戦闘は次回、というか今夜投稿します。長くなってるので短い話を先に投稿しときます。
――Seshiria side―—
一夏たちが特訓を繰り返している1週間の内のある日。
人気のない夕暮れの射撃練習場。
その静寂を裂くかのように、青い金属で出来た4つの牙が駆け抜ける。対する牙に狙われた獲物は宙に浮かべられた的、数にして12個。
的は所詮、ただのコンピュータ制御であるために動きはパターン化されているものの、そのパターンを組み合わせて複雑化した、予測することのできない機動で巧みに四方八方から撃ち掛けられるビームの砲撃の中を避け続ける。
的の内の一機、丸い円盤型をした的も、もっとも近い牙の砲口を避けるように旋回、悠々と後ろに回り込む。
かすり傷一つ負わせることもできずに、牙が身に蓄えたエネルギーを失ったように失速し撤収するかと思われた時、後ろに回り込んだはずの的はさらに後方から放たれた銃弾によって、役目を終えた。
ソレが小さな光を放って着弾を示したのを皮切りに、周囲の的達にも雨霰の如く銃弾が降り注ぐ。
しばらくして銃撃が止むと、支援に勇気づけられたかのように牙も動きを取り戻し、統率の乱れた的を掃討していく。前の牙に反応した的は下にいた牙に、回り込もうとした的は逆にその位置で待ち構えていた牙に、それぞれ無数のビームを食らい、小さく光を放っては地上へと落ちていく。
その後1分と待たず、牙と獲物の応酬などなかったかのような静寂が射撃場に戻った。
静かになったその場で、動く牙と同じ青い鎧を纏った影が一つ。
「【ティアーズ】操作との思考切り替えのラグは3秒。
自己ベストには及びませんけど、悪くないですわね。」
一夏達と同じく、修練に勤しむセシリアだった。
主の下へ帰ってきたティアーズを撫でながら、成果項目を目で確認する。
仲間と共に自分への対策を練っているらしい織斑達は、この1週間でその対策を実用的なものには仕上げてくることだろう。
自分や【ブルー・ティアーズ】の資料をどれほど集めてくるかまでは想像できないが、コンディションを整えておいたり、これまで使ったことのない戦術は用意しておいたりした方がいい。
そう考えたセシリアは、この練習場に籠って調整を続けていた。
「・・・・」
彼らと彼女の違うところは、周りに誰もいないことだ。
日も沈んでしまった今、練習用の施設に訪れる物好きなどいるわけもなく、整備担当を頼んでいない(正確には頼む相手のいない)セシリアは完全に独りきりである。
過去の体験から優しくしてくる相手にはつい警戒してしまうところがあり、篠ノ之箒が名前を覚えていなかったことを馬鹿にした自分も、友人はいない体たらくだった。
学校生活にも問題はないものの、昼食を一人でとったり、頑張る時に誰も見ていてくれなかったりする現状に、セシリアも少しは寂しさを感じていた。
少しその思いで表情が暗くなるが、振り払うように作戦確認を始める。
「ティアーズがワザと単調な動きをすることで油断をさせ、意識をそらした私から攻撃を仕掛ける、新しい作戦プランの中では完成度は上出来といえますわね。
・・・あの男は油断しなさそうなのがネックですけど。
後は開発本部から使用を頼まれた自律起動OSを、もう少し考えないといけませんわね。まだ世に出回っていない情報ですし、隠し玉程度には使えるでしょう。」
普段のセシリアなら決闘といったところで、これほどの準備はしない。自分に勝てる者など、同い年の中にいるはずがないのだから。
このイギリス代表候補生、セシリア・オルコットには。
ではなぜこれほどに周到な用意をしているのか。
自分でもよくわからないが、あの男の目を見ると、そうした方がいいと心が叫んでいるような気がした。
「恐れているとでもいいますの、私。」
ついボソリと独り言が漏れる。慌てて周りに聞いている者がいないか、辺りを見渡すが自分以外に動くものはない。確認が終わってようやく一安心して、胸をなでおろす。
ありえないことだ、恐れているだなんて。
「・・・どうせ裏切るくせに、あんな目で見るんじゃありませんわ。」
聞いている者がいないとわかると、自然と口も開く。聞く相手のいない罵倒も出てしまう。
あの目の真っ直ぐさが印象に残っているのだ、とぼんやり考える。芯が通ったとでもいうべき目で、自分を見る人間は久しぶりだったからだろうか。
記憶にある限り、あれと同じ感じがする目をしていたのは両親だけだ。母は厳しくはあったが強さを伴っていたし、父は母に情けなさけない態度ではあったが、変わらない優しさを持っていた。あの頃が、セシリアが他人を信じることが出来ていた時期だろう。
しかし、両親が死んでからというもの、自分に近寄ってくる人の目は常に卑屈な暗い影が落ちていた。擦り寄ろうとする者、媚びへつらおうとする者、様々な男がいた。
「父様と母様が残したオルコット家の家督も財産も、誰にも奪わせはしませんわ。
そう、優しくする人は必ず心の底ではよからぬことを企んでいるのですもの。信用できるはずがありません。」
その連中をセシリアは嫌っていたわけではなかった。見下してこそいても、生き方の一つくらいには見ていたのだ。というか、力で上に立てなくなった弱者が強者に取り入ろうとするのは珍しくないし、非難されるようなことでもない。
気に入らないのは、表向き悪意や隠し事がないかのように優しく接してくるタイプだ。まだ両親が亡くなった直後の頃はそういうのが特に多かった。今思い出しても腹が立つ。
『大変だったね。困ったことがあったら言ってちょうだい。何でも協力するわ。』
『うちの子になりなさい。学校に通うのも便利だろう。』
『この子はうちの子の方が仲がいいわ。うちで引き取ります。』
その言葉を信じてみても、彼らが欲しかったのは両親の残したモノだとすぐわかった。遺産、家督、土地、株式、経営者の椅子、言い出すとキリがない程何でも欲しがっていた。
手に入らないとわかった途端に、次から次へとたらい回しにされたのだから性根を見抜くのに苦労はしなかった。
古くから家に使えていた執事長が、両親の顧問弁護士と協力して守ってくれなければ、今ここにいることが出来たかも怪しい。
セシリアが他人の優しさを信じられないのも、彼らの様に最初は優しくしたにもかかわらず、欲しいものを手にすれば、又は自分のものにならないと分かると、余分なものはいらないとばかりに放り出す大人を見てきたからだ。
「優しさをアピールするのは嘘つきの証。
父様の様に情けなくても、裏切らない人の方がずっと良いですわ。」
父も母に頭を下げてばかりで、結婚するのはこんな情けない男性以外にする、と思ったこともあったが、亡くなって初めて父が良い人間だったと知った。
家族なら当然なのかもしれなかったが、父はその優しさを裏切ったことはなかった為だ。
本心を隠すためだけに優しくしてきた親戚連中とは雲泥の差で、生前にもっと感謝しておけばよかったと思っても後の祭りだった。
「男性としては強い人が好きですけど、人間的には媚びるなら最初から本心を暴露して欲しいものですわね。」
男としては見られないが、最初からへりくだって頼む人間は別に嫌いではない。
だからあの男、織斑一夏も土下座すれば教えてやるくらいはやぶさかではなかったのだ。実は頭を下げてきたところで誠意には満足していたので、土下座は冗談のつもりだったというのに事が大きくなり、決闘にまで話が膨らんでしまった。
布仏本音が言う事実が信じられなかったことも決闘を申し込んだ理由の1つだが、もっと気になっていることがある。
「教えてもらうために土下座するくらいにプライドがないくせに、どうしてあれほど強い目が出来ますの?」
どうして。
自分と彼以外が言い合う中では、周りの対応に追われて狼狽えていただけの様に見えた。だが、夢を侮辱云々と言われると明らかに空気が変わった。スイッチが切り替わったように、まるで別人の様な意志の強さを感じさせていた。
今まで自分が見てきた凡百の男達とは何かが決定的に違う、そんな直感があった。
あの男ならあるいは自分を負かして、言葉だけではない事を示して見せるかもしれない。
そして、他人を信じられなくなった自分を変えて―――
「・・・ずっと調整を続けて疲れたんですわね。
負けた結果を想像するなんて、私らしくもない。」
浮かんでしまった馬鹿な考えを捨てて、時計を見ると、針は既に夜八時に差し掛かろうとしている。
見回りにやってきた織斑先生から鉄拳制裁を食らう前に寮に戻ろうと、セシリアはその場を後にした。
――side out――
◇
セシリアは気づいていない。いや、正確には気づいた上で無視しようとしている。
決闘などという手段を言い出したのは、両親と通じる真っ直ぐな目をした織斑一夏が本当に心まで真っ直ぐな人間か見極めたいから。
準備をしているのは、そんな情けないことを考える自分を認めたくないから。
そして昔と同じように、心から信じられる相手を欲しているだけだということを。
夢を持ったことで歪んだ者と、決闘に歪んだ結果を求める者。
歪みには気づかない少年と認めない少女、彼らの心を置き去りにその日はやってくる。
というわけでセシリアの話でした。
戦闘が次回からとか言って、これを前回長くなるから外したせいで、入れるタイミングを無くしたので先に入れときます。
戦闘を楽しみにされてる方、今夜投稿しますのであと少しお待ちください。
登場人物紹介でも書きましたが、今作のセシリアは過去の経験から人間不信になったものの寂しがり屋な面も持つ少女になっています。