後半では半年ぶりに彼女らも登場。
あ、あと弱めのグロ注意。
きょうだい
「これは一夏の誘拐事件の交換条件で、私がドイツにいたころの話で、もう2年以上前のことだ。
軍関係者として呼ばれたが回されたのは新兵の教官だった。手のかかる生徒もいて鬼教官と恐れられたな。」
「織斑先生のイメージになんとなくあってる気がします。」
「・・・あまりうれしくはないな。」
分かる分かると真耶が頷く。
できれば否定して欲しかったと思いつつも、脱線しかけた話を元のレールに敷き直す。
「仕事と言えばそれくらいで、『一国家の軍が個人の誘拐事件解決を手助けした交換条件にしてはやけに優しい。』そんな疑念を就任してすぐに感じもした。
だがあまりに何もなさすぎて、善意を疑いすぎかと思い直したんだ。」
「でも確かに変ですよね。ドイツが必死に協力したんだから兵器開発を手伝え!・・・とか言ってもいい気がします。」
椅子に座って首を傾ける真耶に千冬も同意する。
そもそも国家が行動に何の見返りも求めないなんてありえない。利益につながると判断できないなら静観を貫く、そんな臆病な国家運営こそが実は理想的だったりする。
「だが残すところ半年になっても何も起きなかった。異動も内密の話もだ。」
「やっぱり疑いすぎだったんじゃ?」
「そのまま何事もなかったなら私もそう思っただろうさ。」
話の本題が近づいたのを感じて真耶が身を乗り出した。
「私が日本に帰るまで残すところ5ヶ月。秋が深まったそのタイミングで事件が起きた。」
「事件?」
「ドイツの『シュタムハイム刑務所』とその近くにあった『オラーケル研究所』にISによるテロ攻撃が仕掛けられた。P.Aもドイツに配備される前で対処できるのはISに限られる。おかげで私も含めてドイツ軍は対応に忙殺させられたよ。」
シュタムハイム刑務所は囲っていた壁を破壊されて大量脱獄が発生。
オラーケル研究所は攻撃を仕掛けられたことによる爆発で周辺住民に被害が生まれ、そこに脱獄囚が逃亡しようとなだれ込んできたせいで市街はパニックになった。
結果、脱獄囚と怪我人の大量発生で都市機構が麻痺。ほんの一時的だがドイツは国家として機能を喪失。
オラーケル研究所近くの住民にとっての不幸は刑務所が近かっただけではない。シュタムハイム刑務所は過去の事件の教訓から城塞にも匹敵する堅牢さを兼ね備えており、ドイツの中でも指折りの凶悪犯や死刑予備囚が集められていたのだ。このことも事態の深刻化を招いた一因だろう。
この事件が起きたとき、ISの操縦が出来るという理由から千冬も囚人の鎮圧に駆り出されたのだ。
「1時間もして騒動に落ち着きが見え始めると後は楽になった。いくら凶悪犯ぞろいでもISに腕力ではかなわないからな。」
「でもそのこととあの写真が何か関わってるんですか?」
「囚人共を再収監して、研究所の方へ応援に向かおうという話になった。火災などの二次災害報告がなかったせいで、あちらはテロが起きた直後から放置したままだったからな。」
通信も救急隊を呼ぶものと火事場犯罪をやらかした犯人の通報が負荷をかけてパンクしており、本部に次の指令を仰げなかった現場がとった選択としては間違いではないだろう。
回線パンクという偶然がなければ千冬が向かうことはなかったので、この事件もあるいは運命に仕組まれたものだったのかもしれない。
「研究所は・・・人の世とは思えないことになっていた。」
今でも記憶の淵にその景色が焼けついている。
元の形が見る影もなく崩れた建物。
濛々と噴き上げる黒煙。
その黒さをさらに際立たせる赤い炎。
そして炎の中で踊るように揺れては倒れていく無数の人影。
オラーケル研究所は外壁が爆撃で破壊され、さらに施設全体で大火災を起こしていた。
手足を無くしても逃げようと這い続ける者。
炭の様に真っ黒になった体でも息を残す者。
助けようと手を伸ばした千冬の前で崩落してきた屋根に押し潰された者。
景色をできるだけ抽象的に伝えられた真耶は、それでも口元を押さえずにはいられなかった。生まれて一度も火事の現場を見たことのない彼女にも、その惨劇は想像して余りある。
「・・・ひどいテロだったんですね。」
「・・・現実はもっと残酷だ。やったのは研究所の職員たちだった。」
「どうして!?」
「知られてはならなかったからだ。その研究所も、ドイツがひた隠しにしてきた暗部も。
火をつけた後に脱出していた職員がいてな。そいつらからこの研究所とドイツの企んでいたことを聞き出した。」
分かったのは次のようなことだった。
ドイツはハナから千冬本人に軍人としての機能は期待していなかった。試合で強くても言うことを聞かない兵士は実戦投入できない。
だから別の手を考えついた。
千冬に劣らず、言うことを聞く戦力をドイツで生産すればいいと。
どうやったのか千冬のDNAデータを入手。(入手経路については研究員も知らなかった)
それを元にクローン兵を作ったり、培養した千冬の細胞を生物に投与したり、千冬の意識をAIデータ化してパイロットごと兵器を操作するシステムなどを開発していたのだ。
千冬を一時とはいえ雇ったのは新鮮なDNAサンプル入手を容易にするためだけだったわけである。
世界まで敵に回しそうな研究が、日に当たる場所で出来ようはずもない。
この襲撃で研究が隠しきれなくなると踏んだ職員が証拠隠滅も兼ねて火を放った、というのが火災の原因・・・だと思われる。
「火が静まった後、研究所跡地の調査に無理を言って同行させてもらった。そこの地下室にあった写真がそれだ。」
「証拠品持ってきちゃってよかったんですか?」
「政府も後ろめたいところがあったんだろう。特に咎められはしなかった。」
真耶から返してもらった写真を手に取る。
写真の6~7歳の外見は、真っ当な成長をすれば1歳にも満たない所を強制成長させられたためだ。自分で言うのもなんだがよく似た顔をしている。妹がいたならこんな顔だったのかもしれない。
そして裏面には焼き印にも思える『M』の文字。
写真についても研究員に問い詰めると、千冬のクローンか培養細胞を投与した子供の誰からしい。
Mに続けて打たれていた数字が固体名称として使われていた。1なら『エムアイン』、2なら『エムツヴァイ』といった具合に。
だがここには数字は書かれず、仮の名前も分からない。
それどころか写真のMという少女以外、千冬はどんな顔をした子がいたのかすらも知らない。
「生き残りの子どもがいればまた違ったのかもな。」
「みんな亡くなったんですか・・・」
「さっき言っただろう?
現実はもっと残酷だ。」
炎の中でうねっていた人影。
そして焼け跡から見つかった焼死体。
その大部分がまだ20歳にもならない子どもの体格をしていた。
「ま、まさか被検体の子どもたちを・・・」
「逃げられないよう銃で撃たれていた。
大人の死体は僅かな良心で逃がそうとして揉めたか、あるいはテロがなくとも意見が割れて殺し合いをしていたのか。
炎から逃げようとしていたのは、撃たれた時にまだ息があった子たちなんだろう。脱出していた研究員は一番保身のことしか考えていないクズだった。」
「なんてひどいことを・・・」
その悲痛な場面を思い描いたのか、真耶の目に大粒の涙がいくつも浮かぶ。会ってもいない死んだ子供たちのために涙を流せる彼女は、教師の職にあった優しい先生にこれからもなるだろう。
泣いている真耶に対して、千冬は今では涙を流すことはない。当時を思い返して感じるのは悲しみよりも罪悪感だ。
(私が世界最強などとおだてられなければ、いやドイツの助力を得たりしなければ、あの子供たちは死ぬことはなかった。
私が殺したも同然の子供たちだ。)
「・・・この写真は私が過去を忘れないために残してある。第一線から退き、教師になろうとしたのは贖罪の思いもあった。
死なせてしまった子どもたちの分まで、これからの世代を育てねばと。」
「織斑君が今日飛び出したときに取り乱してたのはそのせいだったんですね。」
「ん、まあそうだな。本当に家族を亡くすのではと思うとつい、な。」
それとも顔すら知らない誰かたちの死を一夏と重ねてみていたのか。
一息つこうとしてカップを口に運ぶと、寝る前に入れてあったコーヒーは既に温くなっていた。乾いた喉を潤そうとしたのに、ほぼ泥水の味に顔をしかめる。
まぁ、心境的にはこの味の方がよいのかもしれないが。
「織斑先生?」
「・・・コーヒーがマズくなっていてな。」
「待っててください。入れ直してきますね。」
「すまないな、頼む。」
涙をぬぐいながら給湯室に歩いていく真耶を見送る。
一人で抱えるには重いと、軽率に話すべきではなかっただろうか。だが他に話す友人もいない千冬には自然な帰結だったのかもしれない。
◇
「そのあとその悪い研究員の人たちはどうなったんですか?」
怒り心頭といった様子で真耶がいつになく声に怒気を混ぜる。彼女の性格からして末路を聞いて喜ぶのは無いが、悪人を許せないのは当然だ。
「裁判にかけられる予定だったが、できなくなった。」
「また脱獄ですか?」
「裁判所への召喚前に全員が自殺した。あの世に逃げられては刑も何もあったものではない。」
「・・・ずるいですね。責任も取らずに楽な方を選ぶなんて。」
「政府上層部が噛まずにやれるような規模の研究ではなかった。壁や設備を見ても1年以上は使われた形跡があったのもマスコミに明らかにされた。
だから口封じされたのでは・・・なんて都市伝説も出回ったが真相は闇の中だ。
ただこのテロについては、後から見ると腑に落ちないことが多い。」
「あ、そういえばテロをした犯人のメリットが無いですね。」
ひらめいたように真耶が顔を上げる。
「パニックを起こすためや非道な研究を白日の下にさらすためと、理由を上げることは出来るがメリットとは思えん。ドイツは宗教でテロ組織と反発したりもしていなかったしな。」
「刑務所の方はどうだったんですか?
収監されていた中に実行犯たちの重要人物がいたとか。
凶悪犯がいっぱいいたならその可能性も・・・」
「私もそこは思いついた。
それでシュタムハイム刑務所に問い合わせると、最終的に脱走成功した者は
「うーん、ますますわからないです。研究所は証拠をもみ消して、囚人は全員捕まったなら何も手に入れてないですもんね。」
研究員が火をつけるのを止めなかったなら、それはテロリストが攻撃したものの何もせずに撤退したことを意味する。
襲った場所が灰になるのを見守る理由がないからだ。
目当てのものが先に決まっていて、研究所と刑務所が候補であって両方外れであった・・・と考えれば何もしなかった説明がつくが、釈然としない。
いっそ両方が狙いではなく片方が囮だったとも考えられる。
シュタムハイム刑務所も襲撃対象に据えられるだけのうさん臭さがあるだけに。
「あそこはきな臭い昔話があるからな。」
「シュタムハイム刑務所・・・そうか、ドイツの秋ですね。」
シュタムハイム刑務所は城塞に匹敵する防御力を与えられているが、理由もなくこんな強度を与えられたわけではない。この刑務所ではかつてテロリスト集団『RAF(ドイツ赤軍)』の裁判を行ったことがあり、被告人を組織から奪還されるのを防ぐために堅い拒絶力を与えられたのだ。
このテロ集団が起こしたテロ事件とその犯人たちの死に連なる一連の流れを『ドイツの秋』と呼ぶ。
以後もこの地は政治犯を周囲から隔離する為に使われることがあったという。
「被告人が奪還されないように隔離できる。・・・それはつまり
刑務官や看守にも知らされないフロアに政治犯を隠していて、そいつを手に入れることが目的だったなら脱獄成功者がいなかったのも納得がいく。」
「いるって知らないなら、いなくなったってわかりませんからね。」
証拠固めもままならぬうちに政府を問い詰めたが、研究所のことも刑務所のことも知らぬ存ぜぬを貫き通した。
実験の証人であった研究員は死亡、証拠からも政府が関与したと言えるものは見当たらなかったのだから当然だ。千冬もそれ以上は追及できなかった。
だが政府が気づかないわけもないことから、成果と照らし合わせて黙認していたのだろう。上まで真っ黒だったのは明白だ。
「事件ももう三年前。関係者以外に価値を見出せないほど迂遠なやり方をする連中なら、かなり大掛かりな計画を練っていたとしても不思議はない。
一夏の誘拐にドイツでのテロ・・・私に近い所でこうも起こると関係を疑いたくもなる。」
「入試を襲ったテロリストも無関係じゃないかもしれませんね。」
「今回の襲撃で学園の防御の甘さも露呈した。ISだけに頼るのは危険が大きすぎる。
・・・だからそのあたりの交渉も兼ねて、明日からしばらくアメリカに行ってくる。」
千冬もISが動かないだけで何もできない無力さを痛感していた。
今回は何とかなったが、学園の破壊をもくろまれた時も教師が戦えなければ話にならない。
昼のユビアスに頼んだ救援の件と絡めて買い取り交渉が叶えば、学園の防御は飛躍的に上昇する。
ビジネスには食いつくあの女の気質を利用した作戦だが背に腹は代えられないし、手段を選べる余裕も持ち合わせていない。
千冬の考えは立派だが、留守を任される真耶からすればたまったものではない。
「ちょ、ちょっと待ってください織斑先生!アメリカって言ってくるってすんなり行ける場所じゃないですよ!?
また襲われたらどうするんですか!?」
「一度やって成果の上がらないことを愚直に繰り返すほど馬鹿でもないだろう。」
「しかも来週からドイツとフランスから留学生が二人も来るんですよ!私だけじゃ学園が倒れます!」
「その・・・なんだ・・・すまん。」
「諦められた!?
いくら織斑先生でもそんな勝手は認めませんからね!!」
弁解ではなく謝罪されても真耶の負担は減らない。研究員に対してとは別の意味で真耶が激昂するのも無理ないことだ。
結局その後2時間、粘り強く千冬が交渉してアメリカ行きに同意してもらえることとなるのであった。
◇
次の日、リヴァイブとヒリングのハロが一夏から紹介され、その優秀さに飛びついた真耶から備品兼臨時教員として学園に置かれることとなるのだが、それはまた別の話。
◇
――日本 某所――
薄暗い照明だけが点いた、広いガレージのような場所にレムナントは座り込んでいた。遊びではなく仕事である。
レムナントが対峙しているのは1振りの剣と1機のISだ。
2つとも彼女には重大な責任がある機械であり、缶詰め状態で調整にあたっていた。
実際、戦闘より学者肌な彼女には戦場に赴くより、静かな空間で作業する方がよくあることだ。
(ISの管理機構をいじれるのはそういないからねぇ。しかし退屈だ。)
ふわぁ、とあくびが漏れる。
カビとコンクリートの臭いしかしない部屋で黙々と手を動かす。遊び心を最大限発揮できるものと触れていても、出来上がりが見えるまでは作業感の方が先に立つ。
そんな時間をかれこれ1カ月続けていれば、どんな人間でも仕事を投げ出したくなる。
何か面白いこと、そう考えて真っ先に『彼』のことが浮かんだ。
スムーズに進行していた実験に殴りこんできたイレギュラー。ISに身一つで立ち向かう蛮勇と勇敢さを共に持った少年―――織斑一夏を。
「イチカに会いに行こうかな?」
彼に会えばまたレムを打倒して想像の枠を超えてくれるかもしれない。それはすこぶる面白いことだ。
痛む体を鞭打って立ち上がった彼の目を思い出すだけで、心が晴れやかになった気さえする。
(『あの子』からしたらちょっと年上かな。似た世代だからついつい子供を見るような感覚になってしまう。)
思い立ったが吉日なんていい言葉もある。早速出発するとしよう。
「勝手な真似は慎んで、レン。薬は飲んだの?」
「・・・外出くらいさせて欲しいな、ミス・ミューゼル。」
せっかく面白くなりそうだった気分に水を差されて不快感が顔を出す。
かなり棘のある顔で睨まれても、上司に該当するスコールは動じた様子もない。
「どうせ夏にはもう一度会うじゃない。我慢した方が後の楽しみは大きくなるものよ。」
「そうは言ってもね。完成間近ともなるとやる気力も削がれる。」
「あら、それでは完成したの?」
「例のモノは8割、ボクのISは3割が妥当かな。」
「あなたのISは後回しでも【クラレント】はお願いよ。スケジュールはずらせないもの。」
【クラレント】。
それは彼女が一番力を入れて開発している・・・もっと言えば『亡国企業』が一番力を入れている兵器だ。剣を模しているのは使い方より、原典に則して敬意を払うためだそうだ。
ロマンにはあまり興味が無いレムナントには何のことやらである。
(実際に切って使うわけでもないのに・・・ボス様も大義に酔ってるフシがあるねぇ。)
こちらの行動を厳しく見張るスコールの目に外出も脱出も断念して、コンピュータをまた動かし始める。
「ところでレン、エムを見なかった? 隠れ家のどこにもいないのよ。」
「屋上でドイツの方へ花を供えているんじゃないかな。月命日だとか言って花屋に行っていたしね。」
「もう3年になるのね。あの子を拾ってから。」
思い出して声を沈ませるスコールに、今度はレムナントがまるで動じない。
「死んだ命に縛られてどうするんだか。」
「ドライなのね。彼女より縁深い場所だったのに、思うところはないの?」
「僕は未来しか見ていないよ。過去に残してきたのは『あの子』のことだけさ。」
「そう。ジュリアスからの伝言よ。あなたの気にしていた『あの子』さん、今度日本に来るみたいよ。」
「いつだい!?」
「・・・興味が向いたことには本当に素直ね、貴女。近いうちだとしかわからなかったわ。それにしても離別を選んだ貴女と同じ国へ来ることになるなんて、血は引かれあうのかしら。」
「・・・さぁてどうだか。君はどう思う、【パピヨン】?」
【クラレント】と並んで設置されたIS。
機体色は濃い水色に赤のマーキングライン。
角のような赤いフェイスパーツ。
そして特徴的な湾曲した肩を突き出したIS、名前は【パピヨン】。
話しかけられたISはもちろん返事をしなかった。
◇
写真の少女『M』は生きていた。
千冬も知らないところでひっそり生き延びていたのである。
◇
レムナントとスコールがいる建物の屋上。
漠然ながらドイツがある方角を向いて、エムは花を置いていた。
風に吹かれながら、頭から消えない名前を告げていく。
「
アルファベットに数字だけを足した彼らに墓は無い。当然墓碑銘も称える文も無い。
彼らの骨さえもここにはないのだ。
生きていた痕跡を消された彼らはMの記憶にしかこの世に残っていない。
あれから3年が経った今でも忘れることなく覚えている。親がいた者も機械から生まれた者も含めて皆仲間で・・・家族だった。
(私だけ・・・逃がされ・・・助けられ・・・生かされた。)
同室だったH17は銃で頭を撃たれて息絶えた。
泣き虫だったS8は倒れた薬品棚に挟まれて逃げられないまま、「熱い熱い!助けて!」と泣いて黒焦げになっていった。
炎の回った研究所から逃げ道が失われ、命が消えていく最中で自分だけが外へと逃げられた。一番幼かったから研究員が見逃してくれたのか、被検体の仲間が逃がしてくれたのかは覚えていない。
外へはい出たとき、中にいた誰かが何かを言ってくれた気もするが、やはりもう覚えていない。
そして研究所の裏から外へと出たときに亡国企業に拾われたのだ。
(研究所は消え去り・・・私以外は死んでしまった。)
たった1つの目的『織斑千冬に継ぐものを創る』、そのためだけに生み出された命。
目的が達せられないまま崩れた今、研究の生き残りであるエムに生きる意味はあるのか。
いや、なくてはならない。
「――
そして証明する。私が、私たちが姉さん・・・織斑千冬の跡継ぎに相応しいものだと。」
証明しよう、生み出された自分たちの有意性を。
そして、
「ここにいたのね、エム。仕事よ。」
「いま行く。」
呼びかけたスコールに短く答えて踵を返す。
(織斑千冬、貴様は知らないだろう。お前の輝かしい人生の裏に踏みつぶされた羽蟻がいたことを。教えてやる、貴様の罪を。
織斑一夏。織斑千冬以上に、貴様が生きているなんて許さない。影らしく
そして、2人を殺す。
それが生き残った私の責任・・・生きる意味だから。
◇
捨てきれない過去。
受け止め方も見えていたものも違う両者は同じ痛みを持ちながらも、その視線はすれ違う。
それは思いの先にある目指すものの違い。
やがてこの違いは激しさを増し、もう一人の
以上でした。
お読みになって思い当たってる方もいるかもですが本作のエムは『織斑マドカ』ではなく、固体番号のMです。つまり名前は無し。
『マドカ』なんて影も形もない。
誰に求められたわけでもなく強迫観念に突き動かされているのは、昔の一夏と同じでもあります。
Fateっぽい【クラレント】は由来がそれっぽかったので。ただの兵器で亡国企業の社長の趣味。ビームも雷も出ない。IS脱いで使ったら威力が上がることもない。
千冬がアメリカ行くのでシャル&ラウラ編は出てきません。彼女無しで学園は大丈夫なのか!?(原作にいても役に立たなかったとか言わない。)
では今回はこの辺で。
感想・質問・評価、何でもよろしくお願いします。
――吸引力の変わらないただ一つのどうでもいい余談――
臨時教員で放り込まれたのでリヴァイブとヒリングは次章以降も普通に登場します。