言っても仕方ないので第四話投稿。
それでは、本編の方をどうぞ。
目の前にイクサのものとは違い、白い光の粒子があふれていた。それは、勢いを増し、目の前に迫ってきている、赤色の粒子を跳ね除ける。
壁、いや波の如くうねる白色は、俺やリーダーをまとめて焼き尽くそうとする赤色を、風が花びらを散らすように、吹き散らしていく。だが、赤色も負けずに、波を一層、また一層と食い破り、前進を続けようとする。
そこで、突如白い光は形を変えた。ただ波打つだけだった粒子が、女性のような形へ。まるで、両手で俺を抱きしめるように包み込む。粒子は今までよりもさらに、その波を吹き荒れさせて攻撃を弾く。
「な、何が!?」
起きてるんだ、と続ける余裕もない。
30秒ほど、拮抗していた粒子のせめぎ合いは、赤い粒子が徐々に勢いを失っていくことで決着した。合わせたように俺を守ったらしい何かも薄れていく。
そのナニかは俺を包んでいた腕を広げ、宙に浮かびながら俺を見つめる。色は白色なので分かりにくいが、かなり美人な部類の女性だ。残念ながら、背中に届く長髪で表情があまり見えないが。
「ま、待ってくれ、アンタは一体!?」
そう問いかけても、表情は変えずに、少し困ったように頭を傾けただけで何も答えることなく、やがて儚く消えてしまった。
「なんとか、止まったか…」
粒子同士の激突が終わったところで、ようやく、イクサが俺の隣に来て、声をかけてきた。
ブースターは既に元の逆三角形に形を戻し、イクサの背中に再装着されていた。
「大丈夫か?」
「…正直、頭が限界だ。いろんなことが起こりすぎて。」
「頭だけなら大丈夫か。」
心配しているのかと思えば、そんなことを言う。
尋ねたいことは山ほどある。このISとイクサの正体や、今の俺を守った女性らしき存在について、など、訊きだしたらきりがない。
だが、尋ねたいことを聞けるほど、頭の中で状況の整理もできていなかった。
「攻撃まで始めるとは思ってなかった、悪かったな。」
「…一応聞くけど、さっきの攻撃は、イクサがやったんじゃないよな?」
「助けに来ておいて、殺そうとするわけあるか。
あの男の攻撃に対応しきれなかったから、ブースターを自立起動させたんだよ。
それで気絶させるとこまでは予定通りだったんだが、勝手に攻撃までしやがって。」
そう言うと、苛立たしげにブースターの突起を手の甲で小突く。
「誘拐犯共も片付いたし、そろそろ会場に移動するぞ。千冬さんに誘拐があったって、知られても面倒だろ。」
「あ、そういえば、なんで俺のいる場所が分かったんだ?
あいつら、誰にも分らないようにしたって言ってたのに。」
「ま、色々とな」
また、質問には答えてくれない。だが、不思議と、誤魔化されているような気持ちにはならなかった。
この人なりに、答えを返そうとしてくれているが、うまく言えない。イクサの顔が、そんな、辛そうな顔をしているように見えるからだろうか。
もちろんマスク越しなので、素顔は見えないため、すべては推測だが。
「悪いな。あんまり、詳しいことは言えないんだ。
敵じゃないってことだけ、わかってくれ。」
イクサはそう重ねて告げた。そこへ、
「待ちやがれ!」
俺でも、イクサでもない声に反応して、目をやると、リーダーが立ち上がっていた。
呆れたのか、イクサが武器も構えずに、話しかけながら、手で俺に下がるように合図する。
「…アンタ、随分頑丈だな。
アレの直撃喰らって、普通、動けるわけがないんだが…」
「はッ!こちとら、お前ら女のように、楽には生きられねえ!
武器は命だけ、体はそこらの雑魚共よりよっぽど鍛えてんだよ!」
「…そうかい。
だけどやめとけ、いくら貰えるのか知らねえが、銃もないのにオレと戦えないだろ。」
イクサの言うことが正しい。既にリーダーの身体は傷だらけだ。ブースターに投げられて、壁にぶつかった傷。光の余波による熱による火傷。さらに、イクサが蹂躙していた時にも受けたのか、切り傷や裂傷が身体にいくつもあった。
「そんなことはねぇ、まだこいつがある。」
そう言って男は、また片手に握ったナイフを、見せつけるようにプラプラと振って見せる。
「…ナイフ一本で倒せるつもりかよ。命が惜しくないのか?」
「おあいにく様だ。女じゃなくて、身体にしか自信のねぇ、俺たちみたいなクズは、命はって、なんぼなんだよ!」
ナイフを構えて、そう叫び、再び突進してくるリーダー。それを見てもイクサは動かない。
男を静かに見つめつつ、言葉を発する。
「確かにな、今の世の中、いやこれからも、男は生きにくいかもしれない。」
距離が詰まる。先程の距離もない。息も上がっていて、小細工できるほどの余裕もない筈。つまり、男の言うように、これは正真正銘、命を張った特攻なのだろう。
身体が交差する。
その瞬間、イクサは叫んだ。
「けどな‼」
一瞬の接触と交差ののち、数歩歩いたリーダーが倒れた。
対するイクサには傷一つない。その装甲にも僅かの汚れもなく、変わらないまま立っていた。見ると、いつの間に抜いたのか、片手で剣を握っている。
剣先から、少しずつ血が落ちているということは、今度は斬ったのだろう。
「それは男全部が持ってる問題で、お前に限った動機じゃないだろ。」
倒れたリーダーを振り返りつつ、言葉を続ける。
「周りに流された考えで、何かをしたって、お前はきっと満足できないぞ。
それがお前の、本当にやりたいことなら別だけどな。」
「・・・知ったような口をきくじゃねぇかよ。」
リーダーは倒れこみつつも、それに反論する。
斬られたらしいが、出血はほとんど出ておらず、そこまでひどい傷ではないようだ。
「…俺もな、ガキの頃は国をこの手で守るんだと、馬鹿な夢を掲げてたもんだ。
結局、その夢を捨てられずに、軍隊に入隊までしたんだから、馬鹿なのは治らなかったわけだがな。
だが、ISが出てきたせいで、銃も戦車も戦闘機も歯が立たないと分かったら、男は皆お払い箱だ。
お偉方も経費は優先的にISや女関連に回しやがるせいで、整備も補給もままならねえ。部隊の連中も、新しい働き口を探して、どんどんいなくなっちまった。いまじゃ、隊員は部隊でも落ちこぼれのこいつらしかいねえ。
このまま、腐っていくのはごめんだからと、逆転を狙って金儲けに手を出してこのザマだ。
高い所から偉そうなこと言ってんじゃねえよ!」
リーダーにもそれなりの過去はあったのだろう。俺は彼のことを良く知らないので、どこまで夢を抱え続けたのかはわからないが、
僅か、本当に僅かだが彼の姿を、羨ましく思う気持ちがあることに気づいた。
理由はわからない。
不可解な気持ちを抱えるのは、この1時間ほどだけで2度目だ。
姉が試合で勝ったのに、喜べなかった気持ち。
自分を攫った犯人が、夢を持っていたことを羨ましく思う気持ち。
なぜだろう、と思う
そんな俺をよそに、二人はまだ会話をしている。
「アンタはそうなっても、まだ夢を捨ててないんじゃないのか?」
「はぁ?何言ってやがる。自分のために、人攫いなんてやるやつのどこに夢が…」
「子どもの頃に持っちまった夢は大人になっても消えないんだよ。それに仲間のためだろ、その金?
整備も補給もできなくて、国を守れない事が嫌で、金を求めたんじゃないのか?」
リーダーが初めて黙り込み、目を見開く。的を得たことを言われたらしい。
「読心術でも使えんのか?」
「どうだろうな。年寄りの勘かもしれないぜ。」
さらに訳の分からないことを言う。
人の心を見抜く、そんな超能力みたいなものまで都合よく持っているのだろうか。その能力に関してはそれ以上言わず、
「アンタがやったことは間違いだ。
だけどアンタの国を守りたいという夢が間違ってるとも言わねえよ。」
そう言ってイクサはリーダーに背を向け、俺の方へと歩いてくる。
「もう一度、お前自身の夢と向き合ってみろよ。
俺はこのままでいいのかってな。オレはアンタがやり直せる人間だと思ってるぜ。」
俺を脇に抱えて飛び立つときにイクサはそう告げた。
――leader side――
「………もう一度夢と向き合え、か。」
彼らが飛び立った後、倒れた仲間たちを、瓦礫にもたれかかって眺めつつ、リーダー――ローガン・ハリス――は謎のISに言われた言葉を繰り返す。
本当に心を読まれたような気分だった。誘拐の動機をあれほど的確に当ててくるとは、思っていなかった。あるいは言っていたように本当に声が聞こえるのか。
だが不思議とその感覚に不快感はなかった。
「40間近でもう一度、ガキ臭い夢を語ることになるとはな。」
どうしてあんなことを喋ったのかはローガン自身も分からない。ただなんとなく、この相手には本気で心のままにぶつかるべきだと思った。だからそう答えたに過ぎない。
「だが、あの声…、まさか男か…?」
途中から性別に疑問があったが、まさかそんなはずはない、と頭を振る。ISの男性操縦者など存在していれば国際的なスキャンダルだ。ローガン自身世論に詳しくないとはいえ、そんな男を知らないというのは考えにくい。
機体も装備以外は第一世代型ISにありがちな
「いや、んなことより金の方が問題か…。どうしたもんだかな。
今からクライアントに失敗しましたとでも言ってやるか?」
手付け金をもらってはいるが、まとめて返してしまえば契約を白紙に戻すことくらいはできるだろう。幸い、金の方は少しも減っていない。
懸念材料があるとすれば依頼主が女であったことか。IS使いのテロリストだった場合、こちらが失敗したと知れば口封じをしてくる可能性もある。
心配事は尽きないが、ひとまず頭を振って思考を切り替える。
「考えても仕方ねえな。どうせ、馬鹿には馬鹿の道しかねえんだ。
おらッ!起きろ、お前ら!」
気絶しているだけの仲間たちを叩き起こす。幸いなことに、ISと人質は自分たちの名前を知らない。自分は顔を見られたが、覚えられていないことを祈るしかない。
「いたた!」
「な、何が起きた!?」
「敵は、ISはどこ行った⁉」
「落ち着け、馬鹿ども!」
目覚めるなり、騒がしい部下たちに怒鳴る。どうして、手元に残った隊員はこんな連中ばかりなのだろうか、というのが実は最近の悩みであったりもする。
こういう連中しかいないから、今回のような手段をとったのか、と現実逃避的に考えてしまう。
「隊長!ご無事で!」
「殺されたかと思いましたよ!」
「俺があの程度で死ぬか・・・痛ッ!」
座り込みながらも、そう怒鳴る。そこで大声を出したためか、一撃もらった傷に響いて、声が詰まる。
「隊長、大丈夫ですかい?」
「問題ない、騒ぐな。」
「依頼できませんでしたけど、これからどうしやすか?」
「今考えてる。とりあえずキャンセルして、それから…」
「…隊長?」
何故か言葉に詰まってしまう。今度は傷が痛んだわけでもない。
それから、それから次の依頼を探す、そう告げようとしただけなのに、何故か声が出なかった。
(あのISと話したせいか…それとも夢を、もう一度自覚しちまったせいか)
理由はわからない。だが、少なくとも、あの話をした後に、もう一度悪事を働く気にはなれなかった。
「クライアントに電話しろ、依頼失敗だってな。
それと野良仕事は終わりだ。軍隊に戻るぞ!」
「ま、マジですかい!?」
「資金繰りとかは!?」
「後で考える!」
「んな無茶な!?」
「俺らは元から戦うのが仕事だろうが!
頭使うことなら、それ用の奴を雇えばいいんだよ!」
思い付きで資金繰りに関する答えを出すが、案外良いかもしれない。元より自分も頭を使うより戦う方が得意な身だ。参謀か経理担当を雇うべきだな、と割と本気で考える。
そして、もう一つ先程戦ったISとの戦闘で思いついたことで、皮肉だがISからの言葉で部下たちに話すことを決めたことがあった。
「よし、決まりだ!金のことはだれかを雇って、そいつに押し付ける!」
それは、
「そして、」
愚かなことだろうが、
「いいか、」
それでも、
「俺達はこれから、軍に戻って対IS用の部隊を作る!」
ローガンが自分の夢のために、やりたいと思ったことだった。
「は⁉」
「え⁉」
「隊長、何を⁉」
当然、周りは驚くだろう。そのための理由も考えてある。
「ISより使える部隊になれば、それだけ予算も割り当てられるかもしれねえ!
というか俺達が軍隊やるなら、それしかねえんだよ‼」
ISよりも使える人材になる。今の時代に男が軍隊で活躍するならそれしかない。
言ってはみても、不安はあった。
おそらく、簡単にはいかない。上からの圧力もあるだろう。
この場にいる部下も誰もついてこないかもしれない。
だが、それでもこれはローガンにとってのやりたいことだった。
かつて子どもの頃に抱いた、『祖国を自分が守る』という夢。
今回は、夢を理由に道を間違えてしまったが、今の考えは間違いなく夢のためだと、胸を張って言える自信があった。
「お前らについてくることを強制はしねえ。
これは俺が祖国を、アメリカを、俺の手で守りたいと思うからやることだ!
…それでも、ついてくるって奴はついて来い。」
そう最後に告げて、部下たちに背を向け、歩き出す。
だが、3歩と行かず、後ろから走ってくる、たくさんの足音が聞こえる。
少しだけ、口元に笑みが浮かんだことを自覚しつつも、ローガンはそれを隠さなかった。
振り向いて、まず何と言ってやろうか、
もっと早くついて来い・・・いや、偉そうか。
お前ら、最高だ!・・・柄じゃないな。
そんなくだらないことを考えつつも、この部下たちで良かった、とローガンは思っていた。今の彼の視界に広がる景色は、夢を持って入隊した頃と同じく、暖かな希望の光に包まれていた。
余談だが、この事件から数年後、ISに対する術として世界がP.A(パワード・アームズ)の開発に成功。形は同じ身に纏う武装であり、個体性能でこそ大きく劣りつつも量産性と使いやすさから、各国でISを利用したテロに対する抑止力として配備を開始する。
中でもアメリカには性能で劣るとは思えない程の能力で、ISを使ったテロ事件などに対応する部隊の存在があった。
その劣ったものが優れたものと戦うという姿に想像が独り歩きし一大ブームとまでになった。
曰く、彼らは世の中ではかなり珍しい男女混合の部隊であり、常に隊員たちの固い結束の下、コンビネーションを見せて任務を遂行するなどという勝手な憶測が広まった。
おかげでそれを元にしたアニメや映画が出回ってしまい、秘密部隊であったはずがダークヒーローの如く市民に話されるようになった。
当然、その部隊の存在そのものが秘密であるため、インタビューなどには答えないのですべては想像図のはずだった。
が、一通だけ部隊の隊長から送られたという文書が彼らのヒーロー像に対する信憑性を確かなものしていた。
出所が国家機関の一部と確かであった為に、信じられたその文書には、ただ一言、
『男も女も、優れた者も劣った者も関係ない、俺達は祖国を守りたいだけだ。』
そう記されていた。
――side out――
と、いうわけで第四話でした。
次回、『第5話 夢の生まれた日』
それでは。
―――どうでもいい余談―――
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毎回やってるけど気にしてはいけない。
第五話で第一章も終わりですが、そのあとは全く書いていないので、次話投稿もしばらくはお休みになります。8月後半に投稿できればいいな、と思います。問題はセシリアで区切るか、鈴で区切るか。
こっちが後書きにも相応しい気もする。