IS×00 夢を目指す者   作:王天君

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何とか書けたので投稿します。


とりあえず二つ書き終わっての注意書きです。
※今回はラウラ編(シャルルも結構描写してるけど)。
※セシリアのライバル感と鈴のヒロイン指数がエライことに(ラウラ編なのに)。


第三十七話タッグマッチ初戦 後編 バロールの魔眼

 相手と一定の間合いを取りながら旋回し続けるセシリア。

 【スターライトMarkⅡ】で行動を狭め、【ティアーズ】が生まれた隙を的確に突いていく。自動操縦モードの【ティアーズ】の照準は一夏戦の時に比べれば、格段にその精度を上げているが未だ着弾を成功させていない。

 あと数m詰めれば当たりそうに感じるのだが、何か嫌な予感がして攻撃一点に出られないのだ。

 

(ボーデヴィッヒさんの攻撃は視覚が要。撹乱のできない今は距離をとって隙を見るしか。)

 

「確か貴様、貴族の生まれだったな?」

「それがどうかしまして!?」

 

 向けられたレールカノンの砲弾をやり過ごしながら、質問に大声で問い返す。

 声を発したラウラは皮肉気に口を曲げて、セシリアを嘲笑った。

 

「なに、期待外れだと言いたいだけだ。」

「・・・」

「プライドばかり高い癖にそれに見合った実力も度胸も示せん。大したことがないのだな、英国貴族というのは?」

「あなたっ!」

 

 あまりに見え透いた挑発。こんな言葉に乗せられるのは子どもでもなくては無理だ。そして子どもは言い回しの複雑さを理解できない。

 ただ挑発しているにしても下手さが目立っている。

 つまり・・・挑発していることをセシリアに分からせようとしている。挑発に乗ってこいと煽っているのが正しい見立てだろう。

 

(いいですわ、のってあげましてよ!)

「我が家を貶める発言は許しませんわ!」

 

 あえて激昂したフリをして、後背に展開した【ティアーズ】たちと共に【シュヴァルツェア・レーゲン】へと飛び掛かった。

 表情の荒々しさとは真逆の正確さでそれぞれの【ティアーズ】が死角を補い合うように配置させていく。

 【ティアーズ】を高速旋回させながらビームを放たせ、自身もそれに乗じてライフルで狙撃を行う。明るい緑に光るビームとそれが紡ぐ光条の間を黒と青の機体が駆けて抜けていく様は、織物が織られているかのような鮮やかさを見せる。

 観客もそれに引き付けられ、心を奪われるほどだ。

 だが華やかなこれらは囮。本命は別にある。

 

「む。」

 

 ビームも銃弾もかわすラウラだが、突如視界に割って入ったものに反応しきれず結界で動きを止めた。

 

「ミサイルか。」

 

 高速戦闘の最中、その速度バランスを崩す低速のミサイルの存在。

 張り詰めた緊張感とお互いに作った攻防のリズムにはまったラウラは、ミサイルへの対処が一瞬おくれた。

 

(連続で使わせた今、意識を張りつかせればレールカノンで落とすより早く命中できる!)

「家を馬鹿した報い――」

 

 視界にとらえるには最も遠い背後を狙っての奇襲。

 加えて、ラウラの捕縛結界はすでに別のミサイルを止めている。

 手持ち武器を持たない【シュヴァルツェア・レーゲン】では射撃で距離を離して撃ち落とすこともできない。

 

「しっかり味わいなさい!」

 

 まず小さくとも損傷を負わせる。それを確信したセシリアの顔がにわかに強張ることになった。

 

「安い!安すぎるぞ!そんなことでは!」

 

 瞬間、背部ユニットから伸びたワイヤーブレードがプラズマ手刀へと巻きつく。

 大部分がらせん状に巻きつくことで長さを伸長。【シュヴァルツェア・レーゲン】よりも長い、黒色の鞭のような構造をとった。

 最後に二本が手刀の刃の延長を構成する為に覆い、ラウラの右手は一瞬で巨大なプラズマソードに変貌していた。

 その名は【フェスティリシオ】。

 力む様子もなく巨大な黒剣と化した巨大プラズマソードを振り抜くラウラ。

 その動作だけで背後に構えていたミサイルは全て撃墜されてしまう。

 

「な・・・!?」

「格上、未知の相手に余力を残す。それが驕っている・・・底が知れるぞ!」

 

 セシリアが呆気にとられたことで【ティアーズ】が制御を失い統率を乱す。そこにレールカノンが撃ち込まれて、また3つが爆炎に代わる。

 競技用ではなく兵器として洗練された装備。その違いへの驚愕が動きを遅らせた。

 

「もう一度言ってやる。大したことがない、さっさと退場しろイギリス代表。」

(避け・・・きれない!)

 

 伸びたプラズマ手刀を振るい、その軌道にセシリアも巻き込まれる。

 直撃を確信した両者を等しく驚きが襲った。

 

「どおりゃあああ!」

「な!?・・・おのれ!」

 

 黒剣の攻撃軌道に躍り込んだ鈴が青龍刀をぶち当てる。

 衝撃砲のアシストによる怪力にモノを言わせて、身長以上の大きさの攻撃を跳ね返す。

 

「勝手にやられそうにならないでよね!」

「凰さん・・・。デュノアさんは!?」

「くあひゃははははh!」

 

 機体各所から腕と武装を出現させた【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】が遅れて地面に立った。

 機体は日本の宗教像で見たアシュラ、だったかを彷彿とさせる型をしている。しかしシャルルの気迫も相まって禍々しいとしかいえない。

 

「押されてましたの?それに・・・あの姿は?」

「心配しなくても負けやしないわよ。キレたらあんなことになったのよ。」

 

 そう強がってみても鈴の【甲龍】は全身に弾痕が刻まれ、大破ほどではないが中破近くのダメージを負っている。

 青龍刀【双天牙月】も刀身の腹にひび、衝撃砲も弾丸の雨に晒されたのを示すように傷だらけの様相を呈していた。

 何より手が、

 

「その手は・・・」

「ちょっとドジった。」

 

 出血こそなかったが色が変色し始めていた。

 セシリアの見ていないところで受けたパイルが手にダメージを残していたのである。手元は震え、握るのもおぼつかないのを鈴はバレない様に必死に取り繕っていた。

  

「どおりゃあああ!」

 

 そしてまたシャルルに向かって突貫していく。

 もはや衝撃砲を使った攻撃で鈴の方が吹き飛ばされそうな満身創痍の体を押して。

 

◇

 

 鈴がまた離れていったのを確認しながら、セシリアは再度移動する。

 

「【ティアーズ】!」

 

 わずかな鈴との再会がもう一度戦う気力を呼び起こしてくれた。

 残った【ティアーズ】を【シュヴァルツェア・レーゲン】への迎撃に使わせ、自身はラウラとの距離を離していく。

 

「ち、機械に相手をさせてまだ自分は高みの見物だと!逃がすか!」

 

 それを防ぐために結界を放とうとするも、3基の【ティアーズ】が徹底的に邪魔をする。

 あるものは視界の間に入って身代わりに、またあるものは目に力が入ったところでビームを撃って邪魔をする。

 早く終わらせたいラウラは弱兵に構う気もない。3基の動きを止めるだけ止めて、あとは構わずにセシリアを追う。

 

「失望したぞ、いつまでも惨めな姿を晒して!」

 

 ラウラにしてみれば相手は一度動けなくなっておいてまだ逃げている。ダメージを負いたくないがために必死に逃げている無様な存在としか見えない。

 まともに戦えたかと思えばこの体たらく。もう関わっている時間すらもったいない。

 レールカノンを射程重視型で起動。背を向けてまだ逃げているセシリアの背に撃ち込むべく照準を重ねる。

 

「最後まで期待外れだったな、イギリス代表。」

「それはどうでしょう?」

 

 死刑宣告のつもりで発した言葉に応答があり――

 

「一つ教えて差し上げますわ。強さとはISの強弱だけではないんですのよ!」

 

――真下から放たれた銃弾がレールカノンを貫いた。

 

「下!?ビット兵器は全て封じたはず!」

 

 小爆発を起こしたレールカノンが発射不良で沈黙する。

 真下にあったのは銃と左腕だけで滞空している【スターライトMarkⅡ】。

 

(腕部のビット化・・・逃げ出したときに隠しておいたか。)

「このわたくしがただ逃げ出す臆病者だと思ったのが間違いですわ!」

 

 意識外からの攻撃に気が途切れて封印が解除される。

 

「【ティアーズ】、【三重奏(トリオ)】!」

 

 セシリアの手元に封印を抜けた【ティアーズ】たちが集まり、連結。一本の長大なライフルの形をとった。

 そのまま右腕へと装着されて腕部一体型のライフルになる。

 

「エネルギー制限リミッター解除!」

『BURST MODE』

 

 さらに【ティアーズ】推進部の羽が開き、排熱機構が全面露出、さらに銃身がエネルギーの過剰供給で赤熱化を始めた。それは腕だけにとどまらずセシリアが纏う【ブルー・ティアーズ】本体までが赤く色づいていく。

 

「【ブルー・ティアーズ】が赤く染まるか・・・」

 

 近接を挑んできた驚きではなく、脅威を感じ取ってラウラの体が強張った。

 間違いない。

 次にあの武器から放たれるのは始まってから最大の攻撃だ。窮地にあったはずの追われるネズミはいま絶大な暴力を持ってライオンに化けようとしている。

 

「発射(ファイア)!」

 

 チャージが終了すると同時にその光は砲口から噴出した。

 襲いかかるビームの大きさは【シュヴァルツェア・レーゲン】を呑み込んでもまだ余裕のある巨大な塊。

 受けてしまえば一打逆転の、まさしくセシリアにとっては起死回生の一撃だった。

 

「やっと期待通りだ。だからこそ・・・私も本気の一端を出そう!」

 

 そしてこの展開にラウラも始まって以来の高揚を感じていた。

 

 

◇

 

 

「このおっ!」

 

 鈴が振るった【双天牙月】がシャルルを斬りつける。

 

「外れはずれハズレ、あははひゃあ!」

 

 しかし刃は差し込まれた機械腕を身代わりにかわされる。

 切り落とした機械腕は消えると同時にまた新たな機械腕が【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】の背中から展開される。

 

(なら腕!)

「男がヘラヘラしてんじゃない!」

 

 今度は腕を狙っての斬撃。替えの効くものを守ったりしないはず。予備のストックが尽きれば余裕も保ってはいられないだろう。

 だがまたしても鈴の攻撃は思い通りの結果を生まない。

 

「空振った!?」

 

 確かに捉えたはずの機械腕。だが手応えも掠った感触すらしなかった。

 答えはシャルルの腕に新しく現れたマシンガンの弾(・)倉(・)。

 鈴はシャルルの情報を全く持っていなかったため知る由もなかったが、これが攻撃をかわしては霞のように消える機械腕との連携の正体だった。

すなわち手足も簡略装備にしての高速切替。タネも仕掛けもあるマジックの技だ。

 

「くきゃこけあなけりゃ!?」

 

 笑っていたと思えば瞬きするまもなく頭上へと瞬時加速で移動、アサルトライフルとマシンガンでシールドエネルギーを削ってくる。

 こちらも衝撃砲で迎撃と反撃を同時に実行。

 だが銃口自体を他所へと向けても機械腕の放つ銃弾でエネルギーは削られる。

 攻撃も防御もまるで手ごたえの無い・・・まるで幽霊とでも戦っているような感覚にとらわれる。

 

「どうしろってのよこんな奴!」

 

 絶叫の直後、鈴をアサルトカノンの砲弾が前後から挟み込む。

 対処が間に合うか否か。

 

 

◇

 

 

(『高速切替(ラピッドスイッチ)』だな。)

(知ってんの、リヴァイブ?・・・モグモグ。)

(食べるか話すか一つにしろ。行儀の悪い。)

(そういわずに食べてみたら?案外ジャンクなのもおいしいわよ。)

 

 なりゆきを見ていた二人、特にリヴァイブはシャルルの強さの正体に見当がついていた。

 ・・・アリーナ内部は観客席も含め張り詰めた緊張感が今にも壊れそうになっているのだが、ここにいるヒリングだけはそんなこと知らないとばかりにまだポップコーンをかじり続けている。

 

(まったくこんなもので・・・モグモグ)

(ね、おいしいでしょ?)

(・・・及第点だと言っておくよ。それより『高速切替』だが。)

(武装をノータイムで呼び出して交換する高等技法。【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】の大容量拡張領域とマッチした思考判断が求められる。)

(手足を極限まで簡略化して予備パーツとして呼び出す。単純だが持ち味を活かした策だ。しかしよく知っていたね。)

(ううん、これに書いてた。)

 

 差し出された本を見てみるとタイトルは『IS戦闘解説入門~プロとアマの違い、教えちゃうよ~』。

 

(誰がこんな・・・いややっぱりいい。聞きたくない。)

(兎女よ。)

(あの人は本当に・・・)

 

 真面目にやっているのかふざけているのか、今でも判別できないときがある。

 

(それよりあの貧乳、まずいんじゃない?もうボロボロ―――)

『誰が貧乳よ!』

『爆煙から復帰した凰選手ここで何かを叫ぶ!しかし一体誰に向かってなのでしょう?』

((・・・・))

 

 どちらともなく無言になった。

 

(・・・え、何、脳量子波聞こえてるのあの貧――鈴ちゃん。)

(こんなバカな話で革新されてたまるか!)

 

 ヒリングは冗談めかしたが、リヴァイブは本気であってたまるかとキレるのだった。

 

 

◇

 

 

 

「やっと期待通りだ。だからこそ・・・私も本気の一端を出そう!」

 

 ラウラが何か言っているがセシリアには関係なかった。

 この連結した【ティアーズ】を暴走させて生んだ破壊力。これが外れたり防がれるようならもう勝ち目などないのだから。

 スコープで除いていたラウラがその時、やおら手を動かす。

 左眼にかかっていた眼帯を上げ、隠されていた眼が露わになった。

 その色は―――紫。

 

「さあ力を示せ、我が眼よ。【ヴァロル・オージェ】!」

 

 瞳の紫の輝きが一層力を増したと思うと、怒涛の勢いでラウラに迫ったビームが減速、やがて制止した。

 

「【三重奏(トリオ)】が!」

「脅威ではあったが、余裕のなさが命取りだ。」

 

 眼前へ迫って、今は静止したビームの横をラウラはすり抜ける。

 再びプラズマ手刀にワイヤーブレードが装着され、巨大剣に変貌した。

 

「まだ・・・まだ!」

「諦めろ。」

 

 右腕の【ティアーズ】の連結を解く、またはただ回避する。だが【ティアーズ】は暴走させたせいで飛行もままならないし、攻撃に満足な威力も乗せられない。

 回避しようにも飛行能力を無くした【ティアーズ】がデッドウェイトになって、非常にノロノロとした動きしか取れない。

 満足に動けもしないところへ黒い巨大剣は振り下ろされた。

 

「きゃああああ!」

 

 脚部に付けられたスラスターが接触によって全壊。推進剤を失った【ブルー・ティアーズ】は錐揉み飛行をしながら墜落していく。

 

(まだ、【ティアーズ】を使って・・・)

 

 気を失うこともシールドエネルギーを『0』にされることもなく戦闘からは退場。そのことへの激しい怒りが沸き上がったが、地面にたたきつけられる前に剣が振るわれる。

 当たったのは右腕。【ティアーズ】もろとも右腕の装甲が欠片も残さず砕かれた。

 だましに使った【スターライトMarkⅡ】はどこかに落ちているだろうが、探す暇など与えてくれるわけがない。

 完全な無手の状況。

 それでもセシリアの目から闘志は消えてはいなかった。汗で張り付いた髪を掻き分け、強いまなざしで相手を睨みつける。

 

(まだ諦めたりしませんわ!)

 

 スラスターの無くなった脚部で立ち上がらせる。生まれたての子鹿のように震える足ではもう戦う余裕がないのは誰にも明白だった。

 それでも意識やセンサーを使い分け、機体を奮い立たせる。

 

『命ある限り戦い続ける戦士』

 

 そんな表現と共にセシリアの脳裏にはどれだけ傷ついても向かってきた彼、織斑一夏が燻り続けている。

 

(私だって・・・しぶといんですのよ。)

 

 少なくとも学園にやってくる前の彼女なら、どんな窮地になっても美しさもない戦い方を選んだりはしなかっただろう。力の差を見せつけて勝ち続ける生き方をしてきた彼女には這いつくばってでも勝利を願った経験はなかった。

 圧勝に見えての逆転を許した一夏との初戦。数で上回っても易々とは勝てなかった襲撃者との次戦。

 そして、どちらにも当てはまらない追い詰められた今、奮起してみせた一夏の強さがセシリアには感じられた。

 

(私も、強くならなくては・・・一夏さんと並び立てる強さを・・・!友人として!)

 

 残った左腕にブレード【インターセプター】を召喚。

 ようやく降り立った相手へ脚だけで走って向かっていく。

 武器がほぼ奪われて緊張が薄れたのか、息が上がっていることに気が付いた。射撃型の自分が短刀を手に敵に突撃している。何の策もなく。

 第三者が見ればとても滑稽な行動に見えただろう。

 それでも。

 

「やああああ!」

 

 あと3歩。

 

『オルコット選手、ここでまさかの特攻!だがあまりに無謀だ!』

 

 あと2歩。もう周りの声も聞こえない。

 

「・・・」

 

 あと1歩。動かない相手にこれで反攻を見せる!

 ここから逆転を・・・

 

 

 

 

◇

 

 

 

 

 壁(・)に(・)叩(・)き(・)つ(・)け(・)ら(・)れ(・)て(・)気(・)絶(・)し(・)た(・)セ(・)シ(・)リ(・)ア(・)をラウラは眺めていた。

 脚と射撃武器を奪い、あとは降参させるか倒すかを迷っていたラウラに相手の行動は驚愕するほかないものだった。

 だが驚きが冷めれば後に残るのは無謀への呆れや哀れみ。

 その愚直さに僅かな敬意を払い、最後は【ヴァロル・オージェ】で強化した結界で拘束、瞬時に巨大プラズマソード【フェスティリシオ】で薙ぎ払って壁へとぶつけた。

 強化状態の拘束は意識も一瞬は奪える。オルコットは負けたと気づくこともなかっただろう。

 後方から轟音が上がったので見てみると、拘束を解かれた三重奏のビームが客席下の壁を抉り溶かしていた。

 

「・・・動きを止められなければ。」

 

 負けていたのは自分だったかもしれない。

 もちろんあんなブレード一本で逆転させるほど弱くはないが、ビームと合わせて『まさか』を思わせる気迫が今の特攻にはあった。

 

「いや成長をしていたのか奴も。」

 

 調べた限りでは「セシリア・オルコット」という人物は高圧的に攻めるのを得意とすると見ていた。逆に抵抗の術を無くすほど圧倒すれば、気力を奪って楽に勝利できるというのが作戦だったのだ。

 現に一度目の【フェスティリシオ】を使った時で心は折れたように動きが止まっていた。

 しかしそこから持ち返された。

 なぜなのか。

 ここで突然ラウラの左眼を痛みが襲う。

 

「ぐ!?」

(限界時間を過ぎたか!)

 

 左眼の眼球を何かが突き破って破裂しそうになる。そんな表現しかできない痛みが絶え間なくラウラを苛んだ。

 

「あああ!戻れ!戻れええ!」

 

 眼帯を元の位置に戻して【ヴァロル・オージェ】を封じるとようやく痛みは治まった。

 

(ア(・)レ(・)を起動しないまま開きすぎたな。奴と戦うまでに余力が尽きるところだ。)

「い、いや、とにかくこれで試合終了だ。さあ、次は貴様だぞ織斑一夏。」

 

 救護班がセシリアを連れて行くのを見守り、ラウラも控室へと戻った。

 そしてもう一方では―――

 

 

◇

 

 

 セシリアに負けず劣らず機体がボロボロとなった鈴もシャルルに追い込まれていた。

 衝撃砲は弾を打ち落とすために酷使しすぎて性能が低下。スパイクもクローも銃弾に削り落とされて、元の装甲は見る影もなくなっている。

 どうせ性能が元のままでも無数の手から銃弾をばらまく【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】には太刀打ちできなかっただろうが。

 シャルルは自分の両手にブレードを一本ずつ、背中に呼び出した腕は2本だけに戻ってマシンガンを携帯している。

 

(さっきのでっかい音は・・・セシリアが勝ったのかしら。・・・じゃあまだ終われないか。)

「相性も性格もとことん合わないわね、あんたとは!」

「ひひひ、はああああは!」

 

 右手に握ったブレードを振り下ろすシャルル。

 衝撃砲アシストの抜けた腕で鈴もこれを懸命に【双天牙月】で撃ち返す。だが跳ね返した瞬間を見計らってまた銃弾が撃たれ、機体にダメージが刻まれる。

 敵は動きの落ちてきた鈴への余裕を出しているのか銃器よりもブレードで切り刻みにかかっている。

 

(シールドエネルギーが残っててももう機体が死んでる。良くて相討ち。)

 

 珍しく頭に弱気な考えが浮かぶ。だがそうなる程相手との相性は悪かった。

 

「もう優勝とかいいわ・・・でもせめて一発引っ叩いてやる。」

 

 付き合いが深くなくても今のシャルルが正常でないことは分かる。外的要因なのか内的要因なのかまでは知らないが放っては置けない。

 

(・・・一夏に幻滅されたくないし。)

 

 立ち上がることも拒否する機体に無理に言うことを聞かせて、姿勢を構えさせる。シールドエネルギーによる加護で外傷を負うことこそないが中身は違う。何度も投げられたりすれば酔って吐きそうにもなるし、打ちつけすぎたせいで内出血が起きることだってある。

 鈴もその例に漏れず、体中痛くて痛くてたまらなかった。

 だが泣くようなことはない。

 悲しくて涙を流したのは一夏に出会えたあの日が最後だ。

 

(泣いてたまるかっての!そんなみっともない真似したら・・・)

 

 一夏に振り向いてもらえるような魅力ある女性にはなれない。

 だから今、彼女は一人でも脅威に立ち向かう。

 彼に脅えた姿など見せないために。

 

「うおりゃああああ!」

「くこかきけきゃあああーはっはは!」

 

 ブレードの降り下ろしを青龍刀の柄で斜めに受けて滑らせる。

 すかさずまた別の腕から銃口が向けられているが、足を止めていないので紙一重でかわす。

 だがまだだ。もう一本が振り下ろした腕との間を突いてくる。

 

(これをかわせば!)

 

 鈴は相手の突きに合わせて青龍刀を突き出す。しかし狙ったのはシャルルではない。

 地面へと突き刺した青龍刀を視点にしてジャンプ、相手の腕へと飛び乗った。

 さらに偶然が重なり、機械腕のマシンガンは照準がまだ合わさってはいない。一分の賭けに勝って、敵の猛攻をしのいだ。

 

(後は・・・)

「ばあ♪」

 

 即座に青龍刀を振るおうとした鈴だったがそれは叶わなかった。

 顔を中心に全身をいくつもの衝撃が同(・)時(・)に(・)襲う。

 

「あ・・・かはっ」

 

 全身を穿った攻撃の正体は新たに機械腕に装着されたシ(・)ョ(・)ッ(・)ト(・)ガ(・)ン(・)

 シャルルが得意としていたのが武装の高速切替だと知らなかったのが明暗を分けた形だった?

 

「くっそ・・・」

 

 空中に散弾の衝撃で宙に浮かんだ鈴へショットガンを全ての腕に装備させて斉射。

 ガリガリ削られていくシールドエネルギーと共に【甲龍】の命の灯は消えかかっていた。

 

(シールドエネルギー・・・残量・・・『34』。でも・・・体が動かない。)

 

 鈴が全く動けなくなっていてもシャルロットは止まらない。

 ショットガンもゴミでも捨てる様に投げ出し、またあのパイルバンカー【グレー・スケール】が装備される。

 一撃目を手で受け止めた鈴には嫌と言うほどその破壊力が分かる。

 身動きできない状態で受ければシールドエネルギーが『0』になることも。

 そして審判から制止する声がかかってももう間に合わないことも。

 

(・・・死ぬかも。)

 

  装甲越しでもISにダメージを与える武装だ。撃ち続けている最中にシールドエネルギーが尽きれば恐らく死は免れない。

 「ISは兵器」。仮名がそう言っていたのを思い出した。

 自分の認識が甘かったのだ。手にしていた力のことばかり考えて、危機感を持たなかった結果が今だ。

 

(思い残すこと・・・一夏に彼女にしてもらえなかったくらいかな。)

 

 後は特に思い浮かばない。告白はしたし、一緒に寝るなんてこともできた。

 想像もできないほど唐突にやってきた死を前に心が麻痺してしまったのだろうか。

 パイルバンカーが振り上げられ、鈴に狙いを定める。

 

(助けて一夏・・・なんてお姫様じゃあるまいし)

 

 でも、一度くらいはちゃんと言っておいてもいいかな。そう素直に思えた。

 だから、

 

(助けてよ、一夏。)

 

 蚊の鳴くように小さい声でそれだけ言った

 そして鋭い衝撃と共に鈴の意識は永遠に途切れ―――

 

「させるかあああ!」

 

 ―――なかった。

 体に触れる、覚えのある金属の質感と声で安心感が胸に沸き起こる。

 

「・・・一夏。」

 

 一夏の駆る【ガンダムエクシア】が鈴を抱きかかえながら、【GNシールド】でパイルバンカーを受け止めていた。

 

「悪い鈴、でも文句言うなよ!」

 

 最高のシチュエーションに助けに来てもなお相手に謝るのだ、この男は。

 きっと自分だけでやりたがる鈴を邪魔した、なんて思っているのだろう。

 

「・・・なんで謝ってんのよ。ホント、馬鹿なんだから。」

 

 でも、だから一番好きな人。

 いつもの一夏に安心し―――そしてそのまま緊張の糸が切れて気を失った。

 

 

◇

 

 直接乗り込むと観客席に被害が及ぶので、正式な発進口から乱入してきたのだ。ついでに乱入にならないようにシールドエネルギーが尽きるギリギリまで待つ必要もあった。

 おかげで時間はかかったがラウラが気づくまでは制限なくやれる。

 パイルバンカーを跳ね除けて蹴り飛ばしつつ懸命に呼びかける。

 

「目ぇ覚ませシャルル!」

「・・・!」

 

 鈴はおそらく気を失っただけだ。医務室に運べば何とかなる。床に横たえて、俺自身は【GNシールド】を構え直す。 

 

(問題は目の前の暴れ馬だ。)

「シャルル、返事しろ!」

 

 攻撃をいなしながら呼びかけ続けると、あの高笑いが聞こえなくなったのに気が付いた。

 

(正気に戻ってきたのか?)

 

 油断はできないがひょっとすれば・・・

 直後、ブレードを両手に展開し直したシャルルが俺へと襲いかかった。

 

「ぐおっ・・・シャルル!」

「・・・な・・・ぶな・・・・ぶな・・・よぶな」

「シャルル!」

「呼ぶなああああ!」

 

ぶつぶつ何事かを呟いていたかと思えば、弾かれたように炸裂する怒り。全身の全てから拒絶のオーラが立ち上っている。

 受け止めたブレードが高速回転を始めてチェーンソーだったと悟るがどうでもいい。周り続ける刃のスパークに照らされたシャルルの顔は憤怒の形相に染まっていた。

 恐ろしくないと言えばウソだ。

 でも放っておくなんてことは出来ない。

 怒りながらも・・・その目から流れる涙に気づいてしまったから。

 

「シャルル、しっかりしろ!機械に呑まれるな!」

「僕を・・・俺を・・・私を・・・そんな名前で呼ぶなぁぁぁぁ!」

『はいそこまでね。坊やもシャルちゃんも。』

 

 俺とシャルルの衝突は思いもよらぬ声に遮られた。

 それに続いて一本の剣―――打鉄の標準武器である近接用ブレード【葵】―――が飛来、シャルルと俺の間に突き立った。

 

 

◇

 

 

『第一試合、勝者ラウラ・ボーデヴィッヒ&シャルル・デュノア。』

「・・・は!?」

 

 我に返った自分の前では鈴が【エクシア】に抱えられている。

 【甲龍】は無傷な場所が見当たらないほどに損傷、気を失っているのか鈴は起き上がることもない。【双天牙月】も半分を残して折れて合戦場に落ちていそうなみすぼらしい姿だ。

 シールドエネルギー残量は『0』。

 徹底的に痛めつけた上で、抵抗もできないまま一方的に蹂躙したのは嫌でも分かった。

 

「僕・・・?僕がやったの・・?」

 

 自分がやったはずの行為の記憶が全くなかった。

 

「あ・・・うわ・・・そんな、違う・・・」

「・・・おい、シャルル。正気に戻ったんだな?」

「い、一夏。」

 

 目の前にいたISが待機状態に戻ると中から見慣れたクラスメイトが姿を現す。

 

「ぼく・・・ぼくは。」

「いいんだ、分かってる。お前は悪くない。お前を操った誰かがこんなことをしただけだ。」

 

 悪くない、そういってくれる彼の言葉に恐慌に陥りそうだった心が踏みとどまる。

 

(そうだよ、僕の機体に誰かが・・・)

 

 それを考えようと顔を上げ、周りが静まり返っていることに気が付く。

 周囲を見ると、観客席の視線がシャルルに集中していた。

 目に浮かぶ様々なものをのせて言葉を交わし合っている。

 恐怖、怯え、嫌悪、忌避・・・etc

 そこに好意的なものは何一つない。

 

「あ・・・ああ・・・」

 

 駄目だ思い出しては。

 止めようとする心自体をコントロールできない。

 心が押し流されていく。

 

『なんであんた生まれちゃったのよ!』

『妾の子をスパイとは。社長もなかなか物好きな。』

『裏町の娼婦の子らしいな。男好きそうなナリをしてるじゃないか。』

『役割を果たせ。それ以外にお前の居場所はない。』

『生まれの醜いお前に味方など一人もいない。』

『見捨ててもいいぞ。お前を育ても探しもしなかった女だ。』

『アレにすがっても無駄だ。アレはお前を仕方なく育てただけだ。いなくなると聞けばせいせいしたというだろう。

『性別もだが・・・まずは名前から変えないとな。シャルロット、その名は捨てろ。』

『お前は今日から・・・シ(・)ャ(・)ル(・)ル(・)だ。』

 

 罵倒しかされたことのない母。

 値踏みするように体中を舐めまわした重役たちの視線。

 味方も、親も、何一つ持たない自分の血を恨んだ。

 そして―――奪われた名前。

 

「なんで・・・役割を・・・ちゃんとしたのに。」

 

 学校に通えた。

 初めての友達が出来た。

 男の子も女の子も色々な人間がいたが、ずっとここにいたいと思える優しい場所だった。

 悪いことと分かっていても、捨てた母親と同じにならないために、ここにいるために手を汚した。

 

「う・・・うわあああああ!」

「っ、おいシャルル!」

 

 だが、やっと得たはずの居場所は・・・もう壊れてしまった。

 分からない衝動のまま、アリーナからシャルルは走り去る。

 呼び戻そうとする一夏の声も、今の彼――彼女を止めることは出来なかった。

 

 

◇

 

 

 ひとまず、問題は起こったがこうして初戦の幕は下ろされた。

 

 

 

 




 というわけで三十七話でした。
次回は少し別のことを入れつつ、一夏簪ペア対ラウラシャルペアの戦いになります。
2話・・・3話で終わると思います。
 
 ではまた次回。
 質問・感想・評価、何でもよろしくお願いします。




――話すことがないどうでもいい余談――


 気づいていた人もいるかもですが『ヴァロル』とは日本語の『バロール』をドイツ語にしたものです。翻訳にかけただけなんで合ってるかは分かりません。

セシリアと鈴はこれで今回は退場。次回の冒頭で少し触れるかもしれません。
シャルルの名前を今まで引っ張ってきましたがやっと出せてよかったよかった。

 あ、止めたのはヒリングです。締めるときは締めるのです。



さて、シャルルに何があったのか。この後判明。


◇






「始めは危うかったが、使って正解だったようだ。いや華々しい戦果じゃないか。」

 日本から遠く離れたある国で笑う者があった。
 とある機体に隠して仕掛けたカメラにより今まさに繰り広げられていた戦いを目撃していた。男が注視していたのはラウラ

「勝ったならもっと喜ぶ顔をするべきだなあシャルル。いやシャルロット。私が不出来なお前を勝たせるために助力してやったのだから。」

 ・・・ではなくシャルルである。
 相手を必要以上に傷付けてしまったことを悲しむ子と違い、彼は勝ったことしか見ていない。
 自分以外には存在しない部屋で勝利の余韻をかみしめていた。
 
「私としてもうれしいよ。我が子が勝利してくれて。まあ勝てば勝ったで、自分の安寧のために他人を犠牲にした事実は消えないのだがな。」
「卑賎な身の上で幸せを得ようなど分に合わない。しっかり理解してくれたことだろう。」

 喜んでいるようには見えない子どもを眺めて、心底愉しそうにそう吐き出す。当然でもある。そうやって生きてきたのだから。
 男のそばに置いてあるのはある組織から貸与された試作兵器。
 一度使わせれば勝利を約束する・・・代償に使われた側の心を蝕むそうだが、彼に使われるのではないから問題はない。

「ククク、自力でやってくれるに越したことはなかったが、試運転と思えばいいか。
 例の【エクシア】とやらのデータも手に入り、我が社の機体が学園で最強の地位に立つ・・・風が向いてきたらしい。」

 シャルルの人権を無視した発言を楽しそうにつぶやく男はこの先の繁栄までも見越したように高笑いを木霊させた。
 男のそばにある兵器は、台座に突き立った剣の形をしていた。
 名前を【クラレント】という。


◇





くらい



暗い




昏い



ただくらい真っ暗闇の空間







闇の主は鼓動を感じ取る。





戦いを。


◇


そして彼(・)も感じ取る。
すれてしまった世界の理を。

「オレの知っている流れとは違う。分岐してきたってことかこの世界が。」
「・・・ああ、このままでいい。一夏、あとはお前がお前の正義で彼女らを救え。」


「それが俺の、いやオ(・)レ(・)の願いだ。」


◇


ではまた次回。ご愛読、ありがとうございます。
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