IS×00 夢を目指す者   作:王天君

61 / 62
お久しぶりです。本編をどうぞ。


第四十四話 変革の兆し

――ノースウエスト国際空港上空――

 

 

 ロイの【マイブリス】の放ったバズーカが体勢を崩させてレーザーブレードで胴を両断、加速をつけた細い脚で機体を打ち据えたところへミサイルが追い打ちをかける。

 いつもの手順で敵を討つ。

 そこに感情は介在せず、仕事としてこなすだけ。

 

(()()()()だが。)

 

 撃墜することを喜びはしないが、わずかの爽快感もないかと言われると口をつぐんだだろう。トリガーを引き、ブレードで切り裂くたびに胸に溜まっていた熱いものが少しは昇華される気がする。

 そうしてもウィン・D・ファンションはヘルメットの内で眉間に深い皺を刻んでいた。目の前で駆逐している愚図どものために。

 主張があること、それは否定しようとは思わない。主張を止めては人間ですらない何かへとなってしまう。

 否定すべきは奴らがやり方を間違えたことだ。

 

「どんな理想も外道に頼っては悪。貴様らに言っても分からないだろうがな。」

 

 一方的に屠られるのを嫌ったか、それともウィン・Dの言うことに挑発だと思ったのか、一機の【バラライカ】が背から長刀型のブレードで接近戦を挑もうと突っ込んでくる。左手のレーザーブレードで受け止め、背部のパルスキャノンがすぐに敵のコックピットに照準を重ねた。

 

『ほざけよ!何も知らねえくせに!!俺たち――』

 

 俺たち『にも』、俺たち『は』、俺たち『だって』。いったい何を言いたかったのか。その後に続く言葉は彼を焼いた電子砲弾の音に虚しく木霊した。

 

「知らんさ。外道の事情など。」

『俺も知りたくもねえな・・・が、指揮官はただのロクデナシっだけでもねえみたいだぜ。』

 

 ロイの同意する口調がにわかに硬くなる。

 見ると撃墜された五機以外は一斉に移動し始める。飛行の得意な【バラライカ】はターミナル棟の上に、重い【サンシャイン】はターミナル棟を飛び越えて陰になる位置へと陣取る。

 

「奴ら・・・!」

物質(ものじち)ね。ダせえやり方だ。』

 

 【バラライカ】を落とせばターミナル棟に被害が及び、【サンシャイン】を狙うと流れ弾でまた傷つくように仕向けた配置だ。配置を終えた敵は不動の姿勢で手に持った銃器を放ち始める。もちろんそんな腰の引けた射撃は自分もロイにも掠りすらしない。僅かに振るだけで全てかわせる。

 自分たちがやっている行動への躊躇や恥といった感情は一切見られなかった。力量で敵わないと悟ってこれまで嬲ってきたものを盾に取るとは。

 

「・・・ロイ、援護を頼む。討ち漏らしは好きにしてくれ。地上もだ。」

(どこまでも歪んだその愚かしさ、蔓延らせるわけにはいかない。)

 

 返事を待たずに背のブースターを全点火、【レイテルパラッシュ】を加速させる。狙いはターミナル棟の上に展開した【バラライカ】部隊。敵のリーダーもいるならまとめて破壊してくれる。

 まさか迷いもなく突撃とは予測していなかったのだろう。敵の挙動が明らかに乱れる。

 

「遅い!」

 

 レーザーブレードで胴を切断、爆発しそうな上半身は蹴り飛ばして遠くへ落下させる。背後へ回り込んで射撃しようとした【バラライカ】を腋の下から後方へ向けたレールガンで容赦なく撃ち抜き、別の機体にブースターで回転をつけながら鈍器の様に叩きつけた。

 好き放題暴れるこちらに地上の【サンシャイン】たちが射線を重ねようとすると、次は彼らがその身を爆散させる。【マイブリス】による支援砲撃だ。

 

『走りすぎだぜ、ウィンディ。』

「貴様がいるだろう?」

 

 襲いかかってきた【バラライカ】の腕を掴み取り、コックピットを手で殴りつける。気絶させて止まった機体を【マイブリス】のデュアルハイレーザーライフルが塵も残さず溶解させる。

 爆散から間をおかず、さらに一機が向かってきた。

 敵の振り上げた長刀型ブレードを持ち手に手の甲をぶつけて受け止め、返す手でコックピットを切ろうとすると、膝でこちらの左手を抑え込み動きを封じた。

 

(この反応速度、旧型で私についてこれるだと。)

「・・・貴様が指揮官か?」

『だったらどうするって?』

「言ったはずだ、楽には死なさん。人々の痛みをその身に刻め。」

『正義面すんなよ、同じ人殺しが!』

 

 奪う者と守る者、退くことのない威圧感と思想のぶつけ合いは互いに繰り出す一撃で新たな局面を迎える・・・かに思われた。

 燃え続けるターミナル棟。その一角から地下に通じる扉を引き裂いて、どちらにも属さない者が這い出でる。破壊の轟音と現れた者の衝撃にその戦場にいた誰もが大なり小なり目を奪われた。

 

「グアアァァ!!!」

 

 その闖入者は突然にして甚大。雷鳴のような吠え声を共にその姿を衆目に晒した。

 黒い、見たこともないようなP.Aが爪を扉に突き立て、どう見ても通るには小さな空間を押し広げて身を現した。背中に突き出した体色と同じ黒い翼、胴と同じ大きさもありそうな太さをした腕と足、頭部に生えたそれのみ黄金色の四本角、ウィン・Dの知る限りの機体に該当する者はいなかった。

 

『何だあいつぁ?』

 

 疑問を抱いた様子からだと、敵が用意したものではない。運搬されていた貨物物資の中にあった機体が起動した・・・としても誰が、なぜ今になって動かしている?

 それに地下につながる通路にはまだ取り残されていた客もいたはず、あの大きさが最初から隠れているスペースなどあるのか。

 メインカメラで謎の機体をスキャンさせどこの機体かを知ろうと試みる。結果は――

 

(熱源照合、外見データ、共に一致機体無し・・・)

 

 その何かは出没した姿勢のまま首を回して周囲を観察、そしてその姿勢から一番近くにいた【サンシャイン】を殴り飛ばした。その巨腕の正確に胴を捉えた一撃はウィン・Dとは違い、コックピットを歪ませ、潰す。

 

『ぎ、ぎゃああああ!腕が、腕がああああ!』

 

 なにかの拍子にオンになったスピーカーからがパイロットの悲鳴が流れ出す。今の一撃で即死できなかったのか。哀れだが自業自得だろう。

 なおもわめき続ける音が不意に途絶える。黒の機体がうるさいと言いたげに踏みつぶしたのだ。

 一体を確実に無力化したと判断したその機体はさらに周囲に展開する白い【バラライカ】や【サンシャイン】を標的に定めて動き出した。翼のように生えたバインダースラスターの上部ハッチが開き、ミサイル群が遠くを襲うと同時に自らも近くの敵を殴り、蹴り飛ばす。

 未知の敵にテロリストどもが必至に応戦して撃った弾丸は命中するも効いた様子が見えない・・・いや、当たる瞬間に機体表面に何かの装甲を出して防いでいるらしい。襲われた方からは大した差もなかっただろうが。

 

『ウィンディ?』

「・・・空中が片付くまで放っておく。ロイは巻き添えにならないよう離れろ。」

『藪蛇はまっぴらだしな。』

 

 自分たちもカメラに捉えられたはずだが攻撃してこなかった、敵性対象とは見なさない理由を持っていると判断できる。地上を一掃してくれるのならばわざわざと目に行く必要はない。

 なおも【レイテルパラッシュ】と互角に張りあう目の前の【バラライカ】に意識を戻す。

 しかし突如としてその【バラライカ】に別の機体が衝突する。

 

『ちっ、節操なしに横やりしやがって!邪魔すんじゃねえよ!!!』

『お前だな、こいつらをまとめてるのは!』

(この機体はIS・・・IS学園所属機【ガンダムエクシア】? パイロットは織斑一夏か。)

 

 ウィン・Dから離れた両機がサイズは違えど、その得物を空中で激しくぶつけ合う。一方は反りの入った刀のようなブレード、もう一方は直刀の両刃剣。同じ刃物でも小人が大人にじゃれつくようなサイズ比。だがIS――【エクシア】は力で押さずに離れては接近して斬りつけることで出力比の差を埋める。

 しかし【バラライカ】も守りに徹さず、片手で切っ先をそらしては離脱しようとしたところへマシンガンで攻撃、その力量と経験の強さをうかがわせた。

 学生への対応に葛藤が一瞬あるが、本当に一瞬だった。IS用の通信回線は積んでいない。外部スピーカーを開いてISに呼びかける。

 

「聞こえるか織斑一夏。前衛は任せる。背後と援護は気にせずにやるといい。」

『ちっ、火中の栗はガキに拾わせるか?汚ねえ大人だ!』

「テロリストが説教とは笑わせる。」

 

 2者の攻撃で徐々に押され始める指揮官機。

 右手のレールガンでそれを牽制しつつ、背部武装で残りの滞空する【バラライカ】へ射撃を行う。どこの誰でも戦力になるものを放っておく手はない。焦りを感じ始めたウィン・Dの下ではいよいよその体を崩し始める様子のターミナル棟が見えていた。

 

 

 

 

 【ディオスクリア】の後に続いて飛び出し、空港の全体が見えるようになったことで一夏も被害の深刻さを実感した。高速道路まで巻き込んで崩れたメインゲート棟。飛行機は焼けた鉄屑に変わり、今も燃え続けている機影もある。転々と付着した赤い跡は人がP.Aの銃で撃たれて爆ぜた残りだろう。

 

(人が・・・みんなの命が消えていく。)

 

 ほんの一時間前までは誰もが普段通りの日常を謳歌していた。変わらず続いていくと信じていた。それに泥を塗りつけて奪われた、テロリストたち悪党のせいで。

 目の前にいる白い【バラライカ】。

 この機体が奴らを指揮する機体、俺の倒すべき敵。

 大人と子供のような対格差のある相手にブレードと【GNソード】を交差させている。GNドライヴの出力を全開にして、ブレードを押しのける。

 

『何でだ・・・何でこんなことが出来る!?』

『ああん!?』

 

 戸惑ったように答える敵機にスピーカーを開いて叫ぶ。

 

『人を何人も傷つけて死なせて・・・何でこんなことが出来るんだ!』

『聞いてどうする!宗教?エネルギー?人権?ガキの宿題じゃねえんだ、正解があるか!』

 

 怒鳴り返す間も動きには油断も隙も含ませない。俺が離れたタイミングにマシンガンを片手で抜き、照準を合わせて引き金を引く。空になったマガジンの交換もかなりの速度で、そこには乱暴な口調を裏切る正確な手つきには熟練した気配があった。

 

『人殺しが好き、だから殺した。ついでにたくさん!人が人を殺す理由なんて、それだけで十分だろ!』

 

 撃ち続ける間も真鍮色のP.Aの砲撃を紙一重で避け、愉しんでいる気配が漂う。直感で分かった。この男は本気でそれだけの理由で人を殺し、何とも思っていないのだ。

 

『ふざけんな・・・そんな理由で人を殺すなんて許されるわけない!!!』

『ならあるのか、人を殺していい理由ってのは!』

 

 【エクシア】の接近に【バラライカ】が脚のコーティング部を合わせて応戦、三度鍔迫り合いの火花が散った。

 

『この、人でなしがっ!』

『人殺しだあっ!』

 

 

 

 

 上空で一夏とザウルが激闘を繰り広げているのを把握しながら、ラウラは地上で冷静に指揮を続けていた。

 

「ファーストフェイズ終了、セカンドフェイズに移行。シャルル、更識――そちらは?」

『4,14番ターミナルは終了。避難指示と応急処置は済ませたよ。えっ、箒そっちは危ないよ!』

『9ばん…あ、19番ターミナルも…終わったよ。指示はできたから…次に向かうね。』

「了解――ケア教諭、首尾の方は?」

『ヤッテルワヨ。ヤッテルワヨ。シャルル次3番、シャルル次3番!』

『うん、でも箒が!』

「何があった?」

『2番ターミナルより先から声がするって一人で!』

「っ・・・分かった篠ノ之への対処はこちらで考える。ケア教諭。放送設備の方への干渉を早急に。」

『仕方ナイワネ。仕方ナイワネ。』

 

 黒の機体――【ディオスクリア】――で射撃を行うP.A部隊を攻撃しつつ、冷静に作戦の進行具合を図る。この作戦には人命がかかっている。失敗は許されない。

 そんなときに篠ノ之箒が独断行動に入ったのはかなり好ましくない。

 

(外での陽動に入って10分。最初の爆発から数えれば40分近く経つ。そろそろ建物も限界が来る。急がなくては――くっ!)

 

 後方より射撃しながら接近する【サンシャイン】に対応が遅れた。飛び上がってマシンガンを放り捨て、実体ブレードで【ディオスクリア】の頭部に切りかかる。

 

(邪魔をするな!【ヴァロル・オージェ】!)

 

 眼帯より解き放った停止の魔眼。その瞳に捕らえられれば重厚なる金属の人形でも動くことは叶わない。振り返りざまに裏拳で手ごとブレードを破壊、鈍く浮かんだまま機体に胸部バルカン砲を撃ち込む。穴だらけのぼろ屑になった機体は時間差を置いて爆発四散した。

 

『この、バケモノが―――!』

「うっ、はあ・・・はあ・・・」

 

 初めての大きさを止めたのと【ディオスクリア】の併用もあって、頭痛がひどくなる。人を殺すのも、正直無心で行えるものではない。額から滴る汗が抱え込んでいたプレッシャーを自分にも教えてくれる。

 

(お兄ちゃんが引き受けてくれたのがどうやら指揮官だったらしいな。おかげで一気に足並みが崩れた。)

(必ず全員救う、そのための作戦を遂行する。私を信じると言ってくれた者たちのためにも。そうだろう、お兄ちゃん?)

 

 作戦を立案した時を思い出す。

 

――数分前――

 

「作戦はシンプルにいく。外で陽動が敵の注意を引き付け殲滅、もしくはこのターミナル棟から引き離す。その間にこの地下で脱出用の部隊が避難民への指示を行って、脱出経路から非難を完了する。」

 

 ターミナル棟にいた人間の中で戦闘員として使えるのは自分たち以外いなかった。

 

(学生が戦場に立つ、ISの母国以外での無断使用、独断での作戦活動・・・)

 

 この場を無事に切り抜けられたとしても列挙される問題点の多さには頭が痛くなる。

 

「陽動は誰が行くんだ?」

「・・・私と織斑一夏だ。」

 

 この人選には理由がある。外で暴れるP.Aは実弾防御を高めに設定されている。よって戦うのはビーム兵装を積んだ機体が望ましいが・・・

 【シュヴァルツェア・レーゲン(ディオスクリア)】〇、【アストレア】〇、【打鉄二式】△、【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】×。

 このような選定基準を説明すると皆納得したように頷く。

 

「担当はシャルルが数字の上側へ、更識は下側に行ってもらう。シャルル、タッグマッチの時に使った機械腕はまだあるか?」

「うん、あの後本国からの補充も受けたからね。」

「途中で事故を起こしたシャトルトレインと合わせて支柱の代わりにしてくれ。僅かでもここの倒壊を遅らせねばならない。」

 

 そう自信ありげに言ってみても、実際にどれほど役に立つか。たとえ走っていたトレインすべてを柱にしてもこのターミナル棟を支えるには心もとなさすぎる。

 だがこのやり方に納得できないものもいる。

 

「待て!シャトルの中にもまだ生きている人間がいるかもしれないだろう!それに遺体も――」

 

 篠ノ之箒だ。彼女の言い分はもっとも。それに彼女は作戦中に何もできず、避難することが決まっている。汚れてしまったスカートの裾を握る手にやり場のない熱意が溢れたのが伺えた。

 織斑一夏も反対するのではと思ったが彼は腕を組んでじっとラウラを見るだけ。短い付き合いの中でも彼女が蚊帳の外を嫌う性格なのは理解している。それが

 

「もちろん中を確認してからだ。だが生きている人間が最優先。それは分かってもらう。」

「う、うむ、それは分かるが・・・。」

「そして先陣を切って避難誘導するのも誰かがそばで動きださねばならない。その役目は貴様にかかっている。他は皆、ISでの作業が中心だからな。」

 

 戦いや作業以外で力が必要とされる。それを説くと箒も目を伏せて考え込む仕草をする。

 

「厳しい仕事が全員にかかる、特にシャルルにも別に負担をかける。すまない。」

「ううん、僕もできることをやらないとね。任せておいてよ。」

 

 遺体も片付かないうちから道具扱い、非難されようとも打てる最善手は使うほかないのだ。

 

『ガンバッテネ!ガンバッテネ!』

「何を勘違いしている、ケア教諭? 貴方にもやってもらう事がある。」

 

 一人置物で逃げようとした人物も逃がさない。このボール型ロボが人間染みた知性や思考ができるハイテク製品なのは確認済み。なお且つ呼吸無しでも活動できるなら使わないわけもない。

 

「ケア教諭にはターミナル棟の配電設備の復旧と誘導に伴う障害の解決に向けてバックアップをお願いする。」

『無茶言ウワ、無茶言うウワ。』

「出来なければ我々が死ぬだけです。」

 

 しばらくの間うんうんと唸った後、懐から白旗を上げた。これで他は大丈夫。最後に黙ったままの背を押した男を見る。

 

「織斑一夏は何も意見はないのか?」

「考えさせたのは俺。そんなのが口を挟む資格なんかないだろ。それに・・・」

「それに?」

「今生きている人を全員助ける、それをやるのが俺の役目だ。」

 

 その目に迷いや戸惑いは一切ない。やれることをやろうとする意思、それだけが伝わってきていた。

 やることは決まり、刻限は迫る。火事の熱による疲労は建造物にも人にも蓄積、もう待機などと生温いことは言えない。

 

「では目標とする脱出経路は――」

 

 崩落した後のメインゲート棟跡、地上に通じる通路、それ以外、いくつかの選択肢の内から選んだのは・・・

 

 

――現在――

 

 

「発案者ではあるが――くっ!」

 

 グレネードを【サンシャイン】が撃ち込んだ隙に【バラライカ】が接近、ブレードで斬りつけられた。爪で防ぎながらも推移を把握する。

 予想外に救援となる部隊がいたのは大きい。二機だがどちらも敵を圧倒している。さらに敵が気を取られた時に出たおかげで初動の遅れを突いて何機か屠れた。

 巨体の自分の影から飛び出した【エクシア】も一機と互角に渡り合っている。時間稼ぎを考えていたがこのまま殲滅しきれるかもしれない。

 ケア教諭は電力システムの一部をハッキングし、放送設備を動かした。子どもの呼びかけだけでは動かない人間も放送という信頼できるものからの影響はよく受けるはずだ。支柱にシャトルを使って補強したおかげで思ったより補強が出来ている。

 敵の機体も残すところ10を下回ろうとしている。あと一息だ。

 

 

 

 

 小さいナリをした敵ISは思ったよりよく粘る。接近戦主体なのもいい。戦っている実感が湧いて、どこまでもやりあおうという気が全身に溢れるのだ。【レイテルパラッシュ】はいつの間にか自分とISから離れ、味方部隊の方に回ったおかげで横槍もない。

 何度目か、敵の斬りつけを払って、こちらの剣先が逆に敵の左腕を盾ごと抉った。

 

「はっはあ、ようやく命中!次は首でももらおうかあっ!」

『ぬかせよ!』

『マスター。』

「なんだ、今いいとこ――っとお!ははは、このガキよく動く!」

『それは重畳、しかしそろそろ撤退のお時間かと。』

 

 副官の言葉で空港を見ると酷いありさまだった。

 識別信号で生きている味方は10機ほど。【レイテルパラッシュ】と【マイブリス】が部隊を圧倒、黒い巨大機も複数の武装で味方機を破壊している。前者だけなら指示通り棟を人質にしていられたのかもしれないが、後者が接近戦を果敢に挑むせいで離されて続々と撃破されたようだ。

 しかしお楽しみのターミナル棟はいつ落ちてもいいはずなのにまだ持ちこたえている。

 

(別動隊が下で何かやってるってところか。デカブツも俺らとヤるより引き離しが目的だったと。)

 

 いきのいい敵に巡り合ってついつい遊び過ぎた。集めた兵隊もあらかた消費してしまった。

 

「残機は?」

『マスターと私を含めて【バラライカ】が11機。【サンシャイン】は全滅しました。』

(ま、遊びついでのガス抜きにゃなったか。)

 

 ISにマシンガンを投げつけ、受け止めさせた間に別の敵へ向かう。【レイテルパラッシュ】のレーザーブレードに斬られそうだった【バラライカ】をブレードで守り、そいつからマシンガンを奪い取って別の機体を狙っていた【マイブリス】の動きも阻む。黒の機体は自分が戻ってきて動きを止めたので率先して攻撃しない。

 

「残存部隊はプラン3に従って撤退。プテウス、スタティオ、君らの機体はここで乗り捨てだ。殿は俺が行く」

『そんなザウル様!』

『俺らはまだやれる!』

『そうだ、アメリカに復讐の火を!』

「静かにしろ。いつも言ってんだろうが『命あっての物種』ってな。自殺したいなら機体は置いて行け。こっちだって手間が増えるのは楽じゃねえんだ。」

 

 レーザーブレードを止められた【レイテルパラッシュ】から刀身を押し込みながら接触回線を開かれた。

 

『急に仲間を守るとは、今更命が惜しくなったか?』

「当然。生きていることは素晴らしい、祭りも終わったんで帰らせてもらう。」

『せめて思想に殉じてみせろ、狂人が。』

「そんな義理はねえな!」

 

 ブレードをかわしつつスラスターを点火、さらに上へと飛びあがって全体の動向を確認する。命じた二機以外が続々とプラン3、()()()()()()を全力で飛行して撤退していく。

 一部がメインゲート棟の崩壊に巻き込まれたせいで上りと下り両方で渋滞が発生している。その上で戦闘を起こせばどうなるかは誰にも明らかだ。【レイテルパラッシュ】も【マイブリス】もデカブツも追撃を躊躇った一瞬の間に部下は全機、安全圏に離脱していく。

 あとは自分だけ、その隙ももう作る方法が出来ている。

 

『待てっ!』

「ん?しつけえなあ、てめえも!」

 

 今度は飛行機のような形に変わって高速移動してきたISがリアスカートからビームサーベルを抜いて斬りつけてきた。焦った分単調な太刀筋、慌てることもない。

 ブレードで受け止め、機体同士の頭部が初めて最接近する。頭突きでも交わせそうになる至近距離で互いの機体のアイレンズ越しに相手を睨む。

 

「いいな、てめえみたいなガキは。生きてるって感じがして――殺したくなる。」

『逃がさない、お前のような奴は絶対に!」

 

 やっぱり殺しておきたい、そう頭にしっかり考えるが通信が水を差した。

 

『マスター。』

「・・・ちっ、分かってるよ。目標ポイント設定、速度は一機を全力、もう一機はゆっくりにしとけ。」

『了解。』

 

 ブレードとビームサーベルの鍔迫り合いが激しいスパークを散らしてお互いの顔を煌々と照らし出す。ふと、思いつきを試してみることにした。

 

「・・・ガキ、なんて名だ?」

『何!?』

「名前だよ。機体だけじゃ同じの見ても分からねえからな。」

『・・・一夏。織斑一夏だ!』

「一夏ねえ・・・いい名前だ。」

(チビが同じようなの言ってたか。何だろうと面白い奴には違いない。)

 

 織斑一夏、何か覚えのある名前だ。ここ最近で聞いたような。

 

『逃がさないって言っただろ!』

『卑劣漢で信念もない、死に果てろ。』

『ま、年貢の納め時ってことだ、おっさん。』

 

 ビームサーベルを跳ね除けて逃げようとすると、銃器を抜いてこちらへと銃撃してくる。型は小さくてもビーム兵器、受け続ければ装甲がもたない。ビームの弾丸をかわしながら、空港からどんどん遠ざかる。【レイテルパラッシュ】やその他も逃がすまいと追ってきた。

 

(釣られてきたな凡夫どもが。)

「ああ俺はザウル、一応はそう呼ばせてる。忘れねえようにな。」

『お前はここで――』

「それよりレーダーをよーく見てみな。」

 

 一夏に後方を促すとやはり動きが止まる。それはそうだろう。脱出したはずの機体が再度空港に()()()()()()()()()()()()

 やり方は単純で先に脱出した部隊のうち二機だけが空港付近に潜伏。殿の俺に敵が食いついて追ってきたところで空港に突っ込ませて自爆させる。

 狙うはもちろん立っているのが不思議なくらいのターミナル棟。あの2機の【バラライカ】が命中すればバベルの塔よろしく崩れ去る。パイロットは脱出済みで、操作が遠隔だがうちの副官は腕がいい。狙撃ではそうそう落とせない。その辺りをやんわりと伝えてやる。

 

「早く止めねえと別動隊ごと生き埋めかもな?」

『・・・。』

「俺に構ってる暇はないと思うがねえ。」

『・・・くっそおおおっ!』

 

 叫びと共に機体を翻し、飛行形態となったISが離れていく。一拍遅れて動き出した残りの機体も尻目に俺もまた戦場から悠々と離脱した。

 

「はははっ、また会おうぜガキ!そして名もなき正義漢の諸君!」

 

 

 

 

 メインゲート棟へ向かうP.Aを追い、一機は指示をくれたアメリカの人たちが迎撃に向かってくれている。速度に長けた【キュリオス】で進む【バラライカ】を追うが距離が遠すぎる。

 空港に残った仲間の中で今すぐに何かが出来る人間――通信を急いで開く。

 

「ヒリング!」

『いきなり何よ大声出して!』

「今どのあたりだ!」

『ターミナル棟の地上と地下の間の空間ね。マップには載ってない。で同じこと聞くけど何が――』

「空港にP.Aが1機突っ込もうとしてる!誘いだされたんだ!」

 

 冷たい静寂の後、緊張感を増した声で応答がある。

 

『まんまと全員防衛も放り出して出てっちゃったわけ?』

「・・・ああ。」

『速度考えても間に合わないか・・・坊や、【アストレア】の武装を開いて。【プロトGNスナイパーライフル】で狙撃しなさい。』

「狙撃って俺は長距離は――」

『グダグダ言ってないで早く!箒ちゃんが一人でメインゲート棟の方に向かったのよ!一発でも喰らったらおしまいなんだから!

 狙撃位置の照準誤差とポイントはアタシが伝えるから坊やはそこに照準を重ねて!』

 

 箒のことを聞いて頭が切り替わる。

 無理や苦手と言ってはいられない。なおも【キュリオス】で高速飛行をしながら最大速度に乗ったところで【アストレア】にフォームチェンジ。空間格納庫から【プロトGNスナイパーライフル】を引きずり出す。

 ビーム兵器のくせにボルトアクションで一発ごとにクールタイムが必要、おまけにマニュアル操作の難易度で一度も使ってこなかった問題児だ。加えて俺が射撃は苦手なのも合わさって、訓練で簪とやった時くらいしか記憶にはない。

 

『いい?一発でコックピットをやって潰すしか生き残りの道はない。坊やが外すのがアタシたちの死に直結するの。それを頭に入れてよく狙って。

 外部カメラにアクセスして敵の位置を補足したわ。そっちから見ての位置と傾きは・・・』

 

 指示通りに合わせていくと照準点の中に【バラライカ】の背が重なり始める。だが風飛行したままの風が激しく手元がおぼつかない。

 スコープの中を【バラライカ】は右に行き、あるいは左に行き、上に飛んだかと思うと下の枠外へ消える。落ち着いて立って狙っても当たるか怪しいのに、これでは当てられない。

 

(はあーっ、はあー・・・落ち着け、やれる、やるんだ俺が。)

『狙撃に集中して。じっと狙えばきっとその中のも助けてくれるわ。』

 

 誰がと聞く余裕もない。飛行する姿勢はそのままに音も風もだんだん何も感じなくなっていく。それでも照準の中にしっかり押さえこめない。まだ照準の中で【バラライカ】は元気良く動いている。

 極度の緊張からか、ふと耳にヒリングでもアメリカの人でもラウラたちでもない誰かの声が聞こえた。

 

(ははっ、話は聞いても無鉄砲なのは刹那そっくりだな。しかもいきなり狙撃を手伝えと来たもんだ――――だがそれが仕事なら、狙うとしようか。)

 

 震えていた手が誰かの手が添えられたように止まり、ピタリと照準が備えられる。【バラライカ】の激しすぎた挙動もとてものっそりした遅いものに見える。右からじりじりと近づいていた機体がゆっくり中央に収まり、照準点の中心にコックピットが重なった。

 引き金を引く瞬間、それをいうのが自然なように口からは言葉が走り出た。

 

「(狙い撃つぜえええっ!!!)」

 

 長筒の銃口から迸った光の線が標的との距離を一瞬にして埋め、胴を貫いて前方へと抜けた。【バラライカ】は速度を殺さないまま高度を上げて空港を通過、やがてよろよろ飛行して地面に不時着したかと思うと閃光を発し爆発した。

 狙撃を終えたとき、機体がモスグリーン色の新たな機体【ガンダムデュナメス】になっていたことにも気づかず、俺は急いで箒がまだいるはずのターミナル棟へ急がせた。

 

(変われよ、一夏。誰でもないお前のために。)

 

 誰かの少し寂しそうな声を背中に受けて。

 

 

 




 だいぶ空いてすいませんお久しぶりです。またこれからもよろしくお願いします。
空港が最終的にどうなったかは次回

――どうでもいい余談――
 P.AとISのサイズ比についてですが、P.Aを平均的な人間サイズだとするとISは爪先から太ももくらいの高さまでになります。

 それでは今回はこの辺で。感想・質問・評価、何でもよろしくお願いします。
 この後、箒がどうなったかをCパートでやります。





――ターミナル棟・1番ターミナル跡地――

 
 メインゲート棟の崩壊は周囲にもダメージを与えていた。高速道路もその弊害を受けた場所であり、反対側に位置するターミナル棟もその弊害を受けずにはいられなかった。瓦礫の破片やメインゲート棟直前で人を満載したシャトルが落下物に押し潰され、箒たちのいた7番ターミナルとは段違いに肉の焼けた死臭立ち込める惨状だった。
 その地獄の中を身を低くしながら箒は歩いていた。呼吸は苦しく、肺に空気を吸い込むたび小さく咳き込む。せっかく着てきた女性らしい服も焦げたり煤で汚れたりで、とても人に見せられない格好だった。

「どこだ・・・どこにいる。」

 だがそれらには特に頓着しなかった。
 シャルルの傍を離れたのは気まぐれにも等しいものだ。誰かに呼ばれた気がしてメインゲート棟の方へと歩き、戻ろうとするたびに呼び止められたような気がしてここまで歩いてきてしまった。
 やがて傾き倒れた大きな鉄骨のようなものの前に出た。それは潰されたシャトルの残骸で、人が生きているようには見えない。それでも何かの確信に突き動かされて扉の部分に手をかける。
 
「熱っ!」

 火元に触れて高温になっていた扉に手を焼かれた。じくじく痛む手に今まで突き動かしていた熱意がフッと揺らぐ。

(何をしているんだ私は。こんなところで一人・・・)

 動いたのも本当に気まぐれだったのだろうか。
 いつものようにISを使ってみんなが活躍をしているのが見ていられなかった。仲間はずれで何もできずにいることにいたたまれなかった。だから自分だけが気づいたことに飛びついてしまった。
 シャルルに止められても自分を優先した。

(私にも・・・ISさえあれば)

 現状への無力感と不甲斐なさ、思うようにいかない世の中への苛立ち、醜態をさらす己への自嘲、色々な思いがこみ上げる。
 
「それでも・・・!」

 スカートの裾を破って手に巻き、扉を開く。ゆっくり入り口がつくられ、一人が通れそうになったところへ身を躍らせる。

「ごほっ・・・ゴホッゴホッ!・・・ひどい」

 密閉されていた室内も地獄は変わらない。むしろ熟成された嫌な豊潤ささえある。死体を目にして嘔吐感が沸き上がるのを必死に飲み下した。折り重なった死体や座席に寄りかかったままの死体を2、3人目までは背けながら、それ以降は顔を見ながら生きている人を探す。

「違う・・・この人は、違う・・・この人でもない・・・」

 シャトルには乗っていた人間も色々であったようで、その上で満員だったのだろう。瓦礫による押し潰しだけでなく、人間同士で圧死したような死体も多くあった。ただの女子高校生が歩くにはハードすぎる環境だが、入る前に気合を入れ直したのがいくらか効いたらしい。脳が麻痺して何も感じないが思考は出来ている異常な状態だった。

「いた!」

 父親と母親が折り重なるようにして死に、その間に庇われて一人の子供がいた。死を前にしても守ったのだろう、子どもには擦り傷以外に外傷はなかった。触れると火に炙られたこともあってかなりの高温を発している。急がないと危険な状態だ。
 抱き起そうと脇に手を入れて引っ張ると僅かな抵抗。両親と思しき男女がひっしとその子の手を掴んでいた。

(死んでも、子どもを心配しているのか。)
「あなた方の守った子ども、確かに助けてみせる。だからどうか・・・」

 安らかに。
 


 申し訳ないと思いつつ、手を引きはがして背に抱える。まだ何人か、声が聞こえた気がする。早く行かないと。
 背負った一人分多く次巻と体力を消耗して扉に戻る。また扉を開けるにも一人で手間取る自分に先程の悩みが頭に浮かぶ。
 
(ISが・・・力は欲しい。それでも私は―――!)

 ここにいる人々を救えるのは自分だけなのだ。自分が例えISも、力もなくても救う。救ってみせる。彼、一夏ならきっとそうすると思うから。
 力を込めた指先に沿って扉が徐々に開いていく。

(一夏と同じに・・・一夏の隣にいるために!)
「箒!」

 急に扉が軽くなり、同時に熱い空気が抜け出ていく。きつい光に眼を細めた先には太陽の輝きがさんさんと照っている。

(眩しい・・・太陽・・・天井に穴が開いたのか・・・?)
「おい箒!大丈夫か!誕生日が何日か言えるか!?」
「いち・・・か?」

 ようやく扉の先に立っていた人物、織斑一夏にも気が付いた。身に纏った見慣れぬ機体もそこかしこに被弾の跡が見え、激戦を潜り抜けていたのが分かる。天井に空いた穴は彼が開けて突入してきた跡だ。

「どうして・・・」
「ヒリングが場所を、っておい大丈夫か座り込んで!?怪我は?後ろの子どもは?」
「え・・・はは」

 彼の顔を見た途端もう大丈夫だと、体が力を抜いてしまったようで膝からへたり込む。

「おい、本当に大丈夫か?」
「・・・ふふっ、心配しすぎだ。私よりまだここに生きている人たちがいるはずだ。早く助け出そう。」
「ああ、でも無理はするなよ。」

 変わらずにボロボロの自分を省みず、他人の心配だけをする彼。まだまだだなと力不足を感じるとともに、一夏が来てくれてうれしいと少し器の小さいことを考えてしまっていた。





――UGA本社――


「それでノースウエスト国際空港を襲ったテロは終息したというわけですね。」
「現場に関しては、という条件付きではありますが。」

 ユビアスはUGAの代表執務室で秘書から事態の報告を受けていた。
 すでに空港からテロ部隊は撤退。正規軍がようやく追跡を仕掛けたが見つけるのは難しいと思われる。

(空港はメインゲート棟、ターミナル棟ともに甚大な被害。テロリストも逃走。思ったほどの実入りにはなりませんが・・・まあ事態収束に向けての努力をしたというだけで世論は気にしませんかね。動いた傭兵も二人だけと思えば支出も最小限に抑えられますし。
 織斑様にも早く連絡を取っておく必要がありますね。)

 関心は既にそこにはなく次へと移る。

「空港から飛び立った3便がテロリストの別動隊に狙われた件はどうなりました?」
「奇策ではありましたが幸い1便は近くの基地に駐屯していた米軍の『ハリス隊』が対処にあたり、機体は大破させつつ犯人は確保できたそうです。
 次の1便は周囲に基地がなく、()()()()()()()()()()()輸送機に乗っていたP.Aによって撃破されたそうです。」
「はは、何とも胡散臭い・・・それでP.A?」

 資料です、と言って部下が写真をよこした。かなり画質が良くなるよう加工されているがしなくてもいいほど中のP.Aは分かりやすかった。
 機体色は鈍い銀。海賊の帽子の様に突き出た頭部が目を引く。対して腕は細めながらも足はある程度の太さを維持し、バランスの良さが分かりやすい。ライフルやレーザーライフル、ミサイルに電子戦兵器と武装にもバランスのよさが際立つ。
 この機体は、

「ロシアのANシリーズ最新鋭機【063】、その改良型専用機【アンビエント】。パイロットは・・・」
「ロシアの新女帝リリウム・オルコット陛下です。」
「・・・なら発生時もいなかった・・・まったく悪運が強いというか、運命を味方につけているというか・・・王大人様は。」
「社長、どうしました?」
「いえ、こちらの話です。それで結果の方は?」
「機体はほぼ無傷です。頭部を狙っての威嚇が掠めて一発、その後コックピットをパイロットごと葬った一発の計二発分です。」
「腕が良すぎると逆に気持ち悪くなります。それで最後は?」
「それが少々不明でして・・・様子を捉えていた映像を市民から買い取ったのでこちらを。」

 SDカードを取り出すと社長室にかけたモニターへ出力、映像が浮かび上がった。





 場所は都市部、ニューヨークの一角らしい。
 撮影者がビルのかなり高い所の展望台で風景を写真に収めていると、急に辺りが騒がしく鳴り出す。口々に指さしたりしている方向を見ると、P.Aが飛行機に並走して銃を突き付け、市街地を低空飛行させている。
 ゆっくり撮影者の近くへと近づいてきて、ここを抜けると先には壁のようなビルが立ち並んでいる。進みすぎればかわせない。
 世紀の事件の目撃者になるかと撮影者も熱がこもってきたようで、カメラが起きる変化の一秒一瞬も逃さないように少し震えている。
 突如、空から光が【バラライカ】のライフルを持った右手を襲った。光の正体はビームであり、わずかな抵抗ののちに右手とライフルを蒸発させた。突然の爆発に戸惑う相手にも光は容赦なく襲いかかり、2発目のビームが頭部から足までを焼き貫く。左右に真っ二つにされた機体は落下していき地面に落ちる前に再びビームが残骸を射抜いて爆散。
 ここでようやく撮影者が光の放たれた方向にカメラを向ける。
 その機体ははるか上空に停滞して、さながら裁定者のようにこちらを見下ろしていた。太陽を背にした機体は逆光で色が見えないが大きさはISほど、頭部から二本のアンテナが角のように突き出していた。背中からは太陽光を反射する光を放ってキラキラと輝く。
 撮影者を見下ろしていた誰かはフッと興味を無くしたように機体を翻して飛び去った。





「・・・以上です。便はこの後姿勢を取り戻し、最寄りの空港へと無事着陸しました。」
「・・・なるほど、よくわかりました。これについては追って連絡します、下がってください。」
「は!」

 秘書も退出した部屋で静かに目を伏せて椅子に背を預ける。

「あれが依然鹵獲した機体の完成品なら・・・どうにかして手に入れたいものですが。」

 飛び去る時の一瞬に移った背中には東京湾沖で鹵獲したISの背につけられていたコーン状のパーツがある。この機体を調査できればあの残骸も役立つ。

「それでも問題はまだまだ。」

 モニターを点灯すると首尾よくニュースをやっている。扱っているのはやはり空港で起きたテロ、そして、

『負の遺産 メキシコの壁崩壊と騒乱』

 と書かれたテロップが流れていた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。