アンケートでお答えいただいて同数だったこともあり、出来るだけ間隔を空けないで投稿しようと思ったので投稿させていただきます。
ただ分割するのであと1話か2話かかってしまうかもしれません。
鈴編はその後でスタートします。
今回はセシリアとセシリア(仮)のお話。詳しくは本編で。
やっぱり重い。
夢に生きた少年、彼はまだすべてを失うことを、夢を追う対価を知らなかった。
決闘を終え、晴れて織斑一夏やその友人たちと友達になってから数日たったある日。日曜日の夜も更けたころにセシリアはノートにペンを走らせていた。
「足りないのは戦術点。近距離戦をベースにしても、そこに至るまでの過程を踏ませないと。
・・・にしても、風が強いですわね。」
決闘当日とそれから数日続いた晴れの天気が見る影もなく曇り、風も強く吹く日だった。窓が時々ガタガタと音を鳴らして風の強さを語り、時折セシリアも眉をひそめる。窓越しでも空気が冷え、じきに6月であることも手伝って出した薄着のパジャマにしているせいで肌寒く感じるほどだ。
「台風でも来ますのかしら?」
何度か意識が寒さで逸れていきそうになるが、その度に視線を手元の紙に戻す。おかげで作業がうまく進まない。
教師役を引き受けた手前、彼女としても適当に役割を済ますつもりはない。前回の戦いから得た一夏の弱点をピックアップ。中遠距離における一夏の対応力を引き上げようと、彼に出来る訓練を考えているところだ。
「機体情報を見た限り、遠距離には手も足も出ないことが確かですわね。」
やっていることは受け取った機体のデータから、持っている武装や能力を総合的に数値化、後はひたすら出来ることのバリエーションを考えるだけだ。作業は単調だがそれゆえ疲れがたまりやすい。セシリアも瞼が重くなってきていた。
「ふう、キリのいいところで今日は終わりにしましょうか。」
眠くなってきた目をこすり、残った書類を見て終わりどころを考える。熟考のまとめを書きだし、明日起きたときに忘れることがないようにしておく。
「戦闘開始時から使っていた万能タイプの【アストレア】、変化した近距離タイプの【エクシア】。主戦力になるのは間違いなく【アストレア】ですわね。武器の未調整部分を直せば、わざわざ相手に近づかないといけない理由も消えますし。」
一夏の弱点は近距離以外の全般だと誰もが一目でわかってしまう。そしてクラス代表対抗戦も少し期間は空いたが近くに迫っていることから、早急に訓練計画を立てねばならなかった。
何故期間をあけることになったかといえば、あの決闘で実戦のレベルを見て触発されたのか、クラス代表に志願してくる人の数が激増したからだ。それに伴って他のクラスでも代表選抜戦をやることとなり、本命の対抗戦には遅れが出る事態に陥った。
【アストレア】も修理する時間がいるために嬉しい誤算であった。
誤算といえば決闘に使った武器の多くが短所を抱えていたことも誤算だったが、その点は時間をかけた調整で気にならない程度に抑え込める公算が立っていた。
「後は・・・」
織斑一夏の分からないと言っていた箇所を、セシリアが見直すこともメモに書く。人にものを教える時には、自分にも妥協しないことが大切なのだ。
更識簪は謝った金曜日の夜から外出しているらしく、学園内には不在である。よってもう二人の教師役、布仏本音と篠ノ之箒にも読みやすいように筆跡を整えておく。
織斑一夏にもやることは用意して、月曜までの宿題を課してある。基礎固めから入るべきだと見て、語句埋めの課題を選んでみたが手を借りずに終わらせてくるだろうか。
「宿題をいい加減にするタイプでもないでしょうし、ちゃんとしてきますわよね。」
書き終わって伸びをしたセシリアがそう言うと同時に、壁にかけた時計がベルで午前零時を知らせた。没頭しすぎて時間が経つのも忘れていたようだ。
ペンを置いてベッドに向かおうとしたセシリアの耳に、コツンと窓の方から音が聞こえた。
「何かしら?」
音は一度鳴っただけでもう聞こえてこない。それでも誰かいるかもしれないと気になり、両開きの窓を開けてみる。
「誰かいますの?」
夜遅くに窓をノックする知り合いの心当たりはないし、見回しても不審者の類が隠れているようにも見えない。大方、風で飛ばされた小石でもあたったのだろう。
「人騒がせな風ですわね、ってきゃあ!?」
閉めようとした途端一際強い風が吹き、室内に吹き荒れる。慌てて窓を閉めたが髪がぼさぼさになってしまった。
「ああもう!なんでシャワーを浴びる前じゃなくて後なんですのよ!」
風に当たり散らして答えが返るわけがないと分かっていても、言わずにはいられない。
手入れを怠ると質が落ちるのは髪もISも同じだ。こうも乱れてしまっては、シャワーを浴びて手入れしないといけない。だが今から手入れし直せば睡眠時間が格段に減ってしまう。
「・・・寝る時間が遅くなってもいけませんし、明日にしましょうか。」
結局睡魔には勝てず、手入れは明日に回してネグリジェに着替えてベッドに入る。本国にある実家でなら、何も身に着けずにシーツ1枚で寝ることもよくあるが、学園ではモラルなどの問題から自粛している。
というか一度、深夜に見回りに来た山田先生に鉢合わせして、寮全体を巻き込む大騒動になったせいでやめた。
「明日は晴れてくれないと・・・・・・練しゅ・・・。」
髪のことと生徒のこと考えることの多いセシリアも深まる眠気には抗えず、むしろ苦労が多いだけに眠りは速く、ベッドに横になって物の数秒で瞼が完全にくっついた。
彼女が寝静まって間もなく、部屋の中でノソリと動く影が一つ。
一夏に懐いているのと同じ、青色のハロであった。彼のハロとの違いは目が吊り上がっていること。束と共にいるマゼンタと目の形は同じだ。身体から出る不機嫌そうなオーラはあちらの方が上だったが。
ベッドに跳ね上がってセシリアの枕元に近づき、彼女が熟睡しているのを見ると、小さくこう言った。
『シャーネーナ。シャーネーナ。』
直後、円形のその身体から赤色の粒子を放出した。
◇
セシリアは夢うつつのぼやっとした意識の中、どこかの景色が近づいてくるのを感じとる。白い靄に覆われて中々判然としなかったが、それが靄ではなく雪だと徐々に形がはっきりしてきたことで把握する。
さらに現状把握に努めていると、どうやら自分は空中を漂っているらしいことが分かる。見渡す限り雪と森だけがどこまでも続く世界は、さながら童話の世界に出も迷い込んだかのようだ。だが、遠くに霞んでこそいても存在感を示すビル群が立ち見え、現実にあるどこかだと証明している。
宙に浮いていること、雪が降っていても寒さがまるでないことから、この場所が夢だと早々と認識できた。
「珍しいですわね。こんなに積もった雪なんて見た覚えがありませんのに。」
夢は記憶にない物から作り上げることは難しい。そして日本に来る前も後も、これだけの雪景色はそうそう拝んだことがない。
祖国イギリスでも年に2,3降ることはあるが、積もって終わりなことがほとんどの記憶しかない。
もしここが実在するなら、どのあたりに位置している場所かを確かめたいが、大量の雪からして記憶にある場所かは怪しい。
「少なくとも日本じゃありませんわね。」
建物が散見しているものの、日本の伝統家屋や田んぼが見当たらない。森が広がっていることからしても田舎なのは間違いないのに、田んぼの1つもないのは日本の可能性は低いだろう。
そこで彼女の意思に関係なく場面は進むのか、景色が彼女ごと移動し始める。
◇
田舎にしては大きめの道路に出て、道なりに進み、やがて都会らしい建物が立ち並び始め、幾多の分岐路を経て辿り着いた場所は、
「私の家じゃありませんの。」
現オルコット家本邸、すなわち彼女の実家であった。
貴族の名を名乗るにふさわしく大きな門と家は、生まれ住んだ彼女でなくとも一目見れば忘れない。だが何かおかしい。
「変ですわね。あんな置物ありましたかしら・・・。彫刻もあの位置じゃなかったはず。」
門から望める前景は同じなのだが、庭や窓など細部に異なる部分が見える。
今年からIS学園の寮に入寮したのでしばらく帰っていないが、模様替えしたなら老執事から断りの電話の一本もなくてはおかしい。
庭に植えてある木にしても、彼女が知っているものとは高さや種類が異なっている。置物類に比べれば微々たる違和感だが、当主として家の全域を把握するセシリアにはよく違いが目立った。
例えるならジグソーパズルの出来上がりは同じでも、角だけ絵柄が違っているような、慣れていないと分からない小さな違和感がそこら中にあった。
さらに深く入り込んで調べてみようかと思ったところで、人の気配がした。
「!誰か出てきましたわね。」
家の玄関を開けた誰かが門の方へと向かってくる。思わず門の陰へと隠れた後で、隠れる必要がないことに気が付く。
「って、何で私が隠れてるんですのよ。」
自分の家なのに。
しかしこれが夢にしても、見つからない方がいい。こちらを見つけて追いかけられたりしたら、たまったものではないからだ。
元から疲れているのに夢でも苦労を背負い込みたくはなかった。
「もう、さっさと覚めてくれませんの。」
記憶にある通りの重々しい音で、家の門が開いたのを感じて耳を澄ます。
夢かどうかもわからない空中に放り出され、場面は勝手に転換され、不満がたまりつつある。こんなおかしな夢につき合わされているのだから、せめて何か一つ面白いことでもなくてはやっていられない。
「これだけ勿体ぶっているのですから、オチはあるんですわよね。」
門の方から聞こえる声にじっと耳を澄ませてみる。
「もう・・・行って・・・のね。」
「決めた・・・だから、オレ・・・行かな・・・んだ。」
「・・・きっとまた、会・・・よね・?」
「あ・・・必ず・・・約束・・・」
途切れ途切れの声が聞こえる。年若い男女の声だ。話し方からすると親密な男女の話、それも声のトーンからすれば別れ話だろうか。
「ご先祖様のラブロマンスでもやっているわけじゃありませんわよね。」
もしそんなものならティアーズの一斉射でも見舞ってやらないと気が済まない。
最後まで聞こうと、さらに聞き耳を立ててみる。が、雪は降っても風は吹いていないのだが、いかんせん門自体が大きすぎて、人の話を盗み聞きするには耳を澄ませても少し距離があった。
「ああもうじれったいですわ!」
どうせ夢だからと、陰から身を乗り出して話し合う誰かを見てやることにする。追いかけられようが覚めてしまえば済む。
そう決め込んで体を陰から出したセシリアの目に映ったのは、ある意味面白い光景だった。・・・同時にセシリアの理解を越えていたが。
「え・・・!?」
そこにいた男女とは・・・
「またな、セシリア。」
「ええまた、一夏さん。どうかお元気で。
もし全て終わってからでなくても、近くに来られた時には立ち寄ってくださいましね。」
「ああ、また来るから。元気でな。」
別れのあいさつを交わす、彼女と織斑一夏だった。
二人とも見慣れた制服ではない。一夏(仮)は山にでも登るのかという程膨らんだリュックサックを背負い、格好も旅装だ。
対してセシリア(仮)は厚着でこそあっても部屋着の域を出ない服装。見送りに来ているというのが正しい予想だろう。
「ど、どうなっていますの?」
あまりに想像を超えた事態についていけない。硬直したセシリアに構うことなく、場面は動く。
一夏(仮)がセシリア(仮)に背を向けて通りを歩いて行ってしまう。見送るセシリア(仮)は門から動かず、次第に小さくなっていく一夏(仮)の背を見守っている。
事情を知らないセシリアから見ても、その後ろ姿はあまりに遠く、手の届かないところに行ってしまったように見える。
「これで良かったんですのよ。そうこれで・・・っ!」
遠ざかるにつれ、彼の前では変わらなかった顔が徐々に崩れ、堪え切れないと両手で押さえた口からは嗚咽が漏れ聞こえだす。目に生まれた大粒の涙がこぼれ落ち、雪面を濡らす。
見ていたセシリアが一夏(仮)を追いかけるか、セシリア(仮)を慰めて話を聞くかを迷っていると視界が暗転、すべてが闇の中に閉ざされていく。
この世界から遠ざかっていく感覚を味うセシリアの頭には当然多くの疑問符が渦巻いていた。
「嘘つきですわよ・・・一夏さん。
・・・分かっていますわよ。貴方が夢半ばで止まる人じゃないって。・・・もうきっと会えないって。」
すべてが消えゆく直前、耳に残ったのはもう一人のセシリアの押し殺したような泣き声と、永遠の別離を嘆く言葉だった。
◇
「・・・・・・・はッ!」
目覚めてみれば寝汗がすごいことになっていた。せっかくの薄着が形無しである。
眠るまでの肌寒さは何処へやら。6月の平年並みの気温に戻った部屋では汗をかくのも不思議でない。
起きてから思い返せば、ただ状況に流され続けた上に、勝手な夢を見させられて立腹すべき場面だ。
「髪型を崩した風といい、夜担当の神様がいるなら随分な意地悪ですわね。」
不快なことといえば夢の内容も意味不明だった。彼を実家に呼んだことはないし(まず寮に入ってから帰省もしていない)、今は夏前で雪は無縁の存在だし、何より別れの部分の夢など誰が好き好んで想像したがるというのか。
「あの夢の中での私は、明らかに一夏さんのこと男性としてみてましたわよね。」
確かに織斑一夏は好印象を受けている人物だが、断じて恋心ではない。
友達としてこれから仲良くやっていこうとは思っても、両親のこともあってまだまだ異性を恋人などとして見たことはない。
ましてや悲恋願望持ちでもないのに、別れる夢など見たくもない。
「本格的に仕事疲れかもしれませんわね。」
次はもう少しまともな夢が見られることを祈って、セシリアは再び眠りについた。
次回に続く
いかがでしたでしょうか、今回のお話。
何が起きているかはネタバレなので、多くは語らないこととします。
セシリアが見たのは夢であって夢ではありません。言ってみれば過去でもあって、未来でもある。いつかどこかであった現実。
もう一機の青ハロ(トリニティハロ)の所持者はこの幕間編の終わりに明らかになります。(バレバレかもしれませんが。)
それではまた次回。おそらくは夢の続き。
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ーーどうでもいい余談ーー
最初はGN粒子の例えに使っただけの雪が、話の要所を担当になってきてます。第1話で出した雪の降らなくなった設定か、今後歴史の描写として頻発するかもしれません。