IS×00 夢を目指す者   作:王天君

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どうもみなさん、こんにちは。

あんまり今回は進展なし。鈴とセシリアと簪がそれぞれの気持ちを知り合う回。
絡みの場を作りたかったのと、すぐ戦闘に入るより間を置きたかったので。

では本編をどうぞ。

圧縮したので少し長めなのと、後で書き足しはするかもしれません。

また視点が、鈴と箒の心情に重きを置いてます。なぜこの二人なのかはまたそのうち。

最後に再び箱が登場。


第二十二話 恋と憧れと友情と

「いよいよ明日かぁ。」

 

 クラス対抗戦を明日に控えたある日の夜。

 日も沈んで午後8時を回った頃、鈴は一人自室でベッドに座り込んでいる。片手に握ったスポーツ飲料をあおってのどをスッキリと潤しても、心はまるで晴れてくれない。

 ペットボトルの中身と同じで濁ったままである。

 鈴は今、軽い自己嫌悪に陥っていた。

 先日ファンミンに電話で励まされ、もう一度告白することで一夏に思いに気づいてもらおうとした鈴。そこまでは良かった。

 そして「告白しよう!」と思い立つも、一夏を前にして切り出そうとすると妙に気恥ずかしくなって、電話から数日たった今でも何も伝えることが出来ずにいる。

 

「一夏も鈍すぎるのよ!」

 

 親指でペットボトルのキャップを打ち上げ、その軌道を目で追う。特別な動きをすることもなく、落ちてきて鈴の手のひらに収まる。

 結果を見てはまた打ち上げる。

 鈴が困っているのを見た一夏は、変わらずの優しさで体調を気遣ってくれたりするのだが、今ほど彼のずれた優しさが恨めしく思えたことはない。

 最初に逃げてしまった鈴にも責任は有る。だが、それが分かっているからこそいつもの鈴と様子が違うことを、体調不良としか思ってくれない一夏に不満がたまる。

 

「あーもう、むしゃくしゃする!」

 

 気恥ずかしさや、告白に一夏がどうこたえるかの不安で先延ばしにしてしまいそうになる自分を戒めるため、明日の対抗戦を期限に決めた。部屋割の流れで決めた『勝った方の言うことを聞く』という口約束のこともあるが、もう逃げ道はない。

 明日、試合結果がどうなっても一夏と鈴の関係はこれまで通りではいられなくなる。

 このままではいけないと思って決めたことだが、起こる変化を思うと内心穏やかではいられない。

 

「こんな調子で大丈夫かな、私。」

 

 明日の対戦結果次第では一夏からの命令を一つ聞くことになり、逆に一夏を命令に従わせることもできるかもしれない。

 約束を使って「私と付き合って」というのも考えてみたが、何かルール違反な気がした。誰に対してというものでもなく、無理矢理一夏と一緒にいるのは嬉しくない。

 試合前に悩みや不安を持つと、動きに無駄が出るので解決してしまいたい。だが試合が終わらないと解決しないため、鈴はこうして悶々としているしかないのだ。

 何というものでもなく、壁にかかった時計を見ると時刻は8時半前。

 

「寝られそうにないし、散歩しに行こ。」

 

 何度目かの手のひらで受け止めたキャップをペットボトルに戻し、夏の暑さが近づく闇の中へと歩き出した。

 

 

 

 

 同じく午後8時半前。一夏は物思いにふけっている。そしてその彼を箒が横で眺めている形だ。

 

 『凰鈴音及び【甲龍】攻略法』。

 

 同室の箒から見ても、ただそのことに頭を巡らせる彼の姿は全く味気が無いと断言できる。1000年放置したなら、この姿のまま化石で発見されそうだ。

 見ているだけの箒には、ひどくつまらない。集中するのを邪魔されるストレスを知っているので、指を咥えていることしかできないので尚更つまらない。

 左手でペンを回し、びっしり書き込んだノートの1ページを何度も反復し続けている。

 

「衝撃砲の攻撃タイプはカテゴリーで分けるなら実弾。射角が360度狙えるのが最大の脅威で、射程距離の限界は不明・・・と。本音の読み通りなら、近中遠の万能型の恐れもあるんだよな。

 近距離は薙刀に似た青龍刀が一本きり。衝撃砲の性能次第だけど、最初から【エクシア】を出すか。」

 

 暗記のテストでもやるつもりか、と言っても過言でない程やっていてもやはり口出しはできない。遠距離は専門外の箒は、聞かれた時に答えるくらいの役割しかないのだ。

 するとようやく、彼がずっと回していたペンを下ろして眉間を手で揉み始めた。

 この機を逃すまいと、一夏に話しかける。

 

「お疲れさまだな、一夏。お茶でもいれようか?」

「あ、箒。頼む。」

 

 暇な間に、一夏が休む時に何をするかを考えて、全ての準備を終えてある。

 お湯を注いでできる簡素なお茶だが、喜んで飲んでくれる彼を見ると用意していた箒も報われる思いだ。

 対面の椅子に座り、適当に話題を切り出す。

 

「少し無理をし過ぎていないか。疲れを持ち込むのは良くないぞ」

「セシリアみたいに、鈴も奥の手を持ってないとも限らないからな。今分かっていることだけでも、頭に叩き込んでおきたいんだ。」

「心配しすぎだと思うがな。あの中華娘がそこまで強敵とは思えん。」

 

 一夏がそれなりに気にかけている凰鈴音のことが気に入らず、つい本心より贔屓目の棘のある言葉が出る。より確かな言葉で言えば、一夏に気にかけられ、自分よりも彼に積極的に動けていることへの妬ましさもある。

 会った初日に揉めて以来、会話もしていない凰にはあまりいい感情を持てなかった。

 箒の心を知る由もない一夏はのんきにお茶をすすっていたが、空になったコップを置くと意外なことを口にした。

 

「確かに、心配のしすぎかもしれない。」

「・・・相手ではないと、そういうことか?」

 

 初戦であったオルコットとの戦いが勝利に終わったので、下手な油断が生まれたのかと顔を見る。だがその顔は険しいだけで、対戦相手を軽く見た空気は一切ない。

 

「強敵だよ。代表候補生ってだけでセシリアと同格なんだ。俺が楽に勝てるわけがない。」

「ではなぜだ?」

「鈴の奴、最近ずっと何か思い詰めてるみたいでさ。体調が良くないみたいなんだ。万全の鈴ならともかく、今の様子じゃセシリアほどの脅威には思えない。」

 

 つまり調子の良し悪しが分かるほど仲がいいのか。また妬んだ言葉が出そうになるのをどうにか抑え込む。

 気に入らなくとも学友の一人だ。弱った相手を追いつめる真似は醜いし、心配くらいはする。

 

「心当たりはないのか?最後に元気な姿を見たのはいつだ?」

「元気だったのは・・・部屋のことで見送りにいった時が最後だな。思い出すと様子がおかしかった。約束の意味も教えてくれなかったし。」

「約束だと?」

「昔、鈴が日本にいたころの話で―――」

 

 約束とそれにまつわる顛末の詳細を聞いて納得する。間違いなく不調の原因は目の前のこの男だ。

 

「貴様が原因だ、このたわけ。」

「俺!?」

 

 心外だと言わんばかりの顔をするが、どこまでこの男は鈍いのだか。

 

「貴様だって、『毎朝味噌汁を~』の例えは知っているだろう。それの中国版だろうが。」

「・・・いや、まさか鈴が俺なんかを。」

「貴様が気づいてくれないから、自分から言うべきか思い悩んでいると考えれば筋は通る。それに、分かるのだ。あの娘が貴様をどう思っているのか。」

 

 ―――自分と同じだから。

 最後に続けそうになった言葉を飲み込む。言わなくてもいいことまで告白しかけた。

 コップの淵を指でなぞり、考え込む一夏を静かに見つめる。

 凰鈴音にとって約束を交わしたのが子どもの頃であっても、こめられた思いは今でも変わっていないのだろう。ようやく部屋を替えてくれと執着した理由にも合点がいった。

 

(同族嫌悪か、私が中国娘を気に入らなかった理由は。理由を聞いて話していれば、喧嘩には…いや、やはりなったな。)

 

 お互いに一夏のことを好いているのと、無意識で分かっていたから喧嘩した。この女には負けられないと思って。

 

 

「分からん。ちょっと出てくる。」

「どこへ行く?」

「アリーナ。素振りでもして無心で考えてみる。少なくとも明日の試合中は、悩むわけにはいかないからな」

「織斑先生に見つかれば説教ものだぞ。」

「中途半端な心で相手と戦う無礼よりはマシだよ。ハロ、お出かけするぞ。」

『ナアニ、ナアニ。』

 

 壁に立てかけた箒愛用の竹刀を手に、ベッドで寝ていたハロを連れて出ていく。

 追うか迷ったが、結局追いかけることにした。

 

 

 

 

 

 

 

「散歩でも、千冬さんに見つかったらアウトだから気をつけないと。」

 

 夜間に寮の部屋から出ることは禁止されている。風紀を守るためかはたまた安全のためかは語られていない。

 抜き打ちで千冬さんが巡回していることもあるらしいので、ちょっとスリルを感じる。

 

「ま、そうそう鉢合わせるなんてないけどね。」

 

 窓に映った自分の影に驚いたりもするが、1週間で見慣れた寮の廊下に目立った変化を見つけることもなく、退屈さが出てくる。

 

「あれ?」

 

 窓から見える外の景色の中、寮から少し離れた道に光が瞬いて眼が惹かれる。

 人魂、そんな言葉が頭をよぎる。ユラユラと揺れて不規則に明滅する姿には幻想的だ。その正体を推し量ろうと窓ガラス越しに目を凝らした鈴が見つめる中、フッと水平に走って消えた。

 

「・・・何よ今の。」

 

 オカルトがあり得ないと思う程、鈴は科学至上主義ではない。が、最先端技術に満ちたIS学園で幽霊騒ぎが起きるとも思いにくい。街灯同士の間にある暗がりなので見えなかったが、光の強さからして見えたのは懐中電灯の類だろう。

 つけたままで走り去ったか、誰かに見られることを警戒して即座に消したなら、今の現象も説明がつく。

 本音は足が震えるくらいに怖いのだが、誰に張るわけでもない虚勢を張って自分を納得させる。

 だがそうすると、

 

「懐中電灯片手に夜の8時半、胡散臭すぎね。」

 

 教師なら明かりを消す理由がない。生徒なら懐中電灯を持ち歩いても、織斑先生に気づかれるかもしれないのでつける理由がない。

 後ろ暗い理由か、もしくはドジを踏んだのか。

 気になると首を突っ込みたくなるのが人の性。鈴もその例に漏れず、光が消えていった方へ追いかけた。

 

 

 

 

 遠くからかすかに聞こえる足音を頼りに、後を追う鈴。気になる足音の行き先はほどなく割れた。足音が止まり部屋の中へと入っていく姿が見えたのだ。

 その場所は、

 

「アリーナの・・・整備室?」

 

 明日自分を含めた4人が激闘を繰り広げるであろう、クラス対抗戦の会場。IS学園のアリーナに設けられた整備室だった。

 

「ますます怪しいわね。出場者の誰かを狙った妨害とか?」

 

 オリンピックやモンドグロッソでもあるまいし、学校の行事位でそこまで大袈裟なことをする人間はいまい。かぶりを振って、馬鹿らしさから一笑に付す。

 とはいえ陰謀説は笑い捨てても、気になったらとことん知りたくなる。入っていったドアへ忍び足で近づき、慎重に押し開けて中を窺う。

 夜間にもかかわらず、明るくLED電球が照らす整備室内では眼鏡をかけた少女が、鎮座したISをじっと見つめている。その少女には鈴も見覚えがあった。

 

「『更式簪』とかいったわね。四組のクラス代表で日本の代表候補生。」

 

 物々しい肩書に似合わず、先日の雑巾作りで成り行きの自己紹介をした時に、場の誰より緊張していたことが記憶に新しい。

 向けられた背中に思いつめたものを感じた鈴は、迷った挙句に彼女の肩をたたいた。

 

「こんな時間にもなって何してんのっと。」

「ひあうッ!?・・・ふぉ、凰さん。」

「お化け見たような顔しないでよ。最初はあたしがお化け出たかと思ったんだから。」

「ご、ごめんなさい。」

 

 怯えっぱなしの簪をなだめて座らせ、自分も彼女の前に座る。

 

「もう夜9時前よ。整備室に忘れものでもしたの?」

「ううん、そうじゃないの。緊張しちゃって眠れなかったから、明日は入る部屋を見たら気分が変わるかもしれないと思って。」

「理由は違うけど、私と同じね。」

「凰さん、も・・・?」

「私もいろいろ考えてたら落ち着けなくってさ。」

 

 不安げな顔で視線を固定させない簪を見ていると、緊張の仕方も人によるのね、なんて的外れな考えが浮かぶ。

そこまで話したところで、簪の後ろに控えるISが目にとまる。

 

「後ろにあるのがアンタの専用機?」

「うん、【打鉄弐式】。1週間でセシリアさんと篠ノ之さんが協力してくれたから、動けるようになったの。」

「あのポニーテールも優しいところがあるんだ。」

「織斑君の友達は…みんないい人だよ。」

 

 部屋替えで揉めて以来、篠ノ之箒とはまだちゃんと会話をすることもできていない。ウマが合わないと第一印象で受けたのもあるし、彼女もおそらくは自分と同じく一夏が好きなのだと、勘が告げているからだ。

 ふと簪を見ると、一夏の名前を出した途端に頬を赤らめ、たえず動いていた目線も落ち着きを取り戻している。

 

(私たち以外にも好かれてるの、一夏の奴。)

「ねえ・・・」

「どうしたの…?」

 

 恋のライバルがまだいたのか気になり、つい声をかける。でも、もしそうだったらとためらう声もあって、言いよどんでしまう。

 鈴がためらったそこへ、

 

「あら、お二人も夜の散歩ですの?」

「オルコットさん…こんばんは。」

「あ、金髪ロール。」

「誰が金髪ロールですって!セシリア・オルコットですわ!」

「冗談よ。アンタの髪そんなにロールになってないし。どっちかっていうとカール?」

「あら分かりますの?髪型には結構、こだわってますの。」

「髪型じゃなくて、カールおじさんみたいって意味よ。」

「誰!?」

 

 さらに整備室へ闖入者、セシリアが現れた。からかうとすぐにリアクションをしてくれるので、あまり嫌いではない。

 

「まったく、出合い頭に失礼な。」

「冗談よ、セシリアはいい反応してくれるから、からかいがいがあるわ。」

 

 ブツブツ文句を口にしながら、空いていた椅子に腰を下ろすセシリア。怒った割に帰る気は無いらしい。

 質問を中断させられたのは残念だが、ポジティブに考えればちょうどいい。一夏の周りにいる、彼に好意を抱いているのか分からない人間が二人とも揃ったのだから、ここで聞いてしまえばいいのだ。

 今度は邪魔など入れさせない。一息に聞く。

 

「簪、セシリア、アンタたちは一夏のことをどう思ってる?」

 

 言ってやった。さあ、二人はどう反応するのか。

 

「どうと言われましても・・・よい友人としか言えませんわ。」

 

 こちらは困惑顔でセシリア。本心かは分からないものの、今のところ脈無しだ。

 

「私は・・・憧れの人、かな。」

 

 問題なのは赤くした顔を隠さずに、彼への好意を言ってのける簪。今も照れた様子こそあっても、その発言した間に迷いは一切ない。一夏絡みではライバルになると予想もできる。

 努めて平静を装い、その感情が恋なのか探る。

 

「憧れの人って、一夏が?」

「私の…今の温かい日常をくれて、変わるきっかけになった人だから。私にとっての・・・ヒーローだから。」

「わたくしも彼のおかげで学園を楽しく過ごせていることには、感謝をしていますわ。彼が友人と言ってくれなかったら、今頃クラスで浮いていましたもの。」

 

 簪の心に共感したセシリアが、しみじみと同意する。かつて鈴に声をかけたときの優しさは、高校生になった今でも健在なのだ。

 簪はさらに思いのたけを吐き出す。

 

「1年前に家で問題が起きて、そこからずっと悩んでたの。親から責める眼付きで見られて…でも反抗する気力も才能の無い自分が嫌いで…学校も家もどこにも居場所なんかなかった。

 でも織斑君と友達になって、このIS学園で楽しい毎日が過ごせるようになったの。だから、織斑君に置いて行かれないように、強くなりたいって自分を変えようとも思えた。」

「倒れた私を助けてくれたときの笑顔が今も胸に焼き付いてて、ずっと心惹かれているの。」

 

 前半の鬱屈とした表情からは信じられないくらい、大切な思いを語る温かさを見せる簪。セシリアの登場時とは違って茶々を入れる空気もない。

 仕方がないので確認をとる。

 

「それがアンタの一夏に憧れる理由?」

「うん。」

 

 今聞いておいてよかった。はっきりしたが、簪は一夏のことが好きだ。今は憧れと誤解していても、彼がこれからもそばにいれば恋愛感情へと自覚していくだろう。

 それでも、

 

「そ、いい理由なんじゃない?大切にしときなさいよ。」

「ありがとう。」

 

 邪魔をしたり、間違いだとしたりはできない。彼へと抱く気持ちが同じなら、気づくまでは静かに育むべき感情である。まだ同じ土俵に立ってもいない相手を追い出すなど、とんだ卑怯者だ。

 セシリアもいずれは恋敵になる可能性はあるが、彼女にとってまだ友達だというなら、下手な刺激で今の関係を壊すこともあり得る。簪には不思議と目をかけたくなるが、セシリアはこのまま自分のペースで、成長していけばいい。

 

(なんであたしが恋愛相談みたいに分析してるのよ!邪魔した方がいいのに!)

 

 全くもってそんな必要性はないはずが、それ以前にそんなつもりで聞いたわけではないのに、二人のことを気遣ってしまっている。やはり時折、お人好しの気が出てしまう。一夏に会って得たものの一つと割り切ろう。

 部屋を出る前は自分の思いを言い出せないことに苛立ちを抱えていたのが、今は二人の思いを助けている。何をしに散歩しに来たかまるで分からない

 

(でもこれで決まりね。一夏を好きになる人がこれからも増えるかもしれないなら、あたしが先手を取らなきゃ。)

 

 邪魔はしない。だが、抜け駆けくらいは許されよう。明日、呼び出した一夏に伝えよう。

自分がこれまでどんな思いを、一夏に抱いてきたかを。

 ようやく心づもりが決まったところへ、

 

「鈴、それにセシリアと簪まで。どうしたんだ、こんな時間に?」

「なんだ、皆来ておったのではないか。」

「篠ノ之さんに、織斑君。」

「あらあら、今夜は規則違反者が多く出る日ですわね。」

 

 一夏と箒まで、さらにやってきた。

簪とセシリアに気づいて鈴を見逃すわけもなく、目線がかち合う。

 

「・・・一夏。」

「ちゃんと顔見て話すのはご無沙汰な気がするな、鈴。」

「別に・・・そんなことないわよ。」

 

 言ってやろうと決めたのに、また目をそらしてしまう。明日の予定は今日に早まるとまで前もって教えてはくれない。

 どうせ明日には言うことだ。今言わなくてもいいではないか、そう弱い心が囁きかける。

 

(駄目よ、せっかく覚悟を決めたところへ一夏が来たのに逃げてばかりじゃ!)

 

 隙あらば、後ずさろうとする心を振り捨て、一夏の眼を正面から見つめ返す。心が引いてしまわないように、大きく声を張り上げる。

 

「一夏!」

「何だ、鈴?」

 

 鈴が声を上げると予想していたように、大声にも一夏は眉ひとつ動かさない。

 それでいい。この行動は鈴の独りよがりだ。大袈裟なリアクションはいらない。静かにこの言葉を聞き届けてくれれば。

 

「あたし、あたしは一夏のこと・・・」

「青春を謳歌しているところに邪魔するが、貴様ら今が何時だと思っている。」

 

 最悪のタイミングに最悪の邪魔が入った。

 

「「「お、織斑先生。」」」

「前回の罰から1週間でまた規則破りか。少し調子に乗りすぎではないか?」

 

 見回りの鬼が目を光らせる中で、告白を敢行できるわけがない。せっかく熾きた気持ちがしぼんでいくのを感じる。

 それはそうとまた長くお説教かと身をすくめる鈴たちに、織斑先生にも声を荒げず、呆れた風な溜息を吐いただけだった。

 

「・・・もういい、大人しく寮に戻って寝ろ。明日は貴様ら全員が気にしている一戦だ。休養は十分に取っておけ。」

 

 いつものを知っている鈴たちには拍子抜けするほど簡単に、その場から解放される。寮に戻るまではついてくるという処置がされたが、あまりに軽い。

 織斑先生なりの善意なのかもしれないが、後から罰則が付け足されるわけでもないことに、むしろ不安を覚えるのだった。

 

 

 

 

 戻る道の途中、そっと一夏の後ろに忍び寄る。告白は無理だが、明日会う約束だけは取り付けておく。

 

「一夏。」

「ん?」

「明日、試合が終わったらあたしの部屋に来て。話したいことがあるから。」

「・・・分かった。でも、俺も一つ約束して欲しいことある。」

 

 一夏からも提案されることに戸惑うが、自分の要求だけ押し付けるのもおかしい。無言で先を促す。

 

「明日の試合、お互いに全力でやろう。それだけだ。」

「・・・それだけ?」

「ああ。鈴の思い詰めてることとか、俺が思うこととかはある。だけどそれを戦いには持ち込みたくないんだ。

 試合の中で俺達は個人だけじゃなく、クラスの代表だ。だからどっちかが手を抜いたり、いい加減な試合にはできない。どれだけ重要な関係にあっても、公私混同は間違いだ。」

「そう思うのはクラスの人のため?」

「それもあるし、俺は不器用だからかな。言っておかないと鈴との約束が気になって、手が緩んじまうかもしれない。」

 

 クラスの代表。今の今まで忘れていたが、この試合はクラス代表対抗戦だった。

 試合後に集中して、試合そのものはどうでもいいと思っていた。だが一夏の言う通り、2組を背負う責任を忘れてはいけない。

 転入した直後、なし崩し的に決まった役職だが、手抜きはしない方がいいだろうし、始まれば易々と負けを許す性格をしていないと鈴にも自覚がある。

 告白に加え、戦いへの決意も固めて、一夏に応じる。

 

「『試合には手を抜かない』、ね。分かった、試合はお互い本気でやるわよ。コテンパンにされても文句言わないでよね。」

「鈴こそ、負けても泣き言を言うなよ。」

 

 夜空に2つの光が駆け抜ける下、一夏と鈴は明日の健闘を誓いあう。明日の告白がどうなっても、変わらず彼と一緒にいたい。

 鈴は軽口に笑える今の関係も、得られるかもしれないさらなる未来の関係も、どちらも欲しくなる。贅沢な悩みではあっても、それだけ彼は大切な存在だった。

 

 

 

 

 鈴は1つ、真には理解していないことがある。

 織斑一夏が張り続ける『正義の味方』という夢。

 鈴を助けてくれた理由でもある、織斑一夏の原点であり根幹、そして存在理由。

 この夢の為に彼が我が身を省みない一面を持つこと、命すらも投げ出しかねないことを、まだ分かってはいなかった。

 人助けがしたくてお人好しが過ぎるだけとみている鈴は、彼の持つ危険性を判断し間違えていた。

 そしてその間違いを彼女は痛感することになる。

 

 

 

 

 時同じくして宇宙。ゆっくりとその歩みを進めていた2つの箱も、動きを見せていた。

 視界いっぱいに広がる青い星を見て、開口一番愚痴をこぼしたのは【星】だ。

 

『ようやく地球ね。ラボから長いったらないわ。』

 

 【星】が愚痴をこぼすと、たしなめる声がかかる。

 

『スペックダウンは篠ノ之博士から聞かされていた通りだ。到着時間の長さも予想できたのだし、無駄愚痴は品性を疑われるよ。』

 

 【吊るされた男】が【星】の態度を否定的に指摘する。

 相棒の声につまらなさそうに鼻を鳴らすと、【星】は別の話題を口にした。

 

『【エクシア】に乗ってる坊やと戦えばいいのよね。こっちじゃ初対面だし、ちょっとは楽しめるかも。』

『資料に記載されている通りの実力だろう?どこに楽しさを差しはさむ余地がある?』

『使命とか抜きにして戦う初めての相手だもん。未知の敵には期待したくなる、そう思わない?』

『使命でなくとも仕事だからね。わたしは君ほどに戦いへ喜びを見出さない。やれと言われたことをやるだけだ。』

 

 お堅いんだから。言葉にはしないで、【星】はそう相棒を評する。

 一度死ぬ前は使命に沿った戦いがほとんどだった【星】にとって、自分の意思で敵と戦う条件は初めてなのだ。【吊るされた男】も同じはずだが、相棒はどうにも勝利や戦闘への関心が薄い。

 【星】としても負ける戦いは好きではないので、いくら未知でもとんでもない強敵はごめんだと考えていたりもするが。

 生真面目すぎる相棒も戦う楽しみに近づけようと、水を向ける。

 

『アタシらが勝ったらしばらく自由行動らしいし、それを励みに頑張りましょうよ。』

『そうだね、本場のクラシックはぜひとも聞いてみたい。この時代ならまだ楽器演奏も楽に見られたはずだから特に。』

 

 音楽のこととなると、相棒は饒舌になる。

 まーた長くなるかな、と辟易する【星】に【吊るされた男】は話し続けた。

 

 軽快な喋り口を見せる2つの箱は、ゆっくりと地球に近づいている。邂逅の時まで、あともう少しである。




本日はここまで。
次回はすぐに鈴戦開始。箱組の登場もあって、鈴との戦いはそこまで長引かないかと。2話くらいかな。

周りがそのうち一夏を狙うかもしれないために、意を決して告白を行おうとする鈴。
鈴との約束の真の意味を考え、それでも戦いには手を抜かないと不器用な為に1つ1つを進める一夏。

周りへの危機感と周りへの責任感から行動する彼らの結末は以下に?

千冬の邪魔こそ入りましたが、今章で告白は行わせる予定。

ではまた次回

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――どうでもいい余談――

箱組の正体分かった人はいるでしょうか。名前以外の特徴を出しました。

 鈴は知らないと書きましたが、一夏の危険性を正確に把握しているのは今のところ、入試事件編を知る本音と結果を聞かされた簪のみ。
 箒も目の前でやったわけではないので、完全には理解していません。心のどこかでまさか、と思う部分があるのです。普通はあり得ないので箒や鈴の感性が正常なので当たり前。
 セシリアに至っては、一夏が生真面目な人間程度にしか見えてませんからね。

 というわけで、箱組との戦闘で一夏がまた危うい一面をのぞかせるようになります。
 ヒロインズが一夏と一緒にいたいと思うなら、知ることは必須なので。

・・・ところで鈴が名前や髪型、性格でfateの赤いのに見えてきた。なので、少し寄せていくかもです。
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