今日から夏休みを利用したプライベートな家族旅行。
本来なら楽しくなるはずのバカンスだけれど、私の心中はそこまで喜びに満ちあふれている物ではなかった。
(はぁ。もう一年ほどね……)
それもこれも、私の親愛なる弟――司波 白夜が突如として別居をしたことが原因であることは、彼が家を出た日からわかっていたことだった。
(どうして出て行っちゃったのよ……)
私たち兄妹――私を含めて、兄と弟の三人――はとても仲が良く、いつも一緒にすごして育ってきた。
私はこれからも、頼りになる兄や目に入れても痛くないほど可愛い弟と一緒に居られると、そう思っていた。
だけどそれは、兄が一時期とはいえ、姿を見せなくなったことを切っ掛けに崩れてしまい、結果、三人がバラバラの生活を送ることになってしまった。
別居したのは弟の白夜だけで、兄とは今も同じ家に住んではいる。しかし、それは私の知っている兄ではなかった。
その切っ掛けとなった日から数週間で兄は帰ってきた。
最初はどこもおかしい様子もはなく、目立った大きな怪我すらなかったことから心底安心しきっていた。
けれど、突如として白夜の別居が決まった日を皮切りに、私の取り巻く環境が一変する。
家の兄に対する扱いが、家族ではなく使用人同然のものになっていったこと。
そして、兄はそのことに不満を漏らすことなく、ただ無表情で受け入れていき、仕舞いには実の妹である私のことをお嬢様扱いし始める始末。
完全に司波家に仕える使用人になってしまった兄は、以前のように頼りがいのある兄ではなくなってしまった。そんな兄に敬意なんて抱き続けることもできず、今では苦手意識のほうが勝ってしまっている。
(白夜。どうして叔母様の家に……)
彼が居なくなってからずっと思い悩み続けてきたことだ。
別居先である叔母様の家は私たちの家からは少し距離があり、ましてや本家に連なる家なので、おいそれと訪れることはできない。
また、叔母様の家に連絡をとることはできたのだけど、白夜と話すことはできなかった。叔母様の家に仕えている筆頭執事の葉山さんに連絡をとり、白夜に取り次いでもらうように頼んだのだけど、白夜がそれを拒否したのだ。
このことに憤慨した私は、直接お母様に聞きに行くことにした。
「どうして白夜はこの家を出て行ってしまったのですか!?」
白夜と二人きりでお母様に抗議しに行ったときは上手く話すこともできなかったけれど、頼りだった兄はあの通りなので、今回ばかりは私がしっかりしいないといけなかった。
しかしお母様の返答は……
「貴女が気にすることではありませんよ」
たった一言。
あまりにも理不尽に感じ、その場を食い下がろうとしたのだけど、桜井さんによってあっという間に追い出されてしまった。
(はぁ……私って、姉として情けない)
もしかしたら、私が情けないばかりに、白夜は出て行ってしまったのかもしれない。
出て行った理由がわからない以上、そういう風に考えるしかなかった。
白夜の別居について、兄は何も言わないけれど、このことを話題にすると、ほんの少しだけ暗い表情をして、話題を打ち切る。きっとこうなってしまった兄も、白夜の別居については快く思っていないのだと勝手に判断してきた。
(はぁ……)
楽しむはずべき旅行なのに、――心中でだけど――初日からもう何回目かわからないため息をする。
悲しみは悲しみしか呼ばない。
家族という単語なのに、私、お母様、既に現地で用意をして待ってくれている桜井さん――そして兄しかいない。
普段から顔を見せない父は別として、弟がいないこの状況を家族旅行とは思えず、どう楽しんだらいいのかわからなくなってしまっていた。
(お願い。いつとは言わないから、一度でもいい。白夜に会いたい)
最早、私の味方は彼だけになってしまったと言っていいこの状況に、普段はしない神頼みをしてしまう。
「なんて。何を無駄なことをしているのかしら……」
「深雪さん。どうかしましたか?」
「なっ、なんでもありません。……いえ、人が多いせいか少し人酔いが……」
「そうですね。私も人混みは苦手ですが、それも機内に入るまでの辛抱です」
「はい……」
人通りの多い空港の通路で、一緒に歩いているお母様の存在をすっかり忘れてしまっていた私は、そのお母様とのやり取りで意識を現実へと戻す。
(ダメね。こんな調子じゃ、何時まで経っても情けない姉のまま。もっとしっかりないと――)
いつか白夜と再会したときに、胸を張って頼りになる姉であることを示せるようにならなければ。そうすれば、白夜だって気兼ねなく私のことを頼ってくれ、もしかしたらまた一緒に住めるようになるかもしれない。
淡い希望ではあったけれど、ないよりはマシに思えたそれを胸に秘め、改めて決意した私は前を向く。
「――え…………?」
しかし、そう決意した直後、私は呆けた表情をして、その場で固まってしまった。
なぜなら、一年前から今の今まで私を悩ませていた弟が――白夜らしき人物が、長椅子に座っていたからだ。
(白夜……よね?)
別れたときから幾分か身長が伸びているように感じるけど、全体の見た目や雰囲気は当時のまま。
思わずお母様を見るけど、にこやかに笑みを浮かべて白夜を見ているだけで、何も言わない。
しかしその表情だけで、お母様はこのことを知っていたのだと悟った。
(そ、そんな……いきなりすぎよ……)
神頼みしておいて罰当たりではあったけれど、いきなり再会した弟にどう接すればいいものか。
すっかり混乱してわからなくなってしまった私は、とりあえず神様を恨むことしかできなかった。
やっと、白夜以外の視点になります!
深雪自身は白夜を恨んではいないことが分かりますが、白夜自身がそのことに気が付くことが出来るのか……。
では、毎度恒例の謝辞になります。
平和島静雄 様、佐天 様、感想ありがとうございます。
作者としても、そろそろ白夜の戦闘シーンを書きたいと思っていますが、それはもう少し後になりそうです。
では、次話も宜しくお願い致します!
あ、どんな些細なことでも構いません。
感想のほうも。どしどしお待ちしております。