投稿の遅れた言い訳は後書きにてしますので、本編をどうぞ。
今回もかなり長いです。
静観の姿勢を崩して【ガデッサ】まで攻撃に参加してきたことで、フォーメーション抜きでも一夏の負担はさらに増していた。【ガラッゾ】しか撃ってこなかった【GNバルカン】が、2機が発射するようになったことも重なり、【エクシア】に目に見えて掠っていく攻撃が増えたためだ。
【ガラッゾ】が【GNバルカン】を撃ちつつ両手に光剣を発生させて距離を詰めると、【ガデッサ】はバルカンの射線で十字砲火できる様に機体を移動。斬りつけが弾かれて遠ざかる【ガラッゾ】を逃さずビームライフルで撃とうとする一夏に光弾を浴びせ、無理に回避行動をとらせる。
後方からの攻撃が無くなった【ガラッゾ】は素早く距離をあけ、【ガデッサ】と射線が十字に重なるように機体を移動させる。
【ガデッサ】参戦以後はこのパターンを常にとって、一夏の攻撃機会を失わせていた。
二機がかりで接近を挑まれれば一夏でも防ぎきれなかったが、一度に仕掛けてくるのは一機しかいないことがヒリングたちとの均衡を保っている。
(焦らし・・・なのかもな。攻めてくるのは一機でも、息をつく間が、ない・・・!)
【ガデッサ】がいようといまいと余裕など持ち合わせていなかった一夏だが、常に射撃と剣戟の対処に追われては得意の近距離戦にも陰りが出始める。最初は受け止めて横へ流していた剣を、勢いに押し負けて後退する場面が増える。
受け止めては逃げられ、斬ろうとすれば阻まれる、それを何度もやっているうちに一夏は息が上がっていることにようやく気が付いた。
一機だけとは違い、支援砲火が行われるようになったことで、両機が共に接近攻撃と中距離射撃を織り交ぜて攻撃できる。単純なる数の増加ではなく息の合った一撃離脱戦法に一夏は防戦一方を再度強いられるのだ。緊張が続いて動きが鈍り始めるのも仕方ないことだろう。
【GNメガランチャー】は【ガデッサ】の手に戻っている。ただ火力に任せて撃つのではなく、ビームサーベルとは逆の手に握って撃つかと見せては撃たないハッタリを交えて、さらに一夏の神経へ負担をかける。
縦と横の双方から襲う攻撃をさけるため、一撃受けただけで機体を破壊できる【GNメガランチャー】を警戒するために、神経をすり減らして苛立ちもつのった。
「一機だけでも大変だっていうのによ!」
『数の有利を生かさないのは愚の骨頂さ!一人で二機を相手取った君のミスだ!』
一夏の非難の声もどこ吹く風とばかりにリヴァイブは流して、自らバルカンを撃って近づき、斬りつけを見舞う。
当たっただけで装甲を穿つ光弾だろうと、動きを封じるだけの牽制として使われれば、一夏が恐れるようなものでもない。最低限の動作で直撃をするだろう軌道のものをかわし、肉薄したすみれ色の機体の光刃を迎え撃つ。
先に払われた【ガラッゾ】の再現をするように【エクシア】のビームサーベルで攻撃は受け流されて、無防備な背中を一夏の前に晒した。
「もらった!」
『フォーメーションF38.』
単純に数えて倍の攻撃を受け、シールドエネルギーの消耗にも焦りだしていた一夏は、リヴァイブが見せた隙を疑うことなく攻撃の機会に使う。使ってしまう。
『アタシを忘れちゃ嫌よ!』
【ガデッサ】の体を陰に接近した【ガラッゾ】が脇をすり抜け、一夏が攻撃しようとした体勢のところへと【GNビームソード】による突きを放つ。
攻めることだけに気をとられていた一夏が回避行動をとれるわけもなく、【GNビームソード】の突きは【エクシア】の顔面装甲に吸い込まれるように突き刺さる。
実体剣すら溶断する高出力のエネルギーを伴った光剣は、ビーム系統に弱い【エクシア】の装甲にとってまさしく最悪の相手だった。顔の右を狙った突きは【エクシア】の右のアイレンズと周りの装甲を苦も無く抉り、斬り飛ばす。
(メインカメラが!)
白の装甲が焼かれ、灰色をした部品やケーブルがいくつも露出したかと思うと眼下の海へと落ちていく。
一夏自身の顔は無事だがメインカメラの片方が潰されたせいで視界が一時狭まり、距離をとろうと引かせる間に付け入る隙を生む。横に並んだ2機が息を合わせてバルカンを斉射し、この戦いが始まってから最大の量の光弾が機体を叩き、シールドエネルギーの残量を減らしていく。
盾を失った【エクシア】では、ハイパーセンサーによって得た視界と片眼を頼りに壁のように迫る弾幕全てを避けながら後退するしかない。
(左眼の損傷は・・・ハイパーセンサーの信号をメインカメラの代替位置へ切り替えて補填だ。損傷部位は機体全体の10%。軽傷のも含めれば50%に近づいてる。)
【エクシア】の眼ごとメインカメラが失われたので、視覚補助の働きをしているハイパーセンサーを網膜に映る映像に差し替える。
目立った損傷個所は左肩、右眼、右脚の3か所、バルカンで穿たれた場所を加えれば数えきれない。
シールドエネルギー残量はまもなく250を割り込もうとしている。一夏のエネルギーが尽きて動けなくなったその後、敵が何をしでかすかわからない、今は意地をはっても無意味だろう。
出来るなら敵の手の内が暴けるまでは【エクシア】で戦いたかったが・・・
(もう出し惜しんでいられないか。)
「・・・お前ら、すまない。」
左手の指に【GNビームサーベル】を2本、クナイを握りこむように掴み、【GNソード】も接続部を外して握りだけを保持する。
機体の腕をバネのように捻り、限界まで達したところで敵目掛けて投げつけた。
『む!』
『こんな程度で!』
3つの飛ばした斬撃は【ガデッサ】・【ガラッゾ】、どちらにも損傷を与えることなく蹴り落とされるか斬って弾かれた。
海に落ちていく剣たちを悼むも、彼らを犠牲に稼いだこの時間を無為にしたりはしない。
「【アストレア】!」
光に包まれた【エクシア】の装甲が変わっていく。青赤白の三色だった機体は白一色の装いへと、スピードを出すために削ってあった箇所にも装甲が復活して、マルチスタイルの中庸型に似合った釣り合いの取れた姿へと変わる。
光が消え去ると、【エクシア】と損傷箇所こそそのままだが雰囲気も得意距離もまるで異なる、【ガンダムアストレア】がその場に立っていた。失われたアイレンズの存在した場所は赤い非常用ランプが代替品として点灯している。
凄絶な攻撃にさらされ、傷つけられてもなお威風堂々と立つその在り方はただのISにとどまらず、中世の頃に主君と名誉のために身を散らせていた騎士を彷彿とさせた。
『出たか【白騎士】。いや・・・【ガンダムアストレア】』
『つぎはぎだらけのイオリア計画のはみ出し者。よりにもよって何でコイツを兎女も選んだんだか。』
『性能に大きな開きが無い分、武器の数と種類では【エクシア】より手強い。気を引き締めてかかるよ。』
『あいさー。』
◇
――IS学園 アリーナ控室――
〈リボンズが操作するしばらく前〉
「動け!動けと言っているのだ!大切な時になぜ動かん!」
箒はアリーナにある控室の一室で【打鉄】を起動させようと奮闘していた。教師たちが現在起動させるために取り組んでいる保管庫のものとは別だ。
この【打鉄】は教師たちのところから盗んだのではなく、箒がまた自主練習や一夏との鍛錬のためにあらかじめ学園から借りていたものだ。それが備品貸し出し扱いのために教師たちも保有機体から盗まれたわけでもなく、記録上は全機保管してあるように見えるなどの条件が重なって箒が借りた機体は見落とされていた。
だがこの機体にも当然システムロックがかけられてあるので動かせない。解析機も持たない箒は待機状態のISに触って、どこかから解除できないかと模索している。
「急がねば、急がねばならんのだ!一夏に何かが起こる前に!」
形の無い衝動に突き動かされるように箒が訴えかけても、機械でしかないISは沈黙して返答しない。負けん気の強い箒はそのことにもめげず、動かせる道を探す。
◇
「・・・。」
やや泣きそうにもなりつつ控室の中で動いている箒を、セシリアはドアの影から見守っていた。ここまでついてきたが、箒の必死さには割って入ることのできないものがあって、見ているだけしかできなかったのだ。
だが同時にセシリアにも焦りはある。学園のISが全機起動不能になったことで、教師に全てを託そうという考えはもうありえず、時間がセシリアに行くか行かないかの決断を迫る。
(わたくしも・・・でももし国際問題にでもなったら・・・)
セシリアだって一夏を見殺しにはしたくない。僅かでも勝率を上げられるのは学園の専用機持ち、一夏の友人である自分たちしかいないことも重々承知だ。その上でも、行動の結果に伴うマイナスな考えから足を踏み出せずにいた。
それにしても―――
「ISが動かなくなるなんて一体どこの誰が。」
「今そんなこと重要じゃないでしょ。」
「!」
無警戒だった背中に掛けられた声に驚いて飛びあがる。慄きながら振り返るとそこにいたのは、
「凰さん。」
「学園のISと違って専用機持ちの機体は動くわ。あんたのも確認したんでしょ?」
分かりきったことを聞かれて、セシリアの耳のイヤリングが「呼んだ?」と言いたげにチリンと揺れた。
凰に言われなくても、セシリアも学園のISに起きた異常を聞いた際に【ブルー・ティアーズ】を動かせるか試してみてある。結果はもちろん何の問題もなく動かせる。
「・・・貴女はなぜここに?」
「アリーナの中に戻る道が使えなくて、鍵の開いてる控室を探してたのよ。そしたらどこからか騒がしい音が聞こえてきたから、近づいてみたってわけ。ドアを破壊して始末書欠かされるのもヤだしね。」
「・・・どうしますのよ? 一夏さんを追いかけるつもりですの?」
「当たり前じゃない。」
何を当たり前のことを聞いているのかと、当然のように語る凰はセシリアにとって理解しがたかった。
「IS学園の外でのIS使用は条約違反ですわ。まして私たちのような代表候補生がやれば、本国送還までありえますのよ。」
「それが何よ。条約とか送還とか、あたしの知ったことじゃないわ。一夏があたしを置いて行ったんだから、追うのはあたしの自由よ。」
「簡単に決められますのね。羨ましいですわ。」
「アンタこそ行かないの? 昨日、一夏のこと良い友人だって言ってたのに」
「行きたいですわよ!
・・・でも、怖いのですわ。もし追いかけたことが問題になって、学園を去らなくてはいけなくなったらと思うと。」
「それで一夏の後を追うのが怖くてじっとしてた?」
「・・・」
返答は無言でしか返せなかった。
日本で出来た初の友人とその仲間たちで過ごした時間がセシリアには大切なものだった。
遺産絡みで身に付けたハリネズミの針のような警戒心を、解きほぐして過ごせたこの日々から離れるのは酷く恐ろしい。もちろんイギリスにも友人はいて、生まれて以来の付き合いである本邸の召使いたちもいる。離れるなんて言ってみても、時を置けばまた来日もできるだろう。
そう頭で理解していても、踏み出すのをためらうくらいには今の関係が好きだったのだ。
「ならここでずっと待ってれば?」
「っ・・・」
「後押しがほしいんだったら他の人に頼んで。そんなことしてられるほど、あたしだって暇じゃない。」
突き放す言葉でセシリアは芯が揺さぶられた。図星だった。
家の全てを渡せない。だから今回は何もできない。教師に任せておけばいい。
どの理由も鈴に指摘された言葉の前では砂上の楼閣のように希薄に思えた。
(誰かに背中を押して欲しかったんですのね・・・。友人を助けに行くかどうかも決められない、なんて・・・情けない。)
「・・・黙ってないで、自分のことなら自分で決めなさいよ。あんただって誰かに人生任せて生きてきたんじゃないでしょうが。」
何も言い返さないセシリアを不審に思った鈴がそう付け足す。
(わたくしの人生は・・・自分で選んできたもの。遺産も家督も親族たちに盗まれてはならないと、確かに選んできたものですわ。
なら、一夏さんを追うのを選ぶのも自分。それは分かっていますの、それでも。)
「凰さんは耐えられますの? 一夏さんを助けに行く代わりに離れることになっても。」
「生きてればまた会えるわよ。あたしは離れたって、意地でも会いに行ってやるわ。」
〈離れたって〉
意味を問いただすことでもない凰の一節が妙に頭に残った。稲妻にも似た閃きが頭をよぎって手で押さえながら反芻する。
(どこかで聞いたような・・・でも記憶に残るようなことは・・・)
誰かに言われた、記憶を掘り返せ。
どこだ、どこかでこの言葉と似たようなことを言われた気がする。一夏や篠ノ之箒、簪や本音と話している場面ではない。話したことではないのだ。
あれはそう、簪が外出して不在だった日、覚えのないセシリアと一夏の別れの夢を見た日の朝だ。朝日が差し込む微睡みの中に耳へ残った言葉、それは―――
『あなたは彼のこと、離さないでね。』
そう誰かが耳元に遺した言葉だ。
埋もれていた記憶の言葉がくっきりと思いだされたことで、迷っていたものがほどけた。あの声の主の正体は定かでなく、何を思って告げていたのかも推測するしかできない。それでもあの声には、セシリアの迷いを断ち切らせるだけの感情がこもっていた。
「行きますわ。いえ、行かなくてはなりませんの。」
「どういう風の吹きまわし? さっきまで行きたがってなかったのに。」
「今行かないと何かが終わってしまう、そんな気がしますのよ。」
「・・・よくわかんないけど好きにすれば? あたしはあたしで勝手にやるから。」
そして2人揃って、言い合っている間に閉まっていた控室の扉に手をかける。ここからアリーナにつながる発進口を経由して、上部に開けられたシールドの穴を抜けて後を追えばいい。
1つ、問題としては控室の篠ノ之箒だ。
「箒さんをどう切り抜けるかですわね。あの執心ぶりからしてISが使えなくてもついていくと言い出しかねませんわよ。」
「・・・一夏ってば、ホントにいろんな女の子から好かれてるわね。聞き分けないなら、気絶させればいいでしょ。」
鈴がガチャリ、と音を立ててノブが回したと同時に控室の中から光がさく裂した。
腕をかざして視界を確保すると、室内の様子が少しずつ輪郭を見せるようになった。
『データ認識完了。「バイオメトリクスNo.2 篠ノ之箒」の接触により、当ISに設定されたシステムロックを解除します。続いて通常起動モードにて【打鉄】を初期起動。武装、シールドエネルギー及び推進部各位の設定は初期化されます。』
「む、むう・・・、何が起こった?」
そう機械音声を発する【打鉄】と、何が起きたかわからないと言った顔の箒が立っていた。
「し、篠ノ之さん、あなたどうやって【打鉄】を!?」
「動かないんじゃなかったの?」
「貴様ら、いつからそこにいた!?」
あまりの出来事に驚いた二人が部屋になだれ込み、教師に気づかれてはいけないと我に返った3人が扉を閉めるまでまさしく姦しいとしか言えない状況になった。
◇ 閑話休題
お互いに噛み合わない会話でしばらく時間はかかったものの、ISは動き、戦力として数えられると考えられた箒はセシリアと鈴の二人と共にIS学園から、簪よりしばらく遅れて一夏の元へと飛び立った。
やはり何者かから届いたメールによる位置情報を元にして。
◇
(一機、これで仕留める!)
「来い!」
新しい武装を警戒して動こうとしない【ガデッサ】、【ガラッゾ】を警戒しながら、【プロトGNハンドミサイルユニット】を呼び、煙幕弾を撃つ。セシリア戦を再現するように立ち込めた白煙は一夏との間にとどまらず、リヴァイブとヒリングの間の視界も封じた。
『煙幕とは古い手を!』
おそらくはリヴァイブが悪態をついた時には【プロトGNビームサーベル】を抜き、煙の中へと勘を頼りに飛び込んでいる。
白い海を切り裂いて光弾が次々飛来して【アストレア】をかすめる。だが狙いが定まってもいない弾に当たるほど一夏も愚鈍ではなく、最小限の動きでそれらをかわし切ると、発射源を定めて光刃を振り下ろした。
「うおおぉぉぉぉ!」
「くッ!」
気軽に一撃は与えられず、【ガデッサ】の抜いていた【GNビームサーベル】に切り裂く前に止められた。
『私とヒリングを分断するのは悪くないが・・・馬鹿正直に斬りつけても受けはしない!』
「知ってるよ!」
斬りつけだけで終わらず、逆の手ですかさず胴に向けてブローをたたき込む。ビームサーベルもない、クローもない素手のまま殴るとは思っていなかったのか、拳は胴に命中した。
だがそれだけだ。いくら綺麗に当たっても素手の殴りが大ダメージになる上手い話は無い。
『武器も持たず殴るとは【甲龍】の少女と同じか。せっかくの機体を変えてまで作ったチャンスにつまらないミスをした。』
【ガデッサ】も空いていた手を貫手の形に揃えて、【アストレア】の胸に狙いを定めた。今にも動こうとしたところで、その手は止められることになった。
「俺じゃない―――」
1m前も見えない白煙と光刃の接触で生まれた火花、今のリヴァイブはほとんど目が見えていないも同然だった。大仰に何かを取り出したわけでもないところから、素手で殴ってきたと判断してしまった。
だから見落とした。
【アストレア】の腕にはまだ【プロトGNハンドミサイルユニット】が残っていたことを。
「ミスをしたのはお前だ!」
『!? 馬鹿な!』
拳以外が当たっている感触に危機感を感じて【ガデッサ】が離れようとするが、一夏の判断の方が一歩上回った。
【プロトGNハンドミサイルユニット】が【ガデッサ】に押し付けられたまま発射される。ただし中身は白煙ではなく火薬。ゼロ距離で炸裂した爆炎と爆圧が容赦なく機体を叩いて炎の暴力が殴りつける。新品さながらだったすみれ色の装甲がミサイルの直撃した胴を中心に、見る影もなくひび割れ砕かれて傷だらけにされていく。
だが【アストレア】もその爆発に無関係ではいられない。装備したままだった【プロトGNハンドミサイルユニット】は対象と距離が近すぎたせいで爆炎が発射管にまで逆流し、発射されていないものまで含めた大爆発を起こした。
取り付けていた右腕が炎に包まれ、遮断しきれなかった熱が一夏の腕までじかに魔の手を伸ばす。
「ぐうぅぅぅ! ―――痛いよな、やっぱり!」
『自分をまきこむなど、愚かな攻撃を!』
「それでも勝たなくちゃいけないんだ!」
内部ごと激しく揺さぶる攻撃で【ガデッサ】の動きが鈍くなったのを見て、視界も一時的に塞ごうと頭を蹴りつけた。アイレンズは砕けなかったが、クリーンヒットした蹴りの勢いで白煙の彼方へと機体は飛び去った。
「これで少しは時間が稼げるだろ。・・・今の間に【ガラッゾ】を!」
さらに頭を襲う痛みを熱から来る頭痛だと錯覚して、一夏は近くにいるはずの【ガラッゾ】を更に探す。
◇
『リヴァイブ、リヴァイブ? 姿変わったと思ったら得意レンジまでコロッと変わりすぎでしょ?』
『・・・』
『反応なしっと。各個撃破に切り替えようとするだけの冷静さは残してたのね。』
顔と肩と足を少しづつ削られて進退窮まった一夏なら決着を焦るかもしれないと見たのだが見事に読み違えてしまった。この視界の利かない中でもはっきり見えた爆発光から察するに、機体が破壊されたかそれに準じるダメージを生むようなことが起きたのだろう。
そして通信に応えないという事はリヴァイブがやられたのだ。
(落とされてなくても意識がブラックアウトするくらいはしてるかしら。やっぱこの中から早く出るべきだったわね。)
白煙の中にあって攻撃をしなかったヒリングだが、静観を決め込もうとしたわけでも、降伏する気になったわけでもない。
ただ辺りに煙が満ちてからヒリングとリヴァイブの間に異常が起こっていた。
(―――脳量子波が途切れて量子通信が出来ない。この煙、ただの煙じゃないわね。)
それまで晴れた青空のように良好だった脳量子波による通信の方がジャミングでもかかったようにノイズが飛び交って、まるで会話をすることが出来ないのだ。
(あの坊やが脳量子波通信のことまで知るはずないし、兎女が煙幕弾にGN粒子でも仕込んだってとこね。細かい所で性格の悪さがにじみ出てるのよ。)
ここまでの連携は脳量子波で息を合わせていたのと、リヴァイブに命中させてしまうのを恐れて、ヒリングは周りに攻撃をすることが出来なかった。リヴァイブからは攻撃が飛んできてもしのぐ手段があるので気にならないが、いずれにしても面倒な状況である。
(坊やは何処から来る・・・?)
数の有利が無くなり、機動性の差も視界が確保できないせいで薄れている。気を抜いたその瞬間に自分たちの撃破を成し遂げるだろう、とヒリングたちはみていた。
あの(・・)【アストレア】なら。
(正々堂々にこだわるお馬鹿なら楽なのに。)
脳裏に青いガンダムマイスターの姿が浮かんだような気がしたが、雑念として振り払う。
『・・・っと来たわね!』
眼前の煙が薄い赤色に色づく。光刃から発せられた光で白煙が明るくなったのだと理解した次の瞬間には、【プロトGNビームサーベル】が【ガラッゾ】の頭部めがけて突き出されていた。
焦ることなく左手の【GNビームソード】でいなし、右手を奥から現れた【アストレア】へとカウンターとして振り下ろす。
しかしヒリングの反撃もまた読まれていた。【アストレア】は【ガラッゾ】が指先から出力したビームサーベルよりさらに腕を内側に差し入れ、袈裟懸けに斬り下ろすのを防ぐ。
『隠れて弱いものらしく攻撃した方が得策だったんじゃない!』
「お前らと違って勝ち方を選ぶ余裕はない!」
何度もやった力比べの繰り返しだ。初手の勢いが死んだ【アストレア】では【ガラッゾ】のパワーには及ばない。が、ドライヴが加速してエンジンの出力が上がるように力を上げようとしたところで、【ガラッゾ】の右頭にゴンという鈍い音を立てて何かがぶつかる。
『はあ?』
気を入れていたのを邪魔され、不機嫌になりながらも首を傾けてその音の方を向くと、それまでの白とは違って、四角い暗い空間が口を開けている。
ホントに何よこれ、とヒリングがいぶかしむと同時に暗い空間の奥に光が溜まり始める。
そこに至ってようやくヒリングは目の前の物体の正体に気が付いた。
これは【プロトGNバズーカ】の砲口だ。(・・・・・・・・・・)
『まずっ!』
その正体に気づいたヒリングが身を離そうとする頃には発射に十分な粒子が砲口の奥に充填され、漏れ出しそうになった光と共に砲口が正確に【ガラッゾ】の胴に狙いがつけられている。
(聞いていたデータより溜まるのが早い!)
ヒリングも両手の【GNビームサーベル】を消し、【アストレア】を蹴り飛ばすことで何とか【プロトGNバズーカ】の射線を自機からずらそうとする。
「逃がさねえ!」
だが一夏もその傾きを修正し、既に充填の終えた【プロトGNバズーカ】のトリガーを引いた。
砲口から飛び出た粒子ビームは星を喰らう大蛇のごとく巨大な咢を開けて【ガラッゾ】へと殺到する。
おのずと近距離武器しか使えない距離と【ガラッゾ】一機をまるまる呑み込んでもなお余裕のある攻撃範囲の粒子ビーム。
ヒリングにかわすことは出来なかった。
◇
【ガラッゾ】がついさっきまでいた空間を極太の粒子ビームが駆け抜け、白煙が再び一夏の視界を制限する。鈴・リヴァイブ・ヒリングの三連戦と5分もかけない奇襲の疲労で、【ガラッゾ】の結果を確認するよりも先に体から力が抜ける。
「はぁ・・・はぁ・・・。ははは・・・ボロボロだな、俺も【アストレア】も。」
犠牲にした左腕がスパークまで出している。無理をさせ過ぎたが後悔はしていない。
肘が度重なる疲労で機能を停止しかけていたところにミサイル爆破のダメージまで追加されたので、装甲は崩れ落ちて指先と肩は何とかまだ動くが、剣を振るうことは出来なくなっていた。
さらに一夏自身の腕も激痛を発している。物理ダメージこそ遮断するシールドエネルギーも体に密着した爆発の熱は防げなかったらしい。ISを解除すれば大やけどしているかもしれない。
「だけど・・・これで【ガラッゾ】は倒せた。・・・あとは【ガデッサ】を・・・」
【プロトGNバズーカ】の粒子充填時間の短縮にこの1カ月で成功していたのが救いだった。それでも30秒近くかかるが、セシリアと戦った直後のチャージに1分もかかる欠陥品のままだったら撃つ前に破壊されていたので文句は言えない。
だが、【ガデッサ】を探そうと振りむこうとした一夏を衝撃が襲う。
『勝手に勝ったと思われちゃ心外だわ。』
「何っ!?」
【ガラッゾ】は粒子ビームが奔ったところを数歩下がっただけで、まだそこにいた。
両手を×の字を描くように交差させ、機体全身を薄緑をした粒子が球状に覆っている。原理は不明だが、あの粒子壁が【プロトGNバズーカ】の攻撃をすべて防いだという事か。
『坊やも惜しかったわ。先にアタシを狙ってたらリヴァイブは落とせてたのに。』
「・・・何だよ、その壁は?」
『【GNフィールド】。粒子消費量が激しくってゴツイ機体じゃないと使用制限があるんだけど、【ガラッゾ】はそれを使える数少ない機体なわけよ。
その驚きっぷりからすると坊やはまだ使えないのね。』
俺がまだ使えないと言えるのは【アストレア】の変形バリエーションの中に、【GNフィールド】を使う機体がいるのを知っているのか。
だが一先ずそこはどうでもいい。
【プロトGNバズーカ】は俺の最大の攻撃だ。後は【プロトGNランチャー】があるが、威力に大差はない。そしてそれを防げるという事は俺の攻撃が一切通用しないというのと同義だ。
展開したまま攻撃はできないなら近距離戦に持ち込むしかないが、今の【アストレア】は近距離戦でも後れを取りそうなほどに傷ついている。
近距離戦は機能が劣っていて、遠距離戦は武器はすべて無効化される。
万事休すというほかない。
(まだだ、まだ手はある! こうなったらもう一度ミサイルをユニットごと・・・いや【プロトGNバズーカ】でも同じようなことは―――!)
『驚きは分かるが視野狭窄に陥っているぞ、少年。』
「あぐっ・・・!」
後ろから首を掴まれ締め上げられる。
(息が・・・ち・・・くしょ)
万力のごとく締め付ける力に軌道を塞がれて意識が遠のく。おぼろげに景色が形を失い、薄れていく意識の中で首を掴むのが【ガデッサ】だと気づく。
炎が襲った装甲は何処も傷だらけで、腹部は特に装甲が砕けている。効いていなかったわけではないようだが、やはり倒せるほどのダメージにはなっていなかった。
『一人でイノベイター二人を前によく持ちこたえた。賞賛に値する。』
『久しぶりに楽しめてよかったわ。』
『後は気にせず気絶していると良い。学園の人間にも危害は加えない。』
そんなことを言われようと慰めにはならない。
俺が戦うと決めたのは褒められたいからじゃない、正義の味方である自分が自分であり続けるためにだ。そのために勝たなければ、勝ち続けなければならない。
負けてしまったら、正義の味方でなくなったら、織斑一夏という存在は意義を持たなくなる。
(負けちま・・・う・・・のかよ、こんな・・・ところで。なにも・・・できずに。ごめん・・・みんな—――)
無念の思いを抱きながら意識を失いそうになったとき、頭に凶暴な声が届いた、そんな気がした。
(やれやれだ。手のかかる相棒は一人だけで足りてんだが・・・しぶとい奴は嫌いじゃねえ。・・・なにより相手があの野郎なんだ。俺が先でもいいよなぁ。なぁ、アレルヤ?)
◇
そして【アストレア】内部のコンピュータに【エクシア】に続き新たな英記号が現れる。
『
『
『
『
◇
だが上書きと共に機体が光に包まれるより早く、新たな変化が戦場に起こった。
【ガデッサ】が【アストレア】を掴んでいた手を離して距離をとり、【ガラッゾ】も同じく飛び退いた。
「ごほっごほっ・・・何だ、どうしていきなり・・・」
確保された空気に咳き込んでむせる一夏が、何が起こったかを確認すると、一夏の周囲を銃弾が通過する。
光は消えいるように薄れて、一夏が気づくことはなかった。
さて、一夏ではなく、リヴァイブ達を狙った射撃。
それが意味するところはただ一つ。
「織斑君はやらせない!」
鈍色の機体【打鉄弐式】の操縦者『更式簪』が両手のマシンガンで牽制しながら接近してきていた。
「かん・・・ざし。何で来ちまったんだ。」
それは一夏にとって必要な、されど望んではいなかった援軍の到着だった。
ついに簪到着。次回から簪も参戦します。
これだけ長くなったのも、本当は2,3話分に分けようと思ったのをまとめたからなんですね。でもあんまり途切れ途切れで話が動かないのもあれかと思って一括にしました。
設定の投稿についてはもうしばらくお待ちを。
鈴編も簪の参戦は出来たのでここから決着に向けて一気に動こうと思います。もうそんなに引っ張るつもりはないので。
その後は幕間を数話挟んで、シャル&ラウラ編に入ります。
では今回はこの辺で。
感想・質問・評価、何でもよろしくお願いします。
――どうでもいい余談――
テスト期間中で全くパソコンに触れませんでした。遅れてすいません。
期間は空けてもエタりはしないので、これからもよろしくお願いします。