IS×00 夢を目指す者   作:王天君

9 / 62
 少しのご無沙汰でした。
 まず、謝罪から入らないといけないのが申し訳ないのですが、第二章の内容は変更することになりました。
 具体的には一夏の入試で原作のアレをやった後で、セシリアと代表争いまでやる予定だったのが入試の日のオリイベントが想像以上にスケールアップしたので、一旦話を区切ることにしました。
 またそれに伴い原作のアレは全く別の形となります。

前書きはこの辺で、本編をどうぞ。
今回はギャグ多めで軽いノリです。今回は。


第二章 IS学園入試事件
第六話 それはあるいは貴重な日常


 西暦2112年2月 都内某所

 

「……まいったな。」

 

 俺は駅から降り立ったところで、途方に暮れて、そうつぶやいた。

 今日はIS学園の入学試験だというのに、肝心の会場の場所が分からず、立ち往生していた。受験票にも地図は記載されているが詳細すぎるのか、はたまた古すぎるのか、どうにも地図が実際のものと一致しない。

 ビルの何階にどの会社が入っているかまで書かれても、見づらいだけだ。

 進路希望を書いた日と同じく雪の降りしきる街並みの中、一人立ち尽くしている男。一体周りからは、どんな風に見られているのやら。

 

 あれ、あの人一人で傘もささずに何してるんだろ?

 駄目よ、マユミ。

 きっと、身の程知らずにデートの約束して、すっぽかされて泣いてるのよ。関わったら、欲望のはけ口にされて、慰み者にされるに違いないわ!

 え、そうなの?だったら声かけちゃ駄目だね。危ないもんね!

 

 どこかから、そんな会話が聞こえてくる。ちょっと待て。

 立ち止まっているから、嫌な話が聞こえるのだ。

 そう考えて移動しようとするが、場所が分からなくて再停止。さきほどから10分はこれを繰り返している。

 通信端末でも使えば早いのかもしれないが、試験中に鳴り出すのも怖かったので間の悪いことに今日は持ち歩いていない。

 

「駅員さんも、忙しそうだったしなぁ…」

 

 都心の方で事故があったらしく、都心行きの電車に遅れが生じているとアナウンスがあった。駅員はそのアナウンスを聞いた乗客たちの対応に追われているらしく、とても道を聞ける空気ではなかった。

 かといって道を行く人に聞くわけにもいかない。時刻は現在午前8時。社会人は全員出社に向かってしまっているし、他の入試に急ぐ人も大勢いるので声をかけても分かってもらえるかわからない。

 

「まさか男の俺を入れたくないからって、一人だけ難しい地図にされてたりはしないよな…」

 

 IS学園の特殊性から、完全には否定しきれないのが悲しい。

 

「いや駄目だ!こんなところでくじけてられない!」

 

 試験開始は9:00からだが、まだ今は8:00。時間的にも余裕は十分にある。

 そう自分を奮い立たせ、次に通りがかった人に声をかけて道を聞こうと決める。

そこへ、

 

「ね~、そこの君、ちょっといいかな〜?」

「…はい?」

 

 尋ねようとする前に、尋ねられたらしい。思わず間の抜けた声が出てしまう。

 正直、人の世話をしている余裕はないが、助けを求める人は見捨てられない。誰でもない、自分自身のために。

 そんな決心と共に振り返ると、

 

「あ、やっぱり、同じ受験票持ってるね~。君もIS学園を受けるの~?」

「・・・いやいや。」

 

 なんで街中にパジャマを着ている人がいるんだ!、と突っ込まずにはいられない外見をした人がいた。

 改めて見てもすごい。メインは黄色で、袖口など部分部分でオレンジ色が使われた、可愛らしい寝間着だ。頭には猫耳のような装飾があしらわれ、見る人に強烈な保護欲でも生み出すのではないだろうか。

 顔立ちもそれに合わせるように、ほんわかしたという表現が似合いそうな、何とものんびりとしていそうな顔立ちをしている。

 俺もなんとなく抱きかかえたくなる衝動に襲われるが、懸命に抑え込む。ここで手を出したりしたらそれこそ犯罪者だ。

 俺が答えずにじっと見つめて、葛藤しているのをどう思ったのか、パジャマ少女はポンと手を打つと腰のカバンから何かを取り出した。

 

「はい、お茶。駄目だよー、熱中症は怖いんだからー。」

「いや、今冬だし。暑くてボーっとなったりはしないよ。」

「そう言わずに、私の気持ちだよー。」

「いや、好意はありがたいけど…」

 

 水筒を片手にエー、と不満げな顔をする少女。このボケ具合からして、俺より彼女の方が熱中症になっているんじゃないかと疑うレベルだ。俺に言うより先に自分が水分補給するべきだろう。

 何とも空気がつかめない子だと感じる。むしろ、空気の様に手ごたえがない。

 色々と思うことはあるが、彼女の態度は真面目だ(多分)。

 現に今はこちらに水筒を突き出したまま、顔を伏せて微動だにしない。何が何でも受け取ってもらおうというつもりなんだろうか。

 

「えーっと、気持ちはうれしいけど、俺も水筒はあるからいいよ。ありがとう。」

 

 心配してもらったのは事実なので、お礼は言っておく。これくらいは人としてのマナーだしな。

 そういったのだが、この少女は相変わらず顔を上げない。どうしたものか、と思ったところで再び声が聞こえてきた。

 

 あれ、あの人、今度は女の人と一緒にいるよ。

 何よ、あの男、

 女の子が相手の顔も見れないくらい、緊張して出した気持ちを受け取らないつもり⁉許せないわ!

 きっと、好きに弄んだあとで、ボロ雑巾みたいに捨てるつもりよ!

 ええっ、それって悪い男の人ってことだよね!?

 警察に電話した方がいいのかな!?

 電話よ、電話!あんな男逮捕されて当然よ!

 マユミ、私が見張っておくから早く!

 

「お前らまだいたのかよ!早くどっか行け!」

 

 受験生ばっかりの駅前で、なんて暇な連中だ!

 

「うるさいわね!待ち合わせ相手の男がまだ来ないだけよ!アイツが30分も遅刻して!」

「人のこと言っといて、お前らの方がすっぽかされてんじゃねえか!」

「ほっといてちょうだい!」

 

 喧しい女の相手はしていられない。このパジャマ少女が早く反応してくれないと、通報されかねない状況だ。

 

「おい君、気持ちはわかったから、いい加減に…」

 

 そこで、手を取って気づく。これだけ騒いでいるのにまるで反応がない。

 ゆっくり、俯いた顔を覗き込むとそこには、

 

「くぅ、くぅ…」

 

 何とも気持ちよさそうな寝顔。

 

「起きろ!立ったまま寝るな!」

「はうっ、寝てないよー!

 でも少し休みたいから、おぶってくれると嬉しいなー!」

「言いながら背中に張り付くな!さっきから何なんだよ君は!」

 

 立って寝ているのから起きたかと思えば、今度は背中にくっつこうとする。

 しかも身体の使い方がうまいのか、引っ張っても引きはがせない。

 

「今度はセクハラ!?本当に通報されたいようね!」

「話聞けよ!ああもう、今日は一体なんて日だ!」

 

 うるさい女の子ほうが携帯端末を取り出すのを見て、説得は諦め逃走に移る。

 この時代に女性と男性が裁判で争って、男の勝てる見込みはかなり厳しい。

 中学時代の自由研究で一世紀前の痴漢冤罪について、弾と調べたことがあったが、この頃は男が正当性を主張しても認められる事例が多かったんだなあ、と羨ましくなったことが懐かしい。

 とにかく話してもろくなことにならないので、会場の場所を調べるのは諦め、いったん走り出す。

 

「誘拐よ、誘拐犯が出たわ!」

 

 はるか後方で、さらに罪状を足してくれているらしい叫ぶ声が聞こえ、試験官に誘拐犯の人相が伝わっていないことを祈るしかない一夏だった。

 もちろんその背中にすやすやと眠る、パジャマ少女を乗せながら。

 

 

 

 

「……さすがに、ここまで走れば大丈夫だろ。」

 

 走ること15分。一夏は駅前から離れた住宅街の中にいた。

 ただ、喧しい女の子に絡まれる問題は解決したが、完全に問題しかない事態となっている。

 駅前から離れたので、ここがどこだか全く分からない。

 

「さっきまでとは比べ物にならないぐらいピンチだろ、これ・・・」

「ん~?着いたの~?」

 

 そこで後ろにくっついた少女を思い出す。体重は軽くて走っている間もさほど苦にはならなかった。

 

「君のおかげで、完全に道に迷ったんだけど。」

「道って、試験会場への?」

「そうだよ!よりにもよって、一番遅れちゃいけないときに!」

 

 女の子に怒るのは勿論好きじゃないが、さすがに少しくらい怒鳴っても許されると思う。この子に声をかけられただけで、今日はとんでもない不運に見舞われている。

 

「いや怒る前に今の位置を確認しないと・・・」

「私分かるよ~」

「……なんだって?」

「だから、私分かるよ~って」

「……一応聞くけど、何が?」

「だから~、試験会場への道。」

 

 意外なところで救われた。

 

「本当か、教えてくれ!」

「いいよ~、でも条件付きね♪」

 

 こうして変なおまけ付きだが俺は面接会場に向かうことが出来るようになった。

 

 

 

 

 出された条件は、会場までおんぶして欲しい、というものだった。

 

「別に軽いからいいけどさ、こんなことで良かったのか?

 いや、そもそも君に会ってなきゃ、こんなところまで来なかったんだけど。」

「それは本当にごめんね。うーん、駅前ってなんだか寒くて、あったかいものにくっつきたい気分だったんだよね。

 そしたらあったかそうな人がいたから声をかけたの~。」

「あったかそうって、ただの学生服なんだけどな・・・。」

 

 それ以前にパジャマで来ているからそんなに寒くなるんだろう。

 何度見返してもその恰好は、これから受験しに行く人間がするものではない。

 

「違うよ~、あったかそうっていうのは中身のこと~。

 いくら私でも、いきなり怖いと思ってる人に話しかけたりしないよ~。」

「中身があったかそうとか言われても、どう反応したらいいんだ・・・」

「うーん、何というかね、

 普通の人ってキーンって感じがするの。あんまり話しかけにくいって体で表現してるの。友達とかだとほんわりって感じかな。君と同じような感じ〜。

 あっ、でも君の場合は、何だかほんわりの中にスーって感じもするかな〜。」

「そう言われてもさっぱりわからん。」

 

 雪が降り積もる中、拾った子のナビの元で足を進める。スニーカー越しの雪は結構キツイ。

黙っていても退屈になるだけだろうと、会話を振ってみているが、最初に思ったようにキャラがつかみにくい子だ。

 というか、この妙に間延びした話し方は天然なんだろうか。

 

「そういえば自己紹介まだだったね~。

 私は布仏本音。あだ名はいつでも募集中だよ~。もち、本音って呼び捨てもオッケーだよ。

 そんな私をよろしくね~。」

「布仏さんか。

 それじゃ本音って呼ばせてもらうな。

 遅れたけど、俺の名前は織斑一夏。よろしくな。」

「織斑、織斑・・・

 よし、おりむーって呼ぶねー!」

「あだ名かよ、ソレ!?」

 

 パジャマ少女改め本音は、元は友達と会場に行く予定で、電車の時刻を友達が、会場までの道は本音が調べることになっていたらしい。

 さっきから受験票を見ずに、ナビが出来ていたのはそういう理由のようだ。

 だが、前日に友達がいきなり学校に呼び出され、試験日時の変更を告げられたそうで、その結果この子は一人でここまで来ることになったとのことだ。

 

「試験日時の変更とかあるのか?」

「女の子は実技でIS適性調べるからねー。筆記試験会場に人が溢れてもいけないから、先に実技試験を受けるように言われる子もいるみたいだよー。」

 

 そう言って、のんびりと笑う本音。

 やっぱり男とは違う内容がいくつもあるらしい。男が動かせない以上、俺にそんな連絡が来ても困るが。

 

「いやー、ホントに驚いたよ。

 前の日になって、電車も調べなくちゃいけなくなってさ~。虚お姉ちゃんが助けてくれなかったら、今頃電車に乗るのも危なかったかもだよ~。」

「お姉さんがいるのか、俺と同じだな。」

「知ってるよー、第一回IS世界大会優勝者の織斑千冬さんでしょ?

 ブリュンヒルデとかって呼ばれてるんだっけー?」

「ああ、本人は嫌がってるけどな。

 まぁ、肩書きとかがなくても、俺の自慢の姉さんだよ。」

「・・・やっぱり誇らしいものだよねー。すごい身内がいるとさー。」

 

 自慢の姉さん、そう心を動かさずに言えるようになったのも、今となっては昔のことだ。

 

「・・・おりむーはさ、お姉さんに比べて自分にコンプレックスとか感じたりするー?」

「いきなりだな・・・昔は感じたこともあったけど、今はそうでもないな。色々あったからだろうけど。」

 

 実際にはコンプレックス、なんて言葉で片づけていいのか迷うところだ。あれほど自分を追いつめることもコンプレックスに含まれるのだったら、そうなのだろう。

 思うところはあるが、あったばかりの本音にそんなことまで話しても混乱すると思ったので、お茶を濁す程度にとどめておく。

 

「ふーん、やっぱり人によって違うんだねー」

「人によってっていうことは、本音もお姉さんにコンプレックスがあるのか?」

「女の子は秘密の宝箱なんだよー。

 ・・・それに、私なんかよりもっと複雑な子もいるしねー。」

 

 そこから先のことは、本音が誤魔化すだけで終わってしまった。元より、あったばかりの人間同士で話すには内容が濃すぎる。俺は何とも思っていないから答えられたが、相手によっては聞かれた時に、喧嘩になることもあるだろう。

 俺もそう思い、それ以上は聞かないでおいた。

 

「んー、じゃあ、おりむーは将来なりたいものとかあるの?」

「俺より本音はどうなんだ?

 さっきから俺しか答えてないだろ。」

「む。それもそうだねー。

 やっぱり、ISの整備士とかかなー。友達は中学校でIS適性高かったし、入学してからはその子を支えていこうかなって思ってるよー。」

「結構具体的に考えてるんだな。」

「ここに入学志望したら、将来もかなり限定されちゃうからねー。ある程度目的がないと入るのも、ためらっちゃうんじゃないかなー。」

 

 なるほど、IS学園という名前通り、入学すれば卒業後の進路もIS関連に絞られる可能性が高い。彼女が明確な将来を考えるのも当然の事か、と納得する。

 

「それでおりむーの夢はー?」

「やっぱり覚えてたか。」

「顔が誤魔化そうとしてたからねー。

 大丈夫だよー、学園ハーレム作りたいとかでも笑わないよー。」

「既に笑ってる顔で言われても、説得力がないぞ。」

 

 あれ、ばれてたー?と言いつつ、自分の顔をつまんでいるらしく、本音の身体が背中でもぞもぞと動く。

 鎌をかけたが、やはり笑っていたらしい。

 

「ほら、笑ってるじゃないか。」

「あ、おりむー引っかけたね!」

「笑いながら、笑ってないっていったのとお相子だろ。

 学校で同じクラスになったら話してやるよ。」

「それまでお預けかー。

 その時はちゃんと教えてよー?」

「はいはい、分かったよ。」

 

 背中の重みを思うと、妹がいればこんな感じだろうか、なんて考えがふと浮かぶ。

 蘭が一応いるが、あの子はどちらかといえば友人の妹、友達という感覚が強い。

 それに対して、姉しかいない自分にはこの手のかかる妹のような本音という女の子は何とも新鮮な感覚を与えてくれる存在だった。

 

「はい、そこを右に曲がって到着だよー。」

「と、いつの間にか着いたな。」

 

 目の前に校門と、そこに立てかけられた『IS学園 入学試験会場』と書かれている看板を見つけ、ようやく安堵する。

 時刻もまだ8:45。ギリギリ間に合う。入り口に女性が立って時計をチェックしているが、まだ締め切ってはいない筈だ。

 少し落ち着いたので建物の外見を見ると、試験会場は学校か何かを改造したものらしく、外観の見た目は古いが中の電灯やディスプレイは最新式のものだ。屋根には太陽光パネルの姿も見える。

 ここで試験を受けるのかと思った俺だったが、看板の横に『男性用試験会場は、ここで左に曲がって250m』と書かれた文字を見て泣きたくなる。

 小さく見えても女の子の前では泣けない、と無理やり涙を押し込んで、

 

「よし、じゃあ俺は男性用試験会場でこっちだから、本音も頑張れよ!」

 

 走り出しつつ、そう声をかけて俺は本音と別れた。

 せめて、帰りはゆっくり帰ろうと誓う。駅前の噂も夕方には消えているだろうし。

 その俺に、

 

「おりむー!帰りも、この入り口に集合ねー!」

 

 そう言って、満面の笑みで手を振る本音の姿が目に映った。

 どうやら帰りも忙しくなりそうだ、

と、そう思って落胆している筈の自分の口元が、少し笑っているのに気づいたのはその後のことだ。

 

 

 

 

 なお、この後で男子の試験会場がプレハブ小屋だとわかって本当に泣きたくなった。

 受験者は俺だけだったけど、いい加減にしろよ!

 




 原作ヒロインを差し置いて、のほほんさん登場。
 なんでこうなった。
 筆者がのほほんさんのファンだからですか、そうですか

 とりあえず、感想・質問・批評、何でもお気軽にどうぞ。

 第二章は四話構成の予定で書きあがっているので、近日中に全て投稿する予定です。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。