IS×00 夢を目指す者   作:王天君

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お待たせいたしました。最新話です。

先にシャル押しの方には謝っておきます。すいません。


第三十九話 黒ウサギのゆりかご

 眼帯がISの起動時特有の光を放つ。

 

「――『起動』!」

 

 光が消え去ると眼帯から現れたのは・・・

 

「・・・卵?」

 

 黒色をした卵のような物体だった。

 まず目を引くのはその大きさだ。後ろにいるラウラがすっぽり隠れてしまっている。表面は黒一色に、縦に赤い稲妻のようなラインがいくつも走る。

 見た目からは何とも言えないが意気込んで呼び出しただけの存在感は大きく感じられた。

 するとにわかに卵に白い一本の線が現れる。

 縦に走ったそれが卵で言うところの亀裂だと後で気づいた。

 

「うおわっ!?」

 

 内部から突風が吹き荒れ、【エクシア】も踏みとどまれずに吹き飛ばされる。必死に距離をとりながら、卵から飛び出していく光が目に入る。

 数は全部で8つ。

 

(あれが本命ってわけか。・・・駄目だ、風で近づけない!)

 

 光は近づいては離れてを繰り返し、その度に輝きを大きくさせていく。

 直観に頼るでもなく、放置するべきではない。

 【エクシア】の【GNソード・ライフルモード】からビームを連射する。

 卵の殻を破壊しようとした数発の光条と目標の間には何の壁もない。外すはずもなかった。

 しかしそれらのビームはことごとく空中で不自然に静止した。いや静止()()()()()。卵の陰にいるラウラの左眼、【ヴァロル・オージェ】の力だ。不可視の結界が卵と【シュヴァルツェア・レーゲン】の周囲を囲んでいて、近づくものはすべて封じられている。

 そして手が出せないまま、卵は光を吐き出し終えると、中にラウラを吸い込んだ。

 マトリョーシカのように【シュヴァルツェア・レーゲン】を取り込むと、手足が飛び出て直接生えたように見える。卵に手足がついたようにひどく滑稽な姿だが、変化はまだ止まらない。

 飛んでいた光が次々と飛来、【レーゲン】の各部位にドッキングして、一夏と【エクシア】を押し潰すような大きさに変貌していく。

 ISと同規模の大きさの巨大な脚。その手にISが握りこめそうな大きさの無骨な腕。その腕や足よりも大きい天使の翼のようなスラスターが後ろに二本、棘のように突き出る。どうも卵の上からさらに鎧が装着され動力炉のような光を発する機関が全面に押し出される。頭には鬼のような仮面がかぶさって、赤い眼光と金の2つに割れた角が武威を表している。

 機体色はやはり黒一色。卵と同じようにところどころに走った赤いラインがアクセントになっていた。

 

「【ガンダム】・・・?」

 

 フルスキンで角のある機体なので【アストレア】と同じ、【ガンダムタイプ】かと見間違えた。だが欠陥機をどうにかやりくりしている俺とは、はるかに機体の発する覇気が違う。

 見上げるような大きさ(【エクシア】の約3倍)で、10mはゆうに超えているのもその一因だろうか。

 

「システムオールグリーン。機体各部同調完了。・・・さあ始めるぞ!」

 

 本人は全く見えなくなったラウラの声だ。位置の関係か、何を言われても見下されているように聞こえる。

 

「この機体、この力こそが私の強さだ!」

 

 黒い鬼の様な機体が身をのけぞらせて、空へと吠えるような動作を見せる。

 そのとき律儀にも【エクシア】のシステムが敵の機体の各所に彫り込まれた名前らしきものを捉えた。

 

Dank 頭部

Iris 胸部

Oracle 右腕部

Stillet 左腕部

Comet 両肩

Urgewalt スラスター

Regen 胴部

Ideal 右脚部

Ausbruch 左脚部

 

 全てドイツ語だが、頭文字だけは大文字で見やすい。その頭文字を繋げると『DIOSCURIA』。

 読みは――――【ディオスクリア】。

 

 それがラウラの隠していた力の名前だった。

 そこまで読み終えるのを待っていたようにラウラが、【ディオスクリア】が動きだす。ISを呑み込むほど巨大なその腕であたりの障害物ごと【エクシア】を薙ぎ払ったのだ。

 一夏も正直に受けることなく【キュリオス】へとチェンジ。豪腕を飛行形態になって回避して、【GNビームサブマシンガン】の弾幕を張って突っ込んでいく。

 

 

 

 

「・・・織斑、君?」

 

 会場のどよめきが一層高まったことに簪も違和感を感じ取っていた。

 まだ始まって間もない。よほどのことが起きなければ観客が驚くはずもないのだ。

 

(織斑君……ダメ、私も私の戦いをしなくちゃ。)

 

 彼は無理をするなと言っていたが、簪が素直に大人しくしていないことは分かっているだろう。引っ込み思案でも戦いの場からは逃げ出さないのが簪の性分だ。

 大きな地響きや唸り声への興味を断ち切り、自分を追ってくる敵へと目を向ける。

 暴走をしていない【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】はそれでも確かな強敵だった。マシンガンを撃つと呼び出した盾に防がれるかかわされ、お返しのように倍となった銃弾の雨が機体に降りかかる。

 遠距離に弱いわけでもないのに近距離でもしっかりと対応してくる。交錯しながら薙刀で切り払っても、ブレードで滑るように受け流された

 

「ふっ!」

「せあっ!」

 

 戦闘だけを見てもそこにはパイロットの性格が色濃く表れる。

 現に一夏たちは開始時点から大きく動いていないが、簪の方は常に移動しながらのスピードファイトが繰り広げている。ビル型オブジェクトを回り込んでは切り結び、すれ違いざまに銃弾を放つ。あるいは交差点に飛び込むように見せかけて銃弾で不意打ち、体勢を崩させての近接戦闘に持ち込む。

 流れるように戦闘が推移していくのは両者の実力の高さを証明すると同時に、彼女らがもつ、生まれながらの環境の近似性がそれを可能にしていたのかもしれない。

 変化が起きたのもまたその流れの中から踊るように起きた。

 

(スピードは互角でも!)

「え・・・ってうわぁ!?」

 

 すれ違いながらの斬りつけ・・・と見せかけてシャルルの身体に薙刀を引っかけた。互いに上げてきたスピードを利用して、体術の応用で機体を近くのビルに投げ飛ばす。

 軽くされてはいても金属の塊。それにスピードが乗ればどうなるかなど言うまでもない。交通事故もかくやの勢いで機体が突っ込んだビルは軸ごとへし折られて、崩れ落ちた。

 ようやく一息・・・と思う暇もなく、煙の中から飛び出したシャルルにブレードをたたきつけられる。

 

「やるね、更識さん!顔に騙されたか・・・なっ!」

 

 今度はシャルルに軍配が上がった。

 その勢いを封殺できなかった簪が反対側のビルに吹き飛ばされる。たかが学校の一施設にもかかわらず、このオブジェクトは出来が精巧だった。コンクリートにぶつかった時の衝撃や反動まで本物そっくりにできているのだから。

 そんな本物顔負けのものに突っ込んだが、シールドエネルギーのおかげで怪我はない。手も足もしっかりと動いてくれている。

 フルフルと顔を振ってまとわりついていた瓦礫を払い落とす。

 すると、

 

(・・・震えて・・・怖いんだ…私。)

 

 身を起こそうと力を入れた手がカタカタ震えていた。

 フィクションではなく脚色もされない戦闘。手の薙刀やコンクリートの質感が告げるのは現実の二文字。

 死ぬことはないと分かっていても、気にしないように努めていても、体は正直だった。

 

(駄目…こんなことじゃ…まだ。)

 

 憧れる彼の背中に届くためには、まだなにも足りてなんかいない。

 

 恐れるな。

 

 踏み出すんだ、前へ!

 

 

 

 

 弾が肩をかすめて追い越していく。直撃の代わりに擦過して起きた火花が小気味いい音を立てる。

 

「くっそ!速い!」

 

 【キュリオス】の高速起動で揺さぶりをかけようとした一夏は、逆に揺さぶられるような状態に追い込まれていた。

 それは【ディオスクリア】の持つ圧倒的な力の差からだった。

 今掠めた銃弾は両肩に装備されたバルカン砲による牽制射撃だ。バルカンと分類されていても装備する機体のサイズが【キュリオス】の約3倍である。実質、砲弾が絶え間なくばら撒かれているようなものだ。

 それでも弾幕の隙間を縫って、機首を向けて【GNビームサブマシンガン】を斉射する。するとビームが直撃する寸前、【ディオスクリア】の機体表面がうっすら光ったかと思うとすべて弾き飛ばされた。

 

(バリアか?でかい体に鎧まで着込みやがって!)

「どうした、逃げ足だけが取り柄か!」

 

 おそらくはバリアの一種だ。シールドエネルギーの頑丈さに加えてやや過剰気味な防御機構だ。

 反撃を気にした風もなく。翼を模したスラスターの上部を開ける。中にはミサイル弾頭が覗き、

 

「行け、我が下僕たちよ!」

 

 乱立するビルの間を縫うように・・・ではなく破壊しながら、【キュリオス】へと次々に襲い掛かってくる。

 繰り返すがサイズが違う。小さなはずのミサイルが弾道ミサイルのようにすら見えてくる。

 人型に戻って【GNシールド】を掲げて防御しつつ【GNビームサブマシンガン】で撃ち落としていく。制御はコンピューターに委ねてあるようで落とすのには苦労しない。仕切り直した方がいいか・・・と頭の片隅で考える。

 そう油断したのがマズかったんだろう。

 

「っなんだ!?」

 

 指先ひとつ動かせずに体を固定された。

 【ディオスクリア】の片眼が不気味に紫の光を発している。やっと結界に捕らえられたと分かったところ、残りのミサイルが追い付いた。

 至近に着弾した衝撃で今度は一夏の脳が激しく揺らされる。幸い、掲げていたシールドに当たっただけで機体には命中は免れる。

 爆発に生じてできた煙に紛れてビルの陰に身を隠す。

 

(ハァ…ハァ…、何だよアレは。ISの範疇を完全に越えてるだろ。)

 

 誰に言うわけでもなく愚痴が出る。

 地面が揺れる振動で【キュリオス】を見失ったこと、探すために歩いているのが分かった。今の敵は、一夏の後方にしばらく離れたところにいる。

 気づかれていないこの状況こそ、【ディオスクリア】が登場したことで流されたペースを取り戻す絶好の機会だと言えよう。

 とにかく有効打となる攻撃を与えて、敵の体勢を崩させる。

 

(あのバリアだ、ミサイルじゃ心もとない。【アストレア】・・・お前だ。)

 

 機体からオレンジ色が抜け落ち、一番シンプルな青と白の機体【ガンダムアストレア】へと変形を終える。放っておかれた不満を訴えるように、背中の推進部が軽く唸った。

 【GNビームサブマシンガン】を戻して手に握るのは【プロトGNランチャー】。肩に【プロトGNシールドポッド】を装備、一時的だが光学迷彩も展開して完全にその姿を隠蔽する。

 

「出てこい!私から逃げるな!」

 

 粒子充填を始めると通路から飛び出し、迫りくる巨影を正面に見据えた。

 【プロトGNランチャー】のスコープで見る【ディオスクリア】はあらためて化物だった。身体が大きすぎて周りのビルをなぎ倒しながら接近するその姿は、ISというより絵本に出てくる魔獣か何かに見える。

 

 本当に勝てるのか?

 

 そんな思いすら湧くが、充填完了を知らせる合図で恐怖を振り切る。念には念を入れてかわせない距離まで引き付ける。

 やがてスコープ全てが黒い機体で埋まったところで、光学迷彩の時間が切れて姿が露わになる。

 

「そこにいたか!」

 

 【ディオスクリア】が目を光らせて動きを止めようとしてくるが、今度はそれが遅かった。

 

「くらいやがれ!」

「はっ――!」

 

 【プロトGNランチャー】の砲口から、かつてのセシリア戦を彷彿とさせる光の大河が溢れ出る。膨大な光と熱を伴う粒子ビームは【ディオスクリア】どころか、なぎ倒して崩し続けたビル群もまとめて呑み込む。

 以前の使用とは違い、粒子は限界までため込んでの砲撃である。思わずその奔流に押されて【アストレア】の方が姿勢を崩してしまう程だった。

 かわす時間は与えなかった。バリアがいかに強力だとしても消耗は避けられない。

 

「これで少しは・・・」

「終わりか?」

 

 直後、金属の硬い感触を感じながら【アストレア】は殴り飛ばされた。

 

 

 

 

(・・・誰だあんな機体を作ったのは。)

(シャルちゃんだけで大変だってのに!)

 

 放送席からヒリングとリヴァイブは飽きれ半分、怒り半分の吐息を漏らしていた。理由はわざわざ仕事を増やしてくれたドイツの代表候補生のせいだ。

 

(大きさだけなら僕らの時代のMSと同程度だ。しかし・・・)

(金と手間が嫌になるくらい、かかってるのが見てるだけで分かるわ。)

 

 【ディオスクリア】と現在表示されている機体、色々と規格外の機体であるようだ。色々なデータベースを漁っているが、該当するISの名前がドイツにも、他国にもヒットしない。

 つまり秘匿されている機体。それは秘匿している組織の規模次第であの機体の底力も変わることを意味している。

 

(肩にキャノンサイズのバルカン、スラスターにミサイル・・・戦争でもおっぱじめる気?)

(しかし2世紀先の技術が敗れるとはね。恥は【ヴァーチェ】が後で清算してくれるだろうけど。)

(ティエリア・アーデが出てくるんだっけ。でも、あのバリア・・・どうも見覚えがあるのよね。)

 

 【プロトGNランチャー】の粒子ビームと【ディオスクリア】が衝突した時、黒の機体の表面に僅かだが光を放った膜のようなものが展開されたのが見えていた。

 

(【GNフィールド】・・・あれと似た感じがしたわ。)

(【アヘッド】のシールドの技術か。たしかにあの大きさなら実弾は利きにくい。ビームへの対抗策だけ講じれば手間がかからないだろうね。)

 

 【GNフィールド】は球状にGN粒子を放出。密度を上げたその粒子壁で実弾、ビームを問わず防御できる技術である。ソレスタルビーイング所属時も敵味方双方が用いて使っていたこともある。

 その能力上、粒子貯蔵量の多い機体でなければ使えないのがネックとなっている。だが代案として、性能は著しく下降するが表面だけに粒子を付着させることでシールドの耐久力を上げるなどの技術があった。【ディオスクリア】が使ったバリアもそれに似たものがある。

 例えばシールドエネルギーを段階放出して、相殺させるなどのやり方もできるだろう。

 ただ、それだけの手間をかける価値があの機体にあるのかは疑問が残る。

 

(考えたって仕方ないわよ。後で―――)

 

 ドイツの情報処理システムを片っ端からハッキングしてやる、と言おうと思ったところで脳に稲妻のような感覚がよぎった。蚊が周りを何匹も飛んでいるような不快感と嫌悪感に全身が総毛立つ。

 リヴァイブも同じ思いをしたようで身震いをして顔を見合わせる。

 

(例の卑怯臭い電波ね。でもシャルちゃんはやらせてあげないわよっと!)

(いや待て、何か変だ!)

 

 脳量子波をぶつけようとしたがリヴァイブに制される。

 せっかく働こうとしたのを邪魔された。恨みがましく睨んでやろうとしたが、彼の表情の厳しさに冗談を言う気が失せる。

 見た画面ではシャルルが損傷した機体を動かそうと四苦八苦している。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(ってまさか!)

(うかつだった。強奪できる機体が【ラファール】だけだと。)

 

 機体を乗っ取れる脳量子波モドキは発せられている。

 だがシャルルには何の変化もない。

 そこから導き出される答えは・・・

 

 画面の中で黒い鬼、【ディオスクリア】が苦悶を隠すことなく大暴れしていた。

 

 どこかへ飛ばされた一夏を追うのでもなく、目に見えるもの全てを攻撃している。ミサイルもバルカンも手当たり次第といった風だ。

 兵器が使われなくても被害は甚大である。なまじその巨体だけに鉤爪や蹴りが当たるだけで鉄筋の建物も紙細工のように崩れるのだ。

 灰や粉塵が満ち、壊すものが無くなっても暴れ狂うその姿はバーサーカーと呼ぶにふさわしいほどの暴虐ぶりだった。

 

(・・・マッズイわね。止められるのいるかしら、今?)

(生徒を逃がすのが先だ。まったく、ここにいると退屈しない!)

 

 最悪、試合中止の可能性も頭には浮かぶほどに。

 

 

 

「!・・・ら・・・り…む・・・織斑君!・・・」

「・・・かん、ざし?」

 

 殴られた衝撃で気まで失っていたらしい。機体の状態を確かめると武装は無事だが【アストレア】自体に結構なダメージが入っている。衝突や殴打で軋みや亀裂が視認できる

 【アストレア】だけに限らず俺の機体はGNドライヴさえ無事なら飛行もできる。それを差し引いても細かく立ち回るのは機体に優しくないだろう。

 

(無理させたしな。って、それよりも)

「簪、助けてもらったところ悪いんだが・・・下ろしてくれないか?」

「え、あ、その…ご、ごめんなさい!」

 

 男としてはかなり情けないことに、俺は簪に抱きかかえられていた。男子なら誰でも一度は夢見るシチュエーションだが、されるほうはどうなんだろうな。

 ヒリングに見られていたら、またからかわれそうだ。

 

「織斑君が…心配で…余計かと思ったけど。」

「・・・いや助かった。簪が来てくれなかったら・・・」

 

 いくらガンダムでも、無抵抗なところに何発もミサイルや砲弾を撃ち込まれればひとたまりもない。シールドエネルギーが消えていた場合を思うとぞっとする。

 

「シャルルは・・・どうしたんだ?」

「移動用の部分だけ…壊して、あとはそのまま…かな。」

 

 すぐに接近されないようなら置いておこう。それより無視できない現状がある。

 

「気絶してる間に随分騒がしくなってるな。」

「一回戦の時のデュノア君みたいに…ボーデヴィッヒさんが…なっちゃったみたい。先生は…避難しなさい、って。」

(偉そうに言っといて失敗したな、あいつ!)

 

 今頃、青い顔をしているのかどうか。

 それに簪の真剣な表情におしゃべりな球体のことを頭のどこかに追いやった。

 この後どうするか、避難するのかを視線だけで彼女は訴えかけてきていた。その視線に俺は日常の確認事項の様に答えた。

 

「俺は退かない。」

「うん…織斑君なら、きっと…そう言うと思ってた。」

 

 母親が子どもの行動をいつもの事と受け入れるように、簪は微笑んで見せた。

 どうも助けられたときから、こうなることまで見通されていたみたいだ。

 

「性格悪いぞ。」

「ふふ・・・ごめんね。」

 

 湧き立った心とは裏腹に冷静な頭は分析を終えている。

 勝つための道のりも準備も見えている。もし足りないものがあるなら、それはただ一つ。簪を巻き込む覚悟だ。今思いついた作戦とバリアの突破にはどうしても他の誰かが必要だった。

 躊躇いはある。迷いもある。

 だが、

 

「簪。」

「・・・どうした…の?」

 

 だがだからこそ、

 

「俺一人じゃ勝てない。俺と・・・一緒に戦ってくれ。」

「・・・!うん!」

 

 今は前だけを向くときだ。後悔も謝罪も後へと回す

 前しか向いてこなかった少年が初めて横を向いた瞬間だった。

 そして時同じくして、【ディオスクリア】による破壊の音が静まっていた。

 

 




はい、最新話でした。

 展開がかなり急ですが、いつも長引くのでたまにはこれくらいでいいかなと思っています。
 その結果、シャルルはいつの間にかやられてたことになってるのはすいません。
次回で決着の予定です。
 【ヴァーチェ】が出てくるのか、誰がとどめを刺すのか、どうやってバリアを攻略するのか、色々ありますがすべては次回。

質問・感想・評価、何でもよろしくお願いします。
 
――どうでもいい余談――
 今回登場した機体、【ディオスクリア】は「アルドノア・ゼロ」というアニメに登場した機体です。大体本文通りの外見と性能ですが、話の進め方や設定の都合で武装などを一部変更しています。
 また、シールドエネルギーは機体各部の場所から別個に供給されていたりして、削りきるのはほぼ不可能な数値になっております。(というか性能だけ見れば本編登場機体の中ではぶっちぎりトップ)


 最後に今回のタイトルの意味がこの後明らかに。 






()は目を覚ます。
 彼、と言ってみても性別を持たないので便宜的なものである。性別だけではない。彼にとっては存在するこの世界の事象のほとんどが意味を持たない。
 望まれることがあっても望むことはなく、求められることがあっても求めることはない。そんな、使われる側の存在。
 道具に意思などあっても意味がないのだから。

(各部システムリンク、オールグリーン。疑似コア稼働率96%で安定。の意識――不明。)

 理屈は不明だが操縦者は意識を失っている。その代わりに自分が意識を持った・・・ということなのだろうか。
 以前にも一度、こうしてマスターの意識外で敵を撃ったことがある。だがあのときは機械として振るう力を使っただけ。この様に明確な意識、意思はなかった。
 
 手は動く。
 音は拾える。
 視界は確保されている。
 だが声は出ない。
 血は通っていない。
 少なくとも自分がヒトになったわけではないらしい。

 (よい。我はただ、求められることをなすのみ。)

 疑問は尽きないが、彼はその全てを無視する。
 胸の中に弱弱しく鼓動する、黒い兎がいる。この巨大な体に比べればあまりに小さい、掌に収まってしまう程の小ささ。そこに特に感慨はわかない。役目の対象であるだけ。
 彼はこの子を託す時まで守り続ける。
 それがかつて創造主に与えられた最初で最後の役目だった。

(求められるままに戦い、求めぬままに果てる。それでいい。)

 彼の視界に灰色と青色の2機の機体が向かってくる。名前は・・・【打鉄二式】と【ガンダムアストレア】。
 倒そうというのである、この【ディオスクリア】を。

(小さいな。此度の敵はまた随分と。)

 だから何か、ということのではない。
 相手が先代ノブレス・オブリージュだろうと、世界最強の弟だろうと関係ない。敵は打ち倒すのみ。

(コア同調完了。エネルギージョイント接続、腕部コア【ペンドラゴン】始動、腕部エネルギーブレイド展開。―――抜刀。)

 腕部に仕掛けられたコアとエネルギー回路を同調。右腕を少し持ち上げて爪を立てるように鉤爪を曲げる。
 直後、その掌から光が立ち上る。いや違った、その手に光が集まっていくのだ。
 天を貫かんと伸び続ける黄金の光。
 獲物に比べると、あまりに巨大な暴力的光。
 それを理解しても尽きることない憧憬の念を生み出す希望の明かり。
 古くはかの地にあったブリテンの王が振るった至宝。全ての騎士の尊敬と誉れの集った不朽の栄冠――【エクスカリバー】、その再現だった。

(見定めよう、其方らの力を。)

 絶対者としての風格と共に、彼は【エクスカリバー】を振り下ろした。












――ついでにどうでもいい余談 ――
【エクスカリバー】が出てくる可能性は実はセシリアの章に名前が出ていましたよー。
【ディオスクリア】も全部乗せおじさんの名前で一度出しましたし
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