1日に2回目の投稿かと思わせて申し訳ない。
初めて読まれる方は問題ありませんので、このままどうぞ。
兎の住処
一夏とセシリアが友達になった日、同日某所
「幸せは~歩いてこない~、だからISでゆくんだね~。」
『何処ノ童謡ダイ?』
「束さんの日常ソング。続いて2番行ってみよう!」
『僕ミタイナ常識人ニハ、理解デキナイナ。』
冷たさを感じさせる金属製の通路を、束は気ままに流れていた。その後ろには緑の配色がなされたハロが付き従っている。
彼女たち以外には物音一つたてる者もなく、世界が滅んだのではないかと思う程の静けさに包まれている。実際今この場所にいるのは彼女らともう一人、いやもう一体だけだ。
通路に等間隔で設けられた窓からは、地上からでは望めない量の星が瞬き、見る者の目を楽しませる。本来はもっと多くの人がいることを想定して用意されたのであろう設備も、肝心の二人は見向きもしないので役立っていない。
彼女らにとって星に興味が無いのではなく、いい加減見飽きてしまったのだからしょうがないのだが。
広大な通路にたった二つだけの姿は、見る者によっては廃墟に迷い込んだかと思いこむほどに心細い。飛び抜けたオカルトマニアか廃墟マニアでもなくてはここへは来るまい。
「ここも寂しいよね。束さん的には賑わいが欲しくなっちゃうな。」
『賑ワイツイデニ、町一つ吹キ飛バスンジャアルマイネ。』
束の軽口に皮肉気な言葉を返すハロ。もし口が動いたならば、嘲るように歪めていたに違いない。現にクククッと笑ったのが聞こえる。
そんなハロを束は叱ることもなく移動を続ける。重力が小さいこの空間では、一度壁を蹴るだけで勝手に流れていくので、身体をだらけきらせていた。
「いっくんは勝てたかなー?」
『心配スルナラ、完成品ヲ送ッテアゲレバ良カッタンジャナイノカイ。』
「む、あれはいっくんが悪いんだよ。6月に完璧にしてから送るつもりだったのに、勝手に決闘なんて始めちゃうんだから。
システムだけ完成させて送れたのも奇跡だったしね。」
『武装ノ未完成ト引換エトハイエ、大層ナ物ヲ考エタモノダヨ。』
「リっちゃんのはまだしばらくかかる予定だし、自分が後回しにされて不満なのかなー?」
束がハロを見ると、そっぽを向くように宙で体の向きを変える。全身に組み込んだ極小スラスターをこんなところで使っているのだ。最新技術の無駄遣いも甚だしい。
『・・・僕ヨリ彼等ノ方ガ、不満ダト思ウケドネ。アンナ役割ヲ与エラレテ。』
「ヒー君とリヴィちゃんのことかー。今いっくんが戦える中じゃ最強だし、武者修行のつもりなんだけど。当て馬っぽくなっちゃうかもねー。」
束がそう言って振り返ったところには、すでに何かが飛び去った跡と思しきカタパルトだけが二つ残っている。彼女らは先程までここで、ある者たちを見送っていたのだ。
『ソレダケジャナク、機体スペックノ事モダヨ。』
「GNドライヴを積んでる機体は全部、第三世代相当にダウングレードしてるからね。あの子たちが不満に思うかもしれないかな。」
『ワザワザ下ゲル必要がアッタノカイ?』
問いを投げるハロに、束はしばし沈黙して窓へと視線をやった。
吸い込まれるような星の海を静かに見つめている顔からは、何を思っているのか全く窺い知ることが出来ない。
ハロに向き直った時には含みのある笑顔を浮かべていた。
「・・・いっくんは注目され過ぎだからね。話題の種を次から次へと足しても仕方ないからさ。だからGNドライヴ搭載型の性能は抑えめにしたんだよ。」
『今ハ、ソウイウコトニシテオコウカ。』
それ以上はハロも聞かず、再び通路を流れる暇つぶしが再開される。やがてその遊びも終わりを迎え、束の背中がつきあたりの壁に当たる。
「話してたら着いちゃったね。」
『通路ナラ当然ダロウ。』
「デッカちゃんに作業任せすぎたから、怒ってるかなー。」
『・・・呼ビ名ノセンスガ酷イナ、本当ニ。』
上下にスライドしたドアの先には、束たちが通ってきた広い通路が路地に見えるほどの巨大な空間が広がっていた。そこは工場だった。壁際には作りかけのISが台に固定されて放ったらかしにされていたり、壊れたままになっているものもあったり、装甲整備が途中で終わっているのかケーブルが出たままのものもある。
そのISの中を色とりどりのハロが目まぐるしく移動している。ISに精通している者でなくとも一目でわかる、ISの製造工場が広がっていた。
中でも目を引くのは、広い工場の体積の内半分以上を占め、大量の照明に照らされている小型の宇宙船のようなものだった。しかし厳密には宇宙船と呼べるかは怪しい。
その全長は40mにおよび、全高も10mを超えている。これはまだいい、20世紀から使われ続けているスペースシャトルでももう少し大きい位だ。大きさではなくその外見が異様だった。
機体色は紫と赤紫の二色。毒々しいとしか言えない色合いで、第一印象は最悪だ。
そんな配色のエイと合体したミサイルの下に、人力車がくっついた形とでも言おうか。あまりにも独特すぎるがゆえにこの世のどんなものにも似ていない。強引に兵器で形容すれば、砲身と砲塔が恐ろしく膨らんだ戦車か潜水艦の様な形をしていた。
機体下部の後方から水平に突き出した2本のパーツの先端には【アストレア】と同じ円錐状の機構が備え付けられている。その特徴がこの機体を太陽炉搭載型であると示唆していた。
その巨影を見て、束は疲れたように息をつく。
「半年かかってまだ完成しないなんて、気が滅入るよねー。」
『口ノ前ニ、手ヲ動カシテ頂キタイ!』
束に随伴していた緑ハロとは違う、第3の声が響いてきた。
声のした方を振り仰ぐと、宇宙船もどきの上からマゼンタのハロが束の方を向いている。一夏の青色や束の緑色と異なり、眦の吊り上がったこのハロからはあからさまな敵意が感じられる。緑が束を馬鹿にしていたなら、こちらは頭にきているか苛立っているという表現があてはまった。
「デッカちゃんお疲れさまー。仕事大変だったり、したかな?」
『投ゲ出シテ出テイッタ、誰カサン達ノ御蔭デネ。独リ立チノ良イ練習ニナリマシタヨ。』
「あ、あはははは。」
『・・・済マナカッタネ。』
不機嫌を隠しもせずに態度で示すマゼンタハロには、互いに皮肉を飛ばしていた緑ハロと彼をやりこめた束もタジタジとなる。
実はこの二人、先程まで一夏の下へ向かった者たちの見送りをした後、緑ハロと一緒に仕事をさぼっていたのだ。量産型のハロに指示を出せるのは束と二体のハロだけで、その中から二人が抜ければ残った一人の負担が恐ろしいことになるのは自明のことだ。
どこをどう見ても自分たちが悪いので、このハロに強く出ることは出来ず、一人と一体は愛想笑いで誤魔化し続ける。結果しばらくの間、マゼンタハロの恨み言が静かな工場内に木霊することとなった。
『博士ハ、自分ガヤロウトシテイル事ニ責任感ヲ持ツベキデス。劣等種タル人類ニ、新タナ変革ヲ起コスノデスカラ。』
『・・・僕達ト違ッテ、君モ元ハ人間ダガネ。』
『ソレガ何ダ、リボンズ!』
『余リ見下スノハ傲慢ジャナイカイ、ト思ッタダケサ。』
『見下シタ挙句、人間ニ一度倒サレタ奴ニ言ウコトカ!』
『最後マデ自分ヲ通シテ負ケタンダ。恥ジルコトナイ最期ダッタヨ。勝チタクハアッタノモ事実ダケドネ。
大シタ活躍モナク、宇宙人ニヤラレルヨリハマシダヨ。』
『何ダト!』
またいつもの展開だなー、と束が思うのを置いて、二体のハロが喧嘩を始める。マゼンタが怒り、緑がそれをのらりくらりと躱して油を注ぐことの繰り返しだ。
怒られるのが自分でなくなったので、束は二機を置いて移動する。宇宙船もどきも完成まで急がないといけないが、彼女がそれ以上に開発を急いでいるものがあった。
無重力状態を利用して地を蹴り、泳ぐように動いていく。探していた物はほどなく見つかる。
「デッカちゃんのもだけど、この子も早く作ってあげないといけないんだよね。箒ちゃんのためにも。いっくんのためにも。それに・・・イーちゃんのためにもね。」
思いをはせようとする彼女を邪魔したのは、工場内にもよく通る二体の声。
気分を害したが、その声にやれやれと思って仲裁に向かう束。
彼女が立ち去った後に残っていたのは、台に固定されている一機のISだった。
◇
眠るように俯いた外見からは、そのISの表情を窺うことは出来ない。
機体の配色は前面が白、背中側が赤を基調にしている。特徴で言えるのは二つ。頭部には【アストレア】、【エクシア】に似た白く鋭いV字アンテナが一対。そして、両肘に装備された円錐状のパーツ。このことで眠っているISもGNドライヴを持った機体だと分かる。
頭は似通っているが、全身は二機に比べてやや太めだ。より人間に近づいたフォルムだと言えば良い印象になる。流線や曲線の多いところを見ると、お伽話に出てくる鎧を纏った英雄の様に人間味に溢れている。もっとも語られるような活躍をするには手足が出来ておらず、機が熟していなかった。
彼は今再び目覚める日を待っている。主が乗っておらず、四肢がまだできていない今でも、かつてのように戦いの場に呼ばれ、力を大いにふるえる日を待ちわびていた。
彼のその願いが叶うのはもう少し後のことになる。
姿を現した束と2色のハロ、そして謎のIS(棒)や宇宙船もどき。本編での活躍はまだ先ですが、存在感は出せたかな、と思います。
描写でも明らかなように、束は宇宙にいます。
【アストレア】を積んだ箱が降ってきたのはそういう理由だったわけで。ついでに第二弾の落下位置予測をするためのテストでもありました。
宇宙のどこにいるのかはまだ内緒で。
――どうでもいい余談――
束が呼んでいたハロはオリキャラじゃないです。原作のキャラが多少ずれているかもしれませんけど。00を知っている人は知っているキャラ達。
性格が全員多少は丸くなってます。
呼び名がひどいのは作者のセンス。