IS×00 夢を目指す者   作:王天君

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 長かった幕間もこれで終わり。次回から鈴編に入ります。

 戦闘の少ない幕間ばかり続けても面白くないので、少し前倒しで投稿することにしました。なので内容が少し駆け足気味です。

 最後らへんでまた色々と重要な展開や思惑が見え隠れします。

 では後書きで。



一夏が約束の地に帰りつこうとも、彼女は既にこの世に亡く・・・


FRIENDS 後編 また会えますように

 シルヴィアは朝決めた通り、学校の帰り道の途中に墓参りへと立ち寄っていた

 オルコット家の墓は学校から、バスで駅を2つ行った所にある。バス停近くの花屋で供えるためのお花を買い、一路墓地のある公園を目指す。

 ザクッザクッと雪を踏みしめる音が耳に心地いい。硬いコンクリートや大理石を踏む音とはまた別の、自然そのものといった音色がする。墓石が整列している規則的な空間においては、彼女の足音だけが変則的なリズムを刻んでいる。

 

「昼からは晴れて良かったですわ。傘を差したお墓参りなんて気が滅入りますもの。」

 

 行きがけには空を覆っていた雪雲も流れ、足音を彩る雪が残るだけだ。お供え用の花束を右に、学生カバンを左に持って雪道を進む彼女の見詰めた先に、目的の墓が見えてくる。

 欧州では墓石は一人一つが一般的だったが、あまりに増え過ぎてスペースが無くなったため、日本のものと同様に一族が同じ墓に入ることが一般的となっていた。

 

「あら?」

 

 オルコット家の墓石の前に先客が見える。

 その人は黒い喪服を着こんだ若い男性で、その手には供えるための花束。常識的に判断するなら、シルヴィアと同じお墓参りに来た人だろう。

 

「親戚のどなたかかしら?」

 

 墓参りに来るほど殊勝な心掛けの人間はいなかったと記憶しているのだが・・・

 遠くから注視していると、口元が僅かに動くのが見える。しかし手には花束しかなく、墓地で一人言を話す男性とは少々不審な気配がする。

 日も高いうちから墓荒らしが出るとは思いにくいものの、自分の家の墓の前で怪しげな動きをする男性が気にならないわけもない。不用意に話しかけず、陰から様子を窺うことにした。

 男性の立つ墓石から少し離れた陰で声を聞きとる。空気が冷えたせいか、音はよく響いて、耳に入ってくる。

 

「別れた日からもう何年ぶりかな。」

「もう一度来るのを先延ばしにしてたら、こんなに遅くなったよ。女性は待たせるものじゃないって、初めて戦った時にも言われたっけ。」

「世界を旅する間に色々あったぜ。辛かったこと、嬉しかったこと、苦しかったこと、喜べたこと・・・挙げていったらキリがないくらいだ。」

「―――今日来たのは遅れたのを謝る意味もあるんだけど・・・」

「分からなくなったんだ。俺が欲しかったもの、夢見たものが。」

「俺が求めたものは他人が幸せになることだった筈なのにな。」

「悩んでたらみんなの声が聞きたくなって。それで足が独りでに着いてたよ。あの時も聞かなかったのに、今になって虫のいい話をするなって怒るか?

 遅すぎたんだよなぁ・・・なにもかも。」

 

 そこまで聞いたところで、彼の足元で丸いものがゴソリと傾いた。正体を確かめる間もなく、ボールらしきものはシルヴィアへと飛び掛かる。

 

『ナンダテメエ!ナンダテメエ!』

「きゃあああ!?」

「誰だ!」

 

 ボールにのしかかられ、仰向けに倒れたシルヴィアに件の男性が誰何の声をかける。

 盗み聞きしていたというばつの悪さもあって、彼女から名前を尋ねることは出来なかった。仕方なしに身元を明かす。

 

「そのお墓の所有者ですわ。盗み聞きしたことは謝りますから、この青い子を何とかしてくれません?」

「おいハロ、その人からどいてやれ。敵さんじゃなさそうだしな。」

『シャーネーナ、シャーネーナ。』

 

 男性の指示通り、予想外に青いボールが素直に引いてくれたのでようやく起き上がれる。気を取り直して、挨拶する。

 

「・・・ではあらためて、こんにちは。」

「ああ、こんにち・・・ッ!」

 

 礼から顔を上げた男が彼女と目が合うと、ひどく驚いたような顔をする。まるで信じられないものでも目にしたように。凝視する男性のプレッシャーに押し負けて、問うてみる。

 

「あの、どうかされまして?」

「え、ああ・・・いやそんな・・・」

 

 シルヴィアの声にも反応せず、男性は呆然と、どこか縋るように口を僅かに開いた。

 

「・・・セシリア、なのか・・・?」

「・・・・?どなたかとお間違えではありませんの?」

 

 シルヴィアと知人を間違えたのかと思い、聞き返すと、男性は数回目を瞬かせる。やがて愕然とした様子で、手で頭を押さえて俯いてしまう。

 しかし、すぐにまだ目の前に立っているシルヴィアへと、顔を上げて作り笑いを浮かべた。

 

「・・・幻覚まで見るとは本格的にやばいな。

 昔の知り合いの若い頃によく似ていたから間違えたよ。ごめんな。」

「私によく似ている方でしたの?」

「・・・いや、よく見たら全然違う。雰囲気と話し方が似てたんだな。」

 

 男がシルヴィアを再度見つめた目は、問いかけたときの驚いたものではなく、懐かしげな光を抱えたものだった。そんな目で見られる心当たりはないが、昔会ったことがあるのかもしれないと外見から思い出そうと試みる。

 男性は肌色からして日系、年の頃は20~25といったところだろうか。特徴といえるようなアクセサリも身体的特徴もないが、悪くない顔立ちをしている。平たく言えばそれなりに格好いい顔つきだ。

 だが格好をつけているという感じはせず、作り笑いの顔であっても気安そうな空気の人だ。悪くない印象の男性に、少し話してみようかと思い立つ。

 

「それで貴方は、我がオルコット家の墓に御用ですの?」

「オルコット家というか、ここに眠っている女性にちょっとな。」

「?」

「遅れてごめん、と言いたくてやってきたんだ。自己満足だってわかっていても、来ておかないといけないと思って。

 ・・・それだけじゃないんだけど。」

 

 話す内容は今一つ要領を得ない。この男性を深く知る人物なら分かるのかもしれないが、あいにくとシルヴィアは何一つ知っていない。

 初対面にもかかわらず砕けた話し方をする男性だ。ただ不快には感じるものでもなかった。墓石に向き合う彼の横顔があまりにも悲しげで、彼女を見下す意思があると感じられないからかもしれない。

 

「差し支えなければ、何があったのか聞いてもよろしくて・・・?」

 

 だからもう少し、この男性に踏み込んでみたくなった。邪推だと分かっていても、こんな表情をするまでに至った経緯を聞きたいという好奇心が顔をのぞかせていた。

 シルヴィアに男は返事をせず、墓石を向いてだんまりを決め込む。それでも口を開いては閉じを繰り返して、切り出し方を迷っているふうだ。

 やがて納得したようで、面を上げて彼女を見つめなおした。

 

「オレは・・・オレはな――――」

『遅エンダヨ!遅エンダヨ!』

 

 そこで青いボールが男性の頭にぶつかってきた。ぶつかっただけだは飽き足らず、頭の上ではねてわめき続ける。

 

「こらハロ!じっとしてろ!」

『待タセンナ、待タセンナ!』

「ったく、コイツはいつまでたっても・・・。

 すまないけどハロがしつこいから、今回はもう行くとするよ。また次に会えた時何があったか話すから。」

「そうですの。残念ですけど致し方ありませんわね。」

 

 男性は足元に転がったボールと共に墓を後にしていく。

 答えを飲み込んだと見える彼に、今追いかけても答えてくれそうにない。

 

「次はいつ来られますの?」

「女性は待たせるなって彼女に言われたからな。できるだけ急ぐとするさ。」

 

 最後にそう言葉を交わして、シルヴィアと男性は別れた。名前を聞き損ねたと気づいたのはその少し後だった。

 

 

 

 

「ただ今帰りましたわ。」

「お帰りなさいませ。お嬢さま。」

 

 帰宅したシルヴィアをカミラが出迎える。いつもと変わらないように思ったが、エドの姿が見えない。並んで待ってくれているのが常だというのに、体調でも崩したのか心配になる。

 

「エドはどうしましたの?」

「実は今朝、お嬢さまが出立なさった後に来客がありまして。その人物を見てからずっと書庫に籠りっぱなしなのです。」

「書庫?」

「来客のことで思い当たることがあるとか。仕事はこなしていましたので注意はしておりませんが、連れてきましょうか?」

「集中したいときは、そっとしておいてあげるべきですわ。私もそうですし。」

「かしこまりました。ではそのように。」

 

 会話が落ち着いたと思ったところで、話に出ていた書庫の方から大声が聞こえた。十中八九、今し方話していたエドに違いあるまい。

 

「・・・何かあったみたいですわね。」

「エドの年甲斐もなく大騒ぎする癖には困ったものです。」

 

 呆れる自分とは対照的にカミラは慣れたものだ。何があったのか確かめようと書庫に向かう二人の機先を制して、エドが書庫から飛び出してきた。

 

「た、大変ですぞ、お嬢さま!」

「埃がたちます。掃除することも考えなさい、エド。」

「そんなこと言っとる場合じゃないんじゃ!これを見てみろ!」

 

 突き出されたのは一冊のアルバム。かなりの年代物の様で、あちこち擦り切れ中に収められた写真も色褪せ、セピア色のものばかり。

 

「騒いだと思えばなんです、この古ぼけたアルバムは?」

「大声を出した原因はこれですの?」

「とにかく見てくだされ。」

 

 エドがせわしなくページを捲るが、色落ちがひどく、何を撮ったのか判別できるものは少ない。

 

「ええい、どこ行きおった!」

 

 それはエドも同じらしく、どれが探し物の写真なのか手が右往左往している。待つだけは性に合わないカミラが、このアルバムのことを尋ねる。

 

「一人で騒ぐのは結構として、そのアルバムは何なのです?」

「ワシの家計がオルコット家に代々使える執事なのは知っとるじゃろ?

 その歴代の一人が写真好きだったらしくてな。やたらめったらと写真をとっては、こうしてアルバムを作っとったんじゃ。それでこれはそのうちの1冊というわけよ。

 ワシも子どもの頃に爺はよく見せられたものだったわい。」

「エドのご先祖様が?」

「そうなんですじゃ。たしかその代の時も当主夫婦が急逝されて、『遺産を狙う親族から年若い当主を守るため弁護士と一緒に奔走した』なんて武勇伝を作ってましての。ワシの記憶にもよく残っていた人物ですじゃ。」

「いつの時代も似たような連中はいるものですわね。」

 

 エドの家系は初耳のことだが、自分以外でも似たような経験をした先祖がいたのかと嫌になってしまう。財産目当てのハイエナが跋扈するのはオルコット家の宿命なのかもしれない。

 

「それで、どこだったか・・・あった!これですぞ!」

 

 ようやく見つかったと一枚の写真を取り上げる。ここまで大騒ぎする原因となった写真だ。どれだけすごいものが写っているのかと、期待する二人に出された写真は・・・

 

「これは・・・恋人同士の写真・・・ですの?」

「色が褪せている以外は、仲睦まじい恋人が椅子に座っているだけの写真にしか見えませんね。エド、奥様がおられるのに若いカップルへの僻みですか?」

「違うわ!よく見てみろ、男性の方じゃ!」

 

 何度見たところで、色褪せた以外に何の変哲もない若いカップルか夫婦の写真だ。

 

「服のデザインが似ていますわね。制服、学生なのかしら?」

「男性はアジア系の顔立ち、おそらく日本人かと。」

「女性はヨーロッパ系なのからして、当家の関係者はこの方ですわ。」

「幸せそうなのが、撮った時に居合わせなくても伝わってきますね。」

「あら、足元に何か切れてますわね。」

 

 男性をよく見てみると足元に見切れている青いボール。当然、この形と目つきでシルヴィアは思い当たった。だが彼女が喋る前にカミラが先んずる。

 

「この方、今朝来られた方ですね。」

「あらカミラも会いましたの?」

「お嬢さまも顔を合わせられたのですか?

 先ほどお話した、朝お見えになった来客というのがまさしくこの方です。」

 

 墓地でシルヴィアは思い出せなかったが、やはりオルコット家に関わりのある人物だったわけだ。遺産絡みで会った記憶がないなら、親族以外、遠縁の誰かなのだろうか。

 また来ると言っていたわけだし、その時までには思い出さないといけないなと、そう思ったところで、背中に氷柱が入ったような寒気が走った。

 

 なんだ、なにかがおかしい。写真に写っている二人も、まだよく覚えている青いボールを連れた彼も同じ顔立ちで、おかしなところなど見当たらない。

 喪服を着ていたところくらいしか写真と違いはない。

 

 そうだ、シルヴィアと話した彼は

 

『遥か昔に撮った写真の中と、まるで変わらない姿を今もしていた。』

 

 顔を青ざめるとカミラも会った人物の異常性に気づき、言葉を無くしている。エドが大声を出したのは、この異常に一人で気づいたからだったのか。見つけ出したエドは震えて声も出ない。

 何か手がかりはと写真を受け取り、裏返すと走り書きがしてあった。

 

『西暦211―年(インクが消え判読不能) 一夏さんの夢が叶いますように。いつか―― (再びインクが消えている) セシリア・オルコット』

 

 可愛らしい女の子の書き方。そしてセシリアの名前。墓地で間違えられた『セシリア』とはこの署名をした人物を指しているのだろう。

 今は西暦2317年で、200年以上前のことだ。長期にわたって保存できているのは、エドの一族が保管に気を使ってきた賜物だろう。

 手の震えでシルヴィア自身も不可解さに恐怖を感じていることを自覚するが、抑えてでも知らないといけないことがある。

 

「カミラ、来た男性の要件は何でしたの?」

「・・・オルコット家の墓地の場所を教えて欲しいと。

 あまりにぶしつけなことを言われるので迷ったのですが、身分を立証する物を持っておられたのでお教えしました。

 あまりに食い下がられるので、根負けしてしまいました。」

「そうですの・・・」

 

 写真を手にして走り出す。行き先はもちろん、椅子の置かれた部屋だ。

 使われないため鍵もかけていないその部屋は、駆け込んだシルヴィアの心の内とは対照的に今日も静謐な空気を保っていた。窓に脚を向けて彼女を出迎える。

 椅子に腰かけ、窓枠に肘をかける。

 

「待っていた少女と別れた少年とは、あの写真の二人を指していたんですのね。」

 

 幸せそのものに写った二人に何が起こり、なぜ分かれてしまったのか。シルヴィアには想像するよりほかにない。言えるのは200年の時を超えても、会いたくなる絆を彼らは持っていたことだけ。

 知りたくなった。伝え遺されるほどの思いの中で何があったのか。二人をわけ隔てたものは何だったのかを。

 

「次に会えたとき、包み隠さず話してもらいますわよ。一夏さん。」

 

 冷えた空気が地上に広がって、窓の外には再び雪が舞い始める。墓前に供えた2束の花も明日には隠れてしまうことだろう。

 それでもシルヴィアと一夏なる人物があった過去は消えない。雪で見えなくなってもおかれた場所に残っている。この椅子が持ち主がいなくなろうと、心は残り続けることを示したのと同じようにだ。

 

「私がセシリアさんを継いで、待ってみましょうか。」

 

 明日からはこの部屋をシルヴィアの自室にすることが決定した。

 

 

 

 

 シルヴィアに別れを告げた一夏は、肩に積もった雪を見ながら行き先に悩んでいた。

 

「次はどこ行くか。」

『サムインダヨ!サムインダヨ!』

「シャルのいたフランスか、ラウラがいたドイツか・・・。どっちも悩みどころだな。」

『キキヤガレ、キキヤガレ!』

「お前が騒いだから出てこざるを得なかったんじゃないか!少しは反省してろ!」

 

 怒鳴られてやっと青ハロも黙り込む。指示も話も聞かないためにいつも手を焼かされる。置き去りにした彼女たちの心(こえ)が聞こえなくなってから、一夏と一緒にいるのが話を聞こうとしないハロだけなのは皮肉だった。

 

「旅は道連れ世は情けでも、お前と道連れだけは死んでもごめんだ。」

『カッテニシロ、カッテニシロ』

「そうしたいのは山々だけどな。」

 

 捨ててしまいたくてもハロがいないとISの展開が出来ないため、我慢するほかない。一応展開の指示だけは聞くのでまだマシだが。

 

「箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、簪、楯無会長・・・。もう誰の声も聞こえない。

 答えは得たはずなのに、皆のことばっかり考えて虚しくなるのはなんでだ・・・?」

 

 雪にまみれて一夏とハロは歩き出す。

 理解してくれた人も、理解するべきだった人も消えたこの世界で、彼らは彼女達の残した痕跡を追い続ける。

 迷いながら、くじけそうになりながら、進んだ道を後悔しないために。

 

 まだ雪は降りやまない。

 

 

 

 

――西暦2112年――

 

『私に許されるのはここまでですわね。』

 

 数時間前にうなされて起きたころが嘘のようによく眠っているセシリアを見て、『彼女』はつぶやく。

 セシリアに今見せた世界も所詮は夢。目覚めれば夢として薄れていくのが道理だ。

 知った上でも心に何かが残ることを願い、『彼女』もセシリアに干渉した。だがこれ以上の手出しは洗脳になる。

 予感や既視感を持たせて危機感をあおることはできても、

 

「こうしないといけない。こうしなさい。」

 

 とは言ってはならない。眠っているセシリアの人生を決める権利は、同じセシリアにしかないのだから。たとえ同一人物である『彼女』であってもその権利はない。

 身じろぎするセシリアから起床の気配を感じ、額に伸ばしていた手を引く。後は彼女が決めるだろう。

 もう消えなくてはいけないのだが、我慢できずに耳元で一言だけ残していく。

 

『あなたは彼のこと、離さないでね。』

 

 窓から差し込んできた朝日にかき消されるように、彼女も薄れて消える。

 

 セシリアの眠っているベッドには2つの丸い跡が残っていた。

 

 

 

 

 まだ日の出の遠い夜空をぼんやり眺めていると、「彼」はハロが帰ってくるのを感じとった。

 

「戻ってきたな。」

『ヨカッタノカヨ?ヨカッタノカヨ?』

「ああこれでいい。種は撒かれた。これをいくらか繰り返して栄養をやれば、無事収穫だ。」

『イチカハ?イチカハ?』

「今更構ってられるか。やったことに気づいた一夏が怒ってオレを殺そうと、時が来ればそれでいい。

 ・・・できればこの目で見たいけどな。」

 

 会話を打ち切り、丑の刻前の闇の中に彼らもまた消えた。

 

 

 

 

 織斑一夏は日常から欠けたものに敏感だった。

 朝日で目覚めてせわしなく彼に飛び込んでくるハロが、今日は部屋の中にいなかったのである。同室の篠ノ之箒はまだ夢の中にいるようで、時折寝言を漏らすがそこにもハロの姿はない。

 

「ハロー、どっかいったのかー?」

 

 少し大きく声を出しても跳ねる音すらしない。本当にどこかへ出かけているようだ。

 

「簪もどこか出かけてるし、休日は皆外出したくなるのかもしれないな。」

 

 空も快晴で、出かけるには絶好の機会だ。昼から誰か誘って散歩もいいかもしれない。

 それはともかく、日課であるランニングの用意を始める。箒は後で起こすとしよう。ランニングついでにハロも探せばいい。

 すっかり慣れた浴室での着替えをすませ、部屋を出ようとすると外からノックされる。

 ノックというか、衝突音だが。

 

「・・・誰ですか?」

『ハロ!ハロ!』

 

 ドアを開けるといたのは見慣れた青色のハロ。

 

「ハロ、どこ行ってたんだ?心配したぞ。」

『サンポ。サンポ。』

「こんな時間に一人でか?」

『ソウ。ソウ。』

 

 まだ日が昇って間もない。そんな時間からハロだけで散歩というのは怪しい。そもそもハロはドアの取手を引くことが出来たか?

 

「・・・本当だな?悪いことしてないな?整備科の機械オイル盗んだりしてないな?」

『シテナイ!シテナイ!』

 

 これだけ聞いても答えないなら、嘘でも本当でも答えは変わらない。ハロが悪事をするとも思えないが、疑いすぎもよくないのでやめておこう。

 

「いい天気になりそうだな。ハロ、一緒に走りに行くか?」

『レッツゴー!レッツゴー!』

 

 雲も少ない空の下で俺とハロは走り出した。

 




 これにてよく分からない世界編もいったん終わり。次は鈴編が終わってからでしょうか。
 戦闘が長引きそうな気もしてますが。この平行世界編も基本重いから流れを変えようかと苦心してもいます。

 次回はやってくる鈴の回想と中亜連合の軍事勢力に触れる予定。

 セシリアの枕元に立つもう一人のセシリアの願い。青ハロの持ち主の目的。一夏のハロの奇妙な行動。謎はまだまだ深まっていきます。

 今回はこの辺りで。

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――どうでもいい余談――

 平行世界の話の空気は00のEDテーマ『フレンズ』がよく合っています。他にはウルトラマンコスモスの『雪の扉』がテーマとしては似ているかと。
 やっぱり書いている途中でこんなのあったなと思って空気を寄せていったんですが。
 ひょっとして作者が雪にこだわるのはここからきていたのか!と自己分析になって助かってもいます。00が混じっている要素の一つとして『分かりあうこと』を入れているので、この2作品と似るのも当然と言えば当然ですが。


以下、今話のサブタイに関するネタバレ。




サブタイは写真の裏の消えていた――の部分に入ります。

 前編でもう二度と会えないと悟って、でもなぜか中編で生涯待っていたセシリア。
 その理由は会えないと分かっていても、きっと会える日が来ることを信じていたんですね。残念なのは生きている間に叶わなかったことですが。
 結果としてその遺志は、子孫のシルヴィアに引き継がれることとなりました。
本編には彼女はまったく出てこないですが、見えない部分でも物語は紡がれています。
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