IS×00 夢を目指す者   作:王天君

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謎の世界に降り立ったラウラは一人の老女と引き合わされる。彼女はなぜかラウラを知っているようで――

 幕間もこれで終了。次回からは一旦舞台がIS学園から離れます。

 次回が気になる方は後書きの欄をお先にどうぞ。


FRIENDS 未来より過去へ 後編

「――私の過去さん?」

 

 過去。

 その表現に引っかかるものはあった。過去に自分と会ったことがあるのか。もしくは

 

(繋がっているのか、『ママ』と。)

 

 『マザー』という単語、自分に似ている、その情報からひょっとすると『ママ』なのかと思ったが、直観は違うと告げていた。

 誰なんだこの女は?

 

「お前は・・・誰だ?」

「貴女の持っている可能性、その結末の一つ。詩的に言うならそんなところ。」

「結末?」

「ええ。私もまた貴女、ラウラ・ボーデヴィッヒ。その未来が形になった、と言えば満足?」

 

 つまり目の前の容姿や服装の整った老女が自分の未来、そう言いたいのだろうか。ラウラだって人間である。いつかは年を取り、老いて死んでいくのは理解している。それでも数十年後の自分を見て受け入れるのはなかなか難しいものがあった。

 

(前後不覚になって入院しているような未来でなかっただけ良かったと、そう思うべきか?)

「その姿だとIS学園に来てすぐの頃ね。もう彼とケンカはした?」

「そんなことよりここは何処だ!なぜ私がここにいる!貴様は何が目的だ!」

 

 目覚めてから振り回されっぱなしだったせいか、声が荒くなる。

 

「こらこら、落ち着きなさい。急いては事を仕損じるといつもアイたちにも教えさせているでしょう。」

 

 うろたえて取り乱すラウラにマザーは動じない。子どもを相手にするように簡単にペースに巻き込まれる。マイペースさもさもることながら、椅子に座ってこちらを悠然と見据える姿には巨木のごとき存在感があった。織斑千冬を相手にした時の氷のような緊張感とは違う、また一つの人間の器の大きさが感じられる。

 

「ああ貴女はここの子どもではなかったわね。いつもの癖が出たみたいでごめんなさい。」

「・・・いや、こちらも一方的にすまない。」

 

 子ども扱いは気に入らない。だが慌ててもまた醜態をさらすだけだと、むやみに食ってかかるのを止めた。だが相手の真意も見えないうちから情報を抜きだされるのも危険だ。黙って相手の続きを待つ。

 

「・・・」

「質問されてばかりは嫌?じゃあこうしましょう。私の質問に答えてくれたら、あなたの質問にも答える。これなら等価になるわ。」

「・・・分かった。ただし、嘘をついていると判断したらそこで終わりだ。」

「それじゃあさっきの質問ね。彼とはもう色々あった後なの?」

 

 彼・・・つまり織斑一夏のことだろう。

 

「ああ。私が勝手に暴れただけだが。」

「やっぱり同じね。彼の能天気なところが頭に来ちゃって。ふふふ、若かったわ私も。」

「まったく、あんな精神で良く生きていられる。」

「まだ収まってないのね。でも、彼がもっと気難しかったらあなたが好きになることもなかったかもしれないのよ?」

「それは――おい、二回も質問しているぞ。」

「あら気づかれた。」

 

 老人なのに悪戯のバレた子供のように笑うと、ラウラに質問を促した。

 

「何故私を連れてきた。ここは何処なんだ?」

「二つ目には答えられるけど一つ目は無理だわ。私が呼んだわけでもないもの。」

「それでもいい。やってきた方法くらいは分かるだろう。」

「時代は2202年。ここはドイツのバイエルン州、ミュンヘンにあるモルゲン孤児院よ。もっとも貴方のいる時代にはまだないわ。私が建てたものだから。」

 

 ざっと今から90年先の未来のドイツ、という事か。その数えでいくなら目の前の自分ももう100歳を超えている筈だが。年齢を聞こうとするとあからさまに怖い顔をされたので仕方なく質問を変える。まだ終わりにはできない。

 

「私が孤児院を運営というのも信じられんが。」

「生きている限り、考えは変わっていくわ。貴方だって数週間前の自分に、ある人を嫌いになった後好きになるって説明できる?」

「それは・・・無理だな。」

「ふふふ、言ってる私も、もう創設した時の記憶なんて曖昧だったりしてね。」

 

 でも、とマザーは区切った。

 

「少しでもあの人の苦しみを減らしたい、そう願った気持ちだけは今でも覚えてるわ。」

「あの人?」

「私が忘れられない、貴女にとっても大切な人。」

 

 どこまで話したかしらと頭を捻るマザーをラウラは見つめた。彼女の今の例えに従えば、自分も孤児院を経営したくなるきっかけが来るのだろうか。さっぱり想像出来ない。

 

「それで・・・大戦での功績もあってAEUや富裕層から支援を受けてるわ。あれ以来、戦災孤児は増加の一途を辿っているから、ここも生活費を、切り詰めて決して楽な生活ではないけど。」

「ノインたちもか。」

「違うわ。」

 

 大戦という表現から、ここまで連れてきてくれた子たちの意外な過去に納得しかけたラウラを強く否定する。

 

「あの子たちは悲劇の遺産。家族を見捨てられなかった、私の勝手な贖罪につき合わされているだけよ。」

「家族・・・まて、なら母さんはどうなんだ。」

「母さん?」

「とぼけないでくれ。『ママ』のことだ。何十年も私より生きているんだ。会えなくとも手がかりくらいあるだろう?」

 

 何を言っているかわからない感じで小首をかしげる。

 おかしい。

 この女も自分なら「母さん」というワードに当てはまるのは一人しかいない。ここで知らないふりをする理由もない。

 

(本当に知らないのか?)

「貴女の言う人が誰なのか、私には見当もつかないわ。」

「貴様が私くらいの頃、覚えのない記憶や誰かわからない声を聞いたことがあるだろう。」

「記憶?声?なんのこと?」

 

 素人目の判断でも嘘をついているとは思えない。懸命に思い出そうと唸っていることからも本気で心当たりがなさそうだ。

 

「信じてもらえるかはわからないけれど、物忘れがひどくなった気がするの。学園にいたころの記憶も穴だらけで。」

「穴だらけの記憶・・・」

(この女、数ある未来の一つと言っていた・・・ここは私が記憶を取り戻さなかった世界?ならなぜ私は記憶を取り戻した?自分の記憶だと認識できるようになったきっかけは・・・)

 

 決勝戦の最後、織斑一夏に助け出されてからだ。マザーが自分以外では織斑一夏を気にしているのと関係があるのかもしれない。

 

「・・・」

「どうかした?」

「いやいい。」

 

 答えが出ないことを延々繰り返しても無意味だ。

 別の角度から情報を引き出そうと、手で示して手番を譲る。すると疑問符が浮かんでいた表情は掻き消え、また楽し気な笑みを浮かべる。

 

「さっきの続きで一つ聞いておこうかしら。」

「む?」

「貴女にとって彼は大切な人?」

「・・・寝るときの抱き枕程度には。」

 

 認めるのも照れくさい思いがあったが、この年を経て深みを増した自分には見抜かれてしまう気がした。そんなラウラの気持ちもすべてお見通しのようにマザーはからからと笑った。

 

「初々しいわね。」

「笑うな!聞いておいて!」

 

 どこまでも子ども扱いして、と睨むラウラにもただ笑って答えた。

 

「気を悪くしたならごめんなさい。何もかもがあの頃のままで、本当に懐かしいわ。」

 

 鷹揚に笑う姿には彼女の真意を見出すことは出来ない。

 ただラウラの今を喜んで笑っているようにも、未来から今を見つめて何も知らないラウラを嘲笑っているようにも見える。

 ただこんなにも感情を表して会話するのは、今のラウラとかけ離れている。

 

「最初の質問がまだだ。私がここへ来た方法は?」

「・・・それは貴女の足を見れば分かるんじゃないかしら。」

 

 不意に途切れたマザーの目はラウラの足に向けられていた。つられて見てみれば、身体が足先から紐がほどけるようにゆっくり粒子化して消え始めていた。

 

 

 

 

 出会った謎の人物をマザーに会わせると、ノインたちは出ていくよう言われた。特にドライは怪しい人物を置いて行けないと主張したが、教師のアイ姉や友達を待たせていると言われると行かないわけにはいかなかった。

 そんなわけで長い廊下をドライと一緒に歩いているのだが、彼女はご立腹らしく黙ったまま。仕方なく色々考えるふりだけしてみている。実際に考えるなんて難しい真似は苦手なのだ。

 だが適当に謎の人物のことを回想していると、見つけたときに何か違和感があったと気づいた。

 

「ねえ、ドーちゃん。あの人・・・」

「何?つまらない話なら聞きたくないの。」

 

 不満を押さえない言い方でノインも癪に障る。自分だってこの「モルゲン孤児院」に連れてくるのは反対しなかったくせに。そのまま伝えると、相手も引っ込まない。

 

「私は最初から反対した。意見を聞かなかったのはノイン。」

「ドーちゃんはいつも後出しでずるい!」

「ノインが悪い!」

「ドーちゃん!」

「ノイン!」

「静かにしろ馬鹿ども!!!」

 

 怒りの言葉と共に拳骨が振り下ろされる。

 たまらず二人とも頭を押さえて誰かと見ると、怖いことで有名なツヴァイ姉が次の拳を振り上げていた。ふくよかな体型で優しさの塊みたいな人だが、本気で怒るとマザーも手が付けられないほどの激昂ぶりを見せる。今みたいに。

 

「クライアントがお待ちなんだよ!チビたちも待たしてんだから早く来な!」

 

 言い訳も弁明も不要と要点だけ言うとさっさと歩き去る。これは二人がついてくると信じているのではなく、ついてこなければまたとっ捕まえて殴ればいいと考えているだけである。

 二度も殴られるのはごめんだと後を追って走ろうとして、さっき思い出しかけた違和感が何かわかった。

 

(あの人、存在感が薄かったんだ。)

 

 

 

 

 足から出ている粒子の色は青みがかった白で、織斑一夏が使っていた【ガンダム】から出ていたものと同じだ。不思議なことに消滅しかけの身体を見ても恐怖は感じなかった。

 ここへ来た方法、つまり今見ているこれは、

 

「夢よ、あなたが見ている世界は。全てはGN粒子が作った一時の奇跡。目覚めたときにはきっと忘れてしまう泡沫の存在。」

「夢、か。」

 

GN粒子という言葉には聞き覚えがある。織斑一夏の機体【ガンダム】がそんな名前の粒子を発生させているとか。

 だが今気になるのは夢。

 過去が胸を締めつけるような夢を、消えた過去の自分が思い出させようと必死になっていた夢を、消えてしまった絆の在りし日の夢を見てきた。

 その経験通りなら未来のことが見える夢もまたあり得る・・・のかもしれない。強引すぎる話だが自分を納得させると、今度は落ち着き払ったマザーの態度が気にかかる。

 出会った初めから驚きながらもこの展開を予想していたような質問とノインたちへの対応、ひょっとすれば、

 

「あるのか?私以外の過去の人間に会ったことが。」

「いいえ、私も過去から来た人間と話すのは初めて。このハロを渡された時、ハロ同士を通じて起こる可能性として知らされていただけ。」

『シャーネーナ、シャーネーナ。』

「束さんから渡された時に。」

 

 

 ハロを膝に抱えたマザーは消えゆくラウラを静かに見送る。最後に、と続けて言葉を発した。

 

「シャル―――いえ、デュノアさんには気をつけて。」

「シャルルに?織斑一夏についてではないのか?」

 

 語るか逡巡していた様子のマザーは、やがて首を横に振った。

 

「彼には必要ないわ。私が見込んだ嫁だもの、貴方がいればきっと大丈夫。」

「でも彼女は違う。彼女の人生には子供の思いだけでは変えられない運命が口を開けている。だから貴方にもう一度を託したい。」

「叶うことなら彼女を――」「――救ってあげて」

 

 頭に響くようだった声を聞き、自分も何か言っておかねばと頭を捻る。悩んだ末に出たのは拍子抜けするほど簡単な言葉だった。

 

「任せろ。」

 

 

 

 

 粒子となって消えた少女のいた場所を見つめ、マザーは考える。これで良かったのかと。かつての自分の前には体験したこともないような大きな壁が待っている。そしてそれは遠くない未来に牙を剥いて襲いかかるのだ。

 

(でもすべてを教えてしまったら、それは貴女の人生ではないものね。)

 

 今は願おう。その道行に少しでも多くの幸あらんことを。

 

『――マザー、コーナー家の方が。』

「今行くと伝えて。」

 

 さあ自分も戻ろう。この何もかもが過ぎ去ってしまった世界に生きる子供らを生かすための、戦いの舞台へ。

 この行為が今も戦い続けている彼にとって、わずかでも慰めになると信じて。

 

 

 

 

 再び目を開けるとそこはいつもの寮の部屋だった。相変わらず掴んだ服の裾の先には織斑一夏が眠って、背中の方からはシャルルの穏やかな寝息が聞こえる。

 夢を見ていた気がする。もう何があったかは思い出せない。

 けれど、

 

(私は未来を託された。託されたんだ。)

 

 何かを誰かから託された名残だけが、胸に灯りとなって残っていた。

 

 

 

 

 次の日の朝、一夏の元に一通の手紙が届く。

 差出人はユビアス・コール。

 その手紙が、彼と彼を取り巻く者たちに新たな変化をもたらしていく。

 

 




特に今回は語るようなことはありません。
ではまた次回。

感想・質問・評価、何でもよろしくお願いします。

――どうでもいい余談――

 今年も最後となるかと思います。読者の皆様もよいお年をお迎えください。また来年からもどうぞよろしくお願いいたします。





ここからはCパート。




――2112年 日本某所――


 薄暗い部屋の中、男は電話に愚痴のように語りかける。

「――亡国企業とは縁切りだ。奴ら、テロリストのくせに温すぎる。」
「彼らも所詮は他人事なのでしょう。だから目につくことばかり気にする。」
「同感だな。理想?大義?くだらねぇったらねぇ。これは戦争だ。戦争には結果さえあればいい。」
「心得ています、マスター。準備もすでに。」
「戻ったら動く。俺の【ファルクラム】の調整もしておけ。」
「始まりですね、これが。」
「ああここからは第二幕。俺達『夜明けの鳥(ガルス)』の旗揚げだ。目標は――」





――同日 日本某所――

「ザウルの後を追え?」
「ええ。彼の危険性は放置できない。誰かが監視しなくてはならないの。その任務をあなたに頼めないかしら、エム。私が行きたいけど次の任務が控えてて。」
「何故私だ。そんな雑務、オータムあたりに行かせればいいだろ。」
「彼女だと最悪殺し合いになるもの。それに【サイレント・ゼフィルス】の試運転も兼ねてると思って、ね?」
(レンを見張り役につければ問題はないでしょう。ロシアの【Su-37】も受け取らないといけないし、仕事は尽きないわね。)

 だがまだ煮え切らない様子のエムにスコールは切り札を切ることにした。

「今アメリカのUGA本社で耳寄りな情報があるの。」
「そこまで言う程のものなのか?」
「ええあなたには特に。」

 聞く様子を見せた彼女を畳みかける。

「織斑千冬がいるらしいわ。」
「!?本当か?」
「嘘はつかないわ。信頼は大事にしたいもの。それで、行ってくれる?」

 目に見えてやる気の入ったエムの様子に口元を緩ませ、答えの分かりきった質問をする。予想通り、すぐに返答は出た。

「・・・分かった。だが行先の見当はついているのか?そこまで調べる気は無い。」
「勿論。彼が狙うのは間違いなく――」




「――アメリカ()()()()だ。」
「――アメリカよ」




 
 少年少女たちが悩み生きようとする間も残酷に時計の針は進む。歴史はやり直しはできず、くりかえすままなのか。
 世界の影で歪みが進行し続ける中、一夏達もまた否応なくその歪みに巻き込まれていくこととなる。


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