IS×00 夢を目指す者   作:王天君

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 眠いけど気になるところで引きにした方がいいかな、と思って夜の間に第七話まで投稿。
 前回までのギャグ?空気はわきまえてます。

 一夏の活躍回は次回をお待ちください。

 今回は一夏が命を助けることについて考える話。


第七話 救い手の喜び

 日も地平線との距離が大分縮まってきた16:00頃。俺は、試験自体は無事に終わったものの、本音を置いて帰るのも罪悪感があり、朝の入口へと向かったのだが、

 

「遅いな・・・」

 

 待たせても悪いかと思って、急いでやってきたが彼女の姿はまだなかった。

 こうなると、女子の方には男子には知らされない試験まであるものだろうか、と心配になる。

 だが、男子を冷遇するなら、男子の試験科目だけやたらと増やすなども考えられるが、女子が遅くなる理由はよく分からない。

 というか、他の子たちは入り口を抜けてきているので、女子というより彼女自身が遅れていると考えた方がよさそうだった。

 とすると考えられるのは・・・、

 

「俺が帰らないで待ちぼうけを食らってるのを、陰から見て笑ってるとかか?」

 

 一瞬、そんな考えも浮かぶが阿保らしく思えて、打ち消す。

 朝の少し一緒にいただけだったが、そんな陰湿なことをするような子だとは思いたくなかった。

 

「入り口に男子禁制って書いてあるわけでもないし、

しばらく待って出てこなかったら入ってみるか。」

 

 

 

 

1時間後

 

「・・・結局出てこないな。」

 

 真冬の太陽は山の中に沈んでしまったし、既にほとんどの女の子は駅の方へと向かって歩いて行ってしまったので、人影もまばらだ。入り口に立っている試験官らしき女の人が、先程から立ちつくしている俺を睨んでいるのが心臓に悪い。

 だが、出てこない本音を放っておくわけにもいかない。約束した、というか一方的に言われただけだが、ここで帰って後で後悔する様なことはしたくなかった。

 彼女が、何らかの出来事により泣いてしまったと後で聞いて後悔することだけは、避けなければならなかった。

 

「念には念を入れといた方がいいよな。」

 

 もちろん、本音が急用で先に帰った可能性もある。別にそれならそれでいい。

 だが俺の二度の誘拐が良い例になるように、非日常は身近なところで口を開けている。まさかの結果を想像して、行動しておくに越したことはない。

 これ以上怪しまれるのもよくないので、話しかけに行くことにした。

 

 

 

 

 結果から言うと予想に反して、入り口の女性は親身に話を聞いてくれた。

 どうやら、朝に誘拐騒ぎがあったと知り、俺が犯人の仲間で獲物の物色をしているのではないかと思っていたそうだ。受験票を見せ、彼女の電話から五反田食堂の親父さんに電話することで身元確認できたので、信用してくれる気になったようだった。

 ウェーブをかけた長髪を肩にかけた姿が印象的な、この女性は、俺の話について思ってくれるところがあったらしい。

 

「お友達がまだ残っていないかって?」

「この入り口で合流予定だったんですが、まだ出てこなくて。」

「おかしいわね、試験ならとっくに終わっている筈よ。

 先に帰っちゃった可能性はないの?」

「それならいいんですが、もしまだ残っていたらと思って。」

「放っておかれて、『それならいい』なんて言葉で片づけちゃ駄目よ。

 ただでさえ、男は下に見られることが多いんだから。

 ・・・とにかく、まだ残っていないか知りたいのね。少し待ってて、調べてあげるから。その子の名前は分かる?」

 

 そう言って、手元の機械を弄る女性。他の人と連絡を取り合ってくれるようだ。

 

「試験自体はどの教室でも終了しているようね。でも、布仏本音さんの受験票はまだ、本部に提出されていないわ。」

「ということは・・・」

「まだ、施設内にいる、ということでしょうね。それがどこかまではわからないけど。

 ひとまず良かったじゃない。彼氏を置いて帰ってしまうような、彼女さんではなくて。」

「違いますよ⁉」

 

 いくら歳が同じでも、あんな妹のような子どもに欲情したりはしない!

 そんな俺の抗議を照れ隠しとでも思ったのか、女性は相手にしてくれない。

 ここで意地になったり、攻撃的になるのは精神的に未熟だとアピールする様なものだと、自分の中でどうにか納得させて、感情を抑え込む。

 

「すいません、それじゃ探しに行ってもいいですか?」

「意外と大人ね。年相応に感情を表すことも若さの特権よ?」

「失礼します。」

 

 

 

 

「どこにいるんだ、本音の奴」

 

 入り口の女性と別れて少し、俺は北から1,2,3と並んだ校舎の2の位置を探索していた。

 校舎内から人の声は聞こえない。教室の明かりもすべて消されており、まだどこかに人がいるとはまるで思えない。

 

「確か、体育館が併設されてるとか書いてたし、そっちも探しに行くか。」

 

 手がかりもないし、先にいそうな大きな場所でも見に行こう。

 校舎の奥へと踏み入れようとした足を引き返した。 

 

 

 

 

 織斑一夏は気づかない。

 引き返した廊下。その先にあった一つの部屋。

 『実習受験生控室』と書かれたそこは、扉の鍵が外され、中が窺えるようになったうえで待機状態のIS『打鉄』が一機鎮座していたのだが、そのことに彼が気づくことはなかった。

 

 

 

 

 やがて、校舎とは別の大きな建物の入口へつながっている通路を見つけた。入り口の案内板にあった、体育館か講堂を改造したものなのだろう。校舎よりも大きい。

 かなりの大きさにも目は惹かれるが、それよりも今までとは違い、まだ中に光がついているのが気になった。

 

「まだ、誰かいるってことか・・・。ここにいるのかー、本音ー」

 

 彼女の名を呼び、再び足を踏み出す。そのとき、

 

 

 目の前で体育館らしき建物の扉が吹き飛んだ。

 

 

「っ!?」

 

 剣道で鍛えた反射神経のおかげか、咄嗟に身をかがませる。

 何が起こったか、と視線を漂わせる俺の前に鉄塊と化した扉の残骸が突き刺さった。

 

「あっぶねぇ!!」

 

 ギリギリで当たらなかったものの、一歩間違えば大怪我をしていた。そのことに考えが至って背筋が冷たくなる。だが、この中にまだ本音はいるかもしれない。

 なら、ここで引き返すことなど出来ない。

 足が無意識のうちに震え、逃げ出しそうになるのを抑えて、体育館らしき建物の中へ飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 中に入ってまず目に映るのは、対立している二人。

 身に纏っているのは両者とも同じ第二世代型IS【打鉄】。主武装とされる近接用ブレード【葵】を手に持ち、向かい合っている。

 いや、正確には向かい合っているという表現は適切ではない。なぜなら俺から見て遠くにいる方のISはまともな状態ではなく、ブレードを振り回してあたりを切りつけ続けているからだ。    

 錯乱していなければ、理知的な雰囲気を持った少女なのだろう。特徴的な青髪は振り乱され、丸い眼鏡は目が見開かれて焦点が定まらないことで、本来の役割ではなく見る者に恐怖を与える手助けをしてしまっている。

 

「あははははは!あひゃひゃひゃはひゃ!」

 

 聞こえてくる笑い声が、一層危険な雰囲気を作り出している。正直近寄りたくない。

 それを見ている方は油断なくブレードを正眼に構えたまま、身体を動かさない。深い緑のショートヘアと大人しそうな顔立ちのこちらは思考がまともらしく、特に笑い出したりもしていない。

 遅れて、胸のところにつけられた名札で、この人が試験官の一人だと理解する。

 事情は分からないが、この二人が戦闘中ということは間違いない。扉が目の前で壊れたのも、このどちらかの攻撃によるものなのだろう。

 

「まずいな。本音がいるかな、と思ったから来てみれば、知らない人たちで戦闘中かよ。」

 

 その状況を俺は、入り口近くに置かれた荷物の陰から観察していた。幸いなことに扉が壊れた際に他も巻き込まれたものがあったらしく、散乱した物の中に隠れることは難しくはなかった。

 誘拐された時のことを思えば、自分が狙われているわけでもない今の状況は、それほど焦るようなことでもない。扉が飛んできた時にはさすがに驚いたが。

 

「入り口の人に知らせ・・・、いや、ここで引くのは本音を見捨てるのと同じか。

 だからって、ISに生身で対抗はできないし、武器がいるな。」

 

 無謀だということは十分理解しているし、試験官一人であの錯乱したと見えるISも倒せてしまうのかもしれない。だが、校舎をある程度探した以上は、ここ以外に本音がいる可能性は低いので、帰るわけにもいかない。

 何より粒子がここへ案内した後に消えてしまっている以上、動くあてはなかった。

 隠れつつ武器を探して頃合いを見計らう、そう方針を決めたところで。

 

 

 試験官の背後に転がっている、印象的な黄色いパジャマのような布が目に入った。

 

 

 そう気づいた時には、身体が飛び出してしまっていた。

 

「本音っ!」

 

 声を出したことで向けられる視線にも気づかず、一心不乱に走る。

 その倒れている本音らしき物との距離はおよそ50m。全力で走ればすぐに届く距離だ。

 そういう計算を無意識でおこないつつも、足を急がせる。

 だがそこへ、

 

「あははっはっははあ!」

 

 声に反応したらしい暴れていた方が一気に俺の横へと接近し、ブレードを振り下ろしてきた。

 目はその軌道を追っている。片手で握られた刃は一秒とかからず、俺の身体を切り裂くだろう。そう分かっていても、ISの速度に人間の体では咄嗟に反応が間に合わない。

 

「ちっ!」

 

 迫るブレードから、せめて少しでも身体を逃がそうと、前に体を傾けて走り続ける。予想する刃の軌道から、頭が抜け、胴体が抜け、右手、左手、と抜け、足に差し掛かったところで、これ以上走っても足が切断されると気づく。

 ISは意識があるのかないのか、狂気の笑みを浮かべて、俺の足掻くことすらも楽しんでいるかのように、俺へと剣の軌道を変えずに振り下ろし続ける。

 

「まだだあっ!」

 

 最後に踏み切るように体を前に投げ出して、その一瞬後を刃が通過する。

 どうにか身体のパーツを失うことは避けられた、とそう地面に倒れこみながら息を吐く。

 

「はぁ、はぁ、どうにか五体満ぞ・・・」

 

 安心しそうになって、目の前のISがまだいることを思い出す。

 一太刀目を躱されても何も感じないのか、再びその剣を俺に向ける。

 

「あはははははっははっははあは!」

「今度はマジでやばいな・・・・」

 

 一度倒れこんだ体を起こすのも、そこから走り出すのも、どちらも一瞬ではできない。

 だが、相手は片手を振り下ろすだけでいい。

 絶対的に不利な状況へと追い込まれたことに、今更ながら思いいたる。

 この状況でも諦めず、刺激しないように身体を少しずつ少しずつ起こすのと同時に、打開策を考え続ける。

 

(下手に刺激したら、その瞬間に切られて終わりだ。ゆっくり、ゆっくり・・・

 本音までは、あと少しってところか。コレをどうにかせずに近寄るわけにもいかない。

 筆記用具の入った鞄は玄関に置いてきたし、武器も持たずに走ったのはまずかったな。

 この状況だと突撃を仕掛けて、コイツの武器を奪う位しかないぞ。)

 

 そう思いつつ、どうにかしゃがんでいるとはいえ、両足を地面につけるところまでは成功する。あとは隙を窺って、武器を奪い取るだけだ。

 だが俺が足に力を入れ、とびかかるタイミングを計っている時に敵が動く。

 先手を取って切りかかってきたのだ。

 動作のタイミングをずらされ、身体が固まる。ほんの僅かに動きだすのが遅れてしまう。

 

(コイツ、俺の動きを読んだ!?)

 

 そう思ってももう遅い。振り下ろされた刃に今度こそ動けず、俺は死を覚悟した。

 それでも、迫る一撃から目をそらすまいとする俺を襲うはずの痛みは訪れなかった。

 代わりに、固い何かが受け止めたかのような金属音が鳴り響く。

 

「そこの君、早く後ろの子を連れて逃げてください!」

 

 それは試験官の女性が同じく打鉄のブレードを使って、俺への攻撃を受け止めている音だった。

 

「あの倒れてる子を、助けに来たんでしょう!!

 早く行って!」

「っ、はい!」

 

 名前も知らない誰かに短く答えて、倒れた人の下に駆け寄る。

 遠くからの予想に違わず、それは朝別れたときと変わらない格好をしている本音だった。

 朝のように動かないが、今度は寝ているわけではないらしい。寝息も聞こえず、身動き一つせず、パジャマも汚れがあちこちにある。扉破壊の余波に巻き込まれたのだろうか。

 死んでしまった、そんな嫌な考えが頭をよぎる。

 頭を振って、嫌な妄想を振り払い、必死に呼びかける。

 

「おい、本音!

 起きろ!しっかりしろ!死ぬな、傷は浅いぞ!」

「・・・・お、りむー?」

「‼本音‼」

 

 呼びかけで意識が戻ったのか、わずかに反応が返ってくる。

 もとから、本音の目は開いているのかそうでないのかが分かりにくいが、今は確かに開いていると確信できた。

 一瞬とは言え、死んでしまったのかと思った本音が生きていた。それだけのことがたまらなく嬉しかった。もう一度、声を聞けたことが嬉しかった。

 なぜだろう、気を失っていただけの本音が、声を返してくれただけで、ここまで嬉しくなれるのだろう。本音が生きていたということに、なぜこれほどの、言葉が出てこなくなるほどの喜びがあるのか。

 俺は少しの時間の後、その理由を理解した。

 

(そうか、これが本当の『正義の味方』として、生きてる人を救えた喜びなのか。)

 

 イクサと出会って、これまでの6年間人助けになることはやってきた。頼まれたことは何でもやったし、頼まれなくても皆の為になると思えば行動をためらわなかった。姉や大人は褒めてくれたし、それに嬉しい気持ちはあったが、同時にその中に何かが足りないと思う気持ちがあったこともまた事実だった。

 今ここにようやく、その何かを得た実感があった。

 それは、手からこぼれたかと思った命が、そこにあったことへの喜び。

 日常では気づかない程小さく、しかし大切なこと。

 

 イクサが正義の味方を目指した、『救いたい』という願いは、この思いから生まれたのだろう。イクサの思いに、また少し近づいた気がした。

 まだ、やるべきことはある。イクサは命が助かっていたことに喜んでいただけではない。俺の命を守り切ってみせた。

 俺も、本音を安全なところに届けるまでは守らなければならない。

 それでも、今は手の中にあるぬくもりに喜びを感じる思いが強かった。

 

「良かった、本当に良かった・・・。」

「おり、むー・・・喜んで、くれるのはうれしいけど、ちょっと、苦しい、かなー・・・」

「え?

 ご、ゴメン!!」

 

 喜びのあまり、勝手に倒れていた本音を抱きしめていたらしい。

 感情を理性でコントロールすることには慣れているつもりだったが、今回は頭の方が勝手に職務放棄したようで、際限なく抱きしめ続けていた。

 

「悪い、少し動揺してた。」

「・・・おりむー、何で泣いてるの?」

「・・・嬉しい時でも、涙は出るんだよ。」

 

 本当に感情がコントロールできていないらしく、涙が流れていることも意識していなかった。ボロボロと零れ落ちる涙を止めることもできない。手で拭っても、あとからあとから溢れ出し、頬を濡らしていく。

 

「今日会ったばっかりの人なのに、生きてたのが嬉しくて泣いちゃうの、おりむー?」

「死んだと思った人が生きてて、嬉しくないわけないだろ。」

「・・・うん、やっぱり、おりむーはあったかいねー。」

 

 そんな風に話しているところで、後ろから怒鳴られた。

 

「そこの二人、ラブコメやってないで早く逃げて、応援呼んできて下さい!

 この敵、一人だと厳しいんです!」

「まだまだまだまだまだ、あははっはっはっははっは!!」

 

 見ると、まだまだ戦闘続行中の様で、切り結びながらこちらを睨む茶髪の女性。

 気の抜きすぎだと今更ながらに気づく。本音を巻き込まないためにも、今は連れて逃げる必要がある。

 

「すぐに戻ります!それまで耐えてください!」

「頼みます!」

 

 相手の剣をはじき返した彼女は、大声でそう答えた。

 それを確認して、朝と同じく、本音を背中に抱えた俺は外へと走った。

 

 

 

 

「本音、あのISに乗ってた子は知り合いなのか?」

「うん。かんちゃんって言って、ホントは今日一緒に来るはずだった子だよー。」

 

 あの状況から逃げ出して、もう朝と同じ空気を取り戻している。いわゆるマイペースというやつなのだろうが、むしろこの時にはありがたい。落ち着きを取り戻すには、最適な空気の持ち主とも言えるだろう。

 

「どうしてあんなことになってたのか、とかは・・・」

「わかんない。試験のことで、こっちの試験場まで後から来ることになったらしくて、IS起動しようとしてるところに話しかけようとしたら、暴れだしちゃったんだよー。」

「その辺は後から聞くしかないか。」

 

 なんで、起動しようとしているのを発見したんだろうか、など思うと疑問があるが、止めておく。本音だから、の一言で片付いてしまうような気がしたからだ。

 

「・・・そういや、やけに静かだな。

 中の騒動が、外には聞こえてないのか?」

「IS学園が訓練や試験に使う施設らしいし、防音はしっかりしてるんじゃないかなー。」

 

 激闘が続いている体育館の外は、信じられないほど静かなものだった。

 本音の言うように、音が漏れ出さないようにしてあるらしく、入り口から遠ざかった今では中の音がまるで聞こえない。

 それでも戦いは続いている筈で、試験官がいつまで耐えてくれるかはわからない。できるだけ早く、助けなければならない。そのためにやるべきことを、既に一夏は決めていた。

 

「本音、歩けるか?」

「ちょっと頭が痛いけど、歩くくらいならグッジョブだよー。」

「そうか。なら、悪いけどここから玄関まで歩いてくれ。

 そこに試験官の人がいるから、応援を呼ぶように言ってほしい。

 多分どこかに案内板くらいはある筈だ。」

「おりむーは?」

「もう一回、体育館に戻る。」

「何言ってるの!?

 さっきの人は逃げて、応援を呼べ、って言ってたじゃない!

 また行ったら、死んじゃうかもしれないんだよ!」

 

 また行けば死ぬ、間違いなく。

 自分でもISが戦っているところに飛び込んで、タダで済むとは思っていない。

 いや、それどころか命の危険なんて当たり前のことだろう。

 それでも、行かねばならない。俺という人間は、誰かが死にそうになっているかもしれない所を見捨てることはできない。いや、してはいけない。

 誰かが生きていた喜びを知ったから、その後だからこそ、そう実感できた。

 

「・・・俺が行っても足手まといになるのは分かってる。

 きっとできることも多くないか、何もない。」

「だったら!」

「でも、何かできるかもしれない。

 だから、何もせずに諦められない!」

「おりむー・・・」

 

 身の程知らずの存在でも、石ころ程度の働きはできるかもしれない。

 その『かもしれない』が、命を救うかもしれない以上、俺はここで引き下がれない。

 まだ、何か言いたげに俺を見つめる本音に仕方なく、言い訳を使うことにした。

 

「大丈夫だって。遠くから様子をうかがって、危なくなったら逃げるさ。

 あの人がやられそうになったら、注意を引き付けることぐらいはできるし。

 本音が早く誰かを呼んできてくれたら、何も問題ないだろ?」

 

 我ながら、酷い言い草だと思う。

 自分が怪我をしたら、遅くなったお前のせいだ、と言っているようなものだ。

 それが嫌なら早く行け、と。

 

「頼むよ、本音が行ってくれないと、俺も戻れないんだ。」

「・・・どうして、おりむーはそこまでするの?

 あの試験官の人が知り合いってわけでもないんでしょ?」

「ああ、間違いなくあの人とは初対面だ。

 でも、もし俺が戻らなかったせいで、あの人が死んでしまうようなことがあったら、

俺は自分の夢を裏切ることになる。だから行くんだ。」

「夢って、朝言ってたこと?」

「ああ、きっとここで戻らなかったら、それで駄目になっちまうような、そんな夢だ。」

「それは、おりむーにとって大切なことなの?」

「多分、自分の命よりも、な。」

 

 そう言ったのを聞いて、本音も黙り込む。

 言いたいことはあっても、何を言うべきか迷っている、そんな様子だ。

 もう少し何かを言うべきだろうか、と口を開こうとしたところで、本音が動いた。

 

「分かったよー。

 でも、おりむーも危ないことはしちゃ駄目だからねー!

 もし、私が戻ってきて傷だらけだったら、また何かやってもらうからー!」

「約束するよ。怪我するくらいに危ないことはしないって。」

 

 できれば、その約束は破りたくない、と思う。本音が死んだかもしれないと思っただけで、自分も衝撃を受けたのだ。身を案じてくれるこの子も、同じような思いをするかもしれない。そのような事態になることは、俺としても避けたいことだった。

 ゆっくりと校舎へ向かう本音は、角を曲がる直前に振り返って大声で叫んだ。

 

「おりむー!かんちゃんを助けてあげて!

 でも、危ないのは駄目だよー!」

「無茶言うなぁ。でも、頑張るよ!」

 

 その言葉を最後に、本音は角へと消えてゆく。

 ゆっくりではあるがしっかりとした歩みであるため、途中で倒れてしまうようなこともないだろう。

 

「俺も行くか。」

 

 外からはわからないとはいえ、未だ戦闘の続いている筈の体育館へと俺は急いで戻り始めた。

 




 長ったらしいし、初対面の人間のためにここまで喜んだり、泣いたりするか?と思った方、正解です。普通泣きません。
 ただ一夏が泣いたということは、後々重要になったりします。

 のほほんさんを逃がし終わったし、次回は一夏が遂に戦うのか⁉

 次回、『第八話 偶然・必然・奇跡』

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