IS×00 夢を目指す者   作:王天君

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 どうもみなさん、めっきり寒くなって筆の進みも遅いですが投稿です。

 今回の内容は、千冬の体罰に関する教師観、鈴の約束に関することと鈴なりの決意、辺りがメインになってます。

 ではまた後書きで。


第二十一話 鳴らない、ほうがいい電話

 あの後必死に逃げたのだが、本音と簪と箒は食堂で千冬姉に確保され、走りながら反論しようとしたセシリアと鈴は論破され、一か八かで戦闘状態に持ち込もうとした俺も歯が立たず、説教を食らった。

 その後俺は授業の終わった夕方、遅刻と逃げた罰として荷物運びを手伝わされていた。ISを展開したうえでパワーアシストは切り、土のうを運ぶという何処の軍隊かと言いたくなるような仕事だ。

 誤解の無いように言っておくと、説教を食らったメンバーの中でここにいるのは俺だけである。女子たちは力仕事以外だが、千冬姉の決めた罰なので一概にどっちが楽はわからない。

 

「ほら、キビキビ動け。」

「俺達が遅刻した件は怒られて終了じゃなかったのか・・・」

 

 だが、怒られた後に労働する羽目になっては、不満の1つも口から出ようというものだ。だがそんな俺の言葉に織斑先生が動じるわけもない。

 

「説教は自覚を促す為、罰は反省の為だ。目的が被っていないから別々に行っても、なんら問題はない。」

「詭弁、詭弁だ!」

「まだ反省が足りないようだな。」

「すいません。」

 

 ISも補助を切ればただの重り。今の俺には過重労働に感じられるだけの疲労を与えてくれている。今の疲労に加えて、もう一度説教をされた日には、二度と目覚め無い眠りについてしまうかもしれない。

 命を投げ出して反抗する気力もない俺はあっさり白旗を挙げて、千冬姉に無抵抗を示す。

 尚、千冬姉は俺と言葉を交わすのを、片腕で土のうを保持したまま軽々と行っている。

 

「IS無しで、どうして俺と同じ数の土のうを片腕で運べるんだ。」

「常に鍛錬は続けている。この程度は朝飯前だ。」

「すでに人類やめてるような気が」

「何、慣れれば貴様でもできるようになる。」

 

 延々と土のうを倉庫からグラウンドに運ぶ作業にも飽きてきたので、会話でもしようと試みる。

 しかし汗一つかいてない千冬姉は本当に人間なのか?

 

「でも千冬姉。いつもと同じで、鉄拳1つで終わりにしなかったのはなんでなんだ?」

「織斑先生と呼べ。鉄拳で終わらない理由だと?

 都合のいい労働力が転がっているのだから、見逃すわけがあるまい。」

「つまり織斑先生が楽をしたかったからだと。」

「・・・今日はえらく挑戦的だな、織斑。」

「滅相もないです。」

 

 織斑先生の額に青筋が浮かんで、激高しそうになったのを感じ、慌てて謝る。だが許されずに、頭へ拳骨をもらう。

 

「いたッ!」

「人手不足もあって、貴様らの罰則を備品拡充に使っているのは否定せん。

 だが、教師を調子に乗って馬鹿にし過ぎだ。目上に敬意を持つ習慣を持たなければ、後で後悔するのは貴様の方だぞ。」

 

 危うく土のうがこぼれそうになるがどうにか持ち直す。

 織斑先生の発言には一理あるかもしれないが、暴力は必要ないと思う。だが事の発端を招いたのは俺なので、口には出さない。

 両手がふさがっているせいで、痛む頭をなでることもできずに、視線で非難を訴える。

 

「何だ、その目は?」

「何でもないです。」

 

 見とがめられて目をそらす。

 しかし織斑先生の方は俺の視線に思うところがあったようで、ムスリと頬を膨らませる。ひょっとしてふてくされているのだろうか。

 少し可愛いと思わなくもない。

 

「私だって、手を出さない方がいいことぐらいは分かっている。」

「じゃあ何で、22世紀の今でも体罰なんてやってるんですか?」

 

 学園に入学してから驚いたことは数多くあるが、その1つが千冬姉の鉄拳制裁による体罰だ。大概くらうのは俺だけだということはご愛嬌で。

 さて、色々と国の法律や条約、条例、決まり事を無視できるIS学園ではあるが、全く世間の目を無視できるわけでもない。ついでに言えば、特別な権利を持っているようにアピールしていても実態は偽物であることがある。

 たとえばIS学園の校則。

 校則の二条にはIS学園の生徒へのいかなる勢力、それこそ国の強引な介入も防いでくれると書かれ、大使館的な存在だと思う人もいるらしい。

 だが、いくら特別校とはいっても、たかが一学校にそんな特権がそのまま置かれるわけもない。

 忘れてしまいがちだがIS学園の校則は、それ以前に『IS学園』は世界各国の合意の下で成立している。つまり最初からこの校則は、国が何らかの形で通れる裏道があることを前提に作られているのだ。

 この例は前に千冬姉が五反田食堂に泊まりに来たとき、愚痴っていた内容で覚えている。

 他にもマスコミの注目も寄せられることがあるそうで、俺の入学時も対応に追われたらしい。全世界の注目の的だから仕方がないさ、と言っていたな。

 それだけマスメディアの眼があることを知っている千冬姉が、バッシングの格好の材料になる体罰を今でもやっている理由は気になっていた。

 俺の問いに対して、千冬姉の回答は明快だった。

 

「殴りでもしないと、人助けと言って飛んでいくお人好しを止められないからだ。」

「・・・え、俺が原因?」

「お前はどれだけ心配かけていると思っているんだ。口で言っても一向に治る気配がないから、拳骨で身に染みさせているんだろうが。」

 

 ・・・俺のせいでした。

 

「俺を殴って叱るのに慣れたから、他の生徒も同じ対応をしてると?」

「教師の役目は生徒を正しく導くことだ。それに織斑以外ではよほどのことをしない限り、殴ったりはしていない。」

「セシリアと戦う前、俺と話してた本音に叩き込んでた気が・・・」

「授業中の私語は校則違反で同罪だ。」

 

 単純明快な答えだけど、それでいいのだろうか。

 千冬姉なりに生徒のためを思った行動でも、周りがそう見てくれないなら一歩的に悪者にされてしまうことすらありうるのに。

 俺が何を考えたかわかったように、千冬姉はさらに言葉をつづけた。

 

「私のやり方は周りから非難される、とでも思っているだろう?」

「いや、そんなことは。」

「嘘をつくならポーカーフェイスをマスターしてからにしろ。顔に書いてある。それとだ。」

 

 一呼吸おいて、千冬姉は俺の眼を見た。

 

「二度目だが、教師は生徒を正しく導くことが仕事だ。そのためなら汚名も責任も、すべてまとめて背負ってやるさ。

 貴様等が笑って明日を迎えてくれるためなら、体罰教師と呼ばれようと構わんよ。」

「教え子にも理解されなくても?」

「見返りが欲しいわけではないからな。お前たちが正しく成長してくれればそれだけでいい。」

 

 そう言い切ると、家族の俺も滅多に見ない、照れくさそうな笑顔を作った。

 自分で言っておいて台詞が恥ずかしくなったようで、その後は俺が何を聞いても「ああ。」とか「うん。」でしか返してくれなくなった。

 いい台詞なのにもったいない。

 しかも土のうを運び終えると、もう寮に戻っていいと言われた。罰を受けていた俺としては願ったりかなったりなので、さっさと引き上げる。

 しばらくして、グラウンドの方から大声が聞こえてきたような気がするが、気のせいだろう。羞恥心に耐えかねた織斑先生が爆発したのではない、はずだ。

 

 

 

 

 グラウンドを離れたのは夕方だったが、シャワーやメンテを終えると日が大分陰ってきていた。既に7時近くになっている。夏に近づくにつれ日は長くなるとはいえ、さすがに遅くなった。

 さっきの千冬姉の照れた顔写真を新聞部にあげたら、いい話題提供になったかもなとか、食堂閉まってたら部屋で何か作るかなとか、考えながら自室にまで戻ってくると、部屋の中が騒がしい。

 

「だから部屋替わってあげるって言ってるじゃない!」

「だから替わらんと言っておるだろう!」

 

 ドア越しに聞こえる会話だけで、誰と誰が言い争っているのか分かる。火事の現場で助けに飛び込む気はあっても、野次馬になる気の無い俺からすると正直逃げてしまいたい。

 

「逃げる先が火事場でないなら、問題なかったんだけどな・・・。」

 

 嫌がったところで埒があかないので深呼吸をしてドアを開ける。

 案の定、部屋の中では箒と鈴が牙をむき出しにして言い争っている。

 良かったのは部屋がきれいなままなことで、二人が手を出し合って部屋が荒れていることが恐ろしかったが、その心配はいらなさそうだ。

 

「一夏、遅かったではないか。」

「一夏、お帰り。お邪魔してるわ。これ中国からのお土産ね。」

「お、サンキュ。」

 

 昼は話す暇がなかったから届けに来てくれたのか。出会ったばかりの話せなかったころから、鈴の気を回してくれるところは変わってないな。

 問題は箒が土産を私に来ただけの相手に対して、過剰な殺意を出していることだ。部屋に飾った竹刀を持ち出しかねない勢いだ。

 

「なぜ貴様が一夏を出迎えるのだ!それは部屋に住む私の役目だ!

 そもそもまだ私との話し合いは終わっていないぞ!」

「いいでしょ挨拶くらい。減るものでもないし。もうすぐ私の部屋になるんだし。」

「そんな時が来るものか!」

「お前らとにかく落ち着け。何で喧嘩になってるのか教えてくれ。」

 

 俺の登場で、いったん治まりかけた箒の火が再び燃え上がるのを見かね、仲裁に入る。八つ当たりされようと、黙っていられるほど冷血漢でもない。箒の場合下手に頑固なときがあるのに相手が譲らないと、頭に血がのぼることがあるしな。

 予想に反し、俺が間に入ると箒は僅かに冷静さを取り戻す。

 

「織斑先生からの罰則は知っているか?」

「力仕事じゃないとしか聞いてない。」

「学期末の大掃除で使う雑巾の裁縫よ。全部で500枚ね。」

「ごひゃく!?」

 

 俺は土のう運び、女子は雑巾作り。やっぱり、織斑先生が楽をしたかっただけじゃ・・・?

 一応、授業に遅れたことだけで、ここまで大変な罰を出されたわけじゃないそうだ。逃げたり抵抗したりしたから重くしたんだと。

 山田先生もオリエンテーションの時に言ってたけど、男性教師がいない分人手不足な面はやっぱりあるようだ。

 

「で、ただ雑巾織ってるのも退屈だからおしゃべりしだして。」

「私と一夏が同室だと知ったこの娘が部屋を替われと押し掛け、問答の途中だったのだ。」

「それは無理だろ、鈴。」

 

 勝手に部屋を替えようものなら、また千冬姉からお説教と罰のフルコースが万歳しながら走ってくる。

 

「別に無理強いしてないもん。替わって欲しいってお願いしてるだけだからいいでしょ?」

「あれが人にものを頼む態度か!」

「善意なんだから受けなさいよ!」

「だから喧嘩するなって。」

 

 相性が本当に悪いな、この組み合わせ。

 ともに喧嘩腰なせいで止めにくいが、今回悪いのは勝手なことを言う鈴の方だろう。なので鈴を説得しよう。

 

「寮の部屋割は決まってるんだし、勝手に替えでもしたら千冬姉からまたお説教だぜ?」

「う・・・それは嫌だわ。」

 

 今日のお説教プラス罰則を思い出したらしい鈴が、顔を大きく左右に振る。

 鈴は基本的に人の言うことを聞かない反面、行動の結果を自分なりに予測できる。だから説得するときはやるとマズいことになるのを強調すれば、意外と素直に聞いてくれるのだ。

 

「うー、でもー」

 

 このやり方なら引き下がる鈴が、今日に限ってはまだ食い下がる構えを見せる。そんなにこの部屋がいいのか?

 今時の女子の考えることはよくわからない。

 

「じゃあ俺が別の部屋に移るか。セシリアは一人暮らしらしいし、頼めば何とか・・・」

「「それじゃ意味がない(のよ)!!」」

 

 せっかく浮かんだ名案は鈴と箒に同時に却下される。

 なぜだ、双方の意見を取り入れた妙案だろ。二人がこの部屋がいいなら、俺が別の部屋に替わればいいというのは間違ってたのか?

 

「何度言われても、ただ替わりたいって希望だけじゃ通らないぞ。」

「それもそうね。・・・そうだ!」

 

 考え込んでいた鈴がひらめいた、と顔を上げる。そしてその顔に、嫌な予感が全身を駆け抜ける。

 

「一夏、次のクラス対抗戦、私が勝ったらこの部屋に住ませてよ。それなら文句ないわよね。試合の結果に応じてなら、千冬さんも許してくれるかもしれないし。」

「ないわけがあるか!」

「興奮しすぎだ、箒は少し落ち着けって。

 それと鈴。今の取引じゃ俺が勝ってもメリットが無いぞ。だから受けない。」

 

 箒がさっきから怒り続けているせいで、内心ひやひやしている。小規模爆発が続いているが、いつ大爆発を起こすかわかったものじゃない。

 

「それなら、勝った方が負けた方に何でも1つ言うことを聞かせられるって条件ならどう?」

「その条件ならまぁ、いいぞ。」

「一夏!」

「決まりね!」

 

 双方にフェアな条件でなら受けてもいいか。

 セシリアと戦った時に娯楽レベルの賭け事は認めていた千冬姉なら、相談次第で許可を出すかもしれないし。

 駄目なら駄目で千冬姉が駄目だと言ったのを盾にすれば、鈴も諦めがつくだろ。

 箒には後でこの考えを説明するとして、いい加減帰らせないと『なまはげ』よろしく、

「悪ガキはいねぇかぁ!」と、巡回の千冬姉がやってきかねない。

 

「じゃああたしは帰るとするわね!対抗戦をお楽しみに!」

「あ、こら待て!」

「鈴、部屋まで送るぞ。」

 

 寮なのでそんなに離れてはいないが、見送るついでに近況報告とかをしとくとしよう。

 

「い、一夏!?貴様、なぜそこまでしてやるのだ!まさか・・・」

「久しぶりに会った幼なじみなんだから、送るついでに話してくるだけだよ。もう何年も会ってなかったし。箒と再会したときも色々話したりしただろ。」

「そ、そうだったな。うむ、それだけならいい。」

 

 やっと治まってくれた箒を確認して、鈴と一緒に部屋を出た。

 

 

 

 

「ISつけずにISと戦った!?アンタ一体、何やってんのよ!」

「人質は怪我なくすんだし、俺も軽症だったからいいだろ。」

「自分をもっと大事にしてって、言ったわよね!」

「あの頃の鈴は、今と全然違うよな。」

「話変えんなぁ!」

 

 道すがら、お互いに離れてからあったことを言い合う。

 今日は怒られてばかりだな。箒と再会した時も怒られてた気がするが、俺の人生は誰かに怒られる星の下に生まれているんだろうか。

 怒られ続けるのも具合が悪いので、話を変えよう。

 

「日本に来たときは一人ぼっちで、ちょっと調子崩してただけなんだから!」

「そういえば、仲良くなったら今と似た感じがするようになってたな。俺のことよりも鈴のお父さんとお母さんは?元気にしてるのか?」

「お母さんは相変わらずドがつくくらいに元気にしてるわ。お父さんは・・・多分元気にしてる、と思う。」

「そうか。なら良かった。」

 

 明らかに何かを隠してるが、本人から言い出さないなら聞かないのが俺のスタンスだ。そっとしておく。

 

「と、ところで一夏?」

「ん?」

 

 妙に緊張した面持ちで、鈴が俺の事を見ている。

 怒っている、のではないと思う。せっかく話題を変えたのに、また怒られるような地雷は踏み抜いていないはず。

 夕方の千冬姉が照れたときの顔とダブるような・・・。

 

 

「あたしとした約束、覚えてる?」

「約束?」

「ほ、ほら、あたしと一夏が弾の家で手伝いをした時の。」

「・・・ああ!」

 

 頭の中を掻き回して、該当する記憶があった。

 たしかあれは夏休みに入って、鈴が日頃お世話になってるお礼で弾の家を手伝いたいと言い出したときのことだ。料理屋の一人娘だけあって手際よくやる鈴に、親父さん達も感心していた。

 それで運び役をやっていた俺が厨房に入ると、鈴が俺に小さく言ったんだ。内容は、

 

「『もっとあたしの料理が上手くなったら、毎日わたしの作った酢豚を食べてくれる?』・・・だよな。」

「そう、それよ!覚えててくれたんだ。」

「声小さくてもあれだけ緊張しながら言われたら、記憶に残るだろ。」

 

 別にそんなに複雑な内容でもないから、忘れるわけもない。すぐには思い出せなかったのは少々申し訳ない。

 

「そのあと一夏が『いいよ』って受けてくれて、約束したんだから。」

「確かにそんなこともあったな。でもそれが今重要か?」

「重要よ!最重要!約束がなかったらはるばる日本までやってこないわよ!」

「あの約束が、それほど大事には思えないんだが。」

「・・・一夏、ひょっとしてあの約束の意味わかってない?」

 

 何故か恐る恐る俺の様子を窺う鈴。

 意味も何も、上達したら料理の味見を頼むくらいは大して重要には思えない。

 その理由は当時の鈴を知っているからだ。引っ越す前の鈴は鈴のお父さんとお母さんを気遣って、何でも一人でできる子だった。だが特にこだわったのが料理だった。

 遺伝でもあったのだろう。料理に目覚ましい才能を見せた鈴は、父親直伝で家の料理を教わっていた。

 もちろん当時から素晴らしく美味かったが、俺達に料理を作ってくれる度に、自分はまだまだだと笑っていた。

 そんな過去を知っているため、てっきり親に認めてもらえるくらいの腕になりたいから協力して、という決意表明だとばかり思っていたのだ。

 素直にそう伝えると、

 

「そんな・・・一番大事な部分が・・・伝わってなかったなんて。」

 

 ガックリと地面に腕を突いて倒れ込む鈴。

 フォローしようにも、鈴の落ち込む理由が分からないのでどうしよう。

 

「その、ごめんな鈴。」

「ちゃんと意味くらいは調べなさいよ!」

「別の意味が込めてあったのか?よかったら教えてくれ、今度はちゃんと答えるから。」

「それは、ええっと・・・、ま、また今度ね!」

「あ、おい!」

 

 会話を打ち切った鈴が俺の前から走り去る。もう間もなく鈴の部屋なので危険はないだろうが、俺の中にはもやもやした気持ちが残った。

 鈴の約束、本当はどんな意味があったんだろう。

 

「まさか、結婚の約束だったとかは・・・無いな、帰るか。」

 

 自分の想像力の虚しさを嘆きつつ、俺も部屋への帰路を辿ったのであった。

 

 

 

 

――Rin side――

 

「それで一夏がさ、私との約束を勘違いしてたわけ!」

『はぁ。』

「ちょっと聞いてるの!」

『寝ようとしたところに鳴り出した電話の呼び出し音には、軽く殺意が湧いたっス。社会人にやったら刃傷沙汰っしょ。』

「寝てないんだからいいじゃない。」

『とにかく眠いんスから手短に。』

 

 部屋に戻っても、一夏が約束を勘違いしていた不満が晴れなかったあたしは、午後10時を回った今でも電話に気兼ねしないあの男に電話をしていた。

 

『俺このまま名無し確定なんスかね。』

「名無しが嫌なら、アンタの名前『ファンミン』にしとくわ。」

『お、意外と普通の名前!字は?』

「『仮名』。」

「やっぱり名無しじゃないっスか!」

「そんなことより。」

『無視っスよ、この人。』

 

 男あらためファンミンが受話器越しに叫ぶが、あたしの身に起きてる不幸に比べればどうでもいいので無視する。

 

「信じられる?結婚の約束したつもりが、料理の上達度を図る約束になってるなんて。」

『日常的に起こることではないっスね。』

「あたしの緊張とか返してほしい気分だわ。」

 

 日本にいたころの思い出が一気に色褪せた思いだ。もちろん気持ちには寸分の変化もない。

 

『でも鈴さんの言い方も問題だったんじゃないかと。』

「どこ?」

『今時の子どもに結婚の約束、それも中国風の言い回し、曲解されるのも無理ないっス。』

「私が悪いって言いたいの!?」

 

 伝わっていなかっただけに飽き足らず、まだ私に責任があるというのか。

 

『聞いたところでは、彼は親がいないんでしょ。だったらそんな言い回しも知らない可能性を、頭に入れとかないと。』

「・・・そうかもね。言うことだけに集中して、伝わるかを考えてなかったわ。」

 

 一人で緊張して、一人で張り切って、一人で落胆して、まるでピエロだ。

 

「全部あたしの失敗ね。小学校の一夏にあった時と同じ、嫌になるわ。思い出は綺麗なままにしとけばよかった。」

『ワインと違って綺麗に置いといても、思い出は価値が上がらないっスけどね。まあ良い方に捉えたらいいんじゃないっスか。』

「どう良く受け止められるっていうの?」

『今鈴さんの思いが伝わってないと分かっただけでも進歩っスよ。もう一回ちゃんと言えばいいんスから。』

 

 ファンミンの言うことにも一理ある。今日一夏との誤解に気づけなかったら、今頃あたしは思い出してもらおうと躍起になっていた可能性が高い。それに中途半端に約束を覚えられておかれるよりは幸運だった。

 

「でも、もう一回言うのもかなり緊張するわ。」

「一回言えたなら二回目も同じっス。小学生の鈴さんが持ってた勇気を、今の鈴さんは持ってないんスか?」

「持ってるに決まってるでしょ!」

 

 挑発するような物言いのファンミンに、思わずけんか腰で返す。この時間に不機嫌さもほぼ見せず電話に付き合ってくれた相手には大変な失礼だ。

 すぐそのことに気付き、謝ろうとすると笑い声が聞こえてきた。

 

『その意気ッスよ、鈴さん。小難しい言い回しなんかせずに、ストレートな方がよっぽど合ってる。』

「ごめん、怒鳴って。それと今の褒めてるの、けなしてるの?」

『どっちもっスよ。女の子の告白に気づかない鈍感彼氏さんも、ストレートに言えば答えてくれるはずっスから。』

「・・・そうね、へんに凝るより、直接やるのがあたしらしいわ。

 待ってなさいよ、一夏!絶対にあたしの気持ち、わからせてやるんだから!」

『頑張ってくださいっス(やっと眠れる)』

 

 鈴が決意を叫ぶ中、夜は更けていくのだった。




 以上です。

 本作の千冬はどちらかと言うとブリュンヒルデより教師としての面が強く出てきています。体罰に理由をつけたからこうなったわけでは断じてない。
 のちにこの違いが影響を及ぼすのかは、まだ内緒。

 鈴との約束は内容はしっかり覚えていても、意味が伝わっていなかったという形に落ちつけました。それで過去の約束に頼らず、今の自分の言葉で気持ちを伝えようと決意したわけです。
 この約束もここで放り出す気はありませんが、この章でもう一回話題には出るかな。

 それでは今回はこの辺で、と言いたいところなのですが、IS学園の立地について作者が忘れたのでお断りを。
 IS学園がどこにあるか、周囲がどうなっているかをすっかりきれいに忘れたので、本作中では、

場所→東京都

周囲→東京湾に突き出した人工島。(武偵高みたいなもの)

となっています。あしからずご了承ください。暴れるのに周囲が住宅地だとやばいので。(巻き込まないとは言ってない)

 次回から戦闘開始かは悩み中です。
 
 では今度こそ終わり。

 感想・質問・評価、何でもよろしくお願いします。

――どうでもいい余談――
 鈴編の各話タイトル、実はエヴァパロ。

 後さらっと書いたが、原作でシャルを助けるのに使った手段を封じにかかっています。「何事もやるなら徹底的に」の作者なので、現状維持するだけの原作案は否定にかかるとしました。いっそデュノア社に殴りこみか直談判でもやらせるか。
 一夏がやりたがらないのでは?と思われる方はご心配なく。色々考えてありますので。
 なので福音戦後の夏休みは、秘密や伏線、展開の入り乱れた夏休み編にする予定です。
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