IS×00 夢を目指す者   作:王天君

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 どうも皆様。何とか7月中に2話目が投稿できました。
 今回はラウラ編なのにラウラ成分薄めの回です。
 何するのかというとタイトル通り。
 

 千冬の新型機体も最後の方に登場。


第三十二話 ルール変更

――6月 IS学園――

 

 その日の朝はいつもと変わらない気がした。

 窓から差し込む日差しも、目覚まし代わりにしている鳥の鳴き声も、いつもと変わりなく頭に入ってくる。

 だが何か、強いて言うなら空気の違いというべきものを感じ取った。

 部屋の中をぐるりと見まわしてみて、その原因を探ろうとする。鈴の告白の次の日には部屋に戻ってきた箒はまだ寝ている。

 夏も近づいてきた今は布団を深くかぶって寝るわけもなく、自然体で寝姿を晒している。

 

「箒はうなされてるわけでもないし・・・」

 

 ベッドから落ちて床で3色のハロがごろごろ転がっているのも特に変わったところでもない。

 相部屋になったばかりの頃は「寝顔を見るな!」と枕を投げつけられたこともあった。それも昔の話で一ヶ月近く経った今では特に気にせず仲良く寝ている。

 

『『『zzz・・・zzz』』』

「この3人はいつも通りだし・・・」

 

 まだ部屋を共にして一週間と経っていなくても彼ら、リヴァイブとヒリングは我が家も同然にくつろいで寝ている。

 

(ロボットって言うより団子っぽいな、こいつら。いや饅頭でも間違ってないのか。)

 

 昔の歌謡曲紹介の番組で聞いたな。たしか団子の三兄弟だか三姉妹だとか言われていた気がする。

 串でも用意したら意外といい装飾品になるかもしれない。すでに学校の備品の彼らにそんなことできないのでしないが。

 

(ひょっとして気になってたのは・・・)

 

 今日からリヴァイブ達が本格的に教師役で手伝いをするとか言ってたな。気になっていたのはそのことか。

 

「さてと、すっきりしたところで箒が起きてくる前にランニング行くか。」

 

 それでもまだ何か頭に引っかかる気がしたのだが、この時はまだ気のせいだろうと頭からさっさと忘れてしまうことにした。

 

 

 

 

 朝のトレーニングも終えて、寮で箒たちと朝飯を食っていると大型備え付けテレビからニュースが聞こえてきた。

 

『・・・先日、突然のロシアのメアリー・シェリー女王陛下の逝去を受け、ロシア外務省は後任としてリリウム・オルコット様を次期女王として擁立することを発表いたしました。しかしこの決定には中亜連合評議会議長「王小龍(ワンシャオロン)氏」が影響を及ぼしているとの噂もあり、ロシア国内では動揺と反発の声が強く出ている状態です。

 亡くなられたメアリー陛下はまだ20代の若さで独裁統治を敷くことで知られていました。合理主義を追求する政治の進め方は強引である一方、その政治へのひたむきさが生む熱意に惹かれる者も多く、魅力ある統治者として名を知られていました。

 また自国生産のパーツを取り入れた狙撃用P.A.【プロメシューズ】のパイロットでもあります。3年前の第2回モンドグロッソと並行して行われるようになった技術博覧会総合上位者決定戦、クリゲル・マスカレドのP.A.部門では第2位の記録を残すなど、文武ともに高い評価を認めさせる実力者でした。』

 

 最初に王冠を被った黒髪の美人が映った後、まだ俺達と歳も変わらないくらいに見える少女がカメラにクローズアップされる。いや下手をすると俺達より年下なのだろうか。

 先に映ったメアリーという人は色が黒中心で黒の女王って感じがした。

 それに対してこちらはこちらで異常なほどに色が白い。髪が白くて目が赤いところを見るとアルビノっていうのかもしれない。女王って言うよりは王女様って感じだ。

 

(オルコットってセシリアと同じ名字だよな。親戚か?)

「なによ、見惚れちゃって。あんな顔色悪そうな女が好みなの?」

「本当なのか一夏!?」

「違うわ!」

 

 注目していたせいでいらない誤解を受けた。

 冷やかしをしてくれた鈴と箒に言い返す。即座に反論してみると鈴は大して気にした様子もなく味噌汁をすすっている。聞いてみただけ、と無関心を装っているが髪をつまんでみたりしているあたり色が気になるらしい。

 似合ってるから気にしなくていいのに。

 しかし鈴はともかく何で箒まで食いついてくるんだ?

 

「セシリア、名字が同じだけど知ってる人か?」

「さあ?存じませんわ。ロシアにも親戚の家はありますけど、あちらとは疎遠ですの。」

「私も姉さんのIS騒動のせいで親戚付き合いは殆どない。」

「私は…今はあんまり…仲が良くない、かな。」

「あたしなんか親以外親戚いるのかも知らないしね。」

「親戚か・・・」

 

 一夏には親戚と呼べる間柄が全くいない。いないというか知らない。

 親が一夏と千冬を置いて失踪した時に、千冬が自分で育てると言って以来会う機会もなかった。広い世界のどこかで暮らしているのかもしれないが、年賀状を送る付き合いがあるのも五反田家の人しかいないので興味もない。

 そこまで考えたところで気づいたことがあった。

 

「みんな千冬姉見てないか?」

「見ていないが、織斑先生がどうかしたのか?」

「鈴とクラス対抗戦やった日から見てないんだよ。もう3日だぜ。昨日も簪と訓練してても何も言ってこなかったし。」

「この学園の中にお住まいなのに3日も見ないのはおかしいですわね。」

「えっと…風邪を引いた…とかじゃ。」

「ちょっと待って!それじゃ昨日一夏は簪と遊んでたわけ?

 なんであたしも誘ってくれなかったのよ!」

「そうだ、なぜ私も誘わなかった一夏!」

「そこは重要じゃないだろ!?遊んでもないからな!」

 

 昨日のことを話しだすと、ドイツからやってきたというラウラのことも話すことになって長くなるし放っておこう。

 誘おうとはしたのだが運悪く捕まらなかったのだ。いや、昨日鈴や箒がいたら喧嘩になっていた可能性もあるから運は良かったのか?

 さて千冬姉はどうしたんだろう?

 体調を崩したとしても3日も教えてくれないなんて・・・ありうるか千冬姉なら。

 

(「自身の体調管理を怠った不甲斐ない姿を弟に見せられると思うか?」とか言いそうだもんな。そんなの気にしないでいいのに。)

 

 自分にも他人にも厳しいあの姉なら言いかねないのが困ったところだ。

 困っている時は誰にでも頼ればいいだろうに。

 

(俺が言えた話じゃないか。)

 

 いつも一人で突っ走ろうとする俺には千冬姉を非難する資格はない。考えてからそれに気づいてなんとなく苦笑いがこぼれた。

 

「・・・・で・・・・だから。」

「そうなの!・・・ってことは・・・」

「それじゃ・・・君も・・・!」

 

 なんだか周りが騒がしくなってきた。

 騒いでいるのは鈴や箒ではなくて他の寮生たちだ。

 いつも朝食の時の寮は騒がしいが、今日はひと味違う気がした。いつもは特に縛りなく盛り上がっている感じだが、今日は特定の方向に熱が寄っているような・・・

 聞くのは簡単だが、いつも知らないことばかりと思われるのも恥ずかしいのでそれとなく聞いてみる。

 

「賑やかになってきたけど、みんな何に興奮しているんだ?」

「もうすぐタッグマッチがあるからそれで盛り上がってるんじゃないの。」

 

 タッグマッチ・・・そういえば年間行事予定にそんなのがあったな。

 もう一度周りを見てみると、あちこちで騒いでいるように見えて、視線は俺達の方に固まっている。前回は各クラスから一人ずつしか参加できなかった分、今度は誰もが出ようと躍起になっているのかもしれない。

 ただ、俺達1年生だけでなく2,3年生のフロアからも視線が集まっているのには何やら嫌な予感がする。しかも明らかに勝利を目指すのとは違う種類の熱を感じるような・・・

 

(まさか闇討ちとか・・・ないよな、さすがに。)

 

 たかが学校行事にそこまで入れ込む生徒がいるはずがない。

 とにかく朝から感じていた空気の違いはこの量の中に生まれていた熱気だったのだろう。そう自分を納得させて俺は残った朝食をかき込んで教室に走るのだった。

 まさかここから30分とせずに自分が感じた違和感、上級生が盛り上がっている理由を知ることになるとは思いもしなかった。

 

 

 

 

「はいはーい、それではみなさんにいくつかお知らせがあります!」

 

 少しして学校のHRの時間。

 教室に入ってきた山田先生が伝達事項を伝えている。後ろにリヴァイブとヒリングが続いているという事は、ここでクラスのみんなにも教えておくつもりなんだろう。

 

「まず織斑先生ですが、3日前のクラス代表対抗戦の後、急遽アメリカに出張が決まったのでしばらく戻ってこられません。」

「えー!」

「真耶ちゃんだけで大丈夫なのー?」

「テストはー?」

「はい静かにしてくださいねー!それでですね、先生一人だと手が足りないのでこの二人に手伝ってもらう事にしました。どうぞー!」

 

 促された2機のハロが教卓の上に飛び乗る。

 

『リヴァイブダ、リヴァイブダ』

『ヒリングヨ、ヒリングヨ!』

「ヒリングさんは部活で見た人もいるかもしれませんね。」

 

 パタパタ開く耳から手を取り出して愛嬌を振りまいている。リヴァイブの方はあまり目立ちたくないって感じで控えめだ。元から仕事に真面目な人間って感じもしたから妥当なところだろう。

 ヒリングはむしろノリノリで手を振っている。こういう人前でアピールが好きかどうかは本人たちの性格が良く出ているな。

 というかあそこから手が出せたんだな・・・

 

「かわいいー!」

「マスコットみたい!」

 

 クラスメイトからの評価も上々と言った感じだ。少なくとも受け入れられていると見ていいだろう。

 さて特にあいつらの正体がここを襲撃したのと同じだとも気づかれていないし、今日も平和に1日が―――

 

「お二人ともありがとうございました。

 ・・・ええー続いてなんですが、また新しくクラスにメンバーが加わります。」

 

 ・・・それがあったな。

 ラウラも留学してくると言っていたし、留学先がこのクラスでも不思議はない。

 

(・・・ん、二人?)

 

 ラウラだけじゃなかったのか?

 

「それでは入ってきて下さい。自己紹介もよろしくお願いしますね。」

 

 教室のドアを開けて、呼ばれた者たちが入ってくる。

 

「ドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。迷惑をかけるかもしれないがよろしく頼む。」

「キャー!」

「可愛い!」

「お人形さんみたい!」

 

 一人は予想通り銀髪と眼帯が特徴的な美少女、ラウラ。

 簪や本音に挨拶したようにテストにでも出そうな挨拶だ。それ以上は語らず、クラスの反応にも眉を少し動かしただけだ。

 

「・・・ふんっ!」

 

 座っているのを見渡して俺を見つけたかと思うと、あからさまに顔をしかめた。てっきりまた掴みかかってくるかと思ったが、昨日言いたいことを言って少しは溜飲が下がったらしくそれ以上反応は見せない。

 とそこでゴロゴロとヒリングが転がってきたかと思うと、俺の膝の上に飛び乗ってきて、

 

(ちっ!)

(わざわざ俺のところまできて舌打ちするなよ。)

(坊や以外に聞こえたらイメージダウンになるじゃない。)

(じゃあ我慢すればいいだろ。)

(ストレスため込むのってお肌に悪いのよね。)

(その球体でどこがお肌だどこが。)

 

 脳量子波で舌打ちだけ届かせる。

 ストレス・・・ああなるほど、人気を掻っ攫われたのが気に入らないのか。静かに教卓から降りているリヴァイブを見習えと言ってやりたい。

 さてもう一人は金髪の美少・・・女?

 

「シャルル・デュノアです。第2の男性操縦者とかフランスの代表候補生って呼ばれていますけど、僕はただの学生なので仲良くしてください。

 よろしくお願いします。」

「キャー!」

「かっこいい!」

「王子様みたい!」

「あ、あはは。元気いいなー。」

 

 ズボンをはいているし、どうやら男らしい。線が細いし、てっきり女だと思ったのに。

 ラウラとは対照的に社交的な性格みたいだ。それでもクラスの反応には押されて、笑顔が若干引きつっている。

 

(・・・フフッ)

(なんだ、今度は舌打ちしないんだな。悪いものでも食べたか?)

 

 俺も延々と舌打ちを聞かせられるよりはいいが。

 

(あら、そんな口きいていいの?せっかくあの転校生の秘密教えてあげようと思ったのに。)

(秘密?ここに来る前に会ったことあるのか?)

(いいえー。でも経験で分かっちゃうのよね。()()()()()()()()()()()を知ってる奴ならわかるかも。)

 

 この自信ありげな口ぶり・・・シャルルの秘密によほどの確信があるらしい。

 楽しげに話しているし、悪いことを企んだりはしないと思うが・・・

 

(脅して言うこと聞かせたりするなよ。転校してきて傷つきやすかったりしたら大変だぞ。)

(・・・そこは後でこっそり教えてって言うとこなんじゃない?)

(なんで俺がデュノアの秘密を知らないといけないんだ?)

(・・・はー、つまんないの)

 

 真面目にそう聞くと、ヒリングはどこかへ転がっていってしまった。

 

(何であいつ怒ったんだ?)

「・・・というわけなんです。織斑君はそれで大丈夫ですか?」

「おい、一夏。呼ばれているぞ。」

「―――っえ、はい、大丈夫です。」

 

 ヒリングの去っていった方を眺めていると、山田先生から何か話しかけられていたようで箒に肩を叩かれる。

 とっさに返した答えは満足いくものだったらしく、山田先生は笑顔で頷いていた。

 

「ではこれで大丈夫ですね。やっぱり思春期の男女が同室は良くありませんから。

 それでは最後に一番大切な連絡をしておきますね。2週間後のタッグマッチについてですが・・・」

 

 いかにも重要な空気を出すかのように一旦声を区切る。

 

「ペアを組んでのトーナメント方式なのは昨年度と変わりません。しかし今年からの新ルールとして、特別賞を導入してみることにしました。」

「特別賞?」

「ISでダンス踊ったりとかすればいいの?」

「特別賞といっても対戦形式が変わったりはしませんから安心してください。

 これを獲得する手段は2つです。

 優勝するタッグの二人を当てること。そして()()()()()()()()()()()です。」

「はあ!?」

「一夏、うるさいぞ。」

「HRでも授業の内ですわよ、一夏さん。」

「そうですよー、織斑君もお静かにお願いしますね。」

「あ、はい、すいません。」

 

 3人に制止されて立っているわけにもいかない。色々言いたいことはあったがしぶしぶ座り込むしかなかった。

 

「コホン。それで特別賞なんですが、獲得した人が所属する部活には部費を特別に倍にしちゃいます!」

「「「おお!」」」

「もちろん優勝したタッグの人にも別で支給しますから、皆さんは全力で取り組むようにしてくださいね!」

 

 明らかに変なボール型教師が入ってきた時や、転校生が入ってきた時よりテンションが上がっている。

 そしてこのテンションにはピンと来るものがあった。

 

(朝の空気の正体はこれか!)

 

 上級生が先んじて特別賞のことを知っていたならあの妙な熱意も納得できる。

 彼女らからすれば俺が部活の生命線に直結するのだから熱もこもるだろう。

 

(しかしなんで俺が・・・一応シャルルも候補には入るのか。)

 

 あの簪ほどではないが押しが弱そうな転校生の様子を窺うと、やっぱり青ざめている。この学園はノリで決めごとが出来たりするから苦労するだろうな。セシリアと戦った時も食堂の食券を賭けるのが黙認されていたし。

 

(ラウラとのことを抜きにしても参加決定だな、これは。)

「それと織斑君は放課後お話がありますから残ってくださいね。」

「?はい。」

 

 こうして図らずして参加が決まってしまった。

 まあ参加しないと質問攻めにあうことは間違いないし仕方ない。

 それにしても・・・

 

(何で今年から特別賞なんて決めたんだ?)

「はい、それではもうすぐ1時間目の授業が始まるから用意をしておいてくださいね。」

「「「はーい」」」

 

 ふと疑問が浮かぶが、そんな小さなことは日常の喧騒の中にかき消されていくのだった。

 

 

 

 

 山田先生が聞いた質問を一夏はすっかり失念していた。

 それは「男性同士なので、今日からデュノア君と同室でも大丈夫ですか?」というものだった。

 もちろん聞いておらずに返事だけした一夏が部屋にシャルルがやってきたところで大慌てしたのは言うまでもない。

 経過はさておき、この日から一夏のルームメイトはシャルルになった。箒は元々部屋の余っていたセシリアの部屋に引っ越した。

 この部屋割についても一悶着あるのだが、それは別の話。

 

 

 

――同日 アメリカ ワシントンU.G.A.本社地下施設――

 

 

「まさかご依頼してすぐにお越しいただけるとは思っておりませんでした、織斑千冬様。」

「呼んだのはそちらだろうが。私が来ないとでも思っていたのか。」

 

 薄暗い地下の工場を千冬はユビアスと共に回っていた。

 出発したのは三日前だが飛行機の遅れなどが重なって、今到着になったという次第だ。

 

「あの世界最強と名高い千冬様をお招き出来たことは私としても望外の喜びです。」

「心にもないことで時間はとらなくていい。それより私が使えるようになるという機体は何処だ。」

「ええ、こちらでございます。」

 

 擦り寄るようなおべっかを一刀両断しても、ユビアスには全く動じたところが見られない。

 暗い廊下を家の中の様にすいすいと歩いて行く。

 現在千冬たちがいる位置はU.G.A.社本社ビルの地下、そこからさらに専用エレベーターで下ったところだ。軍事施設でもここまで深部に作ることはないだろう。

 どうしてこれほど地下に作ったのかそれとなく尋ねてみたところ、

 

「テロリストに飛行機で突っ込まれでもすれば社員が不憫でしょう?」

 

 と返された。何でも2000年代に起きたテロを参考にISやP.A.の襲撃にも耐えられるよう設計した結果だという。

 ユビアスの言に寄れば地上の50階はあるビルはほぼダミーらしい。社員はほぼ地下で業務に従事しており、空いたスペースに防衛設備の充実とそれらを運用する施設設備を配置してあるそうで、堅牢さはシェルター並だそうだ。

 

「ええ、ここで―――!

 ま、間違えました、もう1つとなりのあちらです。」

 

 『関係者以外立ち入り禁止区画』と書かれた扉を開けようとしたユビアスが、別の扉に向かっていく。

 

(こいつでも慌てることがあるのか。)

 

 珍しく本気で動揺したような態度が気になったが後に続く。

 この中も少し気になったが関係者以外の千冬が入ることは出来ない。大人しくユビアスの後に続いた。

 

「こちらでございます。誰か照明を。」

「これか・・・」

 

 続いて案内された扉の奥にそのP.Aは直立していた。照明に照らされてその全容が明らかになる。

 大きさは10mくらい。胸部が前に開いているからコックピットタイプ。機体色は純白に金が細部で装飾を作っている。

 背部に大きく背びれのように突き出したバインダースラスター、身の丈に迫るほどの大きさを持つ両腕のシールド、そのシールドにも機銃や仕込みブレードの影が見える。

 頭部は三方に突き出したアンテナに赤のバイザー型マスクが下ろされている。正面から見た印象は騎士然とした機体だ。恐らく白兵戦型か。

 

「白騎士に似せてあるのは私への嫌味か。・・・しかし、これを私がもらっていいのか?」

「はい。やはり千冬様の機体には白が似合うかと思いましたので。

 もっとも色々と未完成ですので、残りの2機とまとめて完成した後でのお引き渡しとなります。」

「2機?他にもいるのか?」

「ええ。この機体の名の由来ともなっていますがシリーズ品です。これは―――

 

 

――【タルシスシリーズ】試作一号機、【アルシア】です。」

 

 

「タルシス・・・火星の楯状火山の総称だったか。」

「さすがは千冬様、博識です。あの両手に持った大型の楯に合ういい名前だと思ったので引用いたしました。

 もともと当社は量産型が得意な会社なのですが、やはり専用機へも力を入れるべきと思いまして。」

 

 U.G.A.は量産型として既に【アレイオン】、【トムキャット】、【アリーヤ】、【サンシャイン】など多種を製造している。

 だがこの機体はどの系統にも似通った部分がなかった。

 

「・・・死んでも問題の無い私で実験というハラか。」

「いえいえまさか。千冬様がお亡くなりになることなどあり得ないでしょう?」

 

 それは遠回しに「死にそうにないから何してもいいよね。」と言っているに等しいのだが。

 

「で、残りの2機は【アスクレウス】と【パヴォニス】あたりか?」

「はい、まさしくその通りです。試作段階ですので変わる可能性もありますね。この系統の名前は昔ドイツにも―――っとと、これも社外秘でした。お忘れください。」

「貴様本当にユビアスか?随分と迂闊だが・・・」

「いやあ、お恥ずかしい。所用で立て込んでおりまして、情報管理も少し雑になってしまっています。

 それよりここからは長くなりますのでこちらへ。応接室を用意してございますから。」

 

 饒舌なのは変わらないがいつもより失態を重ねすぎている。この女は常に言って似て先んじようとするのが普通なはずだが・・・

 ひとまず追及は止め、千冬はユビアスの後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

――同時刻 アメリカ ワシントンU.G.A.本社地下『関係者以外立ち入り禁止区画』――

 

 

 ユビアスが間違え、千冬が立ち入らなかった場所。

 そこには一機のISが吊るされていた。だが一目でISだとわかるものは少なかっただろう。その機体には頭部も左腕も腰から下もなかったからだ。

 この世界に住む9割以上の人間はこれを見てもその正体には気づけない。その特徴的な円錐型の推進機関を見ても。

 操っていた搭乗者もなくガラクタ同然の扱いである。

 しかしシステムは生きており、中身が研究され続けていた。

 その手足も動かせない機体の名は【()()()()】といった。

 




 今回はこんな感じでした。部屋に入ってくる下りはカットしました。ほぼ原作のままなので。

 特別賞が作られた原因は次回触れますが、一言で言うと一夏が悪い。そこにヒリングが山田先生に悪知恵したって感じです。
 千冬の機体は【スレイプニール】も検討していたんですが、白が合う気がしたので【タルシス】にしました。そこにさらに改造を加えて使われる予定。
 念のために書いておくと、特殊能力は持っていません。そんなバランスブレイカーはさせない。たぶん千冬がやれそうだし。
 今のところ、初登場は福音戦を予定しています。最も福音編に入る前に別の話が入るのでもう少し先になります。
 では今回はこの辺で。次回は一夏を含めたタッグを組む相手の話になる予定です。ラウラの機体にも触れられたらいいな。

感想・質問・評価、何でもよろしくお願いします。

――相変わらずのどうでもいい余談――
 最近暑いですね。
 パソコンも熱くなって火傷しそうです(使いすぎなだけ)。
 皆様も体調にはお気をつけください。

 さて、最後にまた不穏な影が・・・誰の話でしょうか?
 一応ラウラ編だからね。原作とは違った道を辿るよ。


――???――

「――本日、対象と接触しました。寮部屋が同じとなったのでさらに監視を続けます。
 2週間後に控えたタッグマッチを利用して接近を試みる予定です。」
『分かった。そのまま続けろ。』
「それともう一人、同じ日に転入してきたものがいました。」
『・・・詳細は分かるか?』
「来日前に偶然接触した少女です。別命を受けて派遣されてきたものと思います。最も好意的ではなく、一触即発寸前の険悪さでした。」
『フン、放っておけ。『彼』の・・・織斑一夏とそのISのデータ収集が最優先だ。子ども一人に警戒するほどのこともない。』
「かしこまりました。ではそのように行動します、社長。」
『・・・フン、社長か。もっとふさわしい呼び方があるだろう?』
「あなたをこれ以外の呼び方で呼びたくありません、()()。」
『・・・ッチ、可愛げのない小娘め。まあいい、好きにしろ。』
「ご理解いただけて感謝します。」
『だが、反抗的な態度は感心しない。
 お前にとって捨てられない()()()はいつでも処分できるがどうしようか?』
「あなたはっ・・・!」
『分かったなら飼い主に逆らうべきか、分かるな?
 母親と同じように、雄に尻尾だけ振っていればいいんだよ。』
「・・・」
『ふん、激情に駆られて口答えしない程度には大人なようでなによりだ。
 さて、長く電話して気づかれても面倒だ。そろそろ切る。次はタッグマッチとやらの後で報告しろ。』
「・・・わかりました、社長。」
『誰にも気づかれるな・・・もっとも、わざとばらして情に訴えても構わんぞ。
 必要なのは結果だ、過程ではない。()()()()()()()()()()()
「・・・っ、はい。」
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