今回はラウラが日本に来るまでの話。
ラウラだけじゃなく世界的な情勢も絡んできますし、今後に関わる話しも出てきます。
では本編を。
第三十話 落ちこぼれの黒ウサギ
なぜだろう、いつもと変わらない景色に誰かがいないと感じてしまうのは。
どうしてだろう、どうして私だけが出来損ないになってしまったのだろう。
心の疑問は今も消えることがない。納得できない何かが今も私の胸の奥で燻り続ける。
――西暦2112年5月(リヴァイブ達の襲撃より少し前) ドイツ オリーヴェ基地――
「納得できません!」
ドイツに点在する軍事基地。
その数ある中でも、特に大規模なこのオリーヴェ基地を独自使用が許された部隊がある。名前は『シュヴァルツェア・ハーゼ』。黒ウサギを意味するその由来は、全員が同じ黒の眼帯と帽子を着用する姿からきている。
その隊長室に静けさを破る大声が響いていた。
室内にいるのは3人。
一人は椅子に座った女性。高そうな木製机に肘をついて思案顔を浮かべている。腰まで伸ばした青い長髪と、目の下にできたクマが特徴的だ。名前は『シュヴァルツェア・ハーゼ隊長 シュルシェ・ヒルデブラント』、階級は大佐。
続いてシュルシェの横に控える黒髪を短く切り揃えた女性。怒声を上げた三人目に対して厳しい視線を向けている。『シュヴァルツェア・ハーゼ副隊長 クラリッサ・ハルフォーフ』、階級は大尉。
そして今、二人に向けて怒鳴った少女。体格は二人よりもまだまだ小さく幼い。シュルシェと同じ、腰まで届く銀髪が彼女の人目を引く整った顔立ちを更に映えさせる。だが今その人形めいた顔は怒り一色に染まり、柔らかさなど感じることもできない。『シュヴァルツェア・ハーゼ隊員 ラウラ・ボーデヴィッヒ』。階級は少尉。
小さい体の全身から怒りを表現するように肩を震わせ、もう一度叫んだ。
「IS学園への転属など・・・私は納得できません!」
「大声をあげるのは止めなさい、ボーデヴィッヒ少尉。隊長の前ですよ。」
「いいんだ、クラリッサ。彼女が激昂するのも無理はない。」
非難する目でたしなめるクラリッサに比べ、シュルシェは机の上で重ねていた手を組み替えて、静かにラウラの目を見つめた
「ふう・・・とりあえず間違っている場所を訂正しておこうか。1つ目に転属ではなく留学扱いだ。軍務ではなく学生として行ってもらう。」
「ですから私は日本などに――」
「2つ目、これは依頼でも希望でもない上官命令だ。ラウラ君の気持ちがどうでも、行きたくないという要望を聞くことは出来ないよ。」
ため息をつきつつ、シュルシェに切って捨てるように言われて、ラウラも口を閉ざした。目の前の隊長は無愛想なわりに優しい性格だが、一度決まったことを私情で変更してくれるほど甘くない。
本来、こうして抗議に来ているラウラに会ってくれているのもあり得ないのだ。
だが、ラウラにも反抗するだけの思いがあった。
「・・・なぜ私があんな極東の島国に行かなくてはならないのですか?」
「この1、2カ月、君の隊としての活動や個人の模擬戦績に不調が報告されている。先日のテロ鎮圧に出向いた時には暴走までして、部隊の何人かを戦闘不能に追いやってしまっている。
『これは周囲との人間関係とかで苦しんでいるせいだ。どうせなら休暇の形で、通っていなかった正規の学校に通わせてあげよう』、と上からの
「・・・成果を出せない出来損ないは軍には要らないということでしょう。」
「身も蓋もない言い方をすればそうなる。代表候補生の肩書きを与えるのも、それに見合う働きができないなら帰国を許さないためなのだろうさ。」
取り繕うことなく、ラウラの本音を肯定する。
(まただ・・・また私だけが落ちこぼれて。)
「上はそう思っているようだが、私は君のことを評価しているつもりだ。」
シュルシェが左眼にあてた眼帯を指でなぞる。その動きを見たラウラも自然と左眼の眼帯を撫でた。この眼帯の下にある眼はラウラを助ける役割を果たすはずだった。それが今は彼女を苦しめるための役にしかたっていない。
ドイツ軍のトップエリートだったラウラ。最初からエリートだったわけではなく、特殊な出自も合わさって入隊当初は落ちこぼれていた。
その落ちこぼれていた時代に織斑千冬と出会い、教えを受けることでトップに立つまでの存在になれた。
しかし1年前、その彼女やISを使える兵士に【ヴォーダン・オージェ】と名付けられた機械を左眼に埋め込み、ISとの適合係数と性能を上げる。そんな計画が持ち上がったのだ。
そのはずが移植の遅れた彼女にだけ最新の試作品を移植してみると力を大きく削ぎ、部隊でも軍でも一気に落ちこぼれてしまった。
人目など気にしてもいないが隊長や織斑千冬に目をかけてもらいながら、ふがいない自分が嫌だった。
挙句の果てにはおかしな現象まで起こるようになり、今は隊から外されて東の端に送られようとしている。
(なぜだ、なぜ私だけがこんな目に)
「【ヴァロル・オージェ】を移植した結果、不適合だったことは不幸なことだ。しかし、それと君の最近の不調を結び付けるのは性急だろう。
・・・教えてくれ、今の君に何が起きている?」
疲れをにじませるクマが出来たシュルシェの右眼は、切実にラウラへと訴えかけてきていた。仕事だけに従えばこちらの意見など聞く必要もないはずなのに、あえて聞いてくれようとする姿勢には心が揺るがされる。
「・・・いえ、何もありません。書面にあるように3日後には日本へと発ちます。それでは失礼しました。」
しかし答えることはなく、ラウラは隊長室を後にした。
不調の原因は知っている。だがきっと言葉にしても隊長たちには理解できない。
(見たこともない女が見え、声が頭に響くなど・・・気が触れたとしか思われまい。)
そして部屋を出るまで、ラウラはシュルシェの目もクラリッサの目も見ることが出来なかった。
◇
ラウラが去った部屋の中でシュルシェは張りつめさせていた息を解いた。
「・・・話してはくれなかったか。心配する者がいることだけでも伝わっていればいいが。」
あの子、ラウラは一人で思いつめすぎるところがある。出自に関わる研究員や落ちこぼれから這い上がるまでに親しくなった織斑千冬しか、信頼を寄せていないというのがシュルシェの見立てだった。
(オラーケル研究所で生みだされた製作品。人工子宮の中で成長を速めた為、外見年齢と実年齢に誤差有り、とのことは引き渡しの際に聞いたな。)
あの事件で存在ごと世界から非難の的になったオラーケル研究所が、事件より2年ほど前に唯一完成品として提供してきた少女、それがラウラ・ボーデヴィッヒだった。
むしろ5年も何の問題も起こさずに良く成長してくれたと喜ぶべきかは分からない。
その出生に関わる理由から彼女は部隊でもはれ物のような扱いをされ、ラウラの方も自身の立場を感じ取って人並以上の成果を上げることだけに躍起になっていた。
(実際には思っている以上に部隊や軍から心配する声は大きいのだがね。)
「隊長が甘すぎるのです!自分の言いたいことだけ言わせて帰るとは!」
「ふむ、適切な意見は嬉しいがクラリッサ、彼女は出ていったから本音を出しても構わないよ。」
するとクラリッサはポケットから写真を取り出す。隊員たちで集合写真を撮った時のものだ。
そこで大仰な身振り手振りで写真の片隅に移ったラウラを指さす。全員がかたまって写真に写っている中、一人外れて無愛想にそっぽを向いている。
「大体、隊長は分かっていません!ラウラ少尉の可愛らしさについてもっと知るべきです!
集合写真でもぶれない、このクールさ!時に見せる熱さ!弱弱しくなったときのレアな表情!・・・etc」
「ぶっちゃけ過ぎだ。」
それまでの憤慨した内容から、ラウラの可愛らしさを語る内容について切り替わった話にシュルシェが憤慨したくなる。
心配するというか、ラウラを一種のアイドル的存在に考える声が軍の中でも大きいらしい。人形のように整った外見に、子供のようにほうっておけない感じがするところに保護欲が掻き立てられたりするのだろう。密かにファンクラブまで存在するとのもっぱらの噂だ。
苦しんでいる自分をこうした目で見つめる人間がいると知るべきか否か・・・。
Prrr Prrr
「ですから隊長も『ラウラたんを愛する会』の会員に!この会はラウラ少尉の可愛らしさにはまった、ある研究者が設立したと言われるくらいに由緒正しく・・・と、隊長、お電話です。少々お待ちを。」
鳴った電話音に反応してクラリッサが手元の通信端末を動かす。すでに先程までの暴走ぶりは鳴りを潜めている。
というか、どこの誰かもわからない研究者が作ったのが由緒正しいのか?
「誰からかな?」
「はい・・・はい・・・、イギリス軍P.A部隊のレオハルト大佐から有視界通信です。」
「レオハルト・・・現ノブレス・オブリージュの騎士様がうちに何の用だか。」
訝しみながらも、シュルシェは通信を引き継いだ。
通信を受けると同時に部屋に付けられたプロジェクターが壁に映像を映し出す。数秒で壁にシュルシェと同じく椅子に腰かけた男性の姿が映された。
男性の歳の頃は30歳前後。シュルシェより少し年上くらいだ。金髪は短く切り揃えられ、軍服も乱れなく整えられている。清潔さや高貴さを感じさせる顔立ちが好印象を与える美男子だ。
『まずは先約も無しの非礼を詫びさせていただく。ドイツ軍特務部隊シュヴァルツェア・ハーゼ隊長、ヒルデブラント大佐。』
「前置きや中身のない話は苦手なんだ。本題に入ろう、レオハルト大佐。」
腰を折ってまで謝罪するレオハルトの姿に、このために有視界通信にしたのではないかと思えるが先を促す。
『先日、我が属領のサウジアラビアにある油田開発施設を襲ったテロリストについて、1つ判明したことがある。』
サウジアラビアのテロ、まさしくラウラとの話にも出てきた彼女の暴走した事件のことだ。
「どこの組織か、目的が何か、そのあたりが分かったのか?」
『考えうるのは亡国企業・・・世界的にISの強奪を行っている匪賊と同類と見ているが、確証はない。分かったのはメンバーの一人についてだ。』
『名前はジュリアス・エメリー。元はイギリス軍で我が隊の先代の隊長を務めた女だ。』
「・・・へえ、どうしてまたそんな人間が?
『彼女の仔細については身内の恥に関わる故、私の独断では語りかねる。許されよ。問題はこの女も含め腕利きが匪賊にそろいつつあるという事実だ。』
「君が警戒するほどの輩がサウジアラビアの油田を狙った・・・ただの反政府活動ではなさそうだね。」
『この懸案について、近く会談の場を持ちたい。了承していただけるだろうか?』
「奇遇なことにうちの隊の一番の懸案が明後日には去る。予定的にも問題はないね。」
『では日程は追って連絡させていただく。多忙である最中に失礼した。』
会話始めと同じく唐突に会話を終えながらも、優雅に一礼することは忘れずその映像は切られた。
(元イギリスのエースが亡国企業に・・・?ただのテロ組織と甘く見ていられないな。面倒なことだ。)
◇
――――翌日 ドイツ国内のとある研究所――
日本に行くことを決めたラウラはオラーケル研究所の消滅後、今でも定期的にメディカルチェックを行っている研究所で調整を受けていた。
薄い手術着のような服一枚で次から次に検査を受けては、問題なしの成績を出していく。
「脳波、脈拍、体力、知力・・・目立った異常はなし。至って健康体そのものじゃの。」
「・・・やはりおかしなところはないか。」
「浮かない顔をしとるな。ははあ、さては好いとる男でもできたか?」
白髪と白ヒゲを蓄えた老人が、機械に横たわったラウラの顔を覗き込む。にやにやと面白そうにした顔にラウラのパンチが突き刺さる。
「あいたぁ!場を和ますための冗談じゃぞ?!」
「人が落ち込んでいる時につまらんことを言うからだ!」
「だからって殴るこたぁないじゃろう。おー痛い痛い。」
「手加減はした、後は知らん。」
赤くなった鼻をさする老人。医療用ベッドの横にある自身の机で何か探しているようだ。
怒り心頭といった口調のラウラだが、本当はそうでもない。部隊の仲間相手だとこのような冗談を言われても上手く切り返せずに、微妙な空気になってしまうことの方が多い。
オラーケル研究所で生まれたとされる時から面倒を見てくれているこの老人のように、気心が知れているからこそできることだった。
今の殴ったのもほとんど力は込められていない。鼻血も出ていないのはそのためだ。
不調の原因は隊長たちにも信じてもらえないかもと感じたが、この博士なら話してみてもいかもしれない。今の会話で気の置けない相手だと思いだしたラウラは、博士へと話し出す。
「・・・博士。」
「ああん?なんじゃい?」
「最近の私は隊での成績が落ちている。ひどい時には暴走で味方を巻き添えにしたこともあった。」
「聞いておるよ。」
「その理由を軍は【ヴァロル】との不適合による適正低下だと見ているが・・・博士はどう思う?」
「違うじゃろ。」
思っていた以上にあっさりと否定された。
「ワシの知る限り、不適合で適性が下がっても、暴走に陥るような欠陥品とは聞き及んでおらん。
お前さんの方が心当たりはあるんではないか?」
「・・・無くはない。」
そして思い切って、最近の不調を話しだした。
妙なもの、といっては見てもそれほど大層なものではない。
見えるタイミングは決まって寝たあと。夢の出来事とするには妙にリアルな感じでもってラウラに訴えかけてくる。
見えるものはどこかの日常を切り取ったような映像。誰かに手を引かれて道を歩いていたり、誰かの膝に抱えられてヒーローのアニメを見ていたりだ。
ラウラはいつもその誰かと一緒にいる人間の目線で世界を見ている。視界の高さからして恐らくまだ5歳になるかくらいの子どもの中だ。
普通の人間なら子どもの頃の記憶を見ているんだろうとなるが、ラウラはそうはいかない。彼女に5歳くらいの頃など存在しないのだから。
「なるほどの。成長させて今とほぼ変わらん体駆で生まれたお前さんが、5歳児の体験などあるはずがないのう。」
「予知夢か何かとも思ったが、毎回別の映像が見えて一貫性もない。気になって寝不足にさせられた。段々、その誰かが今の自分が見ている景色にいないのがおかしいと感じるほどだ。」
「影響を受けすぎじゃな。・・・そのもう一人の誰かとやらの顔は見えんのか?」
「そこだけはいつも靄がかかったように見えない。声も聞こえはするが記憶に残りにくい、知っているようで知らない、変な声だ。」
うむむ、とうなって博士は考え込む様子を見せる。
邪魔をしまいと黙ったラウラは見続けている夢を反芻する。
ただ夢と断じるにはあの夢は妙に生々しく、生活感に満ちている。本当に日常の何でもないような風景がパラパラと見えるだけなのだ。
ラウラは軍人を辞めたいとも思っていないし、まったりした生活を欲してもいない・・・そのはずだ。
それとも声までラウラを止めようとした言葉ばかり聞こえてくるのは、やはり辞めたがっているということなのだろうか。
そこまで悩んだところで、博士が顔を上げた。
「やはりあれではないかの。日常に疲れたラウラちゃんの心がたまには休めと教えておるとか。」
「そういうことなのだろうか・・・」
「まぁ、良い機会ではないか。日本への留学ついでに羽を伸ばして向こうで友達も作ってくるとよい。部隊は女ばかりじゃし、なんじゃったらいい男の一人や二人ぶふぉっ!?」
「だからつまらないことは言うなと言った!」
懲りずに余計なことを言って殴られる博士。気のせいか孫をかわいがる祖父のような雰囲気さえもする。
これ以上ここにとどまっても無駄だろう。立ち上がって、旅の用意をするとしよう。
腰を浮かせたラウラに今度は博士が疑問の声を上げた。
「しかし暴走はなぜ起こったのかは分からんな。その夢か幻かも暴走を誘発するとは思えんし。」
「・・・」
「まさかと思うが、【シュヴァルツェア】を【レーゲン】以外に幾つも同時使用しとるんじゃあるまいな?」
博士の言った言葉に心当たりがあったラウラは思わず体の動きが止まってしまう。付き合いの長い博士にはそれだけでラウラが何か隠していると感づいた。
「また勝手なことをしおって!!いつも言っとるじゃろ、【レーゲン】以外の同時使用は一つまでにしておけと!!
暴走して全機展開などしたら死人が出るぞ!」
冗談を言っていた姿とは打って変わって烈火のごとく怒りを見せる。自身の軽率な行動が周りに迷惑をかけていた自覚もあり、今度はラウラも何も言い返せなかった。
ガミガミと立場がそれまでとは逆転して怒られるのを粛々と受け止める。たっぷり30分はお説教されてようやく博士の怒りは収まった。
「良いな、日本で何かISを使うようなこととなっても【レーゲン】までじゃ。暴走などしては悲惨で済まん。」
「・・・分かった博士。次からは気をつける。」
「暴走に気をつけて笑顔で友達作るだけにしとくんじゃぞ!笑顔を忘れないことじゃ!喧嘩などもってのほかじゃぞ!」
まだ疑わしく見つめる博士を尻目にラウラは研究所を後にした。
◇
「・・・ふぅ、どうにか隠し通せたようじゃの」
ラウラが研究所の窓から見えなくなったところで、博士は息を吐いた。
危ない危ない。夢の内容を聞いたところで、ひょっとしたら顔から何かを感じ取られてしまうのではないかと不安だった。
知られてはいけないのだ。少なくともあの女が自らラウラに正体と真実を打ち明ける時までは。
先程まではラウラの寝ていた医療用ベッド。もうそこには誰もいない。
空になったベッドを椅子から眺めて、博士はおもむろに引き出しを開いた。そして中から何かを取り出す。
「ラウラちゃんは無事に育っとるよ・・・じゃが封じた記憶が顔をのぞかせ始めているようじゃ。」
聞き手もいない虚空に向けて博士はつぶやく。
「生まれてもう60年。あの世に呼ばれてももうやり残しなんぞ思いつかん。
・・・ただ、あの子とお前さんがまた会えるのかだけが気がかりなんじゃわい。」
すでに興味をなくして記憶に残ってもいないのだろうか。
だから迎えに来ないのではないか。
ラウラを診断して見送った後は、いつもこうして思索にふけるのが日常化しているのだ。
「それが済むまではお迎えが来ても残ってやらんとなぁ。」
手にしていたあるもの、すでに色あせた写真を机の上に放る。ひらりひらりと机の上に着地した写真は、クラリッサが取り出したものと似た集合写真だった。
写真の中では男女入り混じってカメラへとピースサインを向けている。学校での写真なのか、色合いの似た制服を誰もが着ている。
そして3列になって撮られた写真の最前列、その中心でラウラにそっくりな少女が隣の男子の肩に腕をかけて、満面の笑みでピースサインを決めていた。
顔こそそっくりでも受ける印象はまるで異なる。瓜二つの別人だと事情を知らぬ者が見れば思うだろう。そして博士はこの写真とラウラの事情を知る数少ない個人だった。
「求めたものはまだ見つからんか、友よ。」
椅子にもたれかかって博士は眠りにつく。ラウラを取り巻く事実が解決できる日が来ることを祈って。
◇
――さらに翌日 ドイツ ブランデンブルグ空港――
「――さん、――の件について一言!」
「世界で2人目の――!」
気が進まない中、ラウラがやって来た空港は妙な喧騒に包まれていた。
しかしラウラにはそれが余り耳に入っていない。
(一応制服に腕は通したが、気分は上がらないな。)
片手のボストンバッグよりも心に抱えた悩みのほうが重い気さえしてくる。
まだ気になり続ける声や幻のこと(この留学で聞こえなくなればいいが・・・)。
新たに向かうIS学園での人間関係のこと(おそらく教官、織斑千冬がいるので何とかなるはず・・・)。
いまだ扱いきれない自身のISや不出来さのこと。
不安や苛立ちが募ってイライラし、こんなことでイライラする自分にまたイライラしていた。
だからだろう。
前から走ってきた人影に気づかなかったのは。
「いたっ!」
「あいたた・・・ごめんね、怪我はないかな?」
「・・・大丈夫だ。心配されることはない。」
怒りをぶつけてやろうかと思ったが、博士から笑顔をと言われたのを思い出す。笑うのは難しいが、ここは穏便に済ませよう。
「ん?ひょっとしてその制服、君もIS学園に行くの?」
「貴様もか。ドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」
「ここで会うなんて奇遇だね!僕はシャルル・デュノア。一応、フランスの代表候補生ってことになってるよ。
気軽にシャルルって呼んでくれるとうれしいな!」
相手の服装を見ると、資料でも見たIS学園の男子生徒用の制服だった。
少女と間違えるほどきれいな顔立ちをした少年シャルル。太陽の代わりになりそうなほど晴れやかに笑う彼に、ラウラは一瞬だけ翳りを見つけたような気がした。
だが、すぐにその感覚は失せ、見間違いだろうと思い直す。
「それでシャルル、何を急いでいた?注意力散漫だった私も問題だが。」
「それは・・・っと来た!」
「何を、うわっ!?」
走り出そうとしたシャルルが、なぜかラウラの腕までつかんで走り出す。
手を引かれながら後ろを振り返ると、記者やらマスコミやらと思しき人間が大勢追いかけてきている。
「なぜ追われている!?」
「ちょっと色々あってドイツに来てから、日本に行くことになってたんだけどね。マスコミの人はまだ僕でニュースを作りたいらしくて!」
そういえば宿舎でもそこそこ盛り上がっていたような気がする。なんでも二人目の男性操縦者が見つかったとか何とか。
悲しいことにラウラは周りからニュースネタを振られるほど中が深まっていないし、自分のことで大変だったので特に意識していなかった。
「だからこうして逃げ回っているわけ!」
「おいシャルルさん、IS学園の女子生徒を連れているぞ!」
「ドイツの代表候補生ね!早速スキャンダルにするわよ!」
何がスキャンダルだ。追い回されているのから逃げているだけだと言うのに。
ちょうどいい怒りのはけ口ができたので、少しだけやってやることにする。
(他人にずけずけ踏み込むグズ共が。)
眼帯に隠れた目に力をこめる。
傍目から見ると、ラウラが目でマスコミ陣を睨んだだけに見えた。
にもかかわらず、全力で走っていた彼らは前から順にドミノのように転がる。前のめりに倒れた彼らの手から、機材やカメラがあちこちへと飛んでいった。
「これで飛行機に乗るまでは大丈夫だろう。」
「すごいね!何をやったの!?」
「ただのマジックだ。」
(それもISに助けられての、な。)
ようやく誰も追ってこなくなったことを確認して、2人は足を止める。奥まった通路の陰に身を隠した。
「無いとは思うが、搭乗開始時刻までは隠れておけ。」
「うん、そうさせてもらうよ。ラウラこそ平気かな?追いかけられて顔を見られちゃったかもしれないけど。」
「また転ばせるだけだ。」
「あはは・・・お手柔らかにね。それじゃあまた、学園であったらよろしくね。一緒のクラスだったらいっぱい話したいから。」
「・・・気が向いたらだぞ。」
手を振るシャルルを通路の影に残して、ラウラはゲートへと再び歩き出す。
衝撃の出会い方をしたが、なんだか彼とは異性ながらも仲良くやれそうな気がする。
少しの気恥ずかしさから無愛想に返事をしたが、心の中の重石が少し軽くなった気がした。
(やはり喧嘩はせずに仲良くしなければ。さて、早く教官の元へと行かないと。)
◇
この数日後、日本でであったIS学園の生徒と喧嘩になりかけるのだが、それはまた次の話である。
以上でラウラが日本にやってくることとなりました。
武装について、【シュヴァルツェア・レーゲン】と【シュヴァルツェア・ツヴァイク】だけが本編の登場でした。
ですが、本作では【シュヴァルツェア・レーゲン】が大分変化しております。戦闘の回で詳しく!
ジュリアス・エメリーとレオハルトはACfaからのキャラクターです。でもってエメリーとは幕間でラウラの日本来日をスコールに伝えてた人。
では今回はこの辺で、感想・質問・評価、何でもよろしくお願いします。
――今回のどうでもいい余談――
原作機体の中で面影も無く変わるのは鈴とラウラかと思われる。
鈴には例の黒雷、でラウラは今回からわかるように別物となります。