IS×00 夢を目指す者   作:王天君

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後半戦スタート。
ラウラの過去っぽいのもある程度これではっきりします。

ちょっと呆気ない幕切れかもしれません。


第四十話 今はすぐそばに

【ディオスクリア】の制御から切り離されたラウラは闇の中で過去を振り返る。

 

研究所で生まれた日のこと。強くなろうと必死だったこと。千冬のおかげで実力を得たこと。ISを受領してから不可解な声や夢が見えてきたこと。IS学園にやってきたこと。

 

(む?)

 

生まれた時から私は強くなりたかったんだっけ?

 

教官に恥じないようにじゃなかった?落ちこぼれた自分が許せなかったからじゃなかった?

 

強く・・・ちがう、私は

 

『いい子にしてたら・・・』

『もっといい子になる!』

 

()()()になりたかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 【ディオスクリア】から放たれた光を【アストレア】と【打鉄二式】の2機はギリギリで回避していた。

 巨大ビームサーベルは地面を攻撃、舗装された地面も残っていたオブジェクトも抉り、破片を溶解させる。クレーターのようにへこんだ穴が後には残った。

 

「簪、作戦は言ったとおりだ。俺が引き付ける間に頼むぞ!」

『うん!』

「【キュリオス】!」

 

 離れていく簪を横目にして、【アストレア】から【キュリオス】にモードチェンジ。

 シールドで防御姿勢をとりながら、【GNビームサブマシンガン】で【ディオスクリア】へと銃撃を加える。

 当たったビームに【ディオスクリア】は反応せずに無抵抗に受け続ける。ただじっと宙を舞う【キュリオス】を睨む眼だけが不気味だ

 

「いくぞラウラ!」

 

 簪の準備ができるまでの間、こいつをここから動かすわけにはいかない。

 ダメージよりも注意を惹こうとトリガーを引く。ビームはことごとくバリアに無効化される。だが当たった衝撃でわずかに体がよろめいた。

 何発も当たっている【ディオスクリア】は魂が抜けたように動こうとしない。

 

(故障でもしたのか?)

「簪、そっちはどうだ!」

『あと3分、お願い!』

「了解!」

 

 突如、【ディオスクリア】が動いた。地面を蹴り、スラスターを吹かして【キュリオス】がいる高度にまで一瞬で到着する。

 対応する間もなく一夏は敵に蹴り飛ばされた。

 

「っああああ!?」

 

 アリーナ観客席に張られたシールドにぶつかってようやく勢いが止まる。

 

(っつう・・・まだだ、気絶してる場合じゃねえ!)

 

 受けた衝撃で頭が震えても、意識と目ははっきり動きを見ていた。

 蹴りを放つと同時にISのエネルギーを吸収させて連動、蹴りの威力を跳ね上げさせていたのだ。大型脚部にそんな小技まで加えれば【キュリオス】もサッカーボールに等しい。

 そして、こんな瞬時加速を連動させる技法を使う奴の心当たりが一人だけいた。

 

(多重瞬時加速(マルチ・イグニッション・ブースト)・・・お前の奥の手だったよな、レムナント!お前がその機体も操ってるのか?)

 

 笑い出すか、奴が喋るかしか、乗っ取られた時のパターンはなかった。その割には饒舌だったレムナントがだんまりなのは気になるが・・・

 

「やることは変わらない・・・勝つだけだ!」

 

 着かなかった決着をここでつける。一撃当てるだけだったギリギリの勝利ではなく、叩きのめして引っ張り出す。

 再び地に降りて悠然と構える【ディオスクリア】へ、一夏は挑みかかった。

 

 

 

 

 【ディオスクリア】はその外見を裏切らない堅牢さと火力を両立したスペシャル機だ。完璧と呼ぶにふさわしい出来の機体だろう。

 奴が機体表面に展開しているバリアは、細かい粒子をどこかから放出、膜のようにして接触したものを何でも逸らして弾こうとする性質がある。俺が撃ったビームもミサイルもすべてアレに防がれた。セシリアにも大打撃を与えた、【プロトGNランチャー】をも防いだことから防御力は折り紙付きだ。

 

(穴はある。)

 

 ここまで完璧に見えても欠陥はある。

 浮かぶ対処法は2つ。

 1つはバリアの構造を考えても、展開した内側から他の武装を重ねて撃てたりはしない。そんなことをすれば内部に反射して自身がダメージを受けてしまう。

 つまり、やたらに積まれたあの武装群の発射口だけは()()()()()()()()()()

 もう1つは・・・バリアを【GNソード】で切断しつつ攻撃するやり方だ。いつもならそうしているが今は違う。

 

(一人じゃないんだ!)

 

 【キュリオス】を飛行形態に変形、向けられた砲弾の雨を時にはかわし、時には残ったオブジェクトを盾にして視界から外れる。

 【ディオスクリア】のビームサーベル(仮)は威力に長けるが取り回しが悪い。わざわざ振り上げてチャージしたことからも推測できていた。

 

「この距離なら!」

 

 手に付けられた鉤爪しか対応に使える武装はないのだ。

 辺りを見渡す【ディオスクリア】に陰から飛び出し、【GNビームサーベル】を抜く。

 気づいた敵がこちらに目を向けるが遅れすぎている。バルカンが火を噴くより早く、その左腕突き立てようと剣を閃かせた。

 

(飛べ、我が眷属よ)

「うおっ!?」

 

 頭と体を声と衝撃が貫いて、身動きを封じられた。

 【GNビームサーベル】を突き立てようとした【ディオスクリア】の左腕。それが肘関節から本体と分離し、【キュリオス】ごとその手の中に握りこんだのだ。

 高速で飛行しながら外周の壁に押し付けられ、機体もシールドエネルギーもいよいよ危険域に入った。

 やがて旋回した腕の行き先には、飛び蹴りを放とうとスラスターを噴射した【ディオスクリア】が待ち受けている。掌と足の裏に挟まれてプレスされればどうなるか、考えるまでもない。

 

(スクラップにされてたまるか!)

 

 左腕の【GNシールド】から【GNシールドニードル】を伸ばし、肘先を動かして【ディオスクリア】の手のひらを斬りつける。

 バリア抜きでも堅い装甲にじわじわ剣先が埋まっていくが、飛行速度は収まらない。

 

(近距離戦は俺の分野だ!)

 

 【GNビームサーベル】で傷口を広げる。

 さらに開いた傷口に【GNビームサブマシンガン】を差し込み、夢中でトリガーを引いた。弾丸が黒い穴に吸い込まれて小爆発を起こすと、拘束していた手の力が緩む。

 急いで逃れた直後、その掌に蹴りが命中した。

 連鎖爆発した推進部も停止し、左の巨腕が地面に落下する。

 

「はぁ・・・はぁ・・・どうしたよ?ミサイルもバルカンも撃ち終わったのか?」

「・・・」

 

 一夏を小馬鹿にすることも機体を誇ることもしなくなったラウラを挑発してみる。やはり、何も答えることなくじっとこちらを見るだけだ。

 

「教えてくれないか。俺の事、何で最初から嫌いだって言ってたんだ?」

 

 沈黙し続ける鬼も中にいるはずの少女も答えない。

 【ディオスクリア】が飛び蹴りを繰り出すために宙に飛び上がったことで、こちらの作戦の最後の準備が整った。

 

「簪!」

『準備…できてる!【春雷】!』

 

 動きを止めた【ディオスクリア】の頭上に簪が飛び出し、その背に荷電粒子砲【春雷】が出現する。砲口には光が満ち溢れ、すでにエネルギー充填の完了を示していた。

 【ディオスクリア】のエネルギーブレイドは発生に時間がかかる。相殺する手段がない以上、バリアで受けきるしかない。

 

「今だ!」

 

 砲口から迸った粒子の波が【ディオスクリア】を襲い、炸裂する。さらに受けた衝撃は吸収しきれずに地面に墜落した。

 すぐに起き上がって腕の無くした箇所を右腕で覆い隠して耐え続けている。

 時間をかけて溜めた【春雷】は余力がある。一方で【ディオスクリア】は一夏の相手をして左腕を無くしている。

 つまり、今ならバリアも完全ではない!

 黒い巨体が徐々に光に飲み込まれていくと希望が一夏達の胸にわいてきた。

 

((このまま押し切る!))

『【春雷】・・・まだ…頑張って!』

 

 それでも動きを止めず、押し返そうとする【ディオスクリア】に簪が【春雷】の出力を引き上げて照射させる。従えた二門の白い砲身が赤熱化し、崩壊する音が一夏にも聞こえた。

 

「落ちろおおおお!」

 

 決着を速めるために一夏も左腕のあった場所を攻撃しようとしたとき、簪を別の攻撃が襲った。

 襲ったのは既に撃墜したはずの左腕。

 いたるところからスパークを放ち、黒煙を吹き出しながらも【春雷】と簪をまとめて手に握る。

 

『え・・・・きゃああああ!』

 

 荷電粒子を手で握り潰して中断させ、爆発しかけのまま一夏へとつっこんできた。

 【エクシア】に変身して腕を受け流しながら、指関節を切り落とす。すでに腕のバリアは失われていて難なく刃が通った。

 

「簪!だいじょ――!」

 

 動かない簪を腕から抱き起すのとほぼ同時。

 【ディオスクリア】の腕が内側に収縮したかと思うと、それまでで一番大きな爆炎と火柱を噴き上げる。

 自爆だと思う頃には爆発に巻き込まれていた。

 

 

 

 

 幸い、すぐに目は覚めた。

 自爆した左腕の残骸を押しのけ、見上げた先には【ディオスクリア】が右腕を振り上げていた。光が再び集って、黄金の宝剣をかたどらせているのもぼんやりと眺める。

 距離を少しおいた敵の位置から振り下ろせば、一夏はシールドエネルギーの加護で守られるかどうかだ。熱放出の出力が高ければ焼かれて死ぬ。

 

(さすがに・・・今度は死んだな。)

 

 死の可能性を前にしても心が波立つこともない。

 死ぬだけだ。

 諦めようとした一夏の耳に声が響いたのはそんな時だった。

 

「織斑…君。」

 

 近くにある左腕の残骸の下から声がした。

 その声を耳にしてようやく頭に生気が戻る。何が死ぬだけだ。まだ守らなくちゃいけない人がいるのに!

 勝つために頭に血が巡り、出来ることを最短で導き出す。

 

「出番だ、【アストレア】!」

 

 【キュリオス】から【アストレア】へ。最低限の武装に止まる姿に戻ると、標準武装もすべて解除して【プロトGNランチャー】を呼び出す。

 粒子充填開始の音が死刑宣告のカウントダウンにも聞こえる。

 

(あのバリアを【プロトGNランチャー】で貫くのは無理。それでもあのビームサーベルさえ弾ければ。)

 

 弾くのが無理でも逸らせれば大きな隙になる。

 そのあと?完全なノープランだ。

 そもそも簪が押し切れなかった時点で半ば以上お手上げ。サッカーならロスタイムを本気でプレイしているような有様なのだ。

 

(追い詰められて逆にすっきりだ。俺はこういう勝ち方しかできなかったよな!)

 

 こうなったら策も何もない。あのデカブツの胸をこじ開けてラウラを引っ張り出す・・・そんなバカみたいな考えしか浮かばない。

 暴走していてもIS。パイロットを引きはがせば停止するはずだ。

 

「運試しだな、まさに!」

(そうだ、自分の思ったことをやる。がむしゃらなまでに!)

 

 聞いたことの無い誰かの声が耳元で聞こえた。その声に勇気づけられて、【プロトGNランチャー】を構えた手にも力が入る。

 声が聞こえる。それが何を意味するか、今までの経験でよくわかっている。

 

(違う、片手じゃない。両手で全てを受け止めるんだ)

「ああ、全てぶつけてやる!」

 

 声に言われるまま握った腕を両手に体全体で受け止めると、機体にも変化が起こる。もう何度も味わった変化の感覚。

 三番目の能力解放だ。

 全身がごつごつした重厚なフォルムへと変わる。色は白と青から白と黒のモノクロカラーに。頭部、両腕、両足、胴と全身を装甲ブロックが挟むようにして装着されていく。大柄なフォルムになるのは【ディオスクリア】とも共通している。

 【プロトGNランチャー】もパーツが換装され、より大型の大砲【GNバズーカ】へと進化を完了させる。背部にも2門ずつの大型ビーム砲【GNキャノン】が両肩へセットされ、さらなる火力の増大が起きる。

 完成した機体は【アストレア】の流麗な美しさを廃して、どこまでも武骨な力強さだけを追求したような姿となった。

 その名はヴァーチェ。かつてティエリア・アーデの駆った対艦隊、要塞攻略用MS【ガンダムヴァ―チェ】

 

(【ヴァーチェ】、ティエリア・アーデ――)

「――目標を破壊する!」

 

 一人の意識と一人の口から言葉が連鎖し、思いすらも乗せたように胸へ接続した【GNバズーカ】のチャージが高速で達成される。

 砲身のジェネレーターも高速回転し、背中の【GNキャノン】も一斉にそのエネルギーを解き放つ。

 そこまで変身を眺めていた【ディオスクリア】も即座にこれに反応、掲げたビームサーベル【エクスカリバー】を【ヴァーチェ】へと振り下ろした。

 現在と未来、最強の武力同士が激突した。

 

 

 

 

 声が聞こえる。

 片方は夢でだけ聞いたことのある女の声。もう一人は母国で世話になっている博士の声だ。

 目を開くと女の背におんぶされて、博士と対面していた。体の主は眠っていたみたいであくびをした。

 博士の顔が知っているものより若い。髪が黒々としていることからもよくわかる。

 気のせいか女の身長が夢で見たときより縮んでいる。

 

「久しく訪ねてきたと思ったら子供を預かれじゃと?託児資格を取った覚えはないぞ。」

「知っているさ。それでも頼れるのが君しかいないんだ。」

「・・・はぁ。ま、仕方ないの。」

「話が早くて助かるよ。渡しておいてほしいのは―――」

 

 そこからの話は難しくてよく頭に入らない。ラウラの耳でも聞こえるのだが、身体の方が理解できないせいで言葉の断片が素通りするような感じだ。

 

「これがあの子専用の・・・【ハンプティ・ダンプティ】・・・【シュヴァルツェア】に仕掛けを」

「イギリスの・・・どうやって・・・」

「あの子に処置を・・・ボクのことは・・・眼帯に・・・」

 

 一通りの難しい話は終わったらしい。

 博士がまた大きくため息を吐くと、ママに向けて言った。

 

「これが最後かもしれんのだ。別れは言っておけ。」

「ボクとあの子にそんなの必要――」

「言え。」

 

 ママの言葉を遮った博士の目は、いつものラウラを叱る眼ではなかった。哀愁に満ちた、過去を思い出した眼だった。

 

「言わんでも分かるなぞ錯覚じゃ。ワシもそうじゃった。伝わっているはずだと、気持ちからも、あの時のお前からも逃げた。」

「・・・まいったね。託して終わりにするつもりだったのに。」

 

 ラウラを下ろして向き直ると、ゆっくり抱きしめた。

 10秒、20秒、30秒。

 1分もした頃、ようやく体を離す。

 体を離すと、頭をなでながら言い聞かせるように告げた。ラウラに、あるいは自分自身に。

 

「ラウラちゃん。ママはこれからラウラちゃんとお別れしないといけないんだ。」

「お別れ・・・?ママ、ラウラと一緒じゃないの?」

「ラウラちゃんを守るにはこの方法が一番なんだ。このまま逃げても、いつか捕まってしまう。」

「ボクのことは忘れた方がいいんだ。大丈夫。時間が経てばママのことは忘れて平穏に生きられるようにしてある。」

「約束しただろう?ラウラちゃんはママが守るって。」

 

 体は違う、と声を出そうとしていた。守ってほしくなんかない。置いて行かないで。

 泣きながら叫びそうになっていた。

 だが声は出せなかった。

 別れを告げている女の方が涙しながら頭をなでていたからだ。

 

「嫌だね、感情っていうのは。何年生きても思い通りにならないんだからさ。」

 

 泣きたくないのに泣いている。

 ママが悲しくてもしなくちゃいけないことを邪魔してはいけない。強がりとそんな冷静な考えがラウラに涙を流すことを拒否させていた。

 泣く寸前まで顔は紅潮し、身体も震える。ここで感情を出してはいけない。

 いい子にならなくちゃ。いい子だったら、ママは褒めてくれるから。

 強がって泣こうとしないラウラを見て、微笑んで見せた

 

「いい子だね。大丈夫、ママよりもっと大切な人が出来るから。いつか話したヒーローさんみたいな人にきっとラウラちゃんも会えるから。」

「だからその人と幸せになるんだよ。」

 

 顔の前に手をかざされると急に意識が遠のいていく。気絶よりは睡眠に近い心地良さが全身を包む。

 閉じそうになる瞼を体も、中のラウラも必死に耐える。

 

「ああ、それでも――――やっぱりいつかは思い出してほしいな。」

 

 本当に思い通りにならない、と漏らす声が遠ざかっていく。

 

 行かないで!

 忘れてたまるか!

 離れたくない!

 

 身体の声とラウラの声が入り混じる。

 前者はただ置いて行かれる寂しさから、後者は悩ませ続けてきた謎の手がかりを離すまいと。

 どちらがどちらかもわからなくなるほど混じったあと、ラウラはまた闇の中に放り出された。

 置いて行かれないように、離れてしまわないように、既に終わったことだと頭で理解しながらも前へともがき続ける。

 

 頑張るから

 いい子になるから

 だから・・・だから!

 

(ラウラ)を一人にしないで』

「ラウラあぁぁ!」

 

 そしてもう何度目か伸ばした手はしっかりとした感触の腕をつかむ。離すまいと力をこめると相手も握り返してくる。

 幻じゃない!ちゃんと掴めた!

 その達成感と抱きとめられた安心感にラウラの意識は遠のいていった。

 

 

 

 

「やっと引っ張り出したと思ったら・・・何でお前は寝てんだよ。」

 

 全身が焼けてしまった【エクシア】でラウラを抱きかかえた一夏は拍子抜けしていた。【ヴァーチェ】と【ディオスクリア】、双方の火力すべてをぶつけた争いは【ディオスクリア】に軍配が上がった。

 だが一夏は粒子砲で【エクスカリバー】の軌道をそらすと、すぐ【エクシア】に変身。振り下ろしてがら空きとなった【ディオスクリア】を滅多切りにしたのだ。

 【ディオスクリア】の胸部装甲を破壊、中の黒卵を切り裂いて、ようやく中にいたラウラを掴みだしたところだ。

 簪とシャルルのこともあって暴れるかと思っていたら、すやすや眠っている。いったい今まで何と戦っていたのか忘れそうだ。

 

(・・・・)

「っ!」

 

 その寝顔に気を抜きそうになった一夏の耳を、軋むような機械音が打つ。

 パイロットを抜かれた【ディオスクリア】がラウラを取り戻そうと手を伸ばしていたのだ。

 

「こいつまだ!?」

(守ら・・・ねば・・・それ・・・我・・・使命)

 

 後退する一夏を追って一歩二歩進んだところで前のめりに倒れた。

 まだ動こうと震えたのを最後に完全に沈黙する。

 見つめていると、機体の各部が光へとほどけて中心に集まる。やがて元の黒い卵に戻ると中に吸収されて、小さな眼帯へと戻って地面に転がった。

 

「終わったんだな・・・今度こそ。」

「ん・・・ううん…」

『え、え―――途中で大波乱がいくつも起こりましたが、ただいま片方のチームのシールドエネルギー残量が「0」になったとのことで勝敗が決しました!』

 

 大きな声がアリーナに響く。

 放送席を見ると、他の観客が残らず避難している中でそこだけは放送委員以外にも何人も人が詰め掛けていた。

 箒、セシリア、鈴、本音、リヴァイブ、ヒリング・・・手を振っている彼女らを見てあらためて安堵して、胸をなでおろす。

 

『そして今回からは特別賞も優勝者には授与されます。』

「げ。そんなのもあったな。」

 

 俺は無所属なのでノーカン。簪の部だけ部費が倍か。結果が結果なので仕方ないだろう。・・・しばらくは部に無理矢理勧誘されないように逃げ回らないと。

 

『それでは栄えある優勝は―――

 

 

 

 

―――ラウラ・ボーデヴィッヒ&シャルル・デュノアペアです!』

 

 

 

 

「「「「・・・え?」」」

 

 おそらく試合始まってから最大の疑問の声がアリーナに木霊した。

 

 

 

 

――夜 一夏&シャルルの部屋――

 

 

「まさか負けちまうとは・・・」

「僕も皆に忘れられてるなんて思ってなかったよ。」

 

 誰もが疑っていなかった俺と簪の勝利。しかし予想に反して勝利したのはラウラたちだった。

 原因は俺がラウラに集中しすぎてシャルルのことを失念していたせいだ。

 思い返すと簪は一度も「シャルルを倒した」とは言っていなかった。俺が放っておけなかったから来た・・・としか言っていなかったのだ。

 終了後に聞いたところでは足のスラスターを両方破壊されて動けなくなっていたそうだ。やっと応急処置をして追撃しようとしたときには【ディオスクリア】が大暴れ。巻き添えで撃墜されるわけにはいかない、と潜伏していたらしい。

 

「それで俺達が知らない間も生き残ってたんだもんな。やられたぜ。」

「あはは。地味なこともたまには役立つもんだね。」

 

 そう言うシャルルは少し笑顔になっている。昼間、色々感情的にぶつかったのがよかったのか?

 フア、と可愛らしくシャルルがあくびする。もう夜も遅い、寝た方がいいだろう。

 

「それじゃ、明日も学校だし寝よっか。」

「あー、また慌ただしくなんのか。憂鬱だ。」

「新聞部の人がインタビューしたいって言ってたね。同じ部屋に住んでる優勝準優勝コンビですって一緒に出てくれる?」

「自分だけでやってくれ。身がもたん。」

「・・・・だめ?」

 

 急に上目遣いで下から覗き込むように頼むポーズをする。男だと分かっていてもくらっときそうな妙な色気があった。

 

「分かった。」

 

 だからすぐに返事した俺は悪くない。これは友達のためにとれる至極真っ当な行動で・・・誰にしているのか分からない言い訳を頭にいくつも呟く。

 そんな一夏を見ていたシャルルはぷっと吹き出した。

 

「あははは。一夏、女の人に頼まれたら弱いタイプでしょ。」

「・・・男にも弱いとまでは思ってなかったがな。おやすみ。」

 

 俺って自分では誠実に生きてるつもりなんだけどなぁ。

 布団に入るとシャルルから視線を遮った。

 

「うん、おやすみ一夏。」

 

 色々あったが俺の波乱に満ちたこの転校生たちとの出会いも、これで一区切りがついた。いやぁよかったよかった―――と思ってたんだ。数時間後になるまでは

 

 

――数時間後 同室――

 

 

 静まり返った部屋。疲れがみんなピーク達したみたいで、ほとんどの部屋からは物音も聞こえない(一回、酒に酔った幼馴染の声が聞こえたが気のせいだと思いたい)。

 俺も心地良く眠っていた。

 その快眠が不意に引き離される。お腹の上に何かが乗った重みと熱を帯びた人の息遣いで、否応なく目を覚まさせられた。

 

「・・・・何してんだラウラ?」

 

 布団にラウラが潜り込んできていた。それもぴったり俺に添い寝するように。

 

 

 

『Reached the prescribed experience.(規定経験値達成)』

『Armed type V-Virtue release.(武装タイプV-ヴァーチェ解放)』

『Start some weapons capability overwritten.(一部武器の能力上書きを開始)』

『Brake the world.(世界を破壊せよ)』

 

 

 




 これでラウラ戦も終了。次回で今回の語れなかった所やその後を書いてラウラ編も終わりです。今回との反動で多分甘い話になりそうな・・・あんまり暗くならないように気を付けます。

ではまた次回。
 
 感想・質問・評価、何でもよろしくお願いします。

――(今回は)どうでもよくない余談――

 お気に入り登録が200件を突破できました。ここまで続けてこられたのも読者の皆様のおかげと思います。
 この場でお礼の挨拶を述べさせていただきます。今後もどうぞよろしくお願いします。


 最後にもう一人忘れられてそうな人の話。
 教訓 身の丈に合わないことはしないほうがいい。
(若干ガールズラブ注意。未遂だから特にないですが。)




「どうなっている!話が違うぞ!」
『特に伝えた範囲で問題は起きていないわ。』
「結果を見ていないのか!ドイツの機体は操れず、しかもあの小僧に良い様にやられたじゃないか!」

 うるさそうに通話相手は答える。

『八つ当たりは止めてくれないかしら。結果だって知っているわ。
 不都合が起きたというなら、あなたの方で何か勝手をしたんじゃない?』
「どこがだ!ISと操縦者を思い通り動かせるという触れ込みだっただろうが!」
『ええ。一部例外があるとも言ったわね。あなたが娘さんをスムーズに使えたのは、彼女に施した調整のおかげだと。確かにそう伝えたはずよ。』
「ぐ・・・!」
『もういい?私も暇じゃないの。』

「ま、待て、痕跡はどうなる!?見つかったら我が社は終わりだ!貴様らもだぞ!」
『ご心配ありがとう。でも私たちは無能じゃないの、あなたほどね。』
「貴っっ様あああぁ!」
『聞かなかった、あなたが悪いのよ。』

 女に手玉に取られたことに激昂して声を荒らげる。
 対して、電話の向こう側は凪のように静かだ。

『・・・気は済んだわね?それでは御機嫌よう、デュノア社長。』
「ま、まだ話は・・・」

 ツーツーと無情な音が流れる
 すでに回線の途切れた受話器へ呼びかけても応答は返らない。

「あの女ぁ・・・!私を虚仮にしやがって!」

 到底許せない。会社の発展のために尽くしてきただけで、なぜ苦しまないといけない?
 受話器を机にぶつけようかと振りかぶったが、寸でのところでもう1つある切り札を思い出した。

「フ、フフフ。そうだ、焦ることはない。私にはまだこれがあるじゃないか。」
 
 それはIS学園から手に入れた最新鋭の機体とその動力のデータ。
 すなわち【ガンダムエクシア】と【GNドライヴ】。

「ISではまだしも、これをP.Aに搭載させるだけの技術を確立すれば・・・」

 見ていろ、あの女め。次に擦り寄ってきた時には自分の立場、身をもってわからせてやる。

「フハハハハハ、あーっはっはっはっは!」





「単純な男。」

 デュノア社長が電話していた相手スコールは切った電話を見返した。
 ああやって突き放せばムキになる・・・そう読んでの対応だったが、社長室に仕掛けた盗聴器の反応を見る限り正解だったようだ。

「スコール!またあのクソ野郎と電話かよ!」
「オータム。分かって頂戴、これも役割なの。」
「チッ、分かってるけどよぉ・・・」

 不機嫌を隠しもしないオータムがスコールには可愛らしく映る。移り気でも主人のご機嫌を取りたがるネコみたいなものだ。
 機嫌を直してもらおうと頭に手をのせた。何度も撫でているうちに険しかったスコールの顔もほぐれる。
 そのまま二人の世界に入るのも時間の問題だった。
 だが突如銃声が二人を引き裂き、低い声が遅れて聞こえてきた。

「盛るなよ・・・同士がぼけてちゃあ…やりがいがない。」

 遅れて姿を見せた男はボロボロになったジャンパーに、ダメージが本当に入ったジーンズ。薬莢でも肩から提げていれば、見たまま傭兵だと思うだろう。
 右手のハンドガンから薄く硝煙が立ち上り、被ったフードからのぞく目と合わさって暗い狂気を膨らませる。
 声と姿に嚙み合った擦り切れた雰囲気を男は発していた。
 
「ザウル・・・てめぇ、つまんねえ用だったら分かってんだろな!」
「いつまで待たせる?俺の連れたちは我慢ができるほど利口じゃない。」

 邪魔をされたオータムが食らいつくが男は相手にもしない。

「・・・忘れたの?あなたのやり方は企業長も認めていないわ。延期ではなくて中止だと。」
「コイツは驚いた。殺しに貴賤があるとはな。」
「私たちが目指すのは救済よ。殺すことは絶対じゃないわ。」
「逃避だな。それとも理想主義か―――所詮、怠惰の言い訳だろうに。」
 
 話は終わりだと彼――ザウルはジャンパーを翻して去っていく。

「待ちなさい!」
「目をそらすな。花はいつだって咲く場所を探してる。」

 鼻歌交じりの声は返答のようで誰に向けてでもない。
 その独り言だけでスコールはデュノア社長とは比べ物にならない嫌な予感を抱えさせられた。唐突に鳴った電話でザウルよりも意識がそちらにとられる。目を戻したときには彼はいなくなっていた。

「・・・もしもし?」
『スコール叔母さん、電話は1発で出てくれよ。』
「レイン、用件は何?ちょっとこちらも立て込んでるの。」
『どうせオータムと乳繰り合ってただけだろ。それより例の機体、確保は失敗したぜ。』
「分かったわ。無理をして尻尾を掴まれたりはしないで。」
『了解、あの丸いのに感づかれてなきゃいいけどな。』

 短く通話を終える。
 うまくすれば戦力になる未知の巨大IS。出来れば手にしたかったが彼女の身分が割れるリスクとは替えられない。今は現状に満足しておくべきだと判断した。
 まずは目先の問題、サウラ。
 よくない風が吹き始めたことを肌で感じていた。
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