IS×00 夢を目指す者   作:王天君

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これにて戦闘終わり。

次回で最後に起きたあることの処遇と鈴の気持ちについて1つの区切りは付けます。うやむやにしてもよくないので。



第二十九話 決着後編 いつか辿り着く場所

「ははははは、はーっははは! 当たらねぇ、当たらねぇぞ!」

『コイツ、墜ちろってのよ!』

 

 苛立ち紛れが明らかな【ガラッゾ】からGNバルカンの雨が放たれる。

 自分を殺した相手が目の前にいては余裕も持てないらしい。

 ハッ、とその狼狽ぶりを鼻で笑い飛ばして、ハレルヤは機体を変形させる。背中からせり上がった三角形が頭部をすっぽりと覆って、脚と腕を短く折り畳む。【GNビームサブマシンガン】と【GNシールド】は両腕から離れて取り回しよくくっついた。

 やや複雑な変形を遂げた【ガンダムキュリオス】は飛行機としか見えない姿、飛行形態になった。

 面となって迫るバルカンの弾幕、【アストレア】ではシールドの影でやり過ごした光のシャワーを飛行形態の【キュリオス】が掻い潜る。上昇、蛇行、下降、規則不規則入り乱れた飛び方に一発でも機体を抉る弾丸はまるで当たらない。

 機首の【GNビームサブマシンガン】を棒立ちの【ガラッゾ】へと向けて、お返しとばかりに連射してやる。

 こちらはGNフィールドで防がれ、粒子ビームはことごとく彼方へと飛び去った。

 

「防いでばっかりか、少しはかわして見せろや!」

 

 GNフィールドを張るために途切れた攻撃の合間に、急接近した【キュリオス】が飛行形態からMS形態に変形、GNシールドの尖った部分をフィールドに突きたてる。

 その壁は壊せないと思うか?

 守ってれば安心か?

 どうやら殺された時はかわし切れずに攻撃を受け続けたことから負けたと考えて、こちらの攻撃はすべて防ごうとしているようだ。

 【エクシア】の物とも違って、【キュリオス】のGNシールドに殺傷能力は無い。GNフィールドも貫くことは叶わない。

 だが飛行形態で得たエネルギーも加えたこの速度ならば!

 

「壁ってのは壊れるためにあんだよ!」

 

 先端が粒子の壁に潜り込み始め、着実に絶対と思われた防壁に穴が開けられていく。

 無理やり開けたスペースに【GNビームサブマシンガン】を突っ込み、【ガラッゾ】のバイザーから数センチで引き金を引いた。

 粒子壁であるGNフィールドはかなりの防御力を誇るが、その代わり機体までの距離はそこまで遠くない。そのためフィールドを突破すれば攻撃はほぼ必中になる。

 

「こんな風によぉ!」

『ぎぃ・・・ああああ!』

 

 【キュリオス】のものになった【GNビームサブマシンガン】は、威力も精度も不足していた【プロトGNビームサブマシンガン】とは違う。

 放たれたビームは【ガラッゾ】の装甲を食い破り、小さいながら弾痕を次々と穿つ。もっともこの距離であれば性能差は大きな違いを生まなかっただろう。

 ピラニアのような凶暴さで機体に食らいつくビームをかわすために、たまらずGNフィールドを解除して機体を動かした。

 逃がすかよ、と追撃をかけるために【GNビームサブマシンガン】を構え直す【キュリオス】へと、【ガラッゾ】の方から右腕の【GNビームサーベル】を生み出すとともに突き出した。

 そのまま進めば【GNビームサーベル】は【キュリオス】の胴を貫いただろう。

 

(これはあれか? 1瞬の隙をついたって言いたいわけか?)

 

 だがそうはならなかった。

 彼の目には(一夏の目を通しているので正確には一夏の目にはだが)、その一挙手一投足まで鈍く退屈なものに映る。ゆえにかわすのも驚くほど簡単だ。

 

(回避を――)

(するまでもねぇ!)

 

 ハレルヤの【キュリオス】を完全に制御した段違いの操縦技術に口を閉ざしていた一夏が思わず声を出したが一言で黙らせる。

 【GNシールド】に縦向きに1本の線が入ったかと思うと、パカリと先端が2つに割れる。シールドから両爪(クロー)モードに変わった【GNシールド】は尖った2つの先端部でその右腕を挟み貫く。

 

「狩る側は俺だ。」

 

 貫いた腕を軸に攻撃を回避した【キュリオス】はさらに【GNシールド】を動かす。

 分かれたシールドクローの間からレイピア、あるいはニードルとも言えるほどに小さな剣が生え、3方目から貫いた。

 エネルギーの行き場を無くしたビームサーベル発振器が暴発して指先が爆ぜる。

 そして【ガラッゾ】の腕を固定したまま体をひねり、顔を守るバイザーもろともに蹴りを入れ、GNシールドを同時に引くことで【ガラッゾ】の右腕を肩の付け根からもぎ取った。

 

「獲物らしく逃げることだけ考えな!」

 

 スピードが上昇した代わりにパワーが落ちた【キュリオス】でも、押し合い引き合いでないならその活躍にはいささかの翳りも生まれていない。

 蹴られた勢いのままに飛んでいく【ガラッゾ】を追尾、再びグレーの機体に粒子ビームを連射する。奪った右腕に【GNフィールド】の発生装置も組み込まれていたようで、防御姿勢をとることなく回避行動に徹している。

 逆に攻撃の切れ目を見つけたのか、左腕だけにビームサーベルを展開して粒子ビームの中をかいくぐり飛び掛かってきた。

 シールドで斬撃を受け止めるも、ここで疲労がピークに達した左腕が肘から先に小さくスパークを上げて動かなくなった。

 

「ちっ、無茶な使い方しやがってよ。」

(お前が言うな!)

『もらったあっ!』

 

 異常に反応して生まれた停滞

 ヒリングはビームサーベルを【キュリオス】に向けて突き出す。シールドを使えない窮地でも、ハレルヤは再び素早く行動した。

 【GNビームサブマシンガン】を腰にマウント、動かない左手を空いた右手で掴んで力任せに引きちぎる。

 脆くなっていた肘がケーブルやコードがブチブチと音をさせながらちぎれ、一夏の右腕が【キュリオス】の付け根から出てしまうが、構うことなくちぎった腕と装備した【GNシールド】ごと【ガラッゾ】の顔を殴りつけた。

 一度二度にとどまらず何度も何度もたたきつけ、砕かれたバイザーの奥からガンダムフェイスが顔を覗かせる。

 

「資源の有効活用だ!大事だよなぁ!ははははは!」

 

 殴打に耐え切れなくなった左腕がいくつものパーツや部品に変わって空に散華する。腕の残骸からシールドを取り外し、右腕に装備し直すと【GNシールドニードル】で失神したと思しき【ガラッゾ】を串刺しにしようと突きたてた。

 ハレルヤにとっては必勝を確信していたのだが、予想に反して攻撃は空を斬る。

 

(今のは・・・)

「はん、トランザムかよ。人様の能力パクってよく恥ずかしげもなく使えるぜ。」

 

 手負いの有り様で遠ざかろうとする【ガラッゾ】が赤く発光しているのを見てもハレルヤにはやっと殺し甲斐が増えたか、位にしか思えなかった。

 

 

 

 

「せああああ!」

「うおりゃあああ!」

『子どもながらよく動く!』

 

 【ガデッサ】が【甲龍】のクローと【打鉄】のブレードをビームサーベルで受け流して、【GNメガランチャー】で追い払う。

 太い粒子ビームを避けた2機にバルカンでさらに攻撃を重ねようとしたするも、その攻撃は機体を襲ったビームに中断させられる。

 

『ちっ!』

 

 撃たれたビームに反応してバルカンをそちらに向けても、パッとその地点から攻撃した物体は飛び去り、無駄弾に終わる。

 【ガデッサ】の機先を制したのはセシリアの【ブルー・ティアーズ】が誇るビット兵器【ブルー・ティアーズ】(以下【ティアーズ】に統一)だ。

 5機の入り乱れる激戦の最中でセシリアは後衛に回っている。理由は至極単純で【インターセプター】を除いて近距離で使える武器がなく、その扱いも残り3人に追いつかない自分の限界を察していたからだ。

 必然、最も戦場を俯瞰的に見られる位置にいられることから司令塔の真似事もやっている。

 

「行きなさい【ティアーズ】!」

 

 常に四方に陣取った【ティアーズ】が【ガデッサ】が進めば進んだ分だけ、引けば引いた分だけ移動して先手を封じるためにビームを放つ。

 一夏を追いつめたときとは異なって6基の【ティアーズ】操作に集中した今のセシリアには、4機に意識を分散させる【ガデッサ】を狙うのは空を飛ぶ鳥に当てるより簡単。

 移動を諦め、その場で手足を動かしてビームをかわそうとした【ガデッサ】へと白煙をたなびかせてミサイルが2つ迫る。バルカンでこれを撃ち落としたが、ミサイルの爆炎に紛れて放たれたビームが右肩の大型GN粒子コンデンサーを射抜く。

 

『コンデンサーが・・・それでも―――!』

 

 肩から白煙を上げても動きの衰えない【ガデッサ】へ、【甲龍】と【打鉄】が得物を手に再接近して斬りつけ、抉りかかった。

 【葵】をビームサーベルで止め、【甲龍】のクローは大型ビーム砲を横薙ぎにしてさばこうとするが、一門だけになった衝撃砲が大型ビーム砲に命中。空いたガードをすり抜けて脇腹を深く抉る。

 

『まだ――まだだ!』

 

 学園で一夏と鈴の二人を追いつめて落ち着き払っていたのはどこへやら、言葉尻に焦燥感が出てきたのをセシリアは感じ取っていた。

 数m前で中衛をこなして、マシンガンで銃弾をみまう簪に声をかける。

 

「簪さん、お話しされていた対抗戦用の切り札は完成していますの?」

『うん…大丈夫。1発なら…最大出力で撃てるように…調整が出来てるから。』

「・・・つまり2度目はありませんのね。

 わたくしの【五重奏(クインテット)】か、貴女のが今撃てる中では最大の攻撃力ですわ。

 前のお二人次第ですけど、フォローにわたくしが集中している今は貴女が攻撃の要。隙は作ってみせますから頼みますわよ。」

『任せて。』

 

 通信機から聞こえた声が思いのほか、気の入ったものであるのには驚いた。これなら後詰めを任せておける。セシリア達より早く戦場に到着していた理由なども気になるが、敵を前にしてやるようなことでもないので聞かないでおいた。

 視線を戦場に戻すと、【甲龍】と【打鉄】の2機に押された【ガデッサ】が後方に弾かれていた。マシンガンと衝撃砲によって追い立てられたのを逃さず、【ティアーズ】にも角度無制限の射撃を敢行させる。

 肩を損傷したことでバランスを崩し、銃弾や衝撃で滅多打ちにされた【ガデッサ】には被弾箇所が増え、黒ずんでボロボロの機体はいよいよ崩壊一歩手前のところまでになっている。バルカンで反撃こそしているが、それも消え入りそうなほどに弱弱しい。

 

(後は簪さんに・・・)

 

 勝ち算段をつけたセシリアだったが、彼女が考えていた通りに余裕は脆くも裏切られた。

 

『大人げないが、私も負けず嫌いでね―――トランザム!』

 

 【ガデッサ】の全身が赤く染まる。

 傷ついてひび割れた全身のいたるところから粒子がこぼれ出し、特に爆発を起こした肩からは奔流と言っても過言でない程のGN粒子があふれ出る。

 それまでの手負いの獣のような動きが嘘のように、跳ね上がった速度で3機からの攻撃の全てをかわし切る。反撃のバルカンも数と威力を増やして前衛の2機を襲った。

 

「鈴さん、篠ノ之さん!」

 

 防御姿勢をとった【甲龍】と【打鉄】がシールドエネルギーと装甲を削られているのを見て、【ティアーズ】を援護に向かわせる。

 先ほどは着弾を許した【ガデッサ】はビームを喰らうことなく、逆にその物量でもって死角に回ろうとしたミサイル搭載型の【ティアーズ】1機を破壊した。

 さらに流れるような動作で片手に構えたメガランチャーを発射。トランザム化で巨大になった粒子ビームを薙ぎ払う。

 射線上にいた2基の【ティアーズ】が巻き込まれ、数秒耐えたものの爆発する。

 

「【ティアーズ】が!?」

 

 遠距離に退避させた【ティアーズ】で牽制射撃を放ったが、空を泳ぐように動く機体には一発も当たらない。

 粒子ビームの猛射で損傷した【甲龍】と【打鉄】は機体各部が大きく削られているが、ぞのどちらにも構うことなく、セシリアの元へとビームサーベルと大型粒子ビーム砲を手に突貫してくる。

 

「【インターセプター】!」

 

 不慣れを押してブレードを抜き、凶暴な勢いを誇るビームサーベルを受け止めた。

 

『アテが外れたかい?』

「思ったよりしぶとかったと認めて差し上げますわ!」

 

 ビームサーベルの熱量がトランザムによってサーベルの域に留まらないものとなり、【インターセプター】の刀身をも侵食する。

 このまま何もしないと【ブルー・ティアーズ】まで切り落とされると察し、【ティアーズ】を後背に隠して呼び寄せる。

 【インターセプター】にさらにビームサーベルが沈みこもうとするのに合わせて後方宙返り、セシリアと入れ替わりに【ティアーズ】3基を鼻っ面に整列させた。

 

「【ティアーズ】、協奏曲(コンチェルト)!」

 

 横1列に銃士隊のように並んだ【ティアーズ】からビームが放たれる。すでに準備を終えていた銃口からの射撃さえも【ガデッサ】は回避したが、まだ攻撃は終わっていない。【スターライトMarkⅡ】を保持する右腕をビット化して切り離し、回避を終えて【ガデッサ】が顔を上げたところへとビームを撃つ。

 しかし、必中を狙って撃ったビームも、赤く染まった【ガデッサ】には驚異的速度でかわされる。顔を一部溶かすだけで大ダメージとはならない。

 また振りかぶられたビームサーベルを刀身が半分以上に溶け落ちた【インターセプター】で受けるか迷い、我に返った時にはかわせない距離にまで光刃が迫っている。

 

(やられる―――!)

 

 被弾の衝撃とダメージを覚悟して目をつぶってしまうが、攻撃が届くことはなかった。

 損傷から立ち直った篠ノ之箒から援護射撃が飛んできたのだ。さらに衝撃砲が銃弾に混ざって黒ずんだ機体を叩き、ビームサーベルは手元へと戻される。

 銃弾を横っ面に浴びせられてまで一機に構ってはいられなくなったようで、敵は遠ざかっていった。

 その隙に【甲龍】と【打鉄弐式】がセシリアの近くにまで接近してくる。

 

『大丈…夫?』

『無事か、オルコット!?』

「おかげさまで傷一つありませんわ。【ティアーズ】を三基も失ってしまいましたけど。」

『そんだけ口が利けるなら平気よね。さっさと片付けて一夏の方へ行くわよ。』

「お二人もご無事なようで何よりですわ。損傷は?」

『シールドエネルギーが残り〈280〉と少しだ。武装はマシンガンの残弾が残り少ないな。』

『【衝撃砲】も一個じゃ威力が弱すぎ。装甲に穴をあけて倒すのはまず無理ね。シールドエネルギーは〈200〉切りかけよ。あの機体赤くなってから攻撃力が馬鹿みたいに上がるんだから。』

 

 セシリアはまだ一度も攻撃を受けていないのでシールドエネルギーは全快のままだが、武装の消費が著しい。

 今も4人と【ガデッサ】の間に配置した【ティアーズ】とマシンガンで近づかれないようにこそしていても、弾薬が尽きれば敵を倒す前に負けだ。

 前衛の二人次第と言っておいたが、いつまでも任せてはいられないし彼女も前に出るほかないだろう。

 

「・・・簪さん、用意の方は?」

『いつでも…いける、と思う。』

『何の話をしているのだ?』

『隠し武器でもあるわけ?』

「簪さんがお持ちの切り札の話ですわ。わたくしたちがいくら攻撃してもダメージだけでなかなか倒せませんもの。」

 

 バルカンが何発も迫ったので一旦言葉を区切る。

 【ティアーズ】で接近を妨害する策もじきに突破される。作戦とも呼べない思い付きを蚊帳の外に置いていた二人に伝える。

 

「ひとまず聞いてくださいな。時間がありませんから異論は受け付けませんわよ。

 作戦はいたってシンプル。わたくしたちが囮、簪さんの攻撃をあの敵に命中させるまで耐えるなりかわすなりして生き残り続ける。ただその一点だけですわ。」

『・・・【衝撃砲】が無事なら人選に文句つけるトコだけど、今は否定できないわね。それであたしたちがアイツを引き付けてる間にドカン、とやるってわけ。』

『となれば奴のスピードをどうにかせねばならんな。手負いの身だが私が引き付けよう、貴様らは援護を頼む。』

『ちょっと!一人でいい格好させないわよ!』

「お二人ともに勘違いしてますけど、引き付け役は私たち3人ですわ。遊ばせておける戦力なんていませんわよ。」

 

 手柄争いか責任感なのか、言い争いを始めてヒートアップしそうになった二人を諫める。

 

『それじゃ簪、しっかり動き止めたげるから頼んだわよ!』

『あ、こら!抜け駆けは許さんぞ!』

 

 ケンカさせずに済んだかと思うと、鈴が先に飛び出し、篠ノ之箒もその後に続く。

 言い争った次の瞬間には息を合わせて敵へと向かっていく、仲が良いのか疑問の残る二人だ。

 

「では簪さん。タイミングは任せますわ。配置についておいてくださいな。」

『セシリアさんも…気をつけて。』

 

 【ガデッサ】に気づかれないよう静かに移動を始める簪に別れを告げ、【ティアーズ】を全基、前面戦闘モードに移行させる。セシリアもライフルを連射して敵の視線を引き付ける。

 未だに赤く光り続ける【ガデッサ】が、バルカンと【GNメガランチャー】で【甲龍】・【打鉄】を牽制、射撃は回避されてしまうも簪の姿は見えていない筈だ。

 

(私も救援として来たのですから活躍の1つ、やってみせますわ!)

 

 最後の作戦の幕が上がろうとしていた。

 

 

 

 

「鬼ごっこか?ほらほら、尻尾振って逃げてみせろや!」

『クソ!何で引き離せない!?』

 

 トランザムを発動させた【ガラッゾ】。

 奪われた右腕の分も取り返すために仕切り直そうと必死に逃げている。

 一方のそれを追う形のハレルヤは嗜虐的に口を歪めて、飛行形態から時折粒子ビームを撃っては機体に掠らせ、嬲る余裕すら持ち得ている。

 

(トランザム使って何で振り切れないのよ!)

 

 理論にのっとればその速度・パワーは、ともに通常の3倍を可能とするだけの力がある。

 そして【キュリオス】はトランザムを使っていない。

 仮に使っていたとしても生産された当時の性能差のままであったなら、天地がひっくり返っても勝機を望むことなどあり得なかった。

 だがIS化のために行われた束による性能調整。

 【アストレア】には全般的に上回った性能を持ちつつも、一点突出させた性能の【エクシア】や【キュリオス】には得意分野では及べない弱点。

 ハレルヤという特異な存在の発現。

 ヒリングからすれば最悪の条件が整っていたのである。

 

(坊やのシールドエネルギーとかいうのも残り少ないはずなのに!)

 

 腕を引きちぎってでも戦闘を続行する人間は狂っているとしか言いようがない。ヒリングの人生を振り返っても、そんな選択をする人間はいなかった。

 

(相手のフィールドに入ったら不利・・・なら賭けてやろうじゃないさ!)

 

 速度がほぼ同じなら、急停止すればすぐには対応できず突っ込んでくるはず。

 腕をもぎ取られた恐怖を思い返して背筋が寒くなるが、前世と変わらない、負けたままの人生で終わりたくない。

 

(アタシだって二度も負けてらんないの!)

 

 トランザムの推進力をそのままに急制動をかけ、機体の上下を反転する。

 機首を前にして猛烈な勢いでもって接近してくる【キュリオス】はその行動に対応できない。

 上下反転のおかげで残った左腕のビームソードは右側から攻撃する形になる。加えて【キュリオス】の右腕は失われて盾も左側。

 どうあがいても防ぐ術はなく、被弾を重ねてきた機体なら、この一撃が致命傷になる!

 

(今度こそアタシの勝ちよ!)

 

 裂帛の覇気と共に繰り出されたビームソードはそれることなく伸び、胸部の水晶型ジェネレーターを深々と貫通した。

 やった、とそう感慨に浸るヒリング。

 だが、一瞬の間をおいてその表情が強張った。

 

(何度も言ってやる―――俺たちに勝てるわけねえだろ!」

 

 肘から先に残された一夏の腕が【ガラッゾ】の左腕を掴み、逃げられなくなったところへ【GNシールド】が突き出される。

 その行き先は【ガラッゾ】が目指したものと同じ胸部。

 腕が動かせなくなれば移動もままならない【ガラッゾ】に取れる手段など残されておらず、こちらも胸を、オレンジ色をしたシールドが貫通する。

 ここまでは同じだ。

 違ったのはその後だった。

 ジェネレーターを貫いた【GNシールド】が真ん中からバカリと割れ、大きく肩口まで傷を広げる。胸から切り裂かれた機体は無事でなく、異音を鳴らしてヒリングの視界が暗くなる。

 

「ちっくしょう――!」

 

 トランザムの最後の力を振り絞り、ビームサーベルを胴に突き刺したまま動かそうとする。見苦しさしかない行動で5㎝刀身が動くが、そこで胸から下を割り広げられて上下に両断された機体は機能を停止、沈黙した。

 ブラックアウトした画面群から敗北を悟ったヒリングは操縦するために入れていた力を抜いた。前回と全く同じ敗北をしながらも、死への恐怖はなく悔しさだけだった。

 

 

 

 

 【GNシールドニードル】と【キュリオス】を貫いていた左腕の2か所で空中に留められていた【ガラッゾ】はシステム停止に伴い、糸が切れたように動きを止める。

 【キュリオス】が腹に刺さった腕を引き抜くと力が抜けた体を後ろに倒しながら、ゆっくりと海面に向かって落下していき、波間からも見えなくなった後に爆発した。

 

「・・・ちっ、しくじったぜ。」

 

 見下ろしていたハレルヤが毒づいた直後に甲高い音が耳を打つ。

 【ガラッゾ】が沈黙寸前に動かしたビームサーベルで装甲が抉られ、シールドエネルギーが尽きたのを知らせる音だった。遅れて機能を停止した【キュリオス】も目から光を消し、眼下に広がる海へと落下した。

 

 

 

 

(爆発・・・織斑君…じゃない…よね。)

 

 大きな水柱が上がって気がそれそうになるのを簪は押しとどめた。

 【ブルー・ティアーズ】が作った目くらましに身を隠した簪は、敵に気づかれないよう細心の注意を払いながらある場所に潜伏している。

 【ガデッサ】を3機がかりで抑え込もうとしているものの状況は芳しくない。作戦開始から5分と経っていないのに、それぞれの機体が大なり小なり傷を負っている。

 発射状態のまま振り回されて、ビームサーベルのように使われた大型ビーム砲の攻撃で片足を無くしてふらついている篠ノ之箒の【打鉄】。今また斬りつけたもののあっさり回避され、足だけで文字通り一蹴される。

 トランザム使用前と変わらずにクローで【ガデッサ】の胸を穿とうとした【甲龍】は腕を掴みとられ、返り討ちにあって左腕を切り落とされている。

 【ブルー・ティアーズ】は遠隔射撃のみなので目立った損傷は受けていないが、粒子ビームに巻き込まれ【スターライトMarkⅡ】を失い、【ティアーズ】3基が射撃武装の残りである。

 つまりもう長く戦っている余力はないのだ。

 簪も隠れて機が熟すのを待っているが、敵はまだ猛威を振るい続けている。敵が大きな隙を作るのが先か、敵によって簪も含めた4人が撃墜されるのが先か、きわどい所だ。

 そしてその時は訪れた。

 前触れもなく敵を染めていた赤い発光現象が消失したのだ。

 

『トランザムの限界時間か・・・!』

 

 光が消えると同時に追いつくだけでやっとだった敵の動きも遅くなる。

 

「セシリアさん!」

『【ティアーズ】、輪舞曲(ロンド)!』

 

 簪の声より早く、セシリアは【ティアーズ】に指示を飛ばしている。

 号令に順じた【ティアーズ】が【ガデッサ】を三方から囲み、三角形のビームで出来た檻を作る。

 一時的に視線と動きを奪うしかできないような檻だが、動きが止まればそれでいい。

 

(来て――!)

「【春雷】!」

 

 格納してあった【打鉄二式】が誇る最強の武装、二門型荷電粒子砲【春雷】が簪の背後に出現した。本来搭載してある連射機能は切って、ストックに回す分のエネルギーまで1発にこめてある。

 すでにエネルギー充填を済ませ、撃つ操作を送ればそれ詰みだ。

 そして簪がためらうことはない。今を逃せばもう当てられる可能性はないし、これで倒れないなら何をしても無意味だからだ。。

 

「発射―――!」

 

 敵の頭上20mから、臨界を越える限界まで溜められた荷電粒子が膨大な光の塊となって敵に殺到する。かわす時間も与えない攻撃、外れるわけもなかった。

 

 

 

 

 出現した際の光で気づいた【ガデッサ】が青空を振り仰ぐ。瞬時にその正体を悟って大型ビーム砲を向けたが、トリガーを引く前にその黒い砲身に何かが突き刺さる。

 

『な―――!』

 

 リヴァイブが言い終わるのを待たずにエネルギーが行き場を失った大型ビーム砲が爆発、手持ちの武装が失われる。

 イノベイターとしての優れた感覚は爆発する前のわずかな光景からも、起きたことの全てを把握していた。

 

(あれは【GNショートブレイド】、どうやって・・・)

 

 【GNロングブレイド】ともども【ガラッゾ】の手で両断されたのではなかったのか。そもそもどうやって突き刺したのか、投げただけで刺さるほど【GNメガランチャー】は脆い構造はしていない。

 その疑問は急迫した荷電粒子に【ガデッサ】が呑まれる直前、まばゆい光の中に見えた光景で氷解した。

 【甲龍】に乗った少女が得意げに笑っていた。

 

(そうか、少年が避難させた際に【甲龍】の少女に渡していたのか。甘さだと・・・軽んじなければ・・・。)

 

 【GNロングブレイド】は折れたのを確認していたが、もう一本も折れただろうと軽視していた。アリーナの時に全力で倒していれば陥らなかった失敗だ。

 油断が招いた完膚なきまでの敗北だが、リヴァイブ本人の心にははさほどのショックだない。一度死んでみた体験が意外といい経験になっているのだろうか。

 GN粒子とはまた違った荷電粒子に炙られた【ガデッサ】の機体表面が白く泡立つ。ほどなく装甲を削り落とされ、爆発四散するのも時間の問題だ。

 肩、腕、足と損傷の大きい部分から爆ぜていくのを自分のことではないような、映画でも見るような気分で眺めるリヴァイブの耳に、荷電粒子砲を撃つ簪の独り言が届く。

 通信回線がまだ生きていたらしい。

 

『これで…終わった…よね・・・。』

(終わり? 違うね、これは始まり、変革への序章だ。)

 

 機体爆発を前にしても心で不敵に笑ってやる。

 まだ彼女たちは何も分かっていないことだろう。自分たちがやって来た意味もこの世界の秘密も。

 

(ふっ、終わってみると呆気ないものだね。)

 

 直後【ガデッサ】は爆発、焼かれて分解された部品が雨となって海面に降り注いだ。

 

 

 

 

 一夏が意識を取り戻したのは白い場所だった。

 前も後ろも見る限り全てが白で埋め尽くされ、どこまでその光景が広がっているかは想像もつかない。温度は何も感じないし、白く塗られた部屋の中にでもいるのか?

 

「チッ、しくじったぜ、ったく。刺し違えられるとはな。」

 

 背後で声がしたので振り向くと、長髪の間からオッドアイを覗かせる見たこともない男が立っていた。

 誰だ――と聞こうとしたところで、その人物が来ているパイロットスーツの色が目に止まる。

 それはオレンジ色。【ガンダムキュリオス】のメインカラーと同じだ。

 つまり、

 

「あんたがハレルヤ・・・なのか?」

「どうでもいい、俺の名前なんてな。後でキャンキャンうるさいのにでも聞いとけ。」

 

 取り付く島もないといった感じで一夏の確認の声も拒絶する。

 初対面の相手にここまで毛嫌いされるような真似はしたことがないはずだが・・・

 さらに何か聞いておこうとしたところで風が吹き荒れ、視界が閉ざされる。足元からも白いものが舞い上がっていって、この白さが周り全てを染めるほどの雪なのだと理解した。

 

「【キュリオス】はテメーのだ、大事に使え。」

「【アストレア】のこと何か知ってるのか?なんで俺を助けてくれたんだ!?ここはどこなんだ!?」

「だから後でうるさいのに聞けつってんだろ。辛気臭えこの場所のことは・・・テメーの方が良く知ってんじゃねえのか?」

「うるさいのって・・・」

「さっき俺がぶっ殺して俺をぶっ刺した野郎だ。派手に吹っ飛んだがどうせ生きてるだろうぜ。しぶとさだけは立派な連中だからな。」

 

 ヒリングがまだ近くにいるのか。機体は破壊したはずだし、今なら捕獲して何か聞き出せるかもしれない。

 

「あア、それと俺らを創った女から伝言だ。『今見えてるもの、見失っちゃ駄目だよ、いっくん。』だと。」

 

 それだけ言うと言いたいことは終わったと、踵を返して雪の向こうへとハレルヤが歩いていく。

 ヒリングから聞けと言われてもハレルヤにも聞いておきたいことはある。引き留めようと顔に張り付く雪を落としながら、懸命に前へ進んで追いかける。不思議と寒さは感じないが、降雪にとどまらないで吹雪のように降りしきる雪は、1mほどしか離れていなかったはずのハレルヤを雲隠れさせてしまう。

 

「待ってくれ、ハレルヤ・・・ハレルヤ―――!」

「へっ・・・やっぱ一人じゃしまらねえ。俺も今から・・・逝くぜ、アレ・・・ヤ。」

 

 豪雪にハレルヤは覆い隠され、最後の方は言葉も途切れて上手く聞き取れなかった。

 そして俺も雪に呑まれ意識が暗転する。

 雪が全てを白く塗りつぶす世界のはるか彼方、地平線から光が立ち上る。

 

 その光は雪の白さの中にあってなお揺らぐことのない、黄金の色をしていた。

 

 

 

 

「い・・・ちか・・・いちか、一夏!しっかりしろ!」

「箒さん、体を揺らすのは危険ですわ!このまま学園まで運びましょう。」

「わ、私はまだ【打鉄二式】…に余裕があるから。私が…運んでも…いい?」

「一夏、まだあたしの気持ちも約束も終わってないんだから、勝手に死ぬんじゃないわよ!」

 

 閉じた目を開くとやかましい世界が戻ってきた。いや俺がやかましい世界に戻ったのか。

 

「みん・・・な・・・無事・・・なのか?」

「一夏!安心しろ、全員生きている!」

「アンタも含めて全員撃墜寸前だけどね。戦果はともかく死んだ奴はいないわよ。」

「学園に戻ったら織斑先生からお説教ですわ。無断でISの使用、学園外に持ち出し、国境付近で戦闘活動・・・日が変わるまで許してもらえそうにないですわね。」

「は、話せば…わかってくれる…かも。」

 

 にぎやかでやかましい日常、だけどそこへ帰ってこれたのだと安堵したところで、また意識の回路がぷっつりと切れた。

 

 

 

 

「また気を失いましたわ!」

「急げ、学園まですぐだ!」

「ホント手のかかるやつね!」

「あれは・・・?」

 

 3人が一夏を運んでいる中で、簪はふとあるもの目が止まった。

 海の上でぷかぷかと潮を被りながら浮かんでいる2つの球体。

 それは一夏が連れているペットロボによく似ていて、

 

 色は『グレー』と『すみれ色』をしていた。

 

 




【GNショートブレイド】は鈴が拾ってたのを【衝撃砲】で鉄杭みたいに撃った感じです。


感想・質問・評価、何でもよろしくお願いします。

――どうでもいい余談――
箒が活躍してない?
一人だけ専用機も無しに来たことを評価してやってください。
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