9月初めの投稿と予告したので、投稿します。
始めっから謝罪しないといけないのですが、本章はまだ後1話しかストックがないので、いつものように数日間連続投稿の手段はできません。申し訳ない。
セシリアとの口論から決闘開始の流れまでは大体できてきたので、10月までには戦闘描写を終わらせて本章も完結できればいいな、と考えております。
タグにもありますように不定期更新ですので、遅れることをお許しください。
第十話 篠ノ之箒の憂事
「――――それで、こっちが寮の見取り図になりますね。
織斑君以外に男の子がいないので、女子寮の一室に織斑君は住んでもらう形になります。
あとは、織斑君がこれから暮らしてもらう寮室に案内して、今日のオリエンテーションは終わりですね。」
「どうも。」
教室で挨拶をした日の夕方、俺は山田先生に連れられて寮の案内を受けていた。この学園は外界と切り離された存在らしく、生徒は基本的に寮での生活になっている。そして、生徒が女子のみということもあり、男子寮はない。
俺も入試前から知ってはいたことだが、男性教師などが暮らす場所でも借りることはできるだろう、と高をくくっていたら当てが外れた。
女子寮で相部屋だと学園から連絡がきたときは何が起こったと心配になった。
「女の子との相部屋ってやっぱり緊張しますよね。
すぐに別の部屋は用意しますから、それまでは大変でしょうけど頑張ってくださいね。」
「・・・俺も普通の男子高校生なもので、なるべく努力します。」
既に日も夕方に傾いた中、施設を見つつここの設備について思いをはせる。
それにしても凄い。女子しかいなかったのだから、男子用の設備がないことは仕方ないにしても、よくもここまで金がかかった学校を作ったものだ。
世界各国の色々な思惑の上で作られたとか言うだけあって、どの国の生徒が入学したり、寮生活を送ることになったりしても大丈夫なようにしてあるのは流石だといえる。
礼拝室とか学校においてあるのは今日初めて見た。
「しかし、本当に男は俺しかいないんだな。」
それだけに男子が入学希望者で現れた場合のことを、考えているとは思えないのが気にかかる。それは勿論、女性しかいない所に男が入ってくる勇気がないと思われているんだろうけれど。
「男性教諭を雇うかの話し合いもあったんですけどね。
何かあった場合の責任をとるのを怖がる人がいたり、明らかによくないことを考えている人からの応募があったりしたもので。
当分は男性の受け入れは見送ろうってなったんです。」
「何かあった場合の責任って、そんなに大変なことなんですか?」
「うーん、織斑君は代表候補生ってご存知ですか?」
代表候補生、たしか国家代表のIS操縦者の事だったと思う。難関の試験などを突破しないとなれない、選ばれた人間のことを言ったはず。
これまでなら何も関係ないことだと片づけられたが、良く考えれば俺もこれからは代表候補生に会うこともありうるのだ。
「確か、IS操縦者の中でも国家を代表する、エリートに与えられる肩書きでしたっけ。」
「大体合っていますね。
それで、仮にも国家の代表ということで何かあったら―――」
「クビだけじゃすまない、ってことですか。」
「そういうことです。
私としては気にしすぎて、男性が活躍できる場が限定されるのはよくない、と思ってるんですけど。」
「男の方が世の中に出ることを、怖がるようになってますもんね。」
そういえばイクサも言っていた気がする。確か『今の世の中で男は生きにくい』だったか。
レムナントと戦った日の朝に誘拐犯扱いされたこともあったが、今はああいうことも珍しくない。本当に男性が社会的に追い詰められているということもあるが、その状況を覆そうとせずに、流されている男性がいることも事実だ。
俺としては、そういったことには興味が無い。女がいかに偉くても必要以上に媚びたりすることや、怯えたりする理由はないからだ。
内容が難しいせいか、会話の空気が重くなったのを感じて、話題を切り替えることにする。
「代表候補生っていいましたけど、この学園には何人くらい代表候補生がいるんですか?」
「えっと、ちょっと待ってくださいね。あの子と、あの子と・・・」
頭の中で数えているのか、口に出しつつ指を折っていく。3、4と折ったところで、顔をこちらに向ける。
「5人、だったと思いますよ。1年生に三人、2年生に一人、3年生に一人で合計5人です。休学されている方もいますから、必ずこの学園にいるとは限りませんけどね。」
「やっぱり強いんですか、その人たちって?」
「それはそうですよ。うちの学園の場合は全員が専用機持ちだったこともありますし。」
「そうなんですか。」
聞いてみて実感する。この学校は強い女性が多い。なら、IS関係で強くなる目標になる人たちも多くいることだろう。
俺の場合、事件後の適性検査でわかったことだが、近距離戦以外の適性が軒並み低かった。性格的にも近接戦闘が好みだが、まさか他の距離にろくに対応できないとは思わなかった。
銃撃や砲撃の類の武器は使っても狙いが定まらず、的に掠りもしない。検査官によると、長い間剣道一筋でやってきたために、近距離以外の戦闘には頭の情報処理が追いつかないのではないか、という見立てをもらっている。
しかし、レムナントのように、近距離以外で戦える人間が敵となった場合にも戦うには、どうにかして対中・遠距離タイプとの戦闘経験は積んでおく必要があった。
そのあたりを考えても、5人も国家を代表するほどに強い人がいるというのはありがたい。 まさか5人とも、俺のように近距離しかできないということもないだろう。
なんてことを話しながら考えていると、山田先生がある部屋の前で立ち止まる。どうやらついたようだ。
「はい、ここですね。織斑君のこれからの自室は。
鍵はこちらですので、実際に入って見てください。」
「その前に、相部屋になる人の名前ってわかりますか?」
「えーっと、同じクラスの篠之野箒さんですね。」
篠之野箒、その名前にはいくらか覚えがある。
まだ、夢を持たずに無意味な努力を続けていた頃に、俺の身のことを心配してくれていた大切な友人の一人だ。
今に至るまで長く続けている剣道も、元は彼女に誘われたところから始めたことで、俺が剣道を磨き続けている原因は彼女だとも言えるだろう。彼女が引っ越すまでは同じ道場でも指折りの二人として何度も稽古でぶつかったものだ。
中学に入ってからは試合の中で何度か名前を見たことがあったが、大会で実際に戦う機会には恵まれず、実質彼女とは5年ほど顔を合わせていない事になる。
それがまさかのここで再会することになるとは、世の中何が起こるかわからないものだ。
「しっかし、箒と相部屋か。」
「あれ、篠ノ之さんとお知り合いなんですか?」
「小学校の頃の幼馴染ですよ。小4の頃にあいつが引っ越しちゃったんですけどね。」
「なんだか、運命的ですね!
私、そういうのって結構憧れちゃうんですよ。」
確かに久しぶりの再会ではあるが、運命的、などと表現していいものなのか。
彼女からすれば会いたくもないと思われているかもしれないので、そこまで良い再会となるかはわからない。
イクサとの一件以降は、そこまで心配はかけていないはずなので悪く思われていないと信じたい。
「鍵は・・・かかってませんね。
それじゃあ、入っちゃってください。
お二人で積もる話もあるでしょうし。」
「ベルとかないんですか?
中の様子も分からないで入るのは心配なんですけど・・・」
まさかとは思うが、中に入った途端に殴られたり、下着姿でも見て殺されかけたりする事態は避けたい。俺の意思を理解したのか、山田先生は軽く頷いた。
「そうですね。
女性のお部屋ですし、まずは私が入りますね。」
「お願いします。何もなかったら、俺も入りますから。」
「はい、では少しだけ待っててくださいね。」
寮室のドアを開けて、山田先生の姿が消えた数秒後、ドアの外にまで声が聞こえてきた。
『し、篠ノ之さん!なんでバスタオルも捲かずに出てきているんですか!?』
『山田先生こそなぜ私の部屋に!?
はっ、ま、まさか、織斑先生との関係の噂は本当で同性愛者だったんですか!?』
『違いますよ!?先生は普通に男の人が好きですからね!
というか、どこで噂になってるんですか!?』
予想した通り、中には問題が転がっていたらしい。何も考えずに入らなかった場合を思うと背筋が凍る思いだが、問題なくしのいだことにほっとして、中が静まるのを待ち続けた。
――5分後――
ようやく静まった部屋の中から、山田先生が顔をのぞかせて俺を部屋に招き入れた。
「すいません織斑君。お待たせしました。」
「いえ、大丈夫だったので。」
そうして、俺を部屋に入れて奥の方に箒がいることを告げると、そそくさと足早に出ていってしまった。中の会話が聞こえていると思って、恥ずかしかったのだろうか。
「い、一夏!そこにいるのか!?」
「お、おう、入らせてもらったぞ。」
奥からは俺がいるのが見えないのか、大声で箒の怒鳴ってくる声が聞こえる。
入室の確認で怒鳴られるのもおかしな話だけれど、おそらく自分以上に緊張している筈の箒にこれ以上負担をかけさせるわけにもいかないので、返事は穏便にしておく。
「山田先生から話は聞いた。今日からお前と相部屋なのだと。」
「そういうことになったらしいな。」
「ならここは、お前の部屋も同然ということだ。
入口で立っていないで早く入ってこい。」
「・・・お邪魔しまーす。」
そんな前置きを経て、ようやく顔合わせに至った・・・・のだが。
「・・・・」
「・・・・」
箒から椅子の用意がない、ということで指示されたベッドに腰かけて、お互い向き合ったまま会話が消えている。
何を言い出せばいいのか分からず、言葉に詰まってしまう。いくら昔の知り合いといっても、年頃の男女を同じ部屋に入れて他に誰もいなければこうなるのが当然だ。
箒の方は何か考えているのだろうが緊張して声が出せないのだろう。先程から何度もジロジロと俺の顔を見て、視線が合いそうになるとそらす、という行動を繰り返している。
それに対して俺の方は何を話せばいいのかが分からず、言葉が出てこない。
久しぶりだな。元気にしてたか。相変わらず美人だな。この前全国大会で優勝してたよな、おめでとう。・・・などなどいくらかの候補が浮かんでは消えていくが、どうにも上手くまとまらない。
最初は無難なところで剣道の話題にしておくか、とやっと頭の中で会話のきっかけを思いついたところで、箒が口を開いた。
「その・・・なんだ、一夏、久しぶりだな。」
「ああ、6年ぶりくらいか。試合では会うこともなかったからな。」
「そうだぞ!
いつも、全国大会で名前は何度か見た覚えがあったというのに、なぜ急に見かけなくなったのかと思っていたのだ!」
「なぜって言われても困るんだけどな、中学に入ってからは剣道部にいたわけじゃなかったし、個人だけだと、やっぱり強い相手も多くてさ。全国大会じゃ上に行くまでに負けてばっかりだったんだよ。
団体でも出場してたら、箒とも直接会うこともあったのかもしれないけどよ。」
「む。そ、そうか。別に剣道を辞めたりしたわけではなかったのだな。」
「箒のお父さんが引っ越してから、道場をどうするかで揉めたりはしたぞ。
色々あった後に、道場をそのまま存続させてもいいって言ってくれる人が出てきてくれて、今でもそこで練習させてもらってるよ。」
「私が引っ越してからも様々なことがあったのだな。
他には何か変わったことはあったのか?」
「他には何があったかな・・・」
俺を試合で見かけるかの話から、会話の流れが昔の話題へと移る。幼なじみだが、小学校の時に地元から離れてしまった彼女は、俺達の町がどんなふうに変わっているのかを知らないのも当然だ。それから俺は、彼女がいなくなってから町に起きた変化を語り始めた。
しばらく語ったところで、箒は聞きにくそうにしながら俺に尋ねた。
「一夏、その・・・お前は、お前の夢はあのころと変わっていないのか?
正義の味方を目指す、というのは。」
「え、あ、ああ、そうだけど。
それがどうかしたか?」
「いや、教室に入ってきた時の自己紹介が、まだ頭に残っていたのでな。
まだ夢は変えていないのか、と思ったのだ。」
「おう、何も変わってないぞ。」
「そうか、それは、よかった。」
そうどこか辛そうに言うと、箒は俯いたまま、黙り込んでしまう。
なぜ彼女がこんな顔をするのかはわからないが、実に居心地が悪い。
何か理由をつけてこの場から離れようと決めて、腰を浮かせようとしたところで、箒が声をかけてきた。
「―――いや、やはりよくないな。
一夏、お前はこれまで生きてきて、危険なことに巻き込まれたりはしなかったのか?」
「少し前に、一歩間違えたら死んでたかもしれないことはあったなー」
重すぎる内容なので逆に軽く言ってみたが、逆効果だった。
「やっぱり危険なことになっているではないか!
私が引っ越す時にもいっただろう、自分を大事にしろと!
そんなことばかりしていると、人にいい様に使われるだけだぞ!」
「・・・その、ゴメンなさい。」
箒が突然激怒した理由はなんとなくだが分かる。本音と同じように、命を危険にさらすことはよくないことだと心配してくれているのだろう。幼なじみだというだけでここまで心配してくれるのはとてもうれしいが、今彼女が求める答えは返せない。
逃げるように入ってきたばかりのドアへと向かい、
「心配かけて悪い、箒。
でも、やっぱり俺は・・・」
「だが、それでは―――」
後からも聞こえてくる箒の声を扉で遮り、言葉を残して俺は部屋を出た。
「やっぱり俺は、正義の味方になりたいんだ。」
◇
「一夏・・・」
一夏が出ていったドアをしばらく眺めて、私はため息をついた。
人が困っているところには自分から関わっていこうとするくせに、自分の困った時には逃げ出してしまうのが彼の癖だった。
再会できたことはうれしかったが、彼の夢がまだ変わっていなかったことには複雑な思いが胸を渦巻いている。
「・・・あの頃と本当に変わっておらんのだな。」
聞く者もいない部屋の中でポツリと、そうつぶやく。
彼は本当に変わっていないのだと思う。
あのまっすぐな目も、困った時に逃げる癖も、そしておそらく人を助けるためには無茶をしてしまうところも。
「あの生き方では苦労することが多い、と言ってやったというのに。」
出会った頃はそうでもなかった。努力するときだけは人が変わったように、自分を追いつめることも平気でやるが、それ以外の時には誰にでも優しい普通の少年だった。
自分を苛めていた連中から助けたときも、『女の子を泣かせるな』と言っていじめっ子を殴り飛ばしていたこともよく覚えている。
それぐらい彼は正義感が強く、自分に厳しい子どもだった。
時々あまりにも自分を追いつめる訓練をする彼を泣きながら止めようとしたことは、今でも箒にとっての黒歴史だ。
それが急に少し変わった。
IS世界大会から帰ってきた直後あたりから、急に人の手助けや頼まれごとを何でもやるようになった。そのことを良いことだと、初めは思っていた。
だが、段々と彼は周りから便利な人扱いされていることが分かっていても、その行為を止めようとはしなかった。助けてくれる彼に感謝をする人間もいたが、体のいい使い走り位に考えていた輩も多くいたはずだ。
そう思って、一度止めようとしたこともあった。
『一夏、もういいだろう?
お前を便利な道具としか思っていないような奴のためにまで、そんなに頑張る事はない。』
『違うよ、箒。
俺は誰かにどう思ってほしいから、こんなことをしているわけじゃないんだ。』
『なら、なぜ――』
『箒、俺さ、夢が出来たんだ。千冬姉の弟でしかなかった俺にも。
―――俺は誰も泣かないように、苦しまなくていいように。
そんな他人を幸せにできる『正義の味方』になりたいんだよ。』
『・・・』
『ごめんな、急に変なこと言いだして。』
『・・・しかし、それではお前自身はどうなる。
人が幸せであってほしいと思うのは確かに良いことだが、お前はどうなるのだ。』
『・・・俺は、周りの人が幸せになって、正義の味方になれたらそれでいいんだ。』
『ま、待て、一夏!』
そんな会話をした。その時初めて、彼の口から正義の味方という言葉を聞いたのだ。この会話の後も彼の行動は止まらず、心配してはいてもどう言葉にすればいいかわからない箒は引っ越しの日に別れ際せめてもの思いで、彼にこう言い残しておいたのだ。
『一夏、お前とはもう会えないかもしれん。
今やっていることを止めろとは、私ももう言えなくなる。だからせめて、お前も自分を大事にすることだけは忘れないでくれ。』
そう言ってやったというのに、先程の会話を思い返した感じでは、今では命すらも危険にさらすようになっているらしい。
「人の話を全く聞いていないではないか!」
否、ひょっとすると覚えていた上でまだ続けているのかもしれない。だったら尚更に悪い。
「まったく、せめて大会で会うことが出来ていれば、ああまで悪化する前にとめられたかもしれんというのに。」
ため息をもう一度吐き出すと、一夏が部屋に置いて行ってしまった荷物達を彼用のベッドの上に載せ始める。いずれ戻ってきたら片付けさせればよいが、話し出す種にはなるだろう。決着のつかない話を繰り返してもよいことはない。
この話題については日を改めよう、そう箒は思った。
「しかし、変わっていないのは良い所もだったな。」
こっそり横目で見た彼の顔だったり、どこか困ったような顔で自分の質問に答えたりするところは昔と何一つ変わっていなかった。夢を変えていないなら、きっと幼少の自信を救ってくれた優しさもまだ持ち続けているのだろう。
面影があるというよりは、懐かしさも含めて彼のことを思っているということなのだろうか。
「一夏のことだから、私が身体を大事にしろと言ったことを守っていないから怒っている、などと思っているのだろうな。」
鈍感な男だ。人に泣いてほしくないというのなら、まず幼馴染の泣き出しそうになっている心にも気づくべきだろうに。
「何とも思っていない男を、こんなに心配する女がいると思っているのか、馬鹿者…」
望んでいる男の声は返らなかった。
というわけで、今回は日常回でした。しばらくはこんな話が続きます。
・・・シリアスも多めだったりしますが。
箒が本編だと専用機が出るまでキレ役しかないので(原作で)、
ここで回想とか心情入れといた方がいいかな、と彼女の心中とか書いてみました。
質問・感想、何でもお気軽にどうぞ
――相変わらずどうでもいい余談――
一夏への箒と鈴の好感度は開始時点でMAXです。
過去で惚れてたらわざわざ書き直さなくてもいいか、なんて思うので。
お気に入り登録が遂に50件を超えて、画面の前で小躍りしちゃったりしてます。
この喜びの表現を皆様にもお見せしたい!(←誰得)
冗談はさておき、これからも皆様に楽しんでいただけるような作品を書ければな、と考えています。
今後ともよろしくお願いいたします。