IS×00 夢を目指す者   作:王天君

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あけましておめでとうございます。今年も更新が遅れ気味になるかもですがよろしくお願いします。



教え子を守るためアメリカで一人奮闘する千冬

衝突や交遊を経ても「正義の味方」であり続ける一夏

それぞれの思いや苦しみを抱えながら今を生きる少女達

全てを呑み込んで回る、不変だったはずの世界はほころびの時を迎える。

第六章、始まります。





 アメリカ合衆国。
 コロンブスによって発見されて以後、先住民族の虐殺に独立戦争、南北戦争。その後には2度の世界大戦と続く、繁栄と戦争の歴史を重ねてきた大国。それは22世紀となった現在でも変わることなく豊かな暮らしを国民の多くが送る一方、内外問わずに争いの火種を抱えていた。
 現在、アメリカ首脳部が特に頭を悩ませる原因は南アメリカ大陸からの難民にある。
 常に北アメリカ大陸の富を眺めながら自国の貧しさを見つめるしかなかった彼らの母国の不満は【IS】が登場したことで深刻さを増した。

 女性の権利拡張を求め、アメリカと繋がりを強めようとする「改革派」。
 アメリカ批判の感情を捨てきれずに自国のみで生き抜こうとする「保守派」。

 どちらにも理由はあり、掲げた正義がある。恐るべきことに南アメリカ大陸ほぼ全ての国でこれらの権力間対立が起こった。さらに軌道エレベーター建設が始まると思惑が絡み合い、同胞のはずの南アメリカ大陸の国家間ですら対立が生まれ、静かな緊張感が国々を包んだ。
 『アフリカタワー』や『天柱』のように設置にあたっての紛争こそなかったものの、国家間では過激派によるテロが多発し、情報の漏洩にトップの亡命も続発。現在では南アメリカに国として満足に機能しているところなど殆どなくなってしまっていた。(この紛争が無かったことについては裏である企業が勢力を残らず潰したとも、赤と黒のISが過激派のアジトを焼いたとも言われるが定かではない。)
 そのような混沌とした国を捨て去る国民も多く、アメリカへと人々は流入した。ここまででも各国首脳が頭を悩ますには十分すぎるが問題はこの後から始まる。





――七月 ホワイトハウス――

 大統領専用に設けられた部屋で初老の女性、現アメリカ大統領は報告書に目を通す。

()の向こうに待つ移民希望者が五十万人を突破・・・一体いつまで増え続けるの。部隊の派遣も再考しないといけないわ。」
「先人を馬鹿にするわけじゃないけれど、もう少し考えて欲しかったねぇ。」

 補佐官の年季が入った中年男性が愚痴に軽口で応じる。いつもはマイペースな笑顔をする彼も顔には苦笑を浮かべている。
 空になったマグカップを彼に突き出すと物も言わずにコーヒーを注ぐ。軽めの口調とは裏腹に入れられたコーヒーを飲み干した。相変わらずコレの味はいい。
 
「あの壁・・・できる前より難民の数が増えてるんじゃたまったものじゃないわ。」
「壊そうにも成果が出ているんじゃどうも。」
「あのジジイ、問題だけ残して先にくたばって」

 壁。
 そう彼女らが呼ぶものこそ現アメリカ最大の問題であった。
 事の起こりは約三十年前、当時からあった不法移民が勝手に国境を渡ってくることに激怒した当時のアメリカ大統領がメキシコとの間に明確な国境を作ったのだ。それは文字通り国の境となる壁。ベルリンの壁の再現のような光景が国境線に築かれた。
 それはただの壁でしかなかったのだが、なおも渡ろうとする者が相次いだせいで大きさの拡張、兵士の派遣が後から決められるなど一種の要塞のような扱いである。
 高さ的には5メートルほどで検問は設けてあるので行き来を全く拒絶しているのではないが、難民が通れない事実は変わらないので壁があると言って差し支えない。
 もちろん人道上の問題から、部外者の正義漢気取りたちからは再三の非難の的だ。大統領もその意見に実は賛成だったが撤去は出来ていない。難民を防ぐ、その一点だけ見れば成果を上げているのが逆に災いしているのだ。

「いくら待ってもあそこは通れない。それは彼らも承知だろう。だが分かっていても、彼らにはそもそも行き場所がない。」

 今では壁と故郷の間で板挟みとなった難民たちが壁の前で難民キャンプを形成してしまっている。軍がいるので故郷よりは治安がいいのも彼らの停滞を助長してしまっていた。
 そして壁から見えるアメリカの明かりがまた新しく難民を呼び寄せる。負のスパイラルが完成していた。

「笑えやしないわ。」
「イカロスにとっての太陽かもしれないね。手が届かないあたり。」

 ロウで固めた翼を持った英雄、あれと同じく目前の難民も伝説のように消えてくれればいいがそうもいかない。

「だが別に放っておいてもいいんじゃないかい?今までの代表も皆そうしてきた。」
「予感がするのよ。」

 資料に向けていた眼を補佐官に向ける。頭にのしかかっていた嫌な想像を晴らすために。

「膨れ上がり続ける難民は言ってみればパンパンに膨らんだ風船よ。一度誰かが指向性を持たせればそれだけで大きな破壊力を生むわ。」
「考えすぎじゃない?どんなに膨らんでも家なき子の集まりさ。」
「・・・あくまで可能性。でも警戒しておくに越したことはないわ。」

 全ては可能性なのだ。起こらなければそれでいい。起きてからやはりしておけばよかったでは何にもならない。

「UGAからも『好意的協力』の申し出が来ているし。あの女、ユビアスも何かを掴んでいる気がしてならないの。」
「UGAの若社長様かぁ。年寄りが若さのひがみはみっともないよ。」
「違うわよ!」
「おおっと、怖い怖い。」

 睨んでも肩をすくめるだけでこたえた様子はない。柳のように視線を流す補佐官を置いて大統領はホワイトハウスの外を眺めた。

(ユビアス・コール、彼女は何か底知れないところがある。亡国企業と並行して進めていた彼女の身辺調査でも何も情報が得られなかった。)

 大統領という職業柄、多くの人を見てきた。
 理想にまい進する者、金に執着するだけの資本家、欲望を隠し切れない野心家・・・
 そのどれとも違った底の無い暗さを合う時に度々感じる。そのせいで胡散臭い敬語で喋るあの社長の実力は認めても、大統領は心から信用できなかった。正直にそのことを伝えても「信用していただけないとは残念です。」と、それらしい言葉を返すだけに違いない。
 味方であることすら不安に感じるのが胸の内である。

「南の国家も小競り合いしつつ、私たちに付け入る隙を狙ってる。誰かに針で刺されないよう祈るしか――」
「大変です大統領!!難民キャンプで事故が!」

 ようやく話が終わったと思ったところで、もう一人のまだ若い補佐官が息も絶え絶えで駆け込んできた。

「急にどうしたの?」
「とにかくニュースを!」

 中年の補佐官が気を利かせて端末を点ける。そこには、

『ご覧いただけますでしょうか。これは現在の映像です!被害はいまだ収まらず軍の派遣も―――』

 彼女が想定していた以上の最悪が広がっていた。



第六章 揺らぐ世界
第四十二話 崩れた平和


――アメリカ・オハイオ州 ノースウエスト国際空港――

 

 アメリカにも無数の空港が存在するが、中でも利用者の多い空港は平日休日問わず人でごった返す。このノースウエスト国際空港はその最たる例だ。1世紀前を越えた交通の起点としての機能を発揮している。

 この空港を上から見るとちょうど「T」の形で横棒が入場用のメインゲート棟、上下に伸びた棒が入出国窓口を兼ねた飛行機のターミナル棟になっている。メインゲート前には高速道路や鉄道への連絡線が完備され、ニューヨークなど都市部へのアクセスが完成されている。

 メインゲート棟にはショッピングモールや娯楽の併設がされている。これは空港利用者以外でも楽しめる新しい空港づくりをモットーにした取り組みらしい。

 ターミナル棟はTの横棒左右から突き出して1番から20番に分かれ、片面だけで20機の駐機を可能にしている。それによって多くの便が発着できることが利用者の多さを引き上げていた。あまりの巨大さに各ターミナルやコンコースの移動にはシャトルバスやシャトルトレインが使われるほどだ。

 その代わり混むことが容易に想像できるのでVIPがあまり使わず、防犯上の注意は薄めな弱点も存在する―――

 

(ま、そうそう事件に巻き込まれたりしないし気にしなくていいか。)

 

 そう頭で締めくくって空港のパンフレットを閉じる。

 

「まさか急にアメリカに来るなんてなあ」

 

 ラウラとの試合から一ヶ月、俺達は夏休みを利用してアメリカにやってきていた。何で急にアメリカかというと、ある人から手紙が来て来ないかって誘われたからとしか言えない。改めて今も保管している手紙を見返す。

 

『拝啓、織斑一夏様。

 わたくし、UGA社でCEOを務めております、ユビアス・コールと申します。弊社では先日よりあなた様のお姉さまである織斑千冬様から当社へ多大な支援をいただいております。そこで間もなく彼女が帰国される運びとなりましたので、一つ恩返しとして彼女とあなた様の夏の思い出作りにご協力させて頂きたく存じます。つきましては費用の一切を当方で負担いたしますので、一度弊社があるアメリカへご足労いただきたい所存です。

 それでは返事をお待ちしております。

敬具

 

追伸 もちろんガールフレンドをお連れになられても結構ですので、どうぞお越しくださいませ。』

 

 手紙の例文みたいな文章だ(一言余計なのを除いて)。

 敬語だらけで逆にこっちが恐縮させられる。最初は詐欺じゃないかと鵜呑みにしていいのか疑ったが、山田先生やリヴァイブたちにも相談して行くことに決めた。

 最悪、何かの罠でも今の俺なら大抵は何とかなるだろうし。

 

「うーんっと・・・いい天気だ。」

 

 飛行機から降りて伸びをすると陽気さのある空気が身体を吹き抜ける気がした。固まっていた体の関節がパキパキ音を立てる。続いて今回一緒のメンバーも後から降りてきた。

 

「一夏は前に来ているのだったか。」

「IS世界大会で千冬姉に付き添ってたからな。」

「ん?なんだ人をジロジロ見て。」

「いやこうしてみると箒の私服を見るのも久しぶりだなって。」

 

 紺のデニムシャツと薄緑のキャミソール、赤のフリルスカートで夏感を出している。剣道部の道着を着ているのも様になっているがこれもなかなかいい。女の子っぽい服装もよく似合う。遠出と聞いていろいろ用意したとそうだ。

 その辺りをまとめて率直な感想を述べると箒は顔を赤くして俺から背けた。

 

「ふん・・・見たいならもう少しだけじっくり見るがいい。」

「どっちだよ。そこまだ通路だから早くこっちにこい。」

 

 肩に手をやって引き寄せると次のお客さんが「大変だね」なんて視線を向けてくれた。会釈して他のお客さんたちに行ってもらう。

 また何か言うかと思っていたら、黙って俺から少し離れたところで立ち止まる。そして鞄から本を取り出して「夏は攻めの姿勢・・・旅行が吉・・・ハプニングをチャンスに」とか呟いてガッツポーズを決めた。

 次は、

 

「飛行機…初めてだけど良かった。」

 

 シンプルな白のブラウスと濃い目の赤のスカートで彼女らしさを出しているのは簪。カメラを片手に物珍しそうにあたりの写真を撮っている。

 

「飛行機が初めてって、家族旅行とかないのか?」

「私の家は…そういうのないところだから。」

「そうか。だったら簪の家に感謝だな。」

「・・・どうして?」

「旅行するなら何でも喜んでくれたりする人と一緒がいいからさ。」

「旅行・・・一緒に・・・」

 

 一緒に旅行、というフレーズを聞いた簪は咀嚼する様に何度か繰り返すと、急に顔を真っ赤にさせた。

 

「え…ひょっとして…そういうお誘い…なの?でもちょっと気が早いし…まだ告白も」

「おいどうした簪。具合でも悪くなったか?」

「な、何でもないの!私お土産見てくるから!」

「まだ旅行始まってもないぞ、おーい。」

 

 離れた売店に走っていて何かを熱心に見ている。とりあえず元気そうなので大丈夫か。

 なんて考えていると、次に降りてきたのはだいぶ体調が悪そうだった。

 

「うう…酔っちゃった。」

「シャルル、大丈夫か?」

「多分。IS使ってるから乗り物酔いには慣れてると思ってたんだけど。」

 

 袖なしのジャンパーと上下一体の黄色のワンピースを着たシャルルは顔を青ざめさせている。背中をなでてやると少し顔色が戻ったようだ。

 ところで服装が女物なのは理由がある。ヒリングが一緒に買いに行ってこれにしろと言ったらしい。金もあいつが出したそうだ。似合ってるが正直それでいいのか・・・本人も嫌がっていないようだから別にいいか。

 

「ありがと、一夏。少し楽になったよ。」

「体調はシャルルの問題じゃないだろ。で、後は・・・」

「呼んだか、()()()()()?」

 

 げんなりして振り返ると探した人物、つまりラウラが俺の服の裾を掴んでいた。着ているのはゴスロリと呼ばれるドレス衣装。本人の顔立ちとマッチしてお人形みたいだが、アメリカの今の気候には正直暑苦しい。本人も暑いのか額に少し汗が浮き出ていた。

 いや服装より、

 

「そのお兄ちゃんは止めろっての。」

「む、貴様が変えろと言ったから妥協したのにまだ文句があるのか。」

「その妥協にどんだけ苦労したと思ってんだ。」

 

 一度寝ぼけて俺の事をママと呼んでから、ラウラは俺を呼ぶときにそれを使うようになった。傍目から見れば高校生男子が『ママ』と呼ばれる光景が何を起こすか考えてほしかった。だがラウラが『ママ』の存在に拘っているのも事実だったので強く否定もできなかったのだ。

 しかしアメリカに行くとなるとそうもいかない。海外でラウラの俺へのママ呼びがばれる可能性を踏んで、無理やりだが修正をかけたのだ。

 お兄ちゃんと呼ばれるのも未経験で結構むずがゆい気持ちになったりしたんだが、ラウラがこれ以上は譲ってくれなかった。

 え、パパは?・・・察してくれ。

 

「これで全員っと。あとは鈴たちも来れたらよかったんだけどな。」

「凰とオルコットは本国に呼び戻されたのだし、今回はどうしようもないだろう。」

「教諭方も仕事が多忙とあってはな。」

「合宿の下見?だっけ。ヒリング先生はアメリカ行きたいって叫んでたもんね。」

『当然ジャナイ。当然ジャナイ』

「待て。」

 

 当たり前の様に混じっていたのを見逃さない。発信源は近くの観葉植物のポット、腕を突っ込むとすぐに犯人が顔を出した。犯人、つまりグレーの色をしたハロことヒリングには悪びれた様子もない。

 

『シマッタ!シマッタ!』

「なんでお前がここにいるんだよ、ヒリング。仕事は?」

『ストライキ。ストライキ!』

(リヴァイブに投げちゃった。ま、大人の気づかいってやつ。)

(二人って山田先生とリヴァイブ、何かあるのか?)

(何かあったら教えてあげる。)

(・・・ま、いいや。お前に一々驚いてたら心臓がいくつあっても足りない。)

 

 闖入者のことも含めて次の行動に入る。手紙では確か、

 

「とりあえず着いたら電話しろって――」

 

 こちらが着いたのを見計らったように着メロが鳴る。

 

『お初お電話させていただきます。UGA社CEOユビアス・コールと申します。』

「・・・織斑一夏です。」

 

 この電話の向こうにいるのが俺達を呼び出した張本人、ユビアス・コールさんだ。テレビとかにはあまり出て来ないがUGAトップの肩書だけでどれくらい偉いかはよくわかる。

 手紙で来るよう誘われただけでまだ顔も見たことがない。慎重に言葉を選んで対応する。物腰が低くても相手は一企業、一勢力のトップ。機嫌を損ねると最悪学園を潰されかねない。

 そんな俺の緊張を読んだように、気さくに彼女は笑った。

 

『そんなにお堅くならなくとも大丈夫ですよ。お会いするのはまた後となりますが、ひとまずはアメリカへようこそ。織斑一夏様。』

「俺も様なんかつけなくていいですよ。敬語も年上の人には申し訳ないって言うか。」

『これは私のビジネスマナーですのでお気になさらないでください。』

 

 丁寧だが譲る気は無い意思が感じられる。なんとなく思ってたが、ただのいい人ではなさそうだ。受話器を握る手に思わず力が入った。

 

『積もる話もございますが、メインゲート前に迎えがありますのでそちらにお乗りください。あとのことはまたお会いしてからということで。』

「・・・ってことだ。まずは地下のシャトルトレイン乗り場に行かないと。」

「あそこではないか?」

 

 箒が指さす方向には下り階段があり、上には電車のマークが描かれている。俺達のいるのは7番ターミナルなので、地下を経由してメインゲートまで出ればそこからは迷わないはずだ。

 出発しようと確認するとラウラはまた俺の服を掴み、箒は隣にいる。シャルルもその隣にいるが簪だけがいない。まだ土産物屋で真剣な顔をして悩んでいる様子だった。

 

「おーい簪、そろそろ行くぞ。」

「やっぱりこっち…でもこれもいいし…」

「行くっての。」

「あ、織斑君。」

「何に悩んでたんだ?」

「・・・ううん、何でもないの。」

 

 肩を叩いてようやく俺達に気づいたみたいに振り返った。簪の手元にはアニメのキャラクターっぽいグッズがいくつかあって、どれを買うか悩んでいたらしい。

 ・・・素人目線だと、見た感じはただの色違いにしか見えんがそんなにいいものなのか?

 

「待たせちゃってごめんなさい。」

 

 待たせてたのを詫びると素早く駆け寄ってきた。あれだけ悩んだ割に未練はないようだった。

 

「良かったのか?」

「うん…また別の場所で買えばいいから。」

 

 駄目だ、未練ないんじゃなくてそもそも諦めきれてなかった。

 そう寂しそうな顔をして「いい」と言われても額面通り受け取れない。しょうがないからもうちょっと待つと伝えようとすると、他の女性陣から生暖かい視線が刺さった。

 

「一夏、待ってもいいんじゃないかな?」

「器の見せどころだぞ、一夏。」

「まさか女の子を泣かせたりはしないな、お兄ちゃん?」

『甲斐性ナシ!甲斐性ナシ!』

「お前らなあ・・・ヒリングは黙れ。」

「え…あの、私は…別に」

 

 皆が簪を尊重してくれる優しさが嬉しいが、俺がからかわれているのはなんでだ?

 簪に行ってきたらと手で示したところで、パンッと乾いた音が背後から聞こえた。

 何事かと窓を見てみると、出てきた7番ターミナルに着陸していた飛行機、そこから音がしたらしかった。続いて連続して音が鳴ったと思うと、飛行機に黒い穴が次々開いていく。

 同時に俺たちのいるターミナルの屋根からも似た音が鳴りだし、建物全体が震えはじめた。

 

(・・・ヤバい)

「簪、戻れ!」

 

 半分以上は直感に突き動かされて近くにいた箒の手を掴んで叫ぶ。駆け戻ってきた簪の手も引っ張って急いで地下に続く階段へ駆け込む。シャルルは俺の隣にいるしラウラは背中を掴んでいるのが分かるので確認しない。

 階段の下りに入った直後、大きな何かが爆発するような音と窓ガラスの砕け散る合唱が背を叩く。3人を前に押しやり、ラウラを前に抱きとめ直したところで爆風が襲いかかる。何か大きな金属の破片が頭にぶつかって鈍い音を立て、そこで意識が飛んだ。

 

 

 

 

「おやおや。弟様たちともうお一人をお迎えするだけのつもりがテロリスト(いらないオマケ)までついてきてしまったようですね。」

 

 メインゲート正面玄関で大型リムジンの運転手と一夏達の到着を待っていた金髪の美女、ユビアスも異変は感じ取っていた。地鳴りに爆音、それに何かの連続した乾燥音とくれば嫌でも何かあったことには気が付いた。

 そして売っている側だけにP.Aのような大型機の銃声だともすぐわかった。

 運転手に双眼鏡を持ってこさせて空を確認すると、黒点のような無数のそれらから発射光が輝いた。放たれた銃弾は空港のあらゆる場所に突き刺さっては新たな悲鳴を生む。

 何事かと周りに首を振る人々を置き去りに火の手は飛行機、コンコース、ターミナルからも上がる。驚きが悲鳴に変わる頃には飛行場の半分が炎に包まれていた。管制塔から要請を受けた救急部隊が駆けつけて消火と救助を行おうとすると、その車両もまた爆発して留まることなく被害が広がる。

 建材からかそれとも人間の血液からか、金属臭が充満して死の匂いが濃くなっていく。

 その悪夢のような光景に反応を示さず、車体に体を預けて双眼鏡で空を振り仰いだ。

 見ると、機械兵器【P.A】が何機も降下してきている。先程の爆発はすべて彼らが銃撃することで引き起こされたテロ、そう誰もが見れば分かる光景だった。

 

「【バラライカ】に【サンシャイン】・・・二種類というのは少し妙ですね。」

 

 機体の造形を確認して、誰にも見えない眉を歪めると少し思索にふける。

 UGAは機体の輸出量も多いが種類も多い。そして輸出先によって提供する機体も種類が異なる。今使われている一種は中亜連合用の輸出機【UGA-01 サンシャイン】。ゴツゴツしたブロックが何個も連結して人型をしたようなフォルムをしている。その見た目を裏切らず実弾に対しての防御力は群を抜いている。防御と積載に力を入れた反動として速度に難がある。

 もう一種はそれに機動力面で改修を施されたEU用輸出機体【UGA-08 バラライカ】。機動力向上をメインに改修したことで【サンシャイン】よりはほっそりした各部が人間に近い。米軍に渡している本格的機動力重視型に比べると余分な装甲が多く、及ぶべくもない。いいとこ取りをしようとして失敗するのはEUのお家芸というべきか。

 ただどちらもすでに軍に配備される第一線からは退いたため、第三国に横流しされる比率が多い機体だ。その第三国の手からテロリストに渡っているので機体を見るとどの陣営から流されたかわかる。そのはずなのだが、

 

(二種類なら必然渡したのも二陣営。しかしテロ勢力はEUが宗教と性差別、中亜は民族と反抗理由が違うために協力はしないはず。新手の勢力でしょうか)

「おや?」

 

 襲撃してきた者たちは手を緩めず、建物に見切りをつけるとターミナルやメインゲートで逃げ惑う人々へも発砲する。そのテロリストの内の一機が視線で自分を捉えたことをユビアスは感じ取った。

 

「出せ。」

「はっ!」

 

 脚の裏で車体を素早く叩く。

 車の屋根に社長をのせたままリムジンが急発進。片手で縁を掴んで振り落とされそうになるのを耐える。動揺する暇もなく、数秒前までユビアスがいた地面で弾着音が上がってコンクリートが跳ねた。

 なおも追ってくる【バラライカ】の射撃をリムジンが右に左に危ない所でかわしていく。

 敵の射撃は威力と制度があるが銃の精度が悪いらしく、飛びながらの移動では掠ることもなかった。諦め悪く躍起になって射撃を繰り返してきたが、車両が高速道路にまで入るとなぜかそれ以上追撃せずに飛行場に引き上げていった。

 ようやく揺れが収まったので社内に飛び込んだ。

 

「よろしかったのですか。」

「何がです?」

「お呼びしていた方々を全員置いてきてしまいましたが。」

「あの織斑千冬様の弟様なら大丈夫でしょう。ISもありますからね。もう一人は死んでくれた方が好都合ですので問題ありません。」

(さて目撃者としてここはどう行動するのが最善策でしょうか。)

 

 車窓から移っていく景色を眺めて悪びれもせずに答える。

 今回の織斑一夏が来ることは千冬には伝えていない。何もせず戻っても気づかれないので機嫌を窺う必要はない。織斑一夏にも自分が来ていることは伝えていないので退避したことは知られる恐れがない。まあ普通の人間ならテロが起きれば待ってなどいずに逃げるだろうが。

 窓の外を見ていると違和感に気づく。

 

(アメリカ軍が来ない?)

 

 利用者の多い空港だ。当然テロが起きただけで一大事のはずなのに鎮圧用の部隊がまだ一度も視界に入らない。

 単に遅れているだけか、あるいは・・・

 

「端末をお願いします。」

「はっ!」

 

 端末で調べても何が起きているかはまだ出て来ない。ただ他の場所でも何かが起きているようだ。アメリカ軍はそちらにかかりきりで空港の方にはまだ対処ができそうもないことだけは情報の混乱具合で読み取れた。

 

(空港にはUGAの関連企業が一部噛んでいますか。被害も相当。仮に部隊を派遣しても今からだと人的被害は抑えられません。いっそ命より建物を重視した方がいいですね。)

 

 膨大な損益計算を頭でこなしていく。

 今どう動くのが最も効果的か。損失を押さえて利益を出すにはどうすればいいか。それだけに効率化して徹底した思考をこなす。

 

(メインゲートが落ちたところで敵を追い払い、敵機は大西洋上で撃墜。何人死んだとしてもテロリスト掃討の名誉と軍への失望でUGAに避難の目は向けられにくい。メインゲートだけなら復興のための資金も少額で済む。)

「・・・私です。我が社の傭兵部隊にミッションの伝達を――ええ、報酬は名誉とそれに見合った賃金だと――状況説明はそちらからお願いします――誰でも構いませんが敵の排除が優先だと伝えてください――人命についてはその場の判断に任せます。私にとっては些事ですので――はい、お願いします。」

 

 ある程度見通しを立て、仲介人たちに一斉に傭兵へと情報をつなぐ。ひとまずこれで今回のテロは抑えられるだろう。あとはどう立ち回るかだ。

 

「さて神は誰を選ぶのでしょう?UGA(われわれ)か、不純物(テロリスト)か・・・すべては運命の導くままに」

 




ハイこんな感じで。新年一発目からテロとか冗談じゃないね。

 次回もお楽しみに。

感想・質問・評価、何でもよろしくお願いします。


――どうでもいい余談――
 空港のモデルになったのはハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港。形が面白かったのでそれをモチーフにしてます。

 あとこの章ではたぶん鈴やセシリアが出てきません。理由は上述の通り。どうしてるのか買い手という感想があったら幕間でちらっと書くかもしれません。
 山田先生とリヴァイブの下見に行った話も希望があればということで。
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