IS×00 夢を目指す者   作:王天君

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 初めての方は初めまして、続けて読んでくださっている方はお久しぶりです。

 セシリアに関わる謎の夢のお話、今回はさらに訳の分からないことが起きます。
・・・まあ前回の続きといえばそこまでなのですが。

 感想いただいてから考えましたが、この幕間はとりあえず平行世界の出来事とお考え下さい。今すぐ幕間の内容が本編に関わるわけではないので。
(平行世界というよりも複雑なことになっていたりいなかったりしますが、詳しくはまたいずれ)

 またこの中後編のみのオリキャラが今回登場しますが、再登場はおそらくしないので、登場人物紹介には加えません。

 ではまた後書きにて。

 視点が別人になっています。ご注意下さい。

再会叶わぬと知っても待つことを選んだセシリア。その生き方は後に語られることとなり・・・



FRIENDS 中編 彼を待つ椅子

 彼女は夢を見ていた。

 夢の舞台は古式な、古めかしい部屋だった。自分が住む今の部屋から見ても、比べるまでもなく古い様式の内装であつらえられた部屋だ。

 その部屋の片隅に、天蓋がついた大きなベッドに横になった金髪の老婦人と、その孫らしい小さな少女がベッドに肘をついて話している。

 仲はとても良いのだろう。老婦人が何かを言うと子どもが、それは楽しそうに大きく口をあけて笑う。幸せそうな、小さくても確かな幸せの姿。

 彼女が微笑ましそうに見ていると、声が少しずつ聞こえてくるようになった。

 

「おばあちゃん、次のお話はなあに?」

「そうねえ。楽しいお話ばかりしてきたから、少し難しいお話をしましょうか。」

「むずかしいお話?」

「そうよ。好きだった人の帰りを待っていた女の子のお話。」

 

 老婦人は瞑目すると、静かに語り始める。

 

 

 

 

 あるところに一軒の広いお屋敷がありました。

 その広い屋敷の一室で、椅子に座り続ける少女がいました。

 椅子と机、ベッドに本棚、人が暮らすには満足な環境にいながら少女は、そのどれ一つとしても見てはいませんでした。

 窓に向けた椅子に座り、眺める窓からはお屋敷の大きな門が見えていました。

 雪の降る窓を見つめて少し笑いながら、しかし泣きだしそうにも見える表情を浮かべながら、こう呟くのです。

 

「次に雪が降る季節には、やってきてくださるかしら。」

 

 答えを求めるわけではない独り言。

 当然、そこに答える者はいません。

 でも少女は答える者もいないことに反応せず、じっと窓を見つめ続けました。

 雪に閉ざされた景色の向こうから、かつて愛した少年が帰ってくる日を切に願って、見つめ続けたのです。

 たとえ、やってくることが万に一つもないことだと知っていても。

 少女が窓を見ている間にも時は巡ります。

 東から日が昇れば、西に日が沈みます。

 花咲く春が来て、緑生い茂る夏を越え、紅葉鮮やかな秋を迎え、また白く染まる冬に戻ります。

 それでも待ち人が来ることはなく、少女はただ待ち続けました。

 やがて少女は女性に育ち、大人になります。

 彼女を理解してくれる人も現れ、結婚もしました。子ども生まれました。

 それでも待つことは止めず、彼女が暇さえあれば椅子に座る日々は続きます。

 さらに年をとり、子どもたちが巣立っても、老婦と呼ばれる年齢になって夫に先立たれても待ち続けました。

 彼女は死の淵にあって再会できなかったことより、待ち続けた誰かが元気であるか、それだけを心配しました。

 せめて元気にしているか、それだけでも知りたいと願ったのです。

 それでも最期まで巡り合う日は訪れず、消息を知ることもできず、世界のどこかにいるはずの誰かを案じて、ある朝に息を引き取ったのでした。

 待ち続けた女性の為に子どもと孫たちは、生前から座っていた椅子と部屋を残すことにしました。

 その献身を無かったことにはしないと、待っていた彼女の思いを残そうとしたのでしょう。

 今もその椅子はお屋敷の中で、ポツンと置かれています。

 座っていた少女の思いだけを乗せて、少女の愛した少年が訪れる日を待っているのです。

 きっとこれからも、ずっと・・・。

 

 

 

 

 語り終えられると孫は頭を振って、理解できなかったことを示す。

 離れて聞いていた彼女にも気持ちはよくわかる。10にも満たない子どもにする話としては難しすぎる。人の生き死にと触れているかも怪しい年ごろだ。

 

「まだ難しかったかしらね。」

「うん、私よくわかんない!」

「いいのよ。おばあちゃんも覚えているだけだから。私もそしてあなたも、伝えていくことだけ覚えておかないといけないの。」

「おばあちゃん、次のお話して!」

「はいはい。」

 

 正直に分からなかったことを話す孫に、老婦人は鷹揚に頷き、また新たな話を始める。

 その姿が徐々に遠のき、声も聞こえなくなって、視界が暗転した。

 

 

 

 

「・・・今のはお婆様の。」

 

 眠りから頭痛を引きずって起きる羽目になった彼女は、夢の内容を思い返した。あの部屋と老婦人には見覚えがある。2年前まで後見人として面倒を見てくれていた、彼女の祖母だった。部屋の景色も床に臥せた祖母が好んで使っていた部屋と酷似していることを思い出す。

 

「そういえばお婆様がよく話してくださっていましたわね。あの少女のお話は。」

 

 聞こえた物語は祖母が亡くなる直前まで、彼女に言い聞かせていた話だ。雪の降る日に出ていった人を椅子に座って待つ少女の生涯の話。祖母の経験なのかと聞いてみたこともあったが、静かに首を左右に振るだけだった。祖母も繰り返し語る人だったので、今では使用人と自分、つまり我が家にいる全員がこの話を知っている。

 

「話の基になった人の恋人も、もう亡くなっているでしょうに。」

 

 祖母以前の誰かのことを詠った物語の為、少女が待った少年ももう他界している可能性は高い。加えてお話の主人公が誰のことを指すのか、知る者はいなかった。一族続いて我が家で働く執事も、心当たりのある人はいないとのことで見当もつかない。

 それでも思いを無碍にしてはいけないと本邸の一室には椅子が一つ、今もそのまま玄関が見える窓に向けて置くこととなった。彼女の眠るこの部屋から一分とかからない距離に、物語通りに祖母が亡くなってからも保持され続けている。

 祖母が存命の頃に彼女も興味本位で座って見たことがあったが、本邸の入り口から離れた玄関までが見通せるだけで、特段変わったものが見えたこともない。

 気になる部屋のことは置いておくにしても、

 

「お婆様も何故、夢に出てこられたのかしら?」

 

 祖母のことは勿論大好きで、病気で他界した時は人目も憚らずに大泣きしてしまった。穴があったら入りたくなる記憶だが、当時の自分はおばあちゃんっ子だったこともあり、気にすることでもない。そして亡くなった時に気持ちに区切りをつけてきたはずなので、数年たった今夢に祖母が出てきたことが不自然だった。

 未練はあっても追い詰められるほど、日常で苦労してはいないのだが。

 

「倒れるまで努力しすぎてはいけないと、お婆様が知らせて下さっているのかもしれませんわね。」

 

 昨日まで徹夜で課題を仕上げていた影響で荒れ放題となった机が、祖母の代わりに彼女を叱っているように見えて苦笑する。

 時計を見ると午前三時。東洋では午前二時ごろは霊が現れることもあるというし、本当に祖母の幽霊が彼女の下に来ていたのかもしれない。

 起きるには少し早すぎますわね、と再び毛布をかぶって目を閉じた。

 

 

 

 

「・・・さま。おじ・・・う・・ま。お嬢・・・様。お嬢様!」

 

 誰かが呼んでいる。誰だか知らないが放っておいてほしい。自分は今とても安らかな心地でいるのだから。

 雪のちらつくことも珍しくないこの季節、暖かな毛布のぬくもりに包まれる楽しみを誰にも邪魔する権利などあるものか。

 自己弁護の為の論理を組み立てて、眠りを妨げようとする声に抵抗する。

 

「お嬢様、起きてくだされ!明日、6時に起こすように仰られたのはお嬢様ですぞ!」

「・・・後5日ですわー。」

「冗談を言っている場合ではありませんぞ!?」

 

 寝ぼけた頭で声をかけてきているのが、我が家の老執事『エドモンド・グリーヴ(Edomond・Grieve)』の声だと気が付いた。綺麗な白髪と切り揃えられた髭が特徴の威厳ある人物だ。だが強面の面構えとは裏腹に仕えている彼女が我が儘を言い出すと、無下にはできないお人好しな人物でもある。縮めてエドと呼ぶものも多い。

 彼が起こしに来たのなら、まだしばらくは毛布の温かみから逃れる必要はない。『もう一人』が来ていた場合は、飛び起きなければ身が危なかったが・・・

 

「お嬢様、起きてくださらんと、儂らも仕事に支障が出るので起きてくだされ。」

「埒があきません。どいていなさい、エドモンド。」

「どいていなさいと言ってもな、お前はまた―――馬鹿!やめんか!」

 

 騒がしさが一層増したところで体中に針で刺されたような痛みが広がった。その痛みは現実ではなく、長い間の経験が体に染みつけた記憶。今すぐ起きなければ現実に痛みが襲ってくることを知らせる、脳の警報だ。

 バネ仕掛けの人形もかくやの速度で毛布を跳ね上げ、ベッドから飛び出す。急激な温度変化で跳ね上がった心臓の鼓動を抑え込んでベッドを見れば、今まで彼女のいた位置に水がぶちまけられている。

 布団から出ただけで身が凍る寒さの今の季節に水を賭けられたりすれば、警報通りの痛みを味わっていたに違いない。

 

「おはようございます。お嬢様。」

 

 そしてそのベッドの隣で空になったバケツを片手に持ったまま、彼女を睨みつけたメイド姿の老女が挨拶をしてくる。

 髪にアクセサリをつけない執事とは異なり、丸く結い上げた髪に一本櫛を通して纏めた髪型と視線の鋭さを微塵も減じさせない眼鏡。寝坊していた彼女が起こしに来てほしくない一番の人物にして我が家の最古参のメイド、『カミラ・チェンバレン(Camilla・Chambelain)』がそこにいた。

 

「・・・おはようですわ、カミラ。」

「朝食の用意が出来ております。速やかにお着替えになって、降りてきて下さいませ。」

 

 水を主のベッドにぶちまけたことへの謝罪は一切なく、用件だけを言い終えると一礼して部屋から出ていってしまった。残されたのは床に座り込んだ自分と、またやったなと言わんばかりの顔をした老執事だけだ。

 起きるそぶりもしない自分も悪かったが、謝罪もしない態度は主に対して失礼ではないかと、昔は言ったこともある。(『起きなかったお前が悪い』と言い負かされて終わった。)

 

「お嬢様。一応擁護しておきますと、今回は起きてくださらなかったお嬢様にも責任はあるかと・・・」

「分かっていますわよ。寝起きの悪いのが私の短所ですもの。」

 

 反撃を試みたのも昔の話だ。今更口で勝てる相手と見誤ったりはしないし、カミラが嫌がらせをする人柄でないことも良く知っている。エドにはできない厳しいしつけをやってくれているだけなのだ。

 エドもカミラに助けられてばかりではない。カミラが厳しすぎて人を慰めることは不得手な為、怒られた者が落ち込み過ぎないように自信を持たせるのが彼の役目である。

 ただ1度の例外として、祖母が遺した財産に群がる親族がやってきた時は二人がかりで家から叩き出す、という珍しい光景も見られた。

 そんな彼女に厳しい老メイド『カミラ』と優しい老執事『エドモンド』。二人がいたから、これまで人の道を外れずに生きてこられたのだ。だからカミラに冷たい態度をとられても、彼女の愛情の印だと分かっているから、反発することももうない。

 二人が父親母親代わりの様なものだった。

 

「では私目も、お先に下へ行っております。学校に遅れてしまわれますから、お早くお願いしますぞ。」

「新学期から遅刻する様な真似はしませんわよ。」

 

 退出していくエドに答えて、着替え始める。窓の曇りが目について外を見れば、降り積もった雪が白銀に世界を染め上げていた。

 

「今年はよく降りますわね。ずっと昔には降らなくなった時も存在したと聞きますのに。」

 

 新年に入って1カ月近くは降り続いている。数百年前に雪が絶えたことがあったのが信じられないくらいだ。雪を通して人間史を振り返りながら、カミラにせっつかれないために着替えを急いだ。

 

 

 

 

「それでは行ってきますわ。」

「行ってらっしゃいませ。お帰りはいつ頃に?」

「新学期初日ですし、生徒会に顔を出したら帰ってきますわ。」

「かしこまりました。道中お気をつけて。」

 

 カミラが見送ってくれる中、傘を差して雪道を歩き出す。エドはというと、カミラのぶちまけた水の後始末だ。

 傘を差しても視界に入ってくる雪に、故人のことが思い出される。

 

「そういえば、お爺さまの亡くなられたのも雪の日だったと聞きますわね。」

 

 祖母は2年前まで健在だったが、祖父は20~25年前、彼女の生まれる前にアイルランドで自爆テロに巻き込まれて亡くなったらしい。おかげで顔も覚えていない。

 顔を覚えていないのは祖父だけだが、父と母もまた10年近く前に亡くなっている。遠縁の結婚式に呼ばれてスペインへ赴いた際、テロ組織の象徴たる3機のMSに襲撃に巻き込まれ命を落としたのだ。

 子供だった彼女は親の死を理解できず、1週間はずっと泣きとおしだった。相次いで他に誰か近親者が亡くなるようなことがあれば、立ち直れなかった可能性もある。

 

「あの頃が一番、二人に迷惑をかけてしまいましたわね。」

 

 湿っぽくなった思いを振り払って、前を向く。

 

「何の予定もありませんでしたし、帰りがけにお爺さまとお父様、お母様のお墓参りに行くとしましょう。」

 

 彼女が歩く道に雪を降らせる雲の切れ間、空に光が瞬く。

 眩しさに立ち止まって手をかざし、細目で見たその場所には・・・

 

 

 中東にだけ咲くと言われる花を模した大きな花が、宇宙に咲き誇っていた。

 

 

 見慣れた光景に驚くこともなく、現在のオルコット家当主『シルヴィア・オルコット』は学校に向けて再び歩き出した。

 

 

 

 

 そして通り沿った道を歩く彼女の反対側には、

 

「・・・この辺りもすっかり変わったな。」

 

 朝の道には不似合いな喪服を着て、シルヴィアが来た道を逆にたどっていく男性。足元で喧しく青色のツリ目なハロが騒ぎ立てる。

 

『迷ウナヨ、迷ウナヨ!』

「道を知ってるのは俺なのに、どうしてお前は偉そうにできるんだ。」

『ウッセーヨ、ウッセーヨ!』

「何でお前はこんなに口が悪いんだろうな、ポンコツ。」

『オマエモナ、オマエモナ!』

「黙ってろ、粗大ゴミの日に纏めて出すぞ。」

 

 彼らが目指す先にあるのは、シルヴィアの住まう実家。オルコット家本邸。

 

 

 はるか昔に旅立った、少女が愛した少年。

 時は過ぎ去り昔話に語られるようになった少年『織斑一夏』は今、少女『セシリア』がかつて待っていた家へと辿りつこうとしていた。

 

 

 時は西暦2317年、金属異星体ELSの襲来から2年と少しが経った冬の日。昔話の少女が願った、雪の降る季節のことだった。

 




 唐突ですが全く別物へと変わりました。すいません。
 夢を見ていたのが前回はセシリア、今回はシルヴィアとなっています。季節設定が真逆なので、ここが違うなと感じた方も多かったかもですけど。(起きたときのセシリアはシーツ、シルヴィアは毛布とか)

 長かった夢の物語もひとまず次回で終わり。鈴編に取り掛かるとしますかね。

 本編設定の2112年から約200年後になぜ一夏がいるのか、連れているハロがトリニティタイプなのはなぜかなど疑問は尽きないでしょうけれども、それらもまた他のヒロインズの平行世界での未来を語る時に明らかとなっていく予定です。

 では今回もこの辺で失礼します。

感想・評価・質問・お気に入り登録、何でもよろしくお願いします。

――恒例 どうでもいい余談――
シルヴィアの祖父と両親がそれぞれ亡くなる原因になったこと。

アイルランド・自爆テロ、

スペイン・結婚式・三機のMS。

このキーワードでピンと来た人はかなり00を知られていると思います。


 シルヴィア、カミラ、エド、通称オルコット家三人組。
 ぶっちゃけシルヴィア以外は名無しでも良かった。キャラ付けは名前から、という作者の方針から名付けられました。
 イメージとしては、カミラ→ハリポタのマクゴナガル先生。エド→お人好しな波平、を頭に入れて考えた。

 小説情報にも書いた00とISの世界が繋がっていることが、ここにきてようやく描写できたので肩の荷が下りました。00の要素がGNドライヴに頼りきりだったからね。
(本編と関係が無いことは突っ込んではいけない)

 ・・・幕間の話からして、原作キャラ死亡のタグを追加すべきでしょうか。平行世界なんで本編にはそれほど関係は無いのですが。
 本編で死者が出るのは避けたいです。死んでもいいことなんてないし。
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