依頼主はいつものUGA。目標はオハイオ州のノースウエスト国際空港を襲撃しているテロ勢力の掃討だ。
急な話だが現在進行形で起きている。内容が内容だけに依頼主も傭兵に指定はない。ま、ボランティアじゃないだけマシだと思ってくれ。
敵戦力は第一世代の【サンシャイン】と【バラライカ】の混成部隊、ざっと30機ほどだ。一機当たりの性能は低いが数が多い。実弾だけの旧世代と舐めていると痛い目を見るぞ。
空港のT字形は知っていると思うがメインゲート棟とターミナル棟の2つに分かれている。テロ発生時点で巻き込まれたと予想される一般人は2000人以上だ。メインゲート棟は特に損傷がひどい。急がないと歴史に残る大惨事になるだろう。
――こんなところか。危険な作戦だが見合っただけの報酬は用意されている。俺への連絡はいらない。受けるなら現場に向かってくれ。』
――国際空港地下一階――
手に広がる冷たさと頭の下の温かさが眠っていた意識を浮かび上がらせた。
「――っつ」
「一夏!目が覚めたか!」
「階段から落ちたっきり起きないから心配したんだよ。」
「悪い。体が先に動いたから許してくれ。」
「その反省を少しは活かせというのに。」
「ほんとにもう。」
顔を覗き込んだのは箒とシャルル。箒が膝枕をして面倒を見ていてくれたようだ。平時なら世の男子が憧れる環境だがうつつを抜かせる余裕は持っていない。
今いる場所は、いつもは綺麗な場所だったんだろう。白塗りの壁、明るく照らすLEDライト、広めの通路は大勢の人間が行き交うことを想定した造りになっている。 だが今はそこかしこに負傷した人、お年寄りや子供が座り込み、いつもなどとは程遠い。生まれた亀裂から埃臭い匂いまで漏れていた。
(五体満足に感謝だな・・・)
その時後頭部にズキンと痛みが走る。何か当たったところは腫れているが骨折はしていないようで一安心。荷物は持っていた鞄が足元に転がり、ハロも中からこちらを見つめ返して元気そうだ。思い切った代償が特になかったのが幸いだろう。
音は特に人の声以外は聞こえてこない。アナウンスか音声案内ぐらいはあっていいはずなのに。ゴウンゴウンと大きな揺れを伴って何かが駆け抜ける音が通路の奥から響く。あの音は・・・
「ここは?」
「地下のシャトル用の駅だよ。階段で吹き飛ばされてここまで落ちたみたい。」
「落ちたって誰か怪我は!?」
「ラウラが頑張ってくれたんだ。」
そう言って指さした場所ではラウラが座り込んで眼帯を押さえていた。じっとりと汗が浮かんで、無理をしたのが見て取れた。
眼帯と頑張ったって証言・・・タッグマッチで見せた結界【ヴァロル・オージェ】って能力だ。落下しながらISを使わずに俺たち全員を一度に支えたんだからその負担は想像より辛いだろう。
俺が見ているとラウラはこの程度何でもないと言うように首を振った。
ふと別のことが気になって周りを見回す。
「簪はヒリング先生と何かできないか見てくるってさ。」
俺の考えを読んだみたいにシャルルが答えた。
「今どういう状態なんだ。分かってる範囲でいいから教えてくれ。」
「いいけど・・・どうするの? 聞いても何もできないよ?」
「抱えこんで一人相撲するバカになるよりはマシさ。」
「心配せずとも一夏は元からバカだ。」
「うん、それは僕もそう思う。」
「・・・」
(えー、その対応はおかしくない?)
周りの対応に困惑しつつも聞いた話をまとめると次のようになる。
やはりテロが起きたのは間違いない。音声で地下からシャトルで避難するよう放送が繰り返されたが、途中でブツっと切れた。管制所が襲撃されて破壊されたと思われる。
それと敵の姿をシャルルがわずかに見ていた。機種までは判明しないが、ラウラの【ディオスクリア】にでかさだけなら負けないようなのが何機も飛び交っているらしい。
今俺達がいるターミナル棟は地上2階に地下1階の3層構造だ。2階が各ターミナルへと歩いて移動できる遊歩道、1階が荷物をメインゲート棟から移動させる運搬用通路、地下がシャトルトレインの発着駅だ。ターミナルの番号はメインゲート棟に近い方から1番~10番、再びメインゲート棟に戻って反対側が11番~20番になっている。とりあえず俺達は出口からかなり遠い所にいるってわけだ。
着いた時に飛行機から降りてきたのが2階で、飛行機の爆発で階段を2階から地下まで転げ落ちたもののラウラのおかげで怪我人はなし。俺達の後にも事態を察した人々が地下へと避難を始め、火災で閉まりだしたシャッターを協力して押さえて7番ターミナルにいた人間はほぼ地下へ逃げ込めた。火災も防火シャッターが遮断したので、当面心配する必要はない。
あとはテロが治まるまでここで待機するか、メインゲート棟までトレインで移動して逃げるかの2択。一応、1階に出る通路もあって地上の滑走路に出られるのだが、未だにテロリストによる攻撃が続いている現状では自殺行為だ。
大多数の人々はメインゲート棟から何度もやってくるシャトルトレインに乗って脱出している。箒たちもそうしようとしたが俺を動かすのは危険だと留まっていた・・・という次第だ。
箒とシャルルの話をまとめたところで頭が痛くなってきた。
「一夏、どうした?」
「いや俺って事件とかに巻き込まれるのに困らないなって。」
(行く先で事件が起こるのはそういう星に生まれてんのか。)
「・・・外の様子は分かるか?」
「火事のせいでシャッターが下りちゃってるからどうにもね。」
「一夏、まさかとは思うがテロリストと戦う気では.・・・」
「そこまで向こう見ずじゃない。出来ることとそれ以外の区別はつけてる。」
もし今もこのターミナル棟に攻撃が加えられていたら間違いなく飛び出していたが。
・・・ん?
「俺、何分気絶してた?」
「10分ほどだ。」
(つまり敵は10分以上攻撃し続けてる?)
テロリストって攻撃後即逃走するものじゃないのか?
ずっとではないにしても、地下から脱出をためらう頻度で攻撃が起きていることに違和感があった。
「そろそろ移動すべきだ。ここもいつまでも安全とは限らん。」
いつの間にか近くにやってきていたラウラが俺の服を掴んでそう言う。
「ふむ、一夏も目が覚めたのだし、更識が戻れば避難した方がよいだろう。」
「あ、噂をしてたら。」
体の前にハロを抱いた簪が歩いて戻ってくるところだった。服は土埃で汚れがついていたが怪我は特に見えない。
「ごめん…なさい。少し…遠くまで行ってて。織斑君は・・・」
「この通り、ピンピンしてる。」
「…良かった。」
「・・・心配させて―――」
ごめんと言おうとした時一際大きな揺れが建物を貫いた。
続いて灯りが一斉に消え、暗闇に人々の悲鳴が満ちる。ほどなく赤い非常灯に切り替わったが、この光ではむしろ不安をあおる逆効果だ。
さらに煙が突風となって襲ってきた。他のお客も含めて誰もが溜まらず地面にしゃがみ込む。今までの亀裂から出た埃と似ているが、もっと量と勢いがある。たまらずむせ返ったり、咳き込んだりする人も出始めた。
「クソ、次から次へと!」
「何なのだ一体!?」
「この揺れ・・・恐らくメインゲート棟だな。」
『電気トマッタワネ、電気トマッタワネ。』
浮足立つ俺達に比べて速く適応したのはラウラだった。地面に片手をつけて鋭い目で状況の把握を終わらせたようだ。
「ラウラ場所が分かるのか?」
「消去法でもそれしかないだろう。ターミナル棟に何かあればここも瓦礫の山だ。」
言われて納得だ。だが何が起きたかは流石にわからない。その俺にヒリングが語りかける。落ち着いているのは現場慣れしてるからか。
(あー坊や、呆けてるけど結構マズい状態よ。)
(マズいって何がだ?)
(ちっとは考えたら? 電気が止まったってことは)
(・・・まさかシャトルが!)
(そういうコト。)
シャトルの止まるプラットホームから金属の擦り切れる音とつんざくような悲鳴が新たに響く。電気を絶たれたシャトルがスピードを殺し切れずに、他のターミナルで次々衝突事故を起こしたのだ。乗っていた人、見ていた人双方の声が事故の大きさを嫌でも伝えてくる。
悲鳴の後には黒い煙が起き、俺達の方にも流れ込み始めた。2階に続いてこちらでも火災、逃げ場のなくなってきたのを感じる。
(俺が気絶してなけりゃ・・・!)
今頃は逃げ出せていたはずなのに。
頭に何かぶつかったくらいで気絶した自分に怒りを覚える。だがそんな俺を見ていたヒリングの感想は逆だった。
(そう上手くいってたとも限んないわよ。)
(何が言いたい。)
(順調に乗れてたら今頃あの世逝きだった可能性もあるってこと。)
(・・・)
それが事実でも素直に喜べるほど単純ではなかった。シャトルの事故も聞き取ったシャルル達もこの事態には慌て始める。
「ど、どうしよう。」
「電車から…火事も起きるかも…」
「ふむ、今ので逃げ道が無くなったな。」
「どうしてそう落ち着けるのだラウラ!」
「軍人とは市民を守る立場だ。その私が一番慌てれば市民を不安にすると教官から教えられたのでな。ともかく貴様も落ち着け。」
「ぐむむむ・・・すまない。」
たしなめられた箒がやや悔しそうにしていたが、自分の非は理解していたようで深呼吸して落ち着きを取り戻した。ラウラはまた気にした様子もなく周囲の観察をして、俺を見た。
「で、どうするんだ? シャトルが使えなくなった今、我々の脱出も厳しくなったぞ。私にも案がないわけではないが」
真っ直ぐに俺を見る目には迷いがない。
だがなぜ俺に聞く?
経験豊富で知識も万全のラウラが指示を出した方が正しい。俺に指示を求めるのは何か期待することがあるのか――
と色々思ったが違った。服を掴む手がわずかに震えていたのだ。気づいた俺にそっと耳元へ口を寄せて、俺にしか聞こえない音量でささやいた。
「誰かが落ち着かないと不安になるだろう? だから意地を張ってみたのだが・・・黙ると震えが止まらんのだ。」
人に偉そうに言っておいて情けないがな、と自嘲するように笑った。
(ラウラ・・・)
(軍人だって人間。ロボットじゃなけりゃ怖がりもするし、竦みもするわよ。ウサギちゃんが何を怖がってるかは知らないけどね。アタシらだって死ぬのはごめんだし。)
「何に脅えてるのかって、聴いたら教えてくれるか?」
「・・・つまらない話だ。本国での作戦中に私がミスをやった、それだけのな。」
人の過去を俺はあまり聞かない。ラウラは軍の隊長はしていなかったと聞くし、そのミスが指揮を執ることへの怯えや不安に繋がるのかもしれない。
その不安を払拭させるために俺は何ができるか?
俺はラウラの手を握り、
「聞かせてくれ。俺じゃ何も思いつかない。」
「・・・そこは何か策でも思いつく場面ではないのか?」
「あいにく頭より先に手の動く馬鹿だって言われたばっかりだ。」
結局、正直に白旗を上げることにした。格好悪かろうが、見栄を張って誰かを死なせるよりはいい。
「不安なら俺はそばにいる。また添い寝でも何でもしてやる。だから力を貸してくれ、ラウラ。」
俺の言葉を聞くと、ラウラは決心がついたとばかりに立ち上がった。
「全く仕方のないお兄ちゃんだ・・・ならしっかりと働いてもらうぞ!みんな、聞いてくれ!」
こうして俺達の現状打開のための作戦が始まる。
そうだ俺は一人じゃない。助けてもらって戦うんだ、みんなを守れるように!
◇
――少し前 国際空港外部――
黒煙と炎を噴き上げるターミナル棟、きれいなガラス張りが残らず割れ落ちたメインゲート棟。そして焼けた死体に群がる蠅のように飛び回る白く塗られた無数の巨大な機体たち。
ある種の芸術にでもなりそうな、それらを眺めながらテロリストたちのリーダー、ザウルは各所から入ってくる報告を聞いていた。
機体は改造を施した【バラライカ】。地上から銃撃砲撃を繰り返す仲間たちよりも装甲を減らして、機動性を上げた特殊仕様である。
『警備部隊駐屯所破壊!周辺への連絡は防ぎました!高慢なアメリカ野郎を弾けさせてやりましたよ!』
『管制塔破壊確認!ご指示通り、ターミナル棟への地下避難指示アナウンスを放送させた後破壊!命だけは助けてくれって・・・ハハッ、聞くわけねえだろがよぉ!』
『離陸を待っていた飛行機37便中34機撃墜及び破壊を確認。残りはご指示通りに。』
「・・・作戦開始から約10分。もうちょい作戦変えりゃあよかったか。」
『マスター?』
思っていたのが言葉に乗ったようだ。感情の機微を感じ取った副官から確認される。昔からの長い付き合いなので、こいつには正直に感想を漏らす。
「楽しそうだろう、あいつら?」
『指揮官が前線に出るのは防衛上良くないでしょう。』
「命は直接摘むから楽しいんだ。見てるだけってのは退屈だ。」
『・・・マスターの作戦ですので仕方ないかと。』
内心、しまったなと舌打ちする。
もうちっと捻ればよかった。これでは予定時間まで自分はやることがない。部下たちもここ以外で遊びたがるかもしれない。あまり過度の緩みは破綻につながる。
「予測だと敵の来るまでどれくらいだ?」
『軍は出動が出来ないはずですので、UGAがどんなに急いでもあと十分はかかると思われます。』
『ザウル様、近くの道路もやりましょうよ!どうせ後で殺すんですから!』
「駄目だ、マナーは守れ。死体の人種で神経衰弱でもしてろ。」
『マスター、全部黒焦げですのでドローにしかなりません。』
ああつまらない。
ターミナル棟の地下にいる人間たちは今頃シャトルに乗り込んで順次避難しようとしているくらいか。どれだけメインゲートに逃げてもその入り口に部下が待っているので死ぬしかない。
自分もそこにいればよかった、と心底後悔した。
すると副官から鋭い声で警告が入る。
『マスター!』
「ん?」
宙を警戒していた部下の【バラライカ】が飛来した光に貫かれる。コックピットに直撃したソレは地面に落ちると新たな火元の一つに変わった。
残骸に気を取られる愚は犯さず、全機が銃を構えて警戒姿勢をとる。
死んだ仲間に特に反応は示す奴はいない。大切なのは命、死んだ人間に価値はない。
『8時の方向!あの機体は・・・』
視認した機体を見て副官が絶句する。
ザウルも光学カメラが捕捉したその姿を見てその理由が分かった。
「真鍮色の軽量前線用機体・・・【レイテルパラッシュ】のウィン・D・ファンションか。」
『遅れてもう一機、【マイブリス】、ロイ・ザーランドです!』
「UGAきっての正義屋と腰巾着のおでましとは。」
(まあ最初に来るならこいつらが妥当だな。)
両機ともUGAの保有する戦力の中でも上位に食い込む実力者。とくにウィン・Dは命を貴ぶ性格だと聞く。自分たちの様な行いを見れば真っ先に駆けてくるのも当然だ。
背中に長距離航行用ブースター【
にわかに敵がライフルを構えたかと思うと、再び警戒していた一機がレーザーに貫かれ、爆発後に墜落した。
2機を撃破したところで通信回線が開く。
『こちら【レイテルパラッシュ】、ウィン・D・ファンションだ。我々はお前たちの排除を依頼として受けている。その上で一度だけ聞く。武装解除して投降しろ。
そうすればこれ以上は殺さないでおいてやる。言っておくが今落とした2機は脅しだ。万が一にも勝ち目がないことを理解させるためのな。』
『ま、そういうことだ。大人しくしてくれるとこっちも仕事が減って楽なんだがな。』
「お優しいなあ、傭兵様は。」
回線を開いてこちらからも応じてやる。いい退屈しのぎになる、と口元を舐めた。
『貴様が指導者か。なら――』
「おうよ。だが投降しろってのは聞けねえな。」
『条件付きかい? そういうのは先に声明でも出してくれねえと。』
「いや投降してもいい。だがただ投降しても詰まらねえから一つゲームをしよう」
『乗ると思うか、我々がテロリストの妄言に。とっとと――』
「いやいや、本当に単純な遊びだ。お前らが勝ったら投降でも何でもしてやったっていい。
種目は早撃ち。お前らは俺を撃ち落とす、そして俺達は――」
機体を動かし、銃を構えさせた。部下たちもそれだけで意図を読み取って続けて機体を構えさせる。
「――その前にコイツを崩壊させればいい。」
向けられたのは既に半壊したメインゲート棟。30機近くのP.Aから集中砲火を浴びればどうなるかなど考えるまでもない。
『やめろ! そんなことをすれば!』
「だからやるんだろうが。」
敵からは色でどれがリーダーかわからないまま攻撃してくるが、幸いにもザウルには当たらないし、全機仕留め切れるわけもない。
「テロリストに情けなんてかけるんじゃない。一つ、利口になったな。」
『やめろおおおお!』
無情にもザウルたちの全機から発射されたグレネードや銃弾は次々にメインゲート棟へと命中。壁が、屋根が、次々と銃弾に抉られる。すでに銃撃や砲撃を受けた建物はその衝撃に耐えられない。
その重さを健気に支えていたいくつもの支柱が重さに負け、あるいは傾き、建物全体をゆっくりと倒していった。
長い歴史と利用者を誇りとしたメインゲート棟は、シャトルから出てようやく地上の光を見ようとしていた家族、屋上で助けが来たと喜んだ若者、親とはぐれて泣きながらさまよっていた子ども、その全てを腹の中に飲み込んで高速道路の一部を巻き込みながら跡形もなく崩れ落ちた。
「はっはあ!!残念だったなあ、ゲームは俺達の勝ちだ。だから投降もしない。」
『貴様・・・!』
「いいねえその反応。やっぱショーは観客がいないと。」
背中に取り付けてあった【VOB】をパージした2機が降下してくる。その気配は殺気にとどまらないほどの怒りに満ちているのが誰にもわかった。
『あんまこういうの、いかしてないぜ、オッサン。』
『・・・もういい、投降は認めない。楽に死ねると思うな。』
「死ぬのが怖くてやってられるかよ!」
こんなに楽しいことを。
さあ次は何にしよう。お前たちは空港の人間が全滅するまでに俺達を止められるかな?
また次回。
何でも反応していただけると励みになりますのでよろしくお願いします。
――以下どうでもいい余談 Cパート――
突如としてノースウエスト国際空港を襲ったテロ事件。建物は爆撃、逃げる人や物は破壊、飛行機も残さず落とされた。
――かに思われたが、その猛攻をかいくぐり何とか飛び立つことに成功していた飛行機がいくつかあった。
その数はたった3機。
泊まっていた数を思うとあまりに少ないものだったが、それでもどうにかあの地獄を逃げ切ることに成功したのである。
機長たちはそれを実感して、しばし放心しその後各関係機関へと連絡。空港へ警察や軍が向かうことを把握したあと、それぞれの針路をとった。一刻も早く目的地に乗客を送り届けようとする機もあれば、とにかく距離をとることを最優先にしようとした機もあった。
とにかくその時の彼らの思考はいつの間にか固まっていた。
「危険から遠ざからないと」「危険から助かった」
そう思い、そう思わざるを得なかった。
まさか逃げられた幸運が用意されたものだとは誰も思わないのだから。
通信機に着信が入る。近くに機影はない。不思議に思いつつもそれぞれ無線を受けた彼らは同じ言葉を聞いた。
『Good morning,everyone.
Let's get up early or die!』
日常会話で聞くような英文。
そこに込められたどす黒い悪意と未確認機の接近を知らせる警報が彼らを再び地獄へと引き戻すのだった。
◇
――同時刻 軌道エレベーター『タワー』低軌道ステーション――
地上の異変など露知らぬ彼らの場所にも小さな異変があった。
最初にそれに気づいたのは軌道エレベーター同士をつなぐオービタルリングへの漂流物をチェックする士官だった。彼の仕事はテロリストが軌道エレベーターに攻撃を仕掛けようとした際や、近づくデブリがあればいち早く察知して上官に報告することだ。
といってもまだ軌道エレベーターが一般開放されていない現在ではテロリストが宇宙に現れることはあり得ない。またデブリもオービタルリングに流した電気によるバリアが大半を弾く。重要ではあっても緊張感に欠ける仕事だった。
そんな理由からぼうっと画面を見ていたから気づけたのかもしれない。
「大佐、宇宙空間よりこちらへ接近する物体があります!」
「デブリではないのか?」
「それにしては速度が早すぎます。この速度、スペースシャトルやP.Aに匹敵するほどです!」
「馬鹿な。宇宙での演習など聞いていない。」
とにかく画像を見せるべく、光学カメラがとらえた映像を全員の見える巨大モニターに映す。
「これは・・・」
それは人型をしていた。そして比較物がないせいで分かりにくいが小さかった。大きさにして4m前後、右手には大型のライフルで左腕にはシールドをマウントしている。背中には一対の大きなバインダーと挟むように背中にコーン状の機関が取り付けられ、青白い光の粒子を放出していた。
カラーリングは白と青の2色で明暗のはっきりした彩色。体にぴったりとした布地に鎧のパーツを張り付けて作ったようなスリムさが特徴的だ。
見ていた誰かが何かに気づいたように画面を指さす。
謎の機体の額部分、そこに文字が書いてある。
拡大した画像に移ったそれは・・・
【GUNDAM】
そう記されていた。
宇宙圏外から接近してきた機体は低軌道ステーションの前で一度止まり、まるで中で見つめる彼らを見下ろすように首を動かすと、大気圏の中へと突入していった。
「大佐、地上部隊に未確認機の迎撃を要請しますか!?」
「・・・いや、不審物があったとの報告だけにしておけ。」
単独で大気圏に突入できる性能。そんな機体が予測した地点に降りるとは、ましてや手におえるとは限らない。ここは手を出さず、火中の栗を拾おうとした愚か者に犠牲になってもらうとしよう。
そう判断した大佐は正しかったのかもしれない。
彼らが見逃した機体、ガンダムに乗っていた『彼』は低軌道ステーションの人間の命などなんとも思っていなかったのだから。
『人間ニシテハ賢イ選択ヲシタネ。』