「それにしても、大きくなりましたね、白夜さん」
「そうですか。まぁ約一年ぐらいじゃそう変わりなさそうですけど」
「劇的に身長が伸びたとかではなく、こう、体格的に引き締まりながらも筋力がついたように見えます。葉山さんにでも体術を習っているのかしら?」
「惚けないでくださいよ。母さんが真夜さんから俺の近況を聞いているのは知っていますから」
機内に俺と母さんの、まるで親子とは思えない他人行儀な会話が空しく響く。
通路側から、母さん、姉さん、俺の順に座り、その間に座る姉さんが会話に入ってくることはない。その代わりに、さっきから俺の方をずっと睨んでいた。
(そりゃ兄さんがあんな状態で俺だけが昔と変わらないままなんだ。憎まれもするよね……)
再会した時は、俺が同行することを知らされていなかったのか、姉さんと兄さんは二人して俺の姿に驚き、動揺しているように見えた。
だけど、何故かノーマルシートに座るという兄さんと別れてから、機体が上空を飛行している今まではずっとこの調子である。
自分がしたことの重みを理解しているからこそ、理由を聞くような阿呆なことはせずにこちらもただただ、その視線を黙って受け止め続けてきた。
しかし、敬愛していた姉に向けられるこの冷たい視線に、流石に応え始めた俺は眠ることで回避しようしたのだが、それを阻むように母さんから声をかけられ、逃避を邪魔されてしまう。
「白夜さん、私に対して冷たくないかしら? 真夜も白夜さんが懐いてくれないと悩んでいるそうよ?」
「知りません。懐く要素なんてありませんし、母さん達は俺たちに何をしたのかもっと自覚して反省してください」
「もう。反抗期なんだから……」
(なに馬鹿なこと言っているんだ)
俺は冷たくそう言い放つと、眼下に広がる白雲を見ながら、内心で何度目かわからないため息をする。
(あー死にたい。死にたくなってきた。なにこれ、まるで意味がわからない)
本当なら普通に楽しむ? はずだった旅行も、今となってそんな要素は皆無で、これから旅行中は何度に胃に穴を開ければ良いのか、などと大変ネガティブなことを考えてしまう始末である。
「ねぇ白夜……」
すると、黙って睨むことしかしてこなかった姉さんの口が初めて開き、あろう事か俺の名を呼んだ。
久しく聞いた姉さんの声で名を呼ばれたことに、一瞬だけ身体が震える。
あの優しかった姉さんの口からどんな罵詈雑言がとんでくるのか、圧倒的に恐怖心が勝り想像する事すらできない。
「…………」
その恐怖が身体を支配しているせいか、口を開くことができず、姉さんの問いを無視しているようになってしまった。
俺たちの一角だけが気まずい雰囲気になってしまい、まるで別空間と化す。
さっきのような間の悪いタイミングで話しかけてきた母さんは、こんな時に限って何も話しかけてこない。
完全に逃げ場もなく、こうして考えている間にも悪化する空気に耐えきれず、早くも胃に一つ目の穴が開きそうになっていた。
「…………」
辛うじてちらっと姉さんに視線を向けると、未だに返答すらしない俺が余計に腹立たしいのか、再会してから一番の鋭い視線をむけていた。
(誰か助けて……)
一人空しく誰宛でもない助けを求めてみる。
すると、運良く着陸のアナウンスが室内に響き渡り、姉さんは遺憾そうながら着陸の準備にとりかかった。
(ありがとう。俺、ここのキャビン・アテンダントさんに惚れそうだよ)
初日の、しかもまだ到着すらしていない段階から疲労困憊な俺だった。
というわけで、本格的に深雪と関わり合うわけですが、まだ白夜は話せる状態ではありませんね。
皆様的には、もっと深雪や達也との関わり、もといやり取りを見たいのでしょうか?
その辺りの感想を頂けると助かります。
さて、感想の謝辞になります。
佐天 様、ありがとうございました。
また、流刃若火 様も追記という形でのお返事をありがとうございました!
次話も短くはなりそうですが、早めの投稿を心掛けようと思っております。
では、次話も宜しくお願いします!