことを言っているんだと怒鳴りつけてやりたい。そしてやっぱり一発ぶん殴って目を覚まさせてやりたい
「なんで私が用意なんてするのかしら?」
そして、この時の真夜さんは、未だ勘違いしている俺に対してものすっっっごく良い笑みを浮かべていたのも覚えている。あっ、この人にも強烈な一撃をくれてやりたくなってきた。
「はいはい。どうせ、葉山さんに用意させて、自分は何もしないんだな。これだから金持ちは……」
その金持ちの家に居候している俺が言えた義理じゃないのに、ため息をつきながら一人勝手に納得をした俺は、自室に戻って出かける用意をした。
一時間後、真相を知った俺は、部屋に籠城することになる。
「いやいやいやいや! なにそれ聞いてないって!!」
「聞いてないも何も、聞かなかったのは白夜さんでしょう?」
扉越しに聞こえる真夜さんの声に、俺は本気で後悔していた。
出発時間になった俺は、真夜さんのいる部屋へと向い、そこで未だにのんびりと資料を眺めていた真夜さんに呆れた。
「本当に何も支度とかしていないんですね……」
「だから、私は用意する必要なんてないもの」
顔も上げずに資料を眺め続ける真夜さん。
ずっとこの調子な彼女に、もう旅行なんて行く気が失せたのかとも思った。
しかし、次に彼女の口から聞いた言葉で、ここまでの彼女との問答と、その行動を理解することになる。
「だってこの家で旅行に行くのは白夜さんだけ。一緒に行く相手は姉さんと貴方の兄妹であるあの二人。そして私はお留守番。ほら、旅行に行かない私は用意なんて必要ないでしょう?」
「なっ……!?」
驚愕の事実に自分でもどんな顔をしていたのかはわからないけど、目の前で大変愉そうにしている人を見て、なんとなく察することはできた。
瞬速で部屋に戻った俺は籠城していた訳なのだけど、それもほんの束の間のこと。
この家の使用人さんたちは大変優秀な人材で、ドアは簡単に蹴破られ、窓からも数人にロープを伝って侵入され、流石に何も罪がない使用人たちに魔法を行使することはできずに、呆気なく御用の身となり、空港まで有無を言わさず強制連行。
実に綺麗な流れでここまで運ばれた俺は、しばらく呆然としてしまっていた。
以上の経緯を得て、俺は"一人"でこの場にいるというわけだ。
(まさかこうも早く、兄さんや姉さんに会うことになるとは夢にも思わなんだ……)
既に真夜さんが何処へ旅行に行くかなどとい馬鹿げた好奇心は遙か彼方に吹っ飛んでいた。
そりゃそうだよ。真夜さんは旅行に行かないんだもの。
「はぁぁぁぁぁ……」
口から怒声――呪詛とも言える――が出る代わりに、深いため息が出始めた頃、今回の旅行に同行する、厳密に言えば、俺が同行することになる一行の姿が見えた。
白夜はどこか抜けてる面がありますね。
それがこの5話ではとんだ災難となって降りかかったわけです。
哀れ白夜……。
さて、次話あたりに兄妹そろって再会するわけですが、白夜が真夜のもとへやってきてから約一年ほど経っていることになっています。
なので、話数てきにはそんなに経っていないように感じますが、作内では久しぶりの再会になりますので、その辺りはご注意ください。
そして唐突に感想謝辞コーナー!
平和島静雄 様、佐天 様、感想ありがとうございます。
投稿してから感想を読むのが楽しみになりつつあるマーボーにとって、大変励みになっていますよ!!
なので、皆さんも感想をお待ちしております!
では次話も宜しくお願い致します!