今回は彼女が一夏達と関わるきっかけになったことと、後々の鈴強化案が出てきます。
オリキャラ一人出てきてますが、今回は名無しです。あと中亜連合(設定上のちの人革連)の軍事設定にも触れていきます。
今後必要になる可能性もあるので。
久しぶりに戦闘でもないのに長いですが、本編どうぞ。
第十九話 鈴、来日
――西暦2112年 5某日 新北京国際空港――
『中亜連合』。
中国及びユーラシア大陸のアジア圏と分類される国家群及び太平洋ではオーストラリアが、経済関係の諸問題と領土問題の解決のために発足させた国家連合体の総称である。
なお中国と同じくユーラシア大陸の北部大部分を占めるロシアは加盟国ではないが、技術面などで提携を結んでおり、将来的に加盟国となるのが有望視されていた。
ソロモン諸島に建てられた軌道エレベーター開発でも尽力し合い、ISや自国の生産兵器を用いての国家事業とすることで、100年前からは想像もできない大躍進を遂げていた。
その中亜連合の世界への窓口になっている空港の1つである、新北京国際空港。
東欧西欧日系、人種がサラダボウルのように入り乱れて混雑しているいつもの光景にそぐわないものがあった。
飛行機の搭乗者入り口目掛けて走る人影が2つ。
「待ってくださいよ、鈴さん!」
「アンタが寝坊したから飛行機に送れそうなんでしょ!日本行きの便のチケットもう売り切れなんだから、もっと急ぎなさいよ!」
「目覚まし3つ用意したんスけどねー!面目ないっス!」
前を走る少女は凰鈴音。中国の代表国家生であり、IS【甲龍】のパイロットだ。
後ろを走る軽薄な空気をした男は彼女のお目付け役、というよりIS開発企業からの指令で彼女との仲を取り持つよう命じられた男であった。名前はまだ無い。今は(そしてこれからも)。
「俺の紹介酷くないっスか!?」
「わけわかんないこと言ってないで急ぐ!」
会話内容から察せられるように、男が寝坊したせいで日本に向かう便に乗り遅れそうになっているのが今の状態であった。
ちなみに年齢は男の方がやや上である。
◇
ゲートで引っかかったり、金属探知機に止められたりと会ったが、彼女たちも飛行機の中に滑り込むことには成功した。
ようやく荷物を上にしまって一息つけるようになった。
「いやー間にあってよかったっスね。」
「時間にズボラなくせしてよく仕事できるわよね、アンタ。」
「公私混同しないタイプっすから、自分。」
「今日は『公』の方でしょうが!思いっきりミスしてるわよ!」
「布団から出るまでは『私』の範疇ッス。乗り遅れも防げたし問題無いっしょ?」
「・・・言い合っても不毛ね。ここまでにしとくわ。」
「最近は写真にハマってるんスよ。小さな四角に時間を切り取る快感・・・いいもんスわー。」
「はいはい、またそのうち聞いてあげるわ。」
こんな何処までもとぼけているのか真面目なのかわからない人物だが、仕事の腕だけは確かなのだ。元より女性との交渉役やパイプ役に男が使われること自体、異例の人事である。
実際の理由は優秀なのが他にいないからという理由と、(鈴には隠されているが)『行動が自分勝手で読めないから、一緒に纏めたら扱いやすいかも』という上層部の意思から選ばれた異色のもので会ったりする。
「そーそー、鈴さんに目を通しといてもらいたい書類が・・・あらら、どこ行った?」
荷物入れに顔を突っ込んで探し物を始める男。もう出発するので座っていないと危険だが・・・
(黙っとこうっと。こいつのせいで遅れかけたし。)
いらない迷惑をこうむった鈴は放置することにした。何度か爆発に巻き込まれても無傷だったと聞くし、どうせ死にはしまい。
鈴は備え付けのアイマスクを取り出して、仮眠をとろうとする。男が起きなかった気疲れもあって、ウトウトし始めるが、男が気にかかり目をやる。
「おっかしーな、確かここらのファイルに・・・」
『間もなく当機は出発いたします。お客様はご着席の上、シートベルト着用をお願いいたします。』
「・・・」
機内アナウンスにも気づかず、漁り続ける男。このままにしておくと転んで頭を打つくらいはするだろう。
短い逡巡の末、鈴は見かねて声をかけてしまう。
(お人好しよね、あたしも。)
「ちょっと。もう出発だから座りなさいよ。」
「うわ、マジっすね!すんません、鈴さん。―――っとあった!」
目当てのファイルを見つけて満足そうに座り込む男。彼が座ったのを見て、一安心した鈴はアイマスクをして眠ることにする。
「あたし着くまで寝てるから。書類とかは着く前になったら起こして見せて。」
「ウィーっス。了解しましたぁ。」
空気の抜けた様な返事をする男を一瞥して、窓に身を寄りかからせる。
これから向かうのは日本。鈴が好きになった少年がいると知って、居ても立っても居られなくなり、向かおうとしているところだ。
(あたしのお人好しも、一夏に会ってクセになっちゃったんだっけ・・・)
眠りにつこうとする鈴の脳裏に蘇るのは1つの記憶。まだ日本に住んでいた頃に泣いていた自分を助けてくれた、お人好しの正義の味方のことだった。
◇
夕暮れ時。それは太陽が傾き、町全体を黄昏色に染めていく時間。太陽が沈み、月が生まれ出でて昼と夜が入れ替わるこの時間は、古い言葉で逢魔が時と呼ばれた。
物々しい字面にある意味は魔の存在、つまり鬼や化物が世界の切り替わる境目に現れると信じられたことからつけられた。
だが理由はそれだけなのだろうか。世界全てを赤く染める美しさを形容する言葉が既存の語彙では役不足と考えた人が、怪物のような美しさと称える意味もあったのではないだろうか。
とはいえ、沈む太陽の姿に美しさなど感じていられたのも、生きている人間に余裕があったころの話。生きるために働くことが必要不可欠となった現代に、夕日などいちいち眺める人間がいるわけはない。美しさで腹は膨らまないし、お金が入ってきたりもしないのである。
余裕がなくなった人々はせかせかと、誰に急かされたわけでもないのに夕方の町を早歩きで過ぎ去っていく。
赤々とした世界の美しさに見惚れることも、陰った太陽を振り返ることも、頭に浮かばないと言った体で気を引かれもしない。
そして急ぎ続ける人々は、公園の片隅で泣いている小さな女の子のことも気が付こうと足を止めることもなかった。
「・・・グスッ・・・・グスッ・・」
誰も泣いている理由を聞いてもくれない赤色の公園で、赤いランドセルを背負った少女は泣き続けていた。
腰かけたブランコの軋む音と自分の鳴き声だけが聞こえている。
少女の名前は凰鈴音といった。
◇
もうどれくらい、こうして泣いているかわからない。
泣き始めた原因はクラスの子に、言葉の発音が変だと笑われたからだ。
日本に引っ越してきて1ヶ月ほど暮らしているが、日本語が一向に上手く話せないことが鈴の悩みだった。父と母に話して、日本語の書いた本をよく読めと言われて読んだり、ラジオを聞けと言われて聞いたりしてみたが良くなることはなかった。
人の言っていることは分かるが話すとなるとなかなか慣れないのである。家では中国語の方がよく聞いていたことも進歩しないことに拍車をかけた。
そんな鈴が言葉を満足に使えないのに人と話す気にもなれるわけがなく、学校では無口に努めるようにしていた。聞かれても首を縦か横に振るだけ。
元々中国からの転校生というだけでクラスの目を引いていた鈴が、話し方が変だと分かれば面白がる人間がいることは容易に想像できる事態だったからだ。
いつか回りと遜色なく話せるようになったら会話の輪を広げていこう、その程度に鈴は考えていた。
それがなんの偶然か、今日声をかけられたときに声を出してしまった。それも中国語で。
後は語るまでもない。鈴の言葉に違和感を覚えた人達がこそこそと話している気がして、いてもたってもいられなくなった。そして学校が終わると同時に飛び出し、家に近い公園で泣き続けている。
明日学校に行ったらきっとまた笑われる。
「なんであんなに変な話し方なの?」
とか、
「凰さんって変わった声なんだね。」
とか言っている声も聞こえていた。
そんな言葉に傷ついたりはしないが、ここからいじめられたりしたらどうしようと心が重くなる。
クラスの子がそんなに悪い人ばかりではないと頭では分かっていても、日本で暮らすうちに行く先々で向けられる視線が彼女の不安を増させる。
泣き続けた間に日も落ちてきた。泣いてばかりもいられない。そろそろ帰らないと両親も心配してしまうだろう。
「帰ら・・・ナきゃ・・・。ア、でも・・・」
泣き腫らした顔をどうしよう。
日本での暮らしに憧れ、はるばるやってきた両親だが、学校を変えることになった鈴のことは心配していて、帰る度に今日の学校はどうだったかを聞いてくる。
心配性なだけだとしても、家で営んでいる中華料理屋も忙しいこの時間に、泣いた跡を残して帰ったりすれば卒倒しかねない。
親に心配をかけてしまう自分が情けなくて、どうしていいかわからなくなって、せっかく立ち上がったのにまた座り込んでしまう。
小学4年生にして、引っ越して間もない少女には荷が勝ちすぎた問題だった。
「モう嫌・・・どうしテ・・・」
何も悪いことなどしていないのに、どうして自分がこんなに苦しまなくてはいけないのだろう。
鈴自身は気づく由もないが、年の割に人の心を汲みすぎて両親を心配させないよう心を砕いていたこと、慣れない日本語や学校に混じれるように頑張っていたこと、それらはストレスとなって彼女の中に蓄積していた。
言葉が通じず、心の通う友達がいないために内心を吐露してストレスを減らせない。親も日本で暮らそうと努力しているのを知っている。ゆえに八つ当たりもできない。
誰も悪くないことが分かるだけの大人びた思考を持ってしまっているのが、鈴にとっての不幸だった。
その溜めに溜まった感情が決壊の時を迎えていたのだ。
停めたはずの涙腺が緩んで、涙がまたこぼれだす。いっそ消えてしまおうか、そんな考えまで頭に浮かんだ時だった。
「キミ、どうかしたのか?」
頬を拭っていた手をどけて顔を上げると、鈴とそう変わらない背格好の少年が立っていた。しゃがみこんで鈴の顔を覗き込んでくる。
「いや学校帰りに、公園で泣いてる女の子がいたから気になってさ。」
「ア、其之・・・」
驚いて口を突いて出たのは、慣れ親しんだ中国語。一拍して、学校と同じ失敗をしたと気づき、口を手で隠すがもう遅い。少年が目を開いて驚いたのが伝わる。
またやってしまった。同じミスを繰り返した情けなさから、再び泣いてしまう鈴。
少年は泣き出した鈴にしばし慌てるも、感じるところがあったのか、しばし黙り込んだ。
「ひょっとして話すのが苦手なのか?」
思いもよらない言葉に顔を上げて少年を見ると、彼は何も聞かずに納得したようでウンウンと首を振った。
「やっぱりそうか。前に似たような子と会ったから、そうじゃないかって思ったよ。こういうときには・・・どこやったかな?」
そう言って、ランドセルをゴソゴソと漁って取り出したのは1冊のノートと鉛筆。何を始めるのかと、泣くのを止めた鈴にそれらを手渡す。
「ほら、話しにくいならこれ使って。何で泣いてたのか教えてくれないか?」
「エ・・・。」
また出そうになった声を今度こそ抑えて、渡されたそれらに目を落とす。
不思議な人だ。言葉が通じないと分かったら、気まずそうな顔をして去っていくのが普通なのに。よほどのお人好しでもないとこんなことはしない。
だが学校でも誰とも話さない彼女には、こんなお人好しでもなければ話を聞いてもくれないだろう。
(書くだけなら・・・)
鈴は日本語を話すのは難しいが、聞くのと書くのはできないわけではない。
鈴のことで勘違いしているらしいが、話を聞いてくれようとする少年の気が変わらないうちに、鉛筆を走らせる。直ぐに書きあがった文字で彼との会話を始める。
『あなたの名前は何と言いますか?』
「俺か?一夏、織斑一夏だ。」
『どうして私と話そうとするのですか?』
「泣いてる女の子を放っておけないだけだよ。俺からも聞きたいんだけど、君が泣いてたのは君が口下手なことと関係あるのか?」
『私は口下手ではありません。日本語を話すのが苦手なのです。』
「・・・そうだったのか。早とちりしたな。」
早とちりというか、鈴に確認せず決めてしまうのは危ないことではないだろうか。最も彼の性格が冷静だったら、この様に話すこともなかったかもしれないので感謝するしかない。
「それで言いたくなかったら言わなくてもいいけど、何で泣いていたのか聞いてもいいか?」
彼、一夏が最も聞きたかったであろう本題に、容赦なく切り込んでくる。それでも聞く前に鈴のことを思ってくれる辺りに、優しい性格が垣間見える。
家族以外で肯定か否定によらない会話をする相手は、日本に来てからは初めてだ
迷った挙句、鈴は話してみることにした。
『私は―――』
◇
「言葉の壁か。俺は経験ないけど大変なんだろうな。」
鈴の事情を知った一夏が発したのはあまりに軽い返答だった。だけどそれくらいに簡素な答えの方がいい。下手に深刻に取られ過ぎて、騒がれた方が鈴にとっては重荷になっただろう。
鈴の発音を聞いた感想も言わず、悩んでいる理由だけを聞く一夏は、追い詰められていた鈴にとってとてもありがたい存在だった。
「それで、泣いた跡を隠せなくて、ずっとここにいたのか。」
『父と母を心配させたくないですから。』
「確かにそう思うもんだよな。・・・どうすっかな、親父さんとおばさんに相談するか」
『話を聞いてくれて、ありがとうございました。すっきりしたからもう大丈夫です。』
「まだ泣きかけの子にそう言われて、すんなり引き下がれるたちじゃないんだよな。」
話を聞き終えた一夏が真剣な顔をして思案している。会って間もない自分のことに真剣になってくれるのはありがたくとも、彼まで巻き込んではいけない。
もう二言三言、感謝の弁を述べて帰るように促そうとしたとき、公園の入り口から新たな人影がやってきた。
「おーい一夏、待たせたな!帰ろうぜー!」
「お、弾。いいところに来た。」
「何がいいと、こ・・・」
弾と呼ばれた少年は、一夏ではなく鈴を見ると大きくため息を吐き出した。そしてすぐに一夏へと顔を向ける。
「なあ一夏君よ。」
「?どうした弾、変な呼び方して。」
「俺は常々疑問なことが一つある。」
「何だよ?」
「お前の行く先に泣いてる女の子がいるのか、お前が行くから泣いてる女の子が生まれるのかってことだよおおおおぉぉぉぉ!
畜生、なんでいつも一夏ばっかり女の子を見つけるんだ!分けろ!女の子と巡り合える豪運を俺にも分けろ!」
「お前もいつも俺と一緒に巻き込まれてるだろ!?」
「お礼の言葉貰ってんのはお前だけだ!」
「この前3丁目のウメさん(御年八十歳)が弾のこと、『五反田さんちの弾ちゃんはいい子だねえ』って言ってたぞ。」
「もっと若い子だよおおおぉぉぉ!」
鈴にはさっぱりわからない理由で、先程までの鈴以上に号泣した弾が一夏に掴みかかる。5分ほどヒートアップしていた二人の言い合いは、弾が落ち着きを取り戻すことで終息した。
「・・・オーケー、落ち着こう。この話題はここまで、いいな?」
「いいな?も何も、弾が一人で暴れただけだろ。」
「細かいこと言うなって。それでこの子がどうしたって?」
「親に心配かけたくないらしいから、泣いた後を誤魔化したいんだ。おばさんなら何とかしてくれると思って。」
「・・・そこに俺がノコノコとやってきたってことか。了解、先にお袋に話しとくからその子連れて来いよ。」
話し終えると弾が先に公園から走り去った。
言ったのを見送り、再度一夏が鈴に顔を向ける。
「さっきの奴、弾って言うんだけど、アイツのとこのおばさんに頼めば、泣き跡何とかしてくれるとだろうから、一緒に行かないか?」
そして笑ってそんなことを言う。
本当に度が過ぎたお人好しだ。走っていった弾という少年の口振りでは、いつもこんなことをしているようでもある。
何かしたわけでもない鈴に、これだけ親身になる理由なんてないのに。
『ど、どうしてそこまでしてくれるんですか。』
文字先が震えて、鈴の動揺を現してしまう。
だが聴いておきたかった。この一夏なる少年が単にお人好しで鈴を助けようとしているのか、あるいは何か狙いがあるのか。
狙いがあったとして、生真面目に答えてくれる保障などないと分かってはいても、鈴は一夏の目を見ながらノートを突き出した。
「どうしてって言われてもな。泣いてる女の子放っとけなかっただけだし・・・。
俺は正義の味方になりたい人だから、泣いてる人は見たくない。それだけのことだよ。」
こんどは苦笑を混ぜてそう宣言し、一夏もまた公園の出口目指して歩いていく。少年の答えの意味を推し量っていた鈴は出遅れてしまう。
「おーい、行かないのか?えー、名前聞いてなかったな。」
名前。読みを教えるなら発声は必須のこと。
声を出すべきだろうか。それとも少年の好意に甘えて、ノートに読みも漢字も書いてしまおうか。
迷った先に鈴は・・・
「・・・鈴音デス。」
声を出した。
「鈴音?」
「ワタシの名前、ファンリンインとイイマス。」
少年が渡したノートに『凰鈴音』と書いて見せる。
「ファンリンインか、じゃファンさんて呼べばいいか?」
「リンでイイデス。中国にイタ頃、皆そう呼んでマシタ。」
「じゃ鈴だ。よろしく、鈴。」
笑う一夏がつきだした手をおずおずと鈴がつかむと、優しい笑みを一夏は浮かべた。
「いい響きだな、君によく似合っていてさ。」
◇
これが彼との出会い。名前を聞かれた時、声を出してもこの少年なら何も言わないと信じて、読みを発声する勇気を得た記憶。
期待に違わず、彼は出した声のことを何も聞かなかった。
そこから彼、織斑一夏や友人の五反田弾たちとの交流が始まったのだ。
次の日学校に行った鈴は、
「オハヨウゴザイマス。」
一夏に勧められた挨拶をクラスメイトに自分からしてみた。
彼曰く『挨拶で鈴ことをどう思ってるかわかる』と聞かされたからだ。
もし嫌われていたりイジメられたりしたら、と不安を漏らした鈴に彼はこういった。
『鈴のクラスメイトが嫌っても、俺や弾、それにこの食堂のみんなは鈴のことが嫌いにならないから。だからその時は、ここに逃げ込んでくればいい。
学校は一緒なんだし、いざとなったら俺達のクラスに来いよ。』
その言葉に勇気をもらった鈴がとった行動に皆は、
「鈴さんおはよー。」
「昨日急いで帰ったけど、大丈夫だったの?」
鈴の心配は杞憂で、安心したあまりにその場で泣き出してしまった。
この時から彼らとの絆は生まれたのだと、回想する今となっては思う。そして織斑一夏を慕う心もおそらくはこの時、芽を覗かせていたのだろう。
◇
『本日はご利用誠にありがとうございました。当機は間もなく、新東京国際空港に到着いたします。』
「・・・懐かしい夢を見たわね。」
「鈴さん、お目覚めっスか。」
着陸を知らせるアナウンスで目が覚めた。
古い記憶だった。
お人好しが染みついてしまった原因の少年との記憶。今でも彼らとの交流は、鈴の心にしっかりと残っている。一方的に言うだけで終わってしまった1つの約束も。
「起きたばっかりの鈴さんに悪いっすけど、書類見てください。」
「もうちょっと早く起こしなさいよ。頭冴えた状態で見れたのに。」
「ムリっス、俺も寝てたんで。」
「ホント、アンタよく社会人やってるわ。」
愚痴はそこまでとして渡された書類に目を通していく。
書類は【甲龍】の強化案の束だった。文庫本位の厚みがある書類を時間に追われながらも読み進める。既に頭は思い出の中の少女『鈴』から、代表候補生『凰鈴音』に切り替わっていた。
【甲龍】の強化案なのだが・・・
「衝撃砲に関わるのばっかじゃない。」
「鈴さんの実戦経験データが全然ないっスから。武器強化案も衝撃砲絡みに限定されんのも当然っスよ。」
「威力強化案の炎弾発射型【崩山】。速度強化案の雷撃構成砲【神鞭】。他にも何個かあるけど、まともに使えそうなのこれくらいじゃない?」
「衝撃砲自体も実戦データ無しッスから、色物武器も多くなっちまうんスよ。」
紙の厚さに比するほどのいいものが見当たらない。最後の方はパラパラと適当に捲るだけで済ませようかとしたとき、一際分厚いページが出てきた。
「なんかこれだけ20ページ分はあるんだけど・・・」
「それっスか。正直俺も気乗りしないんスけど、一応上司に知らせとけって言われたんで。」
「えーっと名前は【GFAS-X1 黒雷】。これだけ型番まで書いてるけど・・・って何よこれ!?」
黒雷。中国語読みでは『ヘイレイ』。物騒な名前ではあるが、鈴が驚愕したのは名前ではない。
データがあまりのおかしなものだったからだ。
全高56,30m。重量404,93t。この数字からしてISには余りに規格外なサイズだ。おまけに武装案もいくつか並んでいるが、【崩山】などとは違ってすべてカタカナ表記になっている。これまで鈴が見たことのある武器とはあまりに毛色が違いすぎた。
「Gressorial Fortress Armament Strategicを略してGFAS。意味は『戦略装脚兵装要塞』。
カタカナばっかなのはEUの協力を受けてるからっス。」
「要塞!?」
驚きを隠せない鈴に、聞き返す間を与えずに男は続ける。
「鈴さんが知ってるか知らないっスけど、ISも軍事転用が現実味を帯び始めてるんスよ。特に中亜連合(うち)は巨大兵器に拘る傾向があるから、ISも巨大兵器に使えないかって考えっす。」
「ISを兵器化するつもりなの!?」
「スポーツみたいな扱いっすけど、ISは立派な兵器で凶器ッス。鈴さんもご存じっしょ?世界でIS使ったテロ組織がいるの。」
「亡国企業…だったっけ。アンタが前に言ってた。」
「そっす。本人らは隠れてるつもりかもっスけど、アイツらが暴れるのを危険視して各国の軍事開発も加速してるんスよ。」
それで合点がいった。こんな化物染みたものを鈴に預けようとするのも、いずれ亡国企業との戦いに使うつもりなのだろう。
「いま世界じゃISに劣らない、IS以外の戦力の開発拡充が急ピッチで進んでます。
【ランドクラブ】。【カブラカン】。【スピリット・オブ・マザーウィル】。【グレートウォール】。うちの持ってるデカブツで一般に知られてんのだけでもこんだけあるんス。
今回鈴さんに来た話も、テロ対策と土地事情から大人数で一機操るのばっかりなんで、いい加減一人で一機、巨大兵器扱えるようにしたい、ってところじゃないっスかね。そんで戦力にしちまおうと。」
子どもに頼ってる時点でどっちが悪人かわかんないっスけど、と馬鹿らしいとでも言いたげに男は吐き捨てる。
「まさかこの武装、ううん兵装は・・・」
「安心と信頼の大量虐殺用っスよ。全高がでかすぎてIS同士の試合会場には入んないっスけど。」
「使うわけないでしょ、こんなの!」
怒声と共に紙を男に押し付ける。持っているだけでも恐ろしかった。自分の手で人殺しの武器を扱う予定が建てられていたとは。
「一応仕事なんで、説明だけしとくっスけど。」
「勝手に言って、適当に聞き流すから。真面目に聞くなんて身の毛もよだつ思いがするわ。」
「へいへい、了解っす。
この【黒雷】は兵装というか強化外装扱いで、使用時は鈴さんの【甲龍】を衝撃砲だけ外してコアユニットとして、コックピットに接続する仕様になってるっス。そんで・・・」
◇
「そんじゃこれで終わりっス。飛行機もついたッスし、学園には俺が連絡しときますから行っちゃってください。ほら、空も晴れてるんすから明るくいきましょうよ!」
「最後の話がなかったら、こんなにブルーになってないわよ!」
空港の出口にて、鈴と男は分かれる。男の方はこの後支社に寄ってから帰国するのでここでお別れだ。
「なんか不具合とか強化必要になったら連絡するから。ちゃんと27時間対応してよ。」
「1日越えてるっスよ!?どんなブラックすか!」
「冗談よ。しばらく顔見ることもないし、アンタなりに元気でやんなさいよ。」
「優しさが身に沁みますわー(棒)。そんじゃ、お達者で。」
「はいはい、それじゃあね。」
遠くなっていく鈴を見送る男。俯いて視線を落とした先には【黒雷】のデータがかかれた紙束。
「・・・誰が悪人かわかんないっスよ、ホント。」
男は手の中のそれを握りつぶした。自分よりも若い少女に向けられる、政治家たちの嫌な期待を認められなくて。
さて、うん、なんだ、鈴の強化方向が明らかにおかしいですね。
作者的に空気砲はどうやっても、炎出すか、高速回転で真空作って電撃くらいしか思いつかないのでこんな化物出したんですが。
鈴用の強化外装として登場したアレも本編で使われるのはずっと後となります。名無しの男が言っているように、IS戦闘で使ったら死者多数間違いなしなので。逆を言うと使うときが来るのは大量虐殺か、それこそ戦争をやる時となりますが...
今回はこの辺で、ではまた次回。
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――恒例 どうでもいい余談――
・・・鈴の過去編、なんでこんなに長くなったのか。
最初は、
いじめられた
泣いた
助けた
惚れた
この4行で済ませようかと思ったのに。オリキャラまで出しちゃったし。
何で三連合それぞれで開発コンセプトを分けたり、IS以外の開発をしてたりするかといえば、ISに頼り切ってたら他の兵器が廃れるから。
ここの偉い人たちは量産性がカケラもない上に、一機一機でできることの上限が決まっている機体に頼った世界戦略練るほど馬鹿ではないんです。(その結果IS以外にも兵器が流通しているので、軍部や政治の世界には男も存在している。)
中亜連合が推進している兵器開発コンセプトは「強大な武力で弱小を討つ」。だからACfaのAFとか、巨大MAを中心に開発してます。戦艦とかもここ。
ただし、ビーム兵器や小型兵器(人型サイズ)開発は苦手でロシアやヨーロッパと技術提携してる。人革連の元なので実弾系が多い。
アメリカは小型(ACfaでいうネクストやノーマルが在籍。ガンダムならザクやゲルググタイプ。これらを使う量産とそのカスタム版重視スタイル)。
なおサイズはISより一回り大きい程度(最大で10m前後)
中亜連合は大型(量産性ゼロの代わり、高いコストに見合う性能や火力を誇る。多数の凡人を使っての機体制御で、いつでも一定の成果を上げることを目的にしたスタイル。(防御はアメリカから買った小型に任せるが。)。
どうしてこんなコンセプトの差が出てきたか、ヨーロッパはどんなことになっているのか、また本編で触れられたらいいなと思います。
【黒雷】の正体は型番でググると出てきます。
皆さんが調べるまで「これってどこの出典だっけ?」と思うのもクロス小説の楽しみと思いまして、ここで名前を出すのは控えておきます。
尚、これから先も様々な作品から各国の機体は出場します。原作無しのオリ機体はイメージがつかみづらいので、大量に出てくるのは元ネタありの方がいいんです。