IS×00 夢を目指す者   作:王天君

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 初めての方は初めまして、続けて読んでくださっている方はお久しぶりです。
 会話より戦闘の多かった気のする第三章もこれにて終了。セッシ―と一夏の関係はどう決着を迎えるのか、最後までご覧下さい。

・・・最終回の前振りみたくなってますが、まだまだ終わりませんよ?

 ともあれ本編をどうぞ。肉付けしすぎでやっぱり長いですが。

※10/09夜追記 長かったのと、この話につけたままは微妙なので、後半を幕間として再投稿いたしました。


第十八話 友達に・・・

――医務室――

 

 念のために行っておけ、と指示された医務室のベッドに横たわって、戦いを思い返す。

 何度撮ってもらった映像を見ても、ギリギリの勝利だったことが分かる。覚悟をして突っ込まなければ、どうなっていたのか分からない。だが、ほぼ負けていた。

 声と共に俺が身に纏った、新たな追加武装のことも明日以降に自分でデータをとるつもりだ。壊れた【アストレア】も直してほしいと思っているだろうし。

声といえば、あの声が聞こえてから頭痛も嘘のように引いていた。何か関係があったのかもしれない。

 それと彼女が、試合終了後に言いよどんだことも頭に残っている。何か深刻そうな顔をしていたが。

 

「オルコットは何を言おうとしてたんだろうな?」

『何カナ、何カナ?』

 

 枕元で晴れて【アストレア】の正式な待機状態だと判明した、【ハロ】がゴロゴロと転がって合成音声で反復している。

 謎も多いコイツだが、明日のチェックまではペットロボのような扱いでいいかと思って転がしたままになっている。移動してもついてくるので、愛着が湧いてしまったともいえる。

 時刻は夕方。箒や本音や簪も見舞いに来てくれたが、寮に戻る時間が来たということで帰ったので誰もいない。

 

「・・・お前にもわかんないよな。」

『オンナゴコロ、ムズカシイ、ムズカシイ!』

「同感だな。」

『ウワー!』

 

 適当にあしらって額(球体なので不明だが)を小突くと、ベッドから転がり落ちた。そこそこ硬そうだったし、壊れはするまい。

 戦いを通して、彼女の内面の一部を知ったつもりになっている。だがあくまでそれは一部で、全体像には程遠い。俺を気にいらなくて、決闘までした理由さえ不明なままだ。

 先にアリーナを出ていったのも体調を崩したのかもしれない。明日謝ると言っていたし、その時に色々とまとめて聴いてみようか、とそう思う。

 なにせ、

 

「クラスメイトだし心配するのも当然だよな。」

『ナカマ!ナカマ!』

「ははっ、そうだな。仲間になりたいよ。」

 

 ハロが床からでも元気よく声を出す。こいつの声に、何だかんだで癒されているような気もしてしまう。

 オルコットが俺の事を嫌っていても、心配するのは俺の勝手だ。勉強を教えて欲しいし、明日ちゃんと友達になれればいいのにな。

 

 一夏にとってセシリアは既に謝罪させる敵ではなく、身を心配するクラスメイトの一人だった。

 

 

 

 

「負けたおかげで自分を見つめなおす結果になるなんて・・・。人生分からないものですわね。」

 

 夜に一人、自室へと戻ったセシリアは、ベッドに腰かけて眠る前に思考を巡らせていた。

 勝敗を決した弾丸、負けても悔しさばかりではない自分、明日どう謝るか、色々と考えなければならなかった。

 例えば弾丸のこと。

 速度を上げた織斑一夏に弾かれはしたものの、実は外したのは自分ではないかという思いが後からこみあげてきた。

 黒煙を貫いて現れた彼と視線を合わせたとき、真っ直ぐだと感じただけだった。だが今思うと、その時に心の強さの違いを感じていたのかもしれない。合っていたはずの照準が、発射寸前で彼の目を思いだして揺らいでしまった。

 言い訳でも何でもなく、事実としてそう思えた。

 終わってみれば負けるのも当たり前だ。あの一発に頼らずとも自分は心が負けていたのだから。

 共に追い詰められた状況でありながら、片や敵を前に勝つことだけを考えて全力を出し切り奇跡を起こした織斑一夏と、片や敵に情けをかけようなどと勝手な余裕を持って引き金をためらった自分。

 戦いにかけた思いの差が見えざる攻防を起こし、敗北していたのだ。

 

「全力で戦っているつもりでも、過ぎた余裕が身を滅ぼしたということ・・・かもしれませんわね。」

 

 油断ばかりではなく余裕も持ちすぎれば身を滅ぼす。良い教訓になったと考えるべき、か。

 学べたことではあったが、セシリアの心にはより大きく渦巻いた思いがあった。

 

「負けたのに、悔しいだけじゃないなんて・・・おかしなものですわね。」

 

 こともあろうに男に敗北もしてしまった上に、勝敗を分けたのは自分の未熟さだった。それが分かっていても、胸の奥にあるのは負けた悔しさのような、後ろ向きの感情ばかりではなかった。

 もっと温かい、春の日差しを浴びているような、そんな穏やかな心地良さ。それが今も心の中にあった。

 その原因が戦った織斑一夏にあることは、考えるまでもない。

 

「いい戦いでしたわね。負けたのが苦にもならないくらいに。」

 

 いい相手だった。出せる全力を出し切って、正面突破で自分を負かしてみせた。【ブルー・ティアーズ】を受領する前も後も、あんな勝ち方をしようとした相手はいなかった。

 近距離武器しかなかったのかと思ったがバズーカを持っていたからそれは無い。あくまで自分の意思で、決着を近距離戦で挑もうとしたのだと思われる。黒煙越しにもう一発撃つなりなんなり、出来たかもしれないのに。

 

「目に嘘はありませんでしたわね。本当にただ真っ直ぐで、それでいて強い人。」

 

 口元が薄い円を描く。最後に家族や身近な人以外の他人へ好印象を持ったのはいつのことだったか。

 決着間際でも思ったが、やはり織斑一夏は好感を持てる人物で、そしてこれから先も信頼できると思える人物だった。

 叶うなら、友達になりたかった。もう少し仲良くなってみたかった、とも思う。

 ただ・・・

 

「あれだけ悪態をついた人間と、友達になんてなりたくありませんわよね・・・」

 

 上がっていた口端が今度は下がる。

 自分でもあれだけ好き勝手言われれば腹が立つし、仲直りしようとも思うまい。内面を知っていればこんなことはしなかった、なんてそれこそ後の祭りだ。

 篠ノ之箒が彼を『優しい奴だ』と評した時にでも止めていたなら、こんな後悔もしなかったのかもしれない。

 思っても無意味なことだと、頭では理解している。セシリアは他人がつけた評価を鵜呑みに出来るほど頭が柔らかくない。彼の内面をどれだけ熱弁されても、納得はしなかったに違いない。

 親族たちとの関係から培った精神で重宝していたが、今はそれが恨めしかった。

 

「後悔先に立たず、ですわね。謝ることだけ考えましょう。」

 

 潔く友人になるのは諦めよう。そう心に決める。

 敗者の自分に許されるのは素直に謝って、彼に今後求められたときに力を貸すくらいのものだ。勉強が難しいと言っていたし、力になれるかもしれない。

 近寄るな、と言われても身から出た錆である以上は甘んじて受ける。

 初めてこの学園で信じられた人に嫌われたくはないが、もうどうしようもない。

 

「・・・次からはもう少し、人を素直に信じた方がいいのかもしれませんわね。」

 

 ベッドに体を横たえる。

 目からこぼれ落ちた一滴の雫が頰につけた後を拭いもせず、彼女は眠りについた。

 

 

 

 

 明朝、始業前。

 

 教室に着いて、真っ先に織斑一夏を見つけたセシリアはツカツカと歩み寄る。

 表情は強張っていない。起床時に出来ていた目元の腫れも化粧で隠して見えないようにした。声も震えないように発声練習をしてきた。謝る姿として違和感があるのは何処にもない。

 

「ここはガンッという感じだ。」

「そ、そうじゃなくてここはね・・・。ぺ、ページが捲れない。」

「zzz」

 

 一夏は朝早くなのに三人も女の子を周囲に侍らせて、教科書に取り組んでいる。彼が悩んでいるのを、周りから三人が教えている形だ。もっとも三者三様で、教え方が擬音ばかりで分けがわからなかったり、慌てて教科書のページを間違えていたり、寝ているだけだったりしているが。

 

(昨日の決闘が嘘の様ですわね。それとも私のことなど、大したことではありませんの?)

 

 馬鹿にするような考えを中断する。昨日後悔したばかりで、また悪口を言っては猿同然だ。それに彼が自分のことを軽んじても文句は言えない。他人に勝手なこと思ったのはセシリアも同じだからだ。

 近づくにつれ、開口一番に罵声でも浴びせられるのではないかと、心臓の鼓動が跳ね上がってくる。そんな人間ではないと分かっていても、今のセシリアには不安になる材料だった。

 

「おはようございます。織斑さん、それに皆さん。」

「おう。おはよう、オルコット。」

「む、またお前か!」

「zzz」

「お…おはよう…オルコットさん。」

 

 彼ではなく篠ノ之箒から睨まれるが、そちらはどうでもいいので無視する。寝ている布仏本音と怯えている更識簪には、軽く会釈して彼に話しかける。

 

「怪我は大丈夫でしたの?」

「頭痛がまだちょっとだけな。後は機体が損傷しただけだし。」

「それは良かったですわ。」

 

 表情に出さずに安心する。後遺症でも出ていたら、自分の身勝手で人の人生まで曲げてしまうところだ。

 

 

「昨日謝罪できませんでしたから、今、させていただきますわ。」

「二回目だけど、そんなに難しいこと言わなくていいぞ。」

「そうもいきませんの。」

「こら、私を無視するな!」

 

 やはり無視して、スカートの端をつまんで軽く持ち上げる。そのまま腰を折って、優雅に一礼する。

 

「イギリス貴族オルコット家現当主『セシリア・オルコット』の名に置いて謝罪いたします。この度は私の勝手な心情によって、貴方様を侮辱したこと、本当に申し訳ございませんでした。

 お詫びの品もございませんが、どうかお許しください。」

「ああ、まあ分かってくれたならそれでいいぞ。」

「必要とあれば土下座でも何でも致しますが、何をしたらよろしいですか?」

「いいよ。別に謝ってくれたし、それで無しにしよう。」

 

 その言葉でとっていた格好を戻す。求められれば土下座も辞さない覚悟だったが、何事もなく終わった。

 もうこれで話しかけることも、話しかけられることもない。

 やっと信じられた人へ『友達になって』とも言えないのは辛いが、昨日の間に何度も後悔を噛みしめたことだ。これ以上一夏の前にいても、困惑させるだけだ。

 

「ではこれで失礼します。嫌な思いをした相手と、いつまでも顔を合わせるのも嫌でしょうし。何かお困りでしたら呼んでくださいな。物の代わりに行動で謝意は示させていただきますから。」

「あ、ちょっと待った。」

 

 自分の席に戻ろうとしたセシリアの背中に、織斑一夏が声をかけた。まだ何かあったかと訝しがるセシリアに一夏は思いがけないことを言った。

 

「早速で悪いが、困ってるんで助けてくれ。」

「は?」

 

 見れば、困ったような顔で本を掲げる織斑一夏の姿。努力家だと知っていたが、今自分は必要なのか?

 

「教師役が三人もいらっしゃるじゃありませんの。」

「最初オルコットも教えてくれるって言ってたからさ。助けてもらおうと思たんだが、駄目か?」

「・・・・・・貴方を侮辱する様な相手に、昨日の今日で助けを求められますの?」

 

 謝ったと言っても、自分を侮辱したばかりの相手が近くにいても何とも思わないのか。見直したつもりだったが、この男はひょっとしてただ間が抜けているだけなのでは。

 もし侮辱されたことも気にしないというなら、昨日の自分の苦悩は一体・・・・・・

 セシリアが頭を抱えたくなったところで、一夏が心底不思議そうに聞いた。

 

「友達なら喧嘩するくらい普通だろ?」

「友達って、私が・・・ですの?」

「あ、まだ言ってなかったよな。オルコット、嫌じゃなかったら、俺と友達になってくれないか?」

 

 彼が何を言っているのか、頭が追い付かなかった。そして織斑一夏もまた、何を疑問に感じているのか分からないと言った顔で、セシリアを見つめている。

 決闘にまで及んだことを喧嘩で片づけてしまう感性もそうだが、セシリアを友達とどうして呼べるのかが分からなかった。

 周りはこの行動をどうするのか気になり、篠ノ之箒を見やれば、彼の発言に不満そうであっても口を挟もうとはしない。視線に気づいて、彼女がこちらを向く。

 

「言っただろう、一夏は優しい奴だと。貴様とのことも、謝罪されたからそこまでだと考えているのだ。この性格のせいで殺されかけても、謝られたら許しかねないのが心配の種だ。

 あと言っておくが、私は貴様のことを友達などと思っておらんからな。」

「殺されかけたら、俺だって許さないに決まってるだろ!」

「ボロボロになるまで決闘した相手に、あっさりと友達と言う人間が言っても説得力があるか!」

 

 ため息をつく篠ノ之箒に織斑一夏が怒る。この二人は何だか仲良さげだが、セシリアはそうも思っていられない。

 

(誠意は込めましたけど、こんなに簡単に許していいんですの・・・・・・?)

「それでオルコット、勉強のこともあるけど友達になってくれないか?」

 

 篠ノ之箒の相手をしながら顔をこちらに向けて、聞いてくる。今までと何も変わらず、その目には何の含みもない。

 疑問はあった。

 不可解に思うこともあった。

 それでも彼に頼られて、友達が出来たことで心の多くを占めたのは喜びだった。

 

「・・・全く、どこが分かりませんの?貸してみなさいな。」

 

 

 

 

「おや、何か起きたらセッシ―が仲間になってるね~。」

 

 セシリアと一夏が楽しげに教え教えられの関係になっているのを見て、本音はのんびりそう思った。

 自分や簪では実戦不足もあったことだし、これで一夏が留年する可能性も低くなるだろう。何より知り合いが喧嘩しているのは、見ていても面白くない。

 

「かんちゃんもそう思う~?」

「・・・え、あ…うん。よかった、かな…。」

「かんちゃん元気ないけど、どうしたの?」

「今日…週末、だから…。」

「そっか、今日は行かないといけないんだっけ~。」

「うん。また…月曜日には…帰ってくるから。部屋は…ちゃんと掃除…してね。」

「モチモチロンロンだよ~。」

 

 憂鬱気な顔をする親友に、本音はそう言って場を和ませることしか出来なかった。

 

 

 

 

 呆れたような顔をしても、教えてくれる気になったらしいオルコットに感謝する。三人の教え方が悪いわけじゃないが、実戦を教えてもらえる人の知り合いがいるに越したことはない。

 

「助かる、ありがとうな。オルコ―――」

「セシリア。」

「―――ット、って何が?」

「名前ですわよ、友人だというなら名前で呼ぶのが普通でしょう。貴方は他の人にもそうしているじゃありませんの。私も一夏さんと呼びますから、それでお相子でしょう?」

「・・・・・・それもそうだな。あらためて、これから頼むよ。セシリア。」

「私は厳しいですわよ、一夏さん?」

 

 俺から取り上げた教科書片手に、からかうように話すセシリア。

 その時に彼女が見せたのは、決闘で見た好戦的なものでも、出会った当初の見下したものでもない、普通の可愛いらしい女の子の笑顔だった。

 

 

 




 見事セッシ―と一夏は友達になれたのでした。めでたしめでたし。

 真面目なことを言えば、いきなりベタ惚れは気にいらないが、アンチにするほどでもない作者なりの展開です。前にも言った気がしますね。

 原作通りになっているのか、あるいはされているのか。

 次は外伝というか幕間を2編挟んで、中華娘の章になります。
 第一章でハブったし、多少優遇しようかなとも思っています。

 幕間は今のところセシリア絡みを希望されるコメントが1件きましたので、アンケート結果待ちですが、そちらが先になるかもしれません。
 
 ではまた次回。

感想・評価・質問・お気に入り登録、何でもよろしくお願いします。

――シリーズ化しそう どうでもいい余談――

 次回はセッシー絡みだけど変則的な形になりそう
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